探偵遊戯〜貝合わせ〜
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■ショートシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月06日〜01月11日
リプレイ公開日:2008年01月15日
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●オープニング
滝日向(たき・ひなた)は天界からこのアトランティスに召喚されて半年が経とうという二七歳の青年だ。
あちらでは探偵という職に就いており、その若さながら浮気調査や身元調査、失踪者捜索といった経験を豊富に積み、事務所の上司にも将来を嘱望される腕の持ち主だった。
そんな彼が、ある日なんの前触れもなく、唐突にこの世界に落とされた。
持ち前の判断力と自制心で何とか現状を受け入れ、国の保護を受けながら生活出来る環境は整えられたけれど、これまで第一線で調査活動を行ってきた彼は、これからも探偵という職業を続けたかったのである。
しかし、ここで大きな問題が一つ。
この世界には「冒険者ギルド」が有るということだ。
モンスターや魔法が当たり前に存在しており、日向には嬉しくも懐かしいアニメを彷彿とさせるゴーレムの姿。
ギルドに所属している冒険者達に対して、一般人でしかない日向に出来る事などほんの一握りしかないことは、悔しいけれど自覚している。
かと言って諦めるには、まだ彼の心は折れていなかった。
天界人がアトランティスに召喚されるのには意味があり、帰郷するには己の役目を果たすことだと教えられたが、役目というのが何であるかは想像もつかない。
ならば、それが判るまで。
もう駄目だと思うまでは足掻いてやろうと決意し、ギルドの門を叩いたのだ。
***
「これは、‥‥遊戯ですか?」
「そう【貝合わせ】って知っているか?」
ギルド受付の青年は目の前に置かれた貝殻を注意深く見る。
一つの貝殻が割れて二つ、その片方には太陽の絵が。
もう片方にも太陽が描かれていた。
貝合わせには、絵と文章を入れることでカルタ取りのように遊ぶものもあるが、識字率が高くはないこの国には、神経衰弱の要領による遊び方が合っていると考えたのだ。
「まぁ、俺には美術の才が無いんで、そんな単純なのしか描けないが、天界の遊戯をこっちの子供達に教えてやりたくてな」
「それは良いお話しですね」
青年はにっこりと笑んで日向の話を促した。
「貝の内側に紙を張って、対の貝に同じ絵を書くんだ。――あぁ、紙は職業柄ポケットに入れてあったのがあるからそれを使えばいい」
分厚い帳面をポケットから出してみせる。
それは奇しくも召喚される直前に新調したばかりだったため、白紙頁ばかりだ。
「これで作って子供達に贈ってやりたかったんだが、一人で貝殻を集めるのも一苦労でな」
しかもこの季節である。
海に潜るにしても限度があろう。
「そこで此処に所属している冒険者達に、貝殻集めと、出来れば絵を描くのにも協力して欲しい」
「ふむふむ」
「何なら、一つや二つは贈り物にして持って帰っても構わないしな」
「――と、仰いますと」
「貝ってのは、対でなけりゃこうしてぴったりには重ならないんだ」
言いながら、日向が分かれた貝を一つに合わせて見せると、それは一分の隙も無く重なり合う。
「まぁ、冒険者が贈り物にするってなら絵と文章でもいい。恋人への贈り物としちゃ風流なもんだろ」
「なるほど」
「どうだい、引き受けてくれるか?」
「ええ、もちろんですよ」
そうして受付の青年は手続きに入る。
日向は意味深に笑んで見せる。
「そりゃ有り難い。やっぱり正月にはゲームだからな」と、受付係には些か意味不明なことを呟きながら‥‥。
●リプレイ本文
● 初日
「すみませーん」
寒空の下に響く澄んだ声音はソフィア・カーレンリース(ec4065)のもの。
その隣に並んで立つのはレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)だ。
二人が訪ねたのは街中で海の幸を扱っていることが広く知られている料理店であり、そこの男性店主は突然の来訪に驚きはしたものの、見た目は対照的ながらそれぞれに愛らしい少女二人が微笑めば、つられるように頬を緩ませた。
「どうした、お嬢ちゃん達」
「突然お邪魔して申し訳ありません。実は折り入ってご相談が」
「相談?」
聞き返してくる店主に、二人は店で使う食材に貝があれば、その殻を譲って欲しいと頭を下げた。
「もちろん、その分の代金はお支払いしますので」
レインが丁寧に告げると、店主は柔らかく片手を振る。
「いやぁ‥‥、中身を取れば後は捨てるだけのもんだし、代金なんか要らんが、殻なんか集めてどうしようって言うんだい」
不思議そうに貝殻の用途を尋ねてくる店主に、少女達はにっこりと笑う。
「天界の遊戯道具を作るんですよ」
「遊戯道具?」
「貝合わせと言うそうです」
「へぇ」
興味深く応えた店主は、その後、明日の仕入れ分と合わせて二人が貝殻を持ち帰れるよう準備しておくと約束してくれた。
「よろしくお願いします」
改めて頭を下げて店主と別れると、二人は次の店へ。
「これで二軒目ですね」
「どれくらい集まるかなぁ」
そんなことを話し合いながら歩を進めている途中で、別の店を訪ねていたオラース・カノーヴァ(ea3486)、イシュカ・エアシールド(eb3839)の二人と合流する。
彼ら二人も貝を扱う店から殻を譲ってもらえるよう交渉すると同時、市場にも訪ねて貝の採れる名所などを確認していた。
店で使用済みの貝ばかりを集めても二枚貝にはなり難い。
大きさが揃えば、後は同じ絵柄を描く事で遊戯として成り立つだろうが、今回の依頼人・滝日向の話を聞くに、やはり二枚貝も用意した方が楽しそうだというのが冒険者達の見解だ。
そのため、明日はオラース自らが海に潜る予定になっている。
「リールさん達の方はどうかな?」
ソフィアが空を見上げる。
場合によっては漁師よりも海に詳しいであろう浜の傍で暮らす子供達から情報収集をしている二人を思い、呟いた。
***
同時刻。
浜に出向いていたエリーシャ・メロウ(eb4333)とリール・アルシャス(eb4402)の傍には、今回の依頼人である滝日向の姿もあった。
「貝合わせ、ですか。天界には変わった遊びがあるのですね」
真面目な顔で自身の考えを口にするエリーシャに、日向は「ん?」と小首を傾げる。
「天界なら紙をそのまま使うことも出来るように思うのですが、貝を使うのには何か意味があるのですか?」
「あぁ」
そういう事かと、彼女の疑問を理解した日向は自身のポケットに入れてあった貝殻を取り出す。
四枚の貝には、二種の絵柄。
太陽と三日月だ。
「紙を使った同じような遊戯もあるよ。貝は日本‥‥ってのは俺の出身国のことだが、そこだけのもんだろうな。見てごらん」
手の平で太陽と太陽、月と月を重ね合わせれば、それはぴたりと重なり合う。
しかし太陽と月で重ねようとしても、殻はコロンと転がり崩れてしまう。
「同じような形に見えて、対の殻以外とは決して一つにならないのが二枚貝の特徴さ。こういうものに、言葉にし難い想いを添えて大切な相手に贈る。俺の出身国の人間は口下手だと言われるが、反面、こういう文化を生むってのは一種の美徳だと思うね」
日向が感慨深そうに言うのを聞きながら、こちら騎士としての信念を持って生きる女剣士達は困惑気味。
それに気付いたらしい日向は苦笑し、貝をポケットにしまった。
「まぁ今回は子供達の遊戯道具を作るのが目的だから二枚貝にはこだわらないよ。これを知っていたから、此処じゃ手に入り難い紙じゃなく、貝を使ってみようと思い立っただけさ。――ただし、誰か贈りたい相手がいるなら二枚貝も集めてくれよ」
依頼人の言葉に二人は微笑む。
天界の遊戯を子供達に伝えたいという心温まる依頼に共感したから、彼女達はこの場にいるのだ。
次第に近付いてくる浜の音色。
重なって聞こえて来る賑やかな声は、二人が会いたがっていた浜の住人達だ。
● 二日目
冬の荒々しい波間に、海底から網を引いて浮上したオラースがその姿を現す。
「結構獲れるな‥‥」
網を握る手に伝わるずっしりとした重さに、彼は満足そうに笑んで見せた。
さすがは市場の漁師達から聞いた穴場である。
持参した漁師セットも存分に活躍してくれている。
「さて‥‥」
そろそろ浜に戻ろうと、そちらを見遣れば、この近所に住む子供達と一緒に砂を掻いて貝を探す仲間達の姿が各所に見られた。
更にはその奥から上がる白い煙。
どうやら火を熾してくれているようだ。
彼は再び潜ると浜に向かって泳ぎ、足がつくようになったところで立ち上がって歩き出す。
と、すぐに仲間達から声が掛かった。
「オラースさん、お疲れ様です」
用意していた毛布を持って行くのはレインだ。
「寒くないですか? どうぞ火にあたって下さい」
火の番をしていたソフィアにも声を掛けられて、彼が毛布を身体に巻き火に寄ると、その上に掛けられた鍋から上がる湯気には食欲をそそる芳しい匂いが伴う。
「わぁっ、もしかしてそれ全部、二枚貝ですか?」
「ああ」
「やっぱり海中から集めると違うね」
次いで掛かった声はイシュカのもの。
オラースから大量の二枚貝が入った網を受け取った彼は、中から一つを取り出し、その手触りを確かめる。
「‥‥うーん、絵を書く前に表面を洗って磨いたりしないと、子供達に怪我をさせる心配があるな」
今まで海の中にあった貝殻は、当然のように表面がざらざらとしており、これを研磨するのは大変な作業だ。
「とりあえず中身は皆で食べるとしよう」
言うイシュカが一瞥するのは火に掛かった鍋。
料理を得意とする彼は、それを既に身を入れれば完成という形にまで仕上げていた。
「貝を割るの、手伝ってくれるかな」
「はい」
手伝いを頼むイシュカに、元気良く応えるのはソフィア。
「じゃあ私は、そろそろ休憩しましょうってリールさんとエリーシャさんに伝えて来ます」
言うが早いか走り出すレインを見送り、イシュカとソフィアは網から貝を出して一つずつ手に取る。
「いいかい? 貝はこじ開ける前にこういうのを差し込んで‥‥」
説明する彼が手にしているのは先が切れるようになっている平たい道具。
「貝柱を切って、身が片方に寄るようにしなきゃダメだよ」
「わかりました」
イシュカが持参して来た調理道具を借り、ソフィアも身の切り離しに奮闘する。
「‥‥手伝うか?」
火にあたりながらオラースが声を掛けるが、二人は即断った。
「オラースさんは海に潜って疲れているんですから、ちゃんと休んでください」
「そうだよ、今は体温を元に戻して。明日からの殻磨きでも活躍してもらわないといけないんだからね」
不思議な圧力のある言葉に、オラースは素直に引き下がる。
貝殻探しを手伝ってくれた子供達と共に新鮮な貝を使ったスープを賑やかに味わう事になるのは、もう間もなくだ。
● 三、四日目
海で獲った貝殻は勿論のこと、浜で子供達と拾い集めた貝、そして料理店から譲ってもらった殻も集めて冒険者達が揃えた数は優に二百を超えていた。
「ふむ‥‥、大体四セットってところかな」と、これを見た日向が感心したように言うのを聞き、最初に口を開いたのはオラースだ。
「完成したものを、あんたはどこに渡すつもりなんだ?」
「どこと決めてはいないよ。近所の子供達の遊び道具になればと思っているが、君達に持って行きたい場所があるなら、是非そちらに贈って欲しい」
「でしたら、浜で貝探しを手伝ってくれた子供達にも一つ贈って構わないでしょうか?」
エリーシャの問い掛けには快い返事。
「ああ、もちろんだ」
「なら一つは【ネバーランド】に贈ってもいいか」
オラースの言葉には小首を傾げる。と言うのも、日向にとっての【ネバーランド】は天界の物語にある大人の居ない世界の名前だったからだ。
そんな彼に、この世界にはそう言った名前の子供ギルドがあることを説明し、こちらも承諾を得る。
ただし。
「実際に持って行けるのは半年くらい後になると思うけどな」
ニコッ、と笑う天界人に一同絶句。
「半年ですか?」
聞き返すレインに、青年は意味深な笑みで頷いて見せた。
「そ。これを作るのは結構大変でな、土の中に数年埋めて磨き上げるのが昔ながらの製法だ。とは言え、そんな悠長な事はしていられないから、外に放置して腐らせるのが一番の近道ってわけ」
その期間が約半年なのだと言う。
「貝の表面のざらつきもそうだし、下準備をしっかりしておかないと、せっかく描いた絵がすぐに剥げちまう。そんなの勿体無いからな」
確かに‥‥と冒険者達は頷きかけるが、何やら納得のいかない点も多く。
「でしたら、今日から絵を描く貝は‥‥」
「あっちだよ」
そうして彼が指差す先には、大きな桶。その中には、日向がこれまでに一人で集めて来た八〇余りの貝殻が、一週間前から水に浸けてあるそうだ。
毎日水を取り替えて来たこれを、布で磨くなどして汚れを落とし、洗浄して乾燥させる。
次には色を定着させるために貝から作った胡粉を塗布し、更に乾燥させる。
「‥‥なるほど、手間が掛かる分だけ心の篭った贈り物になるわけか」
「ですね」
リールが初日に聞いた話を思い出しながら失笑し、レインもつられるように笑う。
「そんな気の長い仕事はお断りかい?」
青年の、何とも意地の悪い調子の問い掛けに、だが肯定する者はいない。
「いいえ、一度お引き受けした依頼は完遂させていただきます」
エリーシャが厳しい顔付きで断言し、ソフィアも「そうですね」と苦笑い。
深い息を吐くオラースに続いて、肩を竦めつつもやはり苦笑するイシュカ。
ならば早々に次の手順をと促す冒険者達に、日向が奇妙な笑みを浮かべた事には誰一人気付かなかった。
***
昨日までの貝は袋詰めにして日向の家に保管され、冒険者達は充分な時間を置いた貝の加工に着手した。ギルドの受付係からは貝に紙を貼ると聞いていたため、その辺りも確認してみたのだが、
「よく考えたら俺の持っている紙なんて固くて、貝には貼り難いよな」とはぐらかされる。
いま気付いたと言わんばかりの態度に、次第に滝日向という人物を不審に思い始める者が数名。
「何か企んでいるのか?」
オラースが鋭い視線を向けて問い掛けるも、本人は何のその。
「邪魔はしないよ」と笑顔である。
一方で真剣に貝に絵を描いているのがソフィアとレインだ。
日向が準備していた絵具を使い、高さ三センチ、幅五センチの貝殻を相手に真剣な表情で作業を続けている。
「出来た!」
しばらくして完成させたレインが声を上げると、隣で鳥の絵を描いていたソフィアがひょこっとそれを覗き込む。
「わぁ、レインさんの描くお犬さん、可愛いですね♪」
「うちの愛犬ですー!」
きゃっきゃっと満面の笑顔で賑わう少女二人を見ていれば毒気も抜かれようというもの。
広がる失笑は、いつしか彼らが真剣に筆を走らせる音だけを残す静寂に変わっていった。
剣や槍、弓など冒険者に縁の深いものを描いて行くのはオラース。
果物や野菜、家具、日々の暮らしに近しい絵柄はイシュカだ。
職業柄、紋章に詳しいエリーシャが実在するのとは異なる獅子や鷹の紋を描いて行く隣では、同じく騎士のリールが、これまでの冒険で行き来した土地の風景を繊細な筆遣いで形にしていった。
犬に猫、鳥、蝶、花――。
子供の目にも判り易く、明るい色調の絵が描かれた貝殻が八〇枚余り。
着色後の最後の乾燥のために陽光の下に並べられた絵からは、何とも表現の仕様がない不思議な光が放たれているように見えた。
● 五日目
「ん‥‥っ」
八〇枚の小さな絵を、性格ゆえか細かいところまで気を配って描いていたリールが腕を伸ばしているところに、コロンと転がされたのは新たな貝。
追加か、と少なからず驚く。
だが、そうして目に入った貝は今までのものと違って二枚が重ねられていた。
僅かな隙間も無い、二枚貝。
「これは‥‥?」
「俺からのお礼」
一瞬、意味が判らずに眉を寄せる。
すると日向は周囲の仲間達を指し示した。
「あれ? レインさんは何も描かないんですか?」
「ん‥‥いつか、贈りたい相手が出来た時のために、このまま取っておきます。ソフィアさんは?」
「僕は、いまは遠くにいる兄と姉に贈りたいと思います」
小さな貝を抱き締めて、ソフィアが応える。
「‥‥せっかくだから旧友と分け合おうかな」
貝を親指と人差し指で持ちながら、懐かしそうに目を細めるのはイシュカだ。
「な。だから、リールにも」
「ありがとう‥‥」
言い、ふと思い立って言葉を紡ぐ。
「申し訳ないが、あと二つ頂く事は出来るだろうか」
「二つ? 一つなら余分にあるが‥‥」
「でしたら私の分を」
不意に手に乗せた貝を差し出して来たのはエリーシャ。
「私には差し上げたい相手もいませんから」
「‥‥いいのか?」
「ええ」
二人の遣り取りに、日向が微笑う。
「じゃあエリーシャには、浜で貝探しを手伝ってくれた子供たちに合わせ貝一セットをプレゼントした方が良いのかな?」
「えっ」
見抜かれたような気がして、不本意ながら動揺してしまうエリーシャ。
「当たりか? そりゃ良かった、人間観察が俺の仕事だからな。腕はまだ鈍ってないらしい。――いいよ、二十組くらい選んで持って行ってやってくれ」
くっくっと喉を鳴らして笑う彼は何とも小憎らしい。
「滝殿は、私達を試されているのでしょうか?」
「さぁどうかな。またギルドに依頼する事もあるだろうから、縁があったら確かめにおいで。半年後の、君達が拾い集めてくれた貝に絵を描く時でもね」
相変わらずの飄々とした態度に、二人の女剣士は肩を竦める。
今の段階では、恐らく何を聞いてもこの調子ではぐらかされるのだろう。
「ところで、さ」
「何でしょう」
「いやぁ‥‥、俺も馬には蹴られたくないんで口出しなんかしようとも思わないけどね」
「――はい?」
意味が判らずに、いっそう深い皺を眉間に刻むリールとエリーシャに対して、日向は更に楽しげになる。
その視線の先に居るのはオラース。
普段は屈強な男が筆に青い絵具を染み込ませて小さな貝に向かう姿は、何と言うか。
「俺にしちゃ超人的な冒険者も、いたって普通の人間ってことか」
そう呟く日向の、笑顔。
その笑い方は悪くない、と。
エリーシャとリールもその口元を和ませるのだった。