海賊の島、遠い島

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2007年06月25日

●オープニング

 海賊『蒼きパピヨン』――。
 彼らがメイディアの王宮を訪れたのはつい十日ほど前の話である。
 海賊が王宮に何の用があるのか? それは誰もが不思議に思って当然ではあるが、まあ、この時代貴族と海賊が太いパイプで繋がっている事は実は珍しくなかった。
 そもそもアリオ王自身が幼少の頃、海賊と共に暮らしていたというのはメイの国民であれば周知の事実である。
 そうして、この海賊『蒼きパピヨン』こそがアリオ王を育てた海賊の末裔たちであるというから、瓦版屋もといKBCが動かないわけは無い。

「ふーん、それでその海賊の若親分ってのはどんな奴?」
「歳の頃は40手前くらいで、海に生きる男らしい見事な男っぷりだったな。彼の父君、つまり現頭目がアリオ王より少し年上で、王がまだ幼い頃は兄のように慕っておられたそうだ。思いも寄らなかった再会に王は大変感激なされたらしい」
「まあ、一国の国王がそうそう海賊に会いに行くわけにはいかないか。それで、その『蒼きパピヨン』ってのは、何の用向でわざわざ王宮に?」
「お前‥‥そうやって他人から根掘り葉掘り情報を聞き出してる時が、一番活き活きしているな」
 王宮にほど近い貴族街の中にある馴染みの料理店の2階の大きな天窓のある小部屋で、運ばれてきた料理に手を付けながらカフカ・ネールは半ば呆れた口調で呟いた。
 だが、当の琢磨本人はその様な事には全くお構いなしであった。

「この間のナナルのパーティの時も気になってたんだけどさ。いくらカフカが伯爵様だからって、砂漠のカオスニアン相手の大戦の最中に舞踏会は無いだろ、普通。一体なんで? どうしてカフカがあの日王宮にいたわけ?」
 子供っぽい口調でふざけてはいるが、こういう時の琢磨はとにかく鋭い。伊達にKBCの表看板を背負ってはいないのだ。
「まあ、そう急かさずに、私に食事くらいさせてくれ。この店のスープは実に上手い。砂漠ではこれ程上手いものは食べられないからな」
「なあ、『蒼きパピヨン』‥‥関係あるんだろ?」
「琢磨、少しくらいは私の話を――」
「巫女や虹竜の登場に加えてカオスの魔物、そしてアリオ王の旧知の海賊の末裔までお出ましとは‥‥舞台の役者が揃って来たと見て不思議じゃない。それに‥‥」
「それに?」
「あの日カフカの他に、海戦騎士団の古参連中も顔を出してたよな。この局面でなんで海戦騎士団なんだ?」
 海戦騎士団――その名の通り巨艦ゴーレムシップを操り、『バ』や国籍不明の私掠船団を駆逐し、海の治安を守る軍隊である。
 無論、彼らとサミアド砂漠は関係ない‥‥。
「なーんか怪しいよなあ、海戦騎士団とカフカだけが舞踏会に呼ばれるなんてさー」
「もう、いい加減にしろっ!! お前のせいで飯もろくに喉を通らんっっ!!」
 やがて、根負けしたカフカが口元を白いナプキンで丁寧に拭いてから、琢磨を恨めしそうに睨みつつ答えた。
「言っておくが、これは直に王宮から公式に告知される事だから『特ダネ』とかいう奴にはならんぞ」
 うんうん、と嬉しそうに琢磨が頷き、カフカは一つ溜息を吐いてから腕を組み、仕方ないという風にゆっくりと話し始めた。
「私はあの舞踏会の前日に、王より正式に海戦騎士団の提督の任を授かった。私の任務は、『蒼きパピヨン』の協力のもとで阿修羅の剣の本体を確保する事だ」
「阿修羅の剣の‥‥本体?」
「巫女はそう仰せであった」
(ふーん‥‥)
 なるほどね、という風に琢磨が頬杖を着きながら、目の前にあったジャガイモの煮物を指で摘まんで頬張った。
「巫女の話では、KBCから琢磨を同行させるとも言っていたぞ。その様子ではまだ知らなかったようだな」
「え? 俺っ?」
「海は好きなんだろう?」
「そりゃ‥‥好きだけど」
 でも、船旅は好きじゃないと言いかけて琢磨は止めた。海が見えないよりはいい。
 海だけは、地球も此処も変わりは無い――そうだ、海だけは。
「早速だが、一仕事あるぞ。『バラドゥール』という海賊を聞いた事があるか」
「ああ、『バ』の国の精鋭私掠船団だろ? 海戦騎士団も奴らには相当手こずってるって聞いてるけど」
「奴らの本拠地であるアンビリヨン島周辺の偵察に赴く」
「アンビリヨン島?」
 
 話は戻るが、シーハリオンに巫女が降り立ったという噂が広まり始めた頃、『蒼きパピヨン』の頭目は夢の中で『虹竜のお告げ』を聞いたと言う。
 竜戦士の剣である『阿修羅の剣』を今すぐ王に差し出すように――虹竜にそう言われたものの、頭目には何の事やらさっぱり分らない。
 しかし、頭目はお告げの意味を仲間と共に一生懸命に考えた。そして宝庫の隅々まで探し回った。だが、それらしき剣など見つからない。
 悩んだ末に頭目は、新手の海賊『バラドゥール』との小競り合いの末に打ち捨てられた小島の事を思い出した。
 そこには祖父の代より以前に使われていたと言う彼らの古い宝庫が眠っていた。
 あるいは『阿修羅の剣』はその島に‥‥。
 だが、その小島は『バラドゥール』の根城となった海賊島の近くにあって、探索には困難を極めた。

「その島というのが‥‥何でもゴーレムシップですら、おいそれとは上陸出来ないらしい」
「要塞島って事?」
「流石に勘がいいな、お前は」
 愛想の良い店の主人が直接自分でデザートのフルーツを運んで来ると、カフカは嬉しそうに微笑んで、テーブルに置かれた丸いボウル型の取り皿を一枚取って琢磨の前に置いた。
「海にしろ砂漠にしろ、軍人が行く先で血の匂いがしない場所は無いという事かな」
「軍人、辞めたくなった?」
 冗談交じりに言った琢磨の言葉にカフカは答えなかった。
 彼は新鮮で色鮮やかな果物を取り分けては、熱心に琢磨に勧めた。
 琢磨に取っては豪勢なランチであった。

 『――わたしが悪者に「悪者よ、あなたは必ず死ぬ」と言うとき、
 もし、あなたがその悪者にその道から離れるように語って警告しないなら、その悪者は自分の咎のために死ぬ。
 そしてわたしは彼の血の責任をあなたに問う――』
 天界のエゼキエルの書はそう語っているそうである。
 その日の夕刻、本部に戻った琢磨は海戦騎士団による海賊島アンビリヨン偵察隊への同行の命を受けた。


■依頼内容:海賊『バラドゥール』の島アンビリヨンと剣が眠っているかもしれない小島付近の調査。可能であればグライダー等で上陸し、情報収集を。

○海賊島アンビリヨンは島自体が武装しているという噂。
○海賊『バラドゥール』は精霊砲付きのゴーレムシップを所有しています。
○噂では国籍不明のフロートシップが度々その付近で目撃されているらしい。
○グライダーは運動性に長けていますが、精霊砲やバリスタの数が多いのでご注意をば。
○翼竜は飛んでいないようですが、島の内部の様子は分りません。

【使用可能なゴーレム】
・強襲揚陸艦グレイファントム
・グライダー 5騎まで
・モナルコス 3騎まで

※必要であれば、蒼きパピヨンのゴーレムシップ1隻(精霊砲搭載)が加勢可能です。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb6729 トシナミ・ヨル(63歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●若親分  
 ブリッジに上がって早々、フォーリィ・クライト(eb0754)は思わず唸った。
 初めてペガサス級艦船に乗船する冒険者たちは恐らく、皆同様の心持であったろう。
「この船はヤーン級より装甲も厚く、耐久性にも優れているらしい。今から出航が楽しみだ」
 先ほど船の乗組員と熱心に話し込んでいたクーフス・クディグレフ(eb7992)も、この新型艦に大層興味を抱いたようである。
 やがて部屋の奥の艶のある木の扉が開いたかと思うと、扉の向こうから新提督カフカ・ネールと見知らぬ男が現れた。
 カフカに祝辞を述べに行ったリューズ・ザジ(eb4197)も一緒である。
 冒険者の前に姿を見せた蒼きパピヨンの若親分、ダグは浅黒い肌に笑顔が映える豪傑であった。
「リューズ姉さま、最近お肌綺麗ですね」
「そ、そうか?」
「恋するとお肌にも磨きが‥‥ぐふっ」
 琢磨の鳩尾をリューズの鉄拳が襲い、彼は直ちに末席へと追い払われた。
「あのっ、早速ですがダグさんに一つ質問が」
「何だ? 俺に分かる事なら答えるぞ、お嬢さん」
 ダグは音無 響(eb4482)を女性と間違えたようだったが、それは兎も角‥‥。
 響は宝の地図を巡る依頼に携わっており、その依頼主であるユーリという名の少年に心当たりが無いか尋ねてみたが、残念ながら彼の身内では無かった。
 響の質問が終わると今度は風 烈(ea1587)がダグに挨拶をした。
「予定していた事が全て出来るとは限らないので、優先順位は決めておく必要があると思うんだ」
 彼は精霊砲の位置や見張りの数を含む調査項目の一覧を皆に見せ、烈と同じく船上からの武力偵察を担当するクーフスとイリア・アドミナル(ea2564)が注意深くそれに目を通した。
 また、響の提案で作戦は明け方近くに開始する事も決まった。
「バの海賊が近くに居るのも因縁か‥‥。伝説への道を阻む海賊島! 何だかワクワクして来たよっ」
 イリアはそう叫ぶと、青い空の下に広がる広大な海原を心に描いた。
「ところで、肝心の宝物庫についてはどの程度情報が集まっているのでしょうか」
 話に区切りが着いた所で、今度はソフィア・ファーリーフ(ea3972)が重要な点について切り出した。
(蒼パピさんって、蝶柄の入れ墨でもしてるのかしらっ?)
 と内心興味深々の彼女ではあったが、作戦会議中は平静を装った。
「宝物庫に関しちゃ、心配はいらねえ」
「え?」
「うちの長老から道案内を出す。娘に地図も持たせたから道を違える事はねえ」
「ええっ!! じゃあ、剣を持ち帰る事も可能なんですかっ?」
「あるいはな」
 ダグの言葉が気になったトシナミ・ヨル(eb6729)だったが、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)は文字通り、期待に大きく胸を膨らませた。
 最後に、現状小島が無人とは限らない事から用心を怠らないようにとカフカから指示が飛んだ。
 又この時、一足先に琢磨とフォーリィがブリッジを降りたが、アリオス・エルスリード(ea0439)だけが黙って彼らを見守っていた。
 
●双子島
 アンビリオン島は厳密には7つの小島から成っていた。
 東からかなり小さな島が3つ並び、4番目に来るのが本島アンビリオン、5番目に再び小さな島が来て6、7番目にはその中間の大きさの島が仲良く並んでいた。
 その6、7番目の島は『双子島』とも呼ばれていた。
「今回降りるのは姉島の方なの。北側の島ね。小山があって妹島より平地が少ないから何かと都合が良かったみたい」
 地図を手にグライダーに乗り込んだ少女――マオは、操縦席にいるリューズにそう声を掛けた。
「なるほど。ああ、確かに南側の島には民家らしきものが見えるな」
 カフカの言葉を思い出し、リューズは慎重にグライダーの高度を上げた。

  ***

 ほんの数分前、グレイファントムはアンビリオンから精霊砲による手厚い『挨拶』を受けた。
 イリアが《ミストフィールド》の対象に選んだ5番目の島へ向かう途中、やや高度を下げた所を脇腹に一発食らったのである。
 船は衝撃を受けたが、カフカはまだ慌てなかった。
 イリアは対象に近づいた所で魔法の詠唱に入った。彼女は装備を整え、《フレイムエリベイション》を掛けてから本命の水魔法を唱えるという慎重さで挑み、見事超越レベルでの霧を生み出す事に成功した。
 グライダーが発進した後、カフカは再び船を本島に戻した。まだ十分な情報を得られていなかったからである。
 イリアが《アイスブリザード》で敵の攻撃を撹乱する中、烈は敵の出方に集中し、クーフスは敵の空軍部隊への警戒を強めた。

  ***

「琢磨とは話せたのか」
「えっ、気付いてたの?」
 アリオスのグリフォンが薄明るい空を駆ける中、同乗したフォーリィがふいを突かれて戸惑った。
 彼らもまた姉島を目指していた。
「うん。不安だったって――一緒に行きたいけど、足手纏いになるの分かってるから、でもそう思うと尚更訳もなく不安になって‥‥だってさ」
「‥‥」
「変な奴だよね」
 そう言いながら、フォーリィは琢磨の唇が触れた頬にそっと自分の手を押し当てた。
 東の砦での一件を思い出すと、心なしか頬が火照るのを彼女は感じていた。

●宝物庫と敵と
 グライダー隊はマオの指示に従って島の西側にある岬に着陸した。
「イブシ、ナキ爺!」
 マオはグライダーを降りるなり、岬の林から出てくる人影に声を掛けた。
「早かったね。潮はどう?」
「問題ないですじゃ」
 彼女は冒険者たちに、先に小船で来ていた仲間の二人を紹介した。一人は口髭を蓄えた白髪の老人だったが、もう一人はマオと同じ年頃の少年で、日に焼けたその肌は眩しいほどの輝きを放っていた。
「私とナキ爺で宝物庫を探して、イブシは岬で見張り役ね」
「まとまって行動した方が無難じゃないのか? 本島と離れているとはいえ、此処は敵の縄張りだ」
「恐獣部隊だって潜んでるかもしれないのよ」
 アリオスたちは同行を促したが少年は首を振り、明るい声で答えた。
「実は沖に猟師を装った仲間の船が停泊してるんだ。もし何かあったら、俺が狼煙で合図する手筈になってる。大丈夫、俺も海賊の端くれだ。心配はいらねえよっ」
「うん! イブシは結構強いもんね!」
 マオにそう言われて、少年は顔を赤らめた。
 やがて仲間たちはマオを先頭に、小山を流れる川の上流を目指した。
 地図に印された滝を見つけるとマオは細い脇道を伝って滝の裏側へと回り込み、仲間たちがそれに続いた。
 水しぶきが掛かる中をびしょ濡れになりながら、マオは注意深く地面を探った。彼女が入口の扉を開ける仕掛けを探していると知ると、ソフィアが《グリーンワード》を唱え、植物たちから情報を仕入れた。
「まあ、あんな所に小さな木の枠が!」
 ソフィアが指差す岩壁の高い所に、露草に覆われるようにして明らかに仕掛けのようなものが見えた。
「うは、あそこだと私じゃ背が届かないなぁ」
「いよいよ、わしの出番ぢゃな♪」
 トシナミはマオから手渡された小さな鍵を受け取ると、ふわふわと飛んで行っては鍵穴らしき部分へそれを差し込んで、思い切り右に回した。
 果たして、岩戸は開いた。

「「すっご〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」」
「鍵とかあったんだ」
「地図もあったしね」
「道案内も完璧」
「何言ってんの? ここ、私らの宝物庫だよ。暫く使ってなかっただけで」
 言われてみればそうである。
「さ、邪魔が入らないうちにさっさと剣を取り出そうよ」
「わしは此処で見張りに立つ。嬢たちは奥へ行くがいい」
 ナキ爺を残して仲間たちは滝の裏側の洞窟を奥へと進んだ。灯り役はトシナミである。
 彼はナナルに作って貰った調整用の傘を大事に小脇に抱えつつ、《ホーリーライト》で宝物庫内を照らした。そして数分後――。
「うぎゃ〜〜〜〜無いようっ! 剣らしきものは全く無し!」
「無いな」
「おっかしいなぁ‥‥親父も私も此処だと思ったんだけどな」
 刹那、犬の遠吠えが洞窟の中まで聞こえたので、皆は一瞬押し黙った。
「あまり時間を掛けるのも危険ですから、一度岬へ戻りませんか」
 ソフィアに促されて、皆一旦宝物庫を出る事にした。灯り役のトシナミが先頭に立とうと前を横切った瞬間、ベアトリーセの目に綺麗な柄の巻物が目に映った。彼女は何気なくそれを手に取ってその場を離れた。
 
「ナキ爺ッッ!!」
 洞窟の入口付近に老人が倒れているのを発見すると、マオは大急ぎで抱き起こした。
 だが、彼の心臓は矢で射抜かれ、すでに息絶えていた。
「どうしてっ‥‥なんでっ!」
「マオ――――っ! 早く逃げろっ、こいつらバラ‥‥――――――――」
 刹那、冒険者の瞳に数人の輩にめった斬りにされる少年の姿が映った。
「嘘‥‥」
 放心したように響が呟くと、その脇を旋風のように一筋の影が駆け抜けていった。
「蒼き蝶を‥‥舐めんなああああああ――――――――――――っっっ!!」
 マオが長剣を振り翳して敵に突っ込むのをフォーリィたちが追い駆け、ソフィアらが魔法で支援した。
 やがて賊は討ち取られ、犬は遠くへと逃げ去った。
 トシナミは大急ぎで血まみれの少年に《リカバー》を施しどうにか一命を取り留めたものの、彼の閉じられた瞳は開かなかった。
「おい、吐けば助けてやってもいいぜ」
 アリオスは、虫の息で横たわっている賊の顔を靴の先で軽く蹴って言った。
「双子島には味方が何人いる? 武装の程度は?」
「へっ、グライダーが3騎も乗り込んで来りゃ気にもなるさ。うちの犬は鼻が利くんで‥‥」
 男はそこまで話すと息絶えた。
 間をおかず、琢磨からのテレパシーを受信した仲間たちは、バラドゥールがゴーレムシップを動かして双子島に向かった事を知り、二人を担いで岬へと向かった。
 イブシの狼煙を見た蒼きパピヨンが岬の下に船を付けたので、マオは岬から豪快に海へと飛び込んだ。
 彼女の無事を確認して後、仲間たちは急ぎ船へと帰還した。重い心と一緒に――。

  ***

 ダグはナキ爺の亡骸を目にすると拳を握り締めたまま俯いた。イブシは目を覚まさず、マオの姿はそこには無かった。
「あんたたちに責任は無い。イブシには狼煙を上げたらすぐ身を隠して、沖の仲間と合流するよう命じておいた。それを勝手に‥‥」
「マオさんの事が心配だったのかも」
 誰かがふと呟くと、ブリッジから思わず啜り泣く声が漏れた。
 カフカは背筋を伸ばし、物言わぬ遺体に敬礼した。
 アンビリオンの武装状況が幾らか把握出来たものの、海戦騎士団にとっては厳しい船出となった。
 尚、ベアトリーセが宝物庫から持ち出した巻物については、この後の依頼で触れる事になるだろう。