海に浮かんだ奇怪な島
|
■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2007年08月07日
|
●オープニング
●今までのお話
女装させればそん所そこいらの貴族令嬢なぞ足元にも及ばないという麗しき美少年海賊ユーリは、父を裏切り『宝の地図』を奪ったかつての仲間ドレークを追ってナイアドの港に降り立った。
彼は冒険者と共に海賊ドレークを追詰めるも後一歩の所で取り逃がすが、謎の商人ラ・ニュイの協力を得て無事『宝の地図』を取り戻し、魔物退治の報酬として船も手に入れた。
さて、最愛の妻を失った上に仲間にも裏切られた傷心の父親を元気付ける為、勇んでお宝探しに向おうとするユーリだったが‥‥。
(〜「プリンス・オブ・パイレーツ」「亡者の戦慄」より)
●奇怪な島
「うーん‥‥これってどういう意味なんだろー」
ティトルの港に程近い宿の一室で軽い朝食を取った後、机の上に広げた古びた地図を眺めながら、ユーリは腕組みをしたまま頻りに首を傾げていた。
「小島が4つ並んでるのはいいとしてだ。4つの島に全く同じ印が入ってるのは‥‥つまり、宝は4箇所にあるって事なのかな? それともこの中の一つが本物で後は偽物??」
お宝が眠るという島の大体の位置は父から聞いて知っていたものの、地図を間近に見るのは実はユーリは初めてであった。
「島に戻って親父に聞いてもいいんだけど、『俺も行く!!』とか言い出し兼ねないしな。でも、あの身体じゃ今無理させるわけにはいかねーし‥‥」
困ったぞという風に暫く考え込んでいた少年は、ふいにポンっと手を叩くとにこやかな表情で顔を上げた。
「ま、面倒だし、4つとも回るか! 急ぐ旅じゃないしな」
そうと決まれば次は船員を集める段取りだ――と、ユーリがそそくさと出掛ける準備を始めたその時だった。誰かが喚きながらドアを激しくノックしている――。
(なんだぁ? こんな朝早くから)
用心の為、左の手に短刀を握った上で仕方なくユーリがドアを開くと、そこには酷い身なりをした一人の女性が疲れ果てた顔で立っていた。
「うわっ!! あ、あんた誰だよっ、悪いけど俺、金なんて持ってないぜ!」
「やっと見つけたよおおぉぉ――――――探したんだよぉ、あんたの事ッッ!!」
女はユーリの顔を見るなりしっかと抱きついた。
そしておいおいと声を上げて泣き始めた。
「あ‥‥あの‥‥」
「お願いだよっ、あの人を助けておくれよ! ドレークが巨人に捕まっちまったんだよ〜〜っ!」
「ドレークだあ?」
驚いて女の顔を確かめるユーリに、彼女の正体がおぼろげに思い出されてきた。ナイアドの無法者の町にいたドレークの情人ジュリアであった。
**
「やだね。なんで俺があいつを助けなきゃならないんだよ」
きっぱり断るユーリだったが、女は諦めなかった。女は泣きはらした目を少年に向けると、さも哀れみを請うような情けない顔で話を始めた。
「あの人はあれから例の赤い髪の商人に掛け合って地図を返すように迫ったけど、商人のが一枚上手だったのさ。男は自分が地図を借りる時に支払った倍の金額で、地図の写しを売ると言って来た。ドレークにそのくらいの貯えがあるのを見越した上さ。あの人は怒って奴に襲い掛かったけど、あの男、やり手の魔術師を家来に抱えてるらしくてドレークは簡単にのされちまった。仕方なくあの人は地図を買って、海に出た」
そこまで話すと、女はユーリが懐に入れた地図に気付き、思わずそれを指差して叫んだ。
「そう! 宝の島まで行ったのさ! そして、そこで『一つ目巨人と忌々しい犬鬼ども』に掴まっちまったんだ! 宝を見つけるその前にっ!」
「一つ目巨人と‥‥犬鬼?」
「ああ‥‥早く助けないと、巨人に頭から食われちまうよぉ‥‥他の船員たちだって‥‥私は死に物狂いで小船で逃げて‥‥カオスニアンの情報屋からあんたがまだティトルにいるって聞いて、それで‥‥」
そこまで話すと女はいきなりぐったりと机に伏してしまった。
「食われちまうって言われてもさぁ」
目の前ですやすやと静かな寝息を立てながら眠っている女のやつれた顔を覗き込み、少年は迷った。
彼女は言葉通り必死に助けを求めて来たのだ。
それに、いくら奴が悪党だからといってモンスターにバリバリ食われる様を想像するのは些か心苦しい気もする。
加えて、ドレークであれば宝の地図に記された印の意味をもっと詳しく知っているかもしれなかった。
ユーリは女が携えている小袋に十分な金貨が入っているのを確かめると、その中から幾枚か頂戴した上で女に毛布を掛けてやり、冒険者ギルドへ向かう準備を始めるのだった。
■依頼内容:宝の地図に載っている4つの島のうちの一つに行き、モンスターに捕らえられた海賊ドレークたちを助け出し、しっかりお宝を入手する事。
・女の話によると、島には緑が生い茂っており、森を少し進んだ先の岩場に一つ目巨人と鬼たちが住んでいるらしい。
・犬のような顔をした鬼たちは毒を塗った武器を使うらしい。
・お宝はその岩場を更に抜けた崖の麓にあるらしい。
・又、噂によると島に住む一つ目巨人は竜巻を巻き起こす事が出来るらしい。
●リプレイ本文
●船旅
本日も晴天なり。青い空の下、ユーリと冒険者を乗せた船は高く帆を張り青い海原を心地よく駆けていた。
「ふむ、海賊に宝探しとは何とも心揺さぶる響きだの!」
フィーノ・ホークアイ(ec1370)は、海風が渡る甲板の上で上機嫌でそう切り出した。
「この鷹の眼が一肌脱いで進ぜるゆえ心配は要らん。皆、大船に乗った気で‥‥――――うぷッ!」
刹那、フィーノは両手で口を塞ぐと真っ青な顔で船尾へと駆け出していった。然しもの鷹も船酔いには勝てないようである。
「大丈夫でしょうか、フィーノさん‥‥」
不安げに彼女の後姿を見送るイェーガー・ラタイン(ea6382)と音無響(eb4482)の元へ、今度はユーリと龍堂光太(eb4257)がやって来た。
「彼女の様子はどうですか?」
彼女とは一つ目巨人たちに捕まってしまった海賊ドレークの情人ジュリアの事である。
「今フィリッパさんとグランさんが付いてて、船室で食材の仕分けをしてるよ。ドレークたちのも含めてね」
犬鬼に捕まっている海賊にはまず消化の良いものを食べさせたいというフィリッパ・オーギュスト(eb1004)の意向からであった。勿論、その間にジュリアから仲間や島の様子を細かく聞き出すという目的も含まれている。今頃はグラン・バク(ea5229)が敵モンスターの正確な状況把握に努めている頃だろう。
「あの人、本気でドレークの事を心配してた。あんな男の何処がいいんだろ」
「ユーリはどのくらいドレークの事を知ってるの?」
「俺はっ‥‥!」
光太に聞かれてふいにユーリは言葉に詰まる。改めて聞かれると返答に困った。
「僕もさ、ジュリアさんの事はよく知らないけどあの人には恩がある。以前、酒場で絡まれそうになった所を助けてもらったからね」
「光太‥‥」
「まあ、結局情けは人の為ならずって事さ」
爽やかにそう言ってのける地球からの旅人にユーリは少し驚き、そしてすぐさま笑顔を返した。
「俺もしっかり力を貸すから、必ず宝物ゲットしようね」
「皆で力を合わせればきっと成功します!」
響とイェーガーも声を揃えてユーリを激励した。その後、勉強がてら操舵士と話してくると場を離れる響を目で追うユーリは、ふいに別の視線を感じ取った。
無天焔威(ea0073)であった。
「お、俺もちょっと他の場所見回ってくるよっ」
突然船首へ駆け出すユーリに驚く光太たちではあったが、彼らも船室の様子を見に階下へと降りていった。
「焔威、今回も手伝ってくれて有難う! あのさ、俺に何か‥‥」
「ここらで真面目にお灸据えねーとな」
大きな瞳をぱちくりと開くユーリに、年上の焔威は普段の数倍は厳しい表情で言葉を発した。
「あのねー、あのアマが港に来た時点で既に噂が広まってんのっ! ティトルの餓鬼が宝の地図持ってるってさ」
「あ‥‥」
「ラ・ニュイも買い手が居れば地図を売るだろうし、つまりはお宝を巡って敵が増えるって事。これからはもちっと身辺に気を配れ」
「う、うん」
「それに」
「?」
「ラ・ニュイを信用するな。あれは良い香りで餌を誘う食虫花のような人間。ドレークへのやり様がいい証拠だ。分かるだろ?」
「それは‥‥」
思わず口篭るユーリだったが、焔威は不満げだ。
「ごめんっ、焔威。分かった‥‥俺、気を付けるよ。ほんとに気を付けるから‥‥」
下を向いて唇をきゅっと噛み締めるユーリの肩が僅かに震えている。彼は素直だが実際はプライドの高い子供なのだと焔威は思う。
だが、大切な仲間からの忠告に耳を傾ける賢さも持っている。
「まー、あれだ。困ったら遠慮なく俺らを頼ればいいわけで。気楽に行こうぜ〜♪」
焔威はいつものように砕けた調子に戻ると、ユーリの頭に手を置いてその綺麗な金色の髪をくしゅっと掴んだ。
「有難う、焔威」
ユーリの小さな呟きが潮風に紛れて焔威の耳元をすり抜ける。目的の島までもうじきであった。
●宝島
「うーん、なんとも不気味な島ですね」
島が近づくに連れ、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は益々眉を顰めた。
その小さな島の上空には所々に雨雲のような黒っぽい雲が掛かっており、島の木々はこれでもかと言わんばかりに元気よく生い茂り、その凛とした姿は何処となくよそ者を拒んでいるようにも思えた。
「ほんとだ‥‥どうしてこんな巨人達が住んでるよーな島にお宝があるんだろ?」
「兎も角、敵に気付かれないうちに上陸しよう」
フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が首を傾げるものの、ファング・ダイモス(ea7482)の合図で上陸は速やかになされた。
ブレスセンサーで周囲の安全を確かめて後、フィーノは手頃な木を物色してから仲間の手を借りて木の上に登った。
「遠物見に掛けてはちと負ける気がせんでの!」
その言葉通り、彼女の索敵は見事であった。ドレークの船の在処も確認した彼女は、その船を隠すようユーリに密かに進言した。後々揉めた時の保険である。
**
「腹減った。飯食わせろ。昨日の男は不味かった。もっと美味い奴がいい」
一つ目巨人サイクロプスは岩場の洞窟を利用した檻を見張っているコボルト(犬鬼)たちに声を掛けた。
どうやら掴まえた人間を食わせろと言っているらしい。
「まだだ。お前、海見張れ。人間じゃんじゃん来る。美味い奴も来る」
「そうなのか? じゃあ、もう少し待つ」
モンスターはそう言うと、3m以上もある巨体を揺らしながらゆっくりと岬に向かって歩き始めた。犬鬼はその間、人間たちの食料や所持品を並べては満足気に頷いた。
さて、敵が二手に分かれた所で、冒険者もすかさず行動を開始する。
ソフィアらが巨人を追って行き、残った者が奇襲に出ようとした刹那、リーダー格の犬鬼が牢の柵越しにドレークの首根っこを掴んだのでジュリアが思わず声を上げた。
「お頭あ――っ!」
女の声に犬鬼たちは一斉に毒を纏った剣を振り上げた。
「面倒だ。纏めて倒すか」
「了解〜」
「了解です!」
ファングがまず強力なソードボンバーを放ち、怯んだ敵に光太らも突進、イェーガーも後方から容赦なく敵を射た。
毒の剣は確かに危険だったが冒険者の強さの前には犬鬼は一溜まりも無く、倒れた味方を助け起こす余裕もなく犬鬼たちは岩場の奥の森へ逃げ去った。
「情けをかけても油断はしない。悪いが此処で大人しくしていてもらおうか」
ファングがドレークたちを縛り上げる傍らで、光太は一礼してからジュリアにも縄を掛けた。
「はっはっは! 助けて欲しくば宝の在り処を言うがいい!」
「あれ? フィオちゃん、一つ目は倒したの?」
「えへへ〜まだだよ♪」
「「じゃあ、何しに来たんだー!!」」
突如乱入したフィオレンティナを担ぐと、仲間たちは焔威に後を任せてサイクロプス退治に向かった。
●宝と秘密
「ユーリさ、船の様子を見て来てよ」
「え?」
焔威は落ちている犬鬼の剣を拾い上げるとユーリとは視線を合わさずそう言った。
焔威の様子から、彼がこれからしようとしている事はユーリにも察しは付いた。拷問を加えて口を割らせるのは言わば常套手段である。
「大丈夫、俺、焔威の邪魔しないから。でも、その前に‥‥」
ユーリは少しやつれた表情で、しかしその隻眼を爛々と輝かせているドレークに向かって言った。
「なんで裏切った? ずっとあんたに聞きたかった。あんたは親父と違って卑怯で悪賢くてしつこくて、それでもあんたなりに親父や仲間の事を思って動いてくれてると信じてた。馬鹿正直な俺の親父の影になってくれてるんだって‥‥なのに!」
「俺はニーナを、お前のお袋を守りたかっただけだ。だが、間抜けなお前の親父のせいでそれも‥‥っ」
「?」
「俺は絶対にニーナを助け出す‥‥助けて見せるっ! その為にも金がいるんだっ、だから宝は絶対渡さねえっ!!」
「母さんが‥‥生きてるのか?」
「お前ら腰抜け親子に助け出せるわけはねえ」
「なんだとぉッ!」
ドレークはその後あっさりと4つの印についての情報を話した。だが、今ユーリが欲しいのは母親の情報だ。
彼は自分たちを解放するなら、母親について知っている事を話すと言う。
ドレークを信用出来ない焔威は止めに入ったが、ユーリは焔威の手を振り払って海賊たちの縄を解いた――ユーリにしてみれば無理もない事だった。
悔しそうに隻眼の痩せ男を睨む焔威に、男は余裕の笑みを浮かべた。
そしてある貴族の名を告げ、その身辺を探るよう言い残して後、ドレークは仲間と共に島を去った。
**
(‥‥でかッ! 少しは私に身長分けろぉ!)
一つ目巨人を見るなりソフィアはムカついたようであった。
然しながら、彼女が施したレジストライトニングは功を奏した。
物理攻撃を含むトルネードは少々曲者ではあったがその影響範囲は限られていたし、手練の冒険者に致命打を与えるには至らない。
(まさか目からレーザー出したりはしないよねっ)
いかにも地球人らしい想像を膨らませつつ、響もテレパシーを最大限に利用して一つ目巨人に揺さぶりを掛け、フィオレンティナも機敏に攻撃を仕掛けた。そんな中でフィーノ、ソフィアとフィリッパから執拗に放たれる魔法攻撃に、風魔法に長けた怪物もついに動きを封じられてしまった。
そこを逃さずグランとファングが斬り込んだ。そしてこの時ばかりはサイクロプスの巨漢が仇となる。彼らのスマッシュEXの効果は絶大であった。
一つ目巨人は低い唸り声を上げて地に伏したまま動かなかった。
「あら、ドレークは逃がしてやったのですか?」
縛り上げたはずの海賊の姿が見えない事に気付いたフィリッパにユーリが頭を下げた。
「せっかく酒や食べ物を用意してもらったのにごめんなさいっ」
「それは構わないが‥‥印の意味は分かったのか?」
グランが尋ねるとユーリは黙って頷いた。
やがてユーリが崖下を掘り返すと、宝箱は程なく見つかった。両手で抱えられる小ぶりの箱の蓋を開けると、中から眩い光を放つ宝石や金銀の装飾品が現れた。
だが、彼は無造作に箱をひっくり返して箱の底を手で探った。指に当たった小さなフックを慎重に外すと、二重底になった箱の隙間から古びた銅版の破片が姿を現す。
「それってもしかして‥‥」
響の言葉にユーリが反応する。4つの印はこの銅版を意味するらしい。
「そいつを集めたらどうなるんだ」
「分からない。その先はドレークも知らないみたいだ」
仲間の問いに答えるも、ユーリは心此処にあらずという風だった。
犬鬼たちが再び襲ってくる前に冒険者たちはその奇怪な島を後にした。
王都の港に着くまでにドレークたちが襲ってくるのではと仲間たちは警戒を強めたが、その気配は無かった。
港に着くとユーリは冒険者に厚く礼を述べ、宝箱の中から適当なものを見繕って皆に手渡した。
彼は一度父親の待つ島に戻り、2つ目の宝島に向かうと告げた。ドレークが言うように母親を探すにしても金は必要だった。貴族が相手なら尚更である。
少年の旅は尚も続く――。