系譜〜土に眠る〜

■ショートシナリオ


担当:冬斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 39 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月19日〜04月27日

リプレイ公開日:2008年04月27日

●オープニング

 レイン領領主、フェリックス・レインは数少ない趣味を楽しんでいた。

「ふう、前年度の支出はこんなものか。冒険者を雇ったりもした割には随分と安く済んだ」

 それは倹約。
 おおよそ領主には似つかわしくない趣味である。
 いや、領主だからこそ節制を重んじるべきとも言えるのだが。

「思った以上に予算が浮いたな。
 ――何か使ってしまうか」
 一般家庭におけるのなら節約した財産は取っておくべきだ。
 だが、領主ともなれば、それを民に還元する事も求められる。
「祭りでもやるか? だが収穫の時期でもないしな‥‥」
 年中構わず宴を開くような貴族もいるが、彼はそういったタイプではない。
「ならば何か公共の施設でも――全然足らないな」
 流石にそこまで金は余っていない。

「どうしようか‥‥そうだ!」
 フェリックスは思い出す。
 領内の森の奥に眠る地下遺跡。そこが手つかずであった事を。
 アトランティスにおいてカオス界と通じていると言われている地下はタブーだ。
 よって地下遺跡などの類は腫れものに触るような扱いになる事が多く、見つかった場合の対応は二つ。
 解明するか、封鎖するか。
 今から二十数年前、亡きフェリックスの父親は前者を選んだ。
 そして遺跡から出ると、
『最奥には辿り着けなかった。
 ここは危険なので封鎖する』
 そう言って、後者を選んだ。

 彼の父は行動的な領主だった。
 町の発展、事業の援助などを積極的に行い、息子に領主の手本を見せていった。
 父はフェリックスにとって尊敬すべき人物だった。
 その父が――おそらくは彼の知るなかで唯一手つかずのままこの世を去る事になってしまったもの。
「この間の冒険者達――頼りになったな」
 あの遺跡を解明しよう。
 安全を確認し、改めて封印しよう。
 それが父の跡を継ぐ事にもなる。

「冒険者ギルドに依頼を頼む。用件は――」

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3443 ギーン・コーイン(31歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec2869 メリル・スカルラッティ(24歳・♀・ウィザード・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

●メイディアギルド員・モンテール伯外伝
「フェリックス卿の依頼〜〜〜!」
 空耳か、クリシュナ・パラハ(ea1850)の耳には『ピカピカピカーン』という音が聞こえた気がした。
 間延びしたダミ声で書類手続きを済ませるのはメイディア冒険者ギルド員・ドラエ・モンテール伯爵。
 元、ノルマン貴族らしいが、今は一介のギルド員である。
「な、なんでいちいち依頼人の名を叫ぶんスか‥‥?」
 クリシュナは思わず聞いてはいけない領域に踏み込んでしまう。
「細かいこと気にしちゃダメ〜」
 確かに。
 この依頼はあくまで遺跡の探索・調査。ギルド員の喋り方など些細な問題だ。
「‥‥ん、じゃあ気を取り直して、以前卿の御父上が調査した報告書ってのはあるッスか?」
「ん、いや、二十年前はまだこのギルドは今の形ではないからね、それにアイザック卿は私兵を何人か連れて入ったらしいよ」
 ギルドがこの形に落ち着いたのは天界人が来てからだとか。
 そこに、

「ドラエ〜〜〜!! 恐獣のペット出して〜〜〜!!」
 無茶な依頼を持ってくるひょろい少年冒険者がいましたが、それはまた別のお話。

●RDR(レインズ・ダンジョン・レポート)
「こちらにも資料はありませんね‥‥」
 フェリックスが申し訳なさそうに答える。
 レイン家にも遺跡の資料はほとんど残っていないらしい。
「変だね‥‥。
 封鎖しなきゃならない程の遺跡なら、なおさら資料くらい残すんじゃないのかな?」
 メリル・スカルラッティ(ec2869)の疑問も尤もだ。
「確かに‥‥、
 済みません。遺跡の存在自体先日まで忘れていたもので――」
 既に遠い日の記憶。
 当時の彼はまだ子供で、『父が調査し、断念した』それが全てで、
 その内容にまでは興味は至らなかった。
「手に負えないようなモンスターがいたとかじゃないかな?
 正体不明だったから記録に残せなかったとか」
 風烈(ea1587)の推理は可能性の一つでもあり、また、本人の願望でもあり。
 未知の大陸に心躍らせ、月道を越えてきた冒険者だ。
 未知のモンスターともなれば、普段眠らせていた冒険心が疼くのだろう。
「でもそれなら尚の事、わかっている事だけでも記すんじゃないッスか?
 後で誰かが解明するかもしれないんですし‥‥」
 クリシュナの疑問にギーン・コーイン(ea3443)が答える。
「――もしかしたら、それを憂いたのかもしれんのぅ。
 危険なので後の者が好奇心を起こさぬように資料を残さなかったとか――」
「おいおい、だとしたら俺達はどうしたらいいんだよ?」
 慌てる烈。
 その推理が正しいなら自分達はやる事がなくなってしまう訳で――、
「――もしかしたら」
 と、ルイス・マリスカル(ea3063)。
「これは試練なのかもしれませんね」
「試練?」
 宗教めいた言葉に一同顔を見合わせる。
 思慮深げな面持ちで続けるルイス。
「実は危険というのはフェイク。
 既に卿の亡父君が完全踏破済みなのですよ」
「? だったらなんで封鎖なんかしたんだ?」
「烈さん、話を最後まで。
 そして遺跡の最奥にはこういう書き置きがあるのです

『息子よ、よくぞここまでたどり着いた。
 ここまで来た経験こそお前に遺す宝だ』

 つまりこの遺跡は、
 亡父君、アイザック卿が息子、フェリックス卿に遺した、試練という名の宝だったんだよ!!!」

『な、なんだってーーー!!!?』

 みなさんノリ良すぎ。
 ルイス口調違うし。
 が、
「そ、そうだったんですか‥‥」
「はい?」
 独り様子の異なるフェリックス卿。
 ちなみに『なんだってー』とは言ってない。彼だけ。
「ならば尚更放ってはおけません。
 父が傭兵を雇い遺跡に潜ったように、私も貴方々と共に望みます。
 ――父の遺した地下遺跡に」

『――――』

 どうやらフェリックスは冗談の通じぬ男だったようだ。
 いや、元々来るっぽい雰囲気だったから問題はないのだが。

●前夜
「ふんッ!!」
 ギーンの手斧が熊の身体を裂き、
「はっ!!」
 続くルイスの雷斬がとどめを刺す。
「まずは遺跡を見つけなきゃだね。
 思ってたより大変だ」
 メリルはクリシュナと地図を覗きこむ。
「何せ、この森に踏み込む事自体、封鎖して以来ですからね」
 ということは二十年間手つかずという事か。
「まあいいさ、遺跡を見つける事自体、冒険らしくて悪くない」
 案内役は森に強い烈。
 ルイスも協力し、無事日が暮れる前までには遺跡を発見した。
 ただし、本当に日が暮れる前までにだったが。
「遺跡内では昼も夜もないだろうが、とりあえずここで一休みするか」

 ベースキャンプを張りながら遺跡の入口に目をやる。
 そこには確かに封鎖がされていた――跡があった。
 鎖は風雨で錆びつき、崩れ落ちてもはや封の役目を果たしていない。
 そもそも鎖があったとしてもさほど侵入の邪魔になるとも思えない。
「元々、人の立ち入る森ではありませんし。
 遺跡が見つかったこと自体たまたまでしたから」
 そこにあることさえ口外しなければ誰も気付かない人知れぬ遺跡。
「――なら、なんでフェリックスさんのお父さんは封鎖なんてしたんだろうね」
 とメリル。
 結局はそこにいきつく訳で。
「まあ、結局は潜ってみなけりゃわからんわな」
 ギーンはフェリックスに向き直り、
「あんたもここまできて引き返す気はないじゃろう?」
「ええ、お願いします。共に最奥まで――」
「――決まりじゃ、さ、今日は休める者から休め。
 まずはわしが見張りをしておこう」
 わからない事はあったけれど、それは不安な事ではなかった。
 純粋に冒険を楽しめばいい。
 ただそれだけだったから。

●洞窟にて
「ええと、すみません。荷物の整理をしていきますね。
 出発の日、貰いものとかあって‥‥」
 荷物を出来るだけ持ち運ぶつもりのルイスはキャンプ地でバックパックを整理している。
 要らない荷はテントに置いておく事にした。
「こんな森の中を荒らす者もいないでしょう」
 いたのならそれは仕方無い。
「よし、いくぞい!
 全く、遺跡だけでも眼福もんだのぅ」
 ランタンを片手に持ったルイスを戦闘に、ギーン、フェリックスが後に続く。
 最後にメリルとクリシュナを守るように烈が階段を降り、
「‥‥さて、この闇の奥深くに何が潜んでいるのやら‥‥」
 僅かな恐怖とそれを上回る好奇心。
 それは冒険を始めた頃から変わらない。
(「こういう気持ち‥‥あの娘にもあるのかな‥‥」)
 ふと、
 ルイスと共に世話をした少女の事を思い出した。


「‥‥分かれ道、ですね」
「調べてみるよ」
 メリルが風の魔法で呼吸を探る。
 両方に気配。
 だが、左の方がやや数が多かった。
「――生き物が多い方が奥にも通じている、と考えましょうか」
 それが正解とは限らないが、一つの目安ではある。
「人間の気配もないしね」
 入口では念の為、空気に人の気配を訊ねてみた。
 当然ながらここしばらくこの入口を通った人間はいないようだ。
「ゴブリンとかもいないみたいだね。
 いるのは洞窟に籠りっきりでも生きていける動物――」
「上ッス!!」
 クリシュナの声に散らばると、天井から落ちてくる不定形の生物。
 小動物や虫と同じくらいの呼吸なので気付くのが遅れた。
 動き出した瞬間、クリシュナの探知魔法に引っ掛かり、
「ハァッ!!」
 ギーンが手斧で斬りつけるも、斧からは嫌な腐食臭が。
「メタリックジェルか!!」
「風よ!!」
 メリルの放った真空の刃が斧ごとジェルを斬り裂く。
「‥‥助かったわい。後で研ぎ直しておかんとな」
 ギーンの魔法の斧が負ったのはジェルによる僅かな腐食のみ。真空の刃には傷一つ負ってはいない。


「‥‥?
 今‥‥何か音がしなかったか?」
 空耳かもしれないが。
 慎重に、烈は相棒の銀兎に風の声を聞かせる。
「周りに気になる気配はないよ」
 メリルの風魔法も、クリシュナの地魔法も同じ結果だった。
「カゼ、カゼ」
 銀兎の意見も同じく。
「――済まん、神経質になっているのかもな」
「気にするな。わしも同じ気持ちじゃ」
 烈やギーンだけではない。他の皆も同意見だ。
 立て続けに災難に遭えば、意識は過敏になり、ささくれる。
 だがそれは、『なにもおきない時』も同じ。
『危険故、封鎖する』とまで聞いていた遺跡だが、蝙蝠やジェルなどのモンスターとしか遭遇していない。
 それらも危険といえば充分に危険なのだが、傭兵を雇って調査した結果、封鎖する理由としては足りなさ過ぎる。
「‥‥一度、引き返しますか。明日、もう少し深く探ってみましょう」
 ルイスの意見に反対する者はいなかった。

●そして
 探索二日目の昼過ぎ。
 一行は洞窟の最奥にまで到達した。
 途中、調べていない部分もあったから、そこが最奥だとはわからない。
 だが、間違いなくここが最奥であろう。
 その証拠が記してあった。
 いくつかの財宝と共に。

『我が息子、フェリックス・レインへ』

「な、なんだってーーー!!!?」
 残念な事に即それに反応が出来たのはクリシュナただ一人。
 というか一人テンション高いな。

『これを読んでいる時、おそらく私はもうこの世を去り、跡目はお前が継いでいる事だろう。
 それもある程度自立しているとみている。
 何故なら律儀で不器用なお前は、一人前の領主としての器が出来るまでいくばくかの月日が要るだろうし、
 それまではこの遺跡の事など思い出す余裕さえないだろうからだ』

「‥‥なんてゆーか‥‥」
「流石は御父上、合っとるのう」
「ふ、二人とも、ホントのこと言っちゃダメッス!!」
 歯に絹着せぬパラとドワーフを窘めるエルフ。
 あまり窘めてないが。

『そしてお前は失敗して育つ男だから、現在あまり財政に余裕はあるまい』

「そう――なのか?」
「ええ‥‥、最近やっと持ち直してきたんですけれどね」
 烈の問いに苦笑で答えるフェリックス。

『だから私の財の一部をここに残そう。
 ここに来られる程の余裕のあるお前なら少しはマシに使えるだろう』

 遺跡内の財宝とは別にあったのは紋章入りの宝石箱。
 そう古くもなく、父、アイザックが遺したものであることは明らかだった。

『生真面目過ぎるのがお前の欠点だ。
 周囲を頼れ。お前は一人じゃない。
 立派な領主に‥‥なれ‥‥よ‥‥。
                      アイザック・レイン』

「父上ーーーッ!!!」
 いやだから、
 何故君が泣くのかクリシュナ。
 書き置きなのに最期がかすれているあたりこの御父上もノリノリである。
 フェリックスに通じるとも思えないので冒険者達に宛てたものだろうか。

「いや‥‥まさか‥‥」
 それまでずっと沈黙していたルイスがぽつりと。
「冗談で言ったコトなのに‥‥本当にそうだったとはねえ‥‥」

●冒険終わって大団円
 遺跡を出るまで一同は気まずい沈黙に包まれていた。
 無理もない。要するに――、
「へそくりだったとはねえ」
 はっきりとものを言い過ぎなメリル。
「ま、まあ、ほら、宝があったんだし、いいじゃないか!」
 空元気でフォローする烈。
 確かに、死ぬ思いをして一文の得にもならないよりは、危険を想定したが何もなくて宝だけはあったという結果の方が遥かにいい。いや、最上だろう。
 理屈では。
「そう――ですね」
 と、答えるフェリックスの反応は皆のそれと同じではなく。
「まさか――いなくなってまで私を支えてくれるとは――
 本当に‥‥父には世話になってばかりです」
 本気で感動している。
 いや、本人が納得しているのならば構わないのだが。
「生真面目じゃのぅ‥‥父君の言うとおりじゃわい」
 ぼそぼそと頷き合う冒険者達。


「いいのですか? 皆さん取り分はそれで」
「充分じゃわい。報酬にも上乗せしてもらったしのぅ。
 これ以上はバチがあたる」
 帰途に着き、フェリックスの屋敷にて取り分の分配を行う。
 鍛冶師のギーンは報酬と銀塊を。

「私はこれを貰うよ。
 ちょっと重いけれど」
 とメリルは趣味の一環で鉢植えを。

「ルイスさんはそれでいいのですか?
 今持っていらっしゃる剣程使えるものではないと思いますが――」
「いえ、実戦的でなくとも――剣が好きなもので」
 装飾の施された剣。
 アンティークとしては価値があるだろう。
 もちろん斬れ味も悪いものではない。

「‥‥すみません、クリシュナさん。
 力の加護のある財宝、家にでもあるならお譲りしたいところなのですが――」
「い、い、いいッスよ!!
 あったらいいな〜〜ってなモンッスから!!」
 このお人好しは本気にしかねない。
 クリシュナは慌てて断った。
 その分、報酬は他より多めに。

「俺は――じゃあ、このペンダントを。
 役に立たなくてもいいんだよ。冒険の記念に――な」
 烈はそう言って水晶のペンダントを。


「みなさん、今回は本当にありがとうございました」
「いいって、それより――大事に使いなよ、御父上の遺産」
 冒険者達は最後まで気持ち良く。
「ええ、また困った事があったら‥‥お願いしますね」
「なんなりと。
 貴方は一人ではないんですから」
 再会を約束し――。


「終わった終わった〜〜」
 メリルとクリシュナはぱかぱかと驢馬に乗り、
 残りの三人は馬車でメイへと帰還。
「懐も暖かいしな。
 帰ったらわしが皆の剣を直してやろう」
 とは言っても主に傷んでいるのは当人の武器ではあるのだが。
「あ、そういえばルイスさん、風さん」
 思い出したようにクリシュナ。
「最近、新人冒険者の女の子の世話をしたらしいじゃないッスか。
 悔いのないよう頼みますよ。
 私も〜、心配でドキがムネムネ!!」

 その後、クリシュナは河童のギルド員と揉めたり、新人の少女におせっかいを焼いたり――。
 いやもう、どこまで暴れたら気が済むのだろう。