迷子のゴーレム救出!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月19日

リプレイ公開日:2006年11月22日

●オープニング

「困った‥‥困った‥‥困った‥‥!」
 男は先ほどから、そびえ立つゴーレムの足元で何度も行ったり来たりを繰り返す。

「うーん‥‥何度数えても、一騎足りぬっ。一騎足りぬのじゃああ〜!」
 男はそう叫ぶと、いきなり己の頭を拳で数発ポコポコと殴った。それを見た若い使用人が、慌てて男のもとへ駆け寄った。
「ああっ! 早まってはなりませぬっ! 命あってのなんとやらですっ!」
「馬鹿者がっ、これしきのことで死にはせぬわっ‥‥‥‥ああ、しかし旦那様が戻られるまでに、なんとか片を付けなければ‥‥!」
「はい! 手前も微力ながらお力添え致しますっ!」

 ここは某領主の城の中。迫り来るカオスの勢力と戦うための雄々しきゴーレム兵器を格納している武器庫である。
 実は先日、領内の外れで、カオス兵と彼らが操る恐獣が暴れているとの情報がもたらされた。
 本来ならばゴーレムを動かす前に、その情報が確かであるかどうか、予め十分な探索が行われるべきなのだが、ここの領主はことのほか自己顕示欲が強く、『オレ様のゴーレムをとくと見よ!』とばかり、冒険者を集めて自慢のゴーレムを一斉に駆り出してしまった。

 はてさて、ゴーレムで出撃したは良いが、ゴーレムは知っての通り非常に操縦士の体力と精神力を疲労させるものである。
 目的地半ばの山中で短い休息を取った彼らは、その場にたわわに実っていた林檎をもぎ取って食した。
 だが‥‥‥‥この林檎。実は林檎と外見は瓜二つだが、中身は全く別ものの毒の果実! 死には至らぬものの、食せばたちどころにひどい腹痛を起してしまう大変やっかいな代物であった。
 案の定、毒林檎に当たった冒険者たちは任務も早々に放棄して、持てる力を振り絞り、命からがらゴーレムで城に帰還した。
 この時、ご領主様が急な用件で他国へ出かけていたのは、全くの幸いであった‥‥のだが、災難はこれだけでは済まなかった。
 出撃したゴーレムのうち一騎がまだ城に戻っていないことに気付いたのは、毒林檎騒動から明けて次の日、つまり今朝であった。

「それで、昨日の冒険者どもとは、全く連絡が着かんのか!」
 ゴーレムの管理を任されている責任者の男は、苛々した口調で若い使用人を問いただす。
「はい‥‥医師の手当てを受けると、それはもうクモの子を散らすように素早く解散してしまって。後はもう、どこへ消えたやら皆目分りません。皆、気まぐれな旅人たちですので‥‥」
「うぬぬぬぬ‥‥他に何か手がかりは残っておらんのか‥‥」
「あ! そういえば‥‥」
「なんじゃ?」
「昨日の鎧騎士の一人が、なにやら自分の遥か後方で、地響きと共に人の悲鳴が聞こえたような事をちらっと話しておりました」
「地響きと‥‥悲鳴?」

「その鎧騎士も腹痛に襲われていて、状況を確認するどころでは無かったらしいです。ただ、彼らが通った山道は地盤が弱く、土砂崩れも頻繁に発生する地帯ですので、あるいは‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゴーレムが山で遭難か?」
「そうとも断定は出来ませんが‥‥」

 二人は困ったという表情で互いの顔をしばし見つめあった。
 それから、やにわに身支度を整えると、重い心持ちで冒険者ギルドへと向かうのであった。

●今回の参加者

 eb2024 ウィリアム・ロック(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8362 カリム・エストローネ(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8420 皐月 命(32歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8490 柴原 歩美(38歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb8587 ジャン・クエルボ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●冒険者集う
「どーもー、ジャン・クエルボと申しますー」
 今回の依頼を引き受けた仲間たちが、それぞれ自己紹介を兼ねて作戦会議に参加することになった。
「鎧騎士見習いのアルミラ・ラフォーレイよ、よろしくね」
 ジャン・クエルボ(eb8587)の後を受けて、アルミラ・ラフォーレイ(eb7854)が挨拶をする。続いて、
「『女』鎧騎士のシャノン・マルパスだ。宜しく頼む」
 と、シャノン・マルパス(eb8162)が名乗った。彼女はこれまで何かと性別を間違われるので、今回は先制して女性であることを誇示したようだ。
「ゴーレムの遭難とは。あの様な大きな物でも、その様な事は起きるのだな」
 続いて意見を述べるのは、ウィリアム・ロック(eb2024)。
「さすがのゴーレムも山には勝てませんか」
 ウィリアムの話を受けて、カリム・エストローネ(eb8362)が答えた。

「毒林檎? 王妃の化けた魔法使いの婆さんが育ててる‥‥って言うにゃ、腹下しってのが無粋だね」
 ややも皮肉混じりに事件を語るのは、柴原 歩美(eb8490)だ。
「しかも、仲間が帰ってきていないのに手当てを受けた後、逃げた? 醜態を晒しすぎて鎧騎士の名折れよね‥‥」
 歩美のコメントに、アルミラが早速反応する。
「ま、御領主さんへの言い訳は兎も角。体調を悪くしたまま山ン中で一人ぼっちで遭難ってのは、大の男でも不安だろうさ。何とか助けてやりたいね」
 言い方は少々荒っぽいが、根は優しいのが歩美の長所だ。
「あたしの専門は動物だけど、人の手当ても出来なくもないさね」
 そこへ、こちらも少々風変わりな発言が飛び込んでくる。

「うちはひ弱な現代人やさかいに、アトランティスやらジアースやらのファンタジーな世界のお人らとは、体の作りがちゃうわな。なんせバフ●リンかて売っとらんしなぁ‥‥山で遭難なんぞしたら、えらいこっちゃ」
 独特の口調で話すのは、皐月 命(eb8420)である。
「ゴーレム研究に主に関わっていきたいって思っとるんで、トラブルに陥ったゴーレムの実際を見れば今後の役に立つかと思ったんで参加させてもろたんや。行方不明のゴーレムが岩やら樹に挟まれて動けなくなっとったら、邪魔物をヒートハンドの魔法で焼き切るとか、ゴーレムの鎧が歪んで歩けない程になっとったら、溶かして元に戻すとか、応急処置して歩けるようにするで」
「これは心強い!」
 仲間たちが揃って、命に敬意を払う。命は少しだけ照れくさくなったのか、手にしていた依頼書に何気に目を落した。

「さて、すまないが彼らがゴーレムを使用したルートを知っている者がいたら教えて欲しい。捜索に必要だ。判らないなら推測でも構わない」
 と、まずはシャノンが具体案を切り出す。
「恐らく、今ここにいる者は、まだその辺りの情報を掴んでいないだろう。遭難したゴーレムの悲鳴を聞いた場所と其処までの道筋を、城の者に大まかにでも聞いておこう」
 ウィリアムの言葉に皆が賛同した。
「あ、それから前回依頼を受けた連中の名簿を貰えると助かるねえ。後、毒林檎に当たった遭難者を見つけたらどんな処置をするのが良いか、城の医者に聞いとく事も必要だね」
 仲間たちは、各自の役割を決めながら、その日の会議を終了した。

●遭難ゴーレム捜索
 二次災害を防ぐためにも、現場の状況が確認できるまでの間、回収用ゴーレムは山裾の入り口で待機することになった。
 遭難したゴーレムを発見し、回収するのにこちらのゴーレムが必要と判断した場合、カリムが入り口まで戻ってゴーレムに搭乗し、帰路はシャノンが担当することになった。
 毒林檎に当たった操縦士が、ゴーレムを起動させることが不可能な場合はアルミラが代わって操縦する‥‥ということで、全員の意見はまとまっていた。

「はぁー、食中りで任務放棄ですかー」
 馬を連れながら、ジャンが誰ともなしに話しかける。
 ゴーレムの足跡を辿って、まずは徒歩で遭難地点を探るのだが、遭難者がゴーレムに乗れる状態ではない場合を考慮して、可能な者には馬を連れて現地に来てもらっていた。
「で、ゴーレムが一騎ほど戻ってこないと。えー、まぁ、なんと言うか、大変ですねー」
「ったく、一人足りないのを誰も心配しなかったのかね。不人情な連中だよ」
 そう話しながら、出来るだけ道の中央付近を通るようにする。山道は慣れていないと非常に危険なのだ。
 仲間たちは、城から得た情報をもとに、土砂崩れの痕跡や毒林檎の木を目印にしながら、細かく捜索を続けた。
「操縦士の人がゴーレムから離れてないと楽なんですがねー」

●不在の操縦者
「ハッチが開いている!」
 ウィリアムが唐突に大声を上げた。

 遭難したゴーレムは、皆が思っていたよりも随分早くに発見できた。あれだけの巨体である。見当さえ外れなければ、見逃すことはまずないからだ。
 だが、状況は悪い方へ展開していた。操縦士はハッチを抉じ開けて、どうやら外に出てしまったらしい。
 城から入手した名簿をもとに、歩美がテレパシーを使って、上から順に冒険者の名を呼び続けたが、誰からも応答は無かった。

「流石にストーンゴーレム。ぱっと見たところ、致命的な損傷は無いようですわ。これやったら動かせると思いまっせ」
 土埃を被ったまま横たわるゴーレムを、命が早速検分する。
「それではゴーレムの回収は皆に任せて、私は操縦士の捜索に向かおう」
 と、ウィリアムが捜索隊の先頭を切った。
「さほど体力も残っていない筈。さして遠くには行くまい」
「それじゃ、あたしも一緒に行こうかね。手当てをする人間も必要だろ?」
「私も一緒に行きますー。男手が多い方が良いのではー」
 というわけで、ウィリアムと歩美とジャンが捜索隊に決まった。後の者は、崖下で無残に横たわっているゴーレムの回収に当たることになった。カリムは、回収用ゴーレムを起動させるため、山の入り口へと急いだ。

●ゴーレム回収
「道を踏み外して転落などは避けたいですわ」
 カリムはゴーレムを起動させると慎重に山道を取って返した。
 転落したゴーレムの損傷は、さほどひどくなさそうだったが、ゴーレムの足元に土砂と一緒に崩れ落ちたと見られる大木が被さっていたので、それを退けるために、もう一騎のバガンが必要だったのだ。

 幸い、崖の深さはバガンを持ってすれば楽々と降りられる深さだったので、カリムは思ったほど苦労をせずに、遭難バガンのもとに辿り着くことが出来た。カリムが巨木をどけると、続いて崖下に下りてきたアルミラが、搭乗の準備に掛かる。
「上手く動けばいいんだけど‥‥無理は禁物ね」
「アルミラ、どうだ? 起動が可能な程度の損傷か?」
 アルミラが乗り込むのを見届けたシャノンが、心配そうに声を掛けた。
「ええ‥‥どうにか‥‥起き上がれそうよ」
――――――横になっていたバガンが、その大きな身体を揺らし始めた。
「もうちょい‥‥しっかり‥‥動いて頂戴っ!」

 ゴッ、ズズズズズズ――――――ンと、鈍い音を響かせながら、バガンが立ち上がる。
 やや、動きと音が鈍いのは恐らく損傷によるものだろう。
「うちの出番は無かったなぁ。残念やわあ‥‥あ。でも良かった良かった!」
 と、命も事の次第を快く納得。そんなわけで、回収班は無事、任務を終えたのであった。

●救助と災難
 変わってこちらは、捜索隊。川や泉など、まずは水場を求めて移動する可能性が高いだろうというウィリアムの予測が的中し、彼らはバガンが転落した場所から15分と離れていない川縁で、鎧騎士らしき一人の遭難者を発見した。大柄な鎧騎士は昏睡状態で、声を掛けても応答がない。
「早速手当てだね」
 歩美はそう言うと、予め用意していた生理食塩水を騎士に飲ませ、加えてウィリアムから受け取った解毒剤も与えた。
「全く‥‥これに懲りたら、もうちっと用心ってモンを覚えるんだね!」
「あれれー? 歩美さん、彼、目を開けそうですよ」
 鎧騎士の反応に、ジャンが気付く。

「うおおおおオオオォォォォ――――――ッ!」
「えっ?」
「何なんだいっ!」
 突然声を張り上げて起き上がる鎧騎士に、一同は唖然‥‥。
「お前らーっ! よくもこのオレさまに、毒を盛りやがったなあ! この落とし前は、きっちりつけさせてもらうぜっ!」
「ひえー?」
「ちょ‥‥ちょっと待ちたまえっ」
「助けてもらってそれはないだろ? あんた‥‥」
「うるせえ――――――――――――ッ! 言い訳なら地獄で聞いてやらあっ!」
「いっ、命だけはお助け〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

 どうやらこの鎧騎士は思い込みが激しいらしい。おまけに毒に当たったせいで、記憶も錯乱しているようだ。ウィリアムは、その時全てを悟った。なぜ、前任の冒険者たちがクモの子を散らすように解散していったのかを‥‥。

●帰りを待つ人々
「それにしても…前任の冒険者たちが醜態を晒したのは、やっぱり愛が足りないのよ、愛が。ゴーレムを愛していないのよ」
 と、アルミラが強く主張する。
「愛ねえ‥‥」
「あら? 何かおかしくて?」
「いや、別に」
 シャノンがティーカップを口に運びながら小さく微笑んだ。
「とにかく‥‥お城に戻れば、遭難なさった方も多少は落ち着くでしょう」
 そう言いながら、カリムが温かいお茶のおかわりを用意をする。
「ね、このお茶菓子って凄く美味しいですね〜」
「そうね、確かに。私ももう一つ頂こうかしら?」
 カリムにつられてアルミラも皿に手を伸ばす。
「皆さん、早く帰ってこないですかね〜」
「そういえば、命はどうしてる?」
「命さんでしたら、ゴーレムの整備工房の方かと‥‥」

「今回のメンバーの中で、一番ゴーレムを愛しているのは、彼女かもしれないな」
 シャノンがさりげなくアルミラに声を掛けると、アルミラは小さく肩をすぼめて見せた。
「さあさあ、お茶が冷めちゃいますよ! 歩美さんからは、『とりあえず』大丈夫だって、テレパシーで連絡がありましたし、私たちはのんびりゆっくり待ちましょう」
 カリムの言葉に頷くと、3人は今までの冒険の思い出話を語り始めた。

 そして、こちらは城内のゴーレム工房に通じる廊下。
「いっぺんでええから、設備の整うた所でゆっくりじっくり、ゴーレムの修理を見学したいと思とったんや。今回はラッキーや」
 期待に胸を膨らませながら、命は大きくて重い工房の扉を叩いた。
 この時点で、城内にいた4人の女性の頭から、遭難者を救出に向かった仲間の存在はすっかり消え失せていた。彼女らが、彼らの事を思い出したのは、『冒険者が数名、悲惨な姿で門の前で倒れている』との報告を受けた瞬間であった――。