●リプレイ本文
「お姉ちゃん!」
姿を見せた冒険者達に満面の笑顔で駆け寄って来る子供達。
「やほ〜♪ またよろしくー!」
ディーネ・ノート(ea1542)がピースサインで笑うと、二人の少年少女が我先にとその細腰に抱きついた。
すっかり彼女に懐いているフィムとトートマだ。
「元気だった?」
二人一緒にぎゅっと抱き締め返して問い掛けるディーネに「もちろん!」と重なる陽気な声。
「ひっさしぶり〜! 一緒にお芝居を頑張ろうね〜♪」
「は、はい‥‥っ」
一方ではソフィア・カーレンリース(ec4065)に抱き締められた少年・クリスが相も変わらず顔を真っ赤にしながら、それでも嬉しそうに頷き返す。
「レインお姉ちゃんも来てくれたんだね!」
子供達が以前に面識のあるもう一人の冒険者レイン・ヴォルフルーラ(ec4112)にも駆け寄りながら喜びを伝えると、教師という職業ゆえに子供に慣れ親しんでいる彼女は、親愛の情を込めて一人一人に応えていった。
「今回もありがとうございます」
そうして現れたるは今回の依頼主であるセゼリア夫人。
頼みを聞き入れてくれた冒険者達を一人一人見つめながら礼を告げる夫人は、その視線をディーネに止めるなり上機嫌な目尻を更に下げて歩を進めた。
「まぁまぁまぁ……っ」
「ども、です」
歓喜の声を上げながら思わず撫でてしまうディーネの頭上には獣耳ヘアバンド。
最初の出会いから続く反応は恒例となりつつある再会行事で、もはやディーネも容認の姿勢である。
「今回もよろしくお願いします〜」
「植え替え作業の時に話していたお花見が実現して本当に嬉しいです、今日は宜しくお願いします」
「よろしくね」
ソフィア、レインとも再会を喜び、声を掛け合う夫人。
そして、今回新たに縁が結ばれた二人の冒険者。
「こちらは初めましてね」
夫人に微笑まれて礼儀正しくお辞儀するのはミリスティール・レアハイツ(eb3485)。
「お初にお目にかかります」
「以後どうぞお見知りおきを」
ギエーリ・タンデ(ec4600)は大きな身振りで優雅に一礼する。
「こちらこそ。一緒に楽しいお花見にしましょうね」
夫人はにこりと微笑んで、やはりディーネの頭を撫でていた。
●
その後、冒険者達は花見の劇本番に向けて練習を行うという子供達に付き合う事にした。
タイトルは「大きなかぶ」。
おじいさんが畑に植えたカブが大きく育ち過ぎ、抜こうと思っても抜けない。
そこで、おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、弟、妹と、家族八人で力を合わせるというのが大まかな内容だ。
「天界のお話しなのですか〜。面白そうですね♪」
話を聞き、子供達に優しく微笑みかけるソフィアの隣では、ギエーリが大仰に頷いて見せる。
「ほぅ、さすがは天界。そんなに大きなかぶがあるのですか。是非一度見てみたいものです」
「本当ですね」
レインも感心したふうに頷くが、傍ではその天界出身のディーネがあらぬ方向を見遣って苦笑いを浮かべ、ミリスティールは何ら気にした様子もなく穏やかな笑みを浮かべるだけで、静かに話を聞いている。
「クリスはどの役なの?」
ソフィアに聞かれた少年は「お兄さん!」と元気に返答。
「フィムさんとトートマ君は?」
「私は妹役なの」
「僕はおじいさん」
ディーネに呼ばれた二人も元気良く答えた。
すると名前を呼ばれるのが待ち切れなかった他の五人も自分の役名を次々と教え、辺りは唐突な賑わいを見せ始める。
「聞いて、聞いて!」と上がる声。
「よぉっし!」
そんな子供達の発言を、張りのある陽気な一声で収めたのはレインだ。
さすがは教師、慣れたもの。
「話しを聞いていたら皆の劇が見たくなっちゃった。――本番の前だけど、少しで良いから見せてくれる?」
問い掛けに子供達は互いの顔を見合わせ、だがすぐに彼女に向き直る。
「「うんっ!」」
八人の一斉の返答。
子供達は早速とばかりに冒険者達を一列に並ばせ、少し離れた場所で劇を開始した、‥‥のだが。
「ラディ、いまのセリフ違う!」
「クリスだって! 昨日はそんな順番で言ってなかった!」
「こっちの方がカッコイイと思ったんだもん!」
如何せん台本というものが存在しない状態では子供達の個々の記憶だけが頼り。物語の内容を聞いて雰囲気は掴めても、毎回同じ演技をするというのは困難だろう。
その都度で変わるセリフ回しと立ち位置。
子供の間で諍いが生じるのも当然の流れだった。
「まずは内容の統一ですね」
セゼリア夫人が「かぶ役」として劇に参加して欲しいと頼んで来た本当の理由が判った気がして、レインは困惑気味に呟く。
羊皮紙の台本を人数分揃えるのは不可能だが、決めたセリフを書き留めて練習を繰り返せば、同じ内容を覚える事は可能だろう。
「じゃあ皆でセリフを確認しましょう」
これを彼女が手元に書き留める。
「とても良いお噺ですが、もしよろしければ劇として判り易く、また演じ易いよう、セリフ回しや立ち位置に少々手を加えても構いませんか?」
そう挙手したのは吟遊詩人のギエーリ。
詩人を名乗る彼は演劇にも強い関心を持っており、子供達のせっかくの晴れ舞台だ、少しでも良いものをと考えた。
子供達の劇の内容については二人に任せるとして、ディーネ、ミリスティール、ソフィアの三人は劇の小道具作りを行う。
話を聞けば、子供達には衣装やお面と言った外見を装うという発想がなかったらしく、そういった準備は何一つしていなかったからだ。
「そうと決まれば、まずは材料集めですね。イメージカラーは‥‥、おじいさんが緑、おばあさんが薄紫、娘さんは赤が良いかもしれませんね〜♪」
いろいろと想像しながら楽しげに微笑むミリスティール。
冒険者達もいよいよ本格始動である。
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「『まぁ、なんて大きなかぶでしょう』」
「『わし一人では、とてもではないが抜けないんじゃ』」
おじいさんとおばあさん役の少年少女が、かぶに見立てた石を前に演技する。
台詞はレインが書き綴ったものと照らし合わせる形で確認し、まずは毎回同じ内容のものを演じられるよう心掛けた。
「『おじーさん、おじーさん、何しているんですか』」
「台詞はもっと大きな声で、いつもよりゆっくりと話してください」
お父さん役の子が普段通りの言い回しをしたなら、ギエーリから声が掛かる。
「『おじいさんっ、おじいさんっ、何をしているんですかっ』」
「ああ、怒鳴るのとは違うのです。皆さんの劇を見て下さる方々に、何を言っているのかはっきりと伝わるよう、なるべく体は正面に向けて、お腹から声を出すのですよ」
もう幾度目かになる演技指導。
上達し、褒められることでやる気を伸ばす子供もいれば、その逆もまた然り。
「もうやだっ」と度重なる指摘に地団駄を踏む子もいたが、こちらにはレインがすかさずフォローに回っていた。
「今のままでも、とっても上手だと思うわ。でもトートマ君のおばあちゃんには少し聞き取り辛いかも」
「‥‥聞こえないの?」
「じゃあ、こうしてお耳を隠してみて?」
子供の耳を手で覆わせ、普通の声で話し掛けたり、お腹から声を出してみたりという事を繰り返せば、子供達もその違いを実感する。
そんな実験的な内容も取り合わせながら、レインとギエーリ、二人一組の演技指導は順調に進んでいた。
一方の衣装・小道具制作班は更に順調だ。
裁縫を得意とするミリスティールをリーダーに、それぞれの配役に似合った衣装と、用意した白布を自分達が「かぶ役」をする際に入れる大きさに繋ぎ合わせる作業が着々と進められていた。
「『おじいさんがおばあさんを引っ張って、おばあさんがお兄さんを引っ張って‥‥』」
針仕事を進めながら小声で呟いているのはソフィア。
そこにすかさずストップを掛けるのはディーネだ。
「ソフィアさん、そこはお兄さんじゃなくてお父さん」
「あ、そうでした。え〜と、おばあさんをお父さんが引っ張って、お父さんをお母さんが引っ張って‥‥」
かぶ役を演じる一方で物語のナレーションも務めるソフィアも台詞の練習は欠かせない。
「お花見ですか〜、春のぽかぽか日和でのお茶会は良いと思いますよ〜。楽しみですね〜」
気持ちの良い青色が広がる空を見上げ、穏やかに呟くのがミリスティール。
ウィザード二人と同じ針仕事をしているはずなのだが、その手際の良さと言ったら段違い。
まるで筆で直線を書いているような淀みない動きを見せながらも穏やかに微笑む彼女は、愛らしい顔立ちに反してなかなかの才女である。
そうこうして本番前日。
「衣装が出来ましたよ〜。さっそく見ていただけますか〜?」
ディーネ、ソフィアと共に完成させた一人一人の衣装を腕に抱いたミリスティールが声を掛けると、レイン、ギエーリと共に演技を完成に近づけていた子供達は表情を輝かせて駆け寄って来た。
「見せて、見せて!」
「着てもいい?」
綻ぶ子供達の笑顔に、ミリスティールはかつて異国の地で子供達と過ごした教会の景色を思い出す。
「ええ。私も皆さんが衣装をお召しになられた姿を拝見したいです」
そこにはサイズの調節という大事な目的もあるが、それはそれだ。
「せっかくだから、衣装を着たまま一度通しで劇を練習してみたら?」
フィムとトートマに抱きつかれているディーネが提案したなら誰もが賛成。
彼らは明日の本番に向けての最終調整に入っていった。
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お花見の日、子供達の衣装が入った荷を持ってトートマの祖母の家を訪れた冒険者達。
「まぁ、貴方たちが噂に聞く冒険者の皆さんね。孫達がいつもお世話になって!」と歓迎された。
「ども♪ 今日はよろしくお願いします」
「皆さんに召し上がって貰えればと思い、作ってきたんですよ♪」
ディーネに続いてミリスティールも御挨拶。
持参したリンゴのタルトを差し出すと、婦人は喜びに口元を綻ばせた。
「お気遣いありがとう、お花見の席で、皆で頂きましょうね」
祖母が声を掛ける先には、既に到着していた子供達。
セゼリア夫人の姿もある。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、いらっしゃい!」
トートマが笑顔で言いながらディーネに抱きつけば、負けじとフィムも彼女に突進。
陽気な笑いが広がる中で庭に通された冒険者達は、同時に感嘆の声を漏らした。
「うわぁっ」
一面に広がるは彩り鮮やかな花の数々。
手の行き届いた庭は、まるで今にもフェアリーが羽ばたきそうな美しさ。
そしてその美しさを更に引き立てるのは、見事な幹を持つアーモンドの木。
空を白色に覆わんとする迫力で咲き誇る花達の艶やかさだ。
「綺麗です〜」
「すごい‥‥」
ソフィアとレインが呟き、ギエーリも。
「おお、これは見事なお庭ですねぇ。大奥様の丹精の賜物、お人柄が表れるようです」
「まぁお上手」
くすくすと彼に応える婦人は、五人の冒険者に席を勧めた。
「さぁお座りになって、まずは歓迎のお茶を召し上がってね」
花の香りに、ハーブティーの芳しさが合わさった。
「『四人で引っ張っても、このかぶはびくともしないんだ』」
「『それは大変、では僕も手伝いましょう』」
今度は五人が連なってかぶの茎を握り締める。
「『かぶをおじいさんが引っ張って、おじいさんをおばあさんが引っ張って‥‥』」
ナレーションのソフィアが語るも姿は見えず。
「まぁ、あのお嬢さんはどちらに?」
「ふふふ、冒険者の皆さんは不思議な力をお使いになるんですのよ」
こそっと言い合う婦人達。
件の少女がどこにいるのかと言えば、ディーネ、レインと一緒にかぶに扮した白布の中である。
ギエーリは演技指導の先生として、その本番の舞台を見守り、ミリスティールは婦人達に、お礼のハーブティーを淹れながら心地良く演劇鑑賞が出来る雰囲気を整える。
「『まぁ、それは大変! 私もお手伝いします!』」
妹役のフィムも加わって、かぶを引っ張る。
「『お姉さんを弟が引っ張って、弟を妹が引っ張って、さぁどっこいしょ〜、どっこいしょ!』」
(「せーのっ」)
ソフィアが語り終えるのを待ち、布の中の三人が呼吸を合わせて子供達に引き抜かれる!
「『やった、抜けた! かぶが抜けた!』」
「『やったぁ!』」
大喜びする子供達は、ともすれば素で喜んでいるとも取れる賑やかさ。
飛び跳ねて、万歳して。
「『こうして無事に収穫できたかぶを、家族はみんなで美味しく頂くのでした、おしまい♪』」
最後のナレーションが終わると同時に観賞していた四人が一斉に拍手。
「おめでとう!」
「素晴らしかったわ!」
婦人達の喝采を受けて、布から顔を出した三人に抱きつく子供達。
必死に続けてきた練習と、丹精込めて作られた衣装で、劇は見事な大成功をおさめたのだ。
●
「少々風が冷えてまいりましたね‥‥、大奥様、こちらのマントをどうぞ」
「まぁ、ありがとう」
ギエーリの厚意を婦人はありがたく受け止め、彼のマントを借りる。
「さぁさ、お一つどうぞ〜。かんぱ〜い!」
少し酔いの回った口調で仲間にワインを勧めるのはソフィア。その腕にはクリスがしっかりと抱き締められており、少年の顔が赤いのは、‥‥まさかワインに口をつけたからではないだろう。
「あら‥‥ディーネさん、今日は小食‥‥ですね」
レインに心配そうな顔で言われた当人は苦笑い。
「今日は控えようと思って。うん」
肩を竦めて、今度は二人で笑った。
「今日は本当に、ほわほわ小春日和‥‥です〜♪」
花と、仲間と、そして子供達。
一人一人を見つめて呟くのはミリスティール。
「短い花の季節を、こうして皆さんと過ごせた事を大変嬉しく思いますよ」
トートマの祖母にも、そう声を掛けられて、冒険者達は顔を見合わせて微笑む。
アーモンドの白い花咲く春の庭で。
多くの笑顔も咲き綻んだ――。