探偵遊戯〜傍迷惑な友情も〜

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月11日〜02月14日

リプレイ公開日:2009年02月19日

●オープニング

「日向ーーーっ!!!!」
「っ」
 ドンッと背中からしがみ付かれ、滝日向はその勢いに転倒し掛ける。
「なっ‥‥何だイキナリ!」
「助けてくれ!!」
 必至の形相で縋って来たのは、日向と同じ天界出身でありながらつい先日アトランティス出身の女性ルエリアと結婚、一緒に暮らし始めた水谷薫だ。しかし彼の「助けてくれ」は聞く度に面倒事を呼ぶ。よって日向はこれを無視する事に決めた。
「他を当たれ」
 あっさりと突き放して踵を返すが、相手もそれで諦めるほど素直ではない。
「待て日向っ、俺達は友達じゃないのかっ」
「おまえの「助けて」は俺でどうにか出来る問題じゃないだろ!? 最初から冒険者ギルドで、冒険者に頼め!」
 至極最もな返しに、しかしそれでも薫は引き下がらない。
 しばらくの口論の末どうなったかと言うと――。




 ●

「結局、貴方が依頼を出しに来るわけですか」
 苦笑交じりにギルドの受付で日向に応じたのは職員のアスティ・タイラー。日向は呆れた表情で口を切った。
「知ってるか? あの馬鹿は人見知りでな、知り合いのいないギルドじゃ何も喋れなくなるんだとさ!」
「それは厄介な問題ですねー」
 くすくすと笑うアスティは日向に睨まれるが、それくらいで臆したりしない。結局は此処にいる日向だ、根本的にお人好しなのだから。
「それで、薫さんの困り事とは何だったんですか?」
 穏やかに問い掛けると、日向は深い溜息を一つ吐いた後で、その内容を語り始めた。
 事の発端は薫が妻ルエリアから頼まれた用を足しに隣町へ行っての帰り道。近道だと判断して通った森の中で野犬に襲われ、逃げている途中で川に落ちた。すると、何かが腕に触れたと思った瞬間に激痛が彼を襲い、何事かと水から引き上げた腕は、服が融けて肌が爛れていたという。
「薫が大急ぎで川から上がった時には、もう野犬の姿もなかったそうだ。川に不気味なものがいると本能で察しでもしたんだろう」
「ウォータージェルでしょうか‥‥」
 アスティは呟きながら情報をメモする。
 日向は続けた。
「で、ずぶ濡れにはなったが野犬からは逃げられたし、結果オーライで家に帰った。腕の痛みは続いたし、濡れたせいで風邪も引いたが、これもようやく落ち着いた。で、昨日になってルエリアに買って来た土産がなくなってる事に気付いたらしい」
「お土産、ですか?」
「隣町の露店で似合いそうな髪飾りがあったんで、買ったらしい。それをな、もしかしたら、その川に落としたんじゃないかって言うんだ」
「えーっ?」
 驚くアスティに、再度の溜息を吐く日向。
「そのウォータージェルってのは、何でも溶かすモンスターなんだろ? 土産だって本当に川に落ちてるならもう融けてるんじゃないかって言っても、あいつは確かめてみないと判らないと言い張る。そんなわけでな‥‥」
「冒険者に頼んでウォータージェルを退治、川でお土産の髪飾りを捜索する、ですか」
 依頼内容を先取りするアスティに、日向は三度目の溜息。
「頼めるか? この季節だ、冒険者達に風邪でも引かれちゃたまらんし、川での捜索は俺とあの馬鹿がやる。だからその前に、ウォータージェルを退治してもらいたい」
「承知しました。依頼を貼り出しましょう」
 辟易した様子の日向は、しかしやっぱり捜索を手伝うわけで。
 その人柄を思えばアスティの表情から笑みが消える事は無かった。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文


「お久し振りですね」
 冒険者ギルドの前。
 妻への贈り物を落としたので探して欲しいという依頼を引き受けて集まった冒険者の一人、エリーシャ・メロウ(eb4333)から声を掛けられて、そもそもの原因たる水谷薫は恐縮しきり。
「ご結婚後も奥方への細やかな気配りを忘れておられないようで何よりです」
「い、いや、そのせいでまた皆に迷惑を掛けてしまって‥‥」
 ぺこぺこと頭を下げながら返す薫に、次いで口を切ったのはリール・アルシャス(eb4402)。
「しかし薫殿‥‥、またまた運が悪いというか‥‥」
 よりによって何でも溶かすモンスター絡みとはと肩を竦める彼女にも、薫は何度も謝った。
 一方、そんな友人を持ってしまった滝日向の周りにも冒険者達が。
「おや、確かキノコがお好きな‥‥ご友人もキノコ繋がりでしょうか?」
「キノコ?」
 日向を見て言うギエーリ・タンデ(ec4600)に、日向はハッとする。
「あぁそうか、あの時は世話になった! あの後で実際に食えてな! いや、あれは美味かったが、薫はキノコとは無関係だ」
「そうでしたか。ええ、奥方様への贈り物の危機とあっては見過ごす事は出来ません。喜んでお手伝いさせて頂きますとも」
「よろしく頼む」
 何だかんだと言いながら友人のために頭を下げる日向に、隣に並んでいた華岡紅子(eb4412)は静かに微笑み、ミーティア・サラト(ec5004)の口元にも笑みが浮かぶ。
「まぁ、そんなに一生懸命に探してくれる旦那様と、仲の良いお友達がいて、奥様はお幸せね。私も精一杯頑張らせてもらうわね」
 おっとりと語る彼女の言葉には複雑な表情を見せた日向だったが。
「日向さんと薫さんは本当に仲が良いのですね〜♪」
「日向さん‥‥本当に薫さんと仲が良いですね‥‥」
 ソフィア・カーレンリース(ec4065)とレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)の、調子こそ違えど同じ言葉には即反応。
「仲良くなんかねぇっ」
「だが、賭けは私の勝ちだ」
 否定する日向に追い討ちを掛けるリール。
「これでワインを奢ってもらえるな! 勿論、紅子殿達も一緒にな!」
「〜〜っ」
 そういえばそんな賭けもした。
 確かにした。
「判ったっ、この仕事が無事に済んだら全員に奢ってやる!」
「わ〜い♪」
 自棄気味な日向に、はしゃぐソフィア。すかさずレインが「飲み過ぎには注意ですよ?」と声を掛けていた。





「ルエリアさんへの贈り物、見つかるといいわね‥‥」
 件の川へ徒歩で向かう途中、紅子の呟きに皆の視線が集まった。
「でも、薫さんが危険な目に遭って、彼女もとても心配したと思うわ。あまり無茶をしてはダメよ? 彼女を悲しませたら元も子も無いのだから」
「うっ‥‥反省します‥‥」
 しゅんと項垂れる薫に、エリーシャ。
「しかし隣町との間の川にウォータージェルがいるとは‥‥。春になって水が温む前に見つけられたのは、人々に被害が出ぬよう竜と精霊が水谷殿をお導きになったのかもしれませんね」
「だな」
 同じ騎士の言葉にリールも頷いた。
 彼女は出発前にギルド職員のアスティにウォータージェルの性質についての確認も行っており、水中では非常に見つけ難い敵であることや、武器をも溶かす酸には要注意である事など情報の共有も怠らない。
 対して、相手が薫となれば冒険者達の前向き思考にも素直に同意しかねるのが日向だ。
「まぁ、そう考えればそいつのマヌケも役立つってもんか‥‥」
「ひどっ。日向、今のは酷いぞ!」
「酷いと思うなら自分で何とかしろっ」
「出来るもんならやってるっ!」
「まぁまぁお二人とも落ち着かれて下さい。いやよいやよも好きのうち、ケンカするほど仲が良いとも申しますが――」
「「仲良くねぇっ」」
 ギエーリの仲介も空しく更に睨み合う二人に、紅子は苦笑する。
「二人とも落ち着いて? さっきも言ったけれど、無茶をしてルエリアさんを悲しませるのが一番の罪。‥‥滝さんも」
「うっ‥‥」
 日向をチラと見て笑む彼女に、男達は口篭る。
「風邪くらいなら看病してあげられるけど、ね」
 紅子にそう言われてしまっては日向も反論の余地がなく。
「日向、弱っ」
「うっさいっ」
 それでも言い合う二人には笑いが起きた。会話に参加していた冒険者達はもちろんのこと、周りの地面に目を向けていたソフィアやレインも。
「やっぱり仲良いですよね〜♪」
「ね♪」
 そんな事を言われても、もう否定のしようがない男達だ。
「あらあら、仲が良いのもいいけれど、ちゃんと地面も確認しなければね?」
 同伴した汗血馬のころろに薪を持ってもらいながら言うのはミーティア。いざ贈り物探しとなった時に水に入る面々が暖を取れるよう気遣っての薪拾いだが、地面を確認する理由はそれ以上に、薫が贈り物を落としたのが水中だと断言出来ない以上、通り道も捜索範囲であるからだ。
「森とかで見つけられたら、幸運ですね〜」
 狼のフェンリルに薫の匂いを覚えさせながら言うソフィア。
 もちろん川の中も捜索するが、念には念を入れるのが冒険者である。





「ここ! ここら辺で野犬に襲われて、あっちに逃げたんだ」
 薫の案内のもとで冒険者達が出たのは、森を抜けて数メートル先に川が流れる平地だった。
 川幅は三メートル程度だろうか。水位は膝上。溺れる心配は無さそうだが、季節柄、水の冷たさは相当のものだった。
「川と来れば、お任せください」
 元気良く挙手したのは水の魔法使いレインだ。同伴した水の精霊フィディエルのフィリアクアと二人、川辺に寄って注意深く膝を付く。
「フィリアさん、お水さんに聞いていただけませんか? ウォータージェルがどの辺りにいるか‥‥」
 レインのお願いに川姫は穏やかに微笑み、眷属に問い掛ける。
 しばしの沈黙。
『あちらに二匹ですって』
「わ、ありがとうございます! 皆さん、もう少し下流に二匹いるみたいです」
「へぇ」
「すごいな、レインちゃん」
 天界の人間二人が精霊と言葉を交わす少女に感嘆するが、こういう状況に慣れっこの冒険者達は何のその。
「では行こう」
「それじゃあ私は火を熾して、皆さんが風邪を引かないよう後方支援の準備を始めましょうね」
 戦闘には不向きなミーティアが発言、同様に戦闘には向かないギエーリは、しかし持参した肉などで敵を誘き寄せないか試してみるつもりだ。
 全員が移動した川の下流。水面を覗き込むだけでは判り難いが、其処に何かがいるのは間違いない。
「日向さんと薫さんは僕の後ろに回ってください!」
 ソフィアに声を掛けられた二人は迷惑にならないよう言われた通りに。それを確認してレイン。
「水の精霊さん、力を貸してください。ウォータージェルを地上に上げてください」
 発動するはウォーターコントロール、少女の全身を淡い水色の光りが包み込んで数秒の後、一定量の川の水が震え、まるで意志を持った布のようにそれを地上に押し上げた。
 上がって、流れ落ちる水に取り残される物体。
 まずは一匹、ぐにゃりと地上に現れたそれがウォータージェルだ。青色の不定形生物は緩慢な動きでもって移動する。その地面をジュゥッ‥‥と焦がすような音を上げながら。
「逃がしません!」
 陸の上なら恐れる程のものではなし。
 エリーシャは剣を構え地を蹴った。
 意識を集中し柄を握る手に力を込める。
「はあああぁぁぁっ!!」
 頭上高くに掲げた剣に、全体重を掛けて振り下ろす。
 斬! 強力な一撃にウォータージェルは痙攣に似た異変を見せた。
「せやあっ!」
 続けざまのリールからの第二撃。それでウォータージェルはもう動かない。それでも滅したわけではないからとソフィア。
「ライトニングサンダーボルトーー!!」
 奔る稲妻が直撃したウォータージェルにトドメの一声。
「ご愁傷様」
 紅子が火魔法ヒートハンドを発動させた灼熱の手で撫でるように触れれば、真っ赤な炎がウォータージェルを包み込んだ。
 一匹目の討伐完了。
「二匹目、上げます!」
 レインの声と共に、五人の女傑は次のジェルに意識を向けた。


「いやはやお見事ですね」
 今にも拍手喝采、詩吟しそうな雰囲気のギエーリは、取り出した釣竿に特注の太い糸を繋ぎ、出発前に肉屋で購入してきた新鮮な肉を結ぶ。
 その大変な量に、日向は目を丸くした。
「そんなに持ってきたら金掛かったっつーか‥‥重かったろ」
「確かに重さは相当ですが怪我をせずに敵を誘き出すための準備と思えば大した苦労ではございませんよ。それに、糸も肉もたくさん用意致しましたが食べるには苦労する節ばかりの部分ですから安いものです」
「そういうもんか」
 感心している日向に、横から薫。
「見ろ見ろっ、また一匹倒したぞ!」
 特撮アニメを見て興奮する子供のような薫に、彼よりは冒険者の戦い方を見て来ている日向はいたって冷静。
「派手だなぁ」
「カッコイイよ!」
 会話は繋がっているのかいないのか。
「んー、やっぱりジェル相手にブレスセンサーは利かないのでしょうか」
 ソフィアが試しに挑戦してみるが水中にウォータージェルらしきものの存在は感知出来ず、その間にもレインに頼まれた川姫がパッドルワードで確認。
「三十メートルくらい先から此方に向かって来ているみたいです。また、陸に上げますね?」
 水の魔法使いと水精霊。
 二人揃えば水中に隠れられる敵は居なさそうだ。





「おお、掛かりましたよ!」
 少なからず大袈裟とも取れるギエーリのリアクションに女傑は即反応。
「上げます!」
 レインが言うと同時、水が動いて五匹目のウォータージェルを陸揚げした。
「せぃやああ!」
「はぁああっ!」
 エリーシャとリールの剣攻撃。
「ウィンドスラッシュ!」
「クーリング!」
 ソフィアの風魔法、レインの水魔法、そして最後に紅子の火魔法ヒートハンド。
 これを倒した頃にはミーティアが準備していた焚き火も良い音を立てて燃え盛り、傍には彼女が持参した布がずらりと並べられていた。この季節に水中に入るのだから、体を冷やして風邪など引いては大変だというミーティアの心遣いである。
「もう水中にジェルは居なさそうです、ね」
「って事は、ここからは俺達の出番だな」
 敵が消えたのなら後は男達が水中に入り、薫が失くした贈り物を探すために動き出すだけだ、が。
「どうかなさいましたか」
 陸でピクリとも動かなくなったウォータージェルを見つめているリールに、エリーシャが声を掛けた。もしやモンスターも一つの命と、その死を悼んでいるのかと思いきや。
「‥‥このモンスター、何でも溶かせるんだったな」
「ええ。武器もこの通りですから」
 刃毀れしている剣を示すエリーシャにリールは吐息を一つ。
「ゴミを持って来て投げつければ、それも溶かすのだろうか。ゴミ箱が不要になるのかな」
「――」
 真面目な顔でそんな事を言うものだから、エリーシャは思わず絶句。たまたま耳にしていた日向と薫は吹き出した。
「や、つーか、幾ら何でもそれはないだろっ」
「リールさん面白いな‥‥」
「何がだっ?」
 からかわれていると察したリールが二人に食って掛かれば、エリーシャは咳払いを一つして気を取り直し、ミーティアの元へ。
「すみませんが、これをよろしくお願いします」
「勿論よ、それが私が一緒に来た一番の役目だものね」
 鍛冶師のミーティアは、エリーシャと、そしてリールの剣を受け取り、ウォータージェルの酸によってダメージを被った武器の修繕を請け負う。
 そして他の面々は――。
「ぁ、おい!」
 日向が止めるより早く、自らレジストコールドを施して川に飛び込んだのはソフィア。四つん這いになって浅瀬の石の周りから探し始める彼女に、薫も大慌てだ。
「溶けていないと良いのですけれど」
「ソフィアちゃんっ、風邪引くって! そこまでしなくていいって!」
 今すぐ上がってと懇願に似た頼み方をする薫だったが、当の女性陣は何のその。
「何を水臭い。髪飾りは私達も探しますよ。詳しく形を教えて下さい、――あぁ、ですが本当に水の中だという確信はないのでしたね‥‥川に転げ落ちた際、土手に落としたという事も充分に考えられます」
 難しい顔で状況を吟味し始めたのはエリーシャ。
「そういえば、前にも同じような事があったわね」
 言う紅子はヒートハンドで灼熱を纏った手を川の水に浸し、少しでも水温を上げられないかと試みていた。
「指輪の時は素のままだったみたいだけど、今回は何か包装されてたりするのかしら?」
「麻の袋には入れてあるけど‥‥」
「麻の袋ですって」
「はーい」
 薫の返答を紅子が川中のソフィアに伝え、こちらも川に入ろうとしていたレインがふと気付いたように背後に浮かぶ川姫に声を掛ける。
「麻の袋が川の中に落ちていないかは、聞けますか?」
『聞いてあげるわ』
 守護する娘の頼み事ならばと嬉しそうに川の水達に声を掛けるフィディエル。結果、麻の袋は幾つかあったが人々の落としたゴミも少なくなく捜索は難航。
「やれやれ、男の立つ瀬がありませんな」
 苦笑交じりに服の裾を捲り上げるギエーリ。
「非力とは言え男の身。御婦人方が水の冷たさも省みずに尽力されているというのに陸で黙って見ている訳には参りませんよ」
「‥‥そりゃそうだ」
 こうして男三人も川の中へ。
 エリーシャと、それぞれが同伴した動物達は薫の匂いを追うように陸を。
 その他の面々が川を捜索。
 ミーティアは焚いた火も利用してエリーシャとリールの武器修理を続け、そちらに一段落つけてからは捜索に加わった。
 それからしばらくの後、それを見つけたのは陸を探していたレインの愛犬だった。
 ボルゾイの子が吠え、主人であるレインに。
 そして、薫に。
「良かったですね♪ もう落としちゃダメですよ〜」
「良かったな。まぁ一番の土産は薫殿の無事な姿だろうが」
「うわぁっありがとう皆っ、本当にありがとう! これでバレンタインも予定通りに迎えられるよ‥‥!」
 ソフィア、リールに声を掛けられた薫は、麻の袋に入った髪飾りを受け取ると泣いて喜びながら言う。
「ばれんたいん‥‥?」
 意味不明で聞き返すアトランティス出身の面々と。
「バレンタイン?」
 怪訝な顔で聞き返したのは、日向。
「あぁ、もうそんな時期か‥‥」
「やっぱり判ってなかったのね」
 呆然とした雰囲気で呟く彼に、くすくすと微笑うのは紅子だ。
「あー‥‥っと、もしかして‥‥?」
「もしかするわよ?」
 戻ってから渡そうと思い用意したのは苺のタルト。さすがに天界でよく見知ったのと同じそれを用意する事は出来なかったが、バレンタインらしく形を整えた一口サイズのタルトは、彼を喜ばせられるだろうか。
「大好きよ、滝さん」
 耳元に囁く言葉は改まると気恥ずかしくて、言われた方も嬉しさより驚きが先に立ち、‥‥けれど、そっと触れる指先。
「そりゃ、こっちの台詞だ」
 手を握る。
 いつも面倒事を持ち込んでくる友人だけれど、今回は今の幸せに免じて許してやるかと、些か現金な日向だった。