【黙示録】悪の領域

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 47 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月21日〜04月29日

リプレイ公開日:2009年04月29日

●オープニング

「ダリウスのドラゴンの入手先がわかった」
 一月ほど前に、ドラゴンを使って旅人を襲わせていた罪で捕まったダリウス・ブレア。
 飼っていたドラゴンをどこで手に入れたのかを取り調べていたが。
「貴族・商人専門の裏の業者らしい。まだ尻尾は掴めてはいない。取引相手が相手だと調査も慎重になってしまうからな」
 アトランティスの救世主、天界人の受け皿として存在意義を確立している冒険者ギルドではあるが、組織力、権力においては流石に貴族や有力商人には及ぶべくもない。
 俗な言い方をするなら、救世主よりも支配階級である。
「裏って事は‥‥違法なんですよね?」
「だな。未確認情報だが随分と良くないものを扱っているらしい。
 ダリウスのドラゴンなど可愛いものさ。アレが人を襲ったのはダリウスの指示だからな。中には初めから人を襲う類の魔獣も売買されているとか」
 危険な魔獣の調教は場馴れした冒険者でもなければプロの調教師の力が必要だろう。
 もちろんそれをするつもりなら初めから調教済みの魔獣を買う筈だ。
「なんでわざわざそんな危なっかしいものを‥‥警護に使うにしたって――」
「危なっかしいから欲しいんだろう。ダリウスの事件なんて子供の悪戯ってレベルの御趣味のよろしい連中が揃っているらしいな」
 高い金を払って危険なものを見たがる感性はギルド員達には到底理解できない。
 危険に自ら飛び込むという意味では冒険者達にも通ずる部分ではあるが、彼らのそれは少し違う気がした。

「――で、業者の方は依然調査中なんだが、動向の方はわかった」
「業者が掴めていないのに、ですか?」
「簡単なことだ。ここから三日ほど離れた森に精霊を見つけたという話があってな――」
 相手が見えなくとも、相手の望むものがわかっているのなら先回りすればいい。
「では、今回の依頼は精霊の保護を――」
「ああ、だが気をつけるように言っておけ。精霊からすれば業者の手の者も冒険者達も変わらず侵入者だからな。
 こちらとしては敵の尻尾を掴む事さえ出来れば文句はないんだが、後味が悪いだろう? その、精霊に危害を加える様な真似をしてしまっては」
 守る側から信頼を得る事も考えなければいけないようだ。
「それと、ダリウスの言っていたカオスの魔物だが――どうやら業者と関係があるかもしれない。そっちにも気をつけろ」
 取り調べによるとドラゴンを買った直後からそのカオスに取りつかれたらしい。
 事情を良く知っていて、ダリウスの知らないドラゴンについての知識まで世話をしてくれたそうだ。
 そして、悪事も唆し――。
「人間の闇業者とカオスの魔物が、ですか?」
「珍しい話でもないだろう。奴らは人間の悪事が大好きだ」


 メイディアから少し離れたとある森に向かう冒険者達。
 その森で精霊を見たという情報を手に入れた。
 依頼を受けた冒険者達は件の森へと歩を進める。
 ――ただし、依頼を受けたのは冒険者ギルドではない。

「気をつけろよ。目的は捕らえる事だ。傷つけたりすれば売り物にならないからな」
「結構難しいわね。一応交渉から入ってみるといいかも」
「その辺は専門職に任せる。攻撃魔法は控えてくれよ」

「応援してるヨ。無垢な精霊を頑張って捕まえてくれたまえ」

 冒険者達の中に一人だけ明らかな異形がいる。
 傍らに山羊をつれている体格のいい男。
 動物を連れて歩く冒険者はいるが、頭から生えている山羊の角は――。
「何もしないなら黙っていろ! ていうかついて来るな!」
 戦士風の冒険者が苛ついた声で山羊角の男を嗜める。
「それは出来ないネ。僕は君達の主のトモダチだよ?」
 忌々しそうに睨みながらも冒険者達は黙らざるを得ない。

 カオスの魔物。
 この男の存在が彼らにとっての重しとなっていた。
 彼らは今、自分達が冒険者として外れた行いをしているのはわかっている。
 だが、手を切れない理由がある。
 今の雇い主は手を切った自分達にまでは干渉はするまい。下手に動けば足がつく。
 しかし、こいつは別だ。
 こいつは弱みを握ってしまっている。
 自分達がこいつと――カオスの魔物と協力してしまったという事実を。
 罪が明るみに出れば捕まるしかない。
 そうならなかったとしても、カオスの魔物と手を結んだという事実はまともに生きていく選択肢を失くしてしまう。
 そう、こいつさえいなければ――。

「違うダロ? 僕が悪いのカイ? そうだったとしても――、
 だったら君らは悪くないのかな?」

●今回の参加者

 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アマツ・オオトリ(ea1842

●リプレイ本文

●冒険者として
「はあ‥‥」
「ん、どうした? 調子でも悪いのか?」
「いえねえ、憂鬱で。なんというか‥‥わたくしたちは体のいい道具な気がしてきましたというか‥‥」
 いつになく沈んだ様子のクリシュナ・パラハ(ea1850)
「‥‥そういうからには訳があるんだろうが‥‥ダリウスの事か?」
「冒険者が道を踏み外してもわたくしたちには何も出来ないんですよねぇ‥‥」
 同業者の堕ちた様を見せつけられたクリシュナは気が重い。
 だが、
「ああ、我々には何も出来ないしするべきじゃない。道具というなら我々こそ道具さ」
 それは冒険者ギルドとしての発言なのだろう。
「ギルドと役所で違う所。ギルドは冒険者に『命令』しない。役所は命令に従わねばならんがな。
 道具なんかではないからこそいい奴も悪い奴も出てくる。それは本人達の責任だ。お前達が気に病む事じゃない。
 法も道徳も異なる天界人達を道具になんか出来んのさ」
 ギルド員の説明にはジ・アースからやって来たクリシュナ達も含まれるのだろう。
 チキュウよりはアトランティスに近いものの、それでも文化は大きく異なる。
「今回の依頼もそうだ。受けるも受けないもお前達の自由。ま、だが引き受けたからには達成して貰わないと困るな」
 年の頃30半ばのギルド員は実年齢でいえばクリシュナよりも下であろうが、彼女を元気付けるべく笑う。
「我々もやれるだけやってみるさ。道具は道具で立派でなければ捨てられるだけだ」

●森へ
 目的地の森に向かう二つの騎影。
 馬にはそれぞれ二人の冒険者達が乗り、進路を急いでいた。
「時々思うんだが、魔物がいるから人は悪事をするのか、人が悪事をするから魔物が寄ってくるのか、どっちなのかね?」
 サイクザエラ・マイ(ec4873)は皮肉げに呟く。
 前回の事件から裏にカオスの魔物の存在を感じてはいるものの、誑かされた対象の中に冒険者が含まれている事が原因だろう。
「今、それを言っても仕方あるまい。ちなみに僕は両方だと思うがね」
 と、ファニー・ザ・ジェスター(eb2892)を背に愛馬ハリケーンを走らせるキース・レッド(ea3475)。
 耳はいいようで、かなり早めに走らせている馬に乗りながら、クロック・ランベリー(eb3776)の馬に同乗しているサイクザエラの声を聞き取っている。
 サイクザエラはクロックに前回の事件の概要を説明しているところだった。
「ほんで? 向こうの話はいいからこっちさ説明して欲しいだよ」
 クラウンメイクでハーフエルフである事を隠しているファニーがキースに説明の続きを求める。
 今回向かうのは人気のほとんどない森なのでハーフエルフである事を隠す必要は正直あまりないのだが、冒険者としての習慣というやつか。クレリックであるファニーには人と触れ合う機会も少なくないのだろう。
 カオスの魔物は彼の仕える神の教義で禁忌とされている存在に非常に近い。自然に依頼に対する姿勢にも熱が入る。
「んだば、また冒険者が敵に回るっつう可能性もありえんべか?」
「否定は出来ない。ダリウスも業者と懇意だったようだからな。まあ、彼の犯行自体は業者とは関係のないものだったが」
「同業さ捕まえるつうんも気の進まん話だな」
「‥‥クリシュナも気にしていたようだよ」


 冒険者四人に先行して空を行く竜。
 セイル・ファースト(eb8642)のムーンドラゴン、オードだ。背にはクリシュナを乗せている。
「間に合うといいんですが‥‥」
「その為に先行してるんだろ? やれるだけはやるさ」
 目的の森へは二日弱で辿り着いた。
 キースとクロックが馬を急がせている事を差し引いても半日以上のアドバンテージだ。
「敵より先に精霊を見つけたいところですね」
「ああ、――と、こいつは流石に入れないか。警戒を解くには悪くないんだが」
 オードにイーグルドラゴンと共に待機を命じる。
 空から探すという手もなくはなかったが、セイルの視力をもってしても上空から森の中の精霊を見つけ出せる可能性はあまり高くない。
「そもそも精霊ってだけで種類すらよくわかってないしな」
 一般には精霊の種別など分けられてはいない。最悪『精霊のような姿をしたモンスター』という可能性もあるのだ。
「それでも何かいるのは確かなんだろう。森での案内頼むぜ、クリシュナ」

●精霊探索
 インフラビジョンを使いながら探索を進めるクリシュナ。
「無理はするなよ」
 セイルの心配も無理はない。インフラビジョンの効果時間はさほど長くはない。もって数時間、そうなれば魔法を使う精神力は残らない。
 本来は限定された場所の探索や索敵などに使うもので、広範囲の探し物には向いていない。
「しますよ、無理。先を越されたくないっスからね」
 額の汗を拭いながらクリシュナは捜索を続ける。
 前回の依頼からの因縁か、
 精霊を食い物にする闇業者への怒りか、
 冒険者仲間の裏切りに対する悲しみか、
 あるいはそれらの全てか。

 四人の冒険者が森の入口に差し掛かる。
 セイルのドラゴンが目印として待機していた。
「二人は‥‥まだのようだな」
 愛馬ユリアを止めて森の奥を見やるクロック。
「入り過ぎてはいないだろうな‥‥」
「ここで二人を待とう。今入ったら合流する術がないからね」

 二時間ほどして、クリシュナとセイルの二人が森から姿を現した。
「時間がかかったな」
 待たされた事自体に問題はないが、何かあったのかと問うサイクザエラ。
 疲れを隠さないクリシュナに代わってセイルが答える。
「精霊は見つかった。とりあえず警戒をして貰っている。手筈どおりもう一度向かうから来てくれ」
「――つう事は向こうは」
「まだ来ていない。急ごう、頼むキース」
「了解した。ゼピュロス、危険な役割だけど、よろしくな」
 キースは傍らのジニールに声をかけた。


 セイル、クリシュナの見立て通り、まだ闇業者の手の者達は森には着いていなかった。
 彼らには自分達より先に精霊を探している者がいるという認識はない。
 精々が『もたもたしていれば誰かに先に見つかるかも』といった程度の曖昧なものだ。
「‥‥ちっ、結局『あいつ』は来ねえのかよ」
「むしろその方が助かる。『あいつ』といるところを誰かに見られる方が精霊探しより気を遣うからな」
 笑えない冗談だ。レンジャーの男の言葉に周囲が口を噤む。
「――第一、『あいつ』も俺達にばかりは構ってはいられないだろうさ」


『お前達が私を守るというの?』
 森に棲む水の精フィディエルに交渉する。セイルが先に話を通してはいるものの、フィディエルの疑念は晴れない。
「『この森に精霊が棲む』僕達の聞きつけた噂ではそうなっている。おそらくは敵も同じだろう。だから――」
 キースの背後から風の精ジニールが姿を現す。フィディエルに対して友好的でもなければ敵対的でもない。
 同族ではあるがそれ以上の感情はないといった風。これが多くの精霊に共通した認識なのだろう。人間ほど積極的な他者との交流はない。
 だが、キースにだけは違っていた。友としてか主としてか、彼には信頼を示しているようで。
「彼女、ゼピュロスに囮になって貰う。ゼピュロスが姿を現せば、それがこの森の精霊だと判断するだろう」
『危険はないって言うからよ? きちんと守ってよね』
 当の本人はあまり乗り気ではない様だがしぶしぶとはいえ了承は得たようだ。
『何故‥‥そこまでするの? 私を捕らえたいのならそうすればいい。抵抗するだけ無駄なのはわかっている』
「そっただ事しねえだよ!」
 心外だとばかりにファニーは否定する。
「人間が全部邪な心さ持った奴と思わんで欲しい。少なくともミーはユーを本当に守りたいと思ってるべさ。神に誓う」
 正確にはファニーは人間ではないが、それは隠しておくことにした。精霊の場合、ハーフエルフ等に対する偏見を持たないことも多いが、並の人間を上回る怖れもあるからだ。
「警戒するのも尤もだ。だけどあんた、俺達を信用してくれたんだろ? 信じてないんだったら俺達が仲間呼びに行ってる間に逃げちまう事だって出来たんだからな」
 セイルの言っていることは的外れでもない。正直、その可能性を懸念してはいた。それでも二人で場を離れたのは、クリシュナが疲れていたというのもあるが、
『それは――だって、そいつがあんまり大変そうだったから‥‥さ』
 バツが悪そうなフィディエル。だがそれは裏を返せばクリシュナに好意的だったという事で。
「俺もドラゴンを相棒に連れていてな」
『ちょっと、あんな野蛮なのと一緒にしないでよ!』
 大人しいドラゴンに大変失礼な言い分だったが、セイルは聞き流す事にした。どうせこの場にいないし。
「だからって訳じゃないが、魔獣や精霊を食い物にする連中ってのはちょっと見逃しちゃおけない。
 あんたを守るなんて偉そうな事言う訳じゃないさ。悪い奴らを捕まえる為に、ちょっとばかり協力しちゃくれないか?」
『――――。‥‥仕方ないわね』
 プライドの高い精霊をその気にさせる事には成功したようだ。

●堕ちた冒険者
「そっちに行ったぞ! 捕まえろ!」
 計画通り、ゼピュロスを追う男達。
 逃げるゼピュロスの傍で爆発が起きる。
『きゃっ!』
「おい、魔法は‥‥!」
「威嚇よ! ――でも、あんまりチョロチョロ逃げるのなら当てるかもね!」
 女魔法使いがゼピュロスに聞かせる様に叫ぶ。
 追われる方からすれば、『商品に傷をつける訳がない』などとは開き直れない。実際、荒っぽい業者は確かにいる。
『――もう、傷ついたらパートナー解消だからね!』
 それが聞こえたかはわからないが、
 ゼピュロスを捕らえようとするレンジャーの男をかまいたちが切り裂いた。
「!?」
 森の影から再度剣閃が。ゼピュロスを巻き込まないよう周りの人間達に襲い掛かる。
「くっ、誰だ!?」
 戦士風の男が木陰を斬りつける。
 その剣を、先程ソニックブームを放った小太刀で受け止めるクロック。
「冒険者!?」
「お前達も――だろう?」
「――――!!」
 クロックの一言に顔色を変える男達。全部で五人。
「図星か」
「!! カマかけやがったか‥‥!」
「そうでなくともわかるよ。そっちのファイター、エドワルド氏だったか? ギルドで見かけた覚えがある」
 別の方向からキースが姿を現し、
「本当に同業みたいだな。馬鹿な真似しやがって」
 さらに別の方向からセイル。
 そこまでくれば五人の冒険者達も気付く。
「――ハメられた!」
 既に三人が退路を塞いでいた。
『キース、戦いまでは手伝わないからね』
「ああ、充分だ。人数も戦況も負けていない」
「では行かせてもらうか。魔力が有り余っているのでな」
 敵を探すのに探知魔法を使う案は見送りとなった。
 インフラビジョンだけでも三時間程しかもたない。その間に敵を発見できる保障がないからだ。
 現にクリシュナはフィディエルを見つけ出したが、消耗し、戦える状態には遠い。
 同様の理由からファニーのグッドラックも温存された。
 だがその分、二人は充分に魔法を温存させている。
 サイクザエラが女魔法使いのお株を奪うファイヤーボムを解き放った。
「うわぁっ!!」
 深緑の森が爆炎に晒される。
 精霊はいい顔はしないだろうがこの際仕方ないとサイクザエラは判断。
(「後始末はつける。この無法者共に森を荒らされるよりは百倍マシだろう」)
 怯んだ敵冒険者達にセイルとクロックが斬りかかる。
 同時にファニーがホーリーフィールドを展開。
 キースは一歩引き、ファニー、クリシュナ、サイクザエラ、そしてゼピュロスとフィディエルを守る形をとっていた。
 セイルは高速詠唱でオーラエリベイションを使い、重量を乗せたゲイボルクの一撃をファイターの男に見舞う。
「がは‥‥ッ!!」
 容赦のないスマッシュが男の身体を木の幹に叩きつけた。
 遅れて、オーラエリベイションをかけたクロックのソードボンバーが固まっていた敵冒険者達を薙ぐ。
「くそっ、離れろ! 固まってたらやられる!」
 無事なもう一人のファイターが指示を出すが、一度囲まれた陣形を崩すのは容易ではない。
 もたついている間にサイクザエラの二発目が完成する。
 セイルがバーストでもう一人の剣を叩き折り、戦闘は一方的に終了した。

●背後に潜む闇
「‥‥今回お役に立てなかったっスね」
「そげな事なかんべ。ユーが精霊さんを見つけてくんなかったらもっとめんどくさい事になってただ」
 ファニーの言っているのは世辞でもなく事実である。戦闘自体は他の面子で充分勝利出来たのだから、クリシュナの行動は適切だった。やや魔力を使い過ぎた事もまた事実だったが。
「――なんでこんな事をしたか、聞いてもいいっスか?」
 聞いたところでどうなるものでもないかもしれない。キースは情が移るのを避けてか、話す事自体乗り気ではないようだ。
 捕らえられた五人は口を閉ざしている。
「カオスの魔物に唆された――か?」
「!!」
 サイクザエラの言葉に反応する。
「わかりやすい。隠し事が苦手らしいな、貴様らは」
 確証があった訳ではないが、少し前に受けた依頼でサイクザエラはカオスの魔物に唆された冒険者と遭っている。
 そしてそいつの関わっていた業者と彼らの依頼人が同じである可能性がある以上、推測としては順当だ。
「悪い事は全て魔物のせいか? そいつに責任を押し付けて貴様らはどれだけの精霊を売り飛ばしてきたのだ?」
 冒険者、いや元冒険者達は言い返さない。言い返す術もない。
 前の犯人――ダリウスと違い、彼らは集団で悪事を行ってきた。良くも悪くもダリウスよりは冷静さを持っている。
 だからこそわかっているのだろう。自分達が言い訳のしようもなく悪事に手を染めてしまった事を。
 いや、彼らからすれば精霊の売り買いですら悪戯にしか過ぎない。最も恐ろしい『それ』に比べれば――、
「よせ、サイクザエラ。裁きは役人達の仕事だ」
 セイルがそれ以上の追及を止める。
「あんたらを許す事は出来ない。けど、それでもやり直したいのなら後はあんた達次第だ。
 その気があるのなら教えてくれ。どうしてこんな事をしたのかを」
 冒険者は決して儲かる職業という訳ではないが、ギルドからの依頼によってある程度の安定は保障される。
 食うに困って悪事に手を染める確率はそれほど高いという訳でもない。そこらのごろつきの方がよっぽどこういう仕事は向いている筈だろう。
「カオスの魔物に出会ったのか? いつだ? どこで出会った?」
 セイルの詰問に元冒険者達は答えない。
「‥‥知らん。そんな奴俺達は知らない」
「なら闇業者とは?」
 キースの問いにも口を噤んだままだった。
「口を割りそうもないな」
 義理堅いという訳ではないだろう。口封じを怖れているのか。
「仕方ない。街まで連れて行こう。俺の馬とセイルの竜に乗せていくか」
 帰還を促すクロック。

 それが五人の姿を見た最後だった。