【モンテール伯】ノビータのゲヘナの丘戦争

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月19日〜05月24日

リプレイ公開日:2009年05月30日

●オープニング

「小隊長! カオスの魔物達がせまってきました。早く脱出してください」
「いや、ぼくもきみたちと共に最後まで戦うぞ!」
「いけません、小隊長はわが国にとってなくてはならぬお方です」
「ことわ
 る!!」
「ならば
 腕ずくで
 でも!!」
「あ〜っ、
 なにを
 する!!」
 愛する部下、愛する仲間を残して‥‥。
 ぼくは
 これから
 どこへ
 いくのだ
 ろう。


 そして冒険者ギルドに場違いな少年が泣きながら駆けつける。
 尤もギルドの人間にとっては時折見かける光景ではあったが。
「ワアーーー!!」
 メイディア冒険者ギルド唯一の河童のギルド員にすがりつく少年冒険者。
「アワウアオアオワウ〜〜」
「ほう、シュネオの親戚の騎士がゲヘナの丘の討伐隊の小隊長を務めたの」
「ウエウエオエッオエッ」
「それでさんざん自慢されたあげくにクライマックス間際で『お前に聞かせるのはもったいない』って、仲間はずれにされちゃったの?」
 よく聴けたなこの河童。現代語万能達人か? 言語の壁のないアトランティスだが少年の言葉を聞き分けるのには苦労を伴う。
「わかった。
 くやしいからシュネオにはり合って、こっちもゲヘナの丘に討伐にいきたいっていうんだろ」
「よくわかったな」
「長いつきあいだからね。よ〜し、力をかそう」
 え? 貸しちゃうの?
「でも二人じゃ人手不足だよ」
「そうかなあ」
 そうだよ。
「いろんなアイテムがあっても使うのは冒険者だからね」
「そうか」

「「冒険者に依頼たのもう」」

 こらこらこら、
 何を仲良く計画立ててるんだこの二人は。
 ゲヘナの丘は、少年達が『くやしいからはり合いにいく』所じゃないんだけど。
 モンテール伯も貴族の戯れか、たまにおいたが過ぎる事もあるようで。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●ベアトリーセのゲヘナ講座
 ノビータと唯一面識のある巴渓(ea0167)は頭を抱えていた。
「あのなあ‥‥今回はノリで済む問題じゃねぇだろ!!」
 それは間違いである。いつもノリで済む問題ではない。
「依頼なのだ。仕方がなかろう」
 フォローとも呼べないフォローをするサイクザエラ・マイ(ec4873)。
「ったく、仕方ねぇな‥‥おい河童のオッサン、瀕死だろうがなんだろうがコイツ死んでなきゃ依頼達成だな?」
「えー、そんなー、僕も頑張るよ!」
「やかましいわ! お前が頑張って地獄から生き残れるならとっくにヤツらとの決着はついてんだよ!」
 やる気をみせようと息巻くノビータに辛辣な渓。尤もやる気というのもどこまで保てるかは甚だ疑問ではあるのだが。
「いや、そのりくつはおかしい」
 普段はノビータに厳しいモンテール伯だが優しい時もある。今回の依頼内容はあくまでノビータを満足させる事。その為のサポートを頼みたいとの事だ。
『えー』と不満の挙がる一同。容赦ない。
 冒険者の中、音無響(eb4482)だけは別の事にショックを受けているようだ。
「そんな‥‥青い青いと思ってたのに、青くない‥‥」
「? 河童が青いわけはないだろう。失礼な」
 それからモンテール伯は自身の家柄がどれだけ由緒あるものかを説明しだしたが、どこかで耳にした天界人知識を信じていた響の耳には届いていなかった。ついでに言うと由緒正しき家柄はドラエで三代目くらい。
「おい、どうでもいいがノビータ拗ねてるぞ。
 機嫌直せ。わるかったよ」
 後半部分は本人に向けて。体育座りでギルドの壁隅でいじけるノビータを慰めるセイル・ファースト(eb8642)。
「な、ほら。地獄の悪魔共に一太刀浴びせてくれるんだろ?
 モンテールさん、こいつには何を用意してくれてるんだ?」
 なんとか場を盛り上げようとするセイルにモンテール伯も空気を読む。
「よくぞきいてくれた。ノビータにはこれだ」
 がさごそと自分のバックパックから中身の詰まった巾着袋を取り出し、
「退魔の塩!!」
 ぴかぴかーんと必殺アイテムを公開。
「「しょぼっ!!!」」
 声を合わせて突っ込むシルビア・オルテーンシア(eb8174)にベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
「くっ、こいつらゲヘナの丘を舐めてやがるわ。大天使の護符とかじゃないと‥‥飽きるんだから」
 妙に実感のこもった毒を吐くベアトリーセ。ゴーレム並に御執心?
「いえ、大天使の護符でも飽きるわ。大体、塩投げられたくらいで消し飛ぶ連中も連中よ」
 だからなんで実感こもってるのかこの娘は。なんだか『この素人が』とでも呟きかねない勢いである。
「まあ、護符とは言わないまでも‥‥せめてもう少し‥‥」
 余程ショックを受けたのかシルビアも苦笑いを浮かべると、
「冗談言ってもらっちゃ困る! 高いんだぞ退魔の塩! 10袋で金貨三枚! しばらく遊んで暮らせるぞ!」
 それ事実だ。
 魔物用に清めたせいか、高いのだこの塩。
 皮肉にもより高価な退魔アイテムが流通されている為、『最も安価な』退魔アイテムとして親しまれているようだが。
「金貨一枚あれば20日分の保存食が買える! 保存食でなければもっと安いのもあるんだぞ、塩スープとか! 大体、近頃の冒険者といったら戦乱のせいで儲かるようになってきたせいでお金のありがたみっていうものが――。僕の現役の頃なんてレミエラなんてものさえも――」
「わかったわかった、私達が間違っていたから落ち着いてくれドラエ殿」
 放っておけば依頼期間の終了まで終わりそうにない話をなんとか収めさせるアマツ・オオトリ(ea1842)。
 真っ赤な顔をしながら肩でフーフーと息をしてる河童ギルド員。知る人ぞ知るが、短気なのが彼の悪い癖だ。
(「なにか癇に障る事でもあったのかしら。貧乏貴族と思われたくなかったとか――」)
 しょーもない理由であるが、多分当たってるかもしれない。気のいい方なのだが、妙にプライドが高いのが玉に瑕とか。

●不思議空間ゲヘナの丘
 ゲヘナの丘。
 猛将モレクが倒れ、魔女エキドナが退いても、未だその地は膨大な魂の力を魔力とし、不気味な産声をあげている。
 今、その地に狙いを定めるのは魔神バアル。
 数多の冒険者が敵にその地を渡すまいとバアルの部下達を身体を張って退けていた。
 そして彼らも――、
「アマツ! 巴! 抜かるなよ!」
「承知!」
「さぁて、地獄の丘にて物見遊山と参ろうかねェ!!」
 三人のオーラ使いが身体に闘気を纏わせる。
 セイルの槍が、アマツの刀が、巴の拳が群がるデビルに一歩たりとも侵入を許さない。
 更には三人の周囲では赤い地獄でも尚赤い、サイクザエラの紅蓮の火花が激しく咲き乱れる。
「いくら焼いてもキリがないとはこの事か。仲間の被害を気にしなくて済む事だけが幸いかな」
 冒険者達は円陣を組んでいる。
 外側からやってくる魔物達に対してファイヤーボムの延焼の心配は無用だ。
 というよりもその心配をするだけの余裕がサイクザエラにはない。
 何故なら――、
「動くな!!」
 サイクザエラの声に反応し、彼の頭の黒銀の冠に飾られた宝石が瞳のように妖しく輝く。
 射竦められたように目の前の魔物が動きを止めた。
 デビルアイ。
 ゲヘナの丘にある意味相応しいそのアイテムは名前の通りの悪魔の力をサイクザエラに与える。
 代償として彼の精神を蝕みながら。
 だが、悪魔の目よりも更に彼の心を蝕むのは――、
「私は目の前の魔物に殴られるより後ろからガキの泣き声聞かされ暴れられるほうがうんざりするクチだが、
 ――そのへんどうなのかね? 貴様らは」
「同感だ。ったく、馬鹿な真似はすんなよって思ってたが、無用の心配だったか」
 魔物を殴り倒し、後ろに注意を向けると、そこには滝のような涙を流す少年が。
「くらいよ、こわいよ、くさいよ、あついよ〜〜〜!!」
「当たり前だろが! 地獄だぜここは!」
 暴れられないだけまだマシか。いや、暴れる度胸すらないだけの事かとうんざりする渓。
「ケイ、サイクザエラの言うとおりだ。いっそ眠らせるか」
 アマツが愛刀『絶影』の峰を返す。
「いや、待て待て。仮にも依頼人なんだし、気持ちはわからんじゃないが短気は禁物だぜ?」
 セイルの声にやや焦りが含まれてる。この調子では本気で眠らせかねないと思ったのだろう。
 そんなセイルに代わって響が叫ぶ。
「ノビータ君! 忘れてしまったのか!? 思い出して、俺と交わした約束を!!」
 地獄に向かう前、冒険者と少年が交わしたひとつの約束。
 甦るのは優しい記憶。

(「いいかい、約束を破ったら――目でピーナツ食べて、鼻からスパゲティだから‥‥
  男と男の‥‥約束だよ――」)

 訂正。あんまり優しくなかった。
「しっかり見ておくんだノビータくん、これが悪魔との戦いなんだ‥‥俺だって怖いけど、でも負けられない!」
「響さん‥‥」
 あんまり優しくない記憶は活きたかどうかはわからないが、響の力強い励ましはしっかりとノビータの心に届いたようだ。
「いい事言うじゃねえか、響! ほら、クソ度胸見せろよノビータ! 河童のオッサンが言ってたぜ、お前の射撃センスは天下一品だってな!」
 そう言って魔物を殴り倒しながら渓が投げて寄越したのはモンテール伯から預かった退魔の塩。
「渓さん‥‥よし‥‥!」
 なけなしの勇気を振り絞って塩を掴むノビータ。
「やれやれ、苦労をかける。これだから子供は――おい‥‥」
 言葉を絶するサイクザエラ。
「あっちいけ! あっちいけ! あっちいけっ!!」
 それは『投げている』というのか。
 ノビータは魔物を見ていない。向き合ってすらいない。
 さっきと同じしゃがみこんだ体勢のまま闇雲に塩を後ろに投げていた。
「そ、そんな‥‥劇場補正がかかってないのか‥‥いや、日常にしたって射撃は別格の筈なのに‥‥」
 意味不明の言葉を呟く響。
 だがそれ以上に驚くべきはそんなノビータの塩がなんと全弾魔物に命中している事だ。
「そんなむちゃな」
 渓は呆れるが、感心する響。
「すごいや! これがノビータ自慢の射撃スキルなんだね!」

「「いや、誰投げても当たるんですけど!!」」

 上空でハモる二人の女。
 空には三匹の魔獣。
 グリフォン二匹にそれぞれ乗っているシルビアとベアトリーセが無駄な連携を見せていた。
 二人ともノビータとは比べ物にならない手際で塩を投げている。
「なんと! ノビータ君と互角の命中率、流石です!」
 激戦の中、空中にいる二人に地上からの声は届かない。無論、先程の響の感嘆も同様。
 ならば何故突っ込めたのか。
 答えは簡単。響の月魔法テレパシーの効果だ。
 なんという魔力の無駄遣い。
「この私が! この私が! なんで塩なんか投げてなきゃいけないのよッッッ!!!」
 退魔の塩はあくまでまじないに毛が生えた程度の効果。
 実戦では剣で斬った方が効果が高いに決まっている。イベント? なんですかそれは。
「モンテール、次っ!」
 鬼気迫って塩を催促するベアトリーセ。
 その先にはセイルのムーンドラゴン・オードに乗ったモンテール伯が。
「無茶言っちゃいけない。そのペースで投げられるとノビータ君の分がなくなってしまう」
「はぁ!? 無くなるってまだ30袋しか投げてないですよ!? 冒険者特技で10袋いっぺんに投げられるからたったの3回!」
「きがるにいってくれるなあ」
 10袋で金貨三枚なのだ。30袋で金貨9枚。モンテール伯が貴族とはいえ、本家がノルマンにある以上、資金に限界がある。
「そんなちみっちゃい塩でゲヘナに挑むつもりだったの!? この馬鹿コンビ!」
「じゃあ彼に他に戦う手段があるのか!!」
「――もっともだわ」
 おい、失礼だぞお前ら。
「そういうわけで後はきみたちでなんとかして欲しい」
「仕方ありませんね」
 シルビアは矢を愛用の弓に番え、魔物達に解き放つ
 魔力の伴った弓は魔物の一体を一撃で仕留めた。
 それは偽りのない本物の達人。
 一流の冒険者の中でなお磨きぬかれた匠の腕。
「さいしょからそれでやればよかったのに‥‥」
「いきますよ、レェオーネ! 皆の援護を!」
 向かうは地上。
 レェオーネの背からの射撃は精度を鈍らせる。
 大地に降り立ち、初めて弓の乙女は比類なき力を発揮する。
「いやだからさいしょからそれを‥‥」
「私も降りるわ。塩なんかに頼らなくても、私にはこの愛用のクロスブレードが――!」
 退魔の力を秘めたベアトリーセの剣はゲヘナにて脅威の切れ味を誇る。
 魔力にして、シルビアの弓、セイルの槍と同格。威力にすればそれ以上――。
「ルック! 空から援護を! お遊びはここまでよ!!」
 戦力が大きく増え、円陣は強固さを増した。
「落ち着きなさい、ノビータ! 私があげた『魔よけのお札』があるでしょ!」
「そうです、ノビータさん。私が差し上げた『聖なるエチゴヤ親父のお守り』もある筈です!」
 いやいやいやいや‥‥‥‥え〜〜〜!?
「エチゴヤ親父・スミスはジ・アースにて崇拝される商売の神! 貴方を邪悪なる魔物共から守る筈!」
(「しれっと無茶苦茶言いやがる‥‥」)
 内心のツッコミを堪えてセイルは槍を振るう。
 真実は言わぬが少年の為だろう。
 シルビア‥‥恐ろしい子。
「地獄の恐ろしさがわかった!? ゲヘナを舐めちゃ駄目よ、ノビータ!」
 塩投げの数倍の速度で魔物達を叩き斬るベアトリーセ。
 ゲヘナを舐めてるのは君だ。

●地獄の三丁目の夕焼け(炎的な意味で)
「さて、そろそろ退却といくか」
 アマツが頃合と目の前の魔物をシュライクで両断する。
 この辺一帯のバアルの手の者はあらかた片付けた。
 ゲヘナに呼び寄せられるはぐれ悪魔達も追い払ったし、これでしばらく時を稼げる筈だ。
「立てるか? ノビータ少年」
 後ろに振り返り、手を差し出すアマツ。
「少しだけ見直したぞ。大人も竦むこの地獄の大地にてよくぞ堪えて戦った。そなたの奮闘ぶり、私が確かにこの目で見たと友人達に伝えてやろう」
「その役目は貴様に譲ろう。魔力を使い過ぎた私はとっとと帰って身体を休めたい」
 子供のお守りはこりごりだと肩を竦めるサイクザエラ。
「では異論ないな、撤退だ。最後まで気を抜くなよ!」
 アマツの声に皆が従う。
「ああ、待ってくれ」
 思い出したようにセイルは上空のオードを呼び寄せる。背のモンテール伯と共に。
「いいか?」
「もちろん。たのむよ」
 モンテール伯が竜の背から降りると代わってセイルが飛び乗る。下に向けて手を差し伸べ、
「ノビータ、乗りな」
「え? ‥‥いいの?」
「ああ、自慢したいんだろ? 俺の相棒に乗せてやるぜ」

 寂しい時には 地獄のはずれで

 ゲヘナの丘の灯り見てた

 竜の背に乗り、傍で詩人が詠う。
 夢見ていた少年の憧れ。
「僕らはいつごろ大人になるんだろうか‥‥ね」
 空の二人を仰ぎ見て響が呟く。
 少年の頃を思い出しているのか。
「感傷に浸るのも結構だが――」
 現実に引き戻すサイクザエラ。
「自分の手柄でもないのに親戚の手柄を自分のことのように吹聴する奴も奴だが、
 それにムキになって自分も地獄に行って功績をあげて見返そうって奴の神経も――結局は同類なんではないかと思うね、私は」
「まあ、そう言ってやんなって。子供ってのはそういうもんだろう」
 本音では渓も同感だったが、終わりよければ全てよしともいう。
 わざわざ夢見心地の少年に水を差す事もあるまい。
「ああ、そういえばモンテール伯」
 響が思い出したように。
「話に聞いたシュネオ君の御親戚‥‥大丈夫でしょうか?」
「ああ、小隊長さんね。あれ、一ヶ月以上前の話だから」
「はい?」
「隊の人達も救出されて無事に帰還してるよ」

『なんじゃあそりゃあ!!!』