【黙示録】悪の爪痕

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 47 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月24日〜06月01日

リプレイ公開日:2009年07月17日

●オープニング

「‥‥まずい事になったな」
 役所からの報告にメイディア冒険者ギルド員ジェラードは呟きを漏らしていた。


 獄中で元冒険者6名が変死を遂げた。
 いずれも死因は牢獄内での他殺。鍵は開けられていなかったらしい。
 1名はダリウス・ブレア。
 公にはなってはいないが、街道で旅人を魔獣に喰わせていた犯罪者だ。
 残り5名、レスター・バルフォア以下、元冒険者一味は魔獣や精霊を売買している闇業者に雇われて精霊を密猟。
 どちらも冒険者達の手で捕縛され、役人に引き渡された。
 ギルドの体面上、公にしていなかったせいもあり、刑の確定も済んでいない最中の出来事だった。
「――カオスの魔物なら、殺害は充分可能か」
「ですね」
 両方の事件にてカオスの魔物の存在を確認している。
 正確に言えば証言のみで姿を見た訳ではない。
 だが、ダリウスの証言が的確な事と、レスターらがカオスの魔物の関与を認めず、だがそれを怖れているととれる反応から状況的に見ても間違いはないだろうという見解だ。
「でも、カオスの魔物の仕業だとして、なんで彼らを殺したんでしょう?」
「知るか。順当に考えるなら口封じなんじゃないのか? 闇業者の方は未だ手掛かりが掴めずだしな」
 とはいえ、それだけでは片付かない。レスターらはその可能性も考えられるが、ダリウスは事件に至るまでの経緯を自白している。
「まあ、吐いたからって洗いざらいとは限らないしな。まだ隠していた事があったのかもしれないし――。
 それに今は犯人探しが先決だ。殺されたのが犯罪者とはいえ、殺人は殺人。相手がカオスの魔物なら役人だけに任せるのは危険だ」
 目的なんてものは捕まえてから調べればいい。
 尤も、目的を調べる事が犯人に近付く手掛かりになるのも否定は出来ないが。

「――問題はそれだけじゃないみたいですね。噂になってるみたいです。一連の事件」
 冒険者が犯罪を犯した。
 冒険者ギルド及び、冒険者全体の信頼にも関わるこの事件は出来るだけ人に知られる事なく解決する方向で進めてきた。
 依頼内容も公開する部分を絞り、受けた者だけに核心を伝えている。勿論、他言無用で。
「まあ、人の口に戸は立てられないっていう事だろう」

 この事件は三つの不信を招く結果となる。
 一つは世間の冒険者に対する不信。
 冒険者とは役人のような規律ある職ではない。
 だから必要以上に品性が求められたり、善行を期待されたりする訳ではない。
 しかし、それにしても最低限度のモラルはある。
 法に反する行いはしないだろうという安心感が裏切られた形となってしまう。
 残りの二つは冒険者内での不信。
 仲間が犯罪者であるかもしれない不信と、
 その逆、仲間に後ろから斬られる不安。
 前者はともかく、後者は完全な杞憂だ。ダリウス達の様に犯罪にでも手を染めない限りは裁かれる事もない。
 だが、この手の感覚は理屈ではない。
 同業を裁くという行為はそのくらい怖れられ、嫌がられる行為であるのだ。たとえそれが正当な理由であったとしても。

「依頼を受けた冒険者達の名は伏せていますが‥‥同じくどこかから洩れないとも‥‥」
「それでも、いや、それだからこそ、誰かにやって貰わなければならない事だ。
 事件の犯人の手掛かりを掴む。それが闇業者の尻尾を掴む事になるかもしれないしな」



 カオスの魔物は不機嫌だった。
 自ら手を下すのは彼の信念ではない。
 人が悪行に身を任せ喰い合う様が楽しいのだ。
「まあ、仕方ないネ。あの6人はこれ以上楽しめないシ
 なら、精々役に立って貰わなくちゃネ」

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3776 クロック・ランベリー(42歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●悪魔の所業
 冒険者達がまず足を運んだのは殺害現場である牢獄。
「ギルドの依頼を受けてきた者だ。6人の遺体はあるか?」
 サイクザエラ・マイ(ec4873)は天界人としての知識を用いて遺体の検死を試みる。
 幸い遺体は埋葬前で目を通す事が可能だった。現場がそのままであった方が都合は良かったが、流石にそこまで望むわけにもいくまい。
「これは‥‥むごいな‥‥」
 アマツ・オオトリ(ea1842)の言う事は皆が理解できた。
 死因は単純。外傷によるショック死もしくは失血死だろう。
 剣で斬られたような傷跡であることはサイクザエラ以外の者でも見て取れた。
 念の為に生活反応を確かめる。
「生活反応?」
「簡単に言えば剣で殺されたのか殺されてから斬られたのか――だな。うむ、剣で斬り殺されたとみて間違いないようだ」
 クロック・ランベリー(eb3776)に答えながら検死を進めるサイクザエラ。
「そんなことまでわかるのか。天界人というのは博識だな」
「私は医者ではないからありあわせの知識でしかないがね」
 天界における検死を本格的にやるとなると相当の専門知識が要求される。だが、それでもないよりははるかにマシであろう。
 不謹慎とは思いつつもアトランティスに馴れていないクロックやセイル・ファースト(eb8642)は関心を抑えられない。
 生活反応等の概念自体はジ・アースにおいてもあるにはあるが、医者でもない彼等にはそれこそ無縁の知識である。
 知識そのものは勿論ではあるが、なによりその知識の普及性。専門職でないものでさえ広く知識を身につけられる文化そのものが天界人の特色かもしれない。
(「それでメシ食ってくってワケでもなきゃ普通は身につけねえからな‥‥」)
 この知識をジ・アースで広めたところで『だから何?』と忘れられるのがオチだろう。アトランティスでもそうかもしれない。

「しかし‥‥ふむ、剣か‥‥」
 予想が外れたとばかりに呟くキース・レッド(ea3475)。
「闇の使徒共の能力なら牢屋などどうにでもなる。奴等の仕業かと思っていたのだが‥‥」
 事前に得た情報に寄れば殺された男の一人が接触を持った魔物は『山羊を連れた者』。剣は使わず、転移も出来ないと聞く。確かな情報ではないが。
「いや、転移は一日に何度も使えないと聞く。カオスの魔物とやらが同じような能力であるのならの話だが――」
 デビルとの戦いであるならクロックもないわけではない。そしてカオスの魔物はジ・アースのデビルに良く似ているらしい。
「転移などせずともカオスの魔物には変身能力がある。牢の隙間をくぐれる大きさになるのは造作もない筈だ。剣は――」
「剣は衛兵のものを拝借したみたいだぜ。体裁悪くて言い出し辛かったみたいだが」
 サイクザエラの言葉を引き継ぐセイル。手には彼のものではない剣がある。衛兵と上手く交渉したようだ。
「俺のはデビルの知識だけどな。奴等は人を直接殺すより悪意を広めたいような傾向がある。人間の剣を使ったのもその一環だろう。いや、単なる皮肉や挑発かも知れないが」
「それはあるかもしれぬな。本気で人間の仕業に見せたいのなら衛兵から鍵を奪って牢を開けた方がそれらしい。悪ふざけのような悪趣味さを感じる」
 遺体を見ながら内心の憤りを感じさせるアマツ。
 おそらくこの6人は必ずしも殺される必要はなかったのではないか。
 必要があったのならば報われるという訳でもないが、それでも遊びのようなこの犯行には冒険者である彼女も胸が悪くなる。
「行こう、次は殺害現場の検証だ」

●四面楚歌
 街に戻った一同だったがサイクザエラは不満そうだった。
 現場では思っていた以上の物証を掴むことが出来た。
 血塗れの牢獄は剣での一撃が死因である事を裏付けしていたし、争った形跡がほとんどない事からも人間外の犯行である事が窺えた。
(『暗殺者の仕業という線は考えられないか?』)
 クロックの推測にもサイクザエラは首を振る。暗殺者がカオスの魔物の犯行に見せたいのであればもっと惨たらしく演出するだろう。
(『確かに。――言ってしまえば、あまりに投げやりなんだよな』)
 これだけの事をしておきながら手際に一貫性がない。『適当に殺しただけ』。
 セイルの感想は皆が頷くところだった。正直、当のクロック自身、暗殺者の線を本気で考えた訳ではない。
 そう、『適当に殺しただけ』。つまり、物証ではあるが手掛かりにはならない。
 カオスの魔物の仕業である事は推察出来た。
 だがそのカオスの魔物がどこに潜んでいるのか。
 そこまでいくと今のところお手上げだ。
 闇業者についての調査が止まってしまっているのも不満の原因の一つだ。
 どうやらかなり有力な貴族までも関わっているらしい。
 ギルドとしても踏み込むどころか調査さえ、いや、貴族の名に当たりをつける事すらも難しいのだろう。
 そして、サイクザエラの最たる不満の原因が――、

「お、俺は違うぜ! 勘弁してくれよ、キース!」
 冒険者仲間に声をかけたキースへの返事の第一声がそれだった。
 おかしな事を聞いた訳ではない。
『最近ヘンな噂を聞かないか?』
 ただそう振ってみただけだ。
「こないだまで商隊の護衛で出かけてたんだ! 嘘だと思うならギルドで調べてみりゃいいじゃねえか!」
 明らかに挙動不審に吐き捨てる冒険者。
 だがそれは後ろ暗いというよりは――、
(「参ったね‥‥まさかここまでとは‥‥」)
 おそらくダリウス達の事が不要に歪められて広まっているのだろう。
 たとえ無実だったとしてもカオスの魔物と関わったなどという噂が流れては冒険者として、いや、人間として致命的だ。
 ましてや冒険者達は一般人より風聞の恐ろしさを理解している。
(「――それどころか、この様子だと僕らがダリウスを捕らえた事も広まっているようだな‥‥さしずめ死神といったところか‥‥」)
 冗談にしても笑えない。
 そして自分達の中でおそらくこの街で最も名が知られているのは自分だろう。
(「サイクザエラ氏も拙いかもね」)
 その予想は当たっていた。

 そして、顔が広まっていない者には別の苦労が。
 同様に冒険者達の噂を調べようとしたクロックが――、
「てめえか? まさかカオスの魔物の手先ってのは‥‥」
「落ち着け。俺は――」
「やかましい! 魔物と手を組むほど落ちぶれちゃいねえんだよ、こちとら!」
「――くっ!」
 どういう広まり方をしているのか、会話にすらなりそうにない。
 人を会話で誑かすというカオスの魔物の性質もそれに拍車をかけていた。
 冒険者の中には荒くれ者も少なくない。中途半端にカオスの魔物の知識もある為、余計に警戒されるという始末だ。
 幸い、技量に至ってはクロックの足元にも及ばない。
 相手を傷つけないようにいなし、仕方なくその場を去ることにした。

「――ちっ、逃げられたか‥‥ギルドに引っ立ててやろうと思ったのによ‥‥」
「おい」
 クロックが立ち去り、油断した男を一瞬で路地裏に引きずり込み口を塞ぐ。
 後ろ手に捕らえた為、顔は見えない。
「大声を上げれば殺す。静かに質問に答えろ」
 有無を言わさぬ迫力に男は頷く。ゆっくりと口から手を離すと、くぐもった声で背後から尋ねた。
「カオスの魔物の手先と言ってたな。その話をどこで聞いた?」
「てめえ、カオスの――」
「質問してるのはこっちだ」
 背中に硬い感触を覚え、男は押し黙る。
「話したくないならそれでいい――」
 背中の感触に力が篭るのを感じ、男は――。

●真実究明
 アマツはギルド内の調査をしていた。
 冒険者達に広まった噂の原因がギルドにないか。
 というよりはある可能性が高い。
 この件はギルドが内密に依頼したもので、知っている者はそう多くは無い筈だから。
「単刀直入に聞こう、ギルド内に闇が入り込んでいる可能性は?」
「ないとは言えないな」
 意を決してのアマツの問いに肯定を返すジェラード。
「しかし、石の中の蝶とか――」
「そんなもんお前達のような一部の冒険者くらいしか持っておらんよ」
 納得するアマツ。
 自分達には使い慣れた道具ではあるが、チブール商会でも取り扱っていないものがそう出回っている訳もない。
 だがそれなら、今ここで自分達ならカオスを見つけ出す事も可能なのではないか。
「勿論だ。その為にもお前達に依頼したんだからな」
「ジェラード殿はギルド内に潜んでいる事を?」
「だからないとは言えないと言っている。元々身内の腹を探るような依頼だ。お前達の身内を疑わせて自分達の身内を疑うなとは言わんよ」
 あっさりと、というよりは覚悟していたのだろう。協力者の少ない中、頼もしさを覚える。
「では、最近不審な点のある者などはいなかったか?」
「いたらもう伝えてる」
「――だろうな」
 少なくとも、ジェラードは既にそれを考慮しているのだ。
「なら他のギルド員に聞き込みをしても――」
「構わんさ。ただ、情報漏洩には気をつけてな。かき回せば困るのはお互い様だ」


「強引な真似をするね、君も」
「クロックへの反応を見たら仕方ねえだろ。それに怪我はさせてない」
「そうだな。むしろ助かった」
 人気のない酒場で情報を交換する冒険者達。
 聞かれたくない話という事もあったが、キースやサイクザエラの一件を考えても人目を忍ぶ必要があると判断した。
「――で、原因は『それ』で間違いなさそうなんだね? セイル君」
「ああ、何人かに『聞いて』みたけどな」
 クロックに襲い掛かった男を含め、他の何人かにもセイルは『聞いて』みた。
 乱暴な手段とは思ったが、敵の狙いがこちらの混乱にあるのなら早期解決が最善だろう。
 しかし、
「‥‥だとすると‥‥不自然だね‥‥」
「そう思うか」


「ではそなたが依頼の事を洩らしてしまったというのだな?」
「す、すみません‥‥そんなつもりは‥‥」
 聞き込みの末、アマツが見つけたのはまだ新入りに毛が生えた程度のギルド員。
 何の事はない。他意はなかったらしい。
 厳重に扱う筈だった秘匿の報告書を誤って他の冒険者に洩らしてしまった。
 慌てて取り繕うも問い詰められ、噂が流れた。
「なんてことを‥‥あれほど気をつけろと言ったのに」
「すみません、ジェラードさん‥‥」
「過ぎた事は仕方ない。これからどうするかだ。
 アマツ、こちらの不手際だったようだ。お詫びする」
「いや、ジェラード殿の言うとおりだ。過ぎた事は仕方ない」
 そう答えつつもアマツは違和感を感じていた。
 具体的には言えないが、何かの不自然さを。
(「なんだ? 何が‥‥おかしい?」)
「こちらの方は何とかしよう。アマツ達は本来の依頼、カオスの魔物の方を――」

「その必要はない」

●悪の正体
 ギルドに駆けつけたのはセイル達。
 既に事態は察しているらしい。
 彼等の得た情報もまた同じものだったのだろう。
「必要ないとは? まさかもう倒したのか?」
 ジェラードの言葉をセイルは否定する。
「それこそまさかだ。カオスの魔物はそう簡単に見つからない。石の中の蝶を警戒してるんだろうな」
「待て、セイル。何故私達が石の中の蝶を持っていると? いや、それ以前に何故私達が依頼を受けた冒険者だと――」
 言いかけてアマツも気付く。まさか――。
「そうだ。そこの新人さんの不手際だって事は調べたさ。けどな、そもそもなんで秘匿の報告書を新人に管理させる?」
「こちらも人手が足りている訳ではないからな」
「なら尚更だ。あんたは心当たりがあった筈なんだよ。情報の漏洩に。
 なのになんでそれを言わずに俺達に調べさせた? お陰でクロックが藪蛇をつつく事になっちまった。
 そもそも悪意をもって噂が流れ過ぎなんだよ、短期間に」
「証拠はあるのか?」
「ないね。だがどっちにしろこの件は秘密の依頼だ。俺達があんたを疑った事もここだけの話。
 そして疑われた以上はもう怪しい行動は出来ないぜ?」

 彼に最も近いアマツでさえ反応が間に合わないほど、それはいきなりだった。
 この場で最も無力な者、新人のギルド員にジェラードの手が伸びる。
 その手を止めたのはこの場に居なかった者。キースのヘルフレイム。
「―――!!」
「ギルド内で追い詰める以上、人質が一番厄介だからね。警戒してたよ」
 セイル達と示し合わせ隠密で身を潜め、ジェラードの凶行に備えていたキース。
 そしてその凶行が自供と同意義となった。

「関係ない者は避難しろ!」
 建物内でのファイヤーボムを控え、ギルド員等一般人の避難を促すサイクザエラ。
 アマツはジェラードの注意がキースに向いた隙に新人ギルド員を逃がす。
「これでチェックだな」
 セイルと共に小太刀を抜くクロック。
 包囲したかに見えた――が、
 指輪の蝶が羽ばたきだす
「来るぞ! 気をつけろ!」
 窓から一羽の鷹が入ってきた。
 それは人の形へと変貌し――。

 斬りかかろうとするキースの剣を自分の剣で受けるジェラード。
「無様だネ、ジェラード」
「言い訳はせんさ」
 ジェラードの横には山羊の角を生やした男の姿が。

「五対二だが遠慮はせぬ」
 純粋な怒りを愛刀『絶影』に込めるアマツ。
 奴等に踏み躙られた命の為にもこの二人はここで倒さなければならない。
 だが、
「任せた」
 ジェラードはカオスの魔物に冒険者を任せると非常口へと駆け出した。

●黒幕
 建物内では魔法が使いづらい。
 それが逆に功を奏したか、達人四人の前には名の知れたカオスの魔物も敗れ去る他ない。
 セイルのゲイボルクが魔物の心臓を貫き、とどめを刺した。
「すまん、ジェラードを止められなかった」
「止むを得んさ。無理に止めようとすれば君は勿論、一般人も危なかった」
 避難を優先したサイクザエラをキースが労う。
 ギルドで追い詰めた以上、混乱に乗じられるのは避けられない事だったかもしれない。
「――にしても解せないな。奴が契約主だとしても身体を張ってまで守るか?」
 本体の力を引き出していないカオスに真の意味での死はない。
 それにしても、だ。セイルは死に体の魔物に無意味と思いつつも問うた。
「‥‥ジェラードは‥‥お気に入りだからネ‥‥アイツの‥‥」
「あい‥‥つ?」
「強さじゃない‥‥その在り方がいいらしいヨ‥‥確かに変わったヤツではあるケド‥‥
 調子づくナヨ‥‥? 今ニ地獄ってのハ向こうのコトだけじゃないっテ気付く‥‥あんな奴が来てるンだから‥‥楽しみだネ‥‥」
 その言葉は確かに強がりではあったが、同時に本気の期待でもあった。
「僕モすぐニ甦ル‥‥楽しみにしてル‥‥本当に楽しみにしてルヨ‥‥

 デカラビア‥‥」