戦士の遺言
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月07日
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●オープニング
●瓦版クラブ
瓦版クラブ、またの名をKBC――――。
KBCとは、天界人より伝えられたとされる言葉「ペンは剣よりも強し!」に共鳴した少数の庶民が、有志を募って結成したジャーナリスト集団である。
独自のルートや方法で『バの国』による『カオスの侵攻』の戦況を捉え、庶民の立場から領主や領民あるいは国家機関に情報を伝達している。
彼らは時に、ジャーナリストの「誇り」をかけて非常に危険とされる場所にも勇気をもって潜入し、そうしてもたらされた貴重な報告は冒険者ギルドに張り出され、やがて庶民の目や耳に入ってゆくのであった。
●戦士の遺言
男はすでに3杯目のワインを口に運びながら、薄暗い酒場で、メイではまず見かけることのない『単行本』を熱心に読みふけっていた。
「お客さん、天界人だね」
「え? ああ、これね」
青年は読みかけの本を閉じると、自分に話しかけてきた恰幅の良い旅人風の男に向き直った。
彼もメイの国の冒険者だろうか――メイディアは王都だけあって、冒険者の数も相当多い。夜遅くまで酒場が開いているのも腕っ節のいい冒険者たちのおかげだからで、治安の悪い土地ではまず考えられない事だ。
「本屋が無いってのが、こんなに淋しいもんだとは思わなかったよ」
「本屋? そこでそいつが買えるのかい?」
「ああ‥‥値段も安くて、暇つぶしには丁度いいのさ」
「へぇ〜、暇つぶしって‥‥あんた、誰かと待ち合わせなんだろ? 店に入った時から、しきりに入り口辺りを気にしてるもんな」
口元に無精髭を生やした男はそう言いながら、青年の目の前で、見事に泡だったエールを勢いよく飲み干した。
「ああ‥‥そのはずだったけど。どうやら、フラれたみたいだな」
「待ち人来らず。そういう夜もあるさね、じゃ、これはおいらの驕りってことで」
「おいおい‥‥」
青年を気の毒に思ったのか、あるいは旅人の単なる気まぐれか、男は店の者に注文してワインを運ばせると、それを青年の前にぽんと差し出した。
男は、『気にするな』とでも言うように笑って小さく手を上げると、自分はまた別の話相手を求めて、その席を離れて行った。
青年は目の前に置かれたワインを見つめて、遠い故郷の事を思い出していた。
煌びやかなネオンサイン、幻想の摩天楼、そして――――謎めいた輝きを放つ、甘美な味の色とりどりのカクテル‥‥。
そういったものは、このアトランティス、少なくともメイには存在しなかった。
だが、こればかりは考えてもどうしようもない――自分は今此処にいて、食べて寝て、生きていくしかないのだ。
「ご馳走さま」
青年が誰に言うでもなく独り言のように呟いた、その刹那――――――誰かの手が彼の肩に触れた。
「一人なら、あたしがお相手をして差し上げましょうか?‥‥ハンサムな天界人の記者さん」
艶っぽい女の声に驚いて、青年は驚いて空のコップに掛けていた指を離した。
「あんたが‥‥‥‥KBCに連絡してきた『情報屋』なのか?」
細身の黒のドレスに身を包んだ女は青年の問いかけには答えず、黙ってバッグから、細く巻き込まれた小さめの羊皮紙をテーブルの上に置いた。
「地図を含めて、全てはこの中に『書かれて』あるわ。じゃ、あたしはこれで‥‥」
「待てよっ‥‥」
素早く立ち去ろうとする女の細い腕を、青年が荒々しく掴む。
「『書かれて』ある‥‥ってどういう意味だ。俺はあんたの話が聞きたい。他の誰かじゃなく‥‥あんたの話が!」
「困った坊やね」
女は町では見かけない顔で、且つ女優並みの印象的な美人だったので、酒場にいた客たちはこの珍客二人のやり取りに興味津々――。
「じゃ、‥‥場所を変えましょう」
女が目配せをすると、いかにも店の古株らしい中年女がカーテンの奥から出て来て、黙って女にキーを渡した。
「?」
「上に部屋を用意させてあるの。此処よりはいいでしょ?」
女は青年の手を払うと、くるりと後ろに向き直った。そうして黒いドレスの下から浮かび上がる豊満なボディに見惚れている店の男たちに、慣れた素振りで軽く会釈をして見せた。
オオ――ッという歓声と下手な口笛を背に、二人の男女は店の古びた階段を上へと登っていった。
「ペンドラゴンの遺言状?」
「恋文よ、正しくはね」
女は自分が知り得る全ての情報を青年に語って聞かせた。その概要はこうである――――――――。
かの、『カオス戦争』終結直前、一人の戦士が恋人に手紙を書いた。最後の大決戦を目前にし、生還できる望みが薄いことを悟った男が愛する女へ、最後の言葉を贈ったのだ。
人々の噂では英雄ペンドラゴンが恋人エレネイラに送ったものだと伝えられている。
手紙は終始彼女の身を案じ、気遣う内容であったのだが、ただ末尾に――――1箇所だけ、不可解な文章が記されてあった。
『この戦が終わりし後――再びカオスが目覚め、国が乱れし時が来たなら、遥か北の海を目指せ。そこには「闇の衣を纏いし光」が眠るなり』
「闇の衣を纏いし光‥‥?」
窓辺に佇みながら黒いドレスの女の話を聞いていた青年が呟く。
「それがあの、阿修羅の剣だというのか?」
「それは分らないけれど、北の領主がその謎めいた島の位置を確定して、ゴーレムシップを出したのは事実よ。でも、島に到着したはずの調査隊は、ほどなく消息を絶ったの」
「行方不明の調査隊を追って、その島に派遣された第2陣のゴーレムシップ隊も、同じように戻っては来なかった‥‥」
「そういう事」
「海に潜む魚竜で、でかい奴なら体長10mを下らない‥‥そんなのに囲まれたら、あるいはゴーレムシップでも歯が立たないか‥‥」
「流石に博学に長けた天界人ね。魔物の話を持ち出さないところも気に入ったわ」
「ギリシャ神話のセイレーンか‥‥くだらないな。ああ、でも此処は地球じゃないんだっけ」
青年は軽く頭を振ってみせた。すると、女は薄汚れた皺くちゃのシーツが掛けてあるだけのソファから立ち上がり、青年の傍らにそっと寄り添った。
そうして青年の身体に自分の身体をぴたりと添わせると、その細い腕を肢体に絡ませながら彼の耳元で甘ったるく囁いた。その女の只ならぬ気配に、青年の背筋が一瞬冷たく凍りつく‥‥。
「どう? 面白い話でしょ。記事になるかしら」
「おい‥‥放せよっ‥‥!」
「北の領主はついにフロートシップ『アルテース』とゴーレムを駆り出して、島に最後の調査隊を送り込むの。‥‥明日あたり、ギルドに依頼が張り出されるわ」
「お前っ‥‥どうして‥‥‥‥そこま‥‥で‥‥――――――――」
刹那――――彼女の手を解こうとして、振り向きざまに青年は目も眩むばかりの銀色の光のベールに包まれた――――――。
「精霊魔法を掛けられるのは初めてかしら‥‥。お若い記者さん」
唐突な睡魔に襲われ、女の腕の中に崩れ落ちた青年はぴくりとも動かず、その漆黒の髪とまだ少しばかり少年のあどけなさが残る端整な顔を、月の光が柔らかに照らしていた。
「‥‥おやすみなさい、坊や。また何処かで会えるといいわね」
青年をソファの上に寝かせると、女は静かにドアを閉め、そのまま店を出て足早に夜の闇の中へと消えて行った。
そして、女が言った通り、北のセルナー領主からの依頼が、翌日冒険者ギルドの依頼板に大きく張り出されていた――――。
●リプレイ本文
●北の海に浮かぶ孤島
冒険者たちを乗せた巡洋艦「アルテース」は、今まさに目的の孤島の上空付近に差しかかろうとしていた。身体に吹き付ける風は少し冷たかったが、初めて目にする北の海の神秘的な風情に魅せられて、冒険者たちは皆甲板に出揃っていた。
「なんだか、カップケーキみたいな島ですね」
アルテースの遥か下方にその姿を現し始めた、伝説の島を指差して音無 響(eb4482)が思わず声を上げた。
「カップケーキぃ?」
「なんですか? それは‥‥」
聞いた事のない単語に、一同は目を丸くして響の顔を?覗き込む。
「あれ? メイ出身のスレインさんたちはともかく、イギリス出身のクウェルさんたちもご存知ないんですか?」
「‥‥???」
皆の不思議そうな顔をみて、響はまたひとつ知識を養った。ケーキの語源は英国ではあるが、響の知るカップケーキは、この世界には存在していないのかもしれない。
「えっと‥‥ともかくですね、思った以上に小さな島だなって‥‥海岸線が丸く円になってて、森に覆われた島の中央がこんもり高くて‥‥あの小山の頂上に城があれば、映画に出てくるちょとした砦みたいですよね」
「えいが??」
(し、しまったっ‥‥)
響が、これ以上墓穴を掘るまいと顔を赤らめながら後ずさりを始めた刹那、
「あそこだっ! あの浜辺に船の残骸が散らばってる!」
クーフス・クディグレフ(eb7992)が島を指差して大声で叫んだ。優良視力を有するクーフスには、すでに調査の糸口が掴めたようだった。時を同じくして、船内から出てきた船員が甲板にいる冒険者に向かって声を掛ける。
「先の調査隊の計画書に記された地点の上空に入ります。高度を下げますか?」
計画書の写しはランディ・マクファーレン(ea1702)の提案によって、北の領主から入手したものだ。クースフの進言もあり、冒険者たちは迷うことなく船員の意見を支持した。
***
「船の残骸が散乱しているという事は、‥‥つまり逃げる間もなくやられたわけか」
「敵は相当な破壊力を持ってるってことですね」
先遣隊の資料に入念に目を通しながら、リューグ・ランサー(ea0266)が呟くと、神妙な面持ちでクウェル・グッドウェザー(ea0447)が相槌を打つ。すると、
「でも‥‥大型恐獣の気配は感じられません。森の中には多数の生物がいるようですが‥‥船を壊せるようなレベルじゃないわ」
と、ルメリア・アドミナル(ea8594)が困った顔で言葉を挟む。彼女は少し前から、一定の間隔を空けてブレスセンサーで生物探知を行なっていたのだった。
「ということは、やはり海の中に『何か』いるのかもしれませんね」
「‥‥」
「ともかく、まずは俺が先に偵察にでます。グライダーの方が小回りが効きますし」
「じゃあ、僕も同乗します。生存者がいるなら、真っ先に治療が必要でしょう」
響とクウェルの提案に全員が賛成すると、二人は素早く支度を整えた。
「もし突然飛行恐獣が襲ってきたら、ライトニングサンダーボルトの2連射で必ず打ち落としますからね〜〜! 心配しないで!」
ルメリアの勇ましい励ましに小さく微笑みながら、二人の若者は自分たちの役目を果たすべく、グライダーの格納庫へと向かって行った。
「さてと‥‥。伝説の竜戦士とやらも、何とも抽象的な遺言を残してくれたもので‥‥」
「あの文章だけではさっぱり検討がつかん。だがこの島、どうにも危ない臭いがするんだが‥‥」
「『闇の衣を纏いし光』ですか。どんなものかは見当もつきませんが、おそらく現地で目にする事ができれば分かるかと」
やや気後れ気味な男戦士を前にして、アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)は、たっぷりと余裕の笑みを浮かべてみせた。
一方彼らから少し離れた場所で、クースフとスレイン・イルーザ(eb7880)は、どちらが先にモナルコスに搭乗するかを、公正なくじ引きで決めようとしていた。
(ご領主も、けちけちしないでモナ2騎貸してくれればいいのになー)
と、二人が同時に思っていたことを双方知る由も無かった。
●手紙が導くもの
「空から見てると、至って平和な小島に見えますよね」
蒼穹を気持ちよく翔けながら、響が後部座席にいるクウェルに向かって言った。
「静かで‥‥とても綺麗です。あの手紙は、明日への希望を失わない為、大切な人にこの風景を見せたかった‥‥というのもあるんでしょうか?」
「手紙には思いが篭るもの。生出来ればその思いを遂げてあげたいですね」
クウェルは先の大戦で散っていった命を思いながら、ほんの少し頭を垂れた。
「この島に何が眠っているのか‥‥それが、人々の平和の為となるものならば良いのですが」
「着陸します!」
船の残骸に程近い浜辺で適当な場所を定めた響は、クウェルに負担を掛けることなく丁度良い速度で降下した。
「き‥‥響さんっ! ――――――――人だっ!!」
「えっ」
クウェルの突然の叫びに驚いて一瞬舵を乱しながらも、響は冷静に状況を確認する。すると――確かに、前方に人影が見える。
それはゆらゆらと揺らめいてから、大きく片手を振り上げて、そしてそのままゆっくりと地面へと崩れ落ちていった。
「おいっ!しっかりしろ――――――――ッッ!」
「助けに来ました! もう大丈夫ですっ‥‥だから‥‥生きていて下さいっ、頼むから―――ッッ!」
二人はグライダーを着地させると、同時に飛び降りて一目散に砂浜を人影まで走った。
クウェルは倒れている男の手を取ると、すぐさま白の神聖魔法リカバーを施した。
「良かった‥‥大した傷は負ってないみたい」
柔らかな光に包まれた男の顔を見ながら、クウェルはほっと安堵の息を漏らした。
「響さん、どちらへ‥‥!」
「彼が出てきた方角を見てきます。もしかしたら他にも生存者がいるかもしれない」
「では僕も一緒に!」
響を追って立ち上がろうとしたクウェルは、ふいに誰かに腕を捉まれ、驚いて振り返った。クウェルの腕を掴んだのは先ほどの男だった。どうやらすぐに意識を取り戻したらしい。
「私が案内します‥‥怪我人がいるんです‥‥どうか‥‥」
まだ力の入らない身体を無理に起こしながら、男は途切れ途切れに言葉を続けた。
響とクウェルは、やや大柄なその隊員の身体を両脇で支えながら、彼が指し示す方向へとゆっくり歩を進めていった。
●再び船上にて
「海トカゲだぁ?!!」
響の報告を黙って聞いていたランディが、突然声を張り上げた。
フロートシップの動力は他のゴーレム兵器同様に精霊力だ。根性切れを起こしては動かせない。だが、そこは軍艦。必要な人員を搭乗させることで、連日に渡る空中での待機も容易であった。
「正しくは魚竜です。ただ、鮫とトカゲが合体したような風体なので、そう呼ばれることもあるそうです」
「体長は? どのくらいで、何匹いるんだ」
予期せぬトカゲの出現に大口を開けているランディを顧みず、リューグは話の続きを促した。
「大きさはアロ並みだそうです。とにかく凶暴で‥‥少なくとも2頭はいるらしいです」
「ってことは‥‥そいつらの相手はモナルコスか」
それを聞いて、モナ搭乗員の二人がうんうんと頷く。
「今、クウェルさんが現地で治療に当たってくれていますが‥‥」
「生存者は、早めに船に移した方がいいですね」
「おし! 状況を整理次第、作戦会議だっ!」
響たちが生き残った乗組員から聞き出した話の概要はこうであった。
ます、1次調査隊の生き残りは2名のみ。島に着岸し、荷の積み下ろしを始めた直後に、魚竜2頭に襲撃され船は大破。多くの者は海に投げ出され、還らぬ人となった。
生き残った者は数人いたのだが、食料を求めて森に分け入ったところを残虐なウルフの集団に襲われた。命からがら森から抜け出せたのはたったの二人だったのだ。
2次の調査隊は救命具等を装備していたため、同様に魚竜の襲撃を受けながらも半数の10人ほどが助かった。彼らは、緊急時の食料も携帯していたので、早速有り合せの材料で臨時の宿営を張り、夜を過ごした。すると――――夜中に、奇妙な音がして、島全体に小さな震動が走った。隊員たちが注意していると、その妙な音と震動は、ほぼ決まった間隔で昼夜問わず繰り返されていることが判明した。
任務に忠実な隊員たちは、中でも比較的体力のある者を選んで森の調査を行なった。慎重に、十分に武装してである。にも関わらず――――森に足を踏み入れた者は戻っては来なかった。
「気になりますね」
話を聞き終えたアレクセイが開口一番にそう答えた。
「確かに。俺たちも森に入る必要がありそうだな」
「よし、まずはモナルコスをクレーンで降ろす。それと同時に、島にいる生存者をシップに乗せる。歩けないものは馬に乗せる」
「俺の宇宙(戦闘馬)も連れて行ってください」
「助かるぜ、響」
てきぱきと指示を出しながら、ランディが礼を言う。
「スレインとクーフスは、魚竜に備えてモナルコスと共に浜で待機。響とルメリアも、シップで待機してくれ。飛びっぱなしじゃ、いざって時にグライダーを動かせない」
「了解しました」
「(また留守番ですか‥‥仕方ないですわね)了解です」
「残りは、船を下りてクウェルに合流。そのまま森の探索に入る!」
「了解っ」
仲間たちが支度に掛かったのを見計らって、ランディが響に小声で耳打ちをする。
「俺たちは一時間で戻る。だが、もし戻らなかったら‥‥」
「‥‥分りました。その時は俺が出ます」
「‥‥悪いな。よろしく頼む」
フロートシップは、やがてゆっくりと降下を始めた。モナルコスを降ろす前に襲撃されては大変と、雷の魔術師ルメリアは緊張した面持ちで警戒を続けていた――。
●闇深い森
森の奥は、昼だというのに薄暗く、どこか神秘的で異様な雰囲気を醸し出していた。
ランディを先頭に、リューグ、クウェル、隊列の後ろにアレクセイ。クウェル以外は馬を、アレクセイはユニコーンのアリョーシカを従えて、行方不明の隊員の手がかりを求めて森の奥へと突き進んだ。
ある程度のところでランディが、エレメンタラーフェアリーのエルデを使って『グリーンワード』で樹木に尋ねる。
「人間、どっち?」
答えない木もあったが、大抵の木は単純な答えをエルデに返した。返答があるということは、人が通った証。生きている可能性だってある。冒険者たちは辛抱強く探索を続けた。すると、アリョーシカが突然身震いして、アレクセイの服を引っ張った。
「見つけたのか! アリョーシカっ」
アリョーシカは脇目もふらずに細い迷路のような道を奥へと駆け出し、他の者もすぐさま後を追った。
やがて、木々が密集していない小さな陽だまりに出ると、そこには人であった者の屍が2体、陽光に晒されながら静かに横たわっていた。
「くそぉッ! 遅かったか!」
リューグが、拳を握り締めて天を仰いだ。
「ひどい‥‥誰が‥‥こんな事を‥‥‥‥」
「誰‥‥ってどういう意味だ? クウェル!」
「見てください。この傷‥‥獣に噛まれた痕じゃない。剣で斬り付けられた傷です」
「まさかっ!」
だが、彼らはそれ以上の探索を続けることは出来なかった。ウルフの群れがびっしりと彼らを取り囲んでいたのだ。
「まずは遺体の回収が先だ。遺体を馬に乗せたら森の出口まで強行突破といくか」
「僕はフライングブルームで先に戻ります。遺体を宜しくお願いします!」
「ウルフ相手じゃ歯ごたえがないが、やるしかないな」
「出口で会いましょう!」
リューグは得意のダーツとナイフ投げで、アレクセイはダガーを巧みに操りながら寄せてくるウルフを蹴散らして冒険者は浜へと戻っていった。
●モナVS巨大魚獣
「あれはっ!」
「ちっ‥‥早速始まってやがったか」
浜辺に到着したランディたちの目の前では、モナルコスと巨大海とかげの戦いが始まっていた。
ルメリアを乗せた響のグライダーも参戦しており、ルメリアはここぞとばかりにライトニングサンダーボルトを連射して、モナを援護した。
「調査隊の皆さんの‥‥仇!」
先に戻ったクウェルも、しっかりソニックブームで援護射撃。
「自分たちの縄張りを荒らされて、気分が悪いのは分るが、これも使命。悪く思わんでくれ!」
2頭の動きが鈍って来た頃合を見計らって、クースフが操るモナルコスの巨大なゴーレム剣が豪快に宙を舞い、海とかげの巨漢を叩きのめした。
戦意を消失した魚獣モササウルスは再び深い海へと潜り、戻っては来なかった。
(俺が後乗りだったらなあ〜くじ引きだし、文句は言えんか)
クースフと交代し、出番の無かったスレインがほんの少しだけ凹んでいたことは皆知る良しもない。
●帰還。残る謎。
多くの謎を残したまま船は一端島から撤退することになった。
「KBCに通報した謎の女性も怪しいですよね。彼女がエネレイラさんだったりして」
「響さん、何言ってるの? エネレイラって先の王妃よ」
「え‥‥‥‥(しまった)」
顔を真っ赤にして項垂れている響の足元に、先ほどまで船内のねずみを追い駆け回していたクーフスの猫がいつまでも、いつまでもじゃれついていた。