プリンス・オブ・パイレーツ
|
■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月17日〜05月22日
リプレイ公開日:2007年05月26日
|
●オープニング
ナイアドの南西にアウトローの巣と化した町があった。
騎士崩れの者から海賊上がりの者、流れ者のカオスニアンなど、兎も角一度や二度は『お尋ね者』として王宮やギルドに名が挙がった事のある有象無象が屯していて、堅気の人間はまず近寄れない。
その退廃ぶりを見かねた騎士団が何度か町の大掃除をしたのだが、その土地がお気に召したのか、悪党どもは何処からともなくやって来ては町に居座った。
そして今日、そのナイアドの港に一人の少年が降り立った――。
***
「ああ、君ほどに美しく可憐な乙女は今まで見た事が無いよ。今日僕がナイアドの叔父の別宅に来たのは、まさしく精霊の導きだったに違いない」
「まあ、ぼっちゃまったらお上手ですこと。私のように身分の卑しい者と一緒の所を誰かに見つかっては、きっと男爵様のお怒りを買いますわ。どうか早々にお屋敷にお帰り下さい」
「そういう慎ましやかな所も素晴らしい! 貴族の女どもは気位ばかり高くて話にならないんだ。君のような清楚な女性を将来妻に娶る事が出来れば‥‥」
「ぼっちゃま‥‥」
うっとりと男を見つめる女の頬に、男がそっと接吻をする。
時は黄昏――そろりそろりと漆黒の夜の帳が下り始めた港町の人気の無い桟橋で何やら一組のカップルが仲睦まじげに寄り添っている。
男の方は20才そこそこの青年だろうか、見るからに高貴の出らしく大変小奇麗な衣裳を身に纏っていた。
片や女の方だが、こちらはまだ10代の娘に見えた。
下町の娘だろうか、青年とは対照的な質の悪い生地で仕立てた粗末なドレスが見窄らしかったが、顔立ちは大層綺麗で、見事な金髪に深い海の色を湛えた大きな瞳、女性らしく細く尖った顎に小さな赤い唇――と年若い殿方であれば、彼女の虜になるのは至極納得のゆく話だった。
ただし、胸の辺りは少々物足りないものを感じさせたが――。
「きっと君は僕が目を離すと、罪の無い小鳥のように何処か遠くへ飛び去ってしまうに違いない。お願いだ、今宵は僕と一緒に叔父の屋敷に泊まっておくれ」
「ぼっちゃま‥‥そのような事許されるはずはございません。このようにはしたない身なりでは‥‥」
「といっても、店はもうどこも閉まってしまった‥‥そうだ! ではせめて屋敷の近くにある宿屋で宿を取ってくれ。食事も好きなものを頼めばいい。お金なら‥‥ほら、ここに十分あるんだ」
「まあ! こんな大金、私は今まで見た事がありませんっ」
娘が驚くのも無理はない。青年は小さな袋を懐から取り出して、中にびっしり詰まっている金貨を嬉しそうに娘に見せた。
「これで安心しただろう? さあ、僕と一緒に来てくれるね」
「いいえ、それは出来ません」
「?」
「だって、俺が用があるのはお前じゃなくて、『こっち』だからさ――――――っ!!」
「うわあ――ッッ! 貴様、何をするっ!」
娘――と思われた若者は貴族の青年から即座に金貨の袋を取り上げると、ぽーんと地面を蹴って軽々と青年の背丈を飛び越えた。
そして着ていたドレスを剥ぎ捨てると、続いて見事なその金髪を後ろで一つに束ねた。
「お‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お前っ、男?????」
「悪いかよ」
「お‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お前っ、男?????」
「何度も言わせんな」
「お‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お前っ、男????? ほんとにっ??」
「別に信じたくなきゃ、信じなくてもいいけどよー」
旅姿に戻った少年は、顔面蒼白で今にも卒倒しそうな純真無垢な貴族の青年を尻目に、金の詰まった袋を懐に仕舞い込み、素早く身支度を整えた。
「ま、お互いいい夢を見たって事で、これは礼金代わりに貰っておくよ! あんたと縁がありゃ、また会えるだろーさ!」
「ま、待ってくれ!! 行かないでくれっ! せめてお前の名を‥‥っ」
「あーばよ」
少年は矢のような速さで駆け去り、真っ暗な桟橋に哀れな貴族の青年だけが残された。
ちなみに青年の叔父は名をマルキ・ド・ステファンベール。ティトルのエクレール男爵で名が知られた人物であった。
***
「さてと。金は出来た。後は腕の立つ助っ人を集めるだけだな」
少年は人通りが残っている港に戻ると、旅の商人から駿馬を1頭買い求めた。
「待ってろよ、親父‥‥奪われた宝の地図は絶対俺が取り返す。そして、母さんの仇は必ず俺がっ――――!」
深い海の色の瞳を持つ何やら訳有り気な少年は、馬を駆り一路冒険者ギルドを目指した――。
■依頼内容:少年と共にナイアドの南西にある『アウトローの巣と化した町』に行き、少年曰く『宝の地図を横取りした男』を探し出して地図を取り返す。
○町には常時血の気の多い輩が徘徊していて、ケンカや決闘など流血騒ぎは日常茶飯事です。
○お金でほいほい言う事を聞く輩もいれば、腕自慢に負けると潔く手助けをしてくれる頼もしい輩もたまにいます。
○少年が追っている男:名はドレーク、通称『チョビ髭』。歳の頃は30過ぎで細身で長身、黒髪にちょび髭を生やした見るからに神経質そうな男で、隻眼、左頬に刀傷あり。剣の腕も達者です。
○目的の男を見つけたら、正面から実力行使で地図を奪っても全く問題有りません。無法地帯ですので‥‥。
○ナイアドまでは定期便のゴーレムシップで移動します。
【町の地図】
↑崖
凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹
┃∴∴∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴┃仝仝
┃∴∴∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴┃仝仝
┃∴∴∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴┃仝仝
┃∴■∴∴∴∴│∴∴■∴│∴∴■∴∴│∴∴∴∴∴┃
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
西門∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴東門
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴■∴∴∴■∴┃
┃∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴∴∴┃仝仝
┃∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴∴∴┃仝仝
┃∴∴∴∴│∴∴∴∴│∴∴∴∴∴│∴∴∴∴∴∴∴┃仝仝
凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹仝仝
↓荒野
■/酒場兼賭博場
│/路地
凹/高い壁
●リプレイ本文
●酒場その1
♪おどまいやいや 泣く子の守りにゃ 泣くといわれて 憎まれる
つらいもんばい 他人の飯は 煮えちゃおれども のどこさぐ〜
「チッ! んな辛気臭い歌なんぞ、聞きたかねぇぞっ!」
「俺は弾きたい曲しか弾かない。文句あんなら貴様の脳漿を鉄笛の血錆にしてやろうか?」
「んだとおおおお――――ッッッ!!」
「いいぞオオ――やれやれ―――っ!!!」
「俺、吟遊詩人に3G掛けるぜ」
「オイラ、元傭兵に6Gだ!」
「じゃあ、わしは片目に50Gじゃ‥‥」
「「「50GGGGGGGGG――――――――――――ッッッ!!!」」」
(やれやれ。焔威の奴、早速目立ってやがる)
町の東にある酒場は昼間から人相の悪い輩たちでごった返している。
背後で派手な喧嘩を始めた無天 焔威(ea0073)には目もくれず、ソウガ ・ザナックス(ea3585)は眼前の客と慎重に交渉に入った。
「そのドレークってちょび髭野郎の腕前その他有益な情報にはたんまり金をはずもう。ただし‥‥」
そう言い終わるや否や、ソウガは卓の上に乗った相手の掌のスレスレ横に鈍い光を放つナイフを勢い良くドスっと突き立てた。
「ガセネタだったら貴様の命を代金に貰う。言っておくが、これは脅しじゃない」
「いいだろう」
ソウガの態や気迫から彼の実力を見て取ったのか、情報屋は意外にすんなりと彼の要求に応じた。
「ドレークは今人を集めている。なんなら俺から紹介してやってもいいぜ。面が割れるのが困るんなら無理には勧めないが‥‥どうする?」
「その話、乗らせてもらう」
ソウガはカオスニアンの情報屋に5Gを払おうとしたが、彼は3Gだけ受け取って残りを彼に返した。
「俺はあの男は好きじゃない。あんたを紹介してがっぽり礼金をふんだくった後俺は町を出る。せいぜいあんたも頑張りな」
アメと名乗る情報屋は段取りを付けてから又来ると言って、ソウガを残して店を出た。
●酒場その2
「金も言うほどはありませんし、負けた方が何でも言う事を聞くというのでどうでしょう?」
「何でも‥‥だな?」
「勿論です。勝負は真剣でお願いします」
「あたぼうよっ」
(ア、アンドレア〜〜〜っっ!)
腰から抜いた太刀の刃先を澄まし顔で眺めるアンドレア・サイフォス(ec0993)を、パシリの小僧姿に変装したフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)と結城 梢(eb7900)が不安そうに見守っている。
「では」
「おうよ!」
刹那、アンドレアの長身を生かした《スマッシュ》が炸裂した。
***
「凄いっ! 女装が似合う人って世の中にいるんだなぁ‥‥」
自分の事はすっかり棚に上げて、ひたすら感心しているのは『女装命!』で有名な音無 響(eb4482)である。
「で、宝の地図て具体的にどういうもの〜?」
少年を囲んで相談が始まったのは、船がメイディアの港を離れてからの事であった。
少年の話はこうである――。
先のカオス戦争の折、ステライド領の然る貴族が北のウドの海を目指して船で逃げ出したが嵐に遭い、金銀財宝を積んだまま沈没。
何人かの貴族と船員は命辛々近隣の島々へ流れ着き、やがてその中の一人が沈没した船の凡その位置を地図に書き記した。
その地図はめぐり巡って海賊の首領である少年の父親の手に委ねられるが、いざ出発という時になって腹心でもあったドレークが裏切って父親を斬り捨てた上で地図諸共姿を消したという。
「親父はどうにか命だけは助かったけど、仲間は散り散りになっちまうし‥‥」
「そっか、色々大変だったんだ」
「話は分った。俺は神凪まぶいだ。あんたの事はどう呼んだらいいか教えてくれねぇかい?」
神凪 まぶい(eb4145)は愛想良く少年に手を差し出して握手を求めた。
「俺はユーリ。よろしくなっ!」
「こちらこそ! 後で変装の仕方を教えてね。女装専門かもしれないけれど♪」
悪戯っぽく微笑むシルビア・オルテーンシア(eb8174)に少年は満身の笑顔で応えた。
●酒場その3
(成らず者の巣と化した町とは中々に厄介ですね。出来る事ならば彼らにセーラの教えを説きたい所ですが、又の機会に致しましょうか‥‥)
チームを組んだ光太より一足先に、町の中央にある酒場に入ったファル・ディア(ea7935)は早速カウンターに着くと一杯目の酒を注文した。
小汚い格好のまま彼が出されたカップに2、3度口を付けた頃に、龍堂 光太(eb4257)がバーンッと音が立つ程に勢い良く店の扉を開けて中に入って来た。
「いらっしゃい」
店の主人が無愛想に声を掛けると、客たちが挙ってその若造を振り返った。その殺気を含んだ異様な空気の中で、光太は勇気を振り絞る。
「み‥‥ミルク下さいっ‥‥じゃなかった、ミルクをくれっ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はあ?」
ぷぷっという笑い声が聞こえたかと思うと、店中にどっと喚声が沸き上がる。
「ミルクだってよー、ひーっひっ、笑わせるぜ!」
「冗談は面だけにしてくれよ、坊や」
やんやと罵声が上がる中で、ファルとは少し距離を置いて光太がカウンターに着くと店の主人が小声で囁いた。
「(あんた‥‥奴らにぼこぼこにされる前に裏口から帰んな)」
「僕は‥‥っ」
「ミルクなら私が奢ってやるよ」
「ジュリア‥‥!」
女の一声で店内が嘘のようにシーンと静まり返った。その様子から、彼女がこの町で相当なポジションにいる事は光太にも容易に分った。
「ついでに上手い飯も付けてやんな。あんた、天界人だね? 仕事が欲しけりゃ私に付いて来な」
「‥‥」
「怖いのかい?」
「そ、そんなわけ無いだろっ」
光太は一瞬ファルに目配せしてから女の後を追って宿の奥へ入って行った。
「せいぜい姐御に可愛がってもらいな、坊や!」
客たちは一頻り野次を飛ばすと、またそれぞれの席で自分たちの話に夢中になり始めた。
「ドレークの野郎、天界人贔屓だからな」
「ドレーク?」
「ジュリアは野郎の女さ」
それを聞くなり、ファルは奥で変わった事があればすぐ知らせろと店主に金を握らせて慌てて店を出た。
彼にしては当然ながら予想外の展開だったのだ。
●地図を奪還!?
「あれー、あいつらしっかりチンピラ共に酒を奢らせてるよ」
「ユーリと響のペアじゃ無理も無いですね」
「確かに」
退路の確認を行いがてら、ドレークの情報収集に多少の金を店にばら撒いて来たまぶいとシルビアは、店内で楽しそうに客と酒を酌み交わしている二人の男を見て溜息を吐いた。
ユーリの女装は相変わらず完璧だったし、一方普段より男っぽい衣裳に身を包んだ響はどちらかといえば『男装の麗人』風に客たちには映っていた。(早い話が両名ともきっかり女顔なのである)
――が、やがてまぶいの合図に気付いたユーリが響を連れて店から出て来た。
「焔威は先に宿に戻った。ソウガと光太が上手くドレークに接触したようだが‥‥」
「怪しまれずに抜けて来れるかどうか心配です」
歩きながらシルビアたちの話に耳を傾けていた響が、ふいに足を止めた。
「あれ?」
「どうした、響」
「今擦れ違った男‥‥どこかで見たような」
「カオスニアンですかっ!」
「いえ‥‥でも、今のは金髪だったし‥‥まさかね!」
何でも無いという風に頭を振ってみせると、響は再び皆と歩き始めた。
***
夕暮れ前に4人が宿に着くと、そこにはドレークの手下に気に入られ、散々酒を酌み交わしつつ情報を集めてきたソウガを始め全員がすでに揃っていた。
皆から心配されていた光太も、ジュリアの目を盗んで無事宿に帰り着いていた。
「ドレークが宝探しの為に人を集めてるのは間違いない」
「じゃあ、地図も持ってるって事だよね。どうする? 早速強奪しちゃう?」
小僧姿が妙に板について来たフィーことフィオレンティナが嬉しそうに提案し、奪取はこの宵の口に行なう事に決まった。
「ところで焔威は5軒の店で一体何人のして来たんだ」
「えー? 総勢30人ばかしってとこかなー」
すっかり有名人となった焔威であった。
***
「ソウガ、これは一体何の真似だ?」
宵の口に、ほろ酔い気分で仲間と店を出て来たドレークの一味をソウガたちが取り囲んだ。
アンドレアが酒場で子分を引き入れたので、頭数では十分対等となった。
「ネタは上がっている。貴様が持ってる宝の地図とやらを頂こう。それは元々この少年の物だ」
「少年?」
「久しぶりだな、ドレーク」
「お前っ、ユーリか! フン、道理で母親のニーナそっくりなわけだ」
すると、長いスカートを剥ぎ取って旅装束に戻ったユーリが悔しそうに叫ぶ。
「母さんの名前を気安く呼ぶなっ!」
「ニーナを守れなかったのは貴様の親父のせいだ! あいつのせいでニーナは‥‥!」
「煩いッ!!」
声と共にユーリが斬り込み、彼の後に続いてまぶいやフィオレンティナも突っ込んだ。
予め全員に《グットラック》を施していたファルは、その機を逃さず自らも神聖魔法を用いて後方支援に回った。
ドレークは確かに強かったが、強者揃いの冒険者を味方に付けたユーリに分があった。
やがて逃げ出そうとする手下たちを梢が《ライトニングサンダーボルト》で見事に玉砕したので、ドレークはいよいよ追詰められて行ったのだが――。
だが、その時――猛々しい吠え声と土煙を伴って数匹の犬と1頭の駿馬が冒険者たちの前に現れた。
「お頭っ」
「ジュリア、いい頃合だ!」
犬たちの果敢な攻撃に仲間たちが怯んだ隙に、ドレークは女と共に夜の闇に紛れて彼方へと駆け去ってしまった。
「あと一息だったのに!」
「あー、でも地図なら奪っといたぜ」
「「「流石、焔威っ♪」」」
ランタンの灯りの下で皆が見守る中、焔威がドレークの懐から掠め取った丸まった羊皮紙を丁寧に開くと、そこには地図ではなく綺麗な文字が並んでいた。
「暗号?」
「いえ‥‥これは約定ですね」
一通り文章に目を通したファルが残念そうな顔で説明を続けた。
「これによると‥‥地図は別の誰かに渡されたようです。でも期日が決まっていて、その日には再びドレークに地図を返すと書かれています」
「写本でもするつもりかな」
響が思わず呟いた。印刷機は無くとも、技術があれば地図を書き写す事は出来る。
「あああ――――――――――――――――――っっっ!!」
「光太さんっ?」
声を掛けた梢の方を振り返りながら、目を丸くした光太が呟いた。
「あいつだ‥‥あの男が地図を持ってったんだ。僕と入れ違いでドレークたちの部屋を出て行った。約束は守るって‥‥」
光太が覚えていた男の人相を聞き、約定書に残された住所とサインを確認した時点で響とフィオレンティナはがっくりと項垂れた。
それは彼らがよく知る人物であった。
「皆ありがとう! 要はドレークより先に地図のある場所に辿り着けばいいんだろ? 大丈夫さ! 絶対間に合う!」
幸いな事にユーリはひたすら前向きな少年であった。
少年の旅はまだまだ続く――。