【収穫祭】皆で囲め、秋の味覚!
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■ショートシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2009年10月21日
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●オープニング
● セレの地 収穫の日々
天高く馬肥ゆる秋とは異世界の先人も巧い事を言ったもので、アトランティスの秋空も透き通るような輝きが夏の頃よりもずっと高く、広く、涼やかな風と共に世界を繋ぎ、まるで遠くの賑わいまでも伝えてくるようだ。――否、正確には各地が似たような賑わいを見せているからこそ、世界が一つに繋がっているのだということを強く感じられるのかもしれない。
十月、秋。
それは、収穫の季節だ。
蒔いた種の一つ一つが
芽吹く春 育つ夏
シーハリオンの丘 竜達に見守られるセレの地で
風精霊の優しさ
水精霊の潤い
火精霊の力強さ
地精霊の無償の愛
陽精霊の恵を
月精霊の御許で感謝しよう
蒔いた種の一つ一つが
芽吹く春 育つ夏
眠りの冬が来る前に
収穫の秋
豊穣の秋
さあ 祝おう
さあ 祝おう
セレの農村。鎌を手に稲を刈る女達が弾むような歌声を披露する。
真っ青な空の下、収穫されるのは稲や小麦、野菜など例年通りの食材はもとより、今年はウィルの冒険者達が結成した『暁の翼』がその名を冠するより以前に教えてくれた蕎麦の実の収穫も行なわれていた。これらを一度は村の蔵に保管し、収穫を終えた段階で量を把握。一定量を税として国に納めれば、後は人々が長い冬に備えるだけ――だが、その前に行なわれる大切な行事。
それが一年の実りを感謝して行なわれる収穫祭である。
「今年の稲の出来はどうだ?」
「おかげさまで上々ですよ、国王様にもご安心下さいとお伝えくださいませ」
ヨウテイ領の領主にして伯爵位にあるアベル・クトシュナスは、三人の部下と月姫を伴い、自分の領地を見て回っていた。収穫量はほぼ例年通り。カオスの魔物による争いのせいで悪影響が及んでいるのではと懸念していたのだが、一先ずは杞憂で済んだようで、だからこそ今年の収穫祭が楽しみだ。
新たな仲間も加わる事であるし。
陽精霊の恵を
月精霊の御許で感謝しよう
蒔いた種の一つ一つが
芽吹く春 育つ夏
眠りの冬が来る前に
収穫の秋
豊穣の秋
さあ 祝おう
さあ 祝おう
『‥‥あの歌は‥‥?』
月姫が、農夫達の歌声に小首を傾げる。
初めて聞く詩だった。
応じたのは村の女。
「ええ、今年の収穫祭で村の娘達が踊るために作ったんですよ。今年は月姫様もご一緒です。このように私達と近しくお出で下さる精霊様は初めてですから、村の者達も嬉しくて、はしゃいでおります」
『まあ‥‥』
「お祭にも、是非お出で下さいませね?」
『ええ‥‥ええ、勿論です』
セレネが嬉しくて表情を綻ばせれば、村の者達の間にも、とても嬉しそうな笑顔が広がった。
● 月姫セレネの願い
その夜、アベルの部屋にそっと姿を現した月姫があまりに恐縮そうだったから、アベルは苦笑と共に自ら声を掛けた。
「セレネ、男の部屋を訪ねるならば正面から堂々とお入り下さい。そのような顔をされては些か誤解が生じますよ」
『‥‥? 誤解、ですの?』
きょとんと小首を傾げる月精霊に、アベルはやはり苦笑った。彼女相手に今のような冗談は難し過ぎたようだ。
「いえ、何でもありません。それよりどうしました?」
多少強引かとは思ったが話題を変えれば、月姫は傍に近付いてくる。
『‥‥あの、私、アベルにお聞きしたいのです‥‥今日の村で近々行なわれるという収穫祭‥‥どのような事をするのです?』
「どのような‥‥と改めて聞かれると説明が難しいですが、収穫祭は、竜と精霊達の加護のもとで育った食材を皆で美味しく頂く事で感謝しようという祭ですからね。全員で「食べる」のがメインですよ。あとは例年通りの歌と踊りと」
『食べる事がメイン、ですの‥‥』
アベルの言葉を復唱したセレネは、しばし思案した後で願う。
『‥‥アベル、その収穫祭に‥‥ウィルの彼らを誘う事は出来ますか‥‥?』
「ん?」
『ご飯は、大切な方達と一緒に食べると、もっと美味しくなると聞きました‥‥』
だからこそ、せっかくの機会ならばウィルにいる大好きな彼らと一緒に。
『‥‥それはきっと‥‥大切な思い出になると思うのです‥‥』
「‥‥?」
妙にしんみりと語る月姫の言葉を、アベルは怪訝に思わないではなかったが、ウィルの彼らを呼びたいというセレネの要望を拒否する理由はない。
というよりも自分だって会いたい面々が多過ぎる。
こうして、セレのヨウテイ領で行なわれる収穫祭への招待状が、ウィルのギルドに届けられた。
● ウィルからセレへ
「アベルさんの名前もすっかりギルドに馴染んでしまったような、そうでもないような‥‥」
ギルド職員のアスティ・タイラーもまた苦笑交じりにそれを依頼掲示板に貼り付けた。
来る吉日、ヨウテイ領で開催される収穫祭。当日には迎えの船が来るらしい。
出される料理は野菜の煮込みスープに、野菜の塩茹でやこんがり焼き。
加えて天界人の手を借りて調理された「かしわ蕎麦」。
季節の野菜をふんだんに盛り込んで作られた秋の味覚を、皆さんとご一緒に♪
●リプレイ本文
●
セレの国、ヨウテイ領で行なわれる収穫祭に招かれた冒険者達は、今日ばかりはもてなされる側だと聞いてはいても、ただそれだけというのは性に合わなかったらしい。
陸奥勇人(ea3329)が友人・封魔大次郎の手を借りて作った、高さ十メートルを超えるはしごは、ただそれだけで隣国の人々を驚かせたし、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の手伝いで此方側にも顔を出していたディアッカ・ディアボロスが、今日ばかりは同族の者達が請け負っているシフール便業務を自分が代行するといえば「お客様にそんな事はっ」と顔を青くさせた。
イシュカ・エアシールド(eb3839)、ルスト・リカルム(eb4750)、物見昴(eb7871)は各々の事情も含めつつ炊き出しの手伝いに参加し、何か協力出来るかもという思いを前提に同伴した馬で荷運びを手伝ったリール・アルシャス(eb4402)らには、人々も感謝すると同時に「冒険者の皆様ったら‥‥」と苦笑する。
本人は「体を動かし、お腹が減った方が美味しくたくさん、食べられるから」と微笑んだし、ルストも同様。
「大きな祭だし、人手は多い程、助かると思うわ。こういう裏方でも楽しめる性分だから大丈夫よ」
にっこりと微笑めば村人達も頷く他無く。
「今日は姉ちゃん達がお客様なのに、ね」
不思議そうに、けれど大好きな彼らが村の人々に歓迎されている光景を嬉しそうに見ていたユアンがぽつりと零した呟きを耳にした飛天龍(eb0010)は口元に笑みを湛えて幼子の頭を撫でた。
「それが冒険者の性のようなものだからな」
そういう天龍も普段ならば炊き出しの手伝いに参加するところだが、今日はユアンと、同伴した地精霊・鈴花を楽しませるという目的に重点を置いており、それはシルバー・ストーム(ea3651)とも共通する。
「アベル卿」
「んー?」
この土地の主アベル・クトシュナスに声を掛けたシルバーは、手の中の香炉を見せると、こうこうこういう事情で風の精霊ジニールが此処に休んでいるのだが外に出しても良いだろうかと伺いたててみた。するとアベルは安易に「構わんぞ」と許可したわけだが。
「ヴィント、出て来て良いですよ」
声を掛けた直後に香炉から飛び出した巨大な雲と、人型。
アベルは思わず絶句する。
「‥‥ちょっと待て、これがあのヴィントか?」
目を瞠って問う伯爵に「ええ」とシルバー。
「アベル卿にも何度かお目に掛かっているあの子です」
はっきりと言い切る彼に、アベルは何故か悔しそうに額を押さえた。
「何て事だ‥‥あの可愛かった精霊がよりにもよってこんなむさ苦しい巨人に‥‥っ、シルバー、後悔しても遅いんだぞ!?」
いえ、別に後悔なんてしていませんしと敢えて声には出さなかったが、相手の迫力の由来が今一つ理解出来なかったシルバーは、普段あまり変化しない表情、眉間の部分に僅かな皺を刻んだ。
同時に、出現したジニールに周りの者達が困惑している声も聴こえてきて。
「ふむ‥‥、まあ俺が言ったのは冗談だが」
苦笑して、伸ばした指先はヴィントの肩に。
「風の精霊殿も、うちの祭りを楽しんで行ってくれ」
普段の彼らしい笑みを見て、シルバーもようやく彼らしい表情を取り戻すのだった。
「さぁ祭だ! 収穫祭だ!!」
賑やかしい村の男達の声が上がり、樽に動物の皮を張った、いわゆる太鼓らしきものを加工した木製の道具で叩くと、発せられる音色は胸の奥を揺さ振る。
それは、皆の胸に生じていたわくわく、どきどき感を煽り、祭を一層盛り上げるだろう。
太鼓に続いて村の女達が爪弾く竪琴、笛の音。
歌声。
セレの国、ヨウテイ領の収穫祭の幕が開く。
●
「このたびはお招き戴きまして、ありがとうございます」
祭の最中、今回セレの地へ彼らを招待した月姫セレネのもとへ足を運んだルストは、胸中にとある友人の姿を思い描きつつ一礼する。
「本来なら貴女のお世話になっている友人本人がするべき事なのですが、何かと忙しいようなので私が代わりに」
『まぁ‥‥』
セレの筆頭魔術師ジョシュア・ドースターの繋がりで何度も顔を合わせているウィザードの代わりと聞いたセレネは、とても残念そうに綺麗な顔を曇らせた。
そんな彼女を見てルストの胸中に湧き上がる感情。
「次に会った時には魔法でしばき倒していいので。私の分まで」
とても冗談とは思えない口調で語るルストに目を瞠ったセレネは、口元を覆う手の向こうでくすくすと笑みを零す。
『仲がよろしいのね、お二人は』
「‥‥付き合いだけは長いですから」
幸か不幸か、とそんな言葉は胸中でのみ呟き、最も、食べる事がメインのこの祭に大食いの彼女が居たならカオス八王の再来くらい大変な事になっていたのは明白。そういう意味ではこの場にいるのが自分で良かったと思わない事もない。
「よく考えるとカオスの魔物よりも性質が悪いのよね、あれは」
嘆息交じりの彼女の呟きにセレネは笑む。
『まぁ』と、先刻と同じ言葉の並びは、しかし今、とても楽しそうだった。
「野菜の乱切りを茹でて一度沸騰させてから火を弱めて味付け、‥‥その辺りは和食も洋食も変わらないんだな」
「料理の基本は一緒だと思いますよ?」
昴の呟きに、傍で今回のメイン料理ポトフの調理方法を彼女に教授していた女性が笑顔で頷く。
「‥‥ですが‥‥物見様がそんなに勉強熱心でいらっしゃったとは‥‥」
恐縮そうに呟くイシュカは、昴の料理の腕が自分と同じくらいだと知っていればこそ、他意無く感じた事を言う。
「‥‥どなたか、手料理を振舞って差し上げたい方が‥‥?」
「えっ」
思わず半音上がった声のトーンに、即反応を示したのは村の女性。
「あら、やだわイシュカさん。女が料理を習いたいなんて思うのはそんな時に決まっているじゃないの」
「そんな事はないでしょう?」
反論するのは、昴に料理を教えていた女性。
「女なら将来のために料理の腕を磨きたいと思うのは自然な事だと思うけれど」
「馬鹿ね。そう思うきっかけが必要だってコトよ」
「きっかけ‥‥」
それもそうかしらと小首を傾げた彼女にじっと見つめられた昴は、いやいやいやと左右に首を振ってみたり。
「ジ・アースのジャパンとウィルでは手に入る食材も、勝手も違うのでね。‥‥せっかくだから自分の料理の幅も増やしたいかなー‥‥」と。
思ってデスネ、エェ。
「へー」
村の女達、にやにや。
一方で今一つ空気を読み切れていないのがイシュカだ。
「そう、でしたか‥‥深読みしてしまったようで‥‥申し訳ありません‥‥」
昴の否定を素直に信じて詫びるイシュカは俯き、しかしすぐに顔を上げると、口元を綻ばせる。
「‥‥お手伝いをして笑顔を見るのも‥‥嬉しいですし‥‥知らない料理を学ぶのも、貴重な体験ですものね‥‥」
「ぉ、おう」
思わず頷く昴に「へー‥‥」と更に目元が緩む女達。
何だか居た堪れなくなってくる。
そんな彼女を助けようとしたわけではないだろうが、そろそろこっちの食材も皆に振舞いたいのだがと村の男達に声を掛けられて、場は調理から力仕事に移行する。
「美味しいって、言ってもらえると良いわね」
「皆で作ったんだもの、美味しいに決まってるわ!」
陽気な村人達の言葉の遣り取りに、ようやく安堵の息を吐く昴だった。
村の中央に次々と運ばれる食材が、参加者達に配られる。
ポトフやシチューは勿論、季節の食材をふんだんに使ったパンに、ジャム、菓子類も豊富に取り揃えられたが、メインは何と言ってもセレの地で本格的に栽培され始めた実から作られた蕎麦である。
セレの国の料理人達が試行錯誤して完成させた蕎麦を試食するのが、今回の目的だったようで。
「ん‥‥これは、何だかぱさぱさしているな」
「さっきは口に運ぶたびに蕎麦が切れてしまって食べ難かったが‥‥っ、全く噛み切れないと言うのも‥‥っ」
真剣に歯を動かしながら食べる事に苦戦している人の姿も少なくなく、けれど。
「皆、楽しそうだな」
セレネの傍で呟くのはリール。
『貴女も、楽しんでいますか?』
月姫の問い掛けにはほんの少し微妙な笑みを返した。
『‥‥何か心配事でも‥‥?』
「いや、そんな事は無いんだ‥‥ただ、一口に収穫祭と言っても、その土地によって全く異なるから、とても新鮮で、興味深い」
ゆっくりと、言葉を選ぶように語るリールへ、セレネは微笑んだ。
『ええ‥‥この国に来て様々な祭に参加させて頂きましたけれど‥‥私にとっても、とても興味深く』
「セレネ殿の知っている祭とは、どのようなものなんだろう?」
『私が、ですか?』
「異世界でも似た祭があると思うが」
その問いには、月姫は僅かに困ったような笑みを覗かせる。
『そう、ですね‥‥たくさんの祭があったのでしょうけれど‥‥もう、覚えておりません‥‥』
自分が自由に移動出来た「昔」は、本当に遙か昔。
この世界の起源。
それこそ、祭なんて行事が始まったか否かの頃で、その後はずっとあの壁の中だった。
言われてその事に気付いたリールは「申し訳ない」と詫び、謝られたセレネはゆっくりと左右に首を振る。
『私にとっては‥‥祭も、人と過ごす日々も、毎日が初めてに近く‥‥本当に、何もかもが新鮮で、とても楽しく、幸せに、思います』
「セレネ殿‥‥?」
彼女の声の調子が若干だが変わった事にリールは不安を覚えた。
まるでどこか遠くから見守るような。
そんな、響き。
どうしたのだろう、と。口にしようとした問いかけは直後に回りから起こった歓声の渦に巻き込まれてしまった。
「おおおおお!!」
リールが驚いて振り返ると、視線の先には勇人がいる。
高さ十メートルの梯子を、螺旋を描くようにするすると登って行く彼。
「わ‥‥っ」
『勇人‥‥大丈夫なのでしょうか‥‥っ』
リールとセレネも見守る中、勇人は梯子の最上段まで登りつめた。
「あ、絶景かな、てな」
梯子の頂上、辺りを見渡すような動作を添えて呟かれる言葉は、直後、下方へ移動する。十メートルもの高さから地上を見下ろせば、人々の何と小さいことか。
落ちたらアレだが、何とかなる。
勇人は声を張り上げた。
「人呼んで『はしご乗り』の妙技、とくとご覧あれ! ただし危険なので素人は真似禁止、俺との約束だ!」
地上から上がる声は歓声であったり「やめてー」と言うような勇人の身を案じる叫びだったり。
それらを受けながら、勇人は梯子の先端を握り腕力だけでゆっくりと体を持ち上げた。
「おおっ!」
天高く真っ直ぐに伸びる四肢。秋の空に吸い込まれるように。
「わぁあっ」
人々の見上げる空で、勇人は舞う。
体の支えを両手の平から、両手の二本指に減らし、次には片手の指へ。
「嘘でしょ!?」
思わず自分の目を覆って叫ぶ女性は、しかし周囲から悲鳴が起きない事を不思議に思い、指の間から覗き見る。そうして初めて、人々が何も無いから声を上げないのではなく、声を上げるのも忘れて魅入っているのだと知れた。
空に一番近い場所で披露される妙技。
片手で体を反転させると腕力で跳躍。
「きゃっ」
下方で悲鳴が上がると同時、両足で梯子を挟むように立った。右足踵に重心を置いてバランスを取ると、片足を最上段へ。
「よしっ」
次は何が起きるのかと息を呑んで見守る下方の人々にニッと笑むが早いか、梯子の片側に手を滑らせるようにして宙へ体を放った勇人。
観客の悲鳴は、梯子の中腹で彼が止まるまで続いた。
『勇人‥‥っ』
梯子の中腹でも、高さ五メートル。セレネの案じる声が本人に届く事はない。だが勇人は月姫を見遣って、微笑んだ。
「この舞を精霊達への感謝と共に捧げる!」
「!」
宣言と共に、今度こそ捕まる物もなく宙を飛んだ彼。
「うわっ」
体を伸ばしたままの三回転に捻りを入れての着地点は、梯子から数メートル離れた先。ビシッとポーズを決めた勇人に贈られたのは、会場全体を覆う呼吸すら忘れさせる静寂と、一瞬後の大歓声だった――。
●
「すごいよっ、すごかったよ勇人兄ちゃん!!」
大興奮で喝采するユアンに、セレネも。
『ええ、本当に素晴らしかったですけれど‥‥っ、何やら、とても苦しくなりましたわ』
胸の辺りに手を置いて語る精霊に冒険者達は笑い。
「では、俺は型を披露するかな」
天龍が言えば、ピンッと耳を立てるユアンの反応に師匠は頷いた。
「良い機会だ。ユアン、おまえも来い」
「はいっ!」
大喜びで師の後ろを付いて行く幼子を皆は微笑ましく見送る。
「勇人の次はあの二人かい?」
そう言いながら仲間に歩み寄る昴の手には器に盛られた温かなスープ。
「ふむ‥‥出来れば達人の評価も聞いてみたかったんだが」
「? 昴殿の料理はいつも、とても美味しいと思うが」
リールが器を受け取りながら不思議そうに応じると、本人はそれとなく視線を泳がせる。
「基本的に私の作るものは和食中心だし、洋風の味付けは勝手が違って不安だったりするんだよ」
「不安ねぇ」
「な、なんだ」
楽しげに言葉を発する勇人に少なからず狼狽した昴だが、彼にも器の一つを差し出し、食するのを待つ。
「美味いぞ」
「‥‥ええ‥‥」
「ああ、とても美味しいと思う」
勇人、イシュカ、リールの感想に昴は「そう、か」と安堵の息を吐き、そんな冒険者達をセレネはとても優しい瞳で見つめていた。
祭は、時を経るごとに盛り上がり、賑やかに、中ではユラヴィカが得意の占いで人々を楽しませ、誘われては踊り、そこに相棒の楽の音が添えられる事も。
村の女達と配膳に精を出すルストは、笑顔。
「人の目を意識し過ぎだ」
「は、はいっ」
型を披露するユアンの動きが硬いのを指摘する天龍も。
「人に見せるからと言って気負わなくても、いつも通りやればいい」
その瞳はとても温かい。
『‥‥アベルに、貴方達を招待して欲しいとお願いして、本当に良かった‥‥』
月姫の感慨深い声音に冒険者達は眉根を寄せる。
中でも、祭に参加する前に親友から聞いた話を思い出したイシュカは当惑しながらも意を決して口を切る。
「‥‥あの‥‥違っていたら、申し訳ないのですが‥‥もうしばらくしたら月道が閉ざされるか‥‥もしくは、セレネ様御自身が‥‥セレやこの世界から‥‥離れなければならないのですか‥‥?」
『――‥‥、何故‥‥』
「いつもならもっと楽しそうにしてるだろ。綺麗な顔に影が差してりゃ流石に気付くってもんだ」
勇人にもそう告げられ、リールや昴。
心近しく、信頼した冒険者達に見つめられた月姫には、今以上に彼らを欺く事など出来はしない。
『‥‥月道が閉ざされる事はありません‥‥ですが‥‥』
地獄とこの世界を繋ぐ力を持った自分は、自由でいるべきではないのだとセレネは続ける。
『‥‥お別れ‥‥しなければなりません』
語られた言葉に、やっぱりそんな話かと息を吐く冒険者。
目を瞠る冒険者達。
楽の音が、美しい。
この日も大切な思い出となる事を祈るように――‥‥。