【雪合戦】異国の地よりじぇらしーと共に
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■イベントシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 83 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月31日〜12月31日
リプレイ公開日:2010年01月12日
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●オープニング
● かえでの後悔、立つ前にひっくり返す
「はっ!?」
「!」
どでっ、ガタンッ!
突如として上がった彩鈴かえでの素っ頓狂な声に、同じ卓を囲んでいたギルド職員のアスティ・タイラーと天界出身者・滝日向は同様にびっくり。
目を瞠り、いきなり立ち上がった彼女を凝視した。
「ど、どうしたんですか‥‥?」
「何かあったか?」
「何かあったかじゃないよ! ひどいよっ、大変だよっ、あたしとしたことが今年の聖夜祭を忘れてたよ!?」
卓を叩いて訴えるかえでに、男二人は目を瞬かせた後で「あぁ」と呆れた吐息。
「そういえば去年はそんなお祭りもしてましたね」
「仕方ないだろう、今年は祭りで騒いでいる余裕がどこもないしな‥‥」
ひょんな事から知るところとなったリラ達の現状を暗に匂わせる日向に、かえでは言葉を詰まらせ、何かを叫びたい衝動を必死に堪えながら椅子に座り直す。
「それにしたって‥‥惜しい‥‥」
卓に突っ伏してそれだけを呟いた。
それからしばらく続く沈黙の時を不意に振り払ったのは、冒険者から聞いた話を思い出したアスティだった。
「そうそう、ついこの間ですがジ・アースからの月道を渡って来た冒険者からの話で、ノルマンという国では国を挙げての結婚式が行われるそうですよ?」
「国を挙げて‥‥結婚式?」
「ええ‥‥あれ、もう終わったのかな? これからかな‥‥すみません、そのあたりがどうも定かではないのですが」
アスティも最近は慌ただしいため、他国のことまで記憶は明確じゃないと付け足しつつ、ノルマンの国王陛下の結婚と併せて、おそらく今頃のパリ、ノルマンはかえでの大好きなお砂糖でとっても甘い風が吹いているに違いないとアスティは苦笑う。
「たまには他国に遊びに行ってみるのも良いのでは? なんでしたら、最近巷で話題の雪合戦を仕掛けてみるとか」
「雪合戦‥‥」
アスティのアイディアにかえでの耳がぴくりと動く。
「それ、楽しそう‥‥!」
きらりんと輝くかえでの瞳。
久々に天界女子高生の気持ちが高揚し始めていた。
● というわけで巴戦?
「たのもーー!」
アトランティス、ウィルの国からある伝を利用して到着した先はパリ、ノルマン。
幸せいっぱいの異国の地へ、お祝いがてらの宣戦布告。
かえでがウィルチームに説明した内容はこうだ。雪玉の中に花弁を含ませ、当たった敵チームには痛みと一緒に祝福、もしくは幸せのお裾分けを演出。勝負にささやかな色を添えようというものだ。無論、かえでの中には幸せなノルマンに勝利してやるというささやかな(?)野心も煮立っていたりするわけだが。
ルールは簡単、力の限りに雪玉を投げ続け、相手の戦力を根こそぎ奪えば勝利。最後にチームのメンバーひとりでも残っていればいいというわけだ。
幸いというべきか、チームウィルがノルマンに乗り込んだ時には某月の精霊も参戦していて、舞台は整っていた。
「さぁみんな! 他のチームを連携して倒すんだよっ、でもって自分のチームの誰かひとりでも最後まで生き残れるように作戦を立てようね!」
かくして雪合戦の開始である――。
●リプレイ本文
●
「ノルマン‥‥地球で言うフランス、かしらね」
小首を傾げて言う華岡紅子(eb4412)に、彼女に誘われて雪合戦に参加する事になった滝日向(ez1155)は苦笑交じりに「だと思うぞ」と。
「しっかし‥‥」
気乗りしない雰囲気の恋人に紅子は困ったように微笑むと、どことなく疲れた彼の顔に手を添えた。
「こんな時だからこそ、楽しんできましょ?」
頬に触れる繊細な手の平に日向は目を瞬かせ、けれどそれも僅かの間。
「‥‥そうだな」と応じる表情には少なからずいつもの彼らしさが戻っていた。だから「良かった」と安心するレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)や、アレクシアス・フェザント(ea1565)の表情も和む。
「‥‥アレクシアス様?」
怪訝そうにその名を呼ぶディアッカ・ディアボロス(ea5597)は珍しく眉間に皺が寄っていて、それに気づいたユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が「それにしても」と別方向を見遣る。
「参加したからには勝ちたいものじゃが」
「もっちろん♪」
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)が拳を握り、一見、こういうことには興味が無さそうな雀尾煉淡(ec0844)の表情もなかなか楽しそうだ。
「ノルマンに行くのは久し振りです」
「‥‥そのノルマンですが」
次いで眉間に皺を寄せて口を切るのはシャルロット・プラン(eb4219)である。
「彼女の国、ですね?」
確認するように問うシャルロットへ、アレクシアスが頷いた。
そうしてその視線は月道の向こうに広がる懐かしい彼の国へ。
数年振りの祖国には、かつて共に冒険した仲間達も大勢いるはず。ウィルの地に骨を埋めると決めた今でも、あの頃の仲間はやはり懐かしく、大切な存在だ。
「さて、楽しんでくるとしようか」
「もっちろん!」
かえでも加わって、総勢十名のチームはアトランティス・ウィルの国からジ・アースのノルマンへ。
目的は雪合戦。
今日という日を謳歌しに。
●
其処はノルマンの雪原。詳細は省くが、ともあれ雪がいっぱいの大平原だ。気付けば三チームの巴戦になっていた各チームの代表は、やはり気付けばウィル最強の称号を我が物にしていた天界女子高生の彩鈴かえでと、いつでもどこでもが合言葉(?)の旅の魔法使いマリン・マリン。彼女のチームはアトランティスで良く一緒に冒険する面々が多い。そのため、ノルマンチームと言えば『自称』ヨシュアス氏が集めたというそちら側になるわけだ、が。
「あの『自称』ヨシュアスさんってどーも謎めいてるんだよねー」
かえでに雪合戦を勧めた、ある意味では今回の首謀者とも言えるはずの彼は現在雪原の片隅で優雅にティータイムの真っ最中。ノルマンの冒険者達からあれやこれやと気遣われている彼は一体何処の誰なのか。
「? アレクシアスさん?」
かえでは、珍しく落ち着かない様子のアレクシアスを見上げて小首を傾げる。
「どうかしたの?」
「いや‥‥、どうというわけでは無いんだが‥‥ああ」
一歩踏み出しかけた足を気力で堪えて、天を仰ぐと深呼吸一つ。どう見ても普段の彼らしくないのだが、元ノルマンの冒険者である彼にとっては非常に繊細な問題が目の前にあったわけだ。
(「相変わらずなのだな、あの方は‥‥」)
ふとした瞬間に目が合うたび、膝をつきそうになる自分がいる。が、これはノルマン最大、公然の秘密。それが秘密になるのかなんて突っ込みは厳禁だ。
「あれ? 自称ヨシュアス様って‥‥」
「ティアイエル」
小首傾げて此方はぽろっと言ってしまいそうなティアイエルに、アレクシアスは目配せでその先を制した。
そんな遣り取りもありつつユラヴィカ、ディアッカを先頭にこさえられていく雪玉の山。旅の魔法使いチームにも彼らの姿があるように見えるが、そこは気にしたら負けだろう。
「それでは――」
ノルマンチームから審判を買って出た冒険者のルール説明の声が響き、皆は一度手を止めてゲームの内容を確認した。
「しっかし‥‥ノルマンのあの人数と、台車まで用意済みってのは、さすがホームグラウンドってか?」
苦笑交じりの日向の呟きに、紅子も「そうね」と苦く笑む。
「でも良いじゃない、私達は私達で楽しみましょう?」
「だよね♪」
かえでも笑顔で応答。
「思いっきり楽しんじゃうよ〜♪ かえで隊長、よろしくね〜」
「任せてさっ」
「いざ尋常に勝負! ですっ」
ティアイエル、レインと明るく朗らかに言い合う一方。
「では彼女を早々にリタイアさせる方向で、な」
アレクシアスの悪戯めいた確認に、シャルロットが丁寧に応じる。
「相手の尻を蹴飛ばせばよいのですね」
いや、丁寧だが乱暴だった。それは拙いぞ空戦騎士団長。
ノルマンの雪原に合戦開始の合図が鳴り響き、同時に此方では煉淡のスクロール魔法が発動された。アイスコフィン。彼が作った雪だるまは即席の雪避けの壁になり。
「そぉれ!!」
合戦は始まった。
●
ぺぎゅっ。
ぺぎゅっ。
ぺぎゅっ。
雪原がよほど嬉しいのか足を踏み鳴らして歓ぶペンギンのラーラは紅子が連れて来た相棒だが、その足元から細かな雪の結晶が舞い上がった瞬間、ラーラのつぶらな瞳が更に丸くなる。
ぷぎゅっ。
ころんと転がって腹で雪原を滑ると同時、その背中を押すのは煉淡が駆るペガサスの翼が起こした風だった。
「行きますよ」
仲間が用意した布にたくさんの雪玉を包んで、空へ。
ルール上問題のない高さに気を付けながら翔け、上空から降り注ぐ雪玉攻撃。
「そぉれ!」
紅子、アレクシアスらが用いたフレイムエリベイション等の魔法によって気持ちを高揚させた面々はある意味恐いもの知らずだ。
「さぁ、ノルマンの輝く星になってもらうよ‥‥っ!!」
ティアイエルの目が光る。
投げる、投げる、投げる!
三チーム入り乱れた雪原では狙いを定める方が難しく、いっそ自分のチーム以外のメンバー目掛けて投げまくるのだと、大雑把な作戦が吉。ましてや各国を代表する事になってしまったらしいあちらに比べると、此方は自由度で群を抜く。
「さぁ日向君、突撃!!」
「おまえが行け!」
他人任せのかえでと、日向の即答、これに笑う紅子という具合に居並ぶ地球出身の天界人三名は、それこそ小さい頃に幾度となく経験して来た雪合戦。
「レインちゃん、アイスブリザードで相手の視界を遮れるかしら」
「はいっ、お任せ下さい!」
紅子の案にレインの身体が鮮やかな青色の光りを放ち、直後の前方九十度扇で巻き起こる吹雪。
「今よ!」
「おおっ!!」
目晦ましに生じた相手チームの隙を目掛けて一斉砲撃――も何故か集中する先はジ・アースの聖女と呼ばれる冒険者。彼女を早々にリタイアさせるのが各チーム共通の認識だったりするからだ。みるみると雪塗れになっていく彼女に、これも作戦の一端であると理解はしていてもやはり複雑な心境にならざるを得ない紳士アレクシアス。
こんな作戦を立てる旧友は、どうやら相変わらずのようだ。
ならば、と。
「一玉貰うぞ」
混戦の雪原に旧友の姿を認めて、笑顔を一つ。
「久々だな!」
腹に力、一撃入魂。
見事にその顔に直撃した雪玉から、ひらりと舞い降りた花びら一枚。それが静かなる青い焔に焼かれたように見えたのは錯覚か。
続けて飛んで来る雪玉をひらりとかわし。
「挨拶は受け取るものではないのか!」
「ははっ!」
相手の反論に思わず声を上げて笑ったアレクシアスの、あまりにも無邪気な笑顔は何故か味方の一人ないし二人を悶絶させたとかさせなかったとか。
「わっ」
無論、相手チームからも投げられてくるがそれは避けて当たって大活劇。
「これじゃキリがないよね!」
ティアイエルが緑系統の光りに包まれ、発動するは風魔法ストーム。敵チーム目掛けて放たれた暴風は見事に向かってくる雪玉を退けた!
「それそれそれーーっ!!」
ぐるぐると腕を回して雪玉連打。明日はきっと筋肉痛。
それでも今がものすごく楽しかった。旧友との再会、兄と久々に共有する同じ時間。チームは違えど、本当に嬉しかったから。
「かえで隊長!」
「よぉっし、行くよー♪ レインちゃんも!」
「はいっ」
若い娘三人、敵陣乗り込み防御には魔法を駆使。
それでも雪玉を食らえば動きは止まるが、次いで起きる笑い声は痛みも冷たさも楽しい思い出に変換させる。
「って、あれ何!?」
不意にかえでが素っ頓狂な声を上げたのは、目の前に現れた不気味なモ‥‥いや、おそらく、たぶん、人間。ただ単にまるごとスノーマンを着込んでなり切っているだけだ。たぶん。
「はっ、しかも熊に襲われてますよ!?」
レインが顔を青くしながら訴える。助けた方が良いのでしょうかという意味だ。しかし、これを「必要ありません」とばっさり切ったのは空戦騎士団長シャルロットだ。
「この隙に私達は任務を果たすのです」
「任務?」
「お砂糖だね!?」
聞き返すティアイエルと、食いついたかえで。
「援護願います」
「まっかせて♪」
お砂糖と聞けば黙って傍観していられるわけがない。
雪玉にぎにぎ、シャルロットの目が光る。
「では、行きます」
「おーっ♪」
目指すは自称氏、無論その道行きは御付の人やら何やらによって容易いものではないのだが、それでも乗り越えなければならないものがある。
「彼女はノルマンの要とし皆を支え地獄での戦いでも髄一の功労者」
見事な体捌きで飛んで来る雪玉を回避しながら前進するシャルロットは、ジ・アースの聖女のたおやかな笑顔を思い浮べながら己の意思を訴える。
「にも関らずこの国は彼女に何の褒章も報いも与えてないとかっ」
腰より高い位置に飛んで来る雪には身を伏せ、足元を狙ってくる雪玉は跳躍で凌ぎ、その颯爽とした動きたるや天界女子高生を興奮させる。
「いっけいけーー♪」
「シャルロットさん頑張って下さいっ」
水の乙女の声援も受けて更にノルマン陣営へ接近する騎士団長。
「余所者である身で救国の聖女を讃えよとは言いませんが!」
優雅過ぎる状況で茶を嗜む自称氏を見据えて一喝。
「彼女にはもっと報いる話しがあっても良いのでは!!」
『そう思いませんか、王様♪』
ノルマン陣地、自称氏の背後で聞こえた声はティアイエルのヴェントリラキュイだったわけで、その傍に控えていた彼女の兄は妹の声に若干驚いたものの、自称氏は相変わらずの笑顔を浮かべていらっしゃる。
いわゆる「余計なお世話」「他人の心配よりもまずは自分の心配を」と言わんばかりの反応。
ピシッ、と何かが切れた。
空戦騎士団長、本気モード突入。
「頭を冷やさせてやる‥‥!」
「いけいけーー♪」
女子高生は女子高生で、やっぱり相変わらず楽しそうだ。
ユラヴィカとディアッカが乱戦になる地上に目晦ましを兼ねて空から雪玉を投下、時には魔法ファンタズムまで駆使して敵を霍乱するのだが、それも旅の魔法使いのチームを霍乱したいのかかえでのチームを霍乱したいのかで、早い話が敵も味方もはっちゃかめっちゃか。ただしアレクシアスを守るという一点においては揺らぎなく、身を呈して彼を庇う姿には各方面から黄色い歓声が上がっていた。
ましてや、わざわざ他国にお砂糖を求めなくとも自国で充分に補給出来るだろうと思わせられる恋人同士が此処にいる。
「っと」
「きゃっ」
飛んできた雪玉が紅子の顔に当たりそうだと察した日向が慌てて彼女の頭を抱えて避けさせた。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがとう」
顔を上げ乱れた髪を手櫛で直す紅子は、同時に「あ」と気付くが既に遅し。
「!!」
ダダンッと日向の顔に直撃した雪玉二連弾。
「‥‥っの‥‥」
雪塗れの顔で硬直した恋人に、紅子は思わず吹き出してしまった。
「あはっ‥‥ごめんなさいっ、でも‥‥っ」
笑うのを堪えながら日向の顔から雪を払う彼女に、本人はちょっとばかりショック。
「そんなに楽しいか」
「だって日向さん本当に雪塗れで‥‥っ」
それは例えるならパイケーキを顔面にべったり投げつけられたのと似たようなもので、もちろんパイとは違い簡単に綺麗になるけれど、その下からは痛みと冷たさで真っ赤になった顔。鼻の頭も真っ赤っ赤だ。
「やだ‥‥日向さん可愛いわ」
「可愛いは嬉しくないな」
「でも‥‥ふふっ」
そうして笑う紅子も冬の冷気で頬が赤く、普段と違う装いもさることながら心から楽しそうな姿は日向にとっても嬉しいものだ。その笑い声は痛みや落ち込みなんて感情を溶かす春の陽射しにも似て。
「‥‥良いな」
「え? ぁ‥‥」
ぽつりと零した日向の呟きに紅子が顔を上げると、二人の視線が重なる。と、それはまずい。ここは雪原、合戦の場。伸ばされた指先を遮るように飛んできた雪玉は――。
「ぶっ」
日向の顔面にクリーンヒット。
これで三発目。
「〜〜〜っ」
「‥‥ふっ‥‥ふふっ」
固まる日向に、やっぱり笑ってしまう紅子。
「このっ、首から上は反則じゃないのか雪合戦ってのは!!」
そんなルールどこにあるやら、むしろ真面目に勝負に参加しろと言うのが雪の神様(どこにいるかは不明だが)の思し召し。
「負けられないわね」
「叩き潰す!」
此処でやる気になるのか元探偵。
戦場飛び交う白銀の弾。
「怪我人はいませんか?」
自分も参戦しつつ周りの仲間の状態を気遣う煉淡に敵味方の区別はないらしく、そんな彼を乗せるペガサスの面立ちは雪原にあって更に凛々しく誇らしげに見えた。
玉を作り、投げ、相手を攻め、攻められれば守り、逃げ。
絶えることの無い笑い声は、審判の「よし、終了!」の声が雪原に響くまで続けられるのだった。
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「こんなに運動したの、いつ以来だろう‥‥っ」
雪原に四つん這いになりながらぜぇぜぇと荒い息を繰り返すかえでに、情けないと言いながらもやはり息の上がっている日向。
「でも楽しかったですね♪」
満面の笑顔で言うレインの周りでは、同伴して来たボルゾイのフウと川姫フィリアがやはり楽しかったと言いたげな雰囲気で彼女に寄り添っている。
「甘酒は如何ですか?」
ノルマンの冒険者からもてなされて、かえでチームの面々も試合後の懇親会(?)に参加だ。軽食と一緒に温かい飲み物、冷たい飲み物。各国の冒険者達が準備してくれたメニューの中には何やら不思議な物もあったが、それには敢えて手を出さず、普通に口にしたメニューはめいっぱい動いた後の体にとても優しかった。
密かに周りをやきもきさせていた自称氏と聖女はといえば、くっつけ隊の作戦自体は成功には程遠いものだったとはいえ、傍にいられるだけで幸せだと目に見えて判る聖女の笑顔には毒気も何も抜かれてしまう。
「‥‥この甲斐性なしが。そういう時は抱き締めてお疲れさまだ」
本人には届かないと知りながらもシャルロット。心残りはあるものの、共に地獄で戦った戦友が幸せそうならばそれで良いのだ。変わった王もいるものだという呟きは、心の中だけにしまっておく事にする。
「終わり良ければ、というやつさ」
苦笑交じりのアレクシアスはつい先ほど旧友のプロポーズ事件(というには些か哀れなものだったが)に若干驚かされたものの、それもまた人それぞれと気を取り直す。何より、久々に口にするノルマンの茶がとても懐かしく、喜ばしかったから。
雪合戦はノルマンチームの勝利で幕を閉じたが、かえではある意味、満足だった。
皆が休まず投げ合い足跡でいっぱいになった雪原のあちらこちらに、彼女のチームが雪玉に仕込んだ花びらが散っていた。それは時が経てばなくなってしまう彩りだったけれど、幸せいっぱいのノルマンの国にじぇらしーと共に届けたささやかな祝福の形。
「何方様もお幸せに♪」
それが、天界女子高生の心からの願いだから。