【月道】見果てぬ夢を追う
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月20日
リプレイ公開日:2007年02月22日
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●オープニング
●富のもたらすもの
アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
別に現在も無いわけではない。つまり二国間で貿易のバランスがあわないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この結果イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
では、アトランティスではどのような状況になっているのか?
ウィルの国は多数の月道で多くの国とつながる、貿易立国である。月道貿易はすでに三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かならその分国領主が豊かなのも当然だ。
そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然であろうか? 結果的には、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、その実情がかいま見える。
ゆえに、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく。政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまで様々だ。
当然、冒険者ギルドにも声がかかる。仕事は、結構いろいろあるのだ。
●月道貿易隊商護衛
定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。ゆえに多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者におはちが回ってくるのが現状だ。
今回の依頼は、隊商の護衛である。ウィル国内での仕事は無いに等しいが、メイに移動したあと隊商について行って交易品の卸しなどまでを請け負う必要がある。つまりは、いざというときの用心棒のようなものだ。
月道の通行料は依頼主が持ってくれるので問題はない。むしろ不案内なメイの国での仕事の方が問題であろう。メイの国は言語が違う。ゆえにアトランティスの不思議パワーでも文字は読めないから、結局のところ道案内の看板などは結構手こずることになる。多少差があっても万国共通の宿屋の看板とは、勝手が違うのだ。
何もなければ何もない依頼だが、何かあっても盗賊程度の襲撃で済む予定である。間違っても、噂のカオスニアンや恐獣なんかとやりあうことにはならないはずだ。
それよりも、旅を楽しむべきであろう。
●リプレイ本文
●月道の塔
月道が開くまでの間、冒険者たちはその『特別な塔』の中央にある広間に集い、各々所持品の確認をしたり、武装を整えたり、隣の者と世間話をしたりして時を過ごしていた。
やがて、今回冒険者たちが護衛を任された隊商の責任者と思しき人物が彼らの前に進み出ると、まずは簡単な挨拶を執り行った。
働き盛りの、大層恰幅の良い男の声が、朗々と広間に響き渡る――。
「この度、縁会って諸君らと共に異国への旅路を共にする事となったサジ・クローディアである。以後お見知りおき願いたい」
男はそう言って、被っていた羽飾り付きのつばの広い帽子を取ると、皆に軽く会釈をしてみせた。
「さて。諸君らの行動についてだが、我らが隊商はメイの王都にある月道の塔に到着した後、王都メイディアを出て南に下る。と言っても、さほどの長旅ではないし、何より王都近郊はまだ治安も良く、まず、危険度の高い恐獣やカオス兵士に襲われる心配はないので安心して欲しい。かと言って、あまり油断されても困るがな」
と、男が明るい笑顔を彼らに向けると、すかさずジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が一歩前に進み出て、男に発言の許可を求めた。
彼女はウィルの経験豊かな鎧騎士で、今回の護衛依頼についても率先して対盗賊戦における作戦取りまとめなどを行なっていた。
「その‥‥この度の依頼とは関係ないので恐縮ですが、サジ様が言われる『危険な地域』とは具体的にはメイのどの辺りになるのでしょうか」
その質問は、その場にいた多くの冒険者の興味を一斉に集めた。『危険』と聞けば大抵は身の安全を確保するために情報収集するものだが、彼らの場合必ずしもそうではない事は、爛々と輝く瞳と心躍るはつらつとした表情からも明らかであった。
●天界より来る者たち
「恐獣か。今度の旅で改めて自分の見聞を広め、引いてはカオスと戦う力を養うためにメイの最前線に身を置いてみようと思って来たのだが‥‥。兎にも角にも、一度は戦ってみたいものだ」
と、やる気満々に呟いたのはオルステッド・ブライオン(ea2449)である。天界出身のようだが、ウィルでも数々の依頼をこなしている。ほのぼの系の依頼も得意らしい。
オルステッドと同じく対カオス前線へ闘志を燃やす老人、もとい、ナイトが此処にいる。セイヤー・コナンバッハ(ea8738)である。
彼の経歴は、その鍛え上げられた見事な筋肉で覆われた肉体を見るだけで、十分うかがい知れるだろう
「欠かさぬトレーニングこそ究極の肉体に近づく唯一の方法じゃからのう!」と、彼は豪語する。だが、その裏側で、
(じゃがその前にもう少し修行して、レベルを上げねばな‥‥)
と、彼が密かな憂いを秘めている事はここだけの秘密である。
●後を追うもの
一方、すでに身内がメイに居て、前線でがんがん活躍している――という境遇の者もいた。セシル・クライト(eb0763)は、メイの冒険者フォーリィ・クライトの義弟であった。
(でも、義姉さんの檀家はきっと散らかってるだろうなぁ。‥‥着いたらさっそく掃除しないといけないんだろうなぁ)
人が抱える苦労は様々である。
「メイにもきっと美味しい果物があるんだろうなー。こっちの貴族どもも市場独占とかやってないよねぇ」
と、皆と少々異なる方向の心配をしているのはファイターのイシス・シン(ea6389)。
「ねぇ、あんた、細っちくて体力無さげだから気をつけなよ〜。あっちに着いたら、しっかり上手いもん食べな!」
と声を掛けるや否や、イシスは隣にいたカレン・シュタット(ea4426)の背中をドンッと叩いた。
「お‥‥お気遣い恐れ入ります」
予期せぬ強襲に動揺を隠し切れないカレンではあったが、そこは持ち前のたおやかさを全面に出して穏便に事を収めた。
この金髪がまことに麗しい魔術師であるが、彼女は「水」「火」「風」のすでに3つの精霊魔法を修得しているオールマイティ型の魔術師である。
ゴーレムを操る鎧騎士や、剣や拳にモノを言わせる猛者連中と同様に、今メイの国では強力なウィザードも対カオス戦における大変重要な戦力となっていた。
今後の彼女らの活躍にも注目したい。
●異国から異国へ
(まだ見ぬ新天地、さて、いったい何が待ち受けているのか‥‥)
塔の広間には仲間の会話に耳を傾けながら、遠い異国の地へ思いを馳せる僧兵――導 蛍石(eb9949)の姿もあった。
「もし隊商を狙う賊が現れたなら、自ら壁となって賊の前に立塞がり、必ずや隊商の安全を確保しなければ‥‥」
と、生真面目に考え込む蛍石の耳に――カシャッ、カシャ、カシャッ――と奇妙な音が飛び込んできた。
「な‥‥何事かっ!」
「あ。悪い〜これだよ、これ」
と、蛍石の目の前に奇妙な小箱を出して見せたのは、ダン・バイン(eb4183)である。彼は地球と呼ばれる天界から舞い降りた冒険者で、地球人特有の奇妙な道具を携帯していた。
「デジタルカメラってんだ。こいつで旅の思い出を収めておこうと思ってさ」
「でじ‥‥たるかめ‥‥ら?」
不審に思った蛍石が木剣の先でカメラを小突こうとするのを見て、ダンは咄嗟にカメラを自分の後ろに引っ込めた。
噂によると、ダンが今回の護衛依頼を引き受けたのは、己の借金返済のためだそうである。が負債の理由は定かではない――。
●危険人物?
「フォンブさん、この報告書‥‥ちょっとマズくないですか?」
と、やや声を潜めながら横にいるフォンブ・リン(eb7863)をたしなめているのは殺陣 静(eb4434)である。彼女は、何事につけ『明後日の方向』に爆走しかねないフォンブの歯止め役の任を自らに課していると聞き及ぶ。勿論、当の本人、フォンブは至って真面目に日々職務に励んでいるつもりではあった。
「いや〜ん、しずちゃんのいけずぅ〜」
と、例によってフリフリヒラヒラなレースが付いた服を着込んだフォンブが腰をくねらせながら(正しくは踊りながら)激しく抗議を試みる。
「腰振ったって駄目なものは駄目なんです」
静は冷静沈着に言葉を返す。
「ゴーレムとは関係ないほうこくです。前のオオサマはけんしきが狭かったです。新しいオオサマは心が狭いです。2人とも冒険者に文句を言うだけの、口先だけの人物だと思いました。――って何ですか、この文章は!」
「あら、ちゃんと横棒引っ張って消してるでしょ?」
「横棒引っ張ったって、ちゃんと読めるんだから意味無いです。これは私が預かっておきます」
「ええ〜〜〜っっ、そんなぁ、せっかく一生懸命書いたのにぃ!」
「‥‥(無視)」
胃の辺りにチクチクする痛みを覚えながら、静は書類をバックパックに仕舞い込んだ。そもそも神経過敏な彼女が、いわゆる――危険・要注意!――な人物と見なされかねないフォンブと同行を共にする事自体、不可解な事ではあるが、そこは人――それぞれに事情もあるのだろう。
***
「その‥‥この度の依頼とは関係ないので恐縮ですが、サジ様が言われる『危険な地域』とは具体的にはメイのどの辺りになるのでしょうか」
ジャクリーンの質問に答えるのに、場のざわめきが静まるのを待っていたサジは徐に冒険者を見回し、コホンと一つ咳払いをしてから、再びその澄んだ声を響かせた。
「主には‥‥カオスの地に近いリザベ領内や、カオスニアンの居住区、砦があるサミアド砂漠の周辺であるが、それらは諸君らの目と耳で実際に確かめられるのがよかろう。冒険者ギルドには多くの依頼が舞い込んでいるようだしな」
と言い終わると、サジはくるりと身体を翻し、冒険者に背を向けた。いよいよ月道が開くのだ――。
「では、そろそろ我々も出発すると致そう」
やがて、真っ白な光に包まれながら、一行の姿が消えてゆく――。
サジの隊商は無事目的地に着いたという。
意気揚々とした強者の群れに盗賊が恐れをなしたのか、はたまたそれが偶然という幸いだったのかは、この一件だけでは分らない。
メイにやってきた冒険者たちの活躍を、じっくりと――そして楽しく見守る事にしよう。