宿場町の用心棒
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月12日〜02月18日
リプレイ公開日:2007年02月19日
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●オープニング
冒険者たちはすでに承知の事と思うが、ステライド領の西方――更にその西の先には昨今何かと物騒なサミアド砂漠が広がっている。
その西方地区に小さな宿場町があった。そこから北のセルナー領に入る者や、セルナー領から帰ってくる者など、往来する旅人のために町には宿屋を中心にちょっとした商店や食べ物屋が立ち並び、田舎ながらも活気のある場所として、その小さな宿場町は繁盛していた。
だが、ある日その小さな町の平和を乱す事件が起きた。
どこからともなく盗賊の一派がこの町に流れてきたのだ。
盗賊団の人数は10人にも満たないが、その中にカオスニアンが複数紛れ込んでいるらしい。
彼らは始め、ヴェロキラプトル2頭を連れて町を襲った。
ヴェロキは体長こそ大きくないが、獰猛で、普通の人間ならば出会ったらまず迷わず逃げ出すだろう――。
そうして賊どもは、客が居なくなった店から堂々と金銭や物品を盗む。
彼らは存外小賢しく、自分たちが頻繁に町を襲うと町に人が寄り付かなくなって、返って金銭が集まらない。
よって、彼らは巧みに頃合を見計らっては町を襲い、また裏で、「自分の店は壊さないで欲しい」という店の主たちからも小金を巻き上げては私服を肥やしていた。
だが、ヴェロキを従えた盗賊団の噂が広まると、腕の立つ冒険者が「賊を退治したい」と勇んで町に来るようになった。
手練の冒険者相手にヴェロキ2頭では歯が立たないと思った盗賊団は、どこから調達して来たのかアロサウルス1頭を従えて、突如宿場町の入り口までやってきた。
アロサウルスが暴れると、町は跡形も無く破壊され、金のなる木が一瞬で枯れてしまう‥‥。
彼らにとってアロサウルスはあくまで脅しだったが、その効果は十分に上がった。
盗賊団は『町の用心棒』という名目で町への出入りを許され、それ以来町の者から法外なショバ代を取り立て続けている。
だが、彼らの悪行三昧に耐えられなくなった町人の一人が、遂に冒険者ギルドに駆け込んだ!!
○恐獣を従えた盗賊団は、町の西側のサミアド砂漠のはずれ辺りからやってくるようである。
○盗賊団は2人組の偵察班を出し、毎日午後の定刻に町の見回りを行なっている。
○盗賊団を不用意にやっつけようとすると、町の人が人質にとられる可能性がある。
○宿場町の奥、東側には広い集会所があって、町の人全員をどうにか収容できる。
○宿場町の入り口、西側にはサミアド砂漠へと続く荒野が広がっている。
○アロが暴れて町が壊されるのは極力避けたいが、それ以上に、まずは人命第一でお願いしたい。
以上のような事柄をまとめ終えると、宿場町からやって来た男を励ますようにギルドの職員が優しく声を掛けた。
「城からモナルコス1騎とフロートチャリオット1騎の使用許可が下りました。後は勇気ある冒険者たちをギルドで早速集めます」
「宜しくお願いします! 私が町を出てここに来たことがばれたら‥‥家族は見せしめに殺されるかもしれません。上手く時間を稼いでくれるよう町の皆に頼んで来ましたが‥‥。とにかく、一刻も早く、町を救って下さいっ! お願いします!!」
「分りました。こちらですぐに早馬を用意させましょう。それでどうかご家族のもとへ向かって下さい」
「有難う‥‥ございます」
男は深々と頭を下げると、すぐに帰り支度に取り掛かった。
(これから砂漠周辺は益々物騒になるかもしれない。だが――私たちはそのひとつひとつを着実に潰して行く他ないだろう)
ギルドの職員は不安な気持ちを精一杯押さえ込みながら、西方へと帰ってゆく男の後ろ姿を長い間見送っていた――。
●リプレイ本文
●冒険者と宿場町
「思ったより人が多いですね。お店もいっぱいだ。‥‥このにぎわい様なら、賊が目を付けるのも頷けます」
と、普段の武装を解いて軽装の旅人姿に身を包んだ朝海 咲夜(eb9803)が、そう呟いた。
「フン。たかが盗賊風情が、宿場町の用心棒気取りとはな」
「アリオスさんっ、‥‥さっきから眼、飛ばしすぎですってば!」
「そ、そうか‥‥?」
咲夜に言われて、アリオス・エルスリード(ea0439)は思わず目のやり場に困ってしまう。
だが、そんな彼らを気に掛ける事もなく、旅人たちは忙しなく朝の宿場町のメインストリートを往来していた。
「こんなに人が多いと、集会所に入りきらないんじゃないのか?」
ふと不安に思ったアリオスがそう問いかけると、咲夜は通りの少し先の方を指差して答えた。
「ほら、あそこに馬車が何台か停まっているでしょう? 多分、この後何台も来るんじゃないかな」
「なるほど。ここはセルナー領からステライド領の内地へ入るための中継地点だからな。滞在する客は少ないって事か」
であれば、午後になれば人も少なくなるだろう。殺伐とした荒野で夜を明かしたくなければ、旅人は朝一番に出立するのが懸命だからだ。
「とにかく、まず町長さんにお会いして、打ち合わせの段取りを決めましょう。それが済んだら、僕はこのまま町を出て、外の様子を調べてきます」
「俺は、町の西側でゴーレムを隠す場所を物色してから、皆の所へ戻る」
「宜しくお願いします」
アリオスと咲夜を除く残りの仲間たちは、宿場町からやや南に下がった位置にある小さな森の中で、運搬用大型馬車に搭載されたゴーレムと共に待機していた。
大勢で動くと一目を引く――という理由から、まず先の二人が偵察隊に選ばれたのである。
***
その夜――静まり返った大通りから、僅かに脇道に入った宿屋の奥の大部屋で、町の主だった者たちと依頼を請け負った冒険者との談合が開かれた。
冒険者側から出席したのは、アリオスとグラン・バク(ea5229)、ルメリア・アドミナル(ea8594)とフォーレ・ネーヴ(eb2093)の以上4名。
「初めましてだね♪」
と、明るくフォーレが切り出したものの、残念ながら、町長をはじめ町の者たちを包む重苦しい空気は変わる事は無かった。
「明日、皆さんには賊の偵察二人組に『最後のみかじめ料』として、この金貨の詰まった袋を渡して頂きたい」
と、グランが思い切って、言葉を飾らず単刀直入にこちらの意志を伝えると、まるでその提案を予測していたかのように、町長はじめ町の世話役たちは顔を見合わせてから静かに頷いた。
「協力して‥‥もらえるのか」
「わしら‥‥長い間、何度も話し合いを重ねて来ましただ」
と、世話役の中で最も年長と思われる男が、ぼそりと言葉を発した。
「金ならどうにか工面出来る。金で済むなら‥‥今まで、ずっとそうして来ただ。でも‥‥」
「でも?」
「妻や子供は渡せん」
初老の男は背中を丸めて俯きながらも、静かに――きっぱりと言い放った。
「奥様まで‥‥奥様まで差し出せと言うのですかっ!」
これには、日頃冷静沈着なルメリアも腹に据えかねたようだった。フォーレに至っては言うに及ばずであろう。
「例えば‥‥例えばですが、金貨を渡した後で彼らに『自分たちは早々に町を出て行く』と言えば、賊の頭は慌ててこちらにやってくるのではないでしょうか」
「挑発か。危険だぞ」
ルメリアの提案にアリオスがやや難色を示すが、
「いや。敵をこちらの思い通りに動かすには、そのくらいの駆け引きは必要かもしれん」
と、グランもこれに同意した。
「何かあったら、私たちが町の人を守って安全に集会場にいれるよ。だから、大丈夫! 絶対! ねっ!」
と、必死で説得を試みるフォーレに、町の世話役たちは、今度は温かな笑顔を返すのだった。
***
「アリオスたち、町の人を上手く説得してるかなぁ‥‥」
夜の暗がりに紛れて、モナルコスとチャリオットをそれぞれ宿場町の入り口の南西側にある岩場の影に隠し終え、冒険者たちはようやく一息付いたところであった。
「彼らならきっと上手くだろう。それより、私たちも明日に備えてゆっくり休息を取った方がいい」
仄かに燈る町の灯りを不安そうに見守るサーシャ・クライン(ea5021)に、アリウス・ステライウス(eb7857)が穏やかに答えた。
「うん‥‥そうだね、明日はしっかり町を守って、賊を一網打尽にしなきゃね!」
「あの‥‥その事なんだが」
「?」
刹那、二人の話に入ってきたのは鎧騎士のシャノン・マルパス(eb8162)だった。
「チャリオットの操縦は私が行なうが、ウィザードの方々は皆チャリオットに同乗されると思ってよいか」
「あ‥‥」
と、言葉に詰まってサーシャとアリウスは互いの顔を見合わせた。
「見渡した所、町の西側にある荒野は広い上に岩場も多そうだ。失礼な言い方だが、体力と回避面に不安が残る魔術師の方々には一箇所に固まって頂いて、詠唱中は他の誰かに敵の攻撃を防いでもらう方が良くないか。勿論、私も操縦には十分気を配るが」
「なるほど。それにしても、貴殿の腕は女性のように細いのだな。この細腕でチャリオットを操縦するとは、なかなか‥‥」
と、いきなりシャノンの右腕を掴んだグレイ・マリガン(eb4157)に、一斉に皆の冷たい視線が注がれる。
「良く間違われるので慣れているが、私は女性だ。以後注意されたい」
「(あんた‥‥彼女の自己紹介の時、ちゃんと話聞いてなかったの? ったく‥‥男なんだから、しっかりしなさい!)」
暫くして後――。
咲夜とシャルグ・ザーン(ea0827)が各々の支度を終えて岩場に戻った処、グレイががくりと肩を落として、一人淋しそうにモナルコスに縁りかかる姿を見たのはここだけの秘密である。
●鴨と葱
明けて朝。町の東にある集会所の前で、咲夜はせっせと罠作りに精を出していた。
「熱心だな、咲夜殿」
「シャルグさん、丁度良かった、ここに鳴子を仕込ませました。外部から賊が侵入しようとしたら即座に音が出ます。その時は、成敗宜しくお願いします」
「承知致した」
シャルグは町長の願いで、集会所の守りを受け持つ事になった。戦い慣れている冒険者と違って、町の者は恐獣が来ると聞いただけで震え上がってしまうのが現実だ。
誰かが傍にいて守ってくれていると思うだけで、皆の不安は大きく軽減されるのだ。
昼を過ぎ、定刻になると、例に漏れず盗賊の偵察隊が町にやって来た。これを町長と町の世話役たちが出迎えた。
冒険者たちはなるべく気配を消し、物陰に潜んで事の次第を見守った。幾人かは咄嗟の場合の対応が取れるよう旅人を装って、道の端に立った。
町長の話を聞き終えると、賊は町の者たちを汚い言葉で罵りながら、金貨の入った袋を持って帰っていった。(この袋には、念の為忍犬が後を追えるように特殊な香が付けられていた)
賊が怒りに任せて剣に手を掛けなかったのは幸いであった――。
賊の姿が見えなくなって後、ルメリアは早速町の入り口の西側にライトニングトラップを仕掛け始めた。それに合わせ、敵をその場所に導くような形で、咲夜が荒野にさりげなく罠や障害物を配置してゆく。
シャルグの進言もあって、ウィザードとフォーレを乗せたチャリオットとモナルコスが南西の岩場の影に、他の者は、入り口付近及び、北西側の岩場の影に待機。
また、危険を少しでも回避するために町人は早々に集会所に集められた。幼い子供の姿を目にし、シャルグは己に任された責任の重さを痛感した。
やがて、万全の体制を整え、冒険者が待ち伏せる荒野へ――鴨は葱を背負ってやって来た!
最初に現れたのはやはり2頭のヴェロキラプトルだった。それに賊が4名、馬に跨っての参上だ。
だが――彼らはきっちり地雷を踏んでくれたので、その出端は見事に挫かれた。
「竜と精霊よ、我に汝風竜の力を与えん――――――トルネェェェード!!」
それに追い討ちを掛けるが如く、サーシャのトルネードが荒野に舞った。
この不意打ち×魔法連射攻撃は、ヴェロキラプトルに戦意を消失させるに十分なダメージを与え得た。
「一人、二人、三人‥‥と!」
「4人、5人、6人で終了か」
ヴェロキから振り落とされたカオスニアンと賊たちは、あっさりアリオスの弓矢とグランの長巻によるスマッシュの餌食となった。
そう――ここまでは、手練の冒険者にとってはさほど困難な課題ではない。問題は――次なる大物である。
●対決! アロサウルス
(恐獣使いとは‥‥カオスニアンどもがやけに活性化してる。50年前の貸し、換えしてもらう日も近いな)
チャリオットの上で頬の古傷を掻きながらアリウスは思う。
「トラップは恐らくもう役に立たないでしょうね」
と、目の前に迫ってくる獰猛で巨大な獣を見据えながら、ルメリアは冷静に呟いた。
「これより次の作戦行動に入る。注意されよ」
シャノンが後方にチャリオットを動かすと同時にサーシャが再びトルネードを放った。
激しい竜巻はアロサウルスの巨体を宙に巻き上げたが、タフな大型恐獣に十分なダメージを与えるには至らなかった。
「わたくしがいきます! フォーレさん、援護よろしくお願いします」
ルメリアは高速詠唱を避け、達人レベルでのライトニングサンダーボルトの詠唱に入った。急場作りの盾を持って、フォーレが魔術師を庇うように斜め前方に出た。
「竜と精霊よ、今こそ我に永劫の風竜の力を示せ――――――――――!」
ババッ――バッバリバリッバリバリバリバリバリバリリリ――――――――――――ッッッ!!
ライトニングサンダーボルトは、見事宙を切り裂いてアロサウルスの眉間に命中した――!
「「「今だっっっ!!!」」」
脳震盪を起こし、大きく揺らいだアロの巨漢目掛けて、モナルコスが突進する。
「竜と精霊よ、我に汝火竜の力を与えん――――――バーニングソード!!」
グレイが構えたゴーレム剣に、今まさに、アリウスによって与えられた燃え盛る聖なる炎が宿った。
「ヴェロキだろうがアロサウルスだろうが、自分は剣を振るうのみ!」
グレイは炎の剣を大きく振りかぶると、岩場に仰向けに倒れこんだアロサウルスの首元目掛けて襲い掛かり、2度3度と斬りつけた――。
「やったか‥‥」
アロサウルスは、小刻みに痙攣を起こしながらも再び立ち上がる事は叶わなかった。
ざっくり割れた肉の間から噴出した血しぶきを浴び、モナルコスの体は真っ赤に染まっていた――。
「逃がすかっ!」
戦いに敗れ大慌てで逃げ出すカオスニアンの騎手に、アリオスの矢が放たれる。
「町の人達が今まで味わった痛み、その醜い心にお返しさせて貰います!」
と、仲間を見捨てて砂漠へ逃げ去ろうとする盗賊の頭領の前には咲夜が立ちはだかった。
バッと開かれた鉄扇には何故か(ジャパン仕込みの?)桜の大門印‥‥だが、取押えられた賊の頭がそれを再び目にする事は無いのだろう。
●翌朝の事件
賊を全て捕らえ、騎士団に引渡した後、宿場町には久しく失われていた平和が戻った。
今回は前衛に出る機会が無かったシャルグだったが、
「シャルグが皆を守ってくれてるって思ったから、あたしたち精一杯戦えたんだからねっ」
サーシャや仲間たちをはじめ、町中の人たちから手厚い感謝の意を表され、照れ臭そうに頭を掻くシャルグであった。
朝の町はやはり大層な賑わいだったが、その中に咲夜の目を引くものがあった。
出入り口付近で旅人を乗せる4頭立ての馬車。その脇に佇む男たちの中に、奇妙に目立つ赤い髪の男。耳が隠れる丈の髪には緩やかにウェーブが掛かっている。
その男が人目を引くのも無理は無かった――。赤毛というのは通常、毛質が貧弱でパサついているものだが、彼の場合ジャパンの黒髪に匹敵する程に見事な光沢と艶を放っていた。まさに宝石の如き真紅であった。
刹那――シャノンの後ろから誰かが彼女のマントを引っ張った。
「お兄ちゃん‥‥鎧騎士のお兄ちゃん」
「わ‥‥私は、お兄ちゃんではないっ! ‥‥って?」
マントを引っ張る赤毛の少女は、あどけない瞳を見開いてこう叫んだ。
「皆さん、王都まであたしを一緒に連れて行って下さいっ! お願いしますっ、どうかお願いしま――――すッッ!」
「あれ?」
「はい?」
「こっちも赤毛だ‥‥(流行なのか?)」
歳の頃は12、3だろうか。そこそこに良い身なりをしているのに、供の者も連れていないとは‥‥何かよほどの事情があるに違いない。
「連れてってと言われても‥‥」
「いいじゃん♪ どうせ帰り道なんだしね!」
「確かに、戦闘があった後だ。怖がるのは無理もない」
「有難う、綺麗なお兄ちゃん!」
「だから、私はお兄ちゃんではないのだっ」
「じゃ‥‥おじちゃん‥‥?」
「‥‥」
この赤毛の少女――彼女がメイディアに入る事で、冒険者たちはさらに厳しくも険しい『新たな冒険への扉』を開く事になるのだが‥‥。
その話は、彼女が無事王都に到着してからという事で――。
用心棒退治は、これにて一件落着である。