【ウォールブレイク】〜すれ違いの友情〜

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2008年06月25日

●オープニング

 先月末の出来事だった。
 アトランティス各地にて突如巨大な壁が現れたのは。
 聞く所によれば月道の先、ウィルの国でも同じような壁が現れているとか。
 いや、この二つは同じものという見方が強い。
 あくまで噂だが、この壁は天界にも存在しているとか――。


 地方領主、リドリー・ケインズは悩んでいた。
 この壁からは様々な鉱石が発掘されるとか。
 現在、それを目当てにか冒険者達が掘り進んでいるという。
 リドリーはいくつかの鉱山を所有し、鉱石商を営んでいる。

「わざわざ発掘隊を結成して挑むには利益が薄い。一個人としてはともかく、商売としては。
 そう言ってなかったか?」
「利益は確かに薄いさ。
 だが相場が乱れる虞がある。冒険者の客も少なくはない。需要が減っては商売に支障をきたすだろう」

 利益を得る為ではなく、冒険者達の利益を減らす為。
 いつだって利益は他者からの奪い合いだ。
 他者の取り分が減れば、自らの取り分が増える。

「そういうところ厳しいな、貴公は。
 私は性に合わない。貴公に任せるよ」
 はにかむ男に、
「それだけではない。この壁には存在自体が世間の注目を集めている。
 発掘隊を結成するのは周囲へのアピールだ。
 私がこの壁に深く関わったという、な」
「なるほど、大したものだ。君は商才があるよ」
 無論、成功すれば、だが。
 しかしそのような事はおくびにも出さず、
「成功を祈ってる。大丈夫さ。冒険者を雇うんだろう?」
 彼らの実力はよく知っているから。
 そうして、地方領主、フェリックス・レインはただ友人の事業の成功を願った。

 リドリーには勝算がある。
 だから既に決めた事業の事で悩んだりなどはしない。
 彼が悩んでいるのは――。


「――と、いう訳だ。
 グレートウォール――とか呼ばれているのか? アレの掘削作業をお願いしたい。
 発掘した物品は皆、冒険者達に譲ろう。ああ、多少の手数料は戴くが」
 そう言ってたいして暴利でもない、むしろ良心的ともいえる利率を見せる。

「それと――これは可能ならで構わないが――」


 彼はいつも無欲だった。
 人の上に立つのなら我欲がなければやっていけない。
 少なくともリドリーはそう考えていた。
 だが彼はいつも自身の事よりも民や友人を心配し、
 常に自分より一歩劣っていながらも皆の信頼を集め、
 それはリドリーにとっても例外でなく、
 だからリドリーは彼を嫉むと同時に――、

 リドリー・ケインズは悩んでいた。
 競争相手に手を差し伸べるのは信義に反する。
 それはリドリーが貫いてきた彼とは真逆の道。
 自ら誘う事は出来ない。
 向こうから興味を持つ事もなかった。
 元々野心の薄い男なのだ。
 ならば――。


「協力してくれるスポンサーがあるなら受け付けよう。
 こちらの協力する資金にも限りがあってな。あくまで主催は私だが、協力として名は連ねていい。
 ある程度の資金を今すぐに出せる者だ」

『今すぐに』というのはなかなか難しい。
 噂によれば、彼は最近、先代の隠し財産を見つけたとか。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec5104 ヒロ・ヒロ(28歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●楽屋オチ自重
「ま、復帰して連続で不成立じゃあ切ないよな」
「――は?」
 ええと、何の話だろう。
 巴渓(ea0167)の無茶振りにギルド員は面喰っているようだ。
「うーん、あの生き別れの騎士依頼。勿体無かったなぁ。
 俺は好きなんだがな‥‥すまねェ、俺も体は一つなんでなぁ」
「は、はぁ‥‥」
 生き別れの騎士‥‥たしかそんなのがあったような気はするが‥‥何故自分に言うのだろう。ギルド員は生返事で答えるしかなく。

 まあ、ありがとうございます。
 またの機会にごにょごにょ‥‥。

●だから自重だってば
「あ、お久しぶりっスねドラエさん!
 何でも重い風邪でギルドを欠席してたんスって?」
「え? か、風邪? 僕は別に‥‥」
 河童のギルド員に話しかけてきたのはクリシュナ・パラハ(ea1850)だけではなかった。
「‥‥とりあえず、1ヶ月は持ちましたよね。
 ふう、ノビータさんったらまた無茶なワガママを‥‥」
 しみじみと呟く美芳野ひなた(ea1856)。
 ちょっと待て。そもそもまだ依頼書さえ出来ていない。
 水無月茜(ec4666)も大暴走。
「あ、あの〜‥‥月道ですかぁ!?
 え? えええ〜?? あの、私ムーンロードなんて魔法覚えてないですよ!」
 だからそんな依頼書来てないっつうに!
「‥‥ムーンロードなんて覚えている冒険者はほとんどいないよ。
 呪文を使えたからって月道が見つかる訳じゃあないからね」
 ドラエのナイスフォロー。
 噂によれば冒険者の月道を発見する確率は限りなくゼロに近いとか――。
「‥‥ノビータ、呪殺‥‥決定‥‥くっくっく」
 そして不穏なセリフを呟く忌野貞子(eb3114)。

「あの〜‥‥」
 寂しげな若いギルド員。
 相手をしてくれているのは渓だけ。
 それもなにか関係ない話してるし。

 おまえらええかげんにせえよ。
 今の依頼人はリドリー・ケインズ領主だ。
 とゆーか、ギルド員の話を聞いてやれ。

●妄想空間展開中
「――よーするにアレだ。フェリックスとかいう野郎を、壁事業に引き込みたいと」
 やっと話を聞いてくれた冒険者達。
 裏の意図まで読み取ってくれて手回しがいいのだが悪いのだが。
「え? でもリドリーさんはスポンサーの指定なんてしてないよ?」
「してんだよ」
「わ、私小さな事務所で働いていたからわかるんですけれど、突発的に大きいお金動かすのって割と大変なんですよね〜」
「フェリックスさんはこないだ隠し財産掘り当てたんスよね‥‥
 まあ、あれスよ。体面的に言えないけれど、言ってるも同然的な‥‥」
 渓は元より、茜もクリシュナも言わずもがなを理解してるようだ。

「ったく依頼人の奴め、『べ、別にお前の為に誘ったんじゃないぞ!』とか言い出さんだろうなぁ」
 いや、それは‥‥。
「うふふ‥‥いいわ、いいわよ‥‥男同士の愛…もとい友情‥‥」
 ちょっと待て。今変な事言わなかったか貞子。

「‥‥不意打ち気味にリドリーを抱き寄せるフェリックス。
 いつもの朗らかな仮面を捨て、今は狩りを愉しむ男の貌に変貌していた。
『な、なにをする‥‥っ!』
 あくまで強気な言葉と裏腹に、リドリーの頬は朱に染まる。
 その顎へとフェリックスの指が這う。顎に手を添え、ゆっくりと上に向かせる。
『聞いたよリドリー。壁の一件も僕の気を引く為なんだろう?』
『べ、別に貴公の為ではな――』」

 やめい!
 誰か突っ込んで欲しいところだが、このメンバーはちょっとヘンな女の子揃い。
 みなドキドキしながら続きを待ってるような‥‥。
 でも倫理的に載せられないので報告係が削除したとか。


「――ぐ‥‥寒気が‥‥」
 集合場所で冒険者達を待つリドリー。
 知らぬが花とはこのことか。


「はあはあ、も‥‥萌えーっ!!」
 なんかテンション上がってる貞子。落ち着け。
「うふふ‥‥水無月さぁん」
「は、はいっ!」
 びびってるぞ茜。
「貴女の住んでた『ニッポン』の『アキバ』や『イケブクロ』の話。
 私のような‥‥乙女好みの書物や執事喫茶なんてステキな場所‥‥。
 たっぷり‥‥聞かせて、もらうわよォ」
「あ、あははは‥‥」

 だから
 話を
 戻せというに。

●それも友情
「と言う訳で、グレートウォールの調査をお願いしたいんス」
 やっと話が進んだ。
 気さくとはいえ仮にもいち領主。
 面会にも面倒な手続きが必要だったのだが、以前依頼を受けたクリシュナの信用もあって、随分と手間は省けたようだ。

「あの壁、ウィルでミハイルのジジイが調べて回ってやがるんだ。
 その鍵になる精霊武具も着実に集めてるしな。このまま壁を壊し続ければ‥‥。
 俺たちの世界に繋がる可能性がある」
『渓達の世界』即ち天界、ジ・アース。
 確かにそういう噂もあるらしい。
「その時にだ。
 この世界の、いや二つの世界の人々に迷惑を掛ける真似だけはしたくねェ」
 損得ではなく、信義にて訴える。
 クリシュナから聞いたフェリックスの性格からして有効な手段でもあるし、
 なにより渓の本音たるところでもあるのだろう。
「以前に見つけたお父様のへそ‥‥遺産も心細かったですし、
 今なら格安で宝石が掘り出せますよ」
 とクリシュナは利益面からもプッシュ。
 一部えらいお世話だったが。
 宝石の収入は領地経営の視点からはさほどでもない。
 だがやはりそこはリドリーの言うとおり、事業として参加したという名声は色々と使い道が出来る。
 なにより、
「やれやれ。天界とアトランティスの事まで持ち出されては動かない訳にもいきませんね」
「じゃあ!?」
「それに――クリシュナさんの頼みとあらば無碍に出来ないですし」
 それ以上に、
 彼女らがわざわざ自分の所を頼った理由、
 鈍感なフェリックスとて、依頼人の意図するところが読めぬ訳もなかった。

●でぃぐだぐ
「さぁてと! ガツガツ掘るか!
 穴が開いた時の心配は後だ! 山にしてみりゃやっと五合目、まだまだってとこよ!!」
 腕をまくり、準備してきた大量のスコップを壁に突き立てる渓。

 そして続くクリシュナ。
「じゃあ私もモリモリと! 掘り‥‥ません」
 軽い荷物と驢馬を下ろし、いそいそと別の準備を始めるエルフの少女。
「つーか私の体力じゃ無理ですって。初日で意識不明になりますよ〜」
 不思議と体力のあるなしが成果に影響を及ぼすという話は聞かないのだが、まあそこは気分の問題とか色々あるのだろう。
「じゃあ、ひなちゃん」
「はいっ! ひなたは皆さんが元気に掘れる様に後方援護します!」
 タライや手桶を用意し水を張る。
 体力のあるなしが成果に影響を及ぼす事はないが、疲れる事は疲れるという結果も実証済みだった。
「みなさんが最後まで持つように頑張ります」
「私も手伝うッスよ」
「ああ‥‥暑い‥‥灰になりそう‥‥」
 早いな!?

「――俺の目の前にブ厚い壁があって、それを突破しなきゃならねえんなら、俺は迷わずこのスコップを――」
「ぎがどりるゥ! ぶれいくーっ!!」
 壁に向かってなんか能書き言ってる渓と、叫びながら掘削する茜。
「‥‥うわ、スベッちゃいました?」
 周りを見渡し照れ笑い。
 頼むから普通に掘れおまいら。

「電動ドリルがあると楽なのになぁ」
 出来るかもね。値段はゴルデンシャウフェルの3倍くらいかな?
「ドリル?」
「ああ、ドリルっていうのは地球の道具で、穴を掘る道具なんですよ」
「ほう? スコップともつるはしとも違うのですか」
 妙な好奇心を持つフェリックス。この人もちょい天然。
「えーと分かりやすく言えば、螺旋状に溝を掘った円錐‥‥武器屋さんで見たランスって槍に近いですね。
 それがこう‥‥ギューン! ってスゴい勢いで回転するんです」
「ランス‥‥なるほど、刺突の瞬間に手首を返すのですね?
 そういった格闘技術が天界にはあるとか」
 それ違う。確かに天界知識だけどそれドリル違う。
「私の居た日本っていう国では、愛好者が多い道具です。
 巨大ロボの必殺技にもドリルが多いですね」
「ロボ‥‥ゴーレムですか。天界にもゴーレムが? そしてランスを?」
 誰か止めて。このままではアトランティスに誤った知識がー。
「ふむ、天界のゴーレムか‥‥」
 二人の話を聞いていたリドリー。
「ケインズ卿、どうだい? 彼女の話を聞いてみては。
 貴公はゴーレムにも出資していた筈だ。参考になるのでは?」
 おねがいだからしないでください。

●壁に願いを
 掘削は昼夜に渡り、
「お風呂出来たッスよ〜」
 近場の水を汲んだタライにクリシュナのヒートハンド。
「わあ、こういう使い方もあるんですね、やっぱり!」
 やっぱり?
 茜の脳内には天界のゴーレムを題材とした動く紙芝居が流れていたとかいないとか。
「リドリーさん、フェリックスさん、お先にどうぞ」
「女性より先に湯を頂く気はありませんよ」
 ひなたの勧めを丁重に断るフェリックス。
「うふふ‥‥残り湯がいいのね‥‥すけべ」
 ほんとにたいがいにせいよきさまら。

 結局渓達が湯につかり、ひなたとクリシュナは食事の用意。
 リドリーらの用意のお陰で味気ない保存食を食べずには済みそうだ。

「――参加しないのではなかったか?」
 二人となり、口を開くリドリー。
「そう思ったんだけれど、冒険者の皆に諭されてね。アトランティスの――そして天界の為だそうだ」
「ふん、相変わらずの偽善だな、レイン卿。
 いいか、事業を拡大させる事は資本を回す事だ。敵を潰せば即ち自国の民が潤う。
 貴公のような保守的なやり方ではいずれ喰われるぞ」
「ああ、そうなんだろうね‥‥」
 自分に力が足りない事は彼自身が自覚していた。
 それも仕方無い。
 喰われるなら、それも自分の未熟なのだろう。
 せめてその時、自国の民には辛い思いはせぬように。
 自分が領主として出来うる限りの事を――。
「この世界に大勢の天界人が流れ込み、もうすぐ二年。
 嫌が応にも世界は変化を求められている。
 対応が必要だ。
 自覚があるならあがけ。私やバートン卿の真似事をする必要はない。
 貴公にも出来る事はある筈だ」
 遥か高い巨壁を見据え、リドリーは誰にも言った事のない信念を打ち明ける。
「――ああ、貴公らに劣るつもりはない。やらせてもらうよ、ケインズ卿」
「――それは間違いだな。貴公は私に劣っている」
 後はいつもの憎まれ口。
 二人の会話は誰に聞かれる事もなく宵闇と共に消えた。

●そしてまた、いつもの関係
 壁掘り5日間も収束を向かえ、
「結局、開かなかったなあ‥‥」
「かなり掘れた筈なんスけどねえ‥‥」
「どんまいです。この先は他の冒険者さん達がきっと開けてくれますよ」
「うふふ‥‥開くかしら‥‥? 呪いよこれは‥‥」
 だまれそこ。
「でも楽しかったです! 危険もないし、こういう冒険もあるんですね!」
 まだ駆け出しの冒険履歴にまたひとつ足跡を刻む茜。
「いや、助かった。
 掘り進めた記録はクリシュナ殿が記録してくれたからな。これはギルドに確かな証明として提出させて貰おう。
 貴公らと我々がこの壁に取り組んだという証だ」
 悪くない手応えだったが、完砕には至らなかった。
 だが、無念はない。
 元よりリドリーにとっては数ある事業の一つだし、
 なにより、

「――ではな、レイン卿。貴公の助力にも感謝する」
「いや、また――呼んでくれ。何かあった時には、な」
 滅多に交わさぬ言葉が話せたから。

「ふふふぅ‥‥友情‥‥それを超えた‥‥愛‥‥」
 たのむから自重してください、貞子さん。