君こそ釣りの王様だ!
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■ショートシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2008年09月15日
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●オープニング
その日は今にも雨が降りそうな朝で、石動兄妹がそうなる前にと洗濯をしに家を出て数分。
外に桶を出していたリラは、手元の書面に目を落としながら道を歩いているユアンに気付いた。
ちょうど顔の輪郭を覆うくらいまで伸びた髪に布製のバンダナを巻くことでハーフエルフの耳を隠し、自宅から徒歩で二十分ほど行った先の農園で始めた周辺の家に牛乳を配達するという仕事にもそろそろ慣れて来たようで、体付きも幾分か逞しく見えるようになった、‥‥と思う。
(「欲目ではないと思うが」)
自嘲めいた苦笑を漏らしつつ、親友から託された幼子に声を掛けた。
「ユアン、前を向いて歩きなさい」
リラの声にはっとして顔を上げる少年。
「転ぶと危ない」
「ぁ、うん。ただいまリラさん」
持っていた羊皮紙を手に丸めて駆けて来ると、それをリラに差し出す。
「農場のおじさんが、これをくれたんだ」
「‥‥これは?」
「よく判んない。魚とか、そういう単語は読めたんだけど」
「魚?」
最近になってセトタ語の読み書きを勉強し始めたユアンにはまだ難しかったようで、それを受け取り改めて目を通したリラは、書いてあった内容に思わず笑ってしまった。
「なるほど、魚か――、ユアンは釣りをした事があるかい?」
「ううん」
「これには釣り大会をやるので参加者を募集すると書いてあるんだよ」
「釣り、大会?」
「ああ。一番大きな魚を釣った人、一番大漁だった人を釣り名人として表彰するそうだ」
「へえ!」
面白そうだと目を輝かせる子供に、リラは書面を返しながら尋ねる。
「出てみるかい?」
「! いいのっ?」
「何事も経験だよ」
「出る、やってみたい!」
ならば決定だとリラが頷けば、ユアンも大喜び。
「良哉兄ちゃんと香代姉ちゃんも一緒に出れるかな!」
「どうかな‥‥、香代はともかく良哉は船酔いが酷いからな。港で待っていると言いそうな気がするよ」
「そっかぁ、どうしてもダメかなぁ‥‥」
大会まではまだ日数があるというのに、子供の気持ちは既に海の上。
そんなユアンの様子にリラは静かに微笑んだ。
●
「釣り大会、ですか」
同じ頃、ギルドの受付でユアンと同じ書面を手に取っていたのは毎度お馴染みの受付係。
正面に座すのは釣り大会を提案した街の有力者だ。
「出場者には当日の朝九時に港から出る船に乗って頂き、沖で釣りを楽しんでもらいます。船一隻につき乗員は十二名。今の段階で、まぁ私の友人知人にも声を掛けておりますので三十名ほどが出場決定しております」
「それは賑やかな大会になりそうですね」
「ええ。ですがどうせならもっと大勢の方とご一緒したいと思いましてね。冒険者の皆さんにもお声を掛けさせて頂きたいのです」
「判りました。では、この広告を掲示板に張り出しましょう」
「よろしく頼みますよ」
一礼して有力者を見送った受付係は改めて書面に目を通す。
「さて‥‥どんな大会になるでしょうね」
ふふっと笑いを零しつつ、それを掲示板に張り出すべく席を立つのだった。
●リプレイ本文
「船酔いなんてのは要は慣れだ、慣れ」
人の手で漕がれる船の上。
公園の湖面に揺られながらずばり言い切るのは船頭を務めるレオン・バーナード(ea8029)だ。
「体調が悪い時は慣れてようがなんだろうが誰でも船酔いするんだ、体調管理さえしっかりして、ゆっくりと慣らしていけば、そのうち酔わなくなるよ」
「そ、そういうものだろうか‥‥」
小刻みに震える声で返すのは船に弱い石動良哉。
レオンの助言を受けて船の真ん中に座り、微かな波に揺られながら――青い顔。
手には釣竿を握っているも、針先に餌をつける作業などしようものなら確実に今朝食べたものが戻ってくる。
それを見越したレオンが、後は針を水中に投げ込むだけという段階まで準備してやるのだが、そもそも船上で動く事が彼には非常に困難な作業らしい。
「‥‥大丈夫かい?」
レオンが声を掛ける。
あまり無理はするな。
急には無理だ、と気遣う彼の言葉をありがたく思う一方、一緒に釣りが出来たら嬉しいと笑顔を見せた幼子の事を思うと、
(「多少の無理くらいしないでどうする‥‥!」)という気になってしまったらしい。
真っ青な顔で、それでも強がって動けば案の定。
「へ、へへへへへ、平気、さ‥‥!」
親指立てて応えた直後。
首を回した反動で何かが込み上げグロッキー。
「‥‥うん、一度まず陸に戻ろうな?」
レオンの言葉に、もはや反対どころか賛成する気力も無い良哉だった。
そんな彼の姿を陸から眺めていたソード・エアシールド(eb3838)は嘆息交じりに呟く。
「‥‥イシュカが共に在った方が良かったのでは‥‥」
白魔法を得意とするイシュカ・エアシールドがこの場にいれば、良哉の具合の悪さも多少は改善したかもしれない。
そう思いながら再び息を吐く彼に「イシュカ殿は忙しいのか?」と問い掛けたのは良哉の船慣れを共に見守っていたリール・アルシャス(eb4402)。
「いや。暑さ寒さに弱いからな、あいつ。釣り大会なんて理由で自分から出てくる事はないんだ」
「そうなのか」
何となく想像がつくような。
リールはくすくすと微かな笑いを零した。
あの日、仕事先の主人から釣り大会の広告を貰ってきたユアンと同様、冒険者ギルドに張り出されていた広告を目にした彼らもそれぞれに参加を決め、師弟関係にある飛天龍(eb0010)とユアンの間で情報交換された結果が現在である。
同じ大会に参加するならばと、大会の前からこうして交流を持つことにしたのだ。
「それにしても‥‥良哉殿は本当に船が苦手なのだな」
「ああ」
彼女に答えるのはリラ・レデューファン。目を眇めて遠い日を思い出す。
「異国から異国への旅路は、陸路より海路の方が早い事も多くてね。それでよく仲間同士で喧嘩したものさ」
「そうだったのか」
大変な思いをしている良哉とは打って変わって、終始、和やかムードの陸チームである。
「この間は本当にごめんな?」
「何で怒らせたのかよく判らないんだけど、改めるべきところは改めるからさ、機嫌を直してもらえないかな?」
‥‥そんなキース・ファラン(eb4324)の声だけが聞こえて来るユアン宅には、実際にはもう一人、石動香代の姿もあった。
ただ、言葉を発しないだけだ。
「香代」
その名前を何度呼ばれようとも台所に立って背中を向けたまま、ずっとだんまり。
「悪かったって」
何度も謝罪を繰り返すキースは、本当には彼女が怒っているわけではないと気付いているのか、いないのか。
「香代ー」
「‥‥っ」
真っ赤な顔で言葉を飲み込む。
そんな光景は端から見れば非常に判り易いのだが、本人達にとっては非常に悩ましいらしく。
今のままでの進展は少々厳しそうだ。
「はああっ!」
気合に満ちたユアンの掛け声。
ザンッ!
風を切る拳に天龍は微かに口元を綻ばせた。
「そこ左だ!」
傍から声を掛けた陸奥勇人(ea3329)に応えたのは、ユアンの脳よりも本能。頭より先に身体が反応する。
「たあぁあっ!」
左に傾けた軸、振られる右足。
「っ」
それまで地に足をついていた天龍は思わず身体を浮かせた。背に広がるシフールの羽根は彼を空中へ。
「! 師匠ずるい!」
「ははっ」
思わず素に戻って抗議した幼子に、笑う勇人と額の汗を拭う天龍。
「そろそろ左手一つで相手するのも限界みたいだな」
自分の左手で拳を作って言う勇人に、天龍も笑いを零して頷いた。
これまで彼は、実戦を模した特訓の際には左手一つ、宙にも飛ばないを決まり事にしてユアンの相手をしていた。普通に組み合っては実力の差が有り過ぎてとても修行にならないからだ。
しかし今、例え横から勇人の指示があったにしても少年の体は的確に反応して天龍に確かな一撃を繰り出した。回避能力が卓越している師匠は反射的に交わしてしまったけれど、その成長は明らかだ。
「子供の成長は早いな」
「! じゃあ俺、また一つ強くなった?」
「ああ」
師の肯定に、ユアンは思いっ切り顔を崩して笑う。
いつか冒険者になって彼らと旅に出たい、それが幼子の願い。
「俺もっと頑張るよ!」
「よしっ」
断言する幼子の頭を撫でて、勇人も笑顔。
「褒美に空中散歩といくか? 久し振りに鳳華の背中に乗って」
同伴したグリフォンを示す勇人にユアンは大きく頷く。
そうして過ごす日常の一コマを、彼らは存分に謳歌していた。
●
釣り大会当日。
港に集った冒険者達は参加者として集まった百人近い人々を眺めて各々の表情。
「釣りで大会とは、こっちにも通な人間が多いようだな」
苦笑交じりに呟く勇人は家にあったという天界製の道具を幾つか持参し、何が釣れたらどんな料理にして皆に振舞おうかと思案しているのは天龍。
彼も、これまで本格的に釣りをした事は無いと言うが所持している道具は結構な代物である。
「俺も素人だけど「大物を釣り上げてやる!」くらいの心意気で頑張るぜ」
腕を捲し上げて言うのはキース。
自ら素人と宣言する彼もちゃんと自前の釣り道具一式を持って来ていた。
一方、此処に来て合流したのがレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)だ。
「わぁっ、リールさん達も参加されるのですね!」
心から嬉しそうな笑顔で駆け寄ってきた少女に、リールやソードも笑顔で応える。
実はソードの方ではレインの参加を把握していたらしく、イシュカから渡すよう頼まれていたクッキーを差し出した。
「飛殿がいるから弁当は気にしなくて良いだろうと言ったんだが、な。何時間も船の上にいて小腹が空いても困るだろうと‥‥。口を動かしていれば多少は船酔いし難くなるって言われて持たされたんだ。食べてくれると助かる」
「うわぁっ、ありがとうございます!」
クッキーを受け取って微笑むレイン。
「出来れば皆も‥‥、ユアンやレイン嬢が参加すると聞いて焼き始めたんで、きっと甘いと思うのだが」
「いや。次に会った時にはきちんと礼を言わなければな」
リールも嬉しそうにそれを受け取った。
「それでは参加者の皆さんはこちらへどうぞ! 開会式を行いまーす!」
主催者の号令。
いよいよ大会本番である。
●
気心の知れた間柄で船に乗った方が楽しいだろうと、勇人、天龍、ソード、キース、リール、レイン、リラ、そしてユアンの八人が揃った船。
その船首にいたのはレオンである。
何と言っても漁を生業にしている彼はこの道のプロ。出場するのは周りにフェアじゃないとして船頭を務める事にしたのだ。
彼の船ならば、数日前から船に慣れるよう努力していた良哉も参加出来るのではと思われたが、せっかくの釣りが楽しくなくなっては困ると自ら辞退。
香代も兄に付き添う形で、陸で皆の帰りを待つ事を選んだ。
「さぁ出発だ。良い場所まで案内するよ」
レオンの言葉を受けて、船は沖へ。
「‥‥師匠、これって?」
「『救命胴衣』だ。これを着ていると海に落ちても溺れないで済む」
「そうなんだ」
オレンジ色の鮮やかな浮力補助具を身体に巻かれて、興味深そうに眺めているユアンに、天龍は更に二本の釣竿を差し出す。
「こちらの竿は軽くて扱い易そうだが釣り上げるのに結構な力が必要。こちらは天界製の竿で、リールとかいう巻上げ機工がついているがその分、重い。ユアン、どちらを使う?」
「‥‥リール‥‥って、姉ちゃん?」
目をぱちくりさせる子供に、広がる笑い。
詳しく説明しながら一人、また一人と着実に釣りの準備が整っていく。
「さぁ、この辺りだ」とレオンが促せば皆が一斉に海中へ針を投げ入れた。
周囲でもそれぞれに船を止めて参加者達が釣りを開始。
潮風にあたりながら、のんびりとした時間が過ぎていく。
「釣りとは時間を緩やかに過ごす術なり」
勇人が語った通り、船上の時間は非常にゆっくりと流れていった。
百人近い人々が各所で糸を垂らし魚が掛かるのを待つも、魚がそれらを平等に引くはずがなく、また、その中から巧く魚の注意を引くよう針先の餌を動かすのは「技術」の領域。
周囲の船も含め、船上が賑やかになる事は非常に稀で、中には欠伸を噛み殺す参加者も少なくない。
「‥‥釣りの餌は共通、冒険者ならではの特別な撒き餌も禁止とは、‥‥まぁ仕方が無いか」
ソードが複雑な表情で呟くも、大会と名のつく以上は公平さが重要視されるのも頷ける。
用意して来たアイテムは非常に魅力的だったが今日のところは封印だ。
「兄ちゃん、姉ちゃん、これ似合うかな?」
「え、‥‥ってユアン君?」
「おぉっ? 何か‥‥、妙に笑えるな」
さすがに暇を持て余したユアンが、天龍がもしもの為に用意したというサングラスを掛けて同乗者一人一人に声を掛けて回り、皆を楽しませる一場面も。
そんな会話を楽しむ時間が、ここには充分にあったのだ。
「リール姉ちゃんや、勇人兄ちゃんは、釣りってよくするの?」
ユアンに問われた二人は顔を見合わせ、勇人が先に答える。
「俺か。‥‥俺は専ら自分で獲りにいくからな」
「え?」
「海王の槍って、先が三又になった槍があってな。それを片手に海に潜るんだ。海の上で待つってのは、まどろっこしい。自分から獲物を追う方が性に合ってる」
「へぇ!」
「それは勇人殿らしいな」
くすくすとリラが笑い、レインはその姿を想像したのか尊敬の眼差しだ。
「失礼かもしれないですけど‥‥なんだかすごくお似合いの気が‥‥」
「確かに」
こくこくと頷くリールは、続けて自身の釣り体験を語る。
「欲しい魚はなかなか釣れないな‥‥この間なんか鍋が釣れたんだ。使い勝手の良い鍋ではあったし、魚が釣れなくても面白かったけど」
他にもガラクタ関係が多く釣られていると聞く。
そういった海の汚れには心を痛めずにいられない。
「そっか‥‥海って魚ばっかり釣れるわけじゃないんだね」
「ガラクタ釣るのも大事なんだよ。汚したのはおいら達なんだから、片付けるのもおいら達がしないとね」
レオンが、雰囲気が暗くならないよう、あくまで朗らかに言ってやると、ユアンは目を瞬かせた後で大きく頷く。
ガラクタが釣れても落ち込むな、と。
そう理解したようだ。
船に乗って数時間。
コッド、サーディン、ハーリング。
それほど多くはないが、手頃なサイズの魚を複数釣り上げたのはソード。
レインがイールを釣るも素人目にも判るサイズの小ささに、迷わず海に戻してやった。もちろん長靴や折れた釣竿なんていうガラクタもいっぱい釣れる。
いや、むしろそちらがメインとも言えただろう。
そして。
「うわっ!?」
ユアンが天龍から借りて握っていたニョルズの釣竿を、見かねたレオンが一緒に握って僅か数秒後の事。
強い引きに危く海に落ちそうになった幼子を周囲が慌てて抑える。
「大丈夫かユアン」
「う、うん師匠、でもこれ‥‥っ」
「絶対に放すな!」
勇人も自分の竿を置いて加勢。
「まだそのまま」
海面に目を凝らしてレオンが言う。
「もう少し‥‥もう少し‥‥、網、用意して」
「は、はい!」
レインが船を移動して中央にあった投擲用の網を彼らのもとへ。
「こっちに」と手を差し出したのはキースだ。
「大きそうだな」
海面を凝視しながら言うリールに頷き返すソードとリラ。
「ゆっくり引いて、ゆっくりだ」
漁のプロのアドバイスを受けながら慎重になるユアン達。
引いては止め、止めては引き。
――不意に海面に現れた輪郭。
「網を!」
指示を受け、待ってましたとばかりに網を投げ込むキース。
網の端々には錘と縄が通っており、見事海面に現れた輪郭に覆い被さった網は錘に従って海中に沈み、キースが手元の縄を引けば錘同士が引っ張り合って出口を塞ぐ。
「引け!」
「おぉ!」
息の合った作業で、見事網の中に獲物を取り込んだ冒険者達は、今度は力を合わせてそれを船上に引っ張り上げる。
「重いな‥‥っ」
「引けーっ!」
竿の維持はユアンと天龍に任せ、皆で網を引き。
「もう少し、もう少し!」
船の縁を添うようにして船上に引き上げられた大物、それは。
「ツナ!」
ドンッと重々しい音を立てて船上に現れ、激しく身体を動かして四方八方に水飛沫を飛ばす姿は、八〇センチくらいのツナだった。
「うわぁぁっ‥‥」
これが先ほどまで自分の手の先に感じていた重みの正体かと感動するユアンに、冒険者達の思いは同じ。
「やったな!」
「うんっ!」
大喜びの一同にレオンも一安心。
何となく責任を果たしたという想いだった。
●
数時間後、時間制限を迎えて沖に戻った参加者達は、主催者に釣り上げた魚の種類や大きさを報告して結果を待った。
――結果、優勝は逃したけれど皆で釣り上げたツナは全ての中で四番目の大きさとまずまずの成績。
しかもユアンにとっては初めての釣りでこれだけの大物を手にした興奮に、優勝などもはや関係なかった。
「師匠、お願いします!」
皆で食べるために調理を頼めば、天龍も否を唱えるはずがない。
此処からは食欲の秋だと、他の面々も自分が釣り上げた魚を提供してささやかな宴の始まりだ。
「一応、醤油は持参したが」
使い捨てパック入りの醤油を出してくる勇人に、
「ではツナは刺身に」と手に握った包丁を光らせる天龍。
ホースラディッシュこと西洋わさびも揃えて準備は万端。釣り上げたばかりのツナを生で食すとは何とも贅沢な話だ。
「私もお邪魔しちゃっていいんでしょうか?」
「いいと思うよ、食事は大勢の方が楽しいし」
少しばかり気後れしているレインを励ますキース。
石動兄妹は皆の無事の帰還を喜び、大物獲得を大いに祝った。
そんな中で火を熾す担当になったリールとリラは、少しばかり良い雰囲気。
「ありがとう。あれ‥‥リラ殿が選んで買ってくれたのか?」
縁日の時の話をする彼女に、静かに微笑むリラ。
何を想像してかくすくすと笑うリールの、そんな顔が見たかったのだと、性格的に言葉にする事はなかったけれど。
それぞれの穏やかな数日間は、こうして賑やかに過ぎていくのだった――。