冒険者達のおせっかい
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■ショートシナリオ
担当:冬斗
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 22 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月13日〜01月23日
リプレイ公開日:2008年01月26日
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●オープニング
――ある山村。
モンスターの被害に遭っていた村は冒険者達の活躍により平穏を取り戻す事が出来た。
村人達はささやかな宴を開き、冒険者達に感謝の意を贈る。
その晩。
「熱が下がらない!?」
宴の最中駆け込んできた若者の名はマルコ。
村長の娘婿でギルドに依頼に来た当人。
冒険者達を村に案内をしたのも彼である。
そういえば今日は姿が見えなかったような。
「ルミナのやつ‥‥昨夜から体調が悪くて‥‥一日休ませてたんだけど‥‥熱が下がらなくって‥‥どんどん酷くなっていって‥‥!!」
ルミナとは村長の娘、マルコの妻だ。
確かに彼女も姿が見えなかった。村に来た時には冒険者達と挨拶をしたのに。
傍から見ていてもマルコが狼狽しているのがわかる。
「医者には見せたのか?」
「見せたよ! そうしたら薬が必要だって‥‥!
高い薬‥‥街に行かなきゃ売ってないんだ‥‥!」
山の中腹にある山村。
麓の街からこの村に辿り着くのに歩きで四日かかった。
彼女の容態は急を要し、安静にして一日半。
動かすともなれば期間は短くなるだろう。
「申し訳ない、皆様方。
出せる報酬はもうほとんどないのですが‥‥」
村長は冒険者に依頼する。
いや、ギルドを介していなく、報酬もないそれはただの頼みごとでしかないかもしれない。
近道があるという。
それを使えば歩いて二日とかからずに街まで辿り着ける。
ただし、そこにはゴブリンの縄張りがあるとか。
地形や距離の問題から、村には滅多に手を出しては来ず、依頼にもゴブリン討伐は含まれてはいなかった。
回り道は困りはするが、切羽詰った問題でもなかった。
今までは。
突然背負わされた若い命。
お人好しな冒険者らは山を下る。
【追記】
ルミナは高熱で発汗が激しく、こまめに水分を摂らせないと脱水症状を起こし危険。
本人は衰弱が激しく、自分では水筒も持てないだろう。
●リプレイ本文
●救える命、救いたい命
夜が更け、村人達は寝静まる時間。
だが、まだ明かりは消えておらず、喧騒は止まない。
「ミハイルさん、担架はこれで良いのですか!?」
村人達の協力の下、即席の担架を作るルイス・マリスカル(ea3063)。
馬車が使えるならば良かったのだが、生憎と馬車を使うほどの仕事は村にはない。
また、急な坂道などもあるとの理由から馬での運搬は断念した。
「担架で二人‥‥護衛が一人か‥‥楽ではありませんね‥‥」
4人で受けた依頼だったが、戦闘で一人が負傷してしまった。
病人の容態を考えるとペースを落とす訳にもいかず、3人での決行となった。
「バックパックは全て馬に持たせましょう。シルビアさん、護衛とルミナさんの看護お願いします!」
「わかりました。代わってあげられたらいいのですが‥‥ここはお任せした方がいいですね」
エルフで女であるシルビア・オルテーンシア(eb8174)は他の2人程体力には自信がない。
それに患者の面倒を看るのも同性である彼女の方がなにかと都合が良いだろう。
(「冒険者としてではなく、ここからはメイ国民を守る騎士として、
それ以前に個人、シルビア・オルテーンシアとして協力させていただきます」)
そう誓う彼女は男2人に負けず、頼もしかった。
そして――、
「準備は出来たか。ああ、担架はこれでいい。シルビア、村医者に解熱剤を貰った。水と一緒に与えてくれ」
指示を出しているのはミハイル・バラキレフ(eb4694)。
出発ギリギリまで寝かせていた患者を担架に乗せ、シルビアに荷物を渡す。
この地に来る前までは軍医をやっていたらしい。
知識量もさることながら、堂々とした振る舞いは踏んでいる場数も並ではない事を示していた。
「急ぎで丸一日、ほぼ休み無しで山を降ります。大丈夫ですか?」
仲間を案ずるルイス。
自分一人の体力になら自信はあるが、だからといって一人で抱えて山を降りる訳にもいかない。
担架で運ぶミハイルの案自体には間違いないのだが――。
「私より患者の心配をしろ。依頼を受けた冒険者が仲間の身を案ずるな」
強がりである事には違いない。
が、その一言でルイスはミハイルを心配するのをやめた。
●護りながらの戦い
ルミナの峠が一日半という看立てはミハイルの目からも間違いはなかった。
ルイスのアルミシェルフの中に毛布を入れ、体温の低下を防ぐが、それでも一日。
それ以上はかけられないというのが目算だ。
「子はいるのか?」
ミハイルがルミナに話しかける。
一目見ればわかるが身重ではない。
だからこれは『家に子は待っているのか』という意味だろう。
ルミナは首を振る。
「なら主人を独りにするな。必ず無事村に帰れ」
淡々と、しかし力強く話しかける。
「父親に対してもだ。
生きて帰って立派な孫を見せてやれ」
慇懃な語気からも優しさが滲む。
彼女が街までもつかは冒険者の腕と、彼女の気力次第。
「大丈夫ですか、ミハイルさん!?」
ルイスの心配をミハイルは目で制する。
無駄口をきく余裕もないのだろう。
無理もない。担架で二人がかりとはいえ、人一人抱え山道を丸一日休み無しで駆け降りるなど並の業ではない。
既に半日が過ぎている。
ミハイルとて並ならぬ体力を持ち合わせているが、それでも限界、
ルイスの超人的な筋力と持久力が唯一それを可能としていた。
ローテーションを組むなら負担も減るだろうが‥‥、
「―――」
出来れば代わってやりたい想いをシルビアは呑み込む。
自分の体力ではかえって足手纏いになるだけだ。
それに――。
「!!」
いち早く気付いたのはシルビアだった。
そう、こういう時の為にも自分まで潰れる訳にはいかない。
「敵です!」
即座にショートボウに矢をつがえ、木陰に放つ。
耳障りな悲鳴。
「ゴブリンか!!」
マインゴーシュを抜き、ルミナを庇うように構えるルイス。
「ミハイルさんは自分の身だけを護って下さい! 無茶はしないで!」
ここでミハイルに抜けられる訳にはいかない。
街まではまだ遠いし、なにより医者がいなくてはルミナの容態が看られない。
「――フッ!!」
華麗に、力強く短剣を振りかざし、ゴブリン達を迎撃する。
ルイスの剣は背後とて死角はない。
「危ない――!!」
シルビアの矢がゴブリンの弓兵を射抜いた。
襲い掛かる敵にはルイス、遠くからの敵にはシルビア。
「助かりましたよ、シルビアさん。しかし――」
ゴブリンの数は4人を充分に包囲できる程。
そして戦えるのはたったの二人。
「――こんなにゴブリンが手強いと感じたのは冒険を始めた頃以来ですかね‥‥」
「同感です。のんびりもしていられませんし――ッ!!」
二人の隙を突き、ゴブリンが無防備なルミナを襲う。
シルビアは矢を番えるが間に合わない。
だが、ゴブリンの凶刃がルミナを襲う直前、
黒い影がゴブリンを突き飛ばす。
「カヴァッロ!!」
シルビアのウォーホース、カヴァッロが前脚でゴブリンを踏み潰す。
同時にルイスの愛馬もゴブリンの包囲網を蹴散らし始めた。
今まで膝をついていたミハイルがルミナを抱える。
「いくぞ! 走れ!!」
馬達の切り開く道を力の限り疾走する。
当然、それを逃すゴブリン達ではない。
背後からミハイルに斬りかかろうとするが、それをルイスが身体を張って受け止める。
ミハイルは振り返りもしない。
ルミナが自分の命運をミハイルに預けているように、
彼も自分達の安全を仲間二人に託していた。
シルビアが援護の矢をゴブリン達に放つ。
「このまま抜ける! 頼んだぞ!」
あれしきの休憩で体力が戻る筈もない。
だが、それでも身体に鞭打ちミハイルは走る。
「シルビアさん、二人を頼みます!」
三人を逃がす為、ルイスは愛馬と共にゴブリン達の前に立ち塞がった。
●まだ倒れる訳にはいかないから
「――大丈夫ですか?」
ルミナに特製のドリンクを与えながらシルビアは話しかける。
意識の朦朧とした患者には返事がなくともとにかく話しかけろ、とミハイルの助言に従って。
実際返事はない。
意識はまだあるようだが口を利く力はないようだ。
尤もそれはミハイルの方も同じ。
唯一自分だけがマシな状態だったが、それでも体力の弱いエルフの女が山道を戦いながら駆け降りたのだ。
空元気を見せているのが精一杯だった。
それでもつい聞いてしまう。
「あとどのくらいですか?」
「‥‥ペースから考えれば8割下ったろう。‥‥日があるならもう少し正確にわかったのだがな‥‥」
輝く空に、息も絶え絶えに皮肉るミハイル。
正直に言えばまだ7割というところだが、ルミナも聞いているかもしれない。あえて少なめに答えた。
「――なら、あと少しですね」
木々を分けてルイスが姿を現す。
あまり鍛えてはいなかった山の土地勘だったが、ないよりはマシだったようだ。少なくとも合流はできたのだから。
「ルイスさん、無事でしたか」
「お陰様で。
ミハイルさん、馬を使って休んでください。ルミナさんは私が受け持ちます」
ルイスの提案を、しかしミハイルは静かに拒否した。
「お前がルミナを背負えば戦闘に全く対応出来なくなる。
――それに少しは休めた」
汗すらひいていない状態で。
「貴方も見かけによらず強情ですね」
「救える命は救う、それが医者だ。
それだけだ」
息を切らせながら強がるミハイルに半ば呆れながらも、
「仕方ないですね。では今までどおりに二人で」
と愛馬から担架を。
何のことはない。
結局は彼もミハイルがそう言うであろうことはわかっていただけの事で。
●報酬は笑顔で
「メイ騎士のシルビア・オルテーンシアです! 病人を搬送しています、すぐに通してください!」
シルビアがいたのが幸いし、関門は殆ど足止めをくらう事もなく抜けられた。
夜中、順番を待たずに済んだ事も幸運だったろう。
医者を叩き起こし、ミハイルが処方箋と共に容態を説明する。
一通りの事情を伝えたところでミハイルは糸が切れたように倒れ伏した。
「患者が二人に増えましたね」
冗談めかしたシルビアの方も倒れないのが不思議な程だ。
繰り返すが、山道を丸一日ただ駆け降りるだけでも常人にとっては信じ難い無茶なのだ。
「追加報酬はないですが、いい気分です」
満足げに笑みを浮かべるルイスに、
「では、もう一つだけ無報酬で。
私達の寝床とお医者様にお礼を言っておいてください。
私ももう‥‥限界‥‥」
とて、と倒れる細い身体。
考えてみればゴブリン達の襲撃には彼女に任せきりだった。
精神的に最も疲労したのは彼女かもしれない。
「‥‥みんなして仲良く‥‥ずるいですね、私だけ除け者ですか」
ルミナとミハイルを看護する医者に、もう一人だけ頼む事になりそうだ。