出逢いの有り方

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月10日〜12月13日

リプレイ公開日:2007年12月19日

●オープニング

● ギルドにて

「独身男女で飲み会ですか…、いいですねぇ…」
 思わず本音を漏らしてしまった事務局の青年は、正面に座す依頼人に睨まれて慌てて口を閉ざした。
 依頼人はとある酒場で働く二十一歳の女性。
 依頼内容は、ここ最近になって周囲で騒がれている事件の犯人捜しである。
 寒い季節になると独り身の寂しさが身に染みるとでも言うのだろうか。
 酒場は連日の超満員。
 老若男女問わず様々な冒険者達が集い、酒を片手に賑わっているという。
 中にはパートナー探しを目的とした、知人を介して初顔合わせの男女が親しくなる会合も催されており、そこから結婚まで辿り着いた恋人達を、彼女は何組も見守って来た。
 ところが最近、この酒場の会合に参加した女性が、その帰りに襲われるという被害が三件連続している。
 この犯人を捕まえて欲しいと言うのが今回の依頼だ。
「このままじゃ商売上がったり! …じゃなくてっ、安心してウチで飲んでもらえないじゃない! 貴重な男女の出逢いの場が無くなるの!」
「まぁ、そうですねぇ」
「暢気にしている場合じゃない!」
 女性はガンッと机を叩いて吼えた。
 随分と気の強い女性である。
「いぃ!? 狙われているのは決まって一人寂しく帰っていく女性だけ! これが彼女達から取ってきた証言! 何が何でも捕まえて頂戴、連中は女の敵よ!!」
 更に足まで上げて断言する彼女に、青年は気後れしつつ証言の書かれた用紙を受け取った。

 ***

 証言一。
「いきなり後ろから口を塞がれて裏路地に……っ…、何人いたかは判らないんです。ただもうダメだと思って…、本当に、あのとき彼が助けてくれなかったらどうなっていたか…、あ、その彼とは付き合うようになったんで、怖い思いはしたけど、悪いことばかりではなかったかな、って」

 証言二。
「三人よ、犯人は三人! 私だって一端の冒険者だもの、相手が一人なら返り討ちにしてやれたけど三人じゃ無理だったの! ほんと運良く彼が助けてくれたから良かったものの…あぁ、彼って言うのは今の恋人ね。それがきっかけで付き合うようになったのよ。そうそう犯人だけど、お酒の匂いがきつかったかな」

 証言三。
「酒場で働いている彼が、心配で後を追って来てくれたから助かったんです。犯人は三人でした…、大きな手で目と口と覆われて…何も見えなかったし、声とかも全然…、え? 助けてくれた彼ですか? えっと…はい、いま、お付き合いを……」

 ***

「えぇっ?」
 証言の書かれた用紙を最後まで読み終えたギルド事務局の青年は裏返った声を上げた。
「うわぁ。俺も酒場帰りの女の子を尾行して、襲われたところを助けたら彼女出来るかな……」
 ぽつりと呟いた青年は、再び依頼人に見据えられて肩を縮ませるのだった。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4065 ソフィア・カーレンリース(19歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

● 一

 冷たい風が肌を刺す季節の到来だ。
 人恋しくなるのも頷ける話だけれど。
「三人が三人とも、三人の暴漢に襲われて、それを助けてくれた男性と付き合い始めたって言うのは腑に落ちないですし、気になるわね‥‥」
 思案顔で呟くジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が向かう先は、最初に襲われ、偶然に通り掛かった男に助けられたという女性の自宅である。
 三人が三人とも――そういう偶然が絶対に無いとは言い切れないが、それにしたって不自然だというのが、今回の事件解決に名乗りを上げた冒険者達の、共通した見解だ。
 そのため、白銀麗(ea8147)は二人目の、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)とレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)は三人目の被害者宅にそれぞれ向かっていた。
 事件の真相を探るためにも、冒険者達にはより詳細な情報が必要である。
 一方、酒場の会合に出席して囮役を担うエリーシャ・メロウ(eb4333)とソフィア・カーレンリース(ec4065)は、女性宅に件の男達が居ないとも限らないため、用心して情報収集班には加わらない。
 依頼主である酒場店員の女性、メリッサの協力のもと借りた、酒場奥の控え室に待機することとなり、今回、唯一の男性となったアシュレー・ウォルサム(ea0244)も異性相手に暴漢の話しをさせるのは気の毒との判断から居残りを決めたが、かと言って、ただ待っているのでは時間が勿体無い。
「準備、始めようか」
「え?」
 聞き返すエリーシャとソフィアの視線の先で、アシュレーは自前の理美容用品一式を抱えながらにっこりと微笑んだ。


● 二

 数時間後、酒場奥の待機場所に最初に戻ったジャクリーンは、その場にアシュレーが一人きりで居ることに小首を傾げた。
「お二人はどちらへ?」
 この部屋で仲間の帰りを待っているはずのエリーシャとソフィアの行方を尋ねれば、アシュレーは卓に置いてあった化粧箱を小突く。
「さすがに着替えまでは手伝えないからね」
「そういうこと‥‥」
 二人は会合に参加するための準備中なのだと納得して席に着くが、相手の妙に楽しげな様子が気に掛かる。
「何かあるのかしら」
「んー?」
 ジャクリーンの指摘に、アシュレーは小さく喉を鳴らす。
「まぁ、二人が戻って来たら見てやってよ」
 何をと問うより早く、再び外からの扉が開く。
「いま戻りましたー」
 少なからず疲れを滲ませた声を上げて入ってくるのは三人目の女性から話を聞いて来たレインと、その後方からはリュドミラが穏やかな笑みを浮かべて続く。
「初めての聞き込みで随分と緊張されたようです」
「そうなんだ、お疲れ」
「ごくろうさま」
「私は全然です、リュドミラさんにめいっぱい迷惑掛けました」
 落ち込む新人冒険者に、先輩冒険者達は各々の表情。
「最初なんて、そんなもんだよ」
「経験を積めば慣れていくわ」
「ええ。それに迷惑なんて掛けられていませんし」
 面倒見の良いリュドミラの優しい言葉に、レインは「ありがとうございます」と瞳を潤ませる。
 そこに「賑やかですね」と声を掛けて来るのは二人目の被害者宅から戻った銀麗だ。
「それなりに収穫はありましたが何とも‥‥、おや、もうお二方はどちらに?」
「うん、いま着替えの」
 最中だと言い掛けるが、近付く足音に声は途切れる。
「あ、もう皆さん戻られていたんですね!」
 明るい声音でぴょこんと姿を現したのは、赤いカクテルドレスに身を包んだエルフ娘のソフィア。
 結わえた金の髪と白い肌に、衣装の赤は良く映える。
 更に、それを見越したアシュレーのメイク技術たるや、魅惑的な中にも少女のあどけなさを残すという、異性の八割方は落とせるであろう見事な出来栄えだ。
(グッジョブ俺!)と彼が内心に親指を立てたか否かはともかく、囮としてこれ以上の素材は無いに違いない。
「エルフの耳は、後ほど私がミミクリーで変化させて差し上げますからね」
「よろしくお願いします」
 銀麗の言葉に、ソフィアは元気良く返す。
 念のために幅広いカチューシャで種族特有の耳は隠しているのだが、念には念を入れておいた方が無難だ。
「あれ‥‥、エリーシャさんは?」
 レインが尋ねると、ソフィアは後ろを確認し「あ」と廊下に戻る。
「エリーシャさん、すっごく可愛いから大丈夫ですってば」
「私は騎士です。可愛くなどなくても」
「ほらほら」
 ソフィアに背を押され、部屋にいた面々の前に姿を見せたエリーシャ。
「あら」
「まぁ」
「うわぁっ」
 ジャクリーン、リュドミラ、更にはレインの目を輝かせた反応に、シルクのドレスに淡色のショールを肩に掛けた当人は居心地が悪そうだ。
 貴族の娘として一通りの作法は心得ている彼女だが、その精神は騎士のもの。
 慣れない衣装に複雑な感情を抱きつつも、その下にはしっかりと警棒を隠し持っているエリーシャだった。


● 三

 外はすっかり暗くなり、酒場も夜の賑わいを見せ始めていた。
 そんな店内の一角、二階席の片隅に陣取った冒険者達は、一階の客を注視する。依頼主メリッサの計らいで、エリーシャとソフィアが参加することになった会合はもう間もなく始まろうとしていた。
 それに先立って集めて来た情報を伝え合っていた一同だが、途中でアシュレーが呆れ気味に肩を竦める。
「まぁ男としては判るけど、どうにもね」
「陛下のお膝元で、そのような破廉恥な行為に及ぶ輩がいようとは‥‥必ずや捕らえましょう!」
 美しい姿で凛々しい顔付きになるエリーシャを「笑顔ですよ、笑顔」とレインが宥める。
 女性陣が集めてきた情報を要約するならば、こうだ。
 ジャクリーンが話を聞きに行った被害女性は武道の心得など何一つない清楚可憐な少女。
 異性と気軽に話せる性格でもなく、故に異性への免疫も皆無。それでも恋をしてみたいと、この酒場で働く女友達に相談したところ、一緒に働いている男が会合に参加してみてはどうかと提案して来たそうだ。
 この提案して来た男と言うのが、現在、三人目の被害女性と交際している人物である。
 彼は以前から三番目の被害女性を気に掛けていたが、きっかけが掴めなかった。
 そんな折の、この騒ぎ。
 一人で帰って行くのを知り、心配になって後を追ったところ、偶然にも暴漢から助けることになったのだという。
 少し異なるのが二件目の被害女性。
 二人は以前からの顔見知りで、男女を越えた友人同士。
 格闘術にも覚えのあった彼女は割と一人で何でもこなしてしまう性分だったそうだが、暴漢に遭ってからは、自分も女であることを自覚し、彼に頼るようにもなったという。
 ――聞けば聞くほど胡散臭い。
 しかし恋は盲目。
 一度燃え上がった炎は煙で周囲を見えなくさせるものだ。
「颯爽と自分を危機から救った恋人が実はただの卑劣漢とは、女性達は二重に被害を受けることになる」
 エリーシャが怒りを滲ませた声を荒げる隣ではソフィアも大きく頷く。
「だからこその、今回の作戦だから」
 アシュレーが宥めるように言い、仕上げのローズウォーターを二人の女性にそっと添える。
「行っておいで、気をつけてね」
「はい!」
「では」
 ソフィアとエリーシャを送り出した後、次いで動くのは銀麗だ。
「それでは私も」
 彼女は自身を術で男に変化させ、会合に参加する。
 囮となる彼女達が巧く一人で帰路につけるようサポートするためだ。
 二階席に残ったアシュレー、ジャクリーン、リュドミラ、レインの四人は、これまでの被害女性三人と交際している男の姿が酒場に揃うのを待った。
 店員である彼は、もちろん仕事中だ。
 会合が開始される。
 店内は一際賑わい四方八方から男女の陽気な声が交わされる。
 その内、リュドミラが入り口に向けた瞳に、その姿を捕らえた。
「二人目ですわ」
 それからしばらくして、三人目の姿を見つけたのはジャクリーン。
 彼らが揃ったのを確認した後、アシュレーはリュドミラに向けて小さな豆を一つ放る。
 微かな合図は、しかし彼らには充分。
 会合に参加する彼女達にも標的が知らされる。
 これで三人。
 残るは、一人。
 今回の捕獲すべき犯人が四人であろう事は、これまでの調査で確実だった。
 襲う者が三人と、救う者が一人。
 交際を始めた後に秘密を知る者は少ない方が良い。
 冒険者達は店内を見渡す。
 最後の一人が、今回の救出劇を演じる主役だ。
「――のところに冒険者が事情を聞きに来たって」
 不意に、酒場の店員を見張っていた銀麗の耳に入って来る言葉。
「そろそろマズイんじゃないか?」
「大丈夫だって、今回が最後だろ。俺達だけ成功して、アイツだけ危なくなったから無しなんて言ったら、それこそ全部バラされるぞ」
「そりゃ、そうだけどさ」
「前向きに考えようぜー、ホントこれが最後なんだしさ。‥‥アイツ、どの子を狙うのかな。やっぱ、いま話してる、あの胸の大きい子?」
「じゃない?」
「好きだねぇ‥‥」
 ひそひそと言い合う彼らの視線の先に、二人の男女。
 隣にいるのはソフィアだ。
 こちらから落としに掛からずとも、獲物は既に網の中。
「ソフィアさん凄い!」
 レインの小声ながらも嬉しそうな声。
 銀麗から合図を受けて四人目を知った二階席の彼らも、その顔を覚える。
 あとは、会合の終わりを待つだけだ。


● 四

 暗い夜道を一人で歩く少女。
 その背後から足音を立てないよう注意深い動きで彼女を追う三つの影。
 付かず離れず、ゆっくりと。
 次第に人気の無い方へ。
 コツッ‥‥と、夜闇に響く微かな音は石ころを蹴ったような。
 それが合図。
 影が動く。
「! きゃ‥‥っ」
 叫ぼうとした少女の口を男の大きな手が覆う。
 目も覆われる。
 声が出せない、何も見えない。
 男達の荒々しい息遣いだけが耳に届く。
 その恐怖はどれほどのものか。
「待て!」
 不意に沈黙を劈くのは、男の力強い声。
「お前達、その子に何をするつもりだ!」
 勇ましい姿は輝いてさえ見える――はずだ、彼女が何も知らない一般の少女であれば。
「何するつもりはこちらの台詞です」
「え」
 一人、助けに入るはずだった男は背後に現れたエリーシャに腕を取られ、捻られる。
「だっ、痛ぇっ、なんだおまえ!」
 叫ぶ救出者に戸惑う暴漢達、その内の一人が唐突に吹き飛んだ。
「がっ!」
「ひゃっ」
 勢いに任せて転びそうになったソフィアを支えるのはレインの腕。
「大丈夫ですか、ソフィアさん」
「気持ち悪かったーっ」
「何かもう、男としちゃ気持ちは判らないでもないけど見ていてとっても恥ずかしいよ」
 言ったアシュレーの縄ひょうが吹き飛んだ男の眼球真横を過ぎて背後に刺さる。
「逃げたら今度は風穴が開くから、大人しくね」
 にっこり笑んでいるからと言って、その言葉が優しさからでない事は明らか。
「なっ‥‥だから今回は危ないって言ったんだ‥‥!」
 背後、それは酒場で働いている男だ。
 アシュレーが背中を向けているのを好機と踏んでか、もう一人の仲間と逃げ出そうと試みるも、足下を一瞬にして複数の矢に囲まれては動けるはずがない。
「逃がしませんよ」
 こちらも穏やかに微笑んでいるリュドミラが構えた弓を下ろすことは無く、更に隣ではナイフを手指に挟んだジャクリーンが、いつでもそれを投げられる万端の態勢で待っていた。
「大人しく捕まったほうが身のためよね?」
 選択の余地など皆無の問い掛けだ。
 銀麗、レイン、ソフィアがロープを手に立ち上がる。
 自ら暴行事件を企て、恋人を得ようとした男四人は、こうして冒険者達の手によって捕獲されたのだった。


● 五

「出逢いなんて結局は縁なんですよねー」
 そう切ない声を上げるのはレインだ。
 今回の依頼主である酒場の店員、メリッサの好意から閉店後の店内でもてなされた冒険者達は、それぞれに酒やジュースをグラスに注いで互いの労をねぎらうも、口に上るのは先刻捕まえた男達の主張に対する意見が多い。
 こうでもしなければ恋人が出来ないと彼らは訴えたが、こんな方法で得た恋人と一緒になっても、女性達が気の毒だというのが冒険者達の本音。

 ――彼女達を騙したまま付き合い続ければ、それはしこりとなって残り、いつか後悔すると思いますわよ‥‥?

 ジャクリーンはそう諭したが、彼らがどこまで納得したかは不明だ。
 何にせよ、男達には暴漢の犯人が自分達であることを、彼女達に告白すると約束させた。
 この約束を反故にすれば彼らの行く先は官憲の牢。
 明日のその場には冒険者達も立ち会う。
 真実を知った後で彼女達がどんな答えを出すか、それは、彼らには判らない。
 男達をどう裁くかは、彼女達次第だ。
「それにしても、少し勿体無いですね。エリーシャさんもソフィアさんも、とても素敵だったのに‥‥」
 レインが言うと、すっかり普段の騎士の姿に戻ったエリーシャと、暴漢に襲われて乱れたため普段着に着替えたソフィアがそれぞれに応える。
「当分は結構です」
「僕もー」
「お二人とも、とてもお似合いでしたのに」
 リュドミラがたおやかに告げ、銀麗が頷いて見せると、エリーシャは軽く咳払い。
 ソフィアは苦笑いで応えた。
 一方で「見たければいつでも見れるよ」と意味深に笑うアシュレー。
 その手元には、アトランティスの者には見慣れない携帯電話が握られていた。


 ***


 後日、風のウワサで男達のその後を聞くことになった。
 どうやら冒険者同士だった二人だけはその後も関係が続いているという。最も、その強弱関係は相当のものらしいが――‥‥。