こっちゃこ屋敷の盗賊退治?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:とうりゅうらふう
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月08日〜07月12日
リプレイ公開日:2008年07月18日
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●オープニング
最寄の街から徒歩で丸一日離れた所にお城の様な大豪邸が聳えている。建物の壁面や、やや風化した塀には幾重にも蔦が這ってはいるもののそれもいい具合に古さを強調しており、森と湖に囲まれ、まるで絵に書いた様な美しさで堂々とそこに馴染んでいる。その湖と豪邸の間に一本の街道が走っていた。本来ならばこの道は、手入れされた花の生垣によって両側が美しく彩られていた筈なのだが、豪邸の主がここを使わなくなって早十年。既に草木は野生化しており、何もかもが鬱蒼と茂っていた。別の所に転居した訳ではなく、元々別荘として使用していたがたまたま最近来なくなっていただけ‥‥という状態が十年も続いたというのが正しい。特に売るでもなくそのまま放置されている状態だ。
二頭立ての馬車の音が静かに響き、やがて大豪邸の前でゆっくりと止まった。
やや高級気味な装飾が施されている馬車から一人の紳士が降り、門の正面に立つと嬉しそうな面持ちで豪邸を眺める。
「‥‥実に懐かしい!」
彼は上機嫌で正門に両手を掛けた所で、はっとその顔を上げ、険しい顔をした。
「どうかされましたか?」
そんな彼の様子に気付いた御者が声を掛けてくる。
紳士はぱっとふりむくと、口に人差し指を立てた。そして視線から先に、再び豪邸の方に向き直る。
「?」
御者は息を殺し、そのままの姿勢で耳を澄ませ、紳士と同じ方向を見るが特に何も聞こえもせず見えもしない。ただそこに廃墟と化した豪邸がひっそりと建っている様にしか見えない。
その直後、紳士がまたはっとした仕草を見せ、急いで馬車へ駆け戻った。
「出してくれ! 至急街まで!」
御者は何も言わず、急いで馬を走らせた。
「な、何かあったんですか?」
「君には聞こえなかったのかい?」
「え、ええ、何も‥‥」
馬の蹄の音が大きくて、彼らの会話は自然と大声になる。
「この屋敷は、わが一族が別荘として使っていた屋敷に間違いはないが、今現在は誰も利用者がいない事になっている」
「はい、存じてます」
「だというのに私は今、しっかりと人の声を聞いたのだ」
「な、何ですと?その声は何と!?」
「彼はこう言っていた。こっちゃこ〜、こっちゃこ〜と」
「‥‥」
「そしてその後に絹を裂く様な女性の悲鳴!」
「‥‥へ、へぇ‥‥」
御者は自分の胸からドキドキが一挙に去った気がした。
「これは忌々しき事態である!」
紳士は高らかに叫んだ。
「‥‥で、ご依頼に見えた訳ですね」
「ふむ」
ギルドのスタッフが紳士の話を一字一句逃さず丁寧にメモを取る。
「我らが不在の間に、我が一族の別荘が野盗共の基地として使われていたとあっては末代迄の恥である!」
この貴族風の紳士は、どう見ても冒険者ギルドに不釣合いだった。彼の正面に座ったスタッフは、どことなく居心地が悪そうにしている。紳士をここまで送った御者は、私は何も見聞きしておりませんので何の役にも立ちませんと頑なに下車を拒みギルドの外で待っている為、紳士は伸び伸びとその時の状況を語れている。多少誇張表現をしても止める人は誰もいない。
「野盗の姿は見えましたか?」
「いいや。しかし声ははっきりときいたのだ。男の声だった」
「それが、こっちゃこ〜‥‥と言っていた訳ですね」
「いかにも」
ギルドスタッフはうーんと首を捻りながら、何とかメモを書き進める。紳士は自分の説明に満足げに、うんうんと頷いている。
「今日はたまたま近隣に用事があった為、折角ゆえに立ち寄っただけであって、近日中にまた利用する予定はない。しかし今のままで放置とあってはあそこを根城とした犯罪が起きないとも限らぬ」
「ええ‥‥今の所この辺りでは、そういった事件は発生していない様ですが‥‥そうですね、起きたら困ります」
「うむ。今後定期的に内部に手を入れ、その様な事が起こらぬ様管理するよう手配しようとは思ってはいる。そこでだ。既に怪しい気配がある所に一般人たる使用人を送り込んで被害が拡大してもいけないのでな、是非とも先に勇敢な冒険者諸君に下見をしてきて欲しいのだ。先程も申したが現状あそこは長年使っていない状態故に、殆ど金品に変わりうる物は置いてきてはいない。しかしまあ多少、それなりに何か忘れてきている可能性は充分にある‥‥。探索に赴いてくれる冒険者には、もし気に入った物があるようであれば適当に持って返って頂いても構わないと思っている」
「ははぁ、それはまた随分と太っ腹な」
「高価な置物などはもう無いであろうが、暖炉に着いている宝石がうっかり取れる位、充分考えられる範囲だ。下手に財宝が残り、それがまた野盗共に狙われても困ろう。さて、これが建物の鍵だ。内部の状態を確認し、野盗が住んでおればこれを排除してきて欲しい。これが今回の依頼だ」
「‥‥了解致しました」
スタッフは微妙な顔をしながら、この新しい依頼書を掲示板へ張ったのであった‥‥。
●リプレイ本文
●探索開始
「うわあ‥‥やっぱり、日本と違って敷地が広いなぁ」
屋敷に到着するなり、水無月茜(ec4666)が感嘆の声を上げた。大きく重厚な両開きの扉を開くと、窓から降り注ぐ日の光で吹き抜けのホールが明るく輝いていた。正面には左右対称な形で階段がくねり、そして更に奥へと廊下なのか広間なのか、とにかく凄まじい奥行きの空間が延々と続いている。
「デビューしたての頃プロダクションのマネージャーさんと一緒に、演歌界の大御所って呼ばれる方のお屋敷にお伺いしましたが‥‥。このお屋敷も負けてませんよね。一体、何部屋あるんだろ‥‥」
余りの豪華さに圧倒された茜が溜息をついた。
「でも、一体何なんでしょうね? こっちゃこ〜‥‥??」
燦々と輝き静かな屋内。美芳野ひなた(ea1856)は小首を傾げた。
「‥‥ま、どうせすっとぼけた依頼人の勘違いでしょ。説明してくれた‥‥係員の微妙な表情といったら‥‥くくく。まぁご苦労様、ね」
日陰を歩き、忌野貞子(eb3114)は暗い物陰をちょこちょこ覗いている。
「でも空き家だったなら、誰かが住み着いてもおかしくはないですね。気を引き締めていきましょう。とりあえず防犯もかねて、水無月茜、歌います!」
茜は自分の居る位置を潜む敵に示すかの様に歌いながら歩きだした。
「今の所これといって荒らされている形跡はない様ですね。先ずは構造を把握する上でも、全体の確認をしてみましょう」
アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)の提案に、ひなたは頷いた。が。
「そうですね、探索がてら‥‥って、何ですかこれは〜!!」
彼女は玄関の隣の広間に入るなり、窓辺にしがみついた。延び放題の雑草、埃の積もった窓枠。それを見てわなわなと体を振るわせる。
「まさか!」
叫ぶと同時に彼女は走り出し、部屋という部屋を覗き、大急ぎで厨房を探す。
「‥‥あああ、キッチンも腐り果てて! 乾ききった食料の残骸が!」
更に彼女は弾かれた様に二階へ駆け上がり、総ての窓を開け放った。薄暗い部屋へ、次々と光が差す。
「お布団も‥‥ああっ! 捲った裏側が緑色にカビてますよ‥‥」
吹き抜けに戻った彼女の目に入ったのは豪華な明かりにもっさりついた蜘蛛の糸。
ブチっ!!
何かが切れた。
「炊事洗濯、掃除に育児! 日々の暮らしをしっかと支える!! これが女の生きる道! 汚れがあったら洗って落とし、埃が溜まればこの手で清める!! 天下無双の家事指南! 小町流花嫁修業免許皆伝とは、このひなたの事です!!」
ドォオーン!
ひなたがほえた。その声は吹き抜けから屋敷中に響き渉り、木霊が太鼓の様な音になって跳ね返ってくる。
「さあ、皆さんもお手伝いしてね!!」
は、はぁい! と、階段の下で茜とアルトリアが応えた。
ひなたは古くなったシーツや染みの付いたテーブルクロスで手早く雑巾を沢山縫った。その手捌きは超人並だ。茜とアルトリアは手分けをして井戸を探し、屋敷中の窓を開け、一部割れている窓には布を貼り、簡単な補修と掃除を行った。
屋敷には掃除道具やバケツなど、使えそうな物が沢山残されていた為、掃除をする事自体には何の不便もない。
カビた物、腐った物を可燃ゴミとして纏め、布団も干す。埃が積もっている所は徹底して掃き掃除、拭き掃除をし、機能が麻痺していた厨房も鮮やかに蘇った。
‥‥どう見ても、大掃除だ。盗賊排除のとの字もない。
「じゃ、日差しの強い場所の‥‥探索は任せ、たわ‥‥」
貞子は一人、暗い所を探して彷徨った。
「うふふ‥‥地下室。何て、いい響き‥‥かしらぁ‥‥。闇が‥‥心地良い。このまま‥‥棺桶に入って‥‥しまいたい、わね。うふふ」
半地下の様な所に、四方が磨かれた石で囲まれた薄暗い空間がある。中央には巨大な棺桶の様な箱が置いてあった。それは奇妙な事に高さは低く、幅と奥行きが異様に広い。
「アアアアアアアッツ!!!!」
「ど、どうしました貞子さん!?」
声を聞いた茜とひなたが急いで走ってくる。
「‥‥うふふ、ちょっと叫んでみただけよゥ。いや〜広いから、よォく、響くわねェ‥‥くくーくッ!!」 二人はほっと胸を撫で下ろしたが、ひなたは部屋中央の箱に着目した。
「あ、これお風呂ですよね。ちょっと変わってるけど‥‥うわぁ、ちゃんと垢を落としてませんね。でも何だか最近使われたような‥‥とりあえずここも窓を開けて、お掃除しましょう!」
「うう、太陽は‥‥キライ。あと‥‥オーラ魔法も大キライ、よ。ああ、あと‥‥井戸、も‥‥好き。うふ‥‥見ているだけで引き込まれそう。‥‥魔術の適性が‥‥水系だったのも‥‥きっと前世からの‥‥呪い、だわ」
「ほら、貞子さん! ここは水場ですよ!」
茜が両手を元気に開いた。
「まあ‥‥ひなたさん大ハリキリだし‥‥適当に手伝ってあげるわよゥ」
こうして貞子もお風呂掃除に取り掛かったのであった。
一日では不可能と思えた広大な屋敷の清掃も、ひなたの超人的大活躍によりたった一日で大部分が片付いていた。
持参の火打石と油で火を灯すと、まるで屋敷が息を吹き返したかの様だった。朝に洗ったシーツやテーブルクロスも乾いている。久々に火が入ったかまどを使い、ひなたは事前に市場で調達したお肉の燻製や野菜、塩漬けの魚で美味しそうな料理を作り、夜の食卓を明るくした。
「いただきまーす!」
明るい声が木霊した。
「本当は生のお肉やお魚が良いんですけどね。この時期は、特に食中毒に注意しなきゃ。保存食と違って、すぐにカビが生えちゃうんですよ」
「うんうん、地球でもこの時期梅雨なので判りますよー!」
「ああ、梅雨。何だか懐かしいですね」
茜とひなたの会話に、アルトリアが参加する。
「そういえばアルトリアさんも地球人なんですよね! 以前に別の依頼でご一緒した時から思ってたんですけど、私にとってアルトリアさんは先にこの世界に来た地球人の先輩です。改めて今度も宜しくお願いします!」
笑顔で挨拶をした直後、茜の顔が曇った。どことなく寂しげだ。
「‥‥やっぱり、地球が恋しいのかなぁ。なんで皆‥‥すぐに馴染んで冒険しちゃうんだろ? 冒険が怖いって、思うのは‥‥恥ずかしい事、なのかな」
ひなたは心配そうに茜を見つめ、
「誰だって、怖い時はありますよ〜。そんな時の為の仲間ですよ! 辛い時も一緒に頑張りましょう!」
と、微笑みながら小さなガッツポーズを作ってみせた。
「そうね、知らない事‥‥不安があるから‥‥怖いんじゃ、ない? ほら、そこに‥‥」
「ひっ!」
貞子が茜の後ろを指差した。だがそこには何も居ない。
「さ、貞子さん!? 急に暗がりを指差さないで下さい!」
「‥‥居たとしても、彼らの事を知っていれば怖くない、わ」
「え、ええ、まあ‥‥」
茜は大きく脈を打ち始めた心臓を両手で押さえた。
「さあて‥‥季節的にも‥‥出そうよねェ。‥‥え? 何がって‥‥くーくっく、分かってるくせに」
「お化けだったら‥‥手がなさそう。でも貞子さんならきっと何とかしてくれるかも? それにしても、こっちにもお化けっているのかなあ?」
「‥‥精霊信仰があるこの世界には‥‥文化として存在してないだけで‥‥。 ちゃあんと、いるわよ‥‥『彼ら』は。忌野家の‥‥由来は‥‥死者の霊を降臨させる、イタコが先祖なの‥‥よ。別に‥‥口から出まかせじゃ、ないのよ‥‥。だって‥‥血筋柄、私も『視える』んだから‥‥」
三人は何かぞっとする気配を感じ、息を殺した。目の前で静かに蝋燭が揺らめき、スッ‥‥スッと小さく布が擦れる音が聞こえた気がした。
「ねェ。さあ、逝きましょ‥‥くくくゥ」
貞子は机上の燭台を低く持ち、滑る様に席を立った。燭台が移動した事で食卓は暗くなり、不安になった三人は貞子の後に続いた。
「ひなたさん、アルトリアさん、そちらに異常はないですか?」
最後尾についた茜が声を震わせ、懸命に目を凝らす。
「大丈夫です」
アルトリアの声も心なしか震えている。下から照らし出された貞子が今は何よりも怖い。
「みぃつけた!」
「ひいぃいぃ」
その場に居た貞子以外の五人が、声にならない掠れた悲鳴を上げた。
‥‥五人?
見慣れない男女二人が貞子の前で腰を抜かしていた。
彼らは旅の途中に一晩拝借、のつもりが、居心地が良くて数日間の滞在になっていたと告白し、抵抗する意志が無い事を、全身を使って主張した。
「数日前にここの持ち主さんが、こっちゃこ〜という声と女性の悲鳴を聞いたというので私達は来たのです。それに心当たりは?」
アルトリアが詰め寄ると、二人はあわあわと首を横に振った。
「あ、でももしかしたら」
男性がはっと思い出した様な顔をする。
「ほら、俺が無性に喉渇いて紅茶探してた時あったじゃん。あの後お前カップ落として‥‥」
「あ!そうね。あなたが紅茶どこ〜、紅茶どこ〜って‥‥」
「こうちゃどこ〜‥‥。‥‥こっちゃこ〜‥‥」
「‥‥」
全員が沈黙した。その沈黙は長く、一晩空けてしまうのではないかと思う程にさえ感じた。旅の途中で、あの高級品の紅茶?
「夜だし‥‥話題がなくなって静かな時は、好きな男子のノロケ話‥‥」
突然切り出した貞子の顔を全員が驚愕の面持ちで見る。
「も良いけど‥‥!やーっぱり、夏の夜にふさわしく‥‥怪談話よぅ。‥‥歴代の忌野家宗主たちが体験した、とっておき‥‥恐怖の怪異話、よ。心して‥‥呪われなさいな、くっくっく!」
ヒァー!
自然に囲まれ美しく静かな夜景に、女性の悲鳴だけが響いた。
●エピローグ
「それで、君達は私の屋敷の大掃除をし、一時的に住み込んでいたカップルを排除し、装飾品を何一つ取る事なく帰還し、私に鍵を返却するというのであるか!」
「はい。その通りです。不法滞在者に対して罰を与えるという内容ではありませんでしたので、排除のみ致しました」
依頼主の紳士に向かい、アルトリアが恭しくお辞儀する。
「おお、何たる事! この私は君達冒険者を誤解していた様だ! 廃墟にある壷はひっくり返され、戸棚のコインは冒険の足しにされ、本棚の書物は資料として持ち帰られるものばかりと思っていた! 更に武力を行使する事も無く事態を解決するとは! おおブラボー! 君達は何と清い心を持った者達なのだ!」
気に入った! 紳士はそう言い内ポケットから出した黒く艶やかな皮袋を反し、ころころとした宝石を掌にあけた。小さなサファイアが光っている。
「宝物を取ってよいと申したが取らぬその意気、君達こそこの宝石に相応しい」
彼は皆の手を無理矢理取ると、強制的にその手の上にサファイアを置いて回った。
「最近この手の宝石が沢山取れるみたいでね、丁度大量に仕入れてきた所なのだ。誠実さの象徴であるだけでなく、旅のお守りにもなるらしいから、受け取ってくれ給え。それに、折角大掃除までして貰った事だ、近日中にでも再びあの屋敷を使わせて貰う事にするよ。では私はこれにて」
そういって彼は颯爽と鼻歌を歌いながら立ち去って行った。貴方が落とした斧は、金の斧〜? フフフーン、そんな即興の歌を歌いながら‥‥。