神隠しの廃墟

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月06日〜03月11日

リプレイ公開日:2007年03月10日

●オープニング

『☆★今週の『守護竜占い』★☆

 幸運の竜‥‥月竜、火竜
 アンラッキーな竜‥‥水竜

○火の精霊と火竜の守護を受けるゼットさんは絶好調! 思う存分暴れても大丈夫よっ♪
○水の精霊と水竜の守護を受けるカルロさんは運気低迷の週。あまり無理しないでね!

☆★『恋人たちに贈る守護竜占い』も随時予約受付中。恋の行方が気になるあなたに、鋼鉄の占い師ツキちゃんが未来を占います』

「はい、これ今週の原稿。くれぐれも、字、読み間違えないでよね」
「了解、了解。それよりツキちゃん、相変わらず商売上手だね〜」
「おっと、占い上手って言って欲しいねー。あたいは王都のお馬鹿な貴族相手にせこせこ稼いでる『エセ占い師』たちとは、土台実力が違うんだからねっ!」
 ――と、冒険者ギルドの一角で威勢よく啖呵を切る娘。 
 彼女の名は、ツキ・ジントニック。17歳。ジプシー。独身。職業、占い師。
 さる高名な師について未来を予見する陽の精霊魔法を修得した凄腕占い師で、おまけに器量良し。気風良し。
 縁あってKBCのボスに気に入られた事がきっかけで、冒険者ギルドに張り出される瓦版に占い記事を書いている。尤も王都といえども、多くの平人は字を読む事は出来ないので、定刻になると他の伝達事項と合わせて、ツキの占い原稿も読み上げられる事になっていた。

「「「あたしも行きます〜〜〜〜〜っ!! この依頼に参加しますッ!!」」」
 刹那――ギルド館内に子供の甲高い声が響き渡る。
「‥‥何事?」
「あの子‥‥まだ居たんだ」
「あの子?」
 ツキが先ほどの大声がした方を振り向くと、身なりの良い赤毛の少女がギルドの窓口で懸命に係員に何かを訴えている。
「うーん……あの子ね、先日セルナー領との境にある宿場町から、盗賊を退治した冒険者の一行と一緒にメイディアにやって来た子なんだけどね。どういう事情か知らないけど、自分も依頼に参加したいと言って、聞かないんだ」
「どういう内容の依頼なのさ」
「それがさ――結構危険なの。奴隷商人をお縄にする依頼」
「奴隷商人――?!」

■■神隠しの廃墟と噂される『廃墟』に潜むカオスニアンの野盗を討伐し、子供たちを救出する。

・王都の北方の村の外れにある遺跡の廃墟。かつて、そこで遊んでいた子供が何人も行方不明になる事件が起きており、神隠しの廃墟として恐れられ、今は殆ど人が足を踏み入れる事は無い。
・この場所で、偶然ヴェロキラプトルを駆るカオスニアンが目撃される。
・KBCが密かに調査したところ、どうやら廃墟の奥に残る古い家屋に、お尋ね者のカオスニアン3人組が潜んでいるらしい。
・彼らは、村や町から子供をさらっては奴隷商人たちに売り飛ばすという、悪どい仕事を生業としている。
・家屋から子供たちの泣き声が聞こえたとの事から、カオスニアンは複数の子供を質に取っていると考えられる。

 さて。赤毛の少女が依頼に参加するかどうかは別問題として――。
 冒険者諸君には、この廃墟に隠れている『お尋ね者のカオスニアン』を退治して欲しい。勿論、子供たちの身柄を無事確保しての上でだ。
 幸い今はまだ、賊にこちらの動きは悟られていない。家屋は平屋。目視されたヴェロキラプトルは1頭のみである。


┏━━━━━━━━━━━━森へ━━┓
┃▲▲仝仝仝仝仝仝仝▲▲▲∴∴▲仝┃
┃▲▲仝仝仝仝仝仝▲▲▲∴∴∴▲仝┃
┃▲▲▲仝仝仝仝仝仝▲獣∴∴∴∴□┃
┃??□□□▲▲仝仝□□∴□家家□┃
┃□□□□□□▲仝仝仝仝∴仝家家□┃
┃□∴∴∴∴□∴∴∴∴∴∴仝∴∴□┃
┃□∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴□┃
┃□∴∴∴∴∴∴□□□□□□□□□┃
┃□▲▲▲▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴仝┃
┃□□□□□□□∴∴∴∴∴∴∴∴□┃
┃▲∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴仝┃
┃▲□□□▲□□∴∴∴□□□□□□┃
┃▲▲▲▲□□□∴∴□□∴∴∴▲▲┃
┗━━━━━━━廃墟━━━━━━━┛

獣/ヴェロキラプトルが発見された場所
家/家屋
□/廃墟に残る壁。高さ2mから高い部分で5m。
▲/岩場
∴/平地
仝/木々

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9700 リアレス・アルシェル(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb9803 朝海 咲夜(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●少女の名前事件
「お嬢ちゃん、お名前はなんて言うのかしら?」
「えとねー‥‥リンリン」
「そう、いいお名前ね」
 と、赤毛の少女に尋ねたのはソフィア・ファーリーフ(ea3972)。勿論、礼儀正しい冒険者たちは予め自己紹介済みである。
「嬢ちゃん、名前はなんだ」
 今度は、武具の準備を整え終えた風 烈(ea1587)が尋ねる。
「えっとね‥‥ランラン」
「ん?」
「あれ、僕が尋ねた時は確か‥‥ミンミン」
「「「――――――――お嬢ちゃん??」」」
 彼女は複数の名前を持っているのか! ‥‥なわけはないだろう。
「要するに、本名は言いたくないんだろ。当面は『カルアミルク』でいいんじゃないか」
「何よ、それ。意味あんの?」
「あるわけないだろ」
「あんたねー!」
 このテラ無責任男がああ〜〜! と琢磨にエメラルドフロージョン張りの格闘技を仕掛けているフォーリィ・クライト(eb0754)を脇で傍観しつつ、仲間たちは着々と襲撃の準備を進めていた。

   *****

「幼い子供を攫って売り飛ばすとは、人もカオスニアンも、所詮小悪党のやる事は変わらんな」
 廃墟周辺の偵察から戻ったアーシェを出迎えつつ、ランディ・マクファーレン(ea1702)が呟く。
「ヴェロキは1頭のみだな。木造立ての家屋はかなり古びてるし、突入時の子供たちの場所さえ誤らなければ大きな問題は無いだろう」
「それなら、陽動班が動くのと同時にエックスレイビジョンで確認できます」
 アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)の進言に、先ほど朝海 咲夜(eb9803)と共に森の中に網罠を仕掛け終えたリアレス・アルシェル(eb9700)が補足を挟む。
「陽動なんだけどさ、恐獣のやつ案外気配に敏感なんだよね。風向きには結構注意したんだけど、思った以上に警戒が必要かも」
「突入班は子供たちの安全確保が最優先って事で、こっちも気をつけるぜ」
 と返答するアッシュ・ロシュタイン(eb5690)は、すでに気合十分であった。
「なるほど。ところで、あの廃墟の一番高い壁の上に人影が見えるのは気のせいだろうか」
「どれどれ」
 と、グラン・バク(ea5229)以下、仲間の者たちがこぞって正面の壁を眺める。
「あれ、ツキ・ジントニック」
「え! ツキも加勢してくれるのっ?」
「あいつがそんな事するわけないだろ。只の物見だ」
「なぜ分るんだ」
 琢磨の答えに、クーフス・クディグレフ(eb7992)が疑問を抱く。
「金にならない事はしない」
「だって、ギルドの報酬が‥‥」
「端金だ」
「‥‥」
「あんたねー!」
 戦闘開始前からフォーリィが疲労するのを防ぐべく、仲間は便宜を図った。色々と‥‥。
「それにしても、偽名を使いたいなんて、よほどの事情があるんでしょうね」
 と、赤毛の少女の事を心配して咲夜が言った。
「他人の負い切れない仕事を請け負う。それが冒険者というものだ」
 グランはそう言って小さく笑ってみせた。少女の事も一緒に面倒みよう――と言っているのだと咲夜は思った。

●陽動〜出撃!
 空から絨毯で目的地点に向かうソフィアら陽動班一行に、壁の上からジプシーっぽい派手な民族調の衣裳に身を包んだツキが元気に手を振っている。本当に物見を決め込むつもりのようだ。
 上から眺める限り、カオスニアンに特に動きは無い。
 一行はヴェロキラプトルへ先制攻撃を仕掛けるべく、家屋から少し離れた場所に速やかに降り立った。
「では、状況、開始します」
 そう言い終わると、ソフィアは直ちに詠唱に入る。
「竜と精霊よ、我に汝地竜の力を与えん――――グラビティーキャノン!」
 次の瞬間、凄まじい地響きと共に恐獣目掛けて爆風が炸裂した――――。

   *****

「怖いよ〜〜〜〜〜っっ」
「えーんっ、誰か助けてよ〜〜〜〜っ」
「お母さ〜〜ぁんっ」
「うるせえッッッ!!」
 爆音に驚いた子供たちが一斉に騒ぎ始めたので、賊も釣られて慌てふためき始め、やがて、賊のリーダーらしき男が腰の剣を抜いて大声で怒鳴る。
「だからガキは嫌いなんだよ。お前ら黙らねーと、順番に首切り落とすぞ!」

「「――――――――そんな事はさせないっっっ!!」」 
 壁の向こうから声がしたと思った瞬間――同時に2箇所でバーストアタックが炸裂、突入班が屋内に一斉に雪崩れ込んだ。
「この外道が、只ですむと思うなよ!」
「だっ、誰だ、てめえらっ」
 と吠えてはいるものの、カオスニアンの膝はガクガク震えているのを冒険者は見逃さない。
(なんだ‥‥こいつら本当に小者だな)
 グランは賊の力量を見切ると、後は静かにタイミングを計った。
「もう大丈夫だ、俺の後ろに隠れていろ」
「有難う、おじちゃん!」
(頼むからお兄ちゃんと呼んでくれ‥‥)
 そう心の中で呟きながら、烈が怯える子供たちを庇って前に出る。その瞬間を待っていたかのように、グランの拳が宙を舞った。
 その場で腰を抜かしたカオスニアン2名は程なくグランとアレクセイに取り押さえられたが、機敏に攻撃をかわした1人が廃墟側の出口に向かって駆け出した。だが――。
「貴方には逃げる権利などありません。悪行に対する裁き、潔く受けて貰います」
「ああっ、外道には容赦しないぜ、覚悟しなっ!」
「フン、上等じゃねーか」
 行く手を塞ぐ咲夜とアッシュにカオスニアンのリーダーは不敵に笑う‥‥。

   *****

「ねえねえ、くたばった?」
「どうでしょうか‥‥」
 グラビティーキャノンが放たれたものの、ヴェロキは転倒せず、ただ白目を向いて直立不動のまま動かない。
「うーん、ここで止め刺した方がいいのかな?」
 刹那――壊れかけの家屋の方から口笛が聞こえてきた。カオスニアンが用いる合図のようだ。すると、失神していたヴェロキの身体が小刻みに動き始める。
「しまった! えーい、ソニックブーム+スマッシュでどうよっ」
 フォーリィの一撃は見事に命中するものの、恐獣を打ち倒すには至らない。それどころか、ヴェロキラプトルの顔つきは闘志剥き出しで、目は爛々と輝いている。
「手負いの熊ほど危険だからな」
「クースフっ!!」
 他人事ではないと彼を叱る間も無く、ヴェロキラプトルの大暴走が始まった。
「「うわ――――――――――――――っ、皆避けてえええ――――――――――っっっ」」 
 何を思ったのか、俊敏な中型恐獣は一目散で家屋の中へ突進してゆく。
「ちょ、ちょっと待った!」
「皆、急いで! 廃墟の入り口まで駆け足〜〜進めっ!」
 アレクセイと陽のフェアリーのサーシャが子供たちを引率して逃げるのを助けながら、仲間たちはヴェロキを迎え撃つ。
 だが、ヴェロキラプトルは何を思ったのか、彼らの手前まで来ると実に器用にくるっと身体を翻し、今度はフォーリィたちに向かって突進して行った。
「来たわね〜〜」
「気まぐれな子ですね」
 ソウルセイバー+1を構えて立つフォーリィに向かってまっしぐらに突っ込んで来た恐獣は、彼女の目の前で強烈な『くしゃみ』を放った。
「‥‥」
「悲惨だ‥‥」
「貴様ぁぁぁ‥‥」
 全身に鼻水を浴びて怒りに震える彼女を嘲け笑うかのように、ヴェロキラプトルは鼻をほじった。

   *****

「何やってんだ、あいつら‥‥?」
 と、空中から怪訝そうに様子を伺うのは、ペガサスのフェーデルに跨ったランディだった。
「仕方ない。加勢に加わるか」
 ランディは改めて剣にオーラパワーを施すと、フェーデルと共に暴れ恐獣の制圧に向かった。
 リアレスは標的が変わった事に焦りつつもしっかり後方から支援した。
 やがて、ヴェロキが疲れてきた頃合を見計らって再びソフィアが放った達人級グラビティーキャノンによって、ようやく獣は倒された。
 
●ツキの予言と赤毛の少女
「我が輩は子供の味方サンタである。頑張った皆に我が輩からのプレゼンである。ホワイトひな祭りとか言うらしいぞ」
 と、サンタ人形を片手にソフィアは子供たちに美味しい甘酒を少しずつ飲ませていく。身体が温まれば気持ちも落ち着くものだ。
 リアレスが自前のお菓子を配ると、心も身体も弱っていた子供たちにようやく明るい笑顔が戻った。

   *****

「あの子たちの笑顔が最高の報酬ですね」
「全くだな」
 とその時、無事に仕事を終えて一息付いている冒険者の所へ人攫い退治を高みから見物していたツキがやって来た。
「おー! あたいと同じ守護竜の人が3人もいるとはおっどろきぃ! あんたと、あんたとあんた! 『月竜生まれ』ね」
「俺」
「私ですか?」
「僕?」
「ちなみに、あそこでシカトこいてる奴とは相性最悪だからね。要注意」
(ふーん……)
 と、頷いたのはランディ・アレクセイ・咲夜の3名。ツキが指し示した人物は上城琢磨であった。
 ツキの見立てによると、『火竜生まれ』は烈、グラン、リアレス。『水竜生まれ』はフォーリィとアッシュ。
『風竜生まれ』はソフィアで、『地竜生まれ』はクーフスだそうだ。
「他にも色々知りたきゃ後で酒場へ来なよ。面白いもん見せてもらったから、特別にサービスしてあ・げ・る♪」
(当たるも八卦、当たらぬも八卦か……)
 と、後日酒場の占い卓を訪れようと決めたのは、恐らく烈だけではないだろう。
「鋼鉄の占い師殿。俺はでかい竜に会えるだろうか」
 ツキは暫くグランの顔を眺めてから、意味有りげな笑顔で答えた。
「でかい竜‥‥あんたが言ってるのと同じかどうかわかんないけど、竜に会う機会ならあるよ。多分」
「おい、今の話本当か?」
 と、訝しげにランディも尋ねる。
「あたいも夢で見るだけだけどね‥‥この所毎晩見るんだ。聖なる山で、何かが起ころうとしてる‥‥」
 ――ツキの言葉に一同が静まり返った。

   *****

 一方、その頃クーフスは一人で廃墟の周辺を探り歩いていた。
 誤植と告げられたにも関わらず、地図にあった『?』印がどうにも気になるらしい。
「おじちゃんも探しもの?」
「えっ」
 見ると、カルアミルクと命名された赤毛の少女が後を付いて来ている。
「いや、探し物というわけでは‥‥」
「あっ! おじちゃん、そこ動いちゃだめっ、だめだからねっ!」
「‥‥うわっ」
 いきなり少女に背中を押されて、クーフスは前のめりに四つん這いになった。その背中に少女がひらりと飛び乗る。
「間違いない‥‥お姉ちゃんの字だ‥‥」
「お姉ちゃんの字?」
 見ると、白い壁に一定の間隔を置いて、素人では解読不能な高度な精霊碑文学の一部分やら小難しいアプト語の文献が綴られている。
「やっぱり此処に居たんだ‥‥お姉ちゃん‥‥お姉ちゃあああああ――――――――んっっっ!!!」
 少女はそう叫ぶと、やにわに号泣。
 必死でなだめるクーフスを見て、仲間が誤解したのは、まあ、当然の成り行きではあった。
 しかし――。彼女の旅を助ける事が後に、彼らの大きな敵を呼び寄せる事になろうとは、この時まだ誰も知る由も無かった。
 
 尚、なぜツキが『鋼鉄の占い師』と呼ばれるかについては、後の記録の中で語られる事になる‥‥はずだ。