リグ、其の国の民よ――

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月22日

リプレイ公開日:2009年07月29日

●オープニング

 ● 戦の傷痕、癒す者達

 ウィルの一分国セレの国には、近頃各所で目にする旗があった。軍旗などとは違う、険しい山の頂を見事な翼で乗り越えようとする鳥の姿。頂きの向こうは朝焼けに似た色のグラデーションになっており、セレの人々はこれを『暁の翼』と呼ぶ。
 元は冒険者達が国境を越えて人々の暮らしを支援する組織の名だったが、気付けば人々を元気付ける合言葉になっていた。
「いやぁ‥‥良い傾向だね」
 ヨウテイ領の領主アベル・クトシュナスは暢気に笑う。
 その視界に映るのは、セレとリグ、異なる国の人々が支え合いながら畑を世話し、家を建て、皆で共に食すための食材を調理する姿。数日前の戦がまるで嘘のように、此処には穏やかな時間が流れていた。
「‥‥ま、そう暢気に構えてばかりもいられないんだが」
 呟きながら、アベルの表情が微妙に変化する。
 リグ国内で起きた魔物との戦が終わって以降、あちらに帰る民も決して少なくはなかったが、その一件以来両国の行き来が容易になっている事もあり、セレにはリグの情報が多く持ち込まれるようになった。
 玉座を空にしたリグの国は、現在、王位を誰が就くかで揉めている。
 候補者は国内における二大領地クロムサルタとホルクハンデの両領主と、ホルクハンデ領主の嫡男であり黒騎士と呼ばれるフェリオール・ホルクハンデという僅か三名。そしてこの三名ともが王になる事を拒んでいるのだからどうしようもないと、これはリグの騎士の言である。
 ウィルは六分国で一つの国。
 対してリグは、かつてはクロムサルタ、ホルクハンデ、リグハリオスの三分国から成る国だったが、今は国があっての二大領地。領土的にはウィルとそれほど変わらないリグの土地は、その全てを王が統べる事になる。
 ホルクハンデの領主はかつての三分国制度に戻し分国王の地位を奪還、フェリオールは跡継ぎにすべく自分の元に戻れと我儘を言い放題。
 フェリオールはしばらく諸国漫遊の旅にでも出ると、国の復興に力を入れるつもりは無いと言いたげな態度を崩さないし、クロムサルタのエガルド伯は「自分はもう歳、国の未来は若い者に」と、こうである。
「あの国には、誰か王になりたいって奴はいないのかね」
 まったく、と溜息一つ。
 そうしてアベルの脳裏に浮かぶのは毎度お馴染みの冒険者達の顔。
「あぁそうか、彼らに良案でも出してもらうか」
 何せ国を一つ動かした彼らだ。
 両領主はもちろん、黒騎士からの信も厚いのだがら、余所から誰かが口を出すよりもよほど効果的に彼らから結論を導き出せそうだ。
「王が決まれば今度は四方八方に根回しして手回しして戴冠式に‥‥誰が王になるかによっちゃ嫁取りか? いやぁ、忙しくなりそうだ。ついでに『暁の翼』にはリグの国の復興支援でも手伝って貰うか」
 そんな事を随分と面白そうに言いながら、アベルは早速とウィルの冒険者ギルドに便りを出すのだった。




 ● だからギルド職員のアスティは

 こちらと、あちらの依頼が微妙に合致しているのを見つけて、ギルド職員のアスティ・タイラーは失笑する。
「まったく、これだから‥‥」
 苦笑交じりに呟いた彼はリラからの依頼とアベルからの依頼を重ね合わせてサラサラと依頼書を作成。これを掲示板に。
 一つ、セレ分国からリグの国への偵察依頼。
 一つ、セレ分国からリグの国への復興支援依頼。
 加えて二つ目の依頼には「自分も同伴するんで頼むな」と茶目っ気たっぷりの走り書きがされており、まったくあの人はと此方でも溜息が一つ。
「あ」
 同時に友人の姿が思い浮かび、知らせなければと気付くや否やアスティはギルドを飛び出していた。




 ● 暁の翼は国境を越えて

 アスティから話を聞いた日向は苦笑を零し、頷く。
「知らせてくれてありがとな、‥‥そりゃ参加しないわけにはいかないだろう」
「いえ、もし貴方が気付かないまま依頼が締め切られてしまっては絶対に後悔されそうですから」
 にこにこと笑うアスティは仕事に戻るため、それきり日向とは別れ、依頼書の写しを受け取った日向は改めてそれに目を通しながら、だが‥‥と考えた。
 セレはある程度の事情を知る機会があったが、自分にとってのリグはまだ一度も足を踏み入れたことのない異国。ましてや戦争を終えたばかりでどんな支援が必要なのか、食料や衣類など代表的なものしか思いつかない。
「‥‥アベルのこの調子から見るに、暁の翼の名前で支援団体でも募りそうだしな‥‥」
 ならば今回は、少しでもリグの復興に尽力する人々を励ます方向で行動したいと考えた。
 そんな中で必要なもの、欠かせないもの。
 リグの国の人々から直接聞く事が出来ればと想う。
「月ごとの精霊祭も土地ごとに違うって言うしな」
 辛い日々を背負って来た彼らに笑顔が戻るように。
 一日も早く新たな国王の元で人々が再出発を果たせるように。
「――行くか」
 呟く彼の表情は朗らかな活力に漲っていた。


●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3838 ソード・エアシールド(45歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb4245 アリル・カーチルト(39歳・♂・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4112 レイン・ヴォルフルーラ(25歳・♀・ウィザード・人間・アトランティス)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●リプレイ本文


 親友が再びリグへ向かうと聞いた時、ソード・エアシールド(eb3838)は正気かと相手の言葉を疑ったが、同時に『暁の翼』にも召集が掛かっていると知った彼は諦めた。自身も同行出来るのなら、ただ黙って待っているよりもよほど気が楽だ――そんな事を思いながらフロートシップに乗船する彼の隣には、件の親友。
 アベル・クトシュナスを捕まえて質問の最中だった。
「‥‥そういえば、あの‥‥」
「どうした?」
「‥‥ずっと気になっていたのですが‥‥カイン様の処遇、どうなりましたでしょうか‥‥?」
「カイン?」
 セレの罪人として囚われ、その償いとして危険な任務に身を投じたカイン・オールラントは、リグの国から死淵の王が去った事により一先ずの任務終了となったはずだが、現在もウィルの仲間の元には帰らずセレに留まっている。その事を、いまだ彼の罪が許されていない為ではないのかと心配していたのだ。
 だが、聞かれたアベルは笑う。
 とても楽しげに。
「ああ、それなら心配は要らない。あいつがセレに残っているのは、もうあいつ自身の希望だよ」
「‥‥と、言いますと‥‥?」
「いまだ国内にはあいつを許すなと騒ぐ連中も勿論いるが、カインは基本的に人が好いからな。ヨウテイ領内では平和にやっている」
 今回の事で、いっそ死んだ事にしてやるからウィルの仲間の元へ戻れともアベルは告げたらしいが、本人がセレに残る事を決めた。
「どうやら俺の土地はあいつの肌に合うらしい」
「‥‥そう、ですか‥‥」
 何とも拍子抜けの会話に親友が複雑な表情を浮かべるのを見て、ソードは失笑。どんな理由があるにせよ穏やかに暮らせているのならば気に病む事はない、と。
 三人がそのような話をしている一方で、悲鳴に近い声を上げている者達もいた。
「まだあるのか!」
「文句を言うな、これもリグの民のためだぞ」
 言い合う良哉とカインが抱えているのは麻袋に入った大量の乾餅。その数二千以上。全てオラース・カノーヴァ(ea3486)からの支援物資である。
「こんな大量に買い込んでくるのは大変だったよね」
 労いの言葉を口にするモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)に当のオラースはただ肩を竦める。
「貴族の財は民の為、これくらいは当然だ」
「オラース殿は素晴らしい方だね」
 素直な気持ちを臆面無く語れるモディリヤーノの言葉は、素っ気無い態度を崩さない言われた当人の眉を顰めさせた。だが、それも怒っているわけでは決してなく、‥‥どちらかと言えば、照れていたのかもしれない。それは、モディリヤーノにも何となく伝わっていて。
「とにかく運べ、積み終わるまでは出発出来ないんだからな」
「はい!」
 命令口調にも笑顔の応え。
「もう一頑張りだ」
「‥‥了解」
 リラに励まされ、良哉は深呼吸一つ。再び麻袋を背負えば、共に行く華岡紅子(eb4412)も「手伝うわ」と一つを手に取った。だが、持ち上げてみると結構な重さ。女性の細腕には厳しく、足元のバランスが崩れ。
「っ」
「おっと」
 倒れかけた彼女の背を支えたのは滝日向だ。
「大丈夫か?」
「日向さん‥‥ええ、ありがとう」
 互いに安堵の息を吐き、日向が彼女の腕に抱えられた麻袋を引き受ける。
「無茶するな」
「そうね」
 気を付けるわと申し訳無さそうに笑む彼女へ笑みを返し、次いで視線を注ぐのはしゃがんでいるレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)。
「そぉ、れっ」
 麻袋を持ち上げてまずは膝の上に。
「待て待てっ!」
 そこから袋の下を持って立ち上がろうとする少女を日向は制する。よりによって自ら大きめの袋を選ぶ奴が何処にいるかと慌てるが、そこをフォローするのは恋人――否、夫の務め。
「力仕事は僕がするよ」
 アルジャン・クロウリィ(eb5814)がひょいと袋を持ち上げればレインは目を瞬かせた。
「でも、こんなにいっぱいあるのに男の人ばかりにお任せしちゃ申し訳ないですし」
「他にも運ぶものはたくさんあるだろうから、そちらを手伝ってくれれば‥‥」
「もう終わっちゃったのよ、ね」
「です」
 説得を試みるアルジャンへ、紅子が言い、レインが頷く。
 だからお手伝いがしたいのだと。
 聞いて辺りを見渡してみれば確かに麻袋以外の荷物は何も残っていない。治療道具やテント、毛布などの支援物資は勿論のこと、アリル・カーチルト(eb4245)の要請により準備されたノルン、紅子の要請により編成されたドワーフの井戸掘り部隊も既に船内だ。
 だからこそ、彼女達も此方を手伝いに来たわけで。
「‥‥さっさと働け石動兄!」
「うぉっ」
 おもむろに、日向が彼の背を蹴飛ばせばアルジャンも。
「時間を掛けすぎているようだ」と表情が固く。大切な女性に怪我をさせないためには運搬作業を終わらせてしまう他無い。
 そんな男達の心境など露知らず、蹴飛ばされて驚いた良哉は食って掛かる。
「痛ぇな俺が何したって!」
「前にいるから悪い」
「何それ!?」
「ふっ‥‥」
「はははっ、災難だな良哉」
「災難って何だよ、今のは明らかに故意だろ!?」
 怒る友に、笑う友。
 そして此方は誘う友。
「どうだ、リグの復興に一緒に行かないか」
「行かぬ」
「セレの神聖騎士としてリグの復興に力を貸せば両国の平和に貢献出来るじゃねぇか」
「その前に私には此処でやらねばならない事がたくさんある」
 アリルの誘いを先ほどから頑なに突っ撥ねているのはアイリーン・グラント。セレに所属する白騎士である。
 可愛げのない彼女の態度も相当だが、それに懲りず誘い続けるアリルも相当なもの。
「それにな、広い世界を経験する事はあんたにとってもプラスになると思うぜ」
「余計なお世話だ」
「アイリーン」
「しつこい!」
 怒鳴る、同時に振り上がる手を。
「っ」
「いっつも引っ叩かれてばかりだと思うなよ?」
 ニヤッと笑むアリルは、しかし。
「! 待っ」
 ゴーン。
「‥‥っ‥‥」
「ふんっ」
 股関節を蹴り上げて去る彼女に、涙目のアリル。そんな彼らを眺めていた天使は笑い、月姫は心配顔。
『‥‥大丈夫ですか‥‥?』
「おまえが案じる事はない。‥‥が、まったく、それでも懲りぬか」
「ハッ。女に付けられた傷は男の勲章だぜ‥‥っ」
 呆れた声を掛ける天使の身体にはアリルが渡した防具。隣国を狂わせた魔物はまだ生きているから、自分達が不在の間はセレを頼むという想いが込められていた。
「何にせよ、まずは行って来い。リグの民が待っている」
「ぉ、おう‥‥っ」
 そうして最後の一人を乗せ、シップはリグの国を目指す。
 魔物の去った国。
 その国の民に会いに――。





 シップはクロムサルタで半数の冒険者達を降ろした後でリグリーンに向かった。
「あちらの皆さんは、この後はどうするのでしょう?」
「エガルド伯との話自体はそれほど長く掛からないだろう。おまえさん達をリグリーンで降ろした後で、改めてこの船が迎えに行くさ」
「そうなんですか」
 アベルからそのような返答を貰ったレインは安堵の息を吐き、一方でソードは親友を案じる視線をその方向から逸らす事はなかった。
 そうこうして到着したリグリーンは、上空から見る限り『全滅』だ。城下に広がる民家は勿論の事、まだ距離的には遠い向こう側に見える王城すら所々が崩れ落ち、シップの飛行中にも建物の一部が崩れ落ちて巻き上がる粉塵の濃厚さは音が届かずともその激しさを伝えて来た。
「リグリーン‥‥こういう形で来る事になるとは思わなかったわ‥‥」
 紅子が目を細めて呟いた。
 セレに逃れてきた避難民達から幾度も聞いて来た、隣国に起きた悲劇の中心地。
 魔物が蔓延り、多くの命が失われ、それ以上の人々が傷付いた。身体的な傷ばかりではなく、むしろ心に負った傷の方が深く、痛く、癒える日は遠い。怪我は治るし、建物や畑は整備することで再び使えるようになるが、失われた命だけはどうしようもないからだ。
 この戦で大切な誰かを失くした人々は、これからが苦しい戦いになる。
 もしも自分が貴方を失くしたら――そのような怖い未来を想像して切ない表情を浮かべる紅子の、細い指先に。
「‥‥日向さん」
 絡められた指から伝わる温もりと、向けられる笑顔は、こんなにも近くにある。
「俺達が落ち込んでいてどうする」
「そう、ね‥‥」
 過去はどうあっても覆せないけれど、生まれ変わったリグの国が立ち上がろうとしている今、リグの民と手を取り合って支えていかなければならない。
 この国の未来に希望の翼を。
「死淵の王は退いたけれど、戦いは、まだ終わったわけじゃなくて‥‥これからが国の人達にとっての戦いになるでしょうけれど‥‥」
 魔物の災禍によって傷付いた人々へ笑顔を取り戻したい。
 レインの言葉に、アルジャンも強く頷き、彼女の肩を抱いた。
「おや‥‥?」
 と、不意に視界を過ぎった影に思わず声が上がる。
「ゴーレムだ」
「そりゃ復興作業の最中ならゴーレムだって‥‥」
 オラースが言いながら地上を見下ろし、しかし、言葉がそこで途切れる。
「キャペルスだ」
 一般的なそれとは異なる改造型。
 黒鉄の三連隊と呼ばれた彼らの専用機――。


 シップが着陸し、冒険者達が下船すると同時に耳に飛び込んで来たのは、活気。
「さぁ運べー!」
「声出していこー!」
「そぉれっ、はぁっ! そぉれっ、はぁっ!」
 この国の騎士と見られる男達が数十人で一本の縄を持ち、先端に巻き付けて退くのは巨大な岩。恐らく建物の一部が崩壊して地面に墜落したものだろう。地面に轍に似た後を残しながら少しずつ、しかし確実に取り除かれて行く。
 更にその向こうには、船上から見る事が出来た現場。
 改造型のキャペルスが一機、二機のバガンと共に街中を流れる大きな川の左右で作業に追われていた。
 そちらに近付いた冒険者達に、最初に気付いたのは地上で作業していたドワーフの男。
「お‥‥驚いたな! ウィルの冒険者達じゃないか!」
 声を上げ、表情を崩した彼はダラエ・パクドゥーエル。
「何だ何だまさか手伝いに来てくれたのか!?」
 豪快な物言いに、最初こそ驚いていた冒険者達の表情にも笑みが浮かぶ。
「てっきりあんた方は責任がどうのと凹んで奥に引っ込んでいると思ったが」
 オラースが遠慮の無い言い方をしてもダラエは「がははは!」と笑う。
「そりゃ一時期はそうなりそうだったがな! しかし、あの戦の最中におまえ達に言われた言葉を思い出したら、こんな時だからこそ動かねばならん!」
 落ち込む事なら全てが終わってからでも間に合う。
 まずは使える力を使って民の未来を支えろと、彼らは動く事を決めたと語る。
「団長!!」
 そうして声を上げた先には改造型のキャペルス。
 搭乗しているのは勿論と言うべきかリグの騎士団長であったガラ・ティスホムだ。
「団長! 冒険者達が来てくれましたよ!!」
 何度も大声を出すが流石に聞こえないようで、彼は作業に没頭。冒険者達も復興支援に来たのだから作業の邪魔をするつもりはない。
「騎士達が人力で石塊を動かしていたようだが、そちらを手伝おうか? ゴーレムを一機、貸してもらえるのなら‥‥」
「いや、それはすまん! ゴーレムはほとんどがまだ整備中でな! いま外に出ているので使えるのは全てなんだ!」
 高性能機はさほど破損はなかったが、無数の魔物共と争った機体はそれぞれに傷を負っており整備の手が追いついていないのが実状だ。セレのノルンも同様、アリルの要求により支援目的でシップが運んで来られたのは僅か三機に留まっている。これにはウィルからセレ、セレからリグへの移動日程が連日だったという事情もあったが。
「だが手伝ってくれるというおまえ達の言葉に甘えさせてもらっても良いなら、川向こうの民の作業を手伝ってもらっても良いだろうか!」
 此処に掛かっていた橋が崩れた為に行き来出来なくなった民が大勢いる。自分達が即席の橋を作り終えるまで、そちらを助けてやって欲しいと乞われれば冒険者達に拒む理由はない。
 一度シップまで戻り、それで移動。
 すると、その途中で再び通った現場では騎士達と共にキャペルスやバガンが手を振っていた。
「頼むぞ!」
 そんな声が聞こえて来る騎士達の姿には力が漲っていて、此方も負けてはいられないと思った。





 瓦礫に埋まった都市は歩く道すら平坦ではなかった。木材の破片や大小様々な石、陶器の破片が無造作に散らばり、裸足でなどとても歩けた環境ではないのに、靴を履けぬ民も少なくない。
 歩けば足を切り、怪我の元を拾えば手を切り。
 働いて腹が空いても充分な物は補給出来ず、疲れた体を休めるにも土の地面に敷いた毛布に包まるのが精一杯、雨が降れば木陰に皆が身を寄せ合って休んでいた。
 頑張るのもそろそろ原因かというこの時に、冒険者達が現れたのも、ある意味ではアベルの計画通り。
 拠点となる場所に掲げられた『暁の翼』の旗は、ただそれだけで彼らが支援のために訪れたのだという事を無数の人々に伝え、民を集めた。
「乾餅は一人三個までだ、間違うなよ」
『よー♪』
 オラースの語尾を真似る陽霊、二人が声を上げる周りには子供を中心とした人々が集まる。
 最初は一人一〇個までと計算していたが、それでは一日どころか半分の民の腹も満たしてやれない事に気付き、個々の数を減らしたオラースだったが、それでももう半分以上が消費されている。
「おら其処のガキ、三個までだと言ったろ」
「母ちゃんの分だよ!」
「おじちゃん、オレまだ二つしか貰ってない!」
「誰がオジンだ小僧」
 冷たく言い放つオラースを「まぁまぁ」と宥めるモディリヤーノ、しかし彼も。
「おじさん、早くちょうだい!」と手を出されて思わず固まる。
 よく考えたら見た目はともかく、年齢は自分の方が上だ。
「そ、そうか‥‥僕もおじさんなんだね‥‥」
「おっちゃん、早くー」
 落ち込むモディリヤーノにも子供達は容赦ない。
 そんな遣り取りを眺めていて、裸足の民には無理だからと、篭を背負って危険物撤去に精を出していた日向は思い出したように呟く。
「言われてみりゃうちの男衆、平均年齢高いよな」
 アリルもソードも三十代。日向やアベルを含んでも最年少のオラースがおじさん呼ばわりされては地味にショックが大きい。
「ふむ、つまりあのくらいの歳の子供が居ても、誰もおかしくないわけだ」
「――」
「ん?」
 アルジャンと日向から、それをあんたが言うのかという目で見られたアベルは小首を傾げ。
「何かおかしな事を言ったか? ――ああ、天界ではまだ早過ぎる年齢だったか?」
「いや、早いって事は無いが‥‥」
 日向はコホンと咳払い一つ。
 ぽいと木屑を篭に放るアベルに、アルジャンは息を吐いた。
「そう言う卿は、跡継ぎを早くと周りから口うるさく言われているのではないのか?」
「まあな」
 応じる彼の声音は非常に軽い。だからアルジャンは眉を寄せる。
「‥‥今回、来られなかった彼女だが」
「ああ、別の依頼に参加したら間に合わなかった、だったか。まったく笑わせてくれる」
 くすくすと喉を鳴らす彼の言葉は、決して皮肉ではなく。
「一箇所に留め置かれて満足する娘でもないだろう、行きたいところに行けばいいさ」
 ただし。
「その代わり次に会った時は覚悟しろと伝えておいてくれ」
 にやりと笑むアベルに、どこのオヤジだと呆れる日向。アルジャンは相手の言葉を反芻した後で、ようやく得心した。
「‥‥承知した、必ずそのように伝えよう」
 静かな応えには確かな安堵が滲んでいた。
 そんな雑談を交えながら、道の安全を確保していく冒険者達は辺りを観察する事も怠らない。
 道に民がいれば欠かさずに声を掛ける。
 怪我をしたと聞けば手当てをし、腹が減ったと聞けば拠点でオラース達が乾餅を配給していると知らせる。


「何もかもが不足しているわ」
 その夜、一堂に会した冒険者達はそれぞれに見てきたリグリーンの町を語る。
「持ってきたテントは全て組み立て、毛布や寝袋を配給したけれどとても全員には行き届かなかったし、食料は幸いと言うべきか‥‥この季節だもの、森に入れば木の実や果実が採れるけれど、そのうちに森の食べ物が尽きれば、今度は森の獣達が人を襲うようになってしまうわ」
「それは避けないと‥‥」
 紅子の報告にモディリヤーノが言う。
「僕は、明日から家屋の修繕に全力を尽くすよ。一日も早く、人々が自分の家に帰って休めるようにしてあげたいんだ」
「同感だ」
 挙手するのはアルジャン。
「もし借りられるのであればノルンを一機借り受けたい」
「最初からそのつもりだ。な、大将」
 アリルがアベルの肩を叩き、彼も「無論だ」と即答。
「ただ、機体数は少ない。皆で順番に稼動させてくれ」
「ああ」
 そうしてゴーレムの割り振りを騎士達が話し合えば、此方は食料に関しての話し合い。
「炊き出しをしたらどうでしょう?」
 拳を握って、レイン。
「みんなで一緒に料理をして、美味しい物を食べられたら気持ちも落ち着くと思うんです」
「そうね」
 頷くのは紅子。
「温かい料理を食べれば元気も出ると思うし」
「問題は食材、か」
 アベルが言えば、それまで馬を駆り首都から離れた土地の様子を観察する他、ウィルやセレと比べた時の物価なども調べて来たソードが口を切った。
「壊滅的な被害を被ったのは、どうやら王都だけらしい。外に点在している村々は男衆を失って細々とそれまでの生活を続けているか、完全に人がいなくなってしまった廃村が主。首都から離れるほどに環境は安定していた」
「そうなの?」
 聞き返すモディリヤーノには頷く事で応じる。
 それは、襲うよう指示された村の民をセレに逃した騎士達がいたように、一人でも多くの民を生かそうと頭を働かせた者達がいた証。百を救う事が出来ないのなら五十を生かすために五十の犠牲を選んだ、その覚悟がいま新しい犠牲を出している事を彼らはまだ知らなかったが、少なくとも、外に生き永らえた土地があるのは事実。
「近隣の村に声を掛けて回れば、食材は定期的に運び込まれるようになるだろう。その費用はこれまでより若干高めになるかもしれないが、村の方にも事情があるしな」
 ただ、問題は。
「村の者達が王都で何があったのかを正確に把握していない点だ」
「把握していない?」
 眉を顰めたアリルにソードはやはり頷く。
「この国が魔物の手に堕ちようとしていた事さえ、な」
 言われてレインが思い出すのはセレの地で感じた事。国の人々はカオスの魔物を脅威と認識してはいたけれど、それもモンスターに対してのものと変わらず、魔物が実際にはどういうもので、何を目的としているのか――冒険者にすら定かでない事を人々が知る由は無かった。
「それだけじゃない。王が決まらずに揉めている事で民をどれほど苦しめているかと懸念していたが‥‥王都を離れるほどに、民にとっての王は居ても居なくても変らないらしい」
「それって‥‥?」
「グシタ王がまともな政をしていたとは思えんしな」
 ぽつりと言うアベルに、ソードは難しい顔。
「何と表現したら良いのか‥‥、民にとって王という存在は遠すぎて、現実味が無さ過ぎるというか‥‥民が望むのは平和な暮らしだ」
 そして未来に向かう為に取り合える『手』。
「それは、王に限らない印象を受けたんだ」
「玉座でふんぞり返っているだけの王なら確かに要らんだろうよ」
 苦笑交じりに言い切るアベルは、そこで二度、手を叩く。
「ま、王に関してはあちらの皆に任せればいいさ。皆の役目は心身共に疲労している民の慰労だ、くれぐれも頼む」
 幸い、各地の復興を妨げるような事件も起きていない。悪い連中は、今は何処を襲っても大した実入りが無いのを判っているというのもあるだろうし、魔物の気配は冒険者達が連れたどの精霊も感じ取らない。いま、全ての魔物が地獄へと集結していたからだ。‥‥理由はどうあれ、いまこの瞬間に民の希望を潰えさせようという魔手が伸びて来ないのは、喜ぶべき事だったろう。





 そうして冒険者達の支援活動は続く。
「心配するなら、これは魔法の弓だ。怪我人を癒す力を持っている」
 オラースにそうは言われても矢の先を向けられれば一般市民が怯えないはずもなく、聞こえて来る悲鳴には冒険者達もびっくり。
「‥‥あの治療法、止めてもらった方が良いんじゃ‥‥」
「そうね」
 レインが言い、紅子が頷く。
 そんな二人の手にはソードが買い付けてきた食材を調理するための包丁が握られていた。
 一方、調理の腕はプロ級ながらもゴーレムを起動出来る貴重な人材という事で復興作業に従事するアルジャンは、モディリヤーノと共に家屋の修繕に当たっていた。
 今回、彼らが復興作業を手伝える期間はウィルからの移動時間を除けば約一週間ほどだ。そんな短期間で出来る事と言ったら限られる。
 あれもやりたい、これもしたい。
 民の生活の改善、気持ちの安定化のために話し合われたアイディアはたくさんあったが、全部を実行しようとしたなら全部が中途半端に終わるだけ。この期間で何かを変えたいと思うなら一点に集中する事も策の内だったろう。
 ただ、隣国から支援が来たという事実に対して民が感じた心強さは確かだ。
「ご飯が出来ましたよー!」
「さぁ皆で頂きましょう」
 女性二人の声に人々が集まり、芳しい匂いが彼らの手によって広く風に運ばれていき、川向こうで作業していた騎士達をも呼び集めた。
「そういえば石化した魔物達はいま何処に?」
 モディリヤーノの問い掛けにはリグの騎士が応じる。
「ほとんどは王城前の広場に集めてありますが全てを回収するにはまだしばらく掛かるでしょう‥‥何せ、その量が半端ではありませんから」
「数箇所でかなりの数を石化させたものな」
 言い合う騎士達へ、それらは破壊しないのかと尋ねたのはアルジャン。
「破壊する事に危険がないのならリグの方々にも破壊を手伝ってもらう事は出来ないのかな。自分達を苦しめた魔物だもの、一緒に粉砕することで、少しでも気が晴れると思うんだけど‥‥」
「いえ、それは止めた方が良いでしょう」
 モディリヤーノの発案にリグの騎士が苦い顔をする。
「民にそのような事をさせれば、憎悪や、悲しみの感情が肥大する事も考えられます‥‥これから未来に向かおうと励んでいる民に「破壊」を促す事は、彼らの未来に向かう心を挫く事にもなりかねません」
「うむ。やるならば騎士と、僕達冒険者で行なうべきだろうな」
「そう‥‥だね」
 アルジャンにも言われて納得するモディリヤーノは、ならば彼らの分も己の手で果たそうと決意を新にする。
 その間にも民との会話を大切にするのはアリル。
「ほら、しっかり食べて力付けないとな。そうでなけりゃ、せっかくの綺麗な笑顔も痛々しいままだ」
「そ、そんな‥‥っ」
 淡い茶髪が印象的な美少女は、アリルの言葉に頬を赤く染めてまんざらでも無い様子。素直に温かなスープが注がれた椀を手にとり、嬉しそうに食する。
「うわぁ‥‥お野菜なんて、いつ以来だろう‥‥」
「美味いか?」
「はい」
 そうして少女が笑顔を覗かせるから、アリルも安堵する。
「頑張れよ」
「はい!」
 励まされた少女の応えにアリルも嬉しそうに笑むと、自分の席に戻った。その隣にはアベルの姿。
「まったく美人には優しいな」
「そりゃあ、な。男たるもの美女に声を掛けないのは失礼ってもんだ」
 アリルの言葉にアベルは苦笑う。
「だが、それをうちの白騎士にまで当てはめるのは止めてもらいたいね」
 思い掛けないところに飛んだ話題にアリルは目を瞬かせ、飛ばした本人は意味深に笑む。
「聞いた話じゃ恋人らしき女性が三人いるって? そこにアイリーンを加えようというなら黙っているわけにはいかないんだよ。これでもセレの諸々の人材に関しては俺の管轄だからな。貴重な白騎士、白魔法の使い手を弄ばれては困る。――本気でないなら今の内に止めてもらいたい」
 真っ直ぐに射抜くようなアベルの視線は、試すのにも似ていて。
 そんな彼に、アリルが出す答えは――?


「あら、これは‥‥」
 雑炊の中に入っていた草花にリグの民が驚いたように声を上げると、すぐに応じたのはレイン。
「あ、気付きましたか?」
「これって食べられるの?」
「はい。それにお薬にもなる花なので、毎日の食材が偏ったりする時なんかは一緒に食べると身体に良いんですよ?」
 植物に関しては人一倍の知識を持つ彼女の言葉に人々は感心しきり。
「そうなの、それは良い事を聞いたわ」
「他にも食べられる草や花は?」
 上がる問い掛けに、レインは今日の料理に混ぜた実際の草花を用意して説明。途中で「それも食べられるのか」と口を挟むのはアルジャンだ。
「はい、お料理に彩を添えるのにも良いですよね」
「うむ。それに、とても美味しいよ」
「――‥‥ぁ‥‥」
 頷きながら続けられた言葉に、途端にレインの頬が赤く染まる。
「美味しい、ですか? でもアルジャンさんが作ってくださる料理の方がもっと美味しいですしっ、それに紅子さんが作られたスープの方がもっともっと‥‥っ」
「あら、本当に美味しいわよ?」
「ま、悪くないな」
 何故か一生懸命に謙遜するレインに、紅子と日向も一言添えて。
「俺はこっちの方が好きだが」と日向が示すのはもちろん紅子が作った料理だからレインは気恥ずかしくなる。
「えぇえぇそうですよねっ、日向さんには紅子さんのが一番ですよねっ」
「愛情は何よりの調味料、か。だが、僕はこの雑炊を本当に美味しいと思うよ」
「あぅあぅ‥‥っ、もう恥ずかしい事は言わないで下さい‥‥っ」
 顔を真っ赤にして撃沈するレインにアルジャンが優しく笑い掛け、日向は紅子と二人で微笑う。
 そんな四人の雰囲気を見て、もしかして二人は付き合っているのかと興味を持って話し掛けてくる少女達の瞳は心なしか輝いていた。こういった話題が心を高揚させるのは万国共通? 話題には花が咲き、いつになく陽気な笑い声が広がる。
「美味い食事は活力の元。今夜は僕が腕を振るおう」
「なら今夜の食事はアルジャンさんに任せて、私達は踊りの練習でもどうかしら?」
「踊り?」
 紅子の提案に日向が聞き返せば「慰労の宴よ」と意味深な応え。
「得意、不得意なんか関係なく皆で踊るのはどうかしら? リグの国の、有名で簡単な踊りがあるのなら教えてもらいたいわ」
「だったらあれがあるよ!」
「今夜は皆で踊るのね?」
 場は盛り上がり、ならばその一時のために食事の後は復興作業を頑張ろう、と。
 努力は楽しい夜のため。
 未来のため、そう思える事が生きる彼らの活力になれるから冒険者達は諦めない。この笑顔を護りたいと、心から願うのだ。


 ――だが、一方で。
「‥‥」
 その輪に入りきれずにいたのは、オラースだった。





 その日、オラースは単身とある場所に来ていた。
 リグの騎士団長ガラから教えられたそこは、あの日、地下牢に侵入した彼らが救えなかった人々の、遺族。
 彼らを人質に冒険者達と戦わざるを得なかった騎士達が寝起きしている宿舎だ。
(「此処に来たからって‥‥俺に何が出来る‥‥どの面下げて会えばいいやら‥‥」)
 自分達の浅慮で失ってしまった命が、遺された者達をどれほど悲しませ、絶望に追いやってしまったのかは想像に難くない。
 しかし。
(「俺個人で償いをして、気分を軽くしたいがために会うのか‥‥」)
 そんな自己満足で、果たして相手に誠意が伝わるだろうか。
 かえって気を悪くさせるのではないだろうか‥‥?
「‥‥其処にいるのはオラース殿、か?」
「!」
 不意に背後から声を掛けられ、驚いて振り返ればリグの騎士が一人。
「どうしたのです、貴方の来訪ならば誰も拒みはしないでしょう。どうぞ中へ入ってください」
 死淵の王をリグの国から去らせた冒険者は、彼らにとっては恩人も同然なのだから遠慮は要らないと騎士は言うが、オラースがそれを素直に受け入れる事は出来なかった。
「いや、俺は‥‥」
「何を遠慮されるのです」
「遠慮じゃない」
「‥‥?」
 きっぱりと言い放つ彼に、眉を顰める騎士。そんな相手にオラースは口を切る。
「‥‥ひとつ、聞きたい。地下牢に人質を取られていた騎士達は‥‥どうしている」
「――」
 その問い掛けに、騎士はようやく合点がいったようだ。
 目を二度瞬かせた後は、深呼吸を一つ。
「‥‥彼らは家族を失くしました。両親や、兄弟姉妹、妻や、子供達‥‥大切な家族を、一度に‥‥」
 だがそれは同時に、魔物に囚われた家族を守る為に魔物の言いなりになり、護るべき数多の民を犠牲にした。家族だけは救いたいという自分勝手な思考が、より多くの民を不幸にしてしまったと、騎士は語った。
「ですが、後悔するのは後だと、それを教えてくれたのは貴方達だ」
「教えた‥‥?」
「今すべきことは、不幸にしてしまった民が一日も早く穏やかな日々を取り戻せるよう尽力すること‥‥そうですよね?」
 ましてや死淵の王はまだ生きているのだ。
 魔物を本当の意味で討つまでは、誰一人、止まるわけにはいかないのである。
「皆、苦しんでいます‥‥あの日々を思い返して精神を病み、今になって死んでいく仲間もいますが‥‥それでも、私達はまだ剣を置かない」
 真っ直ぐな相手の視線を見返して、オラースは歯を食いしばった。
 自分は、何を。
 リグの騎士は――民は、こんなにも強いのに。
「‥‥邪魔したな」
「お帰りになるのですか?」
 問い掛けには背中で応じ、オラースは告げる。
「今度は地獄で会おうぜ。死淵の王を討つ時は、俺達も仲間だ」
「――」
 リグの騎士は目を見開き、颯爽と去り行くオラースの背を見送り。
 そうして、微笑む。
「ええ‥‥今度こそ、死淵の王を」
 本当の結末は、その先にあるものだから――‥‥。