探偵遊戯〜愛を探せ!〜

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月05日〜06月08日

リプレイ公開日:2008年06月13日

●オープニング

「俺は忙しいんだっ!」
「そう言うなよっ、友達だろ!? 何とかしてくれ!!」
 ウィルの街中で男二人の言い合いが続く。
 一人は滝日向。
 近頃は冒険者の知り合いも増えてアトランティスでの生活に慣れて来た天界人だ。
 もう一人は、こちらも天界出身の水谷薫。
 以前にアトランティス出身の女性から、その出自の違いを理由に恋心を拒まれ、何とかしてくれと冒険者に頼った経緯があり、――そう。
 今回も似たような展開である。
「自分で失くしたんだから自分で見つけろっ、俺は知らん!」
「散々探し捲って見つからなかったから頼んでいるんだろ!?」
「だったら新しいの買って来い!」
「俺のどこにそんな余裕があンの!?」
「知るかっ」
 そうして二人の遣り取りは最初に戻り、延々と繰り返される。
 日向も強情だが、薫の粘り強さも相当なものだった。


 *

「で、結局は貴方が折れたと」
 ギルドの受付で、青年が苦笑交じりに呟く正面で日向は仏頂面だ。
「あいつはしつこ過ぎるっ」
「ふふふ、人が好いですね」
「ウッサい」
 トンと差し出す皮袋は、薫が出した依頼料。
「指輪を買った後の残金全部だ、あのバカが失くした結婚指輪、何とかして探してやってくれ」
「承知しました、依頼書を張り出しますね」
 彼の依頼を受理するも、その表情から笑みが消える事はなかった。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

「そんな大事なものを失くすなんて信じられないです!」
「いったい何をしてらっしゃるんですか‥‥っ」
 以前に面識のあるソフィア・カーレンリース(ec4065)とレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)、十代の少女コンビに交互に責められて、水谷薫は涙目で「すみませんーっ、悪気はなかったんですーーっ!」と必死に弁明。
「まあ‥‥結婚後に失くすよりかは、まだ良いか‥‥」と、同じく面識のあるリール・アルシャス(eb4402)が口元に手を当てて呟いた。
 指で覆ったその奥で(「結婚後だとあらぬ疑いを掛けられるかもしれないしな‥‥」)と声にはしない大人の呟きを漏らした事は誰にも気付かれぬまま。
「おぉおぉもっと厳しく言ってやってくれ、そのバ・カに」
 語尾にアクセントを置いて言い放つのは今回の依頼人にあたる滝日向だ。
 普段に比べると眉毛にかなりの角度をつけ、ムスッとした表情で腕を組みながら立っている彼は、とにかく現状が面白くないらしい。
 一方の薫も、日向のそんな心境を知ってか知らずか傷ついた顔で反論する。
「そんな言い方ないだろ!? 俺は本当に必死でだな! 自分一人じゃどうしようもなくなったから友達のおまえを頼ったんだ!」
「頼る以前の問題だろ! よりによって指輪を失くすのがアホなんだ」
「アホ!? さっきはバカだったろ!?」
「バカもアホも一緒だ!」
「へっへー、おまえ実は賢くないだろ! バカは死んだら治るけどアホは死んでも治らないんだぞ! まったくの別物だ!」
「‥‥‥‥っ」
 日向のこめかみがひきつり、ソフィアとレインは無意識に一歩後退。
 リールもスッと距離を取る。
「そういう事を言う奴は一人で孤独に指輪探しでもしていたらどうだ‥‥っ?」
「!」
 唐突に腕を首に回された薫は青い顔。
「うぐぐ‥‥っ、た、探偵のくせに冒険者を頼らなきゃならないくせに‥‥っ」
「‥っ‥‥能無し探偵で悪かったな‥‥!」
「うぐぐぐぐ!」――息が出来ずに苦しむ薫。実は冒険者が集まる数分前にも似たような話しが原因で既に一戦交えていた二人である。
「ぁ‥‥あの‥‥」
 状況についていけず、また他の冒険者が女性ばかりと言う事もあって怯み気味だったイシュカ・エアシールド(eb3839)だが、それ以上は絞殺の恐れがあると口を挟む。
「どうぞ‥‥お二人とも落ち着かれて下さい‥‥」
「あら、止めちゃうの?」
 一方で二人の遣り取りを眺めて楽しんでいた華岡紅子(eb4412)が可笑しそうに言う。
「しかし二人とも仲が良いな」
 こちらもリールが苦笑交じりに呟けば「仲良くない!」と息ぴったりの反論。
 まぁ、お約束である。




 ●

 薫の家に案内されて、一通り部屋を見渡すセシリア・カータ(ea1643)とゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は日向とも初見ということで簡単に自己紹介。
 エリーシャ・メロウ(eb4333)は薫と挨拶をした後でそっと日向に話し掛けた。
 曰く、今回の依頼料があれば他の指輪を買えたのではないかと。
「それなぁ‥‥、俺もそう思って聞いたんだが、どうしても失くした指輪でないとダメらしい」
「何か大切な思い出や、付加価値でも?」
「さぁ。とにかくソレでないと駄目だの一点張りだ」
 軽い吐息と共に返された言葉に、それなら何としても見つけなければと決意も新たに気を引き締めるエリーシャ。
 何のこっちゃ、と小首を傾げた日向との違いは性格に他ならないだろう。
 その頃、指輪を紛失した状況を魔法の一種で確認しようというゾーラクが当時の指輪の状態などを尋ねていたのだが――。
「指輪をそのまま放置していたんですか?」
 思わず聞き返すゾーラクに、薫は頭を掻きながら言葉を濁す。
「放置していたわけではないんですが‥‥いや、何というか‥‥」
 最後に確認したのは紛失に気付く前の晩。
 窓の縁で月精霊の光りを受けて宝石が輝く姿に嬉しさを感じながら眠りにつき、翌朝になって気付いた時には指輪はどこにもなかったのだと。
「窓はちゃんと閉めていたんですか?」
 セシリアが問い掛けると、これにも返答を濁す薫。
「閉めて‥は、いなかったんですけど‥‥」
「薫さん‥‥」
 呆れて肩を落とすレインに慌てて言葉を繋ぐ。
「いやっ、でもね! ほら見て! 部屋の窓は上下で別々に開け閉め出来る様になっていてさ! 下はちゃんと閉めていたんだよ! 開けていたのは上だけ! 暑くて寝苦しくて、でもクーラーとか無いし窓開けて寝るしかなかったんだよ!」
 更に室内の窓際には薫のベッドがあるのだ、泥棒が入ろうものなら気付かないはずがないと天界出身者にしか伝わらない単語も交えて必死に言い募った。
「‥‥確かに、相手が人間だけであれば水谷さんの言い分にも一理有ると言えますが」
 ゾーラクが困ったように言う。
 ここはアトランティス。
 数多の精霊達が自然に存在する世界であり、モンスター、妖精、何でもござれ。例え戸締りが完璧でも絶対安全とは言えない場所だ。
「これからはもう少し用心された方が良いですね」
 そう告げると、自分はこれからパーストで過去視に入るとして詠唱を始める。
 他の面々は彼女の邪魔にならないよう距離を取り、部屋の隅に集まって小声で話す。
「可能性の一つとしてお聞きしますが、どなたか婚約者殿に恋慕している者が居る‥‥という事はありますか?」
 エリーシャの問い掛けに、薫は何度も首を傾げていたが最終的には「判らない」と答えた。如何せん彼女との交際を続けて行くだけで本人にとっては手一杯らしく、他人の気持ちにまで気を配るような余裕は無いという。
「それにしても、指輪とか大事なものなら、普通は箱に入れておくとかしませんか?」
 レインが言えば、隣でソフィアもこくこくと頷く。
「どうしてそのまま置いておいたんですか?」
「いやぁ‥‥何て言うか‥‥おまじない、みたいな?」
「おまじない?」
 薫の返答に、紅子が小首を傾げる。
「その‥‥昔、本で読んだ事があったんだ。七日間、月の光りに当てた宝石には恋を叶えてくれる妖精が宿るとか何とか‥‥」
 一同絶句。
 その空気を感じ取ってか、薫はやはり必死で言葉を探す。
「だってさ! それこそアトランティスなら本当に妖精とかが助けてくれそうじゃないか! 付き合ってもらうのだって大変だったんだし、それがプロポーズとなったら俺一人の力じゃとても無理――」
「おーまーえーはー‥‥」
 言い掛けた薫の背後を取った日向は、先刻同様、相手の首に腕を回す。
「失くした指輪でなきゃダメってのもそれが理由か?」
「だ、だって本当に妖精が宿ってくれてたら失くしたままじゃ恨まれそ――」
「おまえはどこの乙女だ!」
「痛たたたたたっ!」
 助けて、と周囲に縋る視線を飛ばす薫。
 だがしかし、日向を止める者は一人もいなかった。




 ●

 ゾーラクの過去視は、まずは指輪が有る時間と無い時間の大凡の見当を付ける作業から始まり、じょじょに時間を狭めて『その瞬間』を見つけ出した。
「カラスですね」
 それが答え。
 上の窓を大きく開け放していた事も災いし、陽光を反射させる宝石の輝きが黒い鳥の興味を強く引いたようだった。
 カラスは他の鳥類に比べて知能が高い。
 開いた窓から入り込み、そのままの状態で置かれていた指輪を加えて部屋を出て行くなど容易な作業だっただろう。
「水谷さんがもう少し早く起きていれば災難は免れたでしょうね」
「いやぁ‥‥暑さのせいで寝不足気味で、っ痛!」
 パコンッと彼の後頭部を叩くのはもちろん日向。
 そんなのが理由になるかと視線だけで責めている。
「ともかく犯人が判ったのですから、後はその後の行動を追跡して巣を探しましょう。カラスの習性として、集めた光物は巣に持ち帰るはずです」
 エリーシャの発言を受けて、一同は外へ移動した。
 窓の傍から再びゾーラクの魔法でカラスの飛び立った方向を確認し、木々の連なる森の中へ。
「さすがに木の葉が邪魔してこれ以上は見えません」
「いえ‥‥ここまで判れば充分だと思います‥‥」
 ゾーラクの活躍をイシュカが労い、冒険者達は周囲の木々からカラスの巣を探す作業に移った。
 視力の優れている紅子とソフィアが目を凝らし、巣を見つければ他のメンバーが幹を登って行く。
「この巣じゃなかったみたいですー」と下にいる仲間に報告したレインは、その場で周囲に目を凝らし、下からは見えない位置にあるかもしれない巣を探した。
 巣から落ちて地面に転がっている可能性も見過ごせないため、セシリアやエリーシャは足下にも目を凝らす。
「なかなか見つからないものだな」
 木々を見上げ過ぎて痺れた首を押さえながらリールが言う。
「ほんと‥‥、それにしても羨ましいわね」
 応えた紅子も首後ろを押さえているが、その表情は明るかった。
「羨ましい、とは?」
「だって恋しているって素敵じゃない? 好きな人がいるだけで何気ない日常に変化が生じるのよ? リールさんにはそういうお相手いるのかしら」
「え‥‥いや、どうかな‥‥」
 思い掛けない質問に、リールは難しい表情の下に動揺を隠して考え込む。そんな様子を、紅子は微笑ましそうに見ていた。
 そこに口を挟んだのは日向。
「恋バナなら、そこに『恋する乙女』がいるぞ」と指差した先にはレイン。
「! ちょっ‥‥急にそういう話をふらないで下さい!」
 真っ赤になって言い返す少女を、隣で宥めるソフィアにもお相手がいるのかいないのか。
「ソフィアさーんっ」
「大丈夫ですよー」と仲の良い二人の姿は、それはそれで良いものである。
「若いっていいわよね。私にも素敵な恋人が現れないかしら」と楽しげに呟いた紅子の視線は、不意に日向を捕らえた。
「滝さんは、お付き合いしている女性はいるの? 心憎からず想っている相手とか♪」
「んー?」
「そうですよっ、日向さんこそこっ、恋、っとか! してないんですかっ!」
 レインもここぞとばかりに反撃開始。
 皆の視線を受けた本人は少し考えた後でニヤッと怪しい笑みを浮かべる。
「まぁ‥‥恋人がいたら良いなと思う事は多々あるが、な。――相手してくれるか?」
 意味深な視線の先には、紅子。
 周囲の面々が揃ってぎょっとするも、言われた本人だけは実に楽しげだ。
「あら、どうしようかしら」とこちらの笑顔も意味深。
 さすがにレインやソフィアが口を挟める雰囲気ではなく、遠くからは複数の咳払い。
 そういった話が得手ではないイシュカや、騎士であるエリーシャに至っては関わるまいと言いたげに距離を取って指輪捜索に集中していた。
 と、それに気付いたのはセシリア。
「何か光って‥‥、また」
「どこですか」
 傍に駆けつけたエリーシャも、セシリアの視線の先を見上げ、木の枝と枝の間で何かが輝く瞬間を目にした。
「‥‥水谷殿が探されている指輪かどうかは判りませんが、光る物があるのは間違いないようですね」
「あ、じゃあ登ります!」
「お気をつけて」
 ゾーラクの励ましを受けて、レインが木登り開始。
 彼女が上に辿り着き、それを手にするまでに鳥が敵と勘違いして攻撃する事も考えられるため、捕縛魔法を持つイシュカは気を緩める事無く状況を見守っていた。
「――ありました!」
 しばらくして、レインの声。
 下に向けられた手には薫の物と思われる銀の指輪が誇らしげに輝いていた。




 ●

「はい、指輪! もう失くしちゃ駄目ですよ?」
 レインから渡された指輪を綺麗に拭いて、薫に差し出したのはソフィアだ。
「おめでとう。これで肝心のプロポーズがガタガタだった、なんて報告は許さないわよ? ‥‥お幸せに♪」
「プロポーズ頑張って下さいね。結婚式には是非とも呼んでください」
「ありがとうございます!! えぇ、そのときには是非!」
 紅子とレインにも励まされ、深々と頭を下げた薫の手には、ようやく戻った婚約指輪。
「もしよろしければ、こちらも一緒にどうぞ」
「え?」
 ゾーラクから差し出されたのは二つのペンダント。合わせると一つのハートを象るそれは恋人と持つに最適の装飾品だ。
「頂いて良いんですか!?」
「ええ。お二人の素敵な思い出の一つにして頂ければと思います」
「うわぁっ、ありがとうございます」
 感謝の言葉と共に、何度も頭を下げる薫。次いで声を掛けたのはセシリアだ。
「プロポーズはこれからですか?」
「いえ、あと二日‥‥いや、失くしていた期間が結構あるので、あと四日くらいは月‥‥じゃなくて月精霊? の光りに当ててまじないを」
「まだやるのか!?」
 呆れて思わず語調荒くなった日向の台詞に、当人はカチンと来たらしい。
「藁にも縋りたくなるこの気持ち、独り者には判らないよなっ」
「言ってくれる‥‥っ、その女々しい性格はどうにかしないと彼女に愛想尽かされるのも時間の問題だぞ」
「なにをぉ!?」
「何だっ」
 数時間前と同じように言い合う二人に、肩を竦める冒険者一同。
「二人は本当に仲が良い‥‥」
「「良くない!!」」
 リールに反論する二人の声は仲良く合唱。
 どこまでもお約束な二人である。