神魔聖邪戦記フォーチュンオブデスティニー

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月30日〜05月05日

リプレイ公開日:2009年05月10日

●オープニング

 空も暗く、人もまばらになってきた冒険者ギルドの一角で、その男は現れた。
 何もない空間から現れた男は、比較的目立つ服装の冒険者達よりさらに奇抜な服装をしている。
 その場の皆が男に気がつき、驚きの視線を向ける。
 驚いてはいた。
 だがその驚きはどこか新鮮味に欠け、
『少し珍しいものを見たな』というような。
 男は天界人だった。

「ここは‥‥」
 男は辺りを見回す。
 こういう光景にギルド員は初めてではない。
 天界人の保護が彼らの仕事の一つだ。
 だからこれからする事も決まっている。
「ようこそ、アトランティスへ。まずは落ち着いて聞いてくれ、天界人」
 完全な未知の体験に戸惑わない天界人はまずいない。
 新たなる来訪者にもてなしの意を込めてギルド員は接するが――、

「アトランティス?」
 その男は、
「ここはアトランティスなのか?」
 どこか様子が違っていた。

 今、この男は間違いなく何もない空間から現れた。
 格好といい、チキュウという名の天界から来た天界人である事には間違いない。
 そして、ジ・アースとの月道は繋がったものの、未だチキュウに帰った天界人というのは聞いたことがない。
 いや、それともギルド員が知らないだけなのか?
「――今は何年だ?」
 驚くほど落ち着いた、そして神妙な面持ちで男は尋ねた。
「‥‥精霊暦1042年だが――」
「精霊暦‥‥だと‥‥!?」
 そこで初めて男は驚きを見せた。
 誰にともなく男は呟き続ける。
「――ということは少なくとも千年以上の月日が経っている‥‥クッ、流石の俺も時間ばかりは操りようがない。時の標を破壊したのはまさかこの為か、シャリーフォードめ‥‥!
 おい、アンタ。今の国王の名は?」
「メ、メイのか? アリオ・ステライド王だが‥‥」
「ステライドだと!? おのれ、そうかカールフォスティンの子孫か‥‥だが子孫に罪はない。イビルフォッグの一族に王位を奪われなかっただけでもよしと考えるか‥‥」
「――――」
 流石にギルド員もこの男の様子がおかしい事に気付いてきた。
 向こうはこちらの言っていることを理解しているようだが、こちらは男の言っていることがまるで理解できない。勿論、カールなんとかいう名前にも聞き覚えはない。
 いや、そもそもこの男こちらの言っていることを理解しているのか?
 どちらかというとむりやり曲解して納得しているというか――。
「アンタ、ギルドの人間か?」
 話が通じるのか?
 ギルド員が肯定すると、
「突然の事で戸惑っているかもしれないが聞いてくれ。
 オレは神魔暦69327年の人間。いや、人間とは正しくない。神と魔族のハーフ、名をアルスレイヤード・ベオルブ・フォルスニク・ティマイオスという。仮の名だ。真の名は人間の発声器官では発音できない。それでも長くて呼びづらいのだったらアルスと呼んでくれても構わない」
 戸惑った。
 今、突然の事で戸惑った。


(注:依頼を受ける冒険者達へ。次の改行まで依頼に関わる内容は書き込まれておりませんので読み飛ばしていただいても結構です)

「神魔暦、それはこの地上に神と魔族が人と同じように住んでいた時代の呼び名だ。だが両者は決して交わる事はない。それが宿命であるかのように6万年を越える争いは続いた。その争いを救うべくして生まれたのがオレ、アルスレイヤード(略)だ。父を魔族四王の一人、母を神族の姫に持つオレには生まれつき他者にない禁断の力が秘められていた。それを使ってこの7万年に渡る悲しき争いに終止符を打つのがオレの存在理由。オレはその為だけに生まれてきた。だがそんなオレの凍てついた心を溶かしてくれる存在があった。フェルメール・トバソ・バレンシュタイン。彼女は戦う為だけの存在だったオレを優しく包んでくれた。だがその禁じられた愛は長くは続かなかった。終末は友の手によってもたらされた。オレが唯一親友と認めた男、カイルローゼ・ミリオン・デルフィウムによって。あいつはオレに嫉妬していたのだと聞かされた。オレの存在そのものが唯一の親友を狂わせていたのだ。オレはただあいつと背中を任せあって戦えればそれでよかったのに。だがこれもまた宿命。暗黒魔光剣グローシュガルドと天覇滅殺剣ルアンソーを互いに手に取ったあの時から全ては始まっていたのかもしれない。今こそ8万年の長きに渡る神と魔の戦いに幕を引くときなのだろう。だがその時――」


 ◆ ◆ ◆


「お疲れー」
「お疲れ様です。帰り気をつけてー」

 男がギルドに現れてから既に四時間が経過していた。
 ギルドには男と話を聞いているギルド員が一人。
「えーと‥‥で、アルスレイヤード‥‥だっけ?」
「アルスでいい」
「ん、じゃあアルスさん。あんたはどうするんだ?」
「どうやら9万年に渡る戦いは収まったようだ。だが、終わってはいない、仮初めの平和を手に入れただけだ」
 まあ、あれだ。事態はわかってきたというか、
 四時間も聞かされればわからないはずもないともいうか、
「全てを弄ぶ運命の全能神・エーテルメギストスを倒さない限りはいつかはこの平和も破られる。それを見過ごす訳にはいかない。フェルメが美しいといったこの世界(だいち)を守る為に」




「――と、まあこういうわけだ」
「どういうわけですか」
 翌日の冒険者ギルドでは昨日の天界人の報告をしている。
 天界人の身元はギルドで保証する事になっている為。
「結局その天界人はどうなったんですか?」
「説明したよ。『千年後のアトランティス』についてきちんとね。混乱もせずに真面目に聞いてくれるので助かる」
 その十倍、身の上話に時間を割かれるのも事実なのだが。
「で、冒険者をやってくれる事になった」
「‥‥大丈夫なんですか、それ?」
「いや、意外と筋がいいんだこれが。本人曰く前世の力の一千万分の一も解放されていないそうだが」
 前世とは勿論アルスレイ(略)の事である。
 ちなみに天界での名は鈴木三平太というらしい。
『全能神が仮の家族を人質に取る可能性がある為にその名を呼んではいけない』と釘を刺されたが。
「なんなんだろうな。あの思い込みが力になったりしているのかもしれない。魔法も使えるようだ。聖魔炎ダークメサイアーは封じられているとか言ってたが」
「‥‥はあ、で、何書いてるんですか?」
「依頼書。遺跡付近にコカトリスが出たっていう依頼だ。なかなか筋がいいからな。とはいえ冒険者のサポートは必要か」
「って、やらせるんですか!?」
「筋がいいといったろう。ああいうタイプは実戦が一番だ。そして後はチームワークだけだ。それが一番問題だ」
 ずーんと背後に効果音が聞こえてきそうなギルド員は三平‥‥アルス以外の冒険者への注意書きも忘れない。
 簡単な彼の自称プロフィールを並べ、

『以上のプロフィールに合わせられる方募集』

●今回の参加者

 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2892 ファニー・ザ・ジェスター(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3114 忌野 貞子(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●舞い戻った地にて今旅立つ俺
 自称、アルスレイヤード・ベオルブ・フォルスニク・ティマイオス(以後、報告書の字数節約の為アルスと略す)は張り切っていた。
 新品の鎧、新品の剣、バックパックには保存食にテントに松明に油、ロープ、弓矢‥‥。消耗品は多めに買っておく事も忘れない。
 ある意味冒険者として褒められた下準備ではあるが、見るものが見ればこういう感想を抱いた事だろう。

『初めて遠足に行く小学生みたい』と。

 当然というかギルドに誰よりも早く到着するアルス。集合時刻の三時間前である。
「やあ、おはよう三平太」
 のっけから彼の本名‥‥もとい『仮初めの名』でアルスを呼ぶキース・レッド(ea3475)。
「思ったより早いな。驚いたよ。初心者としてはなかなか感心だね」
「フッ、当たり前だろう。遅れてくるのは最後の決戦の時だけだよ」
 いやそこ一番遅れちゃいけないところなんじゃないかな?
「――ところでキース。その‥‥今呼んだ名だが‥‥」
 あ、やっぱり気にしてた。
「ん、なんだい? 三平太」
「アルスでいいよ。アレだ。長いから呼びにくいんだろう?」
「わかったよ、気を遣ってくれてありがとう、三平太」
「――――」
「あ、三平太さんにキースさん、お早いですね」
 アルスと同じ天界人の水無月茜(ec4666)。天界での職業柄か時間には早い方だ。
「アカネといったね」
 異国人のようにわざわざ名前の発音を訛らせるアルス。同じニホンの出身の筈なのだが。
「その名は危険だ。オレにその名を与えた天界に住む仮の家族が全能神に命を狙われる怖れが――」
「あー! 三平太さん、もう来てる〜!」

●そして集まった心強き仲間達、もう俺は独りじゃない
「えーと、アル‥‥アル‥‥なんとか‥‥三平太さん」
 わざとやってるのかどうか、『アルスでいい』という言葉は村雨紫狼(ec5159)には届かなかったようだ。
「‥‥‥‥」
 黙りこくるアルス。流石に応えたのか。
「――そうか、まだこの地にオレが戻ってきたという事実は知られていない。隠さねばならなかったのだな! ありがとう、シロウ、キース!」
(「どこまでも前向きに考えるな、彼は」)
 とりあえず三平太という名を承服させる事には成功したようだ。
 別に承服させる必要もないのだが。
「そうだな、真の名を無闇に明かすのは神魔族のするべき行いじゃあない。フッ、長い眠りによって知らずオレの慎重さも錆びついていた様だ。これというのも――」
「どうでもいいから‥‥」
「!!」
 背後の声にびくっと振り返るアルス。気付かれる事なく背中についていた忌野貞子(eb3114)に大仰に驚く。
「気配を感じなかった‥‥だと‥‥!?
 このオレが‥‥!」
(「うんまあ三平太さんが鈍くて気付かなかっただけですね」)
 修行中の忍者、美芳野ひなた(ea1856)は素直にそう思ったが、口には出さなかった。何故なら気持ち悪かったからだ。
「目的の遺跡までずっとこの調子なのか‥‥やだなあ」
 どうも本気で引いてるようだ。口調に容赦がない。ナイーブな少年にぶつけたら傷つき引き篭もってしまいそうなくらいに正直だ。
「いやあの、一応誤解されると困るんですけど地球人みんなあんな人ってばかりじゃないですからね」
 さらりとあんな人呼ばわりしてしまう茜。
「三平太‥‥残りの話は‥‥現地に向かいながら‥‥聞くわ‥‥。時間があるからって‥‥調子に乗って話長いと‥‥呪うわよ‥‥?」
 にやりと、いや、にたりと笑う貞子。
 依頼人はおろか冒険者仲間ですら引いてしまう得意の邪笑に、しかしアルスは、
「――!!
 ‥‥なんだこの霊圧‥‥キミは一体‥‥!」
 冷や汗を流し後ずさるアルス。
 精霊魔法使いの茜には貞子の霊圧とやらは感じ取れない。当たり前だが。
(「駄目だこいつ、早く何とかしないと‥‥」)
 キースの不安をよそに貞子とアルスは独自空間を展開している。
「くくっ‥‥忌野家は代々拝み屋の家系‥‥御立派な前世だけが力とは思わない事ね‥‥」
「た、確かに‥‥このプレッシャー‥‥これが研鑽を重ねた人間の力か‥‥!」
 なんか会話が通じている。
「畏れる事はなかんべ。ミー達は仲間じゃねえか」
 ごくりと唾を飲むアルスの肩に手を置くファニー・ザ・ジェスター(eb2892)。
「アンタは‥‥」
 ピエロメイクの顔をぐいっと近づけ、口端を歪める。
「それに‥‥正体を隠しているのはお前だけじゃない」
「!!」
「来たるべき戦いに備え、力を磨こう‥‥俺も、お前も‥‥」
「フォルティワース!? お前フォルティワースなのかッ!?」
 ああもうなにがなんだか‥‥。

●血に濡れた大地しか知らない俺にその光景は眩し過ぎた
 目的地までの道中ではキースが新人アルスに冒険者としての心得をレクチャー。
「いいかい、三平太。冒険者たるもの事前の地道な準備は不可欠だ。前世の記憶で知っているのかもしれないが――」
「いや、千年前の戦いは神と悪魔の壮絶なハルマゲドン。冒険のそれとはまるで質が違う。
 恥ずかしながら俺は冒険の方はからきしだ。戦う為だけに生まれてきたからな。教えは望む所、宜しく頼む」
「――ああ」
 なにをキリッとした真顔で言ってるのかこの男は。
 キースがあえて突っ込まないのは優しさ故か、単に面倒だからか。なんとなく後者のような気はする。
「まず保存食だが――」
「持ってきた。予備も含めて30日分」
 持ってき過ぎ。
「では就寝具を――」
「4人用と2人用と寝袋と毛布を持ってきた」
「あと――」
「防寒具も用意した、ポーションは‥‥残念ながら売ってなかった。いざという時は使わせて貰えるだろうか?」
 あったかそうな上着をバックパックから取り出す。もう5月だぞ。高山にでも向かうのかお前は。
「ポーション‥‥ひなたが持っていますけど、必要になるっていう事は危ない状況ですぅ。使わないで済むのが一番だと思いますぅ」
「そうか‥‥そうだな。この身体は脆い人間の身体だ。真に覚醒するまでは大切に使わないといけない」
(「うぅ‥‥なんか納得してます‥‥気持ち悪いなぁ‥‥」)
 準備は万全、むしろ万全過ぎた。
 余計なほどに。荷物の整理くらいしておけ。
 キースもそう思ったらしい。
「就寝具は‥‥そんなに要らないぞ。旅に荷物が多過ぎるのも問題だ」
「ああ、済まない。旅先で新たな仲間に出会えるのではないかとも思って」
(「捨て猫か何かですか、その仲間は」)
 新たな仲間は旅先で寝袋も持ってないのですかと心中突っ込む茜。
 口に出さないのはやはり面倒だから。ひなたと茜はどん引きだ。
「後、コカトリスが仲間になりたそうな表情でこちらを見たりするかもしれないからな」
 まて今何かおかしなこと言わなかったか?
「――そうか」
 あ、キース無視した。
「まあ、持ち歩ける量ギリギリなので構わないが。僕のハリケーンに乗せようか」
「いや、自分の事は自分でやるべきだ。自分の手に負えないとき、その時初めて仲間を頼らせてもらうよ」
 頑なにデカいバックパックを背負うアルス。
(「‥‥ひょっとして‥‥凄いワクワクしてるんじゃなかろうか、彼‥‥」)
(「ですね‥‥私もデビュー当時のどさ回りでは嬉しくて荷物を自分で運んだりもしたものです」)
(「よく見ると目がキラキラしてますゥ‥‥」)
「何をしてる? 皆、さあ急ごう!」
 意味なく街道を走り出そうとするアルスを紫狼が制する。
「まてまて、旅は長いぜ? 俺が前世の話ってえの聞いてやっからのんびりいこうや」


「えーと、で、その大魔王ギガなんとかってのにエロメールさんが殺されたんだっけ?」
「違う! 大魔王ではなく全能神だ、奴は魔王すら意のままに操る絶対の――」
「長いのよ、名前が‥‥。今時横文字ってのもバツね‥‥漢字になさい。その方が‥‥スタイリッシュよ‥‥」
「む‥‥だが奴らの名前は人間の発音では正確には――」
「わかるよ、俺のファニーというのも仮の名でね」
「待て、フォルティ! その名は明かしてはならない! オレ達を信用してくれるその心は嬉しいが‥‥!」
「今、おもくそ名前呼んだぜ、三平太さん」
「裏切り‥‥ね」
「ハッ! す、済まない! 許してくれフォルティ!」
「また呼んだ‥‥呪殺ね‥‥」
「うおおーーーー!!」

「も、盛り上がってますねえ‥‥」
 チャームかスリープかけましょうかという茜。
「‥‥まあ、人気のない街道だし問題あるまい」
「春ですねえ‥‥本当ヤダなぁ‥‥」
 完全に壁の出来ている茜、キース、ひなたの三人だった。

●背を、命を預けられる友の存在、暖かなる風が俺を優しく包む
 新品のサンソードを持つアルスにキースは自分のレイブレードを渡す。
「良ければ使いたまえ、三平太。君の何とかという魔剣には劣るが」
「暗黒魔光剣グローシュガルドだ」
「――何とかいう魔剣には劣るが、みてくれはそれっぽいだろ?」
「いや」
 不満なら仕方ないかと剣を引っ込めようとしたキースだったが、
「今のオレの器はグローシュガルドの暗黒魔光力には耐え切れない。それを見越してのキミの気遣い、有難く頂戴するよ」
(「暗黒魔光力って‥‥そのまんまですゥ‥‥」)
 気持ち悪いといいつつちゃっかりと話を聞いてるひなた。気持ち悪いから聞いてるのか。
「深い絆の力は神の力にも勝る。それをこの戦いで示そう!」
 しゃらんとレイブレードを抜き放つアルス。
「抜くのは‥‥コカトリスが出てきてからにしなさい、三平太‥‥危ないじゃない‥‥」


「ちゃっぴい、ゴーですゥ!!」
 巻物の力で強化された大ガマがひなたの術に応じて出現する。
「召喚‥‥だと‥‥!?」
 流石にこの手のリアクションは見逃さない。
「この年でこれ程の魔獣を召喚するとは‥‥末恐ろしい才能だ‥‥!」
「ほ、褒められても微妙に嬉しくないですゥ。それとひなたは三平太さんより年上ですゥ!」
「なん‥‥だと‥‥!?」
「それはもういいですゥ!」
「美芳野嬢、三平太! 来たぞ! 気を抜くな!」
 遺跡付近を根城にしていたコカトリスが襲ってくる。
 その数四体。
「数‥‥微妙です」
 三体か五体なら狙えるのに、と茜。
「任せろ、大切な仲間の命を脅かす魔物をオレは許さない!
 煉獄の力ゲヘナの火よ、我、イフリートとの盟約によりて天界より――」
「長いわよ‥‥」
 貞子のツッコミに応えたかどうかはわからないが、アルスの呪文が完成。
「神の浄炎と魔の獄炎、相反する牙絡み合いて、我が敵を焼き払え!! 聖魔炎ダークメサイアー!!」
「それ、封じられてるって言ってなかったか?」
 どうでもいい事を覚えていた紫狼。
 そしてアルスの初級マグナブローがコカトリスを包んだ。
 二匹を巻き込む。致命傷には至っていない。
「――クッ、封じられた力ではフルパワーの50億分の一の力しか発揮出来ないか‥‥!」
 数字でか過ぎ。
 ともあれ、魔法自体は効いているようだ。
「少しは役に立つじゃない‥‥三平太」
 焼けたコカトリスの一体を狙い、貞子のウォーターボムが追い討ちをかけた。
 弱ったコカトリスにキースと紫狼がとどめを刺す。
「よっしゃ、頼むぜ、演歌ちゃん!」
 三体になったコカトリスに茜のムーンアローが命中した。
「茜さん、ナイスですぅ!
 よ〜し、続いて、小町流花嫁修業目録、美芳野ひなた‥‥行きます!!」
「小町流‥‥だと!?」
「し、知っているのか、アルス!?」
 180%知ってるわけないのだが、ノリで合わせるファニー。

●鍋を突付き、酒を酌み交わし、そこに絆という名の力が生まれ、明日に繋がってゆく
 遺跡付近の森を捜索していたキースとひなたが戻ってくる。
「どうやらコカトリスはもういないようだな」
「マグナブローでこんがり焼けてますゥ。コカトリスって食べられましたっけ?」
「え? マジ? これ食うの?」
 じゅるりと舌なめずりする紫狼。食欲旺盛だ。
「大丈夫。毒に当たったら治療してやんべ」
「フッ、フォルティは頼もしいな」
 どうやらアルスの中ではファニーは完全に前世の仲間になってしまっているようだ。
「三平太の親友ってデンデンダイコさんだけじゃなかったっけ?」
「きっと‥‥向こうは友達だって思ってなかったのよ‥‥寂しいわね‥‥くくっ‥‥」
 酷い言いようだ。
「前世の仲間も大切ですが、今の仲間とも信頼関係を築かなければなりませんよ、三平太さん」
「ああ、勿論だアッカーネ!」
 なんか名前が変わってる。
 近いうちにムーンアローを食らう事になりはしないだろうか。
「じゃあ、ここで食っちまうか。ちんたら持って帰ったら毒以外の心配もしなきゃなんねえかもしれないしな」
「賛成だ。今晩はここでキャンプといこう」
「ではみなさん、力仕事協力お願いしますね」
 ひなたがコカトリスを捌く準備に入る。
 ファニーのアンチドートが必要になったのかは定かではない。
 少なくとも食べて石化したということはなさそうだ。