【聖夜祭】ノビータとサンタクロース
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■ショートシナリオ担当：冬斗 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：4 G 15 C 参加人数：3人 サポート参加人数：1人 冒険期間：12月21日〜12月26日 リプレイ公開日：2008年12月30日 |
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●オープニング
「モンテールさん、聖夜祭空いてますか？」天界では１２月には師も慌しく走るらしい。
冒険者ギルドでせっせと働くモンテール伯に支倉純也が尋ねてきたのはそんなある日の事だった。
「モンテールさんはノルマンの御出身でしたよね？ 聖夜祭、御存知ですよね？」
「もちろん」
ノルマンといえばジーザス教の最も広まっている国の一つである。
河童ではあるものの生まれも育ちもノルマンを自称するモンテール伯にとっては聖夜祭は実に馴染み深い。
当日は自宅でひっそりと聖夜を祝う準備をしていた。
「リンデン侯爵家の別荘で聖夜祭が行われるのを聞いてますか？ 実はそれに招待を受けまして」
「おお、それはおめでとう！ 蓮さんの紹介かな？ 楽しんでおいで」
「いやね、それで――モンテールさんにもお越しいただいては、って話になってるんですよ」
「ふえ？ 僕が？ ええと‥‥だって、僕、河童だよ？」
愛嬌の割に変にプライドの高いモンテール伯。
アトランティスに来た当初はそれで癇癪を起こしていた事は黒歴史。
「私だって一介の冒険者です。それに見識豊かな方が参加される事は望ましい。是非、話を聞かせて貰いたいとセーファス様もおっしゃられています」
「え、そ、そう？ 参ったな〜」
でへへと頬を緩ませるモンテール伯。
ちなみに、
（「ドラエ呼ぼうよ。絶対盛り上がるって、河童だし。僕、遠目にしか見た事ないし」）
という蓮の台詞は絶対に内緒だ。
「僕もいきたーーーい！！」
「駄目ーーーーーー！！！」
「行きたいったらいきたーーーーーい！！！」
「絶対に駄目ーーーーーーーーーー！！！！」
ノビータが話を聞きつけてきたのは翌日の事だった。
この駄目少年冒険者はどうしてこう無駄なところだけ耳聡いのか。
「いいかい？ 今回は冗談じゃ済まないんだ。貴族同士の交流の場なんだぞ」
さりげなく自分も貴族とアピールするとこ流石ですモンテール伯。
「君に失礼があったら僕じゃ庇いきれない。それどころか冒険者の悪評にだって――」
「まあまあ、いいじゃないですか」
助け舟を出したのは純也。
ギルド内で話していた事をモンテール伯はちょっと後悔。
「招待客はやはり大人ばかりですしね。ディアス様あたりが退屈してしまうんじゃないかと思ってたところなんですよ」
「えー、‥‥でも精神年齢的に合うかなあ？」
「なんだよドラエ。二つ三つくらいしか違わないだろ？ 僕一人っ子だけどいいお兄ちゃんになれると思うよ！」
「ん〜‥‥まあ、確かに、そうかもね」
うん、そうだな。いざという時は自分が何とかすればいいだろう。
ディアス様も精神年齢的に年下がいた方が安心するかもしれない。
将来の為にもたまには駄目な弟の世話も悪くはないだろう。
きっとセーファス様を見習っていいお兄ちゃんになれる気がする。
さらりととんでもなく酷い事を考えてるモンテール伯。
「だろ？ 任せてよ」
「――でさ、サンタはいつ来るの？」
「はい？」
「サンタだよ。知らないの？ 天界の聖夜祭にはサンタがトナカイに乗って空飛んでくるんだぜ？」
‥‥またこの馬鹿は。
どうしてそういう余計な知識ばかり仕入れてくるのか。
期待に目を輝かせられても困る。
「あのね、誰から聞いたか知らないけれど――」
と、思い留まる。
折角の御招待を受けるんだ。（しかも余計な者まで連れて）
なにか手土産でもあった方がいいだろう。
純也の言うとおりディアス君を退屈させないようなものならなおいい。
「純也さん。僕依頼書作るんで手伝ってもらえるかな？」
困ったときは不思議な四次元冒険者（時空を越えてくる的な意味で）
果たして今回はどんな結果が待っているのだろうか。
●今回の参加者
eb3114 忌野 貞子（27歳・♀・志士・人間・ジャパン）ec5006 イクス・グランデール（27歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国）
ec5196 鷹栖 冴子（40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界（地球））
●サポート参加者
一 始（eb8673）●リプレイ本文
●英国騎士の初仕事「ここがアトランティスか‥‥。不思議なものだ、太陽もないのに空が明るい‥‥」
異界の騎士、イクス・グランデール（ec5006）は訪れた新天地への感動を味わっていた。
未知なる土地は冒険者の喜び。
そこが空まで繋がっていない異世界ならば尚更だ。
「先人達もこのような気持ちでこの大地を踏みしめたか‥‥。噂によれば我が国の国王もそうだとか。俺も負けてはいられぬな――！」
「あら‥‥おのぼりさん‥‥？ こんにちわ‥‥」
依頼を求めギルドにやってきたイクスを迎えたのは忌野貞子（eb3114）。
「これは‥‥ジャパンの婦人か。騎士のイクス・グランデールという。よろしくお願いする」
「ふふ‥‥紳士なのね」
「英国の身なれば」
天界人の鷹栖冴子（ec5196）も加え、依頼は成立。
依頼人はギルド員らしい。貞子は面識があるようだが。
「なんでもノルマンの貴族との事らしいが‥‥」
イクスが貞子に尋ねる。
国は違えど、同じ世界に住んでいた人間同士。ましてやこちらに来たばかりのイクスにとっては親近感を感じるようだ。本人の言うとおり英国紳士としてということもあるのかもしれない。
「貴族‥‥ふふ‥‥そうらしいわねぇ‥‥くすくす‥‥」
『？』
イクスと冴子は揃って首をかしげる。
‥‥というか、貞子の振る舞いに臆する事がないのはある意味大物達なのかもしれない。
「そういえば先程も受付の方が含み笑いをしていたような‥‥何か事情のある方なのだろうか‥‥」
失礼な受付である。きっと本人が知れば烈火の如く怒り狂うであろう。
「怖いぃ？」
にたぁと笑って首を柳のように傾げてイクスの顔を覗き込む貞子。うん、怖い。主に貴女の顔が。
しかしジェントルメン伊達ではない。
「いや、これでも英国騎士の端くれだ。どんな方であろうと――俺は驚かない――！！」
「ありがとう！ よく来てくれたねみんな！」
「ＫＡＰＰＡーーー！！！！！？」
●まだ依頼前
「――まったくもう！ なんて失礼な！」
依頼主たるモンテール伯、青緑の肌を真っ赤にして憤慨中。河童が怒ると赤くなるのかは突っ込まない。
「しっかしまあ‥‥アレに似てるとか言うのか禁句かねぇ？」
「なんだい、アレって？」
冴子の独り言をきょとんと聞き返すモンテール伯。どうやら天界の某は知らないようだ。そりゃそうだ。
「ああいや、こっちの話。‥‥にしても、あたいにゃ河童の本物が目の前にいるのが不思議でならないさね！」
「ああ、チキュウには河童はいないんだっけ？ でもそんなに珍しそうに見ないで欲しいなあ。僕はこれでも由緒正しきモンテール家三代目なんだから」
「――あまり由緒正しくもないような‥‥ああいや、失礼」
先程の態度を恥じているらしいイクスは言葉を濁す。
要するに彼の祖父が立ち上げたばかりという事だ。その上、跡取りが異世界に旅して帰ってこないのではとんだドラ息子――もとい放蕩息子である。
「で、大山さん？」
「誰だよそれ？ モンテールだって名乗ってるだろ！？」
「ああそっか、すまないねぇ水田さん」
「誰！？ ああもう、なんで僕の話になってるんだい！ 依頼の話をしろーーー！！」
とんでもないグダグダ感。
有能ではあるが、何故か彼の出す依頼では高確率でこの手のトラブルが多いのがモンテール伯の悩みの種だとか。
「それじゃあ、サンタの格好して会場を盛り上げるんだね」
「そういうこと」
どうして依頼内容を伝えるのにこれほどかかってしまったものか。
「ノビータには‥‥バレない方が‥‥いいのね‥‥？」
「まあ、今回ノビータ君はついでなんだけど、わざわざ子供の夢を壊す事もないでしょう」
割とどうでもよさそうなモンテール伯。
「ああ、でもそうなると貞子さんは大変かなあ‥‥その‥‥インパクト強いし‥‥ノビータ君変に君の事覚えちゃってるし‥‥」
さっき河童の件でカンカンに怒っておいて自分も結構失礼だったりする。
「ふふ‥‥大丈夫‥‥久し振りに‥‥本気‥‥出させてもらうわ」
「え？ まだ本気じゃなかったの？」
よくこれでイクスに怒れたものだ。
そしてそのイクスだが――。
「――モンテール殿、サンタとはなんだ？」
チキュウにもジ・アースにもサンタクロースは等しく伝えられている。
だが子供に聞かせる話ゆえ、知らない人間も居るのだろう。
「よし、天界人の友人に聞いてみるか」
「ＨＡＨＡＨＡ！ サンタクロースがわからない、だって？ 馬鹿だなあイクスは。
当然このボクのチョーカッコいいゴーレム、『ザンダ・クロース』の事に決まってるじゃないか！！」
「という訳で一体貸して欲しい」
「‥‥モナルコスをか？」
「ＨＡＨＡＨＡ！ 石のゴーレムなんて聖夜祭には相応しくないだろう。ヴァルキュリアを頼むよ。高貴なお方のお屋敷だからネ！」
「どこに行くんだい？」
「知らないのかい？ リンデン侯爵の別荘さ！」
おいだされた。
「君の友達は僕らをテロリストにする気か！！」
「す、済まなかった」
●準備完了
他の二人が衣装とプレゼントを用意する中、ひとりトンテンカンテンと大工仕事に精を出す冴子。
「よっしゃ、出来たよ！」
制作期間二日間。見事なソリの完成である。
「ご苦労様、冴子さん」
と、労う艶のあるハスキーな声。
「任しといてよ、あたいの得意分野だしね‥‥って、誰？」
冴子が振り返った先にはヘソ出しロングスカートのサンタコスチュームを身に纏った黒髪の美女。前髪をカチューシャで上げて止めている。
「何言ってるの、貞子よ。言ったでしょ、本気出すって」
「さ、貞子さん！？」
「これは――モンテール伯に驚かなかった俺でも驚いた‥‥」
いやお前驚いてたろという突っ込みは置いておき、確かに貞子のそれはもはや変身だった。
本人曰く『封印していた右目を開放した』との事だが、柳のように傾いだ背筋をピンと伸ばしているのも一役買っている。勿論口調も。
「や〜ね、驚いちゃって。昔はモテたのよ？ みんな顔目当てのヤツばかりだったからああしてたんだけれど」
それ以前にジャパンの志士としてこの佇まいはどうかとも思うのだが、幸いというか、この中にジャパンに詳しい者は居なかったとか。
「これならノビータにもバレることないでしょ？」
「うん、絶対バレない」
目をパチクリとさせながら不必要に断言するモンテール伯。
「じゃあ行きましょうか」
「うむ、大船に乗ったつもりで任せてくれ、モンテール伯。乗るのはソリだが」
英国騎士はジョークにいまいちキレがない。
「あたいの衣装も用意してくれたんだろうね。男物のサンタ衣装」
ちなみに冴子はこの中で最も体格が大きい。男性騎士のイクスよりさらに二回りも。
「いいの？ ちゃんとサイズの合う女物も用意してあるけれど――」
「あはは、あたいにミニスカサンタでもやらせるつもりかい？
よしとくれよ、あたいみたいなオバさんにゃ冗談はよしこさんだよ！」
よしこさんて、
と突っ込む者もこの中には居なかったようだ。
「じゃあ、僕は純也さんの招待客として先に行くので、後はよろしくね」
『任せたからね』と念を押す心配性。
着替えを終えた三人は冴子のロバにソリを引かせる。白い袋に荷物を詰めて。
「さ〜、ノビータにディアス君、待ってなさい。
それと他の招待客達も、この私がパーティ会場をサッタサタにしたげるわ☆ 覚悟なさいっ！」
●会場にて
「ようこそ支倉さん、お久し振りです。おや、そちらが――」
「お初にお目にかかります。メイディア冒険者ギルドに勤めさせて戴いておりますドラエ・モンテールと申します」
会場責任者であるリンデン候子息セーファスに恭しく礼をするモンテール伯。似合ってないとか言ってはいけない。この河童気が短いから。
「初めまして。お話は支倉さんよりお伺いしております。――今日の事も」
今日の事。その言葉の意味するところに気付かぬモンテール伯ではない。
「支倉さんの御紹介です。信頼しています。宜しくお願いしますね、モンテール卿」
親しげなセーファスの言葉にモンテール伯の身は引き締まる。
自分の依頼したサンタ企画。それを一任された。
それはつまり同時に責任を負わされたという事で。
何かあった場合、自分だけではなく、紹介した純也にも責任は及ぶだろう。
（「大丈夫だろうね‥‥信じてるよ」）
言いつつちょっぴり不安なモンテール伯だった。
会場では既に多数のサンタが場を賑わしている。
ミニスカサンタの一団などもいた。気のせいか男も混じっているような――。
「あらら‥‥サンタを手配したのは僕だけじゃなかったみたいだね」
「ディアス様もサンタを楽しみにされていたらしいですからね。でもノビータ君もいることですし、サンタは多い方がいいでしょう」
「甘いなあ、純也さんは」
いつもわざわざ依頼を出してやってるお前が言えるのかというところだが。
「あ、来たようですよ」
純也が外に目を向けると聞こえてくる鈴の音。
外に出ている招待客達のざわめきが聞こえる。
さあ、モンテール伯のサンタ一行の到着だ。
●三者三様
「はぁ〜い！ みなさん御機嫌よう！」
艶のある美女を先頭に三人のサンタクロースが来場する。
入場チェックは話が通っているのか素通りされた。
絵にはなっている。後ろの二人の体格がいい為余計に。
先頭の美女は勿論貞子。
だが勿論というのはモンテール伯と仲間二人だけの話。
メイディアでもそこそこ名の知れた冒険者である筈の彼女だったが、皆気付かない。
「はい、ノビータ。プレゼントよ」
「わあ！ お姉さんありがとう！」
このとおり、貞子にトラウマを持っている筈のノビータでさえ無反応。
「ふむ、女性は化けるものというが――確かにな」
いや、化けすぎだから。
「サンタさんってこんなに綺麗な人だったんだ。髭のお爺さんって聞いていたけれど、ほとんどいないね」
確かに、ミニスカサンタとかそういうのだらけ。
「ふふ‥‥お上手ね、ノビータ」
何故か自分の名を知っているようだが、ノビータそんなことは気にしない。それどころか、
「僕の知り合いの冒険者にすっごく怖い女の人がいるんだ。あれって噂に聞くカオスの魔物なんじゃないの？
サンタのお姉さんの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに――」
「へえ、そんなに怖い女がいるの――」
哀れ、ノビータの命運がここで尽きようとしていることを知らぬは本人ばかりなり。
「ほら、ディアス坊やにはこれだ」
貞子がノビータの相手をしている間、ディアスに構う冴子。
「食べ過ぎないように気をつけるんだよ？」
「ありがとう！ 僕良い子にしてるから来年もよろしくね、サンタのお姉さん」
言われ慣れていないのか、冴子は目を丸くして驚いている。
「おやまあ、びっくり。あたいはてっきりおじさん――いいとこおばさんかと思ってたよ。坊や上手だねえ」
「女の人にそんな事言わないよ、僕良い子だもん」
目聡い子である。勿論いい意味で。
「あらあら、嬉しい事言ってくれるじゃないか。そんな事言われたら来ない訳にはいかないかね。
来年まで待ってておくれよ！」
本心からそう思う冴子。
もしかしたらディアスは気付いているのかもしれない。サンタが冒険者達であることに。
それでも小利口ぶらずサンタを信じてみせる子供の優しさに思わず目頭が熱くなった。
「プレゼントをどうぞ、お嬢さん」
イクスはミレイアに。
相手がお子様でも英国騎士は女性への礼を欠かさない。
「うわぁ‥‥お花？」
イクスが渡したプレゼントはお菓子ではなく一輪の花。
前日に純也に子供達の顔ぶれは聞いていた。判る限りの人柄も。
少ない人数なので覚えるのは容易かった。
「君に相応しいものを用意させて貰ったつもりだ」
流石は英国騎士。
ただ一つだけ誤算があるとすれば――、
「素敵‥‥ありがとう‥‥！」
頬を染める少女。
彼女が本気にならないか、そう、それだけが問題だ。
――そうして、無事聖夜祭は終演を迎える。
モンテール伯の招待した三人にはリンデン家よりささやかな贈り物が渡された。
ちなみにこの後
『凄いや、河童だ。本当に河童だ。しかもギルド員なんだって？ 河童なのに！！』
と興奮した蓮によって、泣きながら怒った大人気ないモンテール伯がいた事が語られた事実を記しておこう。
