セゼリア夫人の憂鬱

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2008年06月19日

●オープニング

「‥‥おかしいね」
「おかしいよね?」
 八人の子供達が順番に背伸びして覗き込む窓は、何かと世話になっている牧場を経営する夫婦の自宅だ。
 室内の椅子に腰掛け、先ほどから溜息ばかり繰り返す彼女はセゼリア夫人。
 子供達の大好きなおばさんだ。
「どうしたんだろう」
「どうしたのかなぁ‥‥」
 足下に眠る愛犬を見つめては深い吐息。
 テーブルの上にある何やらふわふわの、まるで猫耳風の帽子を眺めては、やはり溜息。
「大丈夫かなぁ‥‥」
「うーん‥‥」
 子供達は互いに顔を見合わせ、しばらく考えた後で一人が手を打つ。
「そうだ! おばさんの大好きな冒険者のお兄ちゃん、お姉ちゃんにお願いしよう?」
「あ、それいいかも!」
 出たアイディアに全員が賛成。
 ギルドに依頼を出し、集まってくれた冒険者達と一緒に夫人を元気付けられる「何か」を考えよう!
 そうと決まれば即行動。
 子供達はそれぞれに貯めてあった小遣いを持ち寄り、八人一緒にギルドへと足を向けるのだった。

●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

「まぁ。ディーネさんたらいつの間にお子さんを?」
「っだぁ! 誰が私の子供か? この子達は私の友人よ!!」
 子供達に囲まれて声を荒げるのがディーネ・ノート(ea1542)なら、ビックリ発言をするのは彼女の古くからの友人、倉城響(ea1466)。
「こんにちは〜♪ 皆、元気だった〜? また会えて嬉しいよ!」
 すっかり仲良くなった子供達と抱擁し合うソフィア・カーレンリース(ec4065)は、中でも特に親しい少年クリスをぎゅっっと抱き締めた。
「お世話になっている夫人を助けたいだなんて良い子達ですね」
 そんな光景を眺めながら穏やかに告げるジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)の隣にはレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)が並ぶ。
「私も出来る限りの力になって差し上げたいですわね」
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
 意気揚々と言い放つレインに、ジャクリーンもそっと頷く。
「じゃあ行こ、お姉ちゃん達!」
 子供達に手を引かれて、一同は件の夫人宅へと歩き始めた。




 ●

「それにしても、夫人はどうしちゃったのでしょうね? 飼っていらっしゃる動物達に何かあったのですかねぇ?」
 口元に指を置いて悩むソフィアの言葉に、子供達は顔を見合わせて困惑顔。
「そんなことないと思うよ? レジェンヌは元気だし、丸裸になったヒツジ達も風邪なんか引いてないし、馬も牛もヤギも鶏も、皆いつもと変わらないもん」
「そっか」
 レジェンヌは夫人の愛犬の名前。
 ヒツジ達を丸裸にしたのは、ディーネやソフィア、レインが参加した依頼の結果であるが、‥‥まぁ諸々の飼っている動物達には特に変化ないらしい。
「でもね、猫のお耳みたいな帽子をぎゅうっってしながら溜息をついたり、レジェンヌをぎゅってして溜息をついたり、絶対、絶っ対に様子がおかしいの!」
「お願い、お姉ちゃん! おばさんを助けてあげて?」
 握っている手に力を込めて訴える子供達にディーネはウィンク一つ。
「大丈夫よ。私達と解決しましょ♪」
 力強い言葉に笑顔を取り戻す子供達を見つめながら、その胸中には彼女なりの予測があった。
 夫人の事だから人間関係で悩んでいると言うのは考え難い。
 可能性が高いのは、やはり動物関連だと思うものの、色々と考えても埒が明かないなら本人に直接聞いてしまうのが無難。
 その方向で仲間達との意見も一致している。
 かくして一行は件の夫人宅へと到着した。


 *

「こんにちはー」
 既に何度も面識のあるディーネ、ソフィア、レインが先頭に立ってセゼリア夫人宅の扉を叩けば、来客を知り営業スマイルを浮かべて中から姿を現した夫人は、それが「誰」なのか判った時点で表情を崩した。
「まぁまぁまぁ‥‥っ」
 じりっ‥と一瞬にして漂う言い様のない緊張感。
 夫人の獲物を狙うような鋭い視線の先に立つのは、ディーネ。
「くっ‥‥」
 彼女も足に力を入れ、得意の回避スキルをいつでも駆使出来るよう戦闘態勢万端の体である。
 何せ、このところ恒例となりつつある夫人との面会時の獣耳装着。
 その発祥元であるディーネの獣耳ヘアバンドは夫人の大のお気に入りだ。
「お久し振りです! 動物達も皆、元気ですか?」
「近頃、何かを思い悩んでいる様子だと子供達から伺ったのでお訪ねしたんですが」
 揃って兎耳装着のソフィアとレインが並んで告げると、後方で「かわいーっ、お姉ちゃん達可愛い!」と小声で賑わっている子供達と同様に夫人の頬も緩々だ。
「まぁまぁ、それでわざわざ私に会いに来て下さったの?」
「本当に何か思い悩んでいるんだったら、誰かに話してみるのも良いと思うわよ? 子供達も心ぱ‥‥って!」
 次いでディーネも来訪の意図を語れば、よほど嬉しかったらしい夫人がじりじりと距離を詰めて来る。
 そんな彼女の、怪しく動く手指が非常に不気味で。
「そんな嬉しそうに抱き締めよーとしないで!?」
「まぁ‥‥感謝の気持ちをお伝えしたいだけですのに」
「違うでしょっ、絶対に何か違うわよね!? ――ちょっと! お願いだからっ! こっちくんな!!」
 ディーネの必死の抵抗さておき。
 しばし二人の煩悩と恐怖溢れる攻防をご覧頂かざるを得ない状況になってしまったらしい。


 *

 夫人を訪ねた冒険者一行が、ようやく居間に通されてハーブティでもてなされたのは小一時間が経過した頃だった。
「以前にもお会いしていますが、改めてご挨拶を。ジャクリーン・ジーン・オーカーと申します‥‥」
「初めまして、倉城といいます。ディーネさんがお世話になっているようで」
 若干の戸惑いを含んだ挨拶をするジャクリーンとは対照的に、にこにこと気持ちの良い笑顔で言うのは響。しかしこの場合の正しい姿は、恐らくジャクリーンの方で。
「ご丁寧にありがとう。こちらこそ冒険者の皆さんにはいつも大変お世話になっていますわ」
 そう返す夫人の膝には、もはや観念しつつも仏頂面のディーネがちょこんと乗っているのだ。
 やはり「可愛い♪」と大喜びの子供達の傍でソフィア、レインは胸中に合掌。
 ディーネがいなければ犠牲者、‥‥もとい夫人の膝に乗せられていたのは間違いなく二人のどちらかであり、何とはなしにそれを察している彼女達は話し難い様子。
 ゆえにその場の進行役は自然と響が担うようになっていた。
「子供達が随分と奥様の事を心配されていたようですけれど、何かお悩みの事でもあるのでしょうか?」
「子供達が私を心配、ですの? まぁ‥‥」
 驚きと同じくらいの優しさを伴った視線を向けられた子供達は照れ臭そうに顔を伏せる。
 響はそんな幼子達の様子にくすくすと微笑みながら続けた。
「もし可能でしたら、私達が奥様の悩み事を解消して差し上げたいのですけれど、どうでしょうか?」
「‥‥本当に力になって下さいますの?」
 ぞわっ、と冒険者の背筋を駆け抜ける悪寒。
 それに気付いてか否か夫人は「ほぅ‥」と頬に手を当て、軽い溜息。
「近頃は本当に悩ましい事ばかりで‥‥ディーネさんのヘアバンド、ソフィアさんやレインさんの兎耳、先日はこの、猫耳の可愛らしい方も会いに来て下さったけれど、‥‥どうして犬耳はないのでしょう‥‥、ですとか」
「あ、それなら!」
 夫人の悩みに、それと予測していたレインが気を取り直すように元気に挙手。
「子供達と一緒に、私達が作りましょうか?」
「まぁ! 本当ですの!?」
 パッと輝く夫人の笑顔。
 他の面々もそんな所だろうと考えていた手前、それを作る事に異論はない。
 しかし。
「とか‥と仰られるのは、他にも何か悩み事が?」
 ジャクリーンの問い掛けに、夫人は再び沈んだ表情で小さく頷く。
「えぇ、でもこちらは‥‥やっぱり皆さんにもご迷惑でしょうから」
「そんな気遣いは無用ですよ」
 袖で口元を隠しながら言う響。
「お力になれる事なら何なりと」
 おっとりと告げる彼女に、夫人は今度こそ満面の笑み。
「判りましたわ! ではお言葉に甘えて準備させて頂きます、しばらくお時間を下さいな!」
 にこにこと言われて、やはり冒険者達の胸中には嫌な予感が有ったり無かったり。
 とりあえず、先ずは犬耳制作に取り掛かろうと動き始める彼女達だったが、一人、夫人が離そうとしない人物も。
「‥いあ、そろそろ膝の上から逃げ‥‥もとい、降ろしてくれると嬉しいんだけども‥‥?」
「まぁ、もう少しよろしいでしょう? 久々の再会ですもの」
「‥‥」
 夫人、退かず。
 こちらの攻防は今しばらく続きそうだった。




 ●

 初日に夫人の悩みを聞き出し、街の雑貨屋などで一通りの材料を揃えた彼女達は、二日目から本格的に犬耳制作に取り掛かった。
 手先の器用なジャクリーンと響が、どのように布を縫い合わせれば可愛らしい犬耳が完成するのか意見を出し合い、同じく犬好きのレインは、どの犬の耳にしようかと自分の愛犬達を思い浮かべながら思案。
「せっかくですから色んな犬耳を作ったらどうでしょう〜?」
 ソフィアがそんな意見を出すと、それもそうだと、子供達も乗り気で手伝う。
「ハスキーの凛々しく立った耳、コリーの半分だけ垂れた耳、ボルゾイの真横に垂れた耳‥‥」
 得意という程ではないのだが、サラサラと羊皮紙にペンを走らせるレインが描く図案はちゃんと犬の耳に見える。
「この耳だと、型崩れ防止に綿や柔らかい布を詰めることで意外に容易に作れるかもしれませんね」
「この垂れた耳はラビットバンドを手本にすると巧くいくかも?」
「布を折っただけじゃダメですよね〜、どうしたらいいかな〜」
 色々と試行錯誤しながら作業は進んだ。
 響、ジャクリーン、レインの縫い合わせた布に、ディーネ、ソフィア、そして子供達が綿を詰める。
 失敗を重ねながらも「らしい」犬耳の完成品が、一つ、二つと並んで行く。
 そんな中で一抹の不安を抱き始めていたのはジャクリーン。
(「‥‥相談の流れで完成した耳飾を私達が身に付けることになっていますが‥‥本当に着用しなければならないのでしょうか‥‥」)
 完成品に視線を落としながら、彼女は至極真面目に思い悩んでいる。
(「確かに、以前はGCRを盛り上げるために色々と着飾った覚えもありますが‥‥あれは偽名や仮面を使ったりなど正体を隠していたから出来た事で私個人としてこういった被り物は‥‥」)
「ジャクリーンさん?」
「!」
 背後から唐突に声を掛けられた肩を震わせた彼女に、きょとんとしているのはソフィアだ。
「どうしたんですか〜? お顔が赤いですよ〜?」
「い、いえ。特には‥‥」
 答えつつも、視線は彼女の頭に装着された兎耳に。
 何の衒いもなくそれを装着して過ごせる彼女に些かの羨望を覚えつつ。
「本当に大丈夫ですか〜?」
「ええ、ご心配ありがとうございます」
 ソフィアが去った後で、ジャクリーンはバックパックに入れてあった自身のラビットバンドを取り出した。
 端切れを購入した際に、サカイ商店で念のためにと購入しておいたのだが。
「‥‥」
 手で持って眺めているうちに、ますます頬を赤らめる騎士が一人。


 *

 子供達との作業を、冒険者達は楽しんでいた。
 判らないところを教えて欲しいと頼まれれば響が率先して指導に努め、ディーネやソフィアは一緒になって大はしゃぎ。
 時には子供達に添い寝して同じ時間を過ごす事もあった。
 ジャクリーンは裁縫の経験こそ少ないものの手先の器用さは人一倍。
 響から多少の指南を受けると、それは見事な作業をこなす。
「これで完成ですね!」
 最後の一つを仕上げたレインの言葉に、周囲からは拍手が起こった。
「みんなご苦労さま!」
「頑張ったわね!」
 ソフィア、ディーネと、子供達を労い、それぞれに犬耳装着。
 最終的には今回の功労者である子供達に夫人を喜ばせてあげたいと思ってのことだ。
 一方、装着回避に安堵してみせたジャクリーンだったが――。




 ●

「まぁまぁまぁまぁ‥‥っ、こんなに可愛らしい子犬さんが八人も!!」
 犬耳装着の子供達に大喜びのセゼリア夫人。
 彼女の満面の笑顔に、最近の夫人の様子を心配していた子供達も大喜びだ。
「おばさん元気になった?」
「もう溜息つかない?」
 幼子達の気遣いに感動した夫人は、一人一人をぎゅっと抱き締めて頷く。
「ええ、もう大丈夫ですわ。皆さんのお陰でとっても幸せな気持ちになれました。――それに、これから冒険者のお姉さん方も私のお願いを聞いて下さるそうですし」
「ぇ‥‥」
 向けられた視線に嫌な予感再び。
「そういえば夫人の悩み事ってもう一つあったんですよね‥‥」
「一体何を悩んでいたんですか‥‥?」
 どきどきしながら問い掛けた少女達に、夫人が促したのはとある部屋。
「これですわ!」
 どーんと眼前に現れたるは巷で有名なまるごとシリーズ。
 ぐりふぉん、たーとる、どんきー、はくちょう。
 クマさん、うまさん、それに、わんこ。
「こ、これは‥‥っ」
「あまりの可愛さに衝動買いしてしまったのですけれど、うちの主人も従業員の彼らも、‥‥誰も着てくれようとしないんですの‥‥っ」
「――」
 それはそうだろうと皆が思う。
 まるごとシリーズは、いわば防寒服。
 この季節に好んで着用したいものでは断じてない!
 しかし夫人には季節など全く関係が無いようで。
「このまま冬までお蔵入りかと思うと、もう寂しくて寂しくて‥‥こんなに可愛いのに‥‥せっかく皆で楽しみたくて準備しましたのに‥‥誰も着てくれないなんて‥‥」
 更に聞けば、サイズ的に子供達に着てもらう訳にもいかず、誰にも相談できなくて辛かったという事らしいのだが。
「‥‥着て下さるかしら」
「ゔっ‥」
「着て下さらないのかしら??」
 詰め寄る夫人にたじろぐ冒険者。
 その背を押す子供達は。
「うわぁっ、お姉ちゃん達、それを着るの?」
「着てくれるの?」
「見たい見たい! お姉ちゃん絶対に可愛いよ!!」
「――――」
 子供達の無邪気さというのは時に非常に残酷なもので。
 その後、庭で一時のティータイムを過ごす事になる冒険者達は。


 初夏のうららかな陽気の中でまるごとシリーズを着用する彼女達。
 汗を掻きながらも辛抱強くお茶を啜る冒険者の姿というのは相当シュールなものだったが、依頼人たる子供達と、依頼対象であった夫人はこの上ない幸せな表情。
 彼女達の忍耐が依頼を成功に導いたのだ。
「‥‥‥暑い」
「‥‥暑いですね〜」
「暑いですわ‥‥」
 それもまた試練。

 ――合掌。