今日のお仕事、力仕事

■ショートシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2009年09月13日

●オープニング

 ●のどかな午後

 かぽーん‥‥と。
 不思議ながらも心落ち着く音色がどこからともなく聞こえてきそうな、のどかな午後。
 ギルド職員のアスティ・タイラーは同僚とハーブティーを楽しみながら近頃の依頼傾向を語らっていた。地獄での戦が落ち着いてからこちら、カオスの魔物が関連していると見られる依頼は激減し、その代わりのように人間相手の頼み事が増えてきた。盗賊関連、迷い人、失くした物品や人探し、時にはお祭の参加を呼びかけたり‥‥と、それは某天界女子高生が主だが。
「一時期に比べたら、随分と平和になりましたよねー」
「うんうん」
 例えば命に関るような危険でも、相手が人であれば魔物と関るよりもよほど数多くの手が打てるし、被害者自身にも対応の仕様があるだろう。
「ずっとこんな日が続けば良いですね」
「本当に‥‥」
 アスティが同意の言葉を続けかけた、その時。
「すまん、ちょっと人手を貸して欲しいんだが」
 四十代前半と見られる一人の男が受付にやって来た。
「はい、ご足労様です。冒険者達への依頼ですか?」
「ああそうだ、ちょっと面倒な依頼なんだが手を貸して貰いたい」
「承知しました、では依頼の詳細をお願いします」
 慣れた動作で席に着き、依頼人に詳細を尋ねるアスティに、男は素直に語り始める。曰く、彼の村で先日行なわれた水霊祭。村の広場で火を焚き、歌えや踊れやと賑わったまでは良かったが、子供の一人が火を面白がって悪戯したために納屋が一つ燃えてしまったと言うのだ。
「そのお子さんは大丈夫だったんですか!?」
 驚くアスティに、男は軽く肩を竦める。
「ああ、全然問題ないよ」
 火遊びもすぐに飽きたらしく、子供は親元に戻って来た。納屋が燃えている事に気付いたのはそれからしばらくの後だった彼は言う。勿論、その子は後で両親からこっぴどく叱られたそうだ。
「納屋もしばらく放ったらかしにしていたもんだから、損害って言うほどの損害も出なかったよ。何せ昔使っていた農具や、いつか使うかもと思って取っておいた古着なんかを押し込んでいたもんだからな」
「は、はぁ‥‥」
「まぁそんなんでさ。焼け落ちた納屋をそのままにしておくのも見た目悪いし、この際だから撤去して、新しい納屋を作ろうと考えたんだが‥‥もうすぐ秋祭りだろう。その後は収穫祭だ」
「ええ」
「村の連中、みんな自分の畑の仕事で忙しくて手が回らないんだよ」
「でしょうね‥‥、それで、冒険者に協力を?」
「ああ。‥‥こんな依頼でも引き受けてくれるだろうか?」
「勿論です」
 遠慮がちに問うてくる男へ、アスティは微笑む。
「きっと貴方の力になろうという冒険者達が集まってくれますよ」

 それが、冒険者ギルドだから。


●今回の参加者

 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec6278 モディリヤーノ・アルシャス(41歳・♂・ウィザード・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ギエーリ・タンデ(ec4600

●リプレイ本文


「こんな平和な依頼は久し振りね」
 青空に向かって腕を伸ばし、しかし気を抜くわけにはいかないと気持ちを高める加藤瑠璃(eb4288)がいる一方、
「頑張りましょうね〜」
「うん、お役に立ちたいと思うよ」
 倉城響(ea1466)とモディリヤーノ・アルシャス(ec6278)がのんびりと語らう。
 そして此方はオサナナジミーズ。
「子供の頃ってつい火遊びしちゃうものね。被害が無くて良かったわねー」
 言うラマーデ・エムイ(ec1984)に、見送りに来ていたギエーリ・タンデが意味深な視線を向けると、それに気付いたミーティア・サラト(ec5004)が「あら?」と疑問符。
「水霊祭で火を焚くなんて珍しいと思っていたのだけれど、ラマちゃんにもそんな経験が?」
「いえいえ、ラマーデお嬢さんのあれは悪戯と言いましょうか‥‥火遊びで火事と聞くとついつい思い出してしまいますよ」
「って、いくらあたしだってもうそんなことしないわよ!? 昔だってホンのちょっと庭の木を燃やしただけだし!」
「幸いにも庭の樹、一本で消し止めたのですよ」
 あの時は本当に大変でしたと大仰な溜息と共に語るギエーリに、ばつの悪そうな顔のラマーデ。
 ミーティアがくすくすと笑う。
「ラマちゃん、昔はそんなことをしてたのね。もう悪戯しちゃ駄目よ?」
「もうしないって言っているのにー」
「当然ですよ、もう五〇年も経っているのですから」
 ごじゅうねん‥‥話を聞いていたモディリヤーノはエルフの寿命の長さに感心してしまう。だが、そうとばかりも言っていられず、ただでさえ短い依頼期間。時間は有意義に使うためにもそろそろ現地へ向けて出発しなければならない。
「でも‥‥さすがにこれじゃあ人手が不足しているかな‥‥」
 心配そうに言うモディリヤーノに響も同意。
「確かにこれでは、少々心許ないですね〜」
「私が頑張ると言っても限りがあるし」
 瑠璃も言葉を重ねる。
 と、そんな時にラマーデの視界を横切ったのは人間の友人エリーシャ・メロウ(eb4333)。
「人手‥‥」
 ぽつりと呟いた彼女は、直後に両腕を大きく振りながらギルドの依頼掲示板に向かう彼女を呼び止めた。
「エリりん! いま暇?」
「はい?」
 唐突な誘いに目を瞬かせた彼女は、周りに集う冒険者仲間達にまずは挨拶。
「‥‥それで、どういったお話ですかラマーデ殿」
「実はねー」
 かくかくしかじかで人手が必要なのだと説明すれば、エリーシャも得心する。
「納屋再建の手伝い、ですか」
「そ。いま暇?」
 先刻の質問を繰り返す友人に複雑な表情を浮かべるエリーシャ。
「確かに手は空いていますが、私はそういった事には疎く‥‥」
 渋れば横からモディリヤーノ。
「僕達も決して明るいわけではないけれど、設計なんかはラマーデ殿が請け負ってくれると言うし」
「私も担当するのは主に力仕事ですしね〜」
「ええ」
 響や瑠璃の応え。
「だから、ね! エリりん」
 トドメとばかりにラマーデに名を呼ばれれば、これまでの経験上からも彼女に敵うはずがなく。
「‥‥承知しました。役に立てるかは判りませんが、助力しましょう」
「そうこなくっちゃ♪」
 諦めて同行することを決めたエリーシャに、笑むラマーデ。
「ありがとう、エリーシャ殿」
「一緒に頑張りましょうね」
 モディリヤーノや響からも歓迎を受け、こうして六名の冒険者がギエーリに見送られながら依頼主の村へと移動を開始するのだった。





 村に到着した冒険者達が最初にした事と言えば、自然と村の人々との交流。
「子供さんや皆さんに怪我はなかったんですね。良かったです」
 モディリヤーノの安堵の言葉に人々は「ありがとう」と笑顔だ。
「ギルドでもお話しましたが燃えた納屋にもこれといった貴重品があったわけではありませんからね。実際のところ、被害というような被害は無かったんですよ」
「じゃ、早速だけれどその現場を見せてもらってもいいかしらー?」
 ラマーデが声を掛けると、ギルドにも来ていた依頼主が前に出て冒険者達を現場へ案内すると言う。
 そうして連れて行かれたのは、村のはずれ。
 民家から少し離れ、畑に近い平地だった。ただ、どうにも異様に目立つ、焼け落ちた納屋。確かにこれでは見目が悪い。ほとんど炭になっているのは元は柱だったのか、壁板だったのか。その下敷きになって散乱しているのは錆びた鎌や農具など、これらも黒く焼けている。
「あらあらまあまあ、再利用出来そうな物も、無きにしも非ずといった感じなのね?」
「ああ。そこのところも任せてしまって良いかな?」
「ええ。片付けと納屋の再建、私達はそのために来たのだもの」
 瑠璃が迷わず言い切ると、依頼主は「ありがとう」と繰り返しでその場を冒険者達に任せた。
「新しい納屋を建てるための木材や工具なんかはあそこに準備してあるから使ってくれ。足りなければまた言ってくれれば良いし、余った分はまた次の機会に使うから納屋の傍に集めておいてくれると助かるよ」
「承知しました」
「では、よろしく頼みます」
 エリーシャが応じると、依頼主は頭を下げてからその場を立ち去った。村の人々には来月の収穫祭に向けた準備が山のようにあり、今時期は本当に忙しいのだ。
「さて、と。まずは何から始めるかだけれど」
 納屋のあった其処を見渡して言う瑠璃に、コホンと咳を一つするのはラマーデ。
「建物の図面引きならあたしにお任せ☆ 簡単なものでも、ただ木材を組めば建てられるってわけじゃないし、せっかくなら用意してくれた材料を効率良く使って、ちょっとやそっとの地震や嵐じゃ壊れない、丈夫な納屋にするわ!」
 元建築家の血が騒ぐと怪しい笑いを漏らすラマーデに、くすりと笑うのはモディリヤーノ。
「じゃあ、ラマーデ殿が設計をしてくれている間に僕達は焼け跡の片付けを終わらせようか」
「そうですね」
 響が言い、エリーシャも。
「一度引き受けた以上は全力を尽くします。技がない分は体を動かすことで補いましょう」
 こうして、冒険者達のお仕事は始まった。





 作業中に皆が手を怪我しないよう慮った響が、人数分の手袋を用意して。
 重い荷物でも量を纏めて運び出せるよう大八車を準備し。
 ドヴェルグアックスやハンマーを用意した瑠璃は魔法の絨毯を。力仕事で全力をと言い切ったエリーシャも愛馬に廃材運びの協力を頼み、まずは納屋の解体からだ。
「運び出し易いように最初はバラバラにしちゃいましょう」
「そうね。なら、まずは焼け残りの木材は、もう一度建材に出来るものと、建材は無理でも何らかの形で再利用出来るものと、もう本当にダメなものとに分けましょうね」
 こちらも愛馬のころろや、友人の愛馬にも運ぶのを手伝ってねと声を掛けるミーティアが言う。
「なら、僕が焼け跡に入って指示を出すから、ミーティア殿の言われた感じの分別でそれぞれの集める場所に運んでもらえるかな」
「承知しました」
 モディリヤーノの提案にエリーシャが頷いた。
 それからは黙々と作業、作業、作業。
「この道具はどのように使われるのですか?」
「これはね‥‥」
 時折、焼け跡から掘り出した鉄具を興味深そうに響が眺めていると、それらとは縁の深いミーティアが丁寧に説明した。
 それから焼け具合などを目視で判断し、此処で修繕出来る物はそのように。鍛冶場でなければどうしようもない物は持ち帰る事にしてまた別の場所に保管だ。
「大きめの柱が動くよー」
 モディリヤーノが声を上げると、他の面々は自分の周り、足元を注意する。
 彼とエリーシャが真っ黒こげになった柱の端と端を持ち上げてゆっくりと移動する度、それと接触していた物品がぼろぼろと落ちていく。中には切っ先の尖った農具や針金なども乱雑に密集していて、注意しなければ負傷しかねない。
 時には柱を持ち上げた二人から緊迫した声が上がる事も。
「あっ」
 気付いた時には柱が真ん中から折れて真っ黒な粉塵が舞い上がる。
「結構真剣に焼けたのね」
「やっぱり発火地点に近ければ近いほど、燃え方もひどいよね。あっちには再利用出来そうな木も多くあったけれど、こちらはほとんど無理だもの」
「確かに」
 瑠璃が誇りっぽくなった顔を手の甲で拭えば、それが顔に付いた煤を伸ばして顔に広がり、既に顔の半分が黒くなっているモディリヤーノとエリーシャが頷き合う。
「――ですが、もう少しですね」
 無惨な焼け跡だった其処は、時間こそ掛かれど確実に平坦な地面を彼女達の視界に広げていた。





「この辺りって雪は降るのー?」
 ラマーデの質問に、村の子供は「うん」と頷く。
「でも、ほんのちょこっとだよ?」
「足跡付けて遊んでいたら、なくなっちゃうくらい」
「なるほどねー」
 新たな情報を得て、また一つ設計図が完成に近付く。
「気温の寒暖で木材は膨張したりするし、その辺りも考慮しなければならないから、設計図を引くのも大変だよね」
「でも楽しいわよー」
 今はゴーレム工房勤めの彼女だけれど、その前は建築家だったのだ。懐かしい血が騒ぐとでも言おうか、こういう仕事は好きだ。
「見た目よりも、丈夫さと、建築作業のし易さを重視しているのよ!」
 そういった作業には不慣れな者が多い今回の仲間のために考慮する彼女へ、齧った程度ではあるものの木工知識のあるモディリヤーノは静かに微笑む。
「なに?」
「ううん、何でもないよ」
 聞いてくるラマーデにくすりと笑って。
 誤魔化すように言葉を繋ぐ。
「木材に余裕があれば納屋の中に簡単な棚も作成したいな」
「あ、やっぱりそう思うわよねー」
 しかし用意された木材を見たところ、どう割り振っても四隅の柱と壁板、屋根の分しかない。依頼主は僅か5日間という日程も鑑みて、本当にシンプルなもので良いと言う。
 それを聞いていて、エリーシャが小首を傾げる。
「材料が足りなければ斧で切って来ても‥‥勿論、この村の方々から許可を頂いてですが」
「それじゃダメよエリりん」
 伐採したばかりの木では建材にならないと聞いて驚くエリーシャ。
「そう、なのですか‥‥」
 そんな彼女の反応が愛らしくて、部屋には笑い声が広がった。





 二日目、三日目。
 作業は順調に進む。
 
「壁の漆喰なんかは肥料や別の用途で使えそうですしね」と響がそれらを麻袋に入れて村人に渡せば、彼らはこれをとても喜び。
「危ないからあまり近付いてはダメだよ?」
 日に日に出来上がっていく納屋の姿を興味津々の体で眺めている子供達へモディリヤーノが注意を促す。
「さぁ次は十七番を合わせるわよー」
 ラマーデの指示に動くのは瑠璃とエリーシャ。
「「せぇの!」」
 呼吸を合わせて壁板を持ち上げる。
「四番の壁だよ!」
 モディリヤーノが上げた数字は壁の場所を示すもの。そこはもう瑠璃の身長で言うなら首まで壁が出来上がっていて。
「持ち上げます」
「そぉ、れ!」
 二人の間に入った響と三人、力を合わせて持ち上げた。
「そのまま押さえててねー」
 ラマーデが組み立てる順番が判り易いようにと書き入れた、同じ数字同士を重ね合わせた場所を、魔法の絨毯に乗ったラマーデとミーティアが木槌を片手に釘を打ち込んでいく。
「くっ‥‥」
 背丈が足りなくて、伸ばした腕が悲鳴を上げそうになりながらも全員の協力で一箇所ずつ形になる。
「うん、完璧だよ。まっすぐだ」
 遠目に見ていたモディリヤーノが大きく頷いて、女性陣は一息。
「さぁ、次は十八番よー」
 少しは休ませてと思わないでもない女性陣だったが、休憩は二十番まで終えてからが約束だ。
「はい、十八番ですね」
 小柄な響が笑顔で言い、エリーシャが深呼吸一つ。
「やるわよ」
 瑠璃が片手で皆を促す。
 これくらいでヘコたれてなんか、いられない。





 約束の二十枚目を終わらせて一息を付く冒険者達。
 大分陽射しは弱まったとはいえ、これだけ動けば汗をかく。脱水を心配したエリーシャが持参した魔法の冷水を皆で飲みながら、自分達の手で完成されようとしている小屋を見つめた。
「さすがあたし、完璧な設計☆」
 ラマーデが言えばミーティアが微笑み、エリーシャが苦笑混じりの息を吐く。
「出来て来ましたねー」
 響の言葉は、皆の言葉。
「あともう少しだね」
「ええ」
 冒険者達は顔を見合わせて笑った。

「さぁ、もう一働きよ♪」
 最後の日に見せてくれるだろう、自分達の汗と絆の結晶を目にする為に――。