冒険賛成〜アリオ・ステライドの城下町〜
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■ショートシナリオ担当：冬斗 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや易 成功報酬：4 G 98 C 参加人数：4人 サポート参加人数：-人 冒険期間：03月12日〜03月17日 リプレイ公開日：2008年03月20日 |
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●オープニング
人助けに探し物、難事件から珍妙なトラブル。冒険者ギルドには様々な内容の依頼が持ち込まれる。
この日やってきた少女もそんな依頼人の一人だった。
「私を冒険者にしてください」
ステラと名乗った少女はギルドの依頼にもあまりに不釣り合いな程の金貨を用意し、そう言った。
「ええと、ギルドに加盟したいという事でしょうか？」
受付は戸惑う。
だってその少女は『冒険者』と名乗るにはあまりに、なんというか、垢抜け過ぎていたから。
「ええと、それもありますけれど――私に冒険を教えて欲しいんです」
要約するとこういう事らしい。
つまりは彼女は只の一般人。
だが冒険者になりたいという。
そのレクチャーを依頼したいという事だ。
「貴女、得意な分野とかはありますか？
体力はある方？」
「水汲みのエドに腕相撲で勝ったことあります。
家の使用人の子の中では一番強いの」
明らかに接待だろう。
だが、少なくともスプーンより重いものは持てる自信がありそうだ。
「剣術は？」
「やった事ありません‥‥」
「知識は？」
「本は好きです。色々読みました」
「――ないと思うけれど魔法は？」
「以前、父のお呼びした冒険者さんのを見た事は‥‥」
まあ、要するに――、
これといった長所の見当たらない普通の女の子という訳だ。
強いて言えば、顔と礼儀作法は悪くない。
姓も名乗らず、身分を隠しているようだが、貴族階級である事もわかる。
それも全く隠せていないところからみると、かなり世間知らずのようで。
それでも、
彼女が冗談や気紛れで依頼をしている訳ではないという事は見てとれた。
地元の人間ではないようだが、貴族の令嬢が供もつけずに金と最低限の荷物だけでこの町までやって来た。
ここまでの移動は馬車だそうだ。
自分のではない。隊商の馬車に乗せて貰ったと。
「‥‥家の人は――認めているの？」
ここまでの会話で受付はなんとなく察してしまった。
だが、それでもこれは確かめておかねばならない事だから。
「――家族は――いません――もう――」
「――わかりました。
依頼を受け付けます」
新たな依頼書を一枚作成する。
『新人冒険者の育成』
ひそかに頭に『ド』をつける事を忘れずに。
「ありがとうございます！
冒険はまだ出来ないけれど、きっと覚えます！！」
●今回の参加者
ea0439 アリオス・エルスリード（35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国）ea1587 風 烈（31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国）
ea3063 ルイス・マリスカル（39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国）
eb0754 フォーリィ・クライト（21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国）
●リプレイ本文
●冒険者入門「冒険者がなにかとつきつめれば、
――ギルドに加盟を認められさえすれば誰でも冒険者、といえましょう」
ルイス・マリスカル（ea3063）が、まずは結論から。
「――それは――私でも？」
「ええ」
ルイスは『新人冒険者』ににこやかな笑みを浮かべ、
「ギルドに持ち込まれる依頼も様々、解決法も様々です。
失せ物探しなど、根気と地道な努力が解決に繋がるものもあります。
また、危険が伴う依頼――例えば、狼が出る森を通る旅人の護衛を頼まれたとして、襲い来る狼を片っ端から蹴散らすのも一法ですが。
狼の習性を熟知し、遭遇を避けることができれば依頼人は喜ぶでしょう」
一つめの場合、『失せ物』がなんなのかにもよるが、技術云々よりも人手やコネの為に依頼をされる事も多いだろう。
二つ目だと、時には冒険者よりも森や獣に詳しい人間も多い。猟師とか。
つまり、
「冒険者は武術、魔術を修めた者に限りません。
自分の技能を活かし、依頼人が満足するかたちで依頼を解決するのが冒険者です。
今の貴女でも、例えば書で得た知識を活かせれば優れた冒険者となりうると思います」
ルイスは言っているのだ。
『つもりがあるのならば今すぐにでも冒険者。
あとは貴女次第だ』と。
「私の――技能――」
ステラは何度もそれを反芻する。
その眼には希望。
「しかし、武術、魔術は必須でないといえ、会得していた方が請けられる依頼の幅が広がるのも事実」
そうして、
ステラの職業相談が始まった。
●きっと覚えます！
そうして――ルイスが薦めたのはファイターへの道。
「魔術の習得は時間がかかりそうですので、私としてはすぐに冒険者として身を立てるのであれば、実践の中で身につく武芸の道をお奨めします」
そう彼が薦めたのは彼自身がファイターだった故か。
「武芸――」
実際は楽な道ではない。
剣で身を立てる事とて実際は魔術を極める苦労となんら変わりはない筈。
だが、優れたファイターであるルイスの言葉ともなれば、俄然厚みも出よう。
「あたしもファイターがおすすめ」
賛同したのはやはりファイター、フォーリィ・クライト（eb0754）。
「体を鍛える事が上達につながるから感覚としても理解しやすいし。
何よりファイターは多いからね。先輩の助言が聞きやすいわ」
「は、はい！」
先の事が何もわからないステラにとって、『わかりやすい』は効果てきめんだったようで。
「――水を差すつもりはないんだが――」
アリオス・エルスリード（ea0439）はレンジャー。
万能型としてある意味最も冒険者らしい職業。
当然、本人の能力も――高い。
「俺は鎧騎士もいいんじゃないかと思ってる」
鎧騎士。
ジ・アース出身でレンジャーの彼には縁の薄い職業の一つ。
だが、今回職を選ぶのは彼ではない。
「鎧騎士――ゴーレムですか‥‥」
戸惑うステラ。
『ゴーレムに乗る』という行為が彼女にハードルの高さを認識させているようだ。
しかし、アリオスの思惑はそれとは逆だった。
「ゴーレムに乗ればある程度未熟でも戦力になれること、
そして成長すればゴーレムに乗らなくても戦力になれる。
今から身体作りをするよりは、そちらの方に手を伸ばした方が結局は伸びるんじゃないか？」
一理はある。
剣を振ればファイターと言えるものではない。
使いものにならなければならない。
「新米鎧騎士の冒険者もいるから、冒険者としても問題はないだろう」
「――――」
考えてもみなかった事だ。
冒険者といえば剣と魔法で何かをする人だった。
というか自分も冒険者をやるならまずは剣だと思っていた。
理由は単純。自分は魔法もゴーレムも使った事がないからだ。
最後に風烈（ea1587）。
「俺もそのどちらかだな。
ゴーレムに乗りたいなら鎧騎士。ゴーレムなしでも戦いたいならファイター」
「いえ、ゴーレムに乗りたいわけじゃ‥‥」
「っと、すまん。
『どっちがやりやすそうか』って事だよ。
ステラさんにも目的とかあるんだろ？
その為にはどっちを選ぶべきか――ってね」
『目的』
その一言に反応を見せるステラ。
そして確信した。
彼女には『目的』があると。
憧れだけではないのは明らかだ。
おそらくは貴族なのであろう彼女が姓を名乗らない事からも、何か事情があることは推察出来る。
「明日は酒場やギルドを案内させて貰うよ。
職業については今晩ゆっくりと考えるといい」
一通り顔合わせが済んだところで烈がまとめる。
これ以上はステラに負担がかかるだろう。
見れば長旅の疲れは抜けていないようだ。
フォーリィもそれに賛同。
「装備も揃えましょうか。
職業によって変わるけれど、どれにしたって絶対に必要だから。
あたし達が見立ててあげる」
「本当ですか？
色々御親切にありがとうございます！」
「いいのいいの。こっちだって報酬貰って案内してるんだし――報酬っていえば、さ」
さりげなくフォーリィ。しかし、この話はしておくべきだ。
「ぶっちゃけ――この依頼報酬高過ぎない？」
「高過ぎ――ですか？」
「高過ぎ」
皆が感じていた。
冒険者のレクチャーで金貨を貰えるなど法外もいいところ。
悪く言うならカモになりたいとしか思えない。
「でも私、お金しか御用意できませんし‥‥、
私のような娘が人様の手を借りてまで『冒険者をやりたい』などと言うのですからこのくらいは払うべき報酬なのではないかと」
相応しくない自覚まであるようだ。
（「ますますわかんないな‥‥なんで冒険者なんかに‥‥」）
「で、でも最初は出費が激しい上に収入も少ないよ？
いきなりすっからかんにしちゃうのはレクチャーする身としてもいただけないなあ‥‥」
「同感ですね」
と、ルイス。
「冒険者は依頼があるなしに収入が依存し、他の生業で食いつながねばならぬ時もあります。
一方、保存食など依頼に必要な物資の購入費や、負傷すれば治療費も必要になります」
「そうそう、治療費とか高いのよね。ま、それは後の話だけど。
初めは装備揃えるだけでお金吹っ飛ぶ」
昔を懐かしみ、盛り上がる一同。
「ですから――冒険者として、一定の貯えは手元に残しておいてください」
「はい――でも、大丈夫です。ちゃんとそれギルドの人にも言われましたから」
『はい？』と顔を見合わせる一同。
「お金はちゃんと残しておくように、って。それで差し引きしてもらって、余った分は危ないので預かって戴けて‥‥」
「余った――って、いくら？」
失礼とは思いながらも聞き返してしまうフォーリィ。
ステラの口から出た額は――そう、しばらく、
節約していけば――いや、せずとも、本当にしばらく何もせずに暮らしていける額。
貴族だとしても、お小遣いで済むなら相当の――、
「家財を‥‥処分いたしましたので‥‥」
どうやら本当に冒険者になる以外に道は残されていない、
いや、他の道を捨てて冒険者を志願したといったところか。
「‥‥わかった。
とりあえず今日はもう休め、ステラさん」
明日またここに、と約束する烈。
彼女の姿に、
故郷を置いた自分達の姿がだぶった者はいかほどか――。
●同じように案じて
翌日。待ち合わせの場所には烈とフォーリィ。
「あの‥‥アリオスさんとルイスさんは‥‥？」
「ええと‥‥あの二人は‥‥」
「あ、あいつらはギルドで別の仕事！
ごめんね〜、昨日言い忘れちゃって。代わりに私達だけで案内するからさ！」
言いよどむ烈にすかさずフォーリィがフォロー。
勿論、そのような事態はありえない。
ギルドで最も取り締まっている事の一つに依頼のダブルブッキングがある。
しかし、昨日話した印象ではステラはそんな事に詳しくはないだろうし、二人の欠員に文句を言う性格でもなさそうだ。
「そうでしたか‥‥。それは済みませんでした。お忙しいところを」
実際、苦情が出れば理は向こうにある。
この場にいない二人もステラの知識と性格を考慮に入れての行動だった。
弱味につけ込むようで気が引けるのだが、その分は今日の案内で借りを返そう。そう思う二人。
「さ、まずは酒場かな。その後商会で装備を揃えて、図書館にも行こうか」
「装備は私に任せて！
鎧騎士でもファイターでも武器と鎧は必須だし、女同士、服を買う気分でリラックスしてていいからね！」
ちょっとだけ罪悪感を抱きつつ、酒場へ。
どんな事情があれ、依頼を投げるアリオスではない。
つまりは今回の欠席も依頼の一環というか――、
「紋章――か」
「そうね、今荷物を勝手にいじるわけにはいかないけれど、
私の見たのでは、確かこんな――」
ステラから依頼を受けたギルド員が記憶を頼りに紋章を描いていく。
「蝶――」
「そう、蝶ね」
蝶をイメージした紋章。
どこの家かはわからない。
「――紋章は専門分野外ですからね」
と背後に現れたルイス。
ギルド員は驚くがアリオスは、
「全くだ。
それに詳しかったとしても所詮は向こうの世界の知識だからな」
ついてきていたのは知っていたし、咎める必要もない。
ここに来ているという事は、向こうも同意なのだろう。
「隠している事を詮索するのは趣味ではないのですが」
それはアリオスも同じ。
だが、
「訳有りならなおのこと動機くらいは知っておかないとな。
それによって進む道も変わってくる。
初心者の冒険者ってのはなにかと危なっかしいからな」
「確かに。
彼女の場合、余計に顕著ですね」
世間知らず。
その癖、覚悟だけは決まっているようだ。
「蝶――ということで地方が限定出来ないでしょうか？」
紋章には由来がある。
蝶が刻まれているのなら、蝶のいる地という可能性が高い。
それでも、そんな土地は探せばいくらでも見つかるのが痛いところで。
「馬車は西の方から来たそうよ」
「少なくとも海の向こうという線はなさそうか。
馬車の方から調べられないかな」
裏でこそこそするのは好きではない。
しかし、ステラに聞いたところで話しては貰えないだろう。
警戒心が薄いのか、余計な事はポロポロと洩らす割には、一番大事な核心は頑として言おうとしない。そんな印象。
「――そろそろ顔くらい出さないと拙いか。調べられる範囲で良ければ頼む」
ギルド員に後を任せ、
「ではお姫様に会いにいきますか」
お姫様。
あながち間違ったイメージでもない。
ただし、とんでもなくお転婆な。
●冒険者案内・後編
「わお！
似合うじゃない！」
商会で装備を整えている三人。
というか、フォーリィとステラ。
別に着飾る為ではないのだが、それでも女の買い物に立場を失くすのは男の宿命か。
（「もう充分疲れさせてもらったけどな‥‥」）
先程の一件を思い返し、ぐったりとしている烈。
酒場でからかい半分に冒険者達の勧める酒を言われるままに飲み干そうとするステラ。
嫌な予感がして聞いてみれば、酒は飲んだ事がないという。
『大丈夫です！
冒険者をするのならお酒くらい飲めないと――覚悟はしています――！！』
そんな覚悟はいらんと説得するのに一時間。
（「なんで飲めない酒を止めるのにそこまでかけなきゃならんのか‥‥」）
度胸だけは一人前のようだが、空回りしていて見てるこっちが危なっかしい。
「服は動きやすいものならいいわ。とりあえずは剣と盾ね。重いと動きづらいから気をつけて」
「あの――鎧は――？」
「あれはやめといた方がいいわ。慣れないと動きが鈍って危険よ。
力に自信があるならいいけれど、
少なくとも私の左手に両手使って勝てなきゃ――ね」
当分、無理そうだ。
「実戦では仲間のサポートもあるんだし、なおさら足引っ張らない程度の軽装がベストかしら」
立派な鎧を着ているフォーリィ。
だが、烈も昨日の二人も重い鎧はつけていなかった。
「冒険中にやる事は戦闘だけじゃないからね」
と烈も。
そして宮廷図書館へ。
本が好きというだけあって、目を輝かせるステラ。
家にもこれほどの蔵書はないようだ。
『読んでいいのか』とこちらの許しを待つようなステラに烈は、
「冒険者の心得とか載ってるから読んでおくといい」
「はい！」
「あと――これはあたしからのアドバイスなんだけどね」
フォーリィの言葉に一度本を閉じるステラ。
本当に行儀がいい。
「やりたくない仕事は選ばない事。
受けたら不満があろうと目的達成を第一に考えないと駄目だから。
尤も最初はできる事少なくて仕事選ぶ余裕が無い場合もあるけど。
次は不相応な仕事は選ばない、冒険する依頼で危険がない依頼は少ないけど最初から危険度大の依頼は選ばない」
危なっかしいと思ったのはフォーリィも同じく。
実力はない癖に勇気だけは人一倍。
けれど、
（「それでも――なんとなく放っておけないのよね」）
まるで妹のような――、
やきもきしつつも、決して悪い感情が持てない。
●またね
最後に棲家の為、冒険者街でアリオス、ルイスと合流する。
フォーリィ、開口一番、
「お待たせ！
そっちの依頼、どうだった？」
「え、ええ。御蔭様で。
この度は急な依頼で御案内出来ず、申し訳ありません」
謝るルイスに、
「いいえ、御仕事大変ですね。
よろしかったら是非お聞かせして欲しいです」
そうきたか。
余計な口裏合わせがまた必要になりそうだ。
昔受けた依頼でも持ち出すか。
結局、職業は決まらず。
ファイターか鎧騎士かと希望は挙がったのだが。
「もし、鎧騎士を目指すのであれば、俺の方からもつてを探しておこう。
指導者は必須だし、何より乗るゴーレムがないとな」
アリオスは鎧騎士ではないが、長く冒険を続けていればギルドにも鎧騎士にも知り合いはいる。
「はい！ 何から何までありがとうございます！」
「これは先輩からの餞別だ」
烈が渡したのは防寒具とアルミシェルフ。
冒険者の必須用品だ。
特にアルミシェルフは商会では購入が出来ない為、初心者には頼りになる。
「他にも欲しいものはたくさんあるはずだが、それは自ら得た報酬で手に入れることだ。目標があれば励みになるしな」
「――、本当に‥‥ありがとう。
私は――これを――」
ステラが烈に手渡したのは蝶のブローチ。
「――別に、いいよ。餞別だって言ったろ？」
ちょっと驚きの烈。
そもそもこの依頼自体で破格の報酬なのに。
新人冒険者へのアドバイスなど、酒場ででもやっている。
自分達はそれを少しだけ丁寧にしただけ。
「私も、気持ちです。
事情を話さない私に良くしてくれた事、忘れません」
わかっていた。
事情を話さない事も。
それが不信に繋がるかもしれない事も。
それでも、気持ち良く案内してくれた事を忘れない。
「今度会う時は――冒険者として。
よろしくお願いしますね」
