動物之御医者様
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■ショートシナリオ
担当:冬斗
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2009年11月18日
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●オープニング
「僕は将来獣医になる」
天界人、東尾君照(ひがしお・きみてる)は元農学部の獣医大生。
普段ボーッとしていると言われる事の多い彼だが、外見とは裏腹に行動力と熱意を秘め、やがて考えるようになった。
『自分がこの地に来た意味を見つけたい』
いや、アトランティス救ってくれよと誰もが思う中、それでも彼が目指した道。
獣医。
職業に貴賤はないと人は言う。
だがそれでも、天界人が――わざわざ異世界から呼び出された人間が――選ぶ必要があるほどの職種とは思えない。
君照自身、アトランティスの人間なら大抵はそう反応するであろう事はわかっていた。
だが、彼の志は一般の獣医とは一線を画したものであった。
獣医の仕事とは即ち家畜の健康を管理する事。
しかし、彼の故郷の世界ではそれとは違う、愛玩用動物、即ちペットの診察というものも含まれる。
冒険者の仕事を続けて一年余り、その経験で彼が抱いた感想は『冒険者のペットを診る者がいない』という結論だった。
牛の具合が悪くなれば獣医に診て貰えばいい。
だがドラゴンの具合が悪くなった時、
精霊の具合が悪くなった時、
それは誰に頼めばいいのだろう。
そうしてキミテルはアトランティス初のペット専門獣医師の看板を立ち上げたのだった。
それから更に一年。
期待に反して仕事に需要は追いつかなかった。
冒険者の皆が珍しい生き物を飼っている訳ではない。
それを飼っているのは大抵が高名な一流の冒険者達だ。
彼らは用心深い。
精霊や魔獣を友としているならば、健康管理にはとても気を遣う。
万一、体調が悪くなったとしても、わざわざ無名の元冒険者のよくわからない獣医を頼る事があるだろうか。
(「ないな、うん。僕なら牛や馬を沢山診ているベテランに頭を下げてでもお願いする」)
妙な所で冷静なキミテル。考え事をしながらも手は動き、冒険者のペットの猫の診察を終える。
「カロリーの取り過ぎですね。猫にあまり脂っこいものは良くありませんよ」
仕事自体はある。
こうして犬猫、場合によっては馬の面倒を診る事も少なくない。
(「いいじゃあないか。これはこれで立派な仕事だ」)
だからそれなら天界人じゃなくてもいいんだって。
だが、ある日の事、キミテルの日常は破られた。
いい意味と悪い意味、同時に。
「大変な事になりました」
冒険者ギルドに駆け込んできたキミテルの衣服はところどころが破けていた。
「僕を男にして欲しいんです。今すぐに」
「わかった、落ち着け。何があった」
真っ青な顔をして開口一番がそれである。
時たま思う。天界人はおかしな奴が多いのだろうか。
「急患が来たんです」
「さっきと随分言い分が違うなオイ」
キミテルの医院を訪ねてきたのは冒険者の一行。
昔、キミテルとも少しばかり交流のあった彼等は獣医開業の噂を聞きつけ、頼ってきたらしい。
それがつい数時間前。
「眠っていた患畜が目覚めて暴れ出したんです。冒険者達は怪我人もいるので治療に一旦帰りました。今、2人ほど残っているのですが、抑えるのがやっとです。助けてください」
「ちょっと待て」
冒険者が二人がかりって、それひょっとして猛獣の類かい?
ぐっと拳を握りにこやかにキミテルは、
「大丈夫! たしかブレスは吹かなかった筈です!」
「ふざけんな!!」
●リプレイ本文
●10m魔獣大行進
「パフェ、急ぐよ!」
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は愛馬に跨り目的地へと駆ける。
「俺達も急ごう。村雨さん、パラハさん、乗って」
続き音無響(eb4482)が連れたのはなんと体長10mに及ぶロック鳥。本来は獰猛な生き物である。危険極まりないが、響によって従順に躾けられていた。
加えてここは冒険者ギルド。この界隈に限り冒険者本人の責任により自らの従えた魔獣の同行は許可される。だがそれにしても――、
「ふええ、壮観だなあ。んじゃま、お言葉に甘えさせてっ!」
響を信頼し、ロック鳥の背に身体を預ける村雨紫狼(ec5159)。
「ほら、クリシュナさんも」
「あ、わたくしは結構っス」
クリシュナ・パラハ(ea1850)はそう言うと全くなついてない愛犬を響達に預ける。
「この仔だけお願いします。通常の三倍くらいのスピードで跳ね回るから気をつけて。
炎よ!」
クリシュナは詠唱すると魔法の炎に身を包んで空へと翔けた。
「皆も急ぐっスよ!」
『‥‥‥‥』
残された者達は呆然と見る。響のロック鳥になら細身のクリシュナくらいは問題なく乗せられたのだが。
「と、とにかく俺達も急ぎましょう。ラプラス、行って!」
「そ、そうだな。こら! 大人しくしろって! 認めろ、若さ故の過ちを!」
クリシュナの忍犬に苦闘する二人を乗せてロック鳥――ラプラスもレフェツィアとクリシュナの後を飛んだ。
「では私達も続きましょう。フッフール」
サクラ・フリューゲル(eb8317)が呼んだものは月の精霊ルーム。体長20m。別に危険極まりなくはないのだが‥‥。
フッフールは心の底からめんどくさそうに主の呼び出しに応じる。面倒事は嫌いなのだ。
「貴方に戦えなんて言いませんから‥‥」
懇願するサクラ。だが彼(?)からすれば当たり前のことである。
「後でお歌を歌わせて貰います。ね?」
渋々と折れるフッフール。女と歌には甘い。
「ありがとう。さあ、美芳野さん!」
「あ、ひなたは結構です」
さっきの魔法使いと同じような事をのたまった美芳野ひなた(ea1856)。何だ? 大ガマか?
だが彼女の取り出したるのは魔法の大凧。
非常に珍しい上に扱いの困難な為、使用者を滅多に見ないそれをひなたは装着。いや、大凧に装着されたのか?
「たまには忍者らしく現場に現れるのです。ひなたの『あいでんててー』に関わるのです」
誰もそんなこと望んでないと思うのだが――
『アイデンティティなら仕方ありませんわね』
サクラがそう考えたかは定かではないが、
「れっつごーですゥ!!」
飛んでいくひなたを見送るのはサクラと、
「‥‥フッフール、乗ってきます?」
「‥‥ええ」
何故か取り残された依頼人、東尾キミテル。
「ありがとうございます。‥‥しかし」
空から目を離したキミテルは眼前の巨大な精霊を見て、
「――やっぱり、冒険者って変わってるんですねえ‥‥」
天界人である自分もアトランティスにおいてまだまだ常識人であると痛感したのだった。
●チート過ぎる対決
「レオン! 挫けるな、ここが踏ん張り所だ!」
冒険者街の外れ、東尾診療所では二人の冒険者が歯を食いしばっていた。
向かい合うのはフィールドドラゴン一体。
一流どころならばまだしも所謂普通の冒険者二人には少々荷が重い相手だ。
「わかってるさ、グラード。ここで死ぬわけにはいかねえ‥‥」
剣を構え直すレオン。それを焚きつけるようにグラードは、
「そうさ、無事帰ってローザに告白するんだろ?」
「な、お前なんでそれを‥‥!? ふっ、だがお前の方こそ生きて帰れ。フローラが悲しむ」
「そうだな、妹の為にも俺だって死ぬわけにはいかねえんだ‥‥!」
二人の瞳には生気が戻り、口元には笑みさえ浮かんでいた。
「いくぜドラゴン!」
「見せてやるぜ、守るものがいる奴の強さってヤツを!!」
なんか危ないフラグを立てた二人の特攻を、
「てやっ! ファイヤーバードキーック!!」
エルフの少女が見事に台無しにした。
「うわ、クリシュナさんアグレッシヴ過ぎっ!?」
少し遅れてパフェを駆けてやってきたレフェツィアは唖然とした。
だが次の瞬間ドラゴンと相手の冒険者二名はもっと唖然とした。
「パラハさん!」
「ひゃあ! 無茶すんなあ〜」
続いて空から姿を現した響と紫狼。そして二人を背に乗せたロック鳥ラプラスは眼下のドラゴンの3、4倍はある。
『‥‥‥‥‥‥!!』
その巨大さにはドラゴンすらも身を竦ませずにはいられない。そして――、
「みんな待ってください〜」
後を追う大凧に乗った少女ひなた。
「メイド忍者ひなたけんざんですゥ! にんにん!」
その姿に『あいでんててー』とやらはあるのだろうか。もしかすると語尾とかにあるのかもしれない。
しかしとどめを刺したのは(何にか)その少女ではない。
「遅くなってすみません、ドラゴンは――」
依頼人キミテルを連れてやってきた月の精霊フッフール――もといサクラ・フリューゲル。
なんか戦闘前から戦意が挫けてそうなドラゴンだったとか。
●冒険者達のアトランティス獣医学講座
戦闘の方はあっけないくらいにあっさりと決着した。
戦意の挫けかけたドラゴンをクリシュナとレフェツィアの魔法で束縛。ひなたの術で無事眠らせる事が出来た訳だが‥‥。
「――しかし大きいですね。こんな大きな患畜を診なければいけないとは‥‥」
「いえ、別に怪我とかはしてないです」
クールに突っ込むサクラ。
「ていうか、無理して難しいペットを診たりしなくてもいいんじゃないですか?」
「お気遣いは嬉しいのですが――」
控えめではあるが、しかし力強くひなたに応えるキミテル。
「そこに弱っている患畜がいるのに手をこまねいているなんて――僕には出来ない」
「だから別に弱ってませんて」
「‥‥あの〜それよりはこっちのドラゴン早く診てあげた方がいいんじゃないですか?」
至極真っ当な意見を口にするクリシュナ。
「あ、すみません。では早速‥‥。
こ、これは酷い。剣の切り傷は大したことないけれど、横っ腹に直撃した火傷痕が凄まじい‥‥!」
「だから言ってるじゃないっスか! ドラゴンとはいえ痕が残ったりしたらどうするんですか!」
「す、すみません! しかしなんて酷い火傷だ‥‥まるで強力な精霊魔法で焼いたような‥‥しかしここまでの威力を目にしたのは初めてだ‥‥」
「感心してないで手当てする!」
「は、はいっ!」
厳しく指導する火のウィザード・クリシュナ。まるでベテラン医師と研修医のようだ。
「突っ込んだ方がいいのかな、村雨さん‥‥」
「やめとけ、無駄だって」
しかしドラゴンの火傷はサクラとレフェツィアのリカバーであっさりと治った。
「鱗で止まってそれほど重傷じゃありません。魔獣は生命力強いですから、見た目派手でも結構平気だったりします」
流石に伊達に修羅場はくぐってはいないといったところか。
礼を言うキミテル。
「助かりました。獣医って人間の医師と違って患者と言葉が通じませんからね。より観察眼が大事になる。
僕などベテランの冒険者の方々の眼力に比べればまだまだ未熟ですので精進しなければなりませんね」
「なら無理ない程度に冒険者を続けられたらどうです? いい獣医の勉強になると思いますよ」
「――そうか‥‥そうですね‥‥ありがとう、サクラさん。僕、やってみます」
「その意気ですわ」
「や、つーかさ‥‥キミマロ天界人だよな?」
「キミテルです」
「俺達、魔法使えるんだぜ、知ってた?」
ツッコミ返しに取り合わずに真顔で続ける紫狼。
「神聖魔法は使えませんよ? オーラ魔法は自分しか治せませんし」
「大丈夫です。ちょっと興奮状態だっただけみたいです」
ドラゴンと対話を終えた響。
「怪我の巧妙かクリシュナさんの一撃がショック療法になったようです。今は落ち着いてます」
「『結果良ければ全て良し』なんて甘えちゃ駄目っスよ? 気をつけましょうね」
堂々とのたまう女ウィザード。
「東尾さん、テレパシーは使えた方がいいと思いますよ。俺達も魔獣と交渉する時には重宝してます」
「‥‥‥‥‥‥あ」
響の言葉に天啓のように空を見上げる天界人。
「今気付いたのかよっ!?」
●精霊達との饗宴
「パフェ、プリン、キミテルさんに挨拶ね」
ドラゴンの治療も無事に終わり、依頼自体は解決した。
そして今は冒険者達の連れてきたペット達と交流を育んでいる。
「あ、こら、パフェ、ちゃんと挨拶しなってば!」
レフェツィアの愛馬・ユニコーンのパフェはとても良く主人に懐いている。
だがしかしそこはユニコーン、キミテルが近付こうとすれば全力で拒絶を示す。
『野郎に触らせる部分など産毛一本ありはせんわ』とでも言いたそうな勢いであった。
「なんか‥‥そっくりですわね、フッフールと‥‥」
心外だと拗ねてその場から飛び去るフッフール。
『野郎の吐く空気は腐食性だ』とでも言わんばかりであった。
「あっ、フッフール‥‥もう‥‥!」
溜息をつくサクラだが、飛び去っていったのは冒険者街の方角であるから心配はないだろう。
「プリンはいい子だね〜、怪我したらこのお兄さんに診て貰うんだよ」
フロストウルフのプリンの方も良く躾けられていた。人に懐かないフロストウルフとしてはかなり珍しい。
「狼は賢いと天界でも言われてます。信用されるように頑張りますよ」
『その頃までには月魔法を覚えて』と拳を握るキミテル。クセのようだ。
「つまんないっスね〜、ウチのシャアくらい聞かん坊でないと訓練にならないでしょうに」
「いや、そいつくらい暴れだしたらブレスで大惨事だから!」
ラプラスの背中で散々苦労させられた紫狼、思わず突っ込む。
「てかさ、そもそも竜とか精霊に医者って必要か? 怪我や病気とかねーんじゃね?」
そしてここにきて根本的な問題にまで突っ込んでしまった。
「病気はわかりませんけど怪我はしますわよ。現にドラゴンは怪我しましたし、この子だって――」
フッフールが帰ってしまったサクラは陽霊の女の子をキミテルに紹介している。
「よーちゃん、ご挨拶なさい。キミテルさん、何かあった時はお願いしますね」
「精霊は‥‥言葉は通じても難しいですが‥‥やってみます‥‥!」
「俺はいいぜ。ウチの嫁はペットじゃねーからな」
紫狼も精霊を連れていた。しかも二体。
「ちゃんと指輪だってしてるんだぜ」
重婚にならないのだろうかと思ってしまった響。
「お嫁さんならなおのこと何かあった時は診て貰った方がいいのではありません?」
「ん‥‥それもそっか、よっしゃキミマロ、俺の嫁の命はアンタに預けたぜ!」
「せ、責任重大ですね。それとキミテルです」
その二人――ふーかたんによーこたんはといえばひなたに服を作って貰っていた。
何故かナース服。しかもピンク。
「こんな感じでいいんですかぁ、村雨さん?」
「オーケーオーケー、忍者ちゃん、グーよ!」
指示通りに作るひなたはよくわかっていない。
ここに女性の天界人がいたらひいてたかもしんない。むしろ喜ぶか?
「服か‥‥いいですね。美芳野さん、よければ今度改めて服の依頼していいですか?」
キミテルはペット用の衣服を頼みたいようだ。
「ペットに衣服着せるのってどーなんよ」
紫狼。
お前今まさに着せてんじゃねーか。いや、ペットでないらしいからノーカンなのか。
「動物も寒い時は服あったほうがいいんですよ。メイディアは比較的暖かい方ですけど冬はやっぱり寒いですからね」
「そういうことでしたらお任せあれですぅ!」
――そしてキミテルは音無家最強の生物達と向かい合う事になった。
「‥‥一応鳥類は天界の研修で‥‥でも‥‥」
ここまで大きくはなかった。
比較的小さい『トリさん』ですらさっきのドラゴンよりも大きい。
可愛い名前をしてはいるがホワイトイーグルである。厳密には鷲というより魔獣だ。
そしてラプラスの方はもう言うまでもあるまい。
いっそフッフールのようにとっとと帰ってくれるなら安心だったのだが。――それでは訓練の意味がないだろう。
「最初は大変だったけど今は大人しくなって言う事聞いてくれるようになったんです」
そこで溜息をつく響。
「けどこの間お手をさせようとしたら危うく死にかけまして――主に俺が」
そりゃあそうだろう。
キミテルは青い顔でラプラスを見上げている。
「‥‥やめといた方がいいんじゃないですか?」
もう一度だけキミテルの身を案じるひなた。
(『俺――宇宙飛行士になりたかったんです』)
ドラゴンを抑えた後、響はなんともなしに呟いた。
(『ここだとそれは叶わないんですけどね‥‥』)
そう言って空を見る。精霊の満ちた、天体のない空を――。
(『だからキミテルさんには頑張って欲しい。俺に出来る事なら応援しますよ』)
「いえ」
キミテルはひなたに力強く応える。
「ラプラス達に何かあった時――彼等を助けるのは僕の役目です」
そして彼は意を決してラプラスの懐に向かっていった。
さらば東尾キミテル。君の勇姿を冒険者達は忘れない。
●君は将来獣医になる!(アトランティスの)
「今日は本当にありがとうございました。お陰でとてもいい経験になりました」
包帯まみれで頭を下げるキミテル。本人がそういうのならきっとそうなのだろう。
「え、えーと、怪我が治ったらまた連れてくるね」
「是非お願いします」
それでもパフェが懐くかはわからないが。
「で、ドラゴンは預かる事になったんですか?」
クリシュナの視線の先、診療所の裏手の急拵えの納屋にドラゴンがいる。
「ええ、冒険者の二人の手には余るようで。――なんならこのまま飼ってもいいかと思ってます」
「ご立派ですぅ。今度ひなた、服作ってきますよ」
「じゃあ名前もつけてあげた方がいいですわね」
「はい、実は決まってます」
まあ、と喜ぶサクラ。
「見た人が『ちょ』っと『び』っくりするような容姿だから『チョ――」
「「それはやめい!!」」
ハモって突っ込む天界人二人だったとか。