天界(そら)のおとしもの

■イベントシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月21日〜01月21日

リプレイ公開日:2010年05月04日

●オープニング

 それは青空を舞っていた。
 薄い、奇妙な布だった。
 近くで見ればとても良質な素材だとわかるだろう。
 小さい穴が二つと大きな穴が一つ。
 フリルがついているところからすると貴族の持ち物かもしれない。
 風に流されるであろう軽さは感じられたが、それでも地に落ちない程には見えない。
 なのにそれは空を飛んでいた。


「カオスの魔物の仕業です」
 なんでもかんでもカオスのせいにするのはどうかと思う。
 依頼を出したのはジ・アースより来たクレリック。
「天界の友人に聞きました。あれはとてつもなく邪悪な布です」
 なにを教えたのだろう、その友人は。邪悪っていうか‥‥まあよこしまではある。一部の特殊な天界人にとってはだが。
 ちなみによこしまとは邪という意味だ。横縞という意味ではない。純白だ。天界では縞もブームと聞き及ぶが。

 ――ここまで言えばわかるだろうか。
 ジ・アースでいうところの『褌』に該当するアレである。違うのは布の質と主に女性用であること。
「あんなものが飛んでいては人心を乱します! 至急成敗してください」
 ん、まあ確かに一部の人心は乱れるかもしれない。


(「は、はわわ‥‥なんでなんで?」)
 飛んでいたのは一羽の妖精、シェリーキャン。
 たまたま珍しいものをみつけてはしゃいでいた。
 天界人の落とし物だろうか。変わった綺麗な布と指輪。
 指輪は嵌めると姿が消えて楽しかった。
 そのまま綺麗な布を運んでいたら騒ぎになった。
 イタズラ大好きな彼女だったがある程度は空気を読めるようで、
 なんか大変なことになっているのを理解したようだ。


 そして噂はカオスの魔物にも広がった。
「聞いたかおい、おかしな魔物が現れたってよ」
「冒険者が血眼になって追っているらしいぜ」
「それは凄えな、どんな大物だ?」
「俺、知ってるぜ。あれはニンゲンが穿くモノらしいって――」

 カオスの噂も侮れぬものなのか。
 彼等の間に
『人間の履き物には魂と同じくらいの価値がある』
『かぶって飛べば魔力が上がるらしい』

 そんな噂がながれてしまった。

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ 伊達 正和(ea0489)/ アマツ・オオトリ(ea1842)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ キース・レッド(ea3475)/ シャクティ・シッダールタ(ea5989)/ 忌野 貞子(eb3114)/ 音無 響(eb4482)/ 越智 一見(eb5351)/ ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ 鷹栖 冴子(ec5196

●リプレイ本文

●『ながれてしまった』じゃねーよ
 シェリーキャンはパニックに陥っていた。
(「はわわわわ! な、なんでこんなことに〜〜〜!!?」)
 自分を追う冒険者が一人や二人ではない。
 しかもそれらは本来彼女の知っている『イタズラな妖精さんを捕まえちゃおう♪』などというちょっぴりハラハラドキドキな空気とは明らかに別物だった。
 強いて言えば

『貴様だけは許せねえ‥‥街を、人を、俺達の大切な愛する者達を一体何の権利があって奪うんだ!? 殺す。俺の命と引き換えにでも――!』

 とでも喩えようか。
 いや、勿論言い過ぎなのだが。お気楽極楽のシェリーキャンにはそれくらいに映っていたということで。
 だから彼女も本気で逃げる。泣きながら。
「くっ‥‥空を飛ぶとは狙い難い‥‥」
 人心を惑わす元凶を解決すべく乗り出したアマツ・オオトリ(ea1842)だが、空中を嘲笑う様にひらひらと舞う布に苛立たしげに爪を噛む。
「任せておきな、アマツさん。ああいう手合いは得意とするところだ」
 鯉口を切る伊達正和(ea0489)。居合い一閃、斬撃が舞う布を襲う。
 だが、寸でのところで躱された。
「おのれ‥‥小馬鹿にするか‥‥!」
「悪意を感じるな。俺のなまくらなどかすりもするかとでも言いたいのか‥‥」

(「ひい! 死ぬ! 死んじゃう!!」)
 必死で逃げ回るシェリーキャン。
 しかし悲しきかな。ひらひらと舞う布切れとその布切れ独特の愛らしさが働き、見ている者からは紙一重で躱して嘲笑っているようにしか映らない。
 互いの激しい誤解の末、悲しい逃走劇は終わらない。


 そして彼女を狙う冒険者は退治目的の者だけではない。
「あれは『パンツ』って言うんです。天界の下穿き――腰巻みたいなものですよ」
「待った! 説明するんなら『ぱんてぃー』って言うべきだぜ!」
「ど、どっちでもいいと思うんですけど‥‥わかりました、じゃあパンティーで」
 実にくだらない論議を醸している村雨紫狼(ec5159)と水無月茜(ec4666)。
 だが茜の説明により、人心を惑わすものの正体は明らかとなる。

「可愛らしいですぅ。ひなたも穿いてみたいですぅ」
「それより売るんだよ。一枚あれば解析出来る。量産して一儲けだ。『若葉屋』再興の一手になるぜ!」
 目をキラキラ輝かせる美芳野ひなた(ea1856)とギラギラ輝かせる巴渓(ea0167)。
「勿論、モデルはお前だ、ひなた。お前が穿いて宣伝するんだよ」
「えぇ〜っ!? そ、そんな‥‥恥ずかしいですぅ!」
「馬鹿野郎! ビビってどうする!? 若葉屋再建の為、文字通り一肌脱ぐんだよ!」
「わ、わかりましたっ!」

「あたいもパンツを追うよ! 替えがなくって困ってたんだ!」
 鷹栖冴子(ec5196)34歳。えらく現実的な理由で参戦決定。
「あたいみたいなおばさんが穿くようなデザインじゃないけどね。たまにはお洒落もいいもんさね」
 わかってるなら穿くなと言いたい。てゆーか30前半はおばさんじゃねーぞと歳の近い記録係は主張したとかなんとか。どうでもいいので割愛。


 更には悲運の妖精を狙うのは冒険者だけですらなかった。
『冒険者の穿き物を被ると次期皇帝の座が約束されるらしいぜ』
 どこまで話が大きくなるのか。

「きゃあっ!?」
 シャクティ・シッダールタ(ea5989)の下穿きがカオスの魔物に狙われる。
「貴様ァッ!!」
 正和の降魔刀が怒りと共にカオスを斬り裂く。
「正和さんっ!」
「大丈夫だ、シャクティ。俺が君を守ってみせるよ」
 愛妻に寄り添いて微笑む正和。
「クラァ! イチャつくんなら街に戻ってやってくれませんかねェ?」
 これみよがしにカップルに毒づくクリシュナ・パラハ(ea1850)。
「あ、いや、お恥ずかしい」
「‥‥つって、ちっともお恥ずかしそうじゃないんスけど‥‥。
 シャクティさんっ! 戦場で赤らめるのは全身にして貰えますか?」
「ぜ、全身ってそんな‥‥!」
「違ァーーーうッ!!」
 頬を染めるシャクティにブチ切れ、炎の精霊力を召喚。
 シャクティもそこに来てクリシュナの言いたいことを理解し、スクロールを取り出す。
「火鳥変化!」
「Wファイヤーバード!」
 二匹の火の鳥が宙を舞う。
「さあ、行きますよ、シャクティさん!」
「ええ、クリシュナさん!」

(「な、な、な、なにあれなにあれ!?」)
 穏やかどころではないのが当のシェリーキャン。
 断っておくと、ここに集まったほとんどはカオスや恐獣らと戦い、地獄の戦場を駆け抜けた、冒険者の中でも指折りの達人たちだ。
 揺らめく火の鳥。あれに掠っただけでも彼女の儚い命は消し飛ぶであろう。
(「せいれいさまー! 冒険者さまー! もうわるいことしませんー! たすけてー!」)
 ならばパンティーを捨てればいいだけのことなのだが、混乱する彼女はそれにも気付かない。

●と裸舞流
 ただし、狙われたのは歴戦の冒険者達だけではない。
「きゃーっ! ちょっとぉーっ!」
「いやぁーんっ!」
 どこの少年漫画雑誌か。黄色い悲鳴が飛び交っている。
 犠牲になっているのはカオスの魔物など戦ったこともない、『普通の』冒険者。
 そして冒険者ですらない一般人。
「やだちょっとだめぇーっ!」
 何がだめなのか。うらやましくなんかねえぞこんちくしょう。
 そんな大変けしからんカオスを真紅のレイピアが成敗する。
「大丈夫かね? お嬢さん方」
 颯爽と現れるキース・レッド(ea3475)。
「君らにカオスの相手はまだ早い。避難していたまえ」
 クールに決める金髪青年。むかつくなあこのやろう。
 だがキースにもカオスの魔の手は平等に伸びる。
「お前の下穿きも寄越せぇぇぇ!」
 なんと趣味の悪い。
 しかしカオス達は真剣だ。
 彼等は女の子の下穿きが欲しいのではない。
 男のものでも構わないのだ。
 ‥‥訂正。冒険者の下穿きに価値があると信じているのだ。
「――ハッ!」
 そんなカオス達を女の子を救う時よりも気合の入った刃で斬り裂くキース。
「それは勘弁願いたい。あらゆる意味でね。僕には愛する妻がいるんだ」

「つ、強ぇ‥‥」
「ならあっちの女だ!」
 男はやはり手強いとカオス達が次に狙うのは黒髪の女。
 この女なら大丈夫。何故か? 懐かしい匂いがするから。
 彼等の生まれ故郷と同じ匂いが彼女からしたから。だから安心だ。
「そりゃああ!!」
 余程テンパっていたのか、およそスカートをめくるものでないかけ声で叫ぶ。
 スカートの中は――見えなかった。
 その前に、忌野貞子(eb3114)のアイスコフィンがカオスを封じていたから。
 彼等は夢の中、かつての生まれ故郷へと誘われているだろう。

「も、もうやめようぜ‥‥」
「待て、あっちにもう一人いる。あの女ならいけそうだ!」
 カオス達は大人しそうな栗毛の美女を狙う。――この状況で『大人しそう』は死亡フラグだとも気付かずに。
 腰元に迫るカオスは三叉槍で地面に縫い止められた。
「グエェェッ!?」
「――今、ナニをしようといたしました?」
 眼鏡を直しながら、静かに問いただすベアトリーセ・メーベルト(ec1201)。
 透き通るようなその声が、カオス達には何故か地獄の業火よりも禍々しく聞こえていた。
「今、私の、腰のものを、脱がそうとしましたか? カオスの分際で?」
 言葉を切るたびにザクッザクッと鈍い音がする。
 もうやめて! カオスのライフはとっくに0よ!


「アトランティスに‥‥パンティー‥‥だと‥‥?
 ――まさか、和美さんの!?」
 頬を赤らめながらも緊張の面持ちを見せる器用な音無響(eb4482)。
 とゆーかお前の中では、アトランティスに地球人の女は和美さんしかおらんのかい。
 急ぎ、響は工房にゴーレムグライダーの使用許可を求める。
「和美さんのじゃないかもしれません! でも和美さんのだったらエラいことですっ!」
 なにがどうエラいことだというのか。


 越智一見(eb5351)は天界の文献を見ながら冷や汗を浮かべる。
「何かわかったのか、オチ!?」
 冒険者仲間が険しい形相の一見に問い質す。
「岬を巡り、徐々に巡航速度を上げて逃亡する天界の下着‥‥。
 これは『アトランティスの旅を終えて天界に帰る』為の秘密を記したメッセンジャーだったんだよ!!」
『な、なんだってーーーー!!?』
 ノリいいなあ、お前ら。
「こうしちゃいられない。私もアレを捕獲に行くわ」
「だ、大丈夫か? なんでもカオスの魔物が手当たり次第に下着を剥ぎ取っているらしいぞ」
「心配ないわ。紙幣を糊付けして前張りにしてる」
 恥じらいをもて貴様。‥‥持ってるのか?


 カオスの魔物は次第に数を増していく。
「チィッ、なんだこの数は。あの腰巻には魔物を引き寄せる力まであるというのか!?」
 舌打ちするアマツ。
 だが地上の魔物達であれば恐るるに足りない。
 愛刀『絶影』が闇を裂く。
 まさにその名の通り影すら残さずに。
「!? 貴様! 何をする!?」
 裾に手をかけるカオスを怒りと共に斬り捨てる。
「私の下穿きまで狙ってこようとは‥‥不埒な‥‥」

「のわー! いやーん! おムコにいけなーい!」
 紫狼のズボンをも引き下ろすカオス。いや確かにカオスだ。
 精霊――もとい嫁のよーこ&ふーかを庇っての犠牲のようだ。ある意味男らしいのか。
「ぎゃー! そこだけはらめええええ!!」
 カオスが目的の下着に手をかける。
「よーこたん、ふーかたん、見ないでえええ!」
「トチ狂ってんじゃないよ、スカンピン共がっ!」
 紫狼の貞操の危機をハンマー一撃、冴子が救った。
「さ、さんきゅー、おばちゃん」
「まったく、いい歳した魔物が手当たり次第にパンツ狙うなんて世も末だよ」
「‥‥言葉の意味はわからねーけど、良くない事態だってことはわかるぜ。
 カオス共も狙うなら幼女を狙いやがれ、嘆かわしい」
「‥‥あんたも充分嘆かわしいよ」

「キャーッ、誰かーッ!」
 茜にもカオスの魔の手が。
 ムーンアローで迎え撃つも、いかんせん数が多い。
 というかこんな数のカオスがどこにいたのか。そんなにわらわら出るものでもない筈なのだが。
「おっと、そこまでだ!」
 紫狼の二天一流が茜のピンチを救う。
「あ、ありがとうございます。紫狼さん」
「いいって。‥‥それより、やっぱり着物の下って‥‥」
「穿いてますっ!」

 騒ぎは次第に大きくなる。
 そうなるといつまでも未遂では終わらない。
「やめてくださいぃっ!」
 メイド忍者ひなたのスカートの中の褌がカオスの手にかかっていた。
「それは若葉屋の由緒正しき‥‥でなくって、だめぇ!」
「そうだ! それでこそカオスの魔物だ!」
「な、何してるんですか、紫狼さぁん!」
 ローアングルで携帯を構える紫狼
「いい加減にしな!!」
 冴子のハンマーが不埒なカオスを不埒な天界人ごと吹き飛ばした。
「全く‥‥冗談はよしこさんだよ」
 だからいつの時代の人かあんたは。

 ひなたに群がっていた魔物の一匹は命からがら逃げおおせる。
「くそっ、あと少しで素晴らしいものが‥‥!」
 このカオス、他のもの達と違い、女性限定で下穿きを狙っていた。
 つまりはそういうことだ。
「強い冒険者達を狙うからやられるんだ。隙がありそうな奴を‥‥!」
 そうして、非武装の天界人を発見する。
 一見だ。
(「こいつだ! こんどこそ貰ったぜ!」)
「‥‥きゃ!?」
 段々手馴れてきたカオスは問答無用で下を剥ぎ取り、下着に手をかけた。

 むにゅ。
「‥‥なんだ、この生暖かい感触は‥‥?」

「それは音無さんのおいなりさんよ」

「「いやああああああああああああ!!」」
 二つの叫びがこだました。

「なんてことするんですかっ!」
「だって私おいなりさん、ないもの」
 そういう問題か?

●感動巨編・涙の大団円
「シフールかなんかが魔法で姿消して飛んでんだろ」
 言っちゃったよ、渓。
 実際はシェリーキャンなのだが、姿を消す月魔法はシェリーキャンには使えないので妥当な推理ではある。

「おーい! 俺達ゃ取って食いはしねえから降りてこーい!」
 そうは言ってもこの状況でまともに話を聞くだけの胆力を持ち合わせる輩はそうはいない。
 ついでに一つ誤算があった。
 冒険者も飛脚もやれるシフールと比べ、交渉可能な程は人間馴れしていないのだ、シェリーキャンは。
 あくまで人間の目を盗み、イタズラを働く関係。
 この場合イタズラよりもっとタチの悪い目に遭ってはいるのだが。
「――しゃあねえなあ‥‥」
 助っ人を借りるしかなかった。

「怯える妖精を追い立てるのはわたくし気が進まないのですが‥‥」
 勿論、さっきは知らないでやってしまったが正体がわかれば話は別だ。
 シャクティ同様、クリシュナも異を唱える。
「わたくしのビームで焼き鳥はちょっと可愛そうです」
 いや、鳥じゃないし。あとビームとか出ないから。
「まあ、そういうな。こうは考えないか? ピンチの妖精を助けてやろうと。多少荒っぽいのは緊急避難だ」
「正和さんがそうおっしゃるのでしたら‥‥」

「‥‥待ちなさいなぁ‥‥その下着は私が貰うわよ‥‥」
(「ひぃぃぃぃ!!」)
 地上を追っているだけでここまで妖精を怯えさせるのはある意味天才だ。
 貞子から逃げるシェリーキャンを二匹の火の鳥が囲む。
(「はわっ!?」)
「傷つけないように‥‥ですわよ?」
「了解っス!」
 それでもあさっての方向に向かおうとするパンティーもといシェリーキャンを正和のソニックブームが牽制。
 正体のわかった三人は当てないよう細心の注意を払う。
「ストレスだろうが‥‥もう少しの辛抱だ‥‥」

(「はわあああああ!! もうパンカビさせたりしません! みんなの為に真面目にお酒造ります! だからたすけてーーー!!」)

 恐慌状態の彼女を――ふわりと優しい腕が抱きとめる。
 火の鳥の影に隠れながら近づいた機影。
「やっと捕まえた」
 慈しむように響は涙目のシェリーキャンを捕らえたのだった。

「やれやれ、最後はいい話だな」
 空を見上げて渓はぽつりと呟く。


「――もう‥‥離しません」
 シェリーキャンからそっと離した白い布切れを、響は慈しみ頬で抱く。さらにこすりつける。
(「和美さん‥‥」)
 あまつさえ匂いを嗅いでいる(ようにも見える)

 その光景を――、
『うわあ‥‥』
 その場の冒険者達は皆、目の当たりにした。

「イイハナシネー」
 生暖かい目で見守る一見だった。