遊べ! 海か山か夏休み!
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■ショートシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月21日〜07月26日
リプレイ公開日:2008年07月29日
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●オープニング
季節はすっかり真夏の色濃く、セゼリア夫人の牧場では動物達の体温調節に奮闘する日々。
草原の青々とした葉は真っ直ぐに空に向かって伸び、その姿は彼女が可愛がっている子供達の姿に重なる。
ヒュンフ、フィム、トートマ、エル。
ジョン、ラディナート、アリーゼ、クリス。
年齢も背格好も近い八人は何かと行動を共にしている事が多く、近頃の楽しみといえば夫人を通じて知り合った冒険者と会う事だ。
「今度はいつ会えるかな!」
そんな無邪気な望みを幾度と無く耳にした。
とは言え。
(「冒険者の皆さんにとっては依頼がお仕事ですものね‥‥。あまりにも意味のない相談事でお呼びするのはさすがにご迷惑でしょうし‥‥」)
既に何度もそれに近い依頼を持ち込んでいることは綺麗に忘れて思案顔。
なにかないかしらと牧場を見渡していると、その一角で遊んでいる子供達の姿が目に入った。
夫人の愛犬とボール遊びしている少年少女。
夏の盛りだというのに、常日頃と変わらぬ風景だ。
(「‥‥そうね。あの子達の親も動物や畑の世話があれば家を空けるわけにはいかないし」)
特にこの時期は家族揃って食事を取る事もままならない程に忙しい。
この季節だからこそ知り得る楽しみがあるのに。
「あら‥‥、そうですわ」
妙案を思いついた夫人。
その表情を緩やかに崩すと、いそいそとギルドへ出掛ける準備を整えるのだった。
●
「子供達の夏の思い出作りですか?」
「えぇ、そう。冒険者の皆さんは山や海、普段とは異なる土地での野営にも慣れていらっしゃるでしょうし、子供達に日常と少しでも違う時間を体験させてあげて欲しくて」
「ふむ‥‥」
サラサラと依頼書を書き綴りながら、確かに冒険者と一緒であれば海でも山でも、例えばモンスターが出るかもしれないという不安要素すら「冒険」という名の楽しみに変えてしまえそうだ。
「判りました、ではこの内容で冒険者を募ってみましょう」
「よろしくお願い致しますわ」
にっこりと笑う彼女に、受付係も「はい」と朗らかに笑い返した。
●リプレイ本文
青い海、青い空。
「着いたー!」
「やったぁ!」
続々と馬車を降りて砂浜を駆け出そうという子供達を呼び止めるのはテュール・ヘインツ(ea1683)。
「みんな、僕達とのお約束事は覚えているかな?」
「「「はーい!」」」
「じゃあ確認するよ? お約束事一つ目は?」
「「「勝手にどこかへ行かないこと」」」
「お約束事二つ目は?」
「「「具合が悪くなったり、怪我をしたらすぐ報告!」」」
「うん、合格」
子供達と最も年齢の近いテュールがリーダーシップを発揮し八人の子供達に囲まれている傍らで、ここまで荷車に乗せてきたテントや寝袋といった野営道具を下ろしていくのはディーネ・ノート(ea1542)、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)、レイン・ヴォルフルーラ(ec4112)の三人。
肉、魚、水と書かれた樽をごろごろと転がしながら、その表情は実に楽しげだ。
「樽の中が凍っていると、やっぱり冷たいですね!」
「ええ。ですがこの季節にはとても心地良く感じられます」
「作戦勝ちってところね」
レイン、ルエラの言葉に対してにぱっと笑うディーネ。
彼女の発案で食材の鮮度を保つべく実行された、水魔法使いによる簡易冷凍保存樽。
夏という季節柄、クーリング、アイスコフィンという魔法を使えるウィザードが二人揃ったのは、この日を楽しみにしていた子供達にとって幸運だったと言っていい。
「あとは定期的に中を確認して、氷が解けていたら魔法を掛けなおすって事で、協力お願いね、レインさん」
「はい♪」
明るい声を響かせながら彼女たちの荷下ろしは続く。
一方、先に下ろしたテントを組み立てていたのはエルフ三人。
「んー…っ、潮風が気持ち良いです!」
馬車の中では子供達に囲まれて体を小さくしていたソフィア・カーレンリース(ec4065)が広い空に向かって大きく伸びをする横で、同じ土地出身で気心の知れた間柄であるラマーデ・エムイ(ec1984)とギエーリ・タンデ(ec4600)が海を見て良い顔をしていた。
「山も大好きだけど、夏の遠出といえばやっぱり海よね!」
「まったくですねぇ」
一部訂正、テントを組み立てる以前の彼女たちは、その種族ゆえに大海とはあまり縁が無く、こうして夏の一時を過ごすために赴き眼前に広がった景色に見惚れたくなるのも当然。
そうしている内に樽を転がしていた女性三人が合流し、いよいよテントの組み立てが開始される。
残念な事にセゼリア夫人は急な用事で同行出来なくなってしまったのだが、冒険者八人と、八人の子供達。
夏の思い出作りが始まる。
まずは海に慣れるのが第一と、テュールに任せた子供達の楽しげな声を聞きながら、六人の冒険者はこれから二泊する自分達の宿を丁寧に仕上げてゆくのだった。
●
キャンプ地候補はいろいろとあったのだが、此処と決めたのはラマーデやギエーリ、そして忙しい時間を割いて子供達のために時間を作ったエリーシャ・メロウが真摯に調査し、安全で楽しめる場所だと確信したからである。
おかげで子供達から笑顔が消える事もない。
*
「お姉ちゃん、集めた木は此処に積んで置けばいいの?」
家の畑仕事を手伝うのが日常の子供達にとって、砂浜からそう離れていない林に立ち入って薪用の小枝を集めて来るのは、そう難しい事ではない。
「そう、崩れないように気をつけてね」
クリスに応えるソフィアは、もちろん林の中にも同行している。
そこにはレインも一緒だ。
「みんな燃やすのに良い枝を探すの巧いんだね」
「うん、家でも私の仕事だもの!」
言われてみればそれぞれに牧場や畑を営んでいる家だ。休みも取れないほど忙しい親に代わって、家事手伝いは自然と子供達の役割になるのだろう。
それは今日の料理当番、ルエラとディーネ、テュールと一緒に包丁を握っていたトートマとフィムも同じ事。
「おぉ‥‥!」
主に味見担当のディーネに感動の眼差しで見られながらフィムの包丁捌きはなかなかのものだ。
ルエラも少なからず驚く。
「味付けも完璧ですね‥‥」
「へへ、美味しい?」
トートマの照れ笑いに似た問いかけ。
「ええ。とても美味しいです」
ルエラも微笑んでそう応えた。
「みんな、良い子だね」
「えー」
年齢はともかく同じ背格好に見えるテュールから褒められると、嬉しいやらこそばゆいやら。
「おーい」
遠くから掛かる声は今夜の食材の一つ、魚を釣りに行っていたラマーデ、ギエーリと子供達。
「やっぱりこの時間からじゃ大物を釣るのは無理だったよ」
ラマーデは、しかし口にする言葉ほど落ち込んだ様子はない。
子供達が抱えた数匹の魚、それで今日は満足といったふうだ。
その証拠に、子供達の表情にも笑みが浮かんでいる。
「大丈夫ですよ、今日のために私が持参した魚がありますから」
ルエラが言いディーネの魔法で氷に包まれた魚を取り出す。
初日のメニューは焼き魚とシチュー。
野菜やお肉は夫人の牧場と、子供達の家から購入してきたものだ。
「うん、美味しい!」
皆が声を揃えて言う。
「今日はいつもよりもっと美味しく感じるのは、お姉ちゃん達と一緒だからかな?」
照れくさそうに言うクリスに、ソフィアも嬉しそうに笑い返した。
●
「んっふふー、それーー!」
「きゃあはははは」
「冷たい冷たい!」
波が寄せては帰る、隠れて消える砂浜に皆が裸足で駆け回る。
朝一の海沿い。
彼ら以外の人影など皆無の普段とは異なる空間で、やはり普段と異なる朝を迎えた彼らの気分は高揚としている。
「おはよう」の挨拶と共に海に向かって駆け出したラマーデが波と戯れれば子供達が続かないはずもなく。
一人、また一人と衣服は水浸し。
「さぁ次は誰? 掛かってらっしゃいな!」
ラマーデの陽気な挑戦に子供達の目が輝く。
「オレ、オレだよ!」
「ずるい、次は僕!」
男の子達が順番を巡って、こちらもこちらで水の掛け合い。
その隙を逃さずラマーデには女の子達が突撃。
「子供が一人増えたような気がしますねぇ」と笑いを含ませて呟くのは、子供達が無茶をしないよう注意して見ていたギエーリだ。
足下に持参してきた毛布なども用意し、いつ子供達が帰って来てもすぐに休ませられる環境を整えて。
「変わりませんね、お嬢さんは」
くすくすと呟く言葉は昔馴染みの彼女への親愛の情である。
遊んで、遊んで。
もうすぐ昼を迎えようという頃には皆がそれぞれの時間を過ごしていた。
水の中で動き易いよう作られた天界特製の衣装に上着を羽織ったディーネはフィム、トートマと一緒に海の中。と言っても、服を着たまま水に浸かっては大変な事になるため子供達はディーネほど大胆にはいけずにいた。
「ん? 海で泳ぎたいから泳ぎ方教えて?」
確認も兼ねた聞き返しに大きく頷く二人。
海水浴など一般的でないこの世界では、近くに海も河川もない人々には泳ぐという行為そのものに馴染みが薄い。数々の状況に立たされている冒険者ならばそれも教えてくれそうだと子供達は期待している様子だったが。
「うむ。私も泳げないから一緒に誰かに教えてもらおっか?」
ぐるりと一緒にキャンプに来た面々を見渡して、しかし泳ぎを得意とするメンバーがいない事に気付いたディーネ。
「‥‥‥‥、海は楽しむものよ!」
「きゃぁっ」
それもまためぐり合わせ。
泳ぎの指導は別の機会にね、と。
ディーネが笑えば子供達に否はない。
一方、すっかり水浸しなのはソフィアとクリスだ。
波に果敢に挑んでは返り討ちに合うといった繰り返し。その途中で砂に足を取られて転んだのがきっかけで、もはや怖いものなどなくなったらしい。
「いくよ〜クリス!」
「うん!」
寄せてくる波に向かって走り、波が帰れば全力で砂浜を駆け戻る。
波と一緒に帰っていく砂の足場の不安定さを楽しむ姿を見ていると、もとより敵うはずもないものを相手に何をしているのかと思わされつつも、自然と表情が綻んでくるのだから不思議だ。
この日の昼食当番の子達が集まる場所からは食材が放つ良い匂い。
時には冒険者の方が子供達に包丁の使い方など教えてもらいながら、楽しい時間が過ぎていく。
お昼を取った後には軽く休憩。
皆でテントに横たわりお昼寝モード。
夕方にはレインとルエラが持参したなないろスイカを相手にスイカ割りが行われた。
「はい、これで目隠しするからじっとしていてね」
目隠し用に作った幅十センチ程の長い布で子供の目元を覆い、後頭部で縛る。
林で薪用の枝を拾うついでに見つけた木刀に見えなくも無い頑丈な枝をその手に持たせてスイカ側にいる子供達が手を叩く。
「そのまま真っ直ぐだよ、真っ直ぐ!」
「あ、もうちょっと右!」
「違うよ左だよ」
一人、冗談で嘘を言えば目隠した子供も声の主の性格を知っていて頬を膨らませる。
「ラディの言う事なんか信じないもん」
「えー?」
「あはは、バレちゃったね!」
スイカは二つ。
一人三度空振りしたら交代のルールを守った子供達は幸いにも全員が挑戦出来た。
割れたスイカは皆で食べる。
初めて食べるなないろスイカは、見た目こそ妙だがとても甘く美味しかった。
●
夜は、昨日今日と出たゴミの片付けも兼ねて、いわゆるキャンプファイヤー。
見事に燃え盛る炎を囲んでギエーリ得意の語りを聞く。
「ずっと良いお天気で良かったね」
「はい、本当に」
テュールとレインが話しの邪魔にならないよう気遣いながら小声で囁きあうと、ペガサスと一緒に上空からも子供達の安全を見守っていたルエラが、愛馬の治療魔法を使うような状況にも陥らなかった幸いを喜ぶ。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
不意にルエラの服を引っ張った小さな手。
「あのね‥‥?」
「はい」
ルエラはその場に膝を折って子供と目線の高さをそろえる。
何かを言いにくそうにしている少女に小首を傾げながら、ただじっと言葉が続くのを待った。
「あの‥‥明日‥‥お姉ちゃんの真っ白い馬さんに乗せてもらってもいい‥‥?」
遠慮がちに。
駄目と言われるのも覚悟の上でのお願いなのだろう。
思慮深い子供の願い事にルエラは微笑んで「もちろんですよ」と返す。
明日の最終日、空には美しい純白の翼がはためく。
「セゼリア夫人におみやげを持っていかないとね」
「じゃあ‥‥やっぱり皆で釣ったお魚でも?」
「せっかく海に来たんだし!」
ディーネ、ソフィア、そしてラマーデの提案に子供達は大賛成。
食材確保のために毎日交替で冒険者達から釣りを教わった子供達は、次第にその楽しさに目覚めつつあった
「それなら明日は朝から釣り大会ね?」
目を輝かせるラマーデは子供達の輪に在って何ら違和感がない。そんな彼女にやはりギエーリは笑って、子供達も一緒に笑って。
夏の一夜を更に熱く盛り上げるキャンプファイヤーの火の元で。
夜闇の中にもはっきりと映る笑顔。
その笑顔が語る。
冒険者と過ごした非日常の時間が、子供達の心に確かな思い出を刻んだことを――。