さようなら、モンテール伯(?)
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■ショートシナリオ
担当:冬斗
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月07日〜01月12日
リプレイ公開日:2010年02月11日
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●オープニング
「ドラエ、ノルマンに帰る予定ないの?」
「‥‥‥‥」
突然何を言い出すのかといった風にノビータを凝視するモンテール伯。
いや、実際に思っていた。
「ドラエって河童っていう精霊なんだよね? アトランティスには滅多にいないみたいだし、故郷が恋しくなったりしないの?」
ちなみに河童は精霊でないし、そもそもノルマン産な訳でもない。そこら辺は訂正しても仕方ないので流しておこう。
「‥‥別に、何? 僕に帰って欲しいの?」
馬鹿な子ほど可愛い理屈で、邪険にされるとちょっと傷つく。
「そんなばかな。ドラエにはいっつもお世話になってるよ。だからこそドラエに甘えてばっかりいるのは‥‥」
熱でも出たのだろうか。だとするとこれは危険だ。流行り病という奴かもしれない。馬鹿は風邪ひかないとばかり思っていたが、ノビータはひ弱だからいざかかるとポックリいってしまいそうだ。
「とにかく、帰りたくなったらぼくに言ってね。心の準備とか必要だから」
ノビータは帰っていく。わざわざそんな事を言う為にだけギルドにまで足を運んだのかあの子は。
いつもおかしな子だったが今度こそ本当におかしくなったかと心配していると、受付のカウンターに一冊の本が置いてあった。
「赤本? 天界のか‥‥」
子供向けの草双紙。天界でいうところの漫画である。というか天界のものだから漫画そのものだ。
内容は気弱で落ちこぼれの少年の元に未来からきたという猫がやってきて、未知の魔法アイテムで少年を助けてあげる話である。
「ぶっさいくなタヌキだなあ‥‥あ、でもこっちの子はノビータ君みたいだ」
ここに突っ込む者がいたなら『そのタヌキもお前そっくりだ』と言ったことだろう。いなかったのは幸せかもしれない。
何話か描かれているうちの最後の話はゴーレムが未来に帰ってしまう話だった。
少年は泣きながら引き止めるが、両親の説得もあり、別れを受け入れる。
そしていじめっ子とゴーレムの助けなしで戦い、一人で立派にやっていけるところをみせるのだった。
「‥‥あのばかは‥‥すぐその気になるんだから‥‥」
十中八九ノビータのものだろう。天界人の冒険者にでも貸して貰ったに違いない。
しかし、文字など商人や貴族にも読めない人間が少なくないのにノビータに読めたとは驚きだ。たとえ天界の『ひらがな』とかいう文字だけとはいえ。
(「自分の得する部分だけは異常に要領いいなあ‥‥」)
なんにせよ動機はわかった。
どうせすぐに飽きるだろうから放っておくかとも思ったが――。
(「チャンスかもしれない‥‥原因がなんであれノビータ君が立派になろうとしている‥‥こんな機会はもう二度とないかもしれないし‥‥」)
そうしてモンテール伯はまたしても自分のポケットマネーで依頼を出すのであった。
どこまでもお人好しな河童である。
●リプレイ本文
●スカイハイ
「あんた死になさい」
これが依頼人に対する言葉であろうか。
モンテール伯の依頼を受けた忌野貞子(eb3114)が口にしたのがそれだった。
「ま、まさかの裏切り行為ですか? 依頼人ぶっ殺して報酬山分けですかっ!?」
それは流石に拙いんじゃなかろうかと慌てる美芳野ひなた(ea1856)。
「‥‥あなた私をなんだと思ってるのよ‥‥」
じろりと友人を睨む貞子。
言ってることは正論なのだが、彼女の容姿と口調を聞くとひなたのリアクションが酷いと言える人間はそういないのではなかろうか。
「つまりドラエさんが亡くなったと告げることによって、ノビータ君の自立を促す――と、そういうことですよね?」
「わかってるじゃない、茜さんは」
「ん‥‥まあ、ひなたさんの反応も然るべきな気もしますけれど‥‥いかがですか、ドラエさん?」
水無月茜(ec4666)が振り向いたその先、カウンターの影に隠れて震えるかっぱが一匹。
「‥‥どいつもこいつも‥‥私が何に見えるっていうのよ‥‥」
黄泉路の案内人。
●KY二人
「OKOK、俺達はその小僧を上手く騙くらかせばいいって訳だよな!
しっかし、こんな中年太りのおっさんガッパの頼みを聞くってのもテンションサゲサゲだよな〜。
どうせだったら美人で巨乳のデルモ体形なメスガッパの方が‥‥」
「しつれいな!!」
村雨紫狼(ec5159)の軽口に顔を真っ赤(になるのか?)にして怒るモンテール伯。
「ふくよかと言って欲しい! 貴族社会ではこれくらいが品格の表れなんだ! やせていればいいってもんじゃない! きみたち天界人は口を開けばダイエットダイエットというがそんな貧相な身体つきを好むなんて理解に苦しむ! その癖女性には豊かな胸を要求する、なんて理不尽な!!」
いや貴方怒り過ぎ。
「‥‥よっぽど気にしていたのかしらねえ‥‥」
「ていうか突っ込むところがズレてる気がするです。村雨さん守備範囲広過ぎですゥ‥‥」
そうしてノビータの元にモンテール伯の訃報が告げられた。
「あの‥‥気をしっかり持って‥‥」
ありふれた言葉で、だが精一杯の慰めをかけるひなた。
しかし、
「そうだね!
僕がしっかり
していないと!
ドラ
エが
安心して
眠れ
ないもん
ね!」
なんか不自然にキリッとした顔になるノビータ。
「僕、一人前の冒険者になるよ!」
行ってしまった。
まるでついに望んでいた展開が来たかというように。
「うわぁ‥‥最低だな」
「最低ですね」
「最低‥‥お前が死になさい‥‥」
●本音の少年
残された4人は呆れながらも今後を話し合う。
「‥‥どうします?」
「ありのままを話すしかねーんじゃね? とっても最低な反応の片鱗を味わったぜ、って」
「そ、それはいくらなんでもモンテールさん可哀想ですよぉ!」
「つったって事実だしなあ」
「あうぅ‥‥」
三人が困っている中、溜息をつく貞子。
「‥‥仕方ないわね、もう少し待ちましょう‥‥どうせすぐよ‥‥すぐ‥‥」
四人の中で最もノビータとの付き合いの長い貞子。彼の行動はお見通しであるようだ。
比較的自由な冒険者ギルドといえども明らかに能力の劣るものに依頼を任せるような事はしない。
ノビータの最も高い戦闘スキルは射撃初心者の下の下。一般スキルではなんとかあやとり(ありません)研究家レベル。他はなし。
これで依頼を任される方がおかしい。
「ドラエ‥‥ドラエ‥‥そっか‥‥もうドラエはいないんだ‥‥」
うちひしがれるノビータ。
「いや、早過ぎるだろおい!」
「あの、まだ半日経ってないんですが‥‥」
物凄い挫折っぷりである。
「と、ともあれこれから計画再会ですね」
「‥‥もう放っておいてもいいんじゃね?」
「だ、駄目ですよっ! ドラエさんに頼まれたんですから」
投げかけの紫狼を茜が宥めつつ、貞子とひなたは準備を開始する。
「‥‥じゃあ私、骨付き豚肉買ってくるわね‥‥くくく‥‥」
「なければ牛肉で」
「‥‥駄目よ、豚肉じゃなきゃ」
「えー、牛肉の方がいいですよー」
どっちでもええわい。
●帰ってきたモンテール伯〜奇跡を起こした冒険者達〜
ノビータは教会でモンテール伯の遺体と対面。
「‥‥カオスの魔物と戦闘になってね‥‥焼かれてしまったの‥‥」
しんみりと――普段からしんみりとしてはいるが――ノビータに告げる貞子。
「そんな‥‥ドラエェェェーーーー!!」
不謹慎なはしゃぎ方をしていたノビータもようやく事を理解するに至ったようだ。
(「やっぱりモンテールさんを頼りにしてたんですねぇ‥‥」)
騙しておいてほろりとしているひなた。今更遅いわと突っ込まない分、優しいのかもしれない。
(「‥‥それはそうと、なんで遺体があれなんだい?」)
あれとは勿論焼け焦げた肉遺体。原形を留めないほど焦げてて河童か豚か牛かさえ判別つかない。
(「モンテールさんに遺体役をやって貰うのは流石に気が引けて‥‥」)
(「‥‥人の死に方を黒焦げ遺体にするのは気が引けなかったのかい?」)
というかここまで原型を留めていないのに遺体にこだわる必要があったのだろうか。もう『遺体は残らなかった』でも構わない気が。
(「それだとノビータさんに実感がわかないかもですゥ」)
確かに衝撃は受けているようだ。子供にここまでしてトラウマにならないかと危惧するくらいに。
(「そういう事ですゥ、ではスイッチオン!」)
すると静かな教会内に琴の音が流れ、それに合わせて女の歌声が――。
(「えええぇぇーーーーー!!?」)
いくらなんでも不自然過ぎる。
この歌声が茜のメロディーの魔法だという事はモンテールもわかっている。
確かにメロディーには精神を揺さぶる効果がある。
しかし催眠術をかける訳ではない。このタイミングのメロディーなどあからさまに意図的過ぎて――、
「うわぁぁぁーーーん!! ドラエ! ドラエェェーーー!!」
あ、効いてる。
大丈夫だろうかこの子。騙され易いにも程がある。
今更ながら不安になってくるモンテール伯。
(「それだけモンテールさんの死がショックなんですよ」)
(「あ、うん、そうだね‥‥きっとそうなんだろう」)
やっとみつけてくれたのかしら 昨日なくしてしまったものを
どんなものだかわからないけど かけがえのないものだと
茜が歌うのは天界のアレンジ曲。なんでアレンジかというとなんかいろいろ怖いとかなんとか。
別れを演出する名曲だとか。
「一人で頑張るんじゃなかったのか? 河童のおっさんを安心させるんだろ?」
泣き伏すノビータの肩に手を置く紫狼。
「でも‥‥だって‥‥」
やはりまだまだ子供。気持ちの整理がつかないのだ。
「ねえ‥‥ノビータ‥‥ドラエさんはあなたの成長を楽しみにしてたわよ‥‥。
いつもあなたと依頼を果たしてきた帰りにはね‥‥聞くのよ‥‥あなたのことを‥‥ちゃんとやれたか、迷惑はかけてないか、って‥‥依頼の成功を聞くとそれはもう嬉しそうにしてたわ‥‥」
実は半分――いや、7割は嘘ではなかったりする。
元腕利きの冒険者ではあるもののノビータには本当に甘いのだ。
「あなたの言うとおりよ‥‥あなたがしっかりしていないとドラエさんは安心して眠れないわ‥‥」
いつも身の毛もよだつほどの貞子の表情が今日は優しい。
「なあ、小僧、俺もマンガ好きだぜ。猫型ゴーレムのマンガ名作だよなあ。
あっちの小僧は頑張ってたぜ。お前もどうよ?」
紫狼はノビータに新たな一冊を渡す。主人公が死んだ祖母と再会して頑張りを決意する回だ。
「僕は‥‥僕は‥‥」
「――私達ね、これから依頼があるの‥‥行く?」
微笑む貞子。まるで優しいお姉さんみたいだ。
想いをひびかせ 想いをひびかせ
あしたをめざして
狙ってるようにメロディーでノビータの琴線に触れる。
いや実際狙っている訳なのだが。
ノビータが涙も拭わず立ち上がる。
「僕‥‥やるよ、だから安心して見ていて、ドラエ――」
「よく言った! それでこそ男の子だぜ!」
ぱぁんと背を叩く紫狼。心が通じ合ったのかちょっといい話っぽい。
(「よかったですゥ‥‥」)
(「立派になって‥‥ん? あれ? ちょっと待った! これって僕は死んだまま!?」)
今更気付くモンテール伯。
(「あ、いっけない、そうでした!」)
(「まったくもう、ひなたさんもうっかりさんなんですから――」)
歌い終わった茜がシャドウフィールドで教会の三人を包み込む。
「な、なんだ一体これは!?」
「何が起こったというの‥‥突然暗闇に‥‥!」
(「わ、わざとらしい‥‥」)
そんな二人の演技もノビータには効果抜群だったようだ。暗闇に慌てている。
そして闇が消えた時、棺にモンテールの遺体はなかった。
「ド、ドラエ! なんで‥‥!?」
「よくぞ決意してくれましたっ、少年!」
そこに現れたのは――、
「ぱ、ぱすてるピンクッ!?」
(「な、なんでそんなところだけ無駄に記憶力いいんですかっ!」)
白のスクール水着にオモチャのようなファンシーな魔法ステッキ、というかオモチャだ。
こんな姿天界人から見てもそうそう忘れる訳はないが、名前までしっかりと覚えられていたようだ。
「ピ、ピンクがやったの? ドラエの身体を! どうして!?」
なんかもう愛称までつけられていた。
「月道の秘密を守ってくれたモンテールさんとノビータさんにご褒美を届けにきました」
「ご褒美‥‥だって‥‥?」
シリアスな表情で聞き返しながら右手には携帯でスク水ひなたを激写する紫狼。
(「な、なに撮ってるんですか〜〜!!」)
抗議したいが演技中なのでそうもいかない。我慢して続ける。
「そ、そうです。月道とはこの世界を異界と結ぶ門。チキュウやジ・アースは勿論、カオス達の世界や精霊界と結ぶ事も可能なのです!」
なんかもっともらしいことのたまうぱすてるピンク。
彼女の創作なので本気にしないように。
「ど、どういう事だ!?」
くわっと目を見開き右手は携帯を操作し続ける紫狼。
「‥‥つまりは精霊界に召されるドラエを呼び戻す‥‥ということかしら?」
助けない貞子。
「ほ、本当に‥‥?」
「あうう‥‥本当はしてはいけないんですけど、決意したノビータさんのために特別です‥‥」
茜がノビータにイリュージョンをかけてひなたの姿を光に包む。
(「さあ、ぱすてるピンク、二段階変身です!」)
それにしてもこの茜ノリノリである。
幻の中、ひなたは人遁の術を使用。
光に包まれた少女の手足がすらりと伸び、腰は細く、胸は豊かに膨らみ――、
「ピ、ピンク‥‥!」
「すげえぜ、魔法少女! まるで21歳みてーだ!」
お前わざと言ってるだろう。
「げ、月道妖精の反魂の魔法、お見せしますですゥ‥‥」
ちょっぴりと額に青筋が浮かんでいる気がする美芳野ひなた。実年齢21歳。
ステッキを振るうと周囲は再び闇に包まれた。
「こ、これじゃ写メが撮れねえ!」
困るとこそこか。
そして闇が払われたそこには――
「ドラ‥‥エ‥‥!」
「ノビータくん‥‥」
「『うれしくない。これからまた、ずうっとドラエといっしょにくらさない』ってヤツかな」
マンガ本を片手に照れくさそうに茶化す紫狼。
「よかったですねえ。素敵な光景です」
メロディーはもう不要とばかりに姿を現す茜。だが視線はひなたの方を向いているのは気のせいか。
「どうする? ノビータ。依頼‥‥いく?」
モンテール伯は生き返った。
その上で改めてノビータに問う貞子。
ノビータは、
「――うん」
力強く頷いた。
「ドラエ、僕、みんなと行ってくるよ。一人前の冒険者になる為に」
「甘やかさねえからな、覚悟しろよ」
「ふふ‥‥久し振りにノビータ君と冒険ですね」
三人に連れられ駆けていくノビータの後ろ姿を眺めながら
「やれやれ、一体いつまでもつのか‥‥」
「――でも悪い気はしてないんでしょう?」
くすりと笑うひなた。人遁を解いてないのは結構気に入っているのか。
「‥‥そうだね。また迷惑かけちゃうかもしれないけれど――よろしく頼むよ」
「お任せです。冒険者はどんな依頼でも受けちゃいますよっ!」
冷たい空の下で、
少年はちょっとだけ早い春の到来を迎えていた。