【黙示録】悪は誰?

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月29日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

 山道を走る足音。
 必死な息遣いは何かから逃げているようで――。
 実際、男は逃げていた。
 何から?
 ――魔獣から。

「――ひ、ああぁぁぁぁぁッ!!!」



「モンスター退治ですか」
 冒険者ギルドの受付はきょとんとした表情で応える。
 とある街道付近に現れるモンスターを退治して欲しいとの事だ。
 モンスター退治はギルド内で最もポピュラーな依頼の一つだ。
 ギルド員の疑問は別にある。
「何故わざわざ我々が?
 その――不謹慎ですが――依頼が無ければ放っておくしかないのでは?」

 この依頼を出したのは他ならぬ冒険者ギルドだという事。
 彼らだって慈善事業でギルドを営んでいる訳ではない。
 依頼人のいない災害にいちいち手を上げていては運営が成り立たなくなる。
 稀に報酬の無い依頼というのもあるが、この依頼はギルドが報酬を出すというのだ。

「どうも話を聞いた元冒険者の見解ではな、犯人が冒険者である可能性が高いとの事らしいんだ」
「―――!!」
「そのモンスターなんだがな、――被害者が、その、食われているらしいんだが。一度の食事量からしてかなり大型なんだ。
 だけど、その周辺にはあまり食料になるようなものがない――平たく言えば動物が少ない。
 そもそも昔は安全な街道で出遭うものといったら山賊くらいしか――」
「その時点で安全じゃないですけど‥‥」
「ん、まあその山賊も最近は姿を見せないとか」
「食われたって事ですか?」
「多分な。
 で、そんな凶暴なモンスターがいきなり現れるっていうのも不自然だろう?
 小さい頃は何してたんだ?」
 そこまで言われて、受付も上司の言わんとしている事を察する。

「――冒険者の飼っている魔獣が!?」

 冒険者の中には稀に珍しい精霊や妖精、屈強な魔獣等を飼いならしている者達もいる。
 大抵はベテランの者達で、しっかりと飼い馴らされている。
「でも魔獣を飼っているのは何も冒険者だけじゃ――」
 むしろ貴族や商人の好事家達の中にも少なくはない。
「手口がな、プロなんだ。
 襲われた旅人や商隊は今のところ一人も助かってはいない。
 逃げにくい渓谷や坂道を選んでいる。
 山賊以上だそうだよ」
 山賊よりも襲撃の知識がある者。
 つまり山賊を倒す側。
 すなわち――、
「それに貴族や商人は立場がある。まあ、それでも悪趣味な輩がいないわけじゃないがな。
 その場合にしたって――」
「冒険者が雇われている、と」
「口出しはしているだろうな。
 ――わかったろ? 冒険者が一般人を襲ったなんて事になったらギルドの信用問題だ。だから――」
「わかりました。
 報酬、多いと思ったら口止め料も入ってるんですね」
「‥‥あんまり綺麗なやり方じゃないがな。冒険者の為でもある。今回の事件が明るみに出てもいいことなんてない」
 事態はわりと深刻なようだ。



 血を啜り肉を食む音が闇に響く。
 緑の鱗を持つドラゴンは己の食事に没頭していた。
 罪の意識などない。当たり前の事だ。
 だが、同時に危険を冒すだけの飢餓感もドラゴンにはなかった。
 何故ならこれは命じられた事だから。
 己の主によって。

「残さず食べるんだ‥‥偉いぞグレゴリー」
 ドラゴンを撫でる男の顔には愉悦がある。
 特別な事をしている優越感。
 魔獣とは人を襲い、人に畏れられるもの。
 ならばこれこそが本来の彼らの在り方だろう、と。
 だが、男の顔には同時に恐怖もあった。
 人を食うドラゴンにではない。これは彼がやらせている事だ。
 だから冒険者ダリウス・ブレアが恐怖しているのは自らの行い。

 どうしてこんなことをしてしまったのか。
 初めは些細な故郷への郷愁だった。
 月道を渡っては来たものの、新天地に対するストレスのようなものがダリウスを苛んだ。
 そんな時に冒険で手に入れたドラゴン。
 それでも彼はそんな暴挙に出るつもりなどなかった。
 あれさえなければ、
 文字通り――彼の故郷で言うならば――悪魔のささやきさえなかったなら――。

『やっちゃいなよ。だってここはお前の国ではないし、お前には関係ないだろう?
 拙くなったら逃げればいい。故郷には帰れないけど、どこにだっていけるだろう?』

 月道が開いたのはその直後。
 ――なら月道が早く開いていれば良かったのか。いやいや、そういう問題ではなく――、
「――くそっ!!」
 苛立ちを叩きつける。
「骨も残すんじゃないぞ! 死体を残せば――いや、残さなくったって奴らは嗅ぎつけるんだ!」
 冒険者ギルドにはたまに立ち寄っている。
 今のところ大きな事件にまではなっていない。
 だがそれも時間の問題だろう。

「怖がることはないさ。
 お前は強い冒険者だし、頼れる相棒もいるだろう?」
 闇から現れた人影は頭に山羊の角を生やし、
「黙れ!
 一人で勝てるかよ!
 モンスター退治にそんなボンクラが来るわけないだろ!!」
 そんな事は自分が言わずともわかっている。
 わかった上でこいつはからかっているのだ。
「――悪魔め」
「アクマ? 何それ?
 第一、人のせいにするのは良くないなあ。やったのは自分だろ? あ、違うか。グレゴリー君だっけ?」
「――ッ!」
 男と共に連れている山羊もダリウスを嘲笑っているかのようだった。

●今回の参加者

 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●悪は――
 冒険者ギルドに集まった者達は内密に説明を受ける。
「冒険者の仕業‥‥それはマズいっスよねえ‥‥」
 溜息を漏らすクリシュナ・パラハ(ea1850)。
「同業者を手にかけるってのはなんとも‥‥」
「おや? 犯罪者に同情かね?」
 遮ったのはサイクザエラ・マイ(ec4873)。クリシュナと比べ、その目にはひとかけらの憐憫もない。
「ん〜、別にそういう訳では‥‥」
「依頼を受けた以上はそいつは敵だ。ましてや連続殺人犯というのであれば手心を加える事自体が問題ではないかね?」
「‥‥そこまでは言ってませんよ」
「まあまあ、ここでわたくし達が言い合っても何もなりませんし」
 シャクティ・シッダールタ(ea5989)が二人をなだめると、矛先を変えるべくキース・レッド(ea3475)が、
「とはいえ、チブール商会にも問題ありだ。儲け重視のツケがここに来たということかな」
「‥‥キースさんは今回の魔獣は商会のものだと?」
「それこそまだ決まった訳じゃない。疑わしきは罰せずと言うが、それ以前の問題だ」
 シャクティの疑問を引き継ぐ形でギルド員がフォローする。
 商会が魔獣・珍獣を取り扱うようになったのは確かな事実だが、それ以前から魔獣を連れる冒険者はいる。
 それに魔獣を連れている人間なら冒険者よりむしろ道楽貴族の方が多い。
「貴族の依頼なら確たる理由もなしに断る訳にもいかない。というか、冒険者相手でもだ」
 確かに売る側にも責任は存在する。
 天界などはその傾向が強いらしい。
 しかしそれは文明のレベルが高いところほど強くなるものだ。アトランティスにおいてその意識は高くない。
「売った品をどう扱うかまで関与していては商いは出来ない」
 魔獣が――比較的一般人よりは――身近な彼らにとってそれを『商品』と言い切ることに抵抗がない訳ではない。
 だが、人の売買さえ珍しくはない世界においてそれを話題にするのはあまり意味のあることとは言えなかった。

●偽装・フンドーシ一座
「むうううんんおるわああ!!
 我輩こそ、イギリスにその人ありといわれた褐色の至宝!
 愛と正義と真実を貫くマスク・ド・フンドウウウウウシっ!!」
 荒野にむさ苦しい声がこだまする。
「‥‥ふざけているのか?」
 荷車の中のサイクザエラが呟くのも無理からぬ事かもしれない。
「‥‥‥‥」
 マスク・ド・フンドーシ(eb1259)と対照的に無言でリュートを奏でるエヴァリィ・スゥ(ea8851)。
「ふざけてなどいない! 計画通り我輩達は旅芸人一座を扮するまでっ!!」
「わかったから返事をするな、計画通りに」
「‥‥‥‥」
 エヴァリィは無言で演奏。
 会話の内容がわからなければ、物静かな奏者の少女に男が踊りながら話しかけているように見えるだろう。
 ――そもそも観客もいない街道で踊り続けるというのがアレなのだが。
「‥‥少しテンションを落とした方が良くはないか? 些か不自然だ」
 御者を務めるキースが小声で話しかける。
 外からはマスク、エヴァリィ、キースの三人組の旅路に見せかけている。残り三人は荷車の中だ。
「我輩はいつも通りだが? これが自然なテンションだ」
「君がそうでも見た者がそう捉えるとは限らない。君を知らない者からすれば酷くわざとらしい」
 そこまで言ってキースは咳払いを一つ。
「座長、その元気は次の街までとっておいて戴きたい」
「む、了解した。なんとも歯痒い気分であるな」
「‥‥‥‥」
 『少しだけ』大人しくなった座長マスクを乗せた馬車はエヴァリィの曲に合わせ街道を進んでいく。
 問題の事件の起こる地へと。

●逃亡者
 三人組の旅芸人を崖上の森から見下ろす男が一人。
 現役レンジャーであるダリウスは一行を見定めている。
 獲物とするべきか。
「なんというか‥‥少し不自然ではあるな」
 それは冒険者としての勘だった。だが勘というのは得てして理論を経験で簡略化したものだ。
「ここに猛獣が出ること‥‥既に全く知られていない訳じゃない‥‥なのに無防備過ぎる‥‥いや、あの御者は多少使えそうだが‥‥」
 一人で仕事をする傭兵や用心棒はいる。だが、冒険者としてのダリウスの経験から、護衛が男一人というのには僅かな違和感を拭いきれない。
 しかし、
「どうする‥‥? ここは避けるか‥‥? 安全に通れる人間もいないとやがて討伐隊が来るだろう‥‥だが‥‥」
 冒険者の誰が聞いても男の懸念は尤もで、リスクは避けるべきだ。
 なのに、
「あれ以上に襲いやすい旅人がいるか? 護衛の数が増えればそれだけ襲い辛くなる‥‥。あれが罠だという証拠もない‥‥」
 『証拠がない』ならば『罠でない証拠がない』とするべきだ。
 つまり彼は――どうあっても襲うつもりなのだ。
 彼は疲れていた。隠すことに。逃げることに。
 無意識の内に楽になりたいと思っていた。
 冒険者として培ってきた経験からの警告を無視した時点でダリウスの命運は尽きていた。
 いや、尽きていたというのなら――。

●後始末
「‥‥何もせずに待つというのはあまり楽なものではないな」
「我慢っス。戦闘まで温存しといてください」
 街道で探知魔法での索敵を試みようとしたサイクザエラだったが、襲撃のポイントが広すぎる為に断念した。
 見つかるかもわからない索敵で精神力を使い果たしてしまうよりは戦闘にとっておいた方が得策と判断しての事だ。
「しかしいつまで待てばいいのだ‥‥」
「――もう必要ないようですね」
 外での変化を察したシャクティは他の二人と示し合わせる。

 緩い崖から下りて来たのは一体のフォレストドラゴン。
 幌の中から見ているクリシュナは舌打ちする。
「フォレストドラゴン‥‥! あんな穏やかなモンスターに人を襲わせるなんて‥‥!」
「――それでも、討たなければなりませんのね」
 人を襲った魔獣に未来はない。
 人を外れた人間に希望はない。
 冒険者達の悲痛な後始末が始まった。


「ぅおのれっ、ドラゴンのみ前に立たせるとはなんと卑劣なっ!」
 姿を現したのはフォレストドラゴンのみ。
 ギルドから聞いていたような主人の存在は見えない。
「――このままだとドラゴンが倒されれば逃げそうだな」
 サイクザエラがインフラビジョンを使う。気配を殺している以上、バイブレーションセンサーでは見つかるまい。

 片やダリウスの方は違和感の正体に気付きつつあった。
 道中でドラゴンなどに出くわせば、たとえ手練の冒険者でも動揺は見せる。
 だが、旅芸人一座と思わしき連中にはそれがない。
 まるでドラゴンの出現を知っていたかのような――、
「チッ、罠か――!」
 ダリウスは迷う。
 魔獣に加勢して冒険者を倒すか、魔獣を捨てて逃げ出すか。
 その一瞬の迷いがダリウスをさらなる袋小路へと――。

(「見つけた! 右斜め前の崖上の森の中」)
 幌の中で示し合わせるとクリシュナが森へと駆け出す。それに合わせ、御者のキースも森を目指す。
 主を守る為か、ただ見つけた獲物に襲い掛かるだけか、フォレストドラゴンが牙を剥く。
 だがドラゴンの間近で火球が爆発した。
「貴様の相手は私達だ」
 サイクザエラがドラゴンの注意をひきつけ、その隙にシャクティはスクロールを使用。
「火鳥変化!」

「!?」
 見つかった。
 何故、とダリウスは思わない。
 事態は明白。あれは冒険者の扮装だ。自分は罠にかけられた。
 当然といえば当然だ。もう自分はかなりの数の人間をグレゴリーに食わせている。
 ギルドが嗅ぎ付けないと考えるのは楽観だ。
 だが、ならば何故、
 自分はこんなことを――。

「はああぁぁぁっ!!」
 シャクティのファイヤーバードを纏っての一撃がドラゴンの巨体を揺るがせる。
 その隙にマスクは自身にオーラエリベイションを付与し、
「必殺ァ!! アフロ・ダイナミックぶるわァっ! 」
 ふざけているようで、磨き上げられた肉体と鍛え抜かれた刃をもってしての一撃はドラゴンの鱗をも断ち切る。
 ただし、
「くうっ、おぉのれぇっ!?」
 まともに当たればの話だが。

「待ちたまえ! 発覚した以上逃げてもどうにもならんぞ!」
「止まらないと目からビーム撃つっスよ〜!」
 キースとクリシュナが追いながら警告を飛ばすがダリウスは止まらない。
 まともな冒険者なら既に自分の罪状が手遅れだという事くらいわかる。
「もう少し近ければ‥‥!」
 対象は魔法の届く範囲からも外れている。
「このままじゃ逃げられるっスね。キースさん、フォローお願いしますね」
「クリシュナ?」
 一声かけた後、クリシュナがスピードを上げる。
 森の中は得意な方だ。

 シャクティのファイヤーバードがフォレストドラゴンを着実に弱らせる。
「わたくしは僧侶だというのに‥‥」
 何故か本人は不満のようだが。
「ちぃっ、観客がドラゴンのみというのもまた張り合いのない‥‥!」
 こちらはまた別の理由からか不調を訴えている。
 そのマスクに一撃を加えようとしたドラゴンの尾が見当違いの方向に逸れる。
「イリュージョン、効きました‥‥! 今です、マスクさん‥‥!」
「ナイスであるぞ、スゥ嬢!」
 意識の逸れたドラゴンにマスクは自慢のサムライブレードを振りかぶる。
「超・必殺ァ!! アフロ・ダイナミック・トウゥゥウ! ぶるわァァァっ!! 」

「捕まえまし‥‥きゃっ!」
 追いつくクリシュナを全力で蹴り飛ばすダリウス。当然だが容赦ない。
 そしてこれも当然ながら、ウィザードのクリシュナにレンジャーのダリウスを捕らえることは不可能に近い。
「お、大人しくしないと目からビーム――」
 殴られる。
 相手が冗談が通じない事は明白だ。
 そして二度と追えないように剣を抜く。

「――そこまでだ」

 走った勢いそのままにキースがダリウスの顎を殴り抜けた。

「コンビネーションの勝利であるな、スゥ嬢」
 マスクにこくこくと頷くエヴァリィ。
「どうやらあちらも片付いたようですね」
 シャクティの指差す先にはクリシュナとキース、それと捕縛された冒険者・ダリウスが――。

●罪の果て
 一同の面差しは暗い。
 犯人が冒険者である可能性を聞いてはいたが、実際に見ると何ともいえない気分になる。
「どうしてこのようなことを‥‥」
 だがダリウスはシャクティの言葉に答える代わりにドラゴンの亡骸を見る。
「殺したのか‥‥グレゴリーを‥‥」
 その表情には悔恨と憐憫が。
「こいつは俺の命令を聞いていただけだ。元々人を襲う種族なんかじゃない。なにも殺さなくても‥‥」
 次の瞬間、拘束された彼の身体が吹き飛ぶ。
 キースが殴ったのだという事に気付くまで彼を含め周りの人間も時間を要した。
「ふざけるな。その大人しいドラゴンをけしかけたのは誰だ? 僕らは彼を殺さなければならないと判断した。そうさせたのは誰だ? そして彼を前に立てて逃げ出したのはどこの誰だ?」
 キースは怒っていた。
 ダリウスは負け惜しみや責任転嫁でキース達を責めているのではない。
 本気で自分の魔獣を哀れんでいた。
 だから許せなかった。
 彼の心の弱さが。
「お、俺じゃない」
 だがこれは責任転嫁だろう。
「カオスの魔物の仕業だ! 奴に唆されたんだ! 魔獣は人を襲うべきだって! それが本来の姿でグレゴリーもその方が幸せだって!」
「――で、まさかそれを本気で信じた訳か? お前が愚かなのは否定しないがそこまで愚鈍か」
 冷ややかな目で追及するサイクザエラ。
「違うだろう。奴らは人の心の弱さを突く。それはお前が望んでいた事だ。お前がグレゴリーをそう仕向けたかったんだよ。歪んだ欲求の為に。カオスの魔物もそう言ってたんじゃないのか?」
「サイクザエラさん‥‥」
 シャクティが止める。それ以上は言わなくていいと。
 静寂した場にふとリュートの音が響く。

 天より来たりし騎士の王 瞼の裏に浮かぶのは

 天にそびえし彼の国 戻らぬ覚悟は固めていても

 安らぎの中かの国想う 戦いの中かの国背負う

 澄んだ声でエヴァリィが唄う。
 それはアトランティスを救った勇者の歌。
 彼がその勇者と同郷であることは相棒がそうだったのでわかる。
 吟遊詩人の勝手に作り上げた想像にしか過ぎないが、勇者が故郷を想い、それでも強くこの国を守らんとする気高さと――そして慈愛の歌。
 エヴァリィはメロディーにその想いを込めた。
 せめて彼が少しでも昔の心を思い出してくれれば、と。

●悪は誰?
 帰途にてエヴァリィはクリシュナから保存食を一食分けて貰っていた。
「‥‥ありがとうございます」
「お気になさらず。幌に篭らなくていいので気分爽快です」
 それが空元気だとしても、今だけは二人の微笑ましいやりとりに流されようと周囲も気遣う。


 ダリウス・ブレアは冒険者ギルドに引き渡された。
「今回の事件はモンスターの仕業ということで解決しておく。君達も他言無用で頼む」
「釈然としないっスね〜」
 とはいうクリシュナも強くは言えない。
 彼の処遇を内密に済ませる事でギルドはおそらく役人に借りを作る形になった。
 そういう意味で今回の事件で一番ワリを食ったのは冒険者ギルドの方なのだ。
「ギルドの方針を見直してみては?」
 他人事ではないと案ずるキースにギルド員は静かに首を振る。
「冒険者ギルドというのは天界人の寄る辺であると同時に、あぶれ者の最後の受け皿であるべきなんだ。
 ハーフエルフや元奴隷、いや、そもそも異邦の者であるというだけで世間の目は厳しい。冒険者以外の職には就けないという者も多いだろう。
 だから冒険者達にあまり口出しをする訳にはいかない。どんなに気を付けても、締め付ければ無実で追い出される者が出てしまう」
「だがそのせいでダリウスのような人間が出てきてしまう事も事実だ」
「それは、君達に後始末をしてもらうとしか言えない。申し訳ないが」
 自腹で報酬まで出しているギルドに頭を下げられてはキースも引き下がるを得ない。
「‥‥まあ、確かにね。生きていく以上、自分の行動は自分にしか背負えませんから」
 クリシュナの言葉にキースも溜息混じりの苦笑で応えた。

「しかしカオスの魔物‥‥最近増えているようですが、冒険者を唆すとは‥‥」
 結局カオスの魔物についてはダリウスの証言のみとなり、最後まで姿を現すことはなかった。
 証言を纏めると『山羊を連れた者』と呼ばれる魔物らしい。
 人に罪を犯させ、それを暴く事を愉しみとする山羊の角を生やしたカオス。
「いずれまた事件を起こすかもしれない。後手に回るのは無念ではあるが、その時は頼む」
 ギルド員の言葉にシャクティ含め、その場の皆が頷いた。


「やれやれ、歯ごたえなさ過ぎてつまらなかったね」
 『山羊を連れた者』は森の中人間達を罵る。
 助太刀をすればダリウスを逃がすことは出来たかもしれない。
 だがそれは彼の流儀ではない。
 人間はあくまで自分の力と意思で堕ちて貰わないといけない。
 彼はただ囁くだけ。
「ま、次の玩具を見つければいいだけでショ」
 誰ともなく呟き、カオスの魔物は闇へと消えた。