【怪盗と花嫁】 花嫁攻防戦
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■ショートシナリオ
担当:月海歩人
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月12日〜03月19日
リプレイ公開日:2005年03月22日
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●オープニング
ノルマン王国、パリ。
隣国より渡ってきたという怪盗は、早速と事件を起こした。
「ふぁんたなちっく・かかれーど?」
「‥‥ファンタスティック・マスカレード!」
「長ったらしい名前だねぇ。めんどくさいから、ファンタマでよくない?」
依頼の張り紙を書いている受付嬢たちの、気楽な会話。
『花嫁を頂く』
簡潔な誘拐予告が、パリからセーヌ川沿いに徒歩二日ほどの距離にある、マント領領主のもとに届けられた。
キャメロットを騒がせた怪盗は、このノルマンでも騒ぎを起こそうとしているのか。
予告状を受け、現領主ヴァン・カルロスは花嫁の護衛をパリの冒険者ギルドへ依頼した。城の衛士だけでは心許ないという。
しかし、何故怪盗は貴族の花嫁誘拐という大事を起こそうとしているのか。
マントの前領主には息子はおらず、傍流のヴァンが跡を引き継いだ。そして、前領主の娘である、クラリッサ・ノイエンを妻に娶ろうとしている。
よくあるありふれた話だ。直系でないものが、正当な血筋の者を取り込んだり、位の高い者を血族にしようとするのは、よくある話。
ただ、肝心の花嫁が嫌がって修道院に逃げ込もうとしたり、逃亡の為に街中で騒ぎを起こしたらしい。
更につけ加えると、領主のヴァンは色と欲に溢れた、ひそひそ話が耐えぬ男のようだし、他にもよからぬ噂があるようだ。だが、噂はあくまでも、噂。
そんな事を言っていたら、マント領自体も怪しさが漂う。
風光明媚な土地柄で、バカンスの為に訪れる者が多いというマントは、その穏やかな雰囲気とは裏腹に、よからぬ話もあるようだ。
だと言っても、「よからぬ事があるらしい。以上」といったレベルで、それ以上の事は誰も知らない。ただの風聞だろう。ちょっと斜め角度で見ると、かなり深く裏側まで踏み込まなければ見えない、だけかもしれない。
「でも、依頼は依頼。お仕事は、お仕事」
さらさらっと、インクに浸したペンを、羊皮紙に書き綴っていく。
城周辺の警備。
それが、今回の依頼。
「それって、めんどくさい事を押し付けた、という事じゃぁ?」
領主の城は湖に面しており、城に入るには城の前に広がる街を抜けて城門に辿り着くか、裏側から忍び込むしかない。
入るのも難しいが、守るのも難しい訳だ。
肝心の花嫁は城の中の館で厳重に警備されているので、二重の防壁にはなるが‥‥。
「城の中は既に他の人が決まっているのと衛士が詰めているので、あとは城の周りだけってこと」
以前、怪盗は誰にも見咎められる事なく、冒険者の酒場から色々と盗み去ったと情報もある。厳重な警備は不足はあれども過多はない。
「でも、怪盗の素顔って誰も見た事ないよね?」
仮面で素顔を隠した男。誰もその真実の顔は知らない。
キャメロットでは悪魔の陰謀を暴く為に、わざわざ騒ぎを起こしたらしいが、結局のところ、道化師のように去っていっただけ。
「さて、書き終わったから壁に貼り付けるねー」
警備員募集中。
場所はマント領、マントの街。
待遇は普通。
警備の場所は城周辺、または街中に限定。
腕に自信のある者、8人まで。
●リプレイ本文
●今回のお仕事
ノルマン王国パリ――。
「みんな、ありがとう! きっと役立てるからね‥‥」
アルル・ベルティーノ(ea4470)は、冒険者ギルドから見送る手伝ってくれた友らに、手を振った。
その彼らが奔走して入手した情報は、羊皮紙に纏められている。マント領現領主、そして前領主の娘についての噂をしたためた、羊皮紙。
やはり、他と同じく噂話程度であったが、友の心にアルルは感謝した。
陽光をその水面に煌かせた湖を背に広がった街。それが、マントの街。
街の中を奥に進むと、領主の城へと行き当たる。怪盗の予告を受け、ものものしい警備となっている正門。
「炎のエルフウィザード、ノア・キャラットです! よろしくお願いします!」
門番にノア・キャラット(ea4340)が勢いよく挨拶すると、彼らはその元気よさに思わず笑みを零す。他の者も順次自己紹介を済まし、当然のように中に入ろうとする。だが、そこより先へと進む事はできなかった。
「申し訳ないが、城の中は許可が下りた者しか入る事はできない」
「どうしてだ? 私達は警備の為に雇われたはずだが?」
眉を顰め、聯柳雅(ea6707)が尋ねると、門番は怪盗を警戒している為だと言う。何せ、姿を他人とする事が可能な怪盗だ。少しでも信用ない者を立ち入る事を許しては隙を見せるのと同じだ。
「城の警備を厳重にしている分、外に回す余裕はないのでね」
門番は肩をすくめる。
まぁ適当に頑張って、と、微妙に励みになっていない励ましを受け、冒険者達はひとまずその場から離れた。
「あまり、期待されてないみたいですね」
苦笑いを浮かべ、セシリア・カータ(ea1643)は先程のやり取りでの感想を漏らした。
既に多くの仲間は街の中に散り、今はニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、ノアと共に人通りの多い市場周辺を散策している。
人手不足を補う為でしょうから、と、ニルナは微笑んでその言葉に返す。
「マスカレード‥‥どんな男なのでしょうか」
今回の仕事に関して思い巡らし、行きつく先は怪盗。その怪盗にニルナは興味がつきないようだ。
仮面で素顔を隠し、その姿さえも自在に変え、人を惑わす怪盗。もしかすると、彼ではなく彼女なのかもしれない――。
「それにしても、怪盗の目的は‥‥何なのでしょうか?」
ただ花嫁を奪うだけとは思えない。ノアの疑問に答えれる者はいない。当の怪盗しか、答えを知っている者はいないのだろうか。
●ただいま、お仕事中
「小さな鼠でも見逃さないわよっ」
城門で、アルルが張り切って持ち運ばれている荷物の検分をしているのを、ジィ・ジ(ea3484)は遠目から眺めていた。
「若い、というのは元気があってよいですなぁ」
現在いる場所は、城背面――湖の反対側に聳える、塔。この塔から水橋が城へと繋がっている。
ヤマを張って、怪盗がこの水橋から城に侵入するかと思ったのだが‥‥人が通った痕跡は残っていないし、暫くの間誰かが訪れた気配もない。
「既にクラリッサ嬢と怪盗が入れ替わっているかもしれませぬなぁ‥‥」
もしかすると、その怪盗を回収する為にわざわざ予告状を出したのかもしれない。少しでも疑問に思う事があれば、確認するまで。
己の気配を隠しつつ、ジィはただひたすら時が来るのを待った。
行き交う人々に混じるように、割波戸黒兵衛(ea4778)は人波の隙間を縫うように、歩く。
パリにて情報収集しようとしたが、利用していた処は、全く情報と言える代物が入らなかった。だから、現地で入手すべく、耳を広く広げるようにどんなに小さな話し声でも聞き逃さぬようにしている。
(「怪盗ファンタマのぅ‥‥どうも怪盗とは縁があるようじゃ」)
だが、その縁のおかげか、わかる事が一つある。
盗賊は仕事をする時に、意味の無い行動はしない。例え如何に道化師のようでも。予告状は何か必要があったからこそ送ったものではないか。
その理由を探るのも面白いだろう――。そう考えていると、ようやく城壁に辿り着いた。城内に入る機会が一度ぐらいあるだろうと踏んでみたら、真っ先に潰えてしまった。ならば、忍び込もうかと思ったのだが、警戒が厳重すぎて人目を忍んでは難しい。
さて、どうしようか。
「なぁ‥‥あいつらは出てこないのか?」
ふと声に気づいて見上げると、城壁にて警備している衛兵が話しているようだ。
「けっ、暗殺を生業にしている輩なんぞ、当てにできるかっ」
●爆音
焼けるような夕陽が、眩しく湖を染めている。
「お城では、もっと美味しいもの食べてるんだろうな〜」
城を見上げ、アルルはうらやましがるような瞳で思わず呟いた。寝不足はお肌の大敵だからと、既に仮眠は取っているので、これからの警備に支障はないだろう。
「噂はどうあれ依頼は依頼だ‥‥気を引き締めなければな」
聯柳雅が、隙のない視線で周囲を警戒する。
「しかし、どうやってやってくるのでしょうね?」
辺りを見回しながら、セシリア・カータは呟いた。どこから、どのように侵入するのか。手段も時刻もわからぬゆえ、一時でも油断する訳にはいかない。
その時、爆音が轟いた。
「何事です!?」
セシリアが声を上げ、音が響いた方向へと走る。その方向は城の右手。水道からも街からも死角になっている、場所。
その場は確か‥‥黒兵衛の持ち場。
「老人に肉体労働は厳しいでのぅ」
ファイヤーボムを船から放ったエルフの女性に、黒兵衛はじりじりと、間合いを取る。
「あら、そぅ。でも、お仲間はやる気満々のようよ」
その女性は駆けつけた皆の姿を確認すると、笑みをゆっくりと浮かべた。
「一体、何があったのだ!?」
問い詰めるような口調の柳雅の言葉に、丁度水から上がったジィが答える。
「船で‥‥大胆にも30Mほど近づいたとこで、魔法を放ったのじゃよ」
水橋塔で視認したジィは、急ぎウォーターダイブのスクロールを使い湖底を走ってきたのだが、事には間に合わなかったと言う。
「もしかして、怪盗三世さん達‥‥ですか?」
「ん? なんだ、そりゃ?」
この怪盗と称す者達の行動は、以前見知った者達と似ている。アルルは同一人物かと思いおもいっきって尋ねてみるが、ハーフエルフらしき男が、葉巻をくゆらせつつ首を横に振った。
その時、今まで黙っていたニルナがすっと前に歩み出て刃を彼女に向けて言う。
「貴方にどういう考えがあるかは知りません。‥‥私は自分の任務をこなすだけです」
その言葉に合わすかのように、ノアが胸元からスクロールを取り出し、精霊力のこもった碑文を開く。
「させるかっ!」
ハーフエルフの男はその事に気づくと、精霊の力が行使されるより早く、小さなナイフをノアの腕へと投げ放った。
「きゃぁ!」
刃は掠めただけであったが、思わずスクロールを足元へと落としてしまう、ノア。
次にアルルが同じようにスクロールを取り出すが、エルフの女の動きに気づいて、それ以上動けなくなる。
「便利なものは、自分だけ持っているとは限らないのよ」
スクロール。どのような力を秘めているのかわからないが、その数は己が持っているのより上回る。更に、彼女は「はい、ディック」と、男にも放り投げて手渡した。
「すまないがお嬢さん達、そこを通してくれないか?」
涼やかな声が背後から聞こえ、振り向くと仮面を被った者の姿があった。そして、その傍らには日本刀を携えた、男。
「もしかして、怪盗さん? そうでしょう、そうなんでしょう!? どうして、ここへ‥‥」
ノアの問いに仮面の男――ファンタスティック・マスカレードは不敵に笑って答える。
「閉じ込められた宝石があるからこそ、泥棒は盗みに来るのですよ」
「その宝石は盗めなかったようですがの」
ジィの言葉に気まずそうな顔をする、怪盗。
その隙をつくかのように、柳雅が両の拳を振り上げ襲いかかる。軽やかに舞うように。曲線のナックルの軌跡――フェイントアタック。
だが、怪盗は涼やかな顔をして軽やかに避ける。
そして、後ろに大きく飛び退ると、彼らと冒険者達の間に、炎の壁が出現した。
●見つけた闇
「あら、そう‥‥でも、報酬はきちんともらったからいいじゃないですか」
報告し終えた直後の受付嬢の言葉に、苦虫を噛み締めたような顔をする、皆。
目的であった花嫁の防衛は完了したものの、怪盗に逃げられてしまった。様々な手段を講じようとも、もてる力を振り絞ろうとも、向こうの方が一枚上手らしい。
「スクロールに頼りすぎた感も、あるがな」
スクロールは便利なものではあるが、時間がどうしてもかかる。即座の行動に向いてないのだ。
しかし、意外な事がわかった。
ヴァン・カルロスは暗殺者を抱えている、という事が。表向きには存在しないが、組織的な存在であるらしい。
「悪魔と対する、怪盗――ですか」
ニルナの呟きが、空気に消えるように周囲に溶けた。