焔の洞窟

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2007年07月15日

●オープニング

 『七色の竜の涙』のうちの一つである『月の涙』を手に入れたナナルは、また夢を見た。
 次なる目標は『火の涙』。それは酷く熱気を帯びた洞窟の奥に隠されているらしい。

 さて、ナナルの話を元に王宮が手を尽くして調べた所、その洞窟の位置はリザベ領の西と『カオスの地』を分かつ山間の中にあると判明した。
 ご承知の通り『カオスの地』はすでにメイの領土ではない。故にバの軍隊も平然と罷り通っているし、国境では騎士団との小競り合いが耐えない状況が続いている。
 そして問題のその洞窟であるが、最近になって寄せられた情報によるとどうやらバの国のカオス兵1個小隊がその付近に布陣したらしい。
 彼らが『火の涙』の事を知っている可能性はまず極めて低く、また巫女でなければ『火の涙』を取り出す事は実際不可能なわけだが、如何せん彼らは洞窟周辺を恐獣を連れて徘徊しているというのが面倒極まりない――。

 とは言え、面倒などと溢していると――修羅の剣を手に入れる事は永遠に叶わぬ!!――と巫女殿にきついお叱りを受けるのは必定である。
 故に此処は何としても冒険者諸氏の実力を持って、洞窟より『火の涙』を持ち出して、ついでに目障りなバのカオス恐獣部隊を完膚無きまでに叩きのめして頂けると王宮よりたんまり褒美が出るのは間違いない。 
 尚、王宮はこの依頼において先頃開発された金属ゴーレムの中からカッパー・ゴーレムの使用を許可した。
 恐らくは対カオス戦線を睨みつつ、今後も更なる金属ゴーレムの実戦投入が行われる事になるだろう。
 最後になったが、この洞窟の内部は非常に高温で、しかも微量ながら有害ガスが絶えず噴出しているらしい。
 洞窟に長く留まる事は元より、内部でカオス兵と戦闘になれば危険この上無いので立案時を含み作戦には細心の注意が必要と思われる。


■依頼内容:ナナルと共にリザベ領とカオスの地の境に聳える山間にある洞窟へ『火の涙』を取りに行き、その近辺に潜んでいるカオス恐獣部隊を撃破する。

【敵の兵力】:中型恐獣部隊
・ヴェロキラプトル 2〜3騎
・アロサウルス 1騎
・騎兵及び歩兵(カオスニアン) 8〜10名程度

【使用可能なゴーレム】
・カッパー・ゴーレム オルトロス 1騎
・強襲揚陸艦グレイファントム

↑北 1マス約5m
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│山┗━━━┓∴┃山山山山山崖∴∴∴∴仝│
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←西
∴/平地(北に向かってやや上り坂)
仝/木々
崖/切立った崖
山/高台
□/洞窟入口
凹/『火の涙』?
凸/カオス兵の簡易キャンプ
●/恐獣が目撃された地点。

※洞窟の西側にフロートシップを降ろす事が可能です。キャンプ地からはほぼ死角となりますが、音等で敵に気付かれる可能性は有ります。
※冒険者はフロートシップと共に洞窟付近まで移動の他に、山裾付近でフロートシップを下船し、馬等で洞窟まで移動する事も可能です。
※カッパーゴーレム出撃という事で、野次馬根性もとい、好奇心旺盛な琢磨が『特別に』同行します。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb6729 トシナミ・ヨル(63歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb9803 朝海 咲夜(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

モニカ・ベイリー(ea6917

●リプレイ本文

●まずは偵察

 他の者より一足先にグレイトファントムを下船したアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)、フォーリィ・クライト(eb0754)と朝海 咲夜(eb9803)は周囲を警戒しながら、カオス兵が徘徊しているという洞窟付近に到着した。
「報告通り、北側奥にアロがいるね」
「見張りの兵もそれなりにいるようですね。打ち合わせ通り私は上から偵察しますから、皆さんは他を宜しくお願いします」
 そう告げると、アレクセイは鷹のリョーニャを使って素早く崖の上にロープを掛けさせ、切り立った崖を苦も無く登り始めた。
「流石だな。僕も負けてられないな、じゃ!」
 昨夜はフォーリィににっこり微笑むと、忍者特有の軽々とした身のこなしで以って、道端に生い茂る高い木々の枝を伝いながら敵のキャンプ地の様子を探りに行った。
「うひゃー、その道のプロはやっぱ違うわね。仕方ない、あたしは南側に潜んで洞窟周りを重点的に監視するか。そろそろ他の皆も到着する頃だしね」
 そう独り言のように呟いて後、フォーリィは青い空を見上げた――ほどなく仲間の船がその雄姿を上空に現す頃合であった。

  ***

 その一時程前――。
「ねーねー、『上の並』って何だ?」
「し、知るかよ!」
「アリオスが私の顔を見るなりそう言ったぞ。お前、何の事か知らないか?」
「知らんっ」
 ナナルにしつこく尋ねられて閉口している琢磨を眺めながら、アリオス・エルスリード(ea0439)は噴出しそうになるのを懸命に堪えていた。
「ねーねー、ソフィアぁ〜」
 と、ナナルが船内をうろうろする中、グラン・バク(ea5229)は竜の涙について思いを巡らせていた。
「赤、橙、黄、緑、‥‥虹は計7色か。7色とは、やはり各竜に由来しているのだろうか」
「そうだとすると、火の涙を入れて後6色集めねばならんな」
 大変だなという風にバルザー・グレイ(eb4244)も答えて後、二人は幼い巫女に目をやった。
「‥‥ナナルはその夢を恐ろしいと思った事はない?」
「別に怖くはないぞ。ちっちゃい頃から予知夢は見てたし、お母さんがそれは私の大事な仕事だと誉めてくれたからな」
「お母さんか。きっと素敵なお母さんなんだね」
「うん!!」
 嬉しそうに頷くナナルを見てほっと安心する咲夜であったが、程なく目的の山並みが見えてきたので冒険者たちは皆窓の傍に集まった。
「ちょっとー、船から身を乗り出し過ぎて落っこちないでよね! あんたってほんとミーハーってか」
「視察は俺の仕事なの! さっきから何度も説明してんだろっ、この御転婆娘っ!」
「何ですってええ!」
 琢磨とフォーリィの毎度ながらの会話に笑みを漏らしつつも、リューズ・ザジ(eb4197)とエルシード・カペアドール(eb4395)は山脈の奥に広がるカオスの地を見据えた。
 そう遠くない未来、冒険者たちはその地の奥深くへと足を踏み入れる事になるのだ。

  ***

(悪いけど、僕の大切なお姫様には指一本触れさせないよ。風下に立ったがキミ達の不覚さ)
 最も北寄りにいた咲夜は慎重に風向きを確かめて後、カオス兵のキャンプに届くように春香の術を放ってから仲間と合流し、西の空き地に到着したグレイトファントムに帰還した。
 フロートシップに気付いた洞窟付近のカオス兵たちは一旦茂みなどに身を潜めたが、その様子を偵察隊が具に見て来たので、その情報を元に冒険者たちは用心しながら洞窟へと歩を進める事が出来た。
 又、ナナルの体力を気遣ったリューズはグリフォンに彼女を乗せて空から移動した。

●焔の洞窟
 エルシードが駆るオルトロスを先頭にして洞窟の入口に達すると、ナナルに同行する者たちはソフィア・ファーリーフ(ea3972)が用意した清らかな聖水で湿らした布で口元を被った。少しでも洞窟内の有害ガスを吸わない為である。
「おおー、シルクのマントじゃないか。これ使っていいのか? トシナミ」
「無論ですぢゃ。ほれ、わしとお揃い♪」
 豪華なマントに惜しげもなく鋏を入れながら、嬉しそうにトシナミ・ヨル(eb6729)は答えた。
「バルザー、なんだかふらふらするぞ」
 安全を思い飛行兜を被らせてみたバルザーだったが、首を傾げる度によろけるナナルを見て、即座に水中眼鏡と取り替えた。
 全く以て世話の焼ける巫女であった。
 さて、カオス兵と恐獣は皆姿を隠してはいたが、そう遠くない場所からナナルたちの動向を伺っているのは確かだった。
 フォーリィが入口に残ろうかと提案したが、ナナルの護衛を優先して欲しいとリューズがそれを丁重に断った。
「こちらには頼もしいゴーレム兵器が揃っているから心配無い。それより内部では時間に注意を。余り長くは居られないだろうからな」
 そう言って彼女は手元の時計の針を確認した。
「ああ〜〜早くでかいのが出て来ないかな。待たされるのって趣味じゃないのよね」
 その刹那、オルトロスに乗ったエルシードがじれったそうに叫ぶ声が聞こえた。カッパーゴレームの威力を一刻も早くその手で確かめたいのだろう。
 彼女らに加えてアレクセイが入口に留まり、後の者は皆『火の涙』を求めて洞窟の奥へ向かって行った。

「此処らで一度、センサーを掛けてみますね」
 入口から少し奥に入った所で、ガスの噴出口を探す為にソフィアが地の魔法を放つ。この手段は危険な洞窟探索に大いに有効であった。
 幸いな事に、想像した程にはガスは出ていないように見えたが油断は禁物。
 手回し発電ライトの灯りを頼りに、噴出口をなるべく避けるようにして仲間たちは進んだ。
「阿修羅の剣か。その手にした剣は両刃なり、なんて事にならなければいいがな‥‥と、うわっ!」
「どうした! アリオス!」
「あ‥‥いや、今‥‥今、竜が見えたような気が」
「竜?」
「ほう、お前なかなか目がいいな。アリオス、咲夜、壁に気をつけ‥‥」
「「ギャあああああ――――――!! あちィぃぃ――――ッッ!!」」
「遅かったか」

 ナナルが警告を発するより僅かに早く、壁から水平に飛び出した火の柱に二人の若者が贄として捧げられた。トシナミは間一発の所で天井へ逃げ切った。
「ナナル殿‥‥」
「気にするな、大事ない。それより、此処から先は限られた者しか進めぬという事。悪いが皆待っていてくれ」
「僕も行く!」
 不安げに声を上げた咲夜を制して、ナナルは数メートルはあるだろう闇の奥へと入って行った。
 やがて、ナナルの祈りが聞こえたと思うと一瞬目の前が燃えるような真紅に染まり、それは徐々に黒い闇に馴染んでいった。
『火の涙を――受け取るが良い』
 誰かがそう呟く声を、仲間たちは耳の奥で聞いた。

●オルトロスとカオス勢
 一方、洞窟の入口付近ではすでにアロサウルスとゴーレムとの戦闘が始まっていた。敵の数が減った所を一気に潰そうというカオス側の策のようだった。
 だが、オルトロスは強かった。
「今までのあたしとはちょーっと違うわよ。覚悟なさいねっ」
 恐獣相手の戦闘では先手を取るのが肝要と見極めたエルシードは新型ゴーレムの俊敏さをフルに生かして一気に斬り掛かり、まずは最初の一打を浴びせた。
 対してアロサウルスも負けじと獰猛に突っ込んで来るのを、彼女は懸命に回避し耐えた。次なる大技ダブルアタックを決める為である。
 やがて敵の動きが止まる瞬間を狙ってオルトロスの双の剣が鮮やかに宙を舞い、次の瞬間アロサウルスの巨漢を見事打ち倒した。
「流石にカッパー、戦闘力は旧式とは比べ物にならないか。やれやれ‥‥いたちごっこの始まりだな」
 そう溢しながらも琢磨は上空から敵の動きを的確にテレパシーで仲間に伝えていた。皆を送り出す際にエルシードから頼まれたのである。
 アレクセイ、リューズの活躍に加えてグレイファントムのバリスタがきっちりヴェロキラプトルに照準を合わせて来たので、恐獣部隊はかなり鎮圧出来たのだが、一部の歩兵は洞窟内部へと進撃した。
 だが、それも奥から現れたアリオスの矢に倒れる事になる。
「撃破数に1追加っと」
「では私も」
「俺も」
「勿論、あたしも♪」
 バルザーに続いてグランとフォーリィが勢いよく飛び出すと、残った仲間がナナルを守るようにして洞窟を出た。
「お疲れの所すみません、ですが急いで此処を離れた方がいい。私と一緒にアリョーシカで離脱しましょう!」
 そう叫ぶと、ユニコーンに騎乗したアレクセイは軽々とナナルの身体を引き上げた。
 だが、その刹那――。
「きゃ‥‥」
 ナナルを引き上げると同時に、木の上からロープの輪が振ってきてナナルの身体を捕らえた。
 彼女の小さな身体は僅かにアレクセイの腕をすり抜けて、不敵に笑うカオスニアンの腕の中に捕らえられてしまった。
「何だか分からんが、こいつを大将の元に届けりゃ、褒美の一つも貰えそうだな」
「ナナルを離せっ! この下郎が!」
 弓を構えるアレクセイにペッと唾を吐きかけてカオス兵が去ろうとした瞬間、
「指一本触れさせないって言っただろ」
 いつの間に偲び寄っていたのか、咲夜の剣が背後からカオス兵の首から背中へと突き立てられた。
 アレクセイは敵の腕から素早くナナルをもぎ取ると、咲夜に礼を述べてから船を目指して駆けた。
 やがて、彼らの圧倒的な戦力に恐れをなしたカオス勢は山上へと退却を始めたので、仲間たちも船へと戻った。
 そして船が離陸した後に、エルシードの進言で敵キャンプ地には精霊砲が打ち込まれた。

●帰還
「温泉があると良かったんだがな」
 知る人ぞ知る幻の温泉の噂を聞きつけたのか、武具の整備をしながらグランがちょっと楽しげに呟いた。
「リューズの服を濡らしてしまったな」
「私の事は良いのです。さ、十分にうがいもして下さい」
 そうナナルを促すと、リューズは用意しておいた水桶を引き寄せた。
 船に戻った直後、ナナルにリカバーやアンチドートを施したトシナミが倒れてしまったので、バルザーは慌てて解毒剤を飲ませた。
 トシナミの看病をしながらナナルの顔色が優れない事に気付いたソフィアは、不安になって仲間たちに相談した。
「王都に出て来てからというもの、動きっぱなしですからね」
「どうだろう、一度シーハリオンの丘へ帰るというのは」
「そうですね、虹竜さんへの報告も兼ねて」
 フォーリィやアリオスに囲まれながら、バルザーに貰った甘い保存食を嬉しそうに頬張っている巫女の姿を見守りつつ、冒険者たちは折を見て段取りを組んでくれるよう琢磨に進言した。
 『七色の竜の涙』を探す旅は、まだ始まったばかりであった――。