【竜精祭】竜と暮らす

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月07日〜07月13日

リプレイ公開日:2009年07月19日

●オープニング

 ● 今月のお祭りは

「今月は『竜精祭』ですわね‥‥」
 はぁ、と。
 何やらアンニュイな雰囲気で息を吐く、毎度おなじみのセゼリア夫人にギルド職員のアスティ・タイラーは息を飲む。
「‥‥失礼ですが奥様、今度は何を企んでおいでで?」
「まぁ。企むだなんて本当に失礼ですわね。私は常に町の子供達を楽しませるべく頭をフル回転させているだけですのに」
 物は言い様、馬耳東風。
 いや、この夫人は決して悪い事をしているわけではないのだが‥‥何というか、何というかだ。このまま話を聞いていれば、きっと今月の『竜精祭』の手伝いを冒険者の皆さんにと言い出す。そしてきっと夫人所有の広い牧草地を使って冒険者と町の子供二人一組でドラゴンに騎乗した徒競走とか、借り物競争とか、ワルツとか言い出すに決まっている。
(「ドラゴンのワルツは見てみたい気も‥‥」)
 思わず想像してしまったアスティは慌てて頭を振る。
 そんな彼に夫人は目を瞬かせ。
「あら‥‥そういえば、近頃はドラゴンと一緒に暮らしてらっしゃる冒険者の方も随分いらっしゃるみたいね」
「!」
 ほら来たと、何とか夫人の無謀を止めようと腰を浮かしたアスティだったが、続く彼女の言葉には目が点に。
「冒険者の皆さん、ドラゴンなんて大きな方とご一緒に‥‥ご自宅ではどのような暮らしをなさっているのかしら」
「‥‥はい?」
「気になりませんこと? 気になりますわよね?」
「えっと‥‥」
 そりゃ、気にならない事はない。
 あんな体長何メートルもある生き物をどのようにして育てているのか。
 ご飯は?
 っていか、自宅に入るのか?
 絆はどうやって深めているの?
「子供達にとっては未知の世界ですわ‥‥冒険者の皆さんに頼んで、ドラゴンとの生活を拝見させて頂くわけにはいかないかしら」
「――」
「身近なドラゴン達の生活に触れることで、きっと竜精祭におけるドラゴンへの感謝の気持ちにもより一層の深みが増すと思いますの。そうでしょう?」
「あの‥‥」
「ね? ドラゴンとの生活を見せて下さる冒険者の方、紹介して頂けないかしら」
 上目遣いに見つめられたアスティ・タイラー。
 何やら別の意味でどきどき、心臓が痛んで来た――。



●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb6105 ゾーラク・ピトゥーフ(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


「ようこそなのじゃ」
 六〇センチの小さな身体で一行を出迎えたユラヴィカ・クドゥス(ea1704)。子供達を一番最初に驚かせたのは彼自身である。
「うわぁっ、シフールのお兄ちゃんも人間の皆と同じお家に住んでいるんだね!」
「すごーい、ドアとか開けるの大変じゃないの?」
 言われたユラヴィカは目を瞬かせた後で、くすりと笑う。
「心配ないのじゃ、わしら冒険者のシフールは力持ちじゃからの」
 その言葉に、更に目を輝かせた子供達は、やっぱり冒険者の兄ちゃん姉ちゃんは凄いんだと口々に言い合いながら、その場を動こうとしない。だからセゼリア夫人が口を切る。
「さぁさぁ皆さん、いつまでもお話していてはユラヴィカさんに失礼ですわ。せっかく竜との生活をお披露目して下さるのに」
「あ」
「ごめんなさいっ」
 夫人に促され、八人の子供達は揃って一礼。
「よろしくお願いします!」と声を揃えられればユラヴィカも笑うしかなく。
「どうぞなのじゃ」
 ぱたぱたと翅を動かし、子供達を中へ招き入れた。


 ユラヴィカの家は、まるで不思議の国。
「うちのドラゴンはもう大きく育っておるのじゃが、フォレストドラゴンのピィちゃんとマイカ、エクリプスドラゴンからお預かりしておるムーンドラゴンのアルシノエ、それにヴォルケイドドラゴンのライカ‥‥」
『ヴォオオォォッ!』
「!!」
 紹介されるや否や、それは挨拶代わりだろうか。ライカが吠えた。黒い鱗の隙間から見える赤い体皮は炎の海に似て、子供達はびったりと夫人の背後に列を成す。
「なにっ、なにっ?」
「大丈夫ですわよっ、何も怖くなんかありませんわ!」
 宥める夫人の声も上擦っていて、ユラヴィカも「大丈夫じゃ」と繰り返す。
「気の荒い子じゃが人には慣れておるからの。心配は要らないのじゃ」
「ほ、本当に‥‥?」
 不安そうに聞き返した子供がそぉっと顔を出して来た、直後。
『ヴォオオオオォォ!』
「きゃあぁっ」
 大丈夫とは言われても、怖いものは怖いわけで。
 ユラヴィカはムーンドラゴンに頼んでフォレストドラゴンを別場所に移動させる。ドラゴンがドラゴンの面倒を見るという光景に子供達は目をぱちくりさせたが、それだけでは終わらない。犬達やモア、イワトビペンギン、トラにライオン、グリフォン、塗坊、フロストベア。実に多種多様な動物達の集合と、動物達が互いに助け合って生きる姿。そこに精霊達も加われば正に不思議の国だ。
「すごいすごいすごい!!」
 大いに喜んだ子供達。
 興奮のあまり、その夜はよく眠れなかったとか。





 翌日の訪問先はユラヴィカのお隣、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)の家だ。昨日の光景が忘れられず、どうしても意識は彼の家に向かっていたのだが。
「どうぞ」
 ディアッカが声を掛けた、その後方からにょきっと顔を出した二匹の竜。
「!!」
 まるで双子のようにそっくりな顔を並べたムーンドラゴン達に、子供達は目を真ん丸くしたまま固まり。
「んまぁぁぁぁ!」
 代わりに夫人が黄色い声で叫ぶのだった。


 そんな遣り取りから始まったディアッカの家での竜との暮らしは、ユラヴィカの家と然程変わらず、犬に猫‥‥ではなくケット・シー。ライオン、黒豹、チーター、ペンギン、フロストベアにライトニングバニー。コカトリスまで揃って天界風に言うなれば動物園。こちらもやはり精霊達が世話を手伝い、午後にはユラヴィカの精霊達も手伝いに出張してくれば、今日は自分達も手伝うと子供達が大はしゃぎ。
「やっぱり冒険者の方の御宅は面白いわ」
「‥‥他にも、シーハリオンから社会勉強に来ているドラゴンパピー達が冒険者街にはいるのですが」
「ドラゴンパピー?」
 見た事が無いわと首を捻る夫人に、ディアッカが詠唱し始めたのはファンタズム。
「このような子達です」
「――」
 魔法で映し出されたその姿は、くりんとした瞳。
 丸っとした手足。
 つるっつるの頭。
「きゃああああぁっ♪」
 その叫びは昼下がりの冒険者街に轟き。
 本人‥‥竜達が余所の竜精祭のために出張していたのは実に幸運な事だった。誰に対しての幸運かは敢えて伏せるが。





 三日目の訪問先はシルバー・ストーム(ea3651)の家だ。
 こちらは先の二軒と些か異なり、子供達に竜と触れ合う機会を設けると同時に、そろそろ言う事を聞くようになってきた自宅のヴォルケイドドラゴンパピー、フレイムにも人と触れ合う機会を持たせたかったのである。
 そしてその為にまずすべき事は、部屋の片付け。
「‥‥しばらく留守にしていたとは言え‥‥いえ、留守にしていたのに散らかっているのは何故でしょう」
 低く呟き、見遣る先には風精のヴィント。
 主の視線を受けてぶるぶるっと左右に首を振るけれど、その素直な反応でシルバーを騙せるはずもなく。
「まずは片付けから、ですね」
 卓に開かれたままの研究資料は、ほとんどが自分で放ったままにしてあったものだし、最初からこうだったと思えば何ということも無い。一つ息を吐いて動き出した彼の手先には一寸の迷いもない。スクロールの一部分を見ただけでどの属性かを見極め、箱へ。
 攻撃魔法、守備魔法、援護魔法――チラと視線を動かすと、スクロールを七本程抱えて空を飛ぶヴィントの姿が映る。
 ふらふらと覚束無い飛び方。
 しかも、巻物を入れる箱が違う。
 シルバーは溜息一つ。
「ヴィント。手伝ってくれるのはありがたいのですが、その資料はそっちではなくこちらへお願いします」
 注意するが、聞いているのかいないのか。
 ヴィントは尚も同じ箱に新たなスクロールを入れていき、シルバーも新しい溜息を一つ。二度手間だが、‥‥それでも叱る気になれないのだから仕方なかった。


 そうして苦労しながら片付けた部屋に子供達を招きいれたシルバーだったが、子供達はフレイムの姿を見た途端に逃げ腰。ユラヴィカの家で聞いたヴォルケイドドラゴンの咆哮がよほど強烈だったらしい。
「竜には様々な種がいますが、フレイムのような火竜は気性の荒いものが多いのです」
『ヴォオオォォッ』
 言っている傍から咆哮、踏み鳴らす床。
 ドシン、ドシンと、足音と一緒に家屋が揺れて。
「‥‥っ!」
 子供達と一緒に夫人まで顔を蒼褪めさせている。
「こ、このような子まで家族として迎え入れられるのですから、やはり冒険者の皆さんは素晴らしいですわね‥‥!」
 青褪めた顔で言われても。
「おばちゃんっ、このドラゴンさんはもう良いよっ」
「怖いよっ」
 子供達が恐怖から泣き声を上げれば、ドラゴンの気性も更に荒く。
『ヴォオオォォォ!』
「フレイム」
 暴れそうになる火竜に紐解くスクロールはアイスコフィン。
「いけませんよ」
『‥‥ッ!!』
 瞬時に凍った。
 魔法の限界サイズすら凌ぐ大きなドラゴン相手に、躊躇無く。
 有無を言わさずに従わせるシルバーの能力と言ったら卓越したもので。
「おおぉ‥‥」
 パチパチパチ。
 さっきまで怯えていた子供達も思わず真顔で拍手だ。





「もう大丈夫でしょうかっ」
 そう声を上げながら自分の家を見渡すのはフルーレ・フルフラット(eb1182)である。
「武器は全て倉庫に片付けましたし鎧や盾も棚に‥‥」
 立て掛けたと言うか山積みにしたというか。
 何はともあれ、子供達が入っても怪我をしないようには整理整頓も完了。あとは来客を待つばかりだ。
 普段通りの格好で、待つ時間も惜しいからと厩舎にいた彼女は、今回セゼリア夫人達にお披露目するムーンドラゴンの他、共に暮らしているグリフォンや馬達の世話に精を出す。
 大切な家族だ。
 毛玉一つだって作らせたくは無い。
 堅毛の丸ブラシで体を梳いてやりながら話し掛けるフルーレに、ブラッシングされている彼らは気持ち良さそうに目を細めている。時には早く自分にもしろと催促するようにフルーレの頬に顔を擦り付け、体が傾いたフルーレの手が止まると、それまでブラッシングされていたグリフォンが唸る。自分より強い獣に威嚇されれば馬やユニコーンは素直に引き下がるが、軍馬やライオンは「やるか、オラッ」と勢い付く。
 だからフルーレは。
「大人しく順番を待つんです!!」
 両腕を上げて叱ると流石に皆が平身低頭、主の言葉は絶対だ。そうして、そんな賑やかしい光景を穏やかに見守るのは月竜のシャルルマーニュ。彼は常に傍観体勢だ。
 そんな、賑やかなフルフラット家に。
「お邪魔しまーす!」
 子供達の声が響いた。


「うわぁっ!」
 フルーレの特製厩舎に案内された子供達は揃って感動の声を上げた。
 このような動物専用の建物は、これまでの冒険者達の家では見なかったからだ。
「この子が我が家の竜。西方山脈に住むエクリプスドラゴンから預けられた子で、シャルルマーニュと名付けて、ソレはもう可愛がっておりますとも♪」
「まぁ‥‥本当に、皆さん毛艶も大変よろしくて‥‥」
 夫人が両手で頬を押さえて感動の呟きを漏らす。
「ただ、うちに来た当初よりも随分と大きくなってしまいましたから、最近はちょっと窮屈そうッスね‥‥」
 フルーレの言葉に応じたのはシャルルマーニュ。これでも充分満足だと言うように穏やかな声を上げたのだ。
「可愛いーっ」
 そんな反応が、特に幼い少女達は心打たれたようで。
「シャルルマーニュは良い子ですから、触っても大丈夫ッスよ♪」
「ほんとっ?」
 触りたい、触りたいと月竜に集まる子供達に、今度は夜にも遊びに来て欲しいとフルーレ。月精霊の時間こそ月竜が最も美しく輝く時間帯。
「普段窮屈な思いをさせている分、夜空の散歩を楽しむんスよ。自分も背に乗って」
「乗れるの!?」
 再び大はしゃぎする子供達に、フルーレも笑顔で応じ。
 一方、グリフォン達は主が新参者の話ばかりしているのが気に食わないようで些か拗ね気味。ふんっと前足に顔を乗せてそっぽを向く。
 それは、愛情たっぷりに育てられているからこその愛らしさだった。





 ディーネ・ノート(ea1542)の朝は、内外問わず集まる猫達の朝飯の準備から始まる。それから、猫以外の子達への朝飯。最後にこれらの後片付けを済ませれば、部屋の掃除もパパッと。少しでも散らかしていれば、それら全てが猫達の餌食になるからだ。
 そしてこの日は夫人と子供達がディーネの家を訪れる日。
(「むぅ‥‥前会った時に思わず甘えたんで顔合わすのがはじぃわ」)
 ぽりぽりと頬を掻きながら胸中に呟く頃、いよいよ鳴ったドアベル。
 来た、と彼女が足を向けるより早く。
「きゃーーーー!」
 聞こえた悲鳴は複数、もちろん夫人と子供達。
 ただ、それらが絶叫というわけではなく、驚きと、‥‥何というか、どことなく楽しげなのは主より早く来客を出迎えたのが猫達だからで。
「あー‥‥やっぱり」
 少し遅れて玄関に顔を出したディーネは、すっかり猫まみれになっている夫人達にくすりと失笑するのだった。


「驚きましたわっ、ディーネさんったらいつの間に猫のお婿さんを!」
「猫のお婿さんって何っ」
 ぎゅっと顔馴染みの子供達、トートマとフィムを抱き締めながら夫人の言葉に反論するディーネ。
 猫好きで、猫邸なのは否定しないが、猫と結婚した覚えはない。そもそも結婚相手はきちんと‥‥げふんげふん。
 何はともあれ、猫と一緒に暮らすディーネが共に暮らす竜はムーンドラゴン。さすがに家には入れないからと、庭に設けられた専用の小屋で寝起きする竜を見て、子供達は大喜び。今日も月竜に逢えた事が嬉しかったらしい。
 ご飯は一日三回、新鮮な肉と野菜と、綺麗な水。
「体が大きいから良く食べるのよー」
「お姉ちゃんよりも?」
「あら、ディーネさんよりも?」
「――」
 がくっ。
 夫人のみならず子供にまで疑問符を付けられてしまった。
「‥‥すいません、流石に竜とは比べないで下さい」
「あらあら」
 くすくすと、零れる笑い。
 体は二日に一回洗い、体を乾かしている間に寝床の掃除。もちろん夜空の散歩も欠かさないと聞けば、やはり触って良いかと子供達が期待に満ちた眼差しをディーネに向けた。
「勿論よ。噛まないとは思うけれど、一応は注意してね」
「はーい!」
 元気良く返事するが早いか、走って月竜に近づく子供達を見送りながら、夫人はふと不思議そうに呟く。
「冒険者の皆さんと暮らしているのは、月竜が多いのですわね‥‥、何か事情がお有りなのかしら」
「事情って言うか‥‥」
 ディーネは少し考えて、気性が一番穏やかだからじゃないかしらと返す。
「他の子達だったら、やっぱり色々危険だもの」
「それも‥‥そうですわね」
 これまでに拝見してきた冒険者と竜の暮らしを思い出しながら、夫人は納得したように頷いた。





 快く夫人と八人の子供達を迎え入れたゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は、彼女達のためにハーブティと手作りケーキを用意し、更には自分の月竜も好きな料理を用意して、共に食事を取るという形での触れ合いの場を設けた。
 これも今までにはなかった形で、子供達は大喜び。
 そしてやはり共に暮らす竜が月竜だと聞いた夫人は、竜精祭の趣向にも何かしらの結論を見出したようだった。
「この子はベロボーグという名前です」
「ベロボーグ?」
 名前を復唱する子供に、月竜は一度穏やかな眼差しを向けた後で、その視線を主に移した。そうして伝える、優しい声。
 その以前に月魔法テレパシーを発動していたゾーラクは、竜の言葉を子供達に通訳する。
「よろしくと言っています」
「!」
「お姉ちゃん、竜の言葉が判るの!?」
「判るようになる魔法が使えるのです」
「うわぁっ‥‥!」
 すごい、カッコイイ、素敵――子供達が口々に告げる言葉には流石の女傑も照れ笑い。
「ベロボーグは皆さんをお友達と思っています」
「ほんと!?」
 子供達の言葉を竜に伝え。
 竜の言葉を子供達に伝える。
 それは、子供達にとっては正に未知の世界だった。
 他にもファンタズムで日頃の生活のワンシーンを幾つも見せてもらうなど、ゾーラクの心遣いはこれまでになく判り易く、夫人のとある考えを少しずつ、人知れず明確なものにしていった。
「それに、最近はフルーレさんから竜の子とのワルツを教えて頂いています」
「竜のワルツですの!?」
「ええ。日々上達していますよ」
「まぁまぁまぁ‥‥っ」
 その光景までも魔法で見せてもらえば、夫人のテンションは最高潮。
「わたくし決めましたわ!」
「っ」
 唐突に手を握られたゾーラクは驚いた。
「ありがとうございました、ゾーラクさん! このご恩は生涯忘れませんわっ」
「は、はぁ‥‥」
 目を瞬かせ、何とかそれだけは反応して見せたゾーラクだが、一体何がそれほど夫人を興奮させたのかは想像がつかない。
 答えを知るのは、この数日後。
 再びギルドの依頼掲示板に夫人や子供達が暮らす村の『竜精祭』の広告が出たその時だ――。