汚れなき空の下で

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月18日〜12月23日

リプレイ公開日:2006年12月24日

●オープニング

●謎の野盗集団集団現る
 つい先頃、リザベ領西端で野盗集団が次々と村を襲撃しているという報告が入った。
 襲われた村々は、『カオスの地』との国境に程近い河川の下流近辺である。
 もちろん領主は即座に討伐隊を編成し、野盗が暴れているという国境付近へ差し向けた。
 だが不可解なことに、精鋭揃いの討伐部隊が、いともあっさりと敗退してしまった。命からがら帰還した者の話によると、野盗たちは巨大な飛行恐獣を操って襲撃してきたとの事。
 討伐部隊が負けじと反撃に打って出ると‥‥‥‥。なんと、彼らの背後から形式不明の『謎のゴーレム』が出現し、討伐隊の兵士たちを次々と襲い始めたのだ。

 ――――事態を重く見た領主は、新たにゴーレム隊を編成し、再度、野盗集団の討伐を命じたのである。

●汚れなき空の下で
「‥‥というわけで、想定される敵兵力には騎乗した野盗が10数名の他に、飛行恐獣が最低1体含まれる。従って、この作戦に駆り出されたゴーレムは、モナルコス1騎とフロートチャリオット『カヴェーン』及びゴーレムグライダーが各2騎である。
作戦内容に応じて適所に配置して欲しい。また、彼らはどうやらその河沿いに拠点を築き始めたようだ」
 と、ゴーレムを引き渡しにやってきた鎧騎士の隊長が、状況を説明する。
  
「拠点ですか! そこに『謎のゴーレム』も?」
「確認はされていないが、恐らくは」
「ゴーレムとは‥‥‥‥それが、本当なら厄介ですね」
 『謎のゴーレム』という言葉に、集った兵士たちはこぞって皆困惑の表情を浮かべた。だが、彼らの不安を吹き飛ばすように鎧騎士の喝が飛ぶ。

「その通りだ。野盗ふぜいが如何にしてゴーレムを手に入れたのか、それを知るためにも可能であれば、その『謎のゴーレム』を確保して欲しい。だが! 確保が困難な場合には、構わん! ‥‥存分に叩き壊せ!」
「はっ!」

 鎧騎士は、そこで皆の顔を一通り見渡してから、更に厳しい口調で言った。
「そのアジトは国境からさほど離れてはいない。雑魚はともかく、形式不明のゴーレムが『カオスの地』へ逃走‥‥という事態は何としても避けたい。危険な『芽』は早々に摘み取らねばならないのだ。大変過酷な任務であることは、我々も承知している! だが、荒らされた田畑、失われた村々の尊い犠牲の為にも、どうか君たちには頑張って欲しい。健闘を祈る!」

 リザベ領西端の透き通るように汚れない蒼い空の下で、激しい戦闘が再び始まろうとしていた――。

●今回の参加者

 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

平島 仁風(ea0984)/ マグナ・アドミラル(ea4868

●リプレイ本文

●備えあれば〜敵陣視察
「最近連戦だったもんね、今回は此処でゆっくりお休みね」
 このところ活躍続きだったペットのラプラスをいたわり、今回の依頼には連れてゆかない事を決めた音無 響(eb4482)は、ラプラスの寝床を整えると自分は予備の飛行兜を手に、グライダーに乗り込んだ。
「暗くなる前に、飛ばなくちゃ」
 夕闇に紅く染まる空を飛ぶのは、昼のそれと違ってまた格別な趣があるのだが、目的が敵陣視察であればそう悠長な事も考えては居られなかった。
「敵の配置や逃走に使われそうな経路を掴めるといいな‥‥」
 ソーラー充電器から携帯電話を取り外すと、カメラの調子を入念に確認する。
(ゴーレムを持っている野盗なんて‥‥カオスニアンや『バ』と繋がっててもおかしくない。ともかく背後関係を探るんだ!)
 背後にいるのは、『バ』かあるいは悪徳商人か。いずれにせよ、いつも以上に気を引き締めて掛からねば‥‥と思う響であった。

●夜明け前〜それぞれの思索
 夜陰に紛れ、擬装したモナルコスとチャリオットで、川下から敵アジト近辺まで可能な限り接近するという作戦に従って冒険者たちは手筈通りに、夜明け前から行動を開始した。 

「グライダーはしっかり固定してあるのか?」
 と、後ろにゼディス・クイント・ハウル(ea1504)を乗せて戦闘馬の焔に跨った陸奥 勇人(ea3329)が、チャリオット操縦士のリィム・タイランツ(eb4856)に念のために声を掛ける。
「勿論! ‥‥夜目が利いて細やかな操縦ができて、なお且つグライダーを積んで、ほぼ戦闘不能っぽい運搬しながら敵地に‥‥なんて、ボクじゃなきゃこんなのやんないよ?」
 リィムはそれでも、この過酷な状況を楽しんでいるかのように、普段通り明るく答えた。
「ただの野盗とは思えんにゃあ。カオスだとしたら‥‥いや、そうでなくとも容赦はせんけぇの! しかし、ゴーレムを相手取るのは初めてじゃ‥‥。どんな物じゃろか」
 偽装したモナルコスを操縦しながら、カロ・カイリ・コートン(eb8962)が呟くと、ランディ・マクファーレン(ea1702)が言葉を返す。
「謎のゴーレムと来たか‥‥。何にせよ、強敵には違い無い様で。暁天に散るのは果たして敵か俺達か、だな」

「これがゴーレムか。大したものだな」
 そんな二人の会話を勇人の背で聞いていたゼディスは、先ほどから繁々とモナルコスを眺め、やがて感心してるのか呆れてるのか区別のつかない淡々とした口調で呟いた。
(思えば既に一年以上アトランティスにいるが、間近で見たことすら無かったな。後学のために今回の戦で確認しておくのもいいだろう)

 そこへ、フォーリィ・クライト(eb0754)が釈然としない‥‥といった風に、話を切り出した。
「ねえ、‥‥あたし、ここに来る前に討伐隊の人に話を聞いて来たんだけどさ」
「話?」
「ゴーレムが背後から現れたというのが、具体的にどんな感じだったのか気になっちゃったのよね」
「背後から‥‥か」
「そうそう! いくら戦闘が激しくても、後ろからデカイのに至近される前に誰か気づけたんじゃないかなぁって‥‥。だって、後ろから挟み撃ちなんて御免だし」
「それもそうだな。で‥‥連中、どんな感じだって言ってたんだ?」
「それが、とにかく突然襲われたから、よく分からないって‥‥」
「野盗の討伐隊じゃ、ゴーレム戦の経験も無いでしょうし‥‥」
(ゴーレムは『どこ』に潜んでいたのか?)
 何かがまだ心の中に引っかかっているのだが、それもそうだと、仕方なくフォーリィが頷く。
「謎のゴーレム‥‥噂のバの国のカッパーゴレームかな‥‥。盗賊に見せかけた軍の侵略かも。確かめてみなきゃね」
 スピードよりも静かさと安全性を重視し、馬で随行する仲間との距離を考えながらチャリオットを操縦していたリィムも頷く。
「とにかく、恐獣を操ったりゴーレムを動かす野盗なんてタダモノじゃないよね! これ以上被害が出ないようにやっつけなきゃ!」
 チャリオットに同乗しているフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)の拳にぐっと力が入る。
「‥‥‥‥もう取り戻す事の出来ない犠牲も沢山出ているんだもの、ね」
「もうこれ以上、田畑を荒らされたり、村を壊されて泣く人を出したくないですからね」
 フィオレンティナの悲しそうな顔をみて、元気づける響であった――。

●アジト強襲!
「――――慌てず慎重に。隠密裏に‥‥ぜよ」
 モナルコスの中で、カロは幾度も自分に言い聞かせる。
 モナルコスの出撃は地上部隊が突入した後だ。それまでは何があっても敵に自分の存在を気付かれてはならない。
 だが‥‥カロには、カオス兵に家族を皆殺しにされた辛い過去があった。その憎しみが彼女をどうしようもなく戦場へと駆り立てるのであった。

「よし、準備は出来たぜ」
 戦闘開始直前。オーラエリベイションで、自分を含む前衛で戦う味方の武器全てにオーラパワーを施し終えたランディが言った。
「じゃあ、始めちゃう?」
 嬉しそうにフォーリィが声を上げると、チャリオットでスタンバイしているリィムたちにも合図が送られた。
「怪しい野盗どもを蹴散らしに行くぜっ!」 
「謎のゴーレム捕獲が優先だから、お互いにやりすぎちゃ駄目よ〜!」
「おおっ!」
 夜明けとともに冒険者たちのアジト急襲が始まった―――――――――!


「やっぱり、カオス兵だ――――――――っっ!!」
 偽装していても、幾度も戦った相手を間違えるはずは無い。
 強襲にうろたえながらも迅速に隊を立て直し、こちらに向かってくる敵に向かってリィムが一番に機上から叫んだ。
「そうと分れば‥‥!」
「手加減なしさっ!」 

 戦闘馬シドルに騎乗したランディは、チャリオットの突撃に続いて斬り込み、敵とすれ違い様に敵の騎馬狙いでスマッシュを叩き込んでゆく。
 その攻撃力の凄さは、確実に敵の機動力を削ぎ取っていった。
 だが、その壮絶な戦場であっても、彼は敵ゴーレムの出現までは、敵の数を削り過ぎない様に留意していた。目標の早期撤退を避ける為だ。
「敵ゴーレムの出現を見落とさない様、常に周辺を警戒しなきゃな」
「余裕あるね!」
 ペットのイーグルドラゴンパピー、ロロを従えながらフォーリィも、主に騎乗した敵を狙いつつ歩兵はスマッシュ+ソードボンバーでばったばったとなぎ払う。
 先頭でチャリオットを駆るリィムもまた、騎兵を優先的に叩いていた。
 ジャックナイフターンで轢き飛ばすか、あるいは同乗のフィオレンティナと呼吸を合わせ、チャージングで敵の横を擦り抜け様に彼女に敵を叩かせる。
 機体から放り出されないようにロープで身体を固定し、フィオレンティナはハルバードで一撃一撃、効率良くなぎ払うように攻撃を仕掛けていた。
「負けないんだからっ!」
 やがて――――波に乗る冒険者たちに歯止めを掛けるべく、地上に大きな影を落としながら、明けの空に飛行恐獣がその姿を現した。

●カオスの反撃〜プテラノドン来襲
「音無、来たぞ」
 初めて闘う飛行恐獣にも恐れを抱かないのか、ゼディスは至って冷静沈着である。
 彼が予備の飛行兜を装備したのを確認してから、響は速やかにグライダーを発進させた。

「まずはアイスチャクラで勝負してみる」
「了解です!」
 響は体制を整えてから、捕まらないように一気にプテラの際をすり抜ける。
 初級アイスチャクラの第一波は、目標に多少ダメージを与えたかに見えたが、プテラは図体がでかい割には以外と動きが俊敏で、接近するグライダーをかわしたり、巧みに揺さぶりを掛けてくるので上手い具合に第2波を放てない。
「なかなかやるな」
 ここでもゼディスは冷静である。
「アイスブリザードに切り替える。音無は、敵との相対距離を30m以内に保つようやってみてくれ」
「了解っ!」
 ゼディスはMP切れに備えてソルフの実を用意し、再びタイミングを合わせて印を結ぶ。
「今です、あの大きく開けた口に魔法叩き込んじゃってください!」
「ハあぁっ!」
 ゼディスの放った魔法は、狙った箇所を僅かに外れたものの、明らかにプテラにダメージを与えることに成功した!
 劣勢になった恐獣が慌てて後方へと退散し始めると、響たちもすぐにその後を追う。
 だが――――。


 地上では、冒険者たちの予期しなかった動きが起ころうとしていた‥‥。

●カオスの反撃2〜敵の大将現る
 リィムは毒矢に備え、とっさの場合に片手で紐で引っ張って引き上げ、矢の盾にできるような木の板をチャリオットに用意しておいた。
 これはなかなかに良い案であった。もっとも、それもリィムがチャリオットの性能限界をギリギリまで引き出せる乗り手であるからこそ出来る技だが。
 
「案外粘るな。このままだとこっちがジリ貧かぁ?!」
 と、馬を下りて周囲の歩兵たちをほどほどになぎ倒している勇人が、聞こえよがしに怒鳴る。
 謎のゴーレムを引っ張り出す為、こちらが優勢だったとしてもやり過ぎないよう注意しながら、敵を誘うという当初からの作戦だ。
 勇人は、ゴーレムが死角を突いて来ないかどうかも慎重に注意しつつ、自分よりも遥かに弱いザコ兵を相手に、戦場でじっくりと粘っていた。
 すると、歩兵たちの間を割って体格の良い、しかしどうみても悪党面した大男が、猛々しい馬に乗って勇人の目前に現れた。

「随分と手下を甚振ってくれたようだな。‥‥少しは骨のある奴らのようだ」
 カオスニアンの大男は、凍えるように冷たい眼差しを勇人に向ける。
「残念だったな。俺たちはこう見えても結構強いんでね」
「そのようだな」
 大男はそう言い放つや否や、目にも止まらぬ速さで勇人の胸座目掛けて大槍を突く。だが、勇人もそれを間一髪のところでかわして見せる。
「そっちにも‥‥ちょっとは骨のある奴がいたようだ」
「だが、二人も要らんな!」
 その男が大将と見た勇人は、ここぞとばかりに闘志を燃やす。
「皆っ、ゴーレムは任せたぜ! 俺はこいつと勝負する!」
「ゴーレム? 何の事かな?」
 男の不敵な笑みを見た瞬間に、フォーリィが叫んだ――――。

「――――――――馬車よ! 目立つゴーレムでは領内を堂々と歩けない、それならゴーレムを運ぶ大型馬車が何処かにあるはずっ!!」
 
●謎のゴーレムを追え!
「逃げ出すとは卑怯ぜよ〜〜ッッッ!!!」
 モナルコスで大型馬車を追うカロが、頭から湯気を立てながら怒鳴る。だが、敵には味方を犠牲にしてまでもゴーレムを渡したくない、それなりの『理由』があったのであろう。
 勿論、怒り心頭のカロにそのような理屈が通るわけも無いのだが、そこへ、
「いくら馬が速いったって! チャリオットの速さにかなうと思うな!」
 まわり込んで逃げ道を塞ぐべく、リィムたちも後を追う。
 重いゴーレムを積んだ荷馬車が、到底チャリオットに敵うわけはなく、馬車は国境を目の前にして行く手を阻まれてしまった。

「やったにゃあ〜! 待っててちょー! すぐに追いつくからねっ!」 
 モナルコスが迫ってくるのに気付いた敵は、ここで謎のゴーレムを起動させた。

「嘘‥‥マジでゴーレム‥‥」
「フィオレンティナさん、危ない‥‥ッ!」
「キャ――――――――――――――ッ!!」

 荷台からやにわ起き上がった謎のゴーレムは、立ち塞がるチャリオットをその拳で強襲。そのまま国境を突破。
 リィムはフィオレンティナを庇うので精一杯だった。
 やがて追いついたランディが、騎乗したまま遠距離からオーラショットを放つが、巨漢ゴーレムの足を止めるには至らない。
 そして、昨夜寝ずに『人型である以上、足を狙えば行動不能に出来るか?』とか『足払いやスウェーバックですっ転ばせるか?』と散々に知恵を絞っていたカロは言い知れぬ虚脱感に襲われ、その場に佇んだまま、起動不能になるまでゴーレムから降りることが出来なかった‥‥。

●戦いの結末と残る謎
(やはり聞くのと見るのでは情報量が違うな。なかなか楽しめる)
 このような状況下でも、ゼディスは冷静沈着であった。

 結局、敵の大将は、勇人やランディたちが大慌てで『逃走したゴーレムと馬車』を追い始めたのを尻目に、鮮やかに逃亡。
 ゴーレムを逃したものの、敵のアジトを沈め、カオスニアンの野盗をほぼ壊滅せしめた事は、それでも高く評価された。
「俺がもっと早く気付いていれば‥‥! 何のために偵察にいったのか、これじゃ分らないです‥‥」
 誘い出すつもりが、まんまと敵の誘導に乗せられ、馬車とは逆の方向に飛行してしまったことを響は悔やんでいた。

「でも、謎のゴーレムの外見や動きはしっかり確認出来たし、詳しく領主様に報告してみるね」
 すでにゴーレムに自前のコードネームをつけてメモを取っているフィオレンティナは、明るく響を励ます。
「そうですね。俺も、ゴーレム以外の背後関係の証拠がないか、注意しつつアジトを調べてみました。念の為携帯で撮影したものを見せてみます」
 その時、響が偶然見つけた奇妙な紋章(のようなもの)が、新たな別の事件の発端を開くことになるが‥‥‥‥。
 
 それはもっと後の話となる――。