魔術師の棲家

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月26日〜03月31日

リプレイ公開日:2007年04月02日

●オープニング

「それで、お嬢ちゃん‥‥えっと、カルアミルクだっけ。カルアミルクちゃんはお姉さんを探して旅をしているわけですね」
「ミルクでいいよ、お兄ちゃん」
(お兄ちゃん? そういえば、エドって歳いくつだっけ‥‥)
 と、おもむろにツキ・ジントニックは小首を傾げる。
 ――此処は、KBCメイディア本部にほど近い場所にある占い師ツキの住家である。
 この所多忙を極めている同僚、上城琢磨の分も含め本部の膨大な雑務を処理するためにKBCリザベ支部から呼び出されたエドは、そこでツキからある相談を受け、貴重な昼休みの合間を縫って彼女の家まで出向いて来ていた。
「ミルクのねーちゃんは、精霊魔法の達人で、おまけにロンゲ金髪の超美人なんだよねー」
「そうですっ!」
 と子犬のように元気よく答えると、赤毛の少女はバックパックの中から一枚の絵姿を取り出してエドに見せた。
「‥‥。こいつは凄い」
 彼が思わず感嘆したのも無理は無い。そこに描かれている少女の美しさ、気高さもさることながら、エドが特に興味をそそられたのはその見事なまでの画力であった。
(この絵姿を描いたのは相当名のある絵師に違いない。という事は、ギャラも相当。絵を描かせた彼女の家もお金持ち。つまり‥‥)
 と、ここでエドはツキを振り返った。案の定、ツキはにこにこしながらミルクと熱心に話し込んでいる。
「金づるってわけですか‥‥」
「え? なんか言った、エド」
「いえ、別に。それで、人探しの依頼を出したいと」
「あ、違う違う〜」
「?」
「あのね、あたいの連れで同業者の情報にやけに耳聡い奴が一人いるんだよねー」
「同業者?」
「あたしのお姉ちゃんは魔術師なのです」
 ミルクの話をまとめるとこうである――。

   *****
 
 セルナー領のさる貴族の血を引く娘であるカルアミルク(偽名)とその姉『マリア』は仲の良い姉妹であったが、魔術師として人並み外れた才能を示し始めた姉を、一族の者は追い立てるようにして『然る高名な魔術師』の元へ弟子入りさせた。長い修行を終え、師のもとを離れた彼女はしかし、セルナー領の家には戻らず旅に出たまま、行方知れずになってしまった。

「追い立てるように‥‥ってどういう意味かな」
 エドの素朴な疑問にルウは困ったような顔をすると、大きな瞳に涙をいっぱい溜めながらその場で黙って俯いた。するとツキがやや遠慮がちに、ミルクの代わりに答を返した。
「えっとね、一言で言うと彼女は『異端』だったんだよ」
「お姉ちゃんは、『異端』なんかじゃないもんっ!」
「んー‥‥まあ、本人が好きでそうなったわけじゃないからね。この子の気持ちもよく分るんだけどね」
「『異端』――抽象的すぎて私にはよく分りませんが」
「つまり、身体に痣があったんだって。それも、ただの痣じゃなくて、十字の紋章のような痣がくっきりと右手の甲に。それを面白おかしく『混沌の刻印』みたく吹聴する輩がいるわけよ。古い田舎町にはよくある話でしょ」
「‥‥なるほどね」
 確かに――。メイディアやリザベのように毎日よそ者が出入りする大きな街はともかく、地方というのは往々にして排他的で保守的だ。
 自分の家から混沌の印を持つ者が出たなどと、ただの噂話にせよ、一族にとっては恥――でしか無かったのだろう。
「でもさ、優秀な魔術師で、それほど目立つ特徴を持ってるなら、多分『湖畔のアスタロト』に聞けば、居場所くらい分るんじゃないかと思うわけよ」
「アスタロトですかっ――――――――――!!?」
 確かに彼女に聞けば、それくらいの事は分りそうな気はするが――とエドは思う。
 だが‥‥。
「それで報酬は誰が」
「あたしが出します! ここにお金もあります」
 と、ミルクが取り出した財布には、金貨がざくざくと‥‥。
「分りました。勿論、ツキさんも同行されるんですよね?」
「勿論っ!」
「ありがとうございますっ!」
「それじゃ、依頼の内容は私の方でまとめておきますから、後で二人でギルドに行って来て下さいね」
「えー、エドが出してくれるんじゃないの〜?」
「私はメイディアまではるばる遊びに来たわけじゃないんです。本部に戻れば山のように積もった書類が‥‥」
 刹那、男の背中に悪寒が走る。そろそろ琢磨からのシフール便が本部に届く頃であった。
「あ。あのさー、今週のアンラッキーな竜は、陽と地の竜だからね」
 家の扉を開けたところで、ツキの声がエドの耳に届いた。ちなみに陽竜は琢磨、地竜はエドである。
 そうして、KBCの男が帰った住家で、ツキと赤毛の少女ミルクはせっせと冒険のための身支度を整え始めるのだった。


■依頼:ミルクとツキを伴って、月翳る湖の畔に住むという陽の魔術師アスタロトを訪ねる。

・月翳る湖は深い深い森の奥にあって、森には有象無象のモンスターたちが住んでいる。
・アスタロトはプライドが高く、おまけに少々変人である。
・道中、北に向かう分かれ道の先の沼地で以前、アスタロトが大事なものを落としてしまったらしい。それを拾って届けるとアスタロトに喜ばれるのは必定。だがその沼には「エレクトリックイール(雷電うなぎ)」が。
・森の中には「ポイゾン・トード(毒蛙)」やら「バイパー(蝮)」やらがうじゃうじゃ。
・洞窟の中には「クラウドジェル」と「ジャイアントトード(大蛙)」が数匹。
・噂によるとアスタロトが育てていた「ジャイアントパイソン」が檻から逃げてそのままらしい。



仝仝仝仝仝仝仝仝▲▲仝湖湖湖湖湖湖湖
仝?□□□仝仝仝仝▲▲湖湖湖湖湖湖湖
仝仝仝仝∴仝仝仝仝▲▲▲湖湖湖湖湖湖
仝仝仝仝∴仝仝仝仝仝仝▲仝仝湖湖湖湖
仝仝仝仝∴∴∴∴仝仝仝▲▲出∴■湖湖
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∴∴↑仝仝仝仝∴仝仝仝仝仝仝∴仝仝仝
∴森へ∴仝仝仝∴∴仝仝仝仝仝∴∴仝仝
∴∴∴∴仝仝仝仝∴∴∴∴∴∴∴仝仝仝
∴∴∴∴仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝

仝/木々
■/アスタロトの棲家
∴/道
▲/岩場・洞窟
入/洞窟入り口
出/洞窟出口
□/沼地
?/アスタロトが落し物をした場所

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9803 朝海 咲夜(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●沼地の落し物
 森への入口から、アリウス・ステライウス(eb7857)が用意してくれた魔法の絨毯を使ってひとっ飛び――。
 気難しそうなアスタロトの機嫌を取るために、冒険者一行は沼地にやって来た。
「これって一体どういう事だぁ?」
「どういう事だぁ?」
 主の口調をそっくり真似て、エレメンタラーフェアリーのエルデが小首を傾げる。
 ランディ・マクファーレン(ea1702)はエルデのグリーンワードを使って落し物の位置をある程度確定しようとしたのだが、沼の周りの木々は、皆が皆そろってアスタロトが落し物をするのを目撃していたのだった。
「もしかして、彼女の落し物って一つじゃないんじゃ‥‥」
「そうなのかも」
「どう思われますか、ツキさん」
「って聞かれてもねー」
 と、ツキもあっさり首を横に振る。
 その刹那――。
「ある日アスタロトは大事なものを沼に落としていきました。大事なもの‥‥それは彼女の心です」
「ええっ!!!」
 声のする方を振り返ると、皆から少し離れた所で海パン姿のグラン・バク(ea5229)が何やら子供に寝物語を聞かせるような口調で語りながら、せっせと足腰を動かしている。
 どうやら沼に飛び込むための準備体操らしかった。
「彼女の心とは、なんとも詩的な発想だ」
 感心するように呟くアリウスの背後で、ツキがあっと声を上げた。
「そういえばあいつ‥‥以前、ハート型のおしろいケースを嬉しそうに何度もあたいに見せびらかしてたっけ」
「おしろいケースですか。なるほど女性らしい持ち物ですね」
 と、朝海 咲夜(eb9803)が深く頷いて、差し当たり小物類に見当をつけて沼の捜索に掛かる事にした。
 リヴィールマジックを掛けるという案も出たのだが、上級の魔術師になるとマジックアイテムはさほど必要ないとのツキの助言から、代わりにエックスレイビジョンを使ってみる事になった。 
 だが、沼を見通したツキはいきなり黙り込む。が、暫くして後、
「と、とりあえず〜あたいは、サーシャのトルネードで沼地の水を巻き上げちゃうのが手っ取り早いと思うね」
 と、やや引き攣った表情で助言した。
「じゃあ、やってみるね。竜と精霊よ、我に汝風竜の力を与えん――――トルネェード!」
 サーシャ・クライン(ea5021)が気合を込めてまず第一波の竜巻を起こすと、出るわ出るわ‥‥。
 放電中の雷電うなぎの中に混じって、と言うよりも、宙に巻き上げられた椅子やらテーブルやら本やら靴やら酒樽の中にうなぎが混ざってと言うべきか。
「彼女はひょっとして沼をゴミ捨て場にしていたのかしら」
 眉間にぴくぴくと皺を寄せながらジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が呟くと全員が無言で頷いた。とんだ環境汚染であった。
「でもさ、この中から『大事なもの』だけを探し当てるのって凄く難しそうだよね」
 不安そうなレフェツィア・セヴェナ(ea0356)に、ツキが答えた。
「差し当たり、あと2度ほどトルネードで水を巻き上げてもらって、目ぼしい物が振ってこなかったら諦めると」
 ツキの提案を受け入れた仲間たちに、レフェツィアはグットラックを施した。
「あ、その頃には雷電うなぎも力尽きてるかも」
 と、嬉しそうに微笑むのはフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)であった。
「ウナギは美味しく頂くのがイイと思いまーす!」

   ***

 なぜかツキが用意していた魚掬い用の網付き棒を持って、全員で空から落ちてくるウナギやら小物やらを捕らえた所、ツキが言っていたハート型のケースが見つかった。
 ウナギは希望者に配られた。
「この際汚れるのは覚悟していたが‥‥」
 泥水を全身に浴び、あまりの悲惨さにげんなりするアリウスではあったが、それは他の者とて同じ。
 とりあえず、男性陣、女性陣に分かれて服を着替える事にした。
 しゃあしゃあと女性陣の中に紛れ込んでいた咲夜はボコボコにされた後、男性陣の元に送り届けられた。
 虫避けにと連れてきたエルシード・カペアドール(eb4395)のペットである鬼火のエシュロンに襲われなかっただけでも拾いものであった。
「ねえねえ、ミルクちゃんにあの絵の事聞いてみた?」
 森の中の虫を避けるために肌の露出を極力避けたモダンな服に着替えたエルシードは、同じく着替えを終えたグランとクーフス・クディグレフ(eb7992)に声を掛ける。
「あの絵とは?」
 ジャクリーンが尋ねると、エルシードは掻い摘んで今までの状況を説明した。(「魔の交渉人〜亡國の子供」参照)
「ミルク殿、姉上の絵姿を見せて頂けまいか」
「いいよ、はいっ」
「美人だ‥‥」
 とグランが一言。
(んなことはどうでもいいっ!)
 と蹴り一発。
「どお、男爵のコレクションに有った肖像画に似てる?」
 前を抑えて蹲るグランを無視して、エルシードがクーフスの顔を覗き込むと、彼は耳たぶまで真っ赤にして何度も頷いた。
「奇妙な所で繋がるんだな」
「まあ、有名な絵師の絵なら男爵が所持していても不思議は無いですが‥‥」
「ともかく、アスタロトの棲家へ行ってみようよ!」
「わー、空で行くなら私はペガサスがいいっ!」
「悪戯したら、即振り落とす」
 というわけで、フィオレンティナはランディのペガサス、フェーデルに同乗。
 他のペットたちも引き連れて、仲間たちは再び魔法の絨毯とペガサスで一路湖畔にある魔術師の棲家を目指した。


●湖畔の棲家〜マリアの事、ラ・ニュイの事
(行方不明の貴族の身内探し‥‥経験上この手の話が災難の種にならずに済んだ試しが無いんだが)
 一抹の不安を抱きながら、ランディは一足先にアスタロトの館に到着した。
「あら、お客さまかしら」
 刹那、館の大きな扉が開いて中から黒髪のエキセントリックな美女が現れた。
「(この女性がアスタロトかな‥‥)」
 ランディの背後からフィオレンティナがぼそぼそと耳打ちするのを不思議そうに美女が眺める。すると、ほどなくツキの一行がその場に到着した。
「あら、今度はツキちゃんまで」
「やっほー。おひさー」
 美女はアスタロト本人であった。

   ***

 アスタロトの家のインテリアはジ・アースでいうところの華国風で統一されていた。
 碧色の煌びやかなチャイナドレスに身を包んだ彼女は、グランが差し入れしてくれた香り高いハーブティーを器に注ぎ分けている。
 腰の辺りまで伸びた長い髪はツインテールに結われ髪飾りには紅の花が添えられていた。
「というわけでぇ、あたいたちは『混沌の刻印』を宿した金髪の魔術師を探してるってわけ。ねー、何か知らない?」
「金髪ねぇ」
「生き別れの姉を探す哀れな幼子のためにも、不躾ながら御願い申し上げる」
「そうねえ、貴方たちがほんの少しわたくしに協力してくれるなら、考えなくもないわ」
 持参の礼服に身を包み、恭しく頭を下げるランディを横目で見ながらアスタロトはわざと焦らす様に答えた。
「あ、そうそう、これ。あんたのでしょ」
「まあっ、ハート型のおしろいケースっ、これを何処でっ?!」
 ケースを手にしたアスタロトの表情が突然和らいだ。ドロだらけになった服は無駄ではない。環境汚染については次回という事で。
「お茶や食料まで頂いちゃった事だし、ツキちゃんの顔を立てて知ってる事を教えてあげるわ」
 この言葉に全員が安堵したのは言うまでも無い。
「その魔術師なら、一時期結構噂になってたわよ。メイの国の東から西まで転々と修行の旅を続けていて、彼女に弟子入りした人もいるって聞いたわ。とにかく腕は第一級ってとこね」
「なるー、それで今どこに?」
「わかんない。この1年ぱったり彼女の噂は聞かないわ。メイの国を離れたのか或いは‥‥」
「あのっ、お姉ちゃんが最後に居たっぽい場所とか分りませんか? 何でもいいんです、何か手がかりだけでも掴めたら!」
 必死にすがるミルクに困ったような顔でアスタロトが答える。
「1年前にはラケダイモンに居たらしいけど、今はどうだか」
 ラケダイモン――とは、リザベ領南端にある都である。
「ね、ね、ラ・ニュイの事も分らないかな」
「おお、そうだ、もしご存知なら教えて貰えると助かる。艶やかな赤毛で月魔法を使う『ラ・ニュイ』と名乗る男に関してだ」
「『ラ・ニュイ』って?」
 レフェツィアとサーシャが尋ねると、エルシードは掻い摘んで今までの状況を説明した。(「魔の交渉人〜砂漠の人質」参照)
「年齢、容貌から察すると‥‥レオナルド・フォン・クロイツの事かしら」
「レオナルド・フォン‥‥?」
「でも、彼は3年以上前に死亡したはずよ」
「「死亡――――っ?!」」
「それ、もっと詳しく分るかな。琢磨たちが追ってる奴なんだ」
「琢磨‥‥ああ、例の。でも、レオナンには関わらない方がいいわ」
「なんでさ」
「死にたくないでしょ? 尤も、死ねたらまだマシなのかも‥‥」
 アスタロトはその話題には触れたくないと言わんばかりに、パンパンっと大きな音を立てて、椅子の上の背もたれ代わりのクッションを叩いた。

   ***

 ともかく幾つかの情報は得られた。クーフスが神隠しの遺跡で目にした文字列についても、ミルクの姉マリアが弟子たちに高度な魔術を伝授する際に使われたものだろうと推測された。
「お姉さんを大好きだという気持ちを忘れなければ、絶対再会できますよ。僕も力になります」
 咲夜がミルクの肩を優しく叩いた刹那、アスタロトの美声が高らかに館中に轟いた。
「それでは、本日のクロッキー・タぁイム! モデルはランディ・マクファーレンとクーフス・クディグレフ!」
「へ?」
「俺?」
「さあ、さっさと脱ぐっ!」
「はあぁぁ〜〜? うわっ、やめろ――――っ、服、勝手に剥がすなっ!!」
「クロッキーって?」
「速写。いわゆる速攻で描き上げるスケッチの事で、美術の基礎みたいなものだな」
「ふーん」
 と、仲間たちが眺めている前で、あれよあれよと言う間にクーフスたちは下着一枚の姿で、アスタロトが用意した椅子に座らされている。
「あんた、いつから絵なんて始めたのよ」
「先月からね〜、いいモデルが居なくて困ってたのよん。ツキちゃんに感謝♪」
 ツキの問いに嬉しそうに答えながら、アスタロトはやる気満々でスケッチ用の羊皮紙を広げ始めた。
「そこっ、ちゃんとポーズ取って! 動くなっ!」
「‥‥」
 それから3分後――。
「もうご勘弁願いたいっ! こんな恥辱は耐えかねる!」
「俺もやんぴー」
 席を立つ彼らに、アスタロトの不敵な笑みが零れた。
「キャーッ! クーフス、後ろ〜〜!」
 レフェツィアの叫びも空しく、ジャイアントパイソンがいきなりクーフスの尻に噛み付いた。
「どっから蛇が‥‥」
「待ってろ、クーフスっ、今助けるッ」
「キャーッ! ランディ、前〜〜〜〜!」
 仲間たちの叫びも空しく、ジャイアントパイソンがいきなりランディの‥‥に噛み付いた。
 名誉の負傷であった――。
 ちなみにこの騒ぎのおかげでツキは陽魔法使用料を冒険者たちからふんだくるのをすっかり忘れていた。
 レフェツィアのグットラックのおかげかもしれない――仲間たちは彼女に深く感謝した。