石の城の名も無き英雄へ

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月02日〜10月07日

リプレイ公開日:2007年10月07日

●オープニング

●すれ違い
 少年は馬を降りると自分でゆっくりと手綱を引きながら、少し先にある白い木の家の前で丁寧に草取りをしている青年に静かに近づいた。青年は日よけの麦わら帽子を被って、白いシャツを肘まで捲ってしゃがみこみ、懸命に下を向いて雑草を引っこ抜いている。だが、外は雲一つ無いお天気で外での作業は強い日差しと熱気との戦いでもあった。やがて青年の形のよい額や顎の先から汗が滴り落ちるのを見ると、ユーリは傍から青年にそっとハンカチを差し出した。

「はい、ベルナール」
「あ、有難う、ユー‥‥」
 そこで青年は初めて事に気付いた。彼はそのエメラルド色に輝く綺麗な瞳を大きく見開いてから幾度も瞬きをし、その後にやっとの事で口を開いた。
「ユーリ‥‥お前、いつ戻った?」
「いつって今だよ。今さっき島の港に着いたんだ。連絡しようか迷ったんだけど、手紙より俺の船のが先に島に着きそうな気がしたからさ」
「船って?」
「俺の船‥‥俺たちの船だよ、ベルナール。俺たち又一緒に海に出られるんだ」
「ユーリ、それってまさか」
 帽子を被った色白の青年はユーリが微笑みながら何度も頷くのを見て、大方の事を察したようだった。それから彼はいきなり金髪の少年を抱き締めると大声で叫んだ。
「やった――! 本当にやったんだっ、お前、宝の地図を奪い返したんだな! ドレークの奴、その時どんな顔してたんだろう、俺も見たかったなあ!」

 胸のやや上までまっすぐに伸びた艶のあるプラチナ・ブロンドの髪を揺らしながらベルナールは嬉しそうに何度もユーリの肩を叩いた。背丈はユーリより10cmは高いだろうか。歳も恐らく彼より4つ、5つは上だと思われるその青年は、海賊が密かに住むというその島にはどこか不似合いな線の細さを有していた。肌の色もユーリに比べると色白で、ユーリ同様に端整な面立ちをしてはいるものの、ユーリほどにははつらつとした精気が感じられないのは彼が生まれつき身体が弱いせいではあるが、それでもユーリはベルナール――この、母方の従兄弟に当たる穏やかで心優しい兄のような青年に昔から好感を抱いていた。
(あのさっ、実は俺、宝の地図にある島の一つに行って来たとこなんだ。それで‥‥ほら、しっかりお宝もせしめて来たからさ、早速親父にも自慢してやろーって思って)
 ユーリはふいに背伸びをして左の手でベルナールの耳を引っ張り寄せると、小声でそう言って馬の鞍に縛り付けてある革の小袋を指差した。
 実の所、ユーリが島に戻ったのは先日冒険者にそう勧められた事とドレークの口から洩れた母親の話を父に確かめるのが理由だったが、ベルナールには事がはっきりするまで黙っていようと思った。不確かな情報で彼に糠喜びをさせたくなかったのである。そうして、彼は不思議そうな様子で革の小袋を眺めている従兄弟に更に言葉を続けた。
「親父の具合はどう? ルルにすっかり看病任せちゃってごめん。でも明日からは俺が面倒みるからさ、ルルはゆっくりしてくれて大丈夫だよ!」
「ユーリ‥‥それが」
 親父――という言葉に青年は思わず口篭る。ちなみにユーリは時折親しみを込めてベルナールの事をルルと呼んでいた。
「?」
「親父さん、今島にいないんだ。つい一週間ほど前に見知らぬ男と一緒に船出しちゃったんだ。俺、必死で止めたんだけど‥‥男が前金で300Gも出すもんだから、親父さん、これで船を買う算段が立つって。ひと月もすれば島に帰れるからって‥‥」
「そんなっ! 船なら俺が‥‥これじゃ何の為に俺が家を出たのか分からないじゃないか!!」
「すまない、ユーリ‥‥俺のせいだっ‥‥俺が無理にでも引き止めれば良かったんだ。そしたらお前と入れ違いになる事もなくて‥‥俺がっ‥‥」
 刹那、青年は声を震わせながら被っていた麦わら帽子を矢庭に脱ぐとそれをグシャッと両の手で押し潰して、ユーリの目の前で深く頭を垂れた。
「ベルナール‥‥俺、そんなつもりじゃ」
 只でも顔色の冴えない従兄弟が真っ青な顔で思い詰めているのを見て、ユーリも思わず言葉を失う。そもそも宝の地図を取り戻した時に一度家に戻れば良かったのだ。そうすれば、父と行き違いにもならず従兄弟に要らぬ心配を掛ける必要も無かった。彼を責める理由が一体何処にあるだろう――。
 ユーリは青年の頭を上げさせて、自分も素直に謝った。それから馬を馬屋に繋いでから二人は家の中に入り、互いが顔を合わせなかった時間に起こった出来事についてゆっくり時間を掛けて話をした。
 ベルナールの話ではユーリの父親の怪我はほぼ回復しており、水先案内程度の軽度な仕事であればこなせるだろうという事だった。見知らぬ男に依頼された仕事もその類のもので、どうやって調べたかは分からないがユーリの父親がその海域に詳しいのを承知の上で持ちかけた話のようだった。

「それでも、気前よく前金で300Gも出すなんて結構ヤバイ仕事なんじゃないのか」
 と、ユーリは不安そうに尋ねる。
「ああ、俺もそう思ったんだけど、その近辺の海に詳しい船乗りはそう多くないとかって話で」
 とそこでベルナールの声がやや低くなる。
「‥‥実はさ、例の宝島の近くみたいなんだ」
「宝島だってぇ!?」
 そう叫ぶと同時にユーリは懐から宝島の地図を取り出した。その地図には4つの島の絵と宝の在処が印されてはいるが、それは海図と呼べる類のものでは無い。つまり、海には水深や底質、海岸地形といった目視しにくいファクターが含まれており、それらを船乗りがクリア出来なければ船は簡単に座礁してしまう。
 海賊や船乗りたちは長年の経験や蓄えられた知識からそれらを己の頭と身体に覚え込ませているのであって、地図さえあれば誰でもその島に辿り着けるという事はまず有り得ないのである。
「じゃあ、俺が今から宝島に向かえばあるいは、親父に会えるかもしれないんだな」
「それはそうだが‥‥」
「ベルナールは親父が帰ってきた時の為にここに残ってくれ。今回は俺一人で行って来る。勿論頼もしい助っ人を王都で集めてからになるけどな」
「止めても聞かないのは昔からだな。分かった、親父さんが戻ったら今度こそ引き止めてみせるよ」
「有難う、ベルナール!」
 ベルナールの優しい笑顔にユーリが元気に答える。その夜、二人は幼い頃の昔話を語り合ったり、離れ離れになった海賊仲間の事を話したりして楽しい時を過した。そして翌朝、ユーリは再び船で海へと漕ぎ出した。

●石の城
 さて、ユーリが冒険者と共に向かう事になる2つ目の宝島には最近になって恐ろしい噂が立っていた。
 最近と言うのはつまり、その島にお宝があるという噂が海賊たちの間で交わされるようになったからなのだが、それは兎も角。
 島から生きて戻った海賊の話では、宝島の奥地は砂漠のような乾燥地帯になっていてその砂漠の中央に朽ちた砦がぽつんとあるらしい。宝は砦にあると踏んだ海賊たちは挙って砦を目指したが、誰も砦には辿り着けなかった。その手前に予期せぬ恐ろしい『番人』がいたのである。
 以下はユーリが掴んだ情報である。

・番人とは体長が2mほどもある凶暴な大トカゲで、特殊な息で相手を石に変えてしまう力があるらしい。
・そのトカゲと視線が合っただけでも石化してしまうらしい。
・そのトカゲはバシリスクとも呼ばれているようだ。

 バシリスクをどうにかしてお宝を頂戴致しましょう。

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3446 久遠院 透夜(35歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7896 奥羽 晶(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3064 ゲオルグ・ヒルデブルグ(58歳・♂・ウィザード・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●バジリスク
「みんな、がんばれー石になるなよー!」
 と、砂漠の真ん中で吠えているのは無天焔威(ea0073)であった。
 冒険者一行は朝一番に無事地図にある2番目の宝島に到着し、要所でエル・カルデア(eb8542)のバイブレーションセンサーの索敵を掛けつつ島の中央部へと進んだ。
『蜥蜴に石化された者が沢山いるなら、縄張り近くは石像が乱立していそうな気がする』という音無響(eb4482)の言葉をもとに探索を続けると、果たして石像が立ち並んでいる場所に出た。その像の向こうに簡素な砦城が見える。
 冒険者たちが安堵する間もなく、だが敵はすぐに動きを見せた。
「今の間に散ろう!」
 龍堂光太(eb4257)の号令に従って冒険者たちは作戦通りに行動を開始する。風烈(ea1587)は大蜥蜴と距離が離れているうちにオーラ魔法で士気を高めてから、ピカピカに磨き上げた盾を手にして颯爽と駆け出した。
「宝島か‥‥冒険、財宝、幾つになっても浪漫に心が踊るな!」
「ええ〜〜? そ、そうですかあ?」
 烈の後を追うようにして駆けるのは奥羽晶(eb7896)だ。彼の役目は前衛の陽動部隊・後方支援部隊それぞれの隊の防衛線上に火のトラップを仕掛ける事であるが、彼は当初今回の依頼をだたの蜥蜴退治と思っていて、バシリスクの恐ろしい能力を知った時にはすでに後の祭り(つまり、船は港を出ていた)であった。そして彼は放心状態のまま仲間に引きずられるように上陸した。南無‥‥。

 さて、冒険者の配置は以下の通りである。
 まず、石化視線を封じる為に射程距離内からシルビア・オルテーンシア(eb8174)が狙撃に当たり、彼女の守りに久遠院透夜(eb3446)が付く。透夜は蜥蜴の息及び視線対策として、やはりピカピカに磨き上げたゴーレムブロッカーを装備した。
 そしてシルビアの狙撃を助ける為囮となる前衛部隊に烈、光太と焔威が、彼らの後方支援に晶、エル、雀尾煉淡(ec0844)とゲオルグ・ヒルデブルグ(ec3064)の魔術師部隊が、またそれらの中間地点で側面から蜥蜴を封じる位置に響とユーリが付いた。
 敵と視線を合わせずに戦う――如何に冒険者が強者揃いでも、はっきり言ってこれは至難の技である。おまけに敵は石化の息まで吐くというのだから、全く以て油断はならず、しかもシルビアの狙撃が成功するまでは何としても蜥蜴をこの場で足止めしなければならなかった。
「くそー! 石になって堪るもんか!」
 そう叫びながら、光太は懸命に構えた盾の脇から槍を突き出して応戦し、響はバジリスクの位置や動きを見ながら蜥蜴がブレスを吐きそうになると、前衛の仲間に即座にテレパシーで危険を伝え続けた。
「これが絶対零度、もとい氷点下10度の空間じゃ! トカゲの親玉にはよ〜く効くじゃろう?」
 と声を上げつつ魔法を放つのはゲオルグだ。彼ら後方支援部隊は煉淡が考案した麻袋を使った土嚢の壁越しに各自が魔法を仕掛けていた。蜥蜴の顔が前衛に向けられているお蔭で彼らは蜥蜴の後姿を目視しつつ攻撃出来たのである。だが、蜥蜴の魔法抵抗値がやや高いのか放った魔法が全て成功はしなかったが、ゲオルグのフリーズフィールドとエル、煉淡が交互に放つアグラベイションは徐々に蜥蜴の動きを鈍らせた。
「八足岩大蛇。この世界でも遭えるとは‥‥」
 天界から来た煉淡はそう呟くと何本もある魔法の巻物の一つを開き、サンレーザーをお見舞いした。

  **

 一方、狙撃手シルビアはこの時すでに1本目の矢を外してしまっていた。
 大蜥蜴との距離は約30m。こちらの気配を感じ取られない為に最大限の距離を置いたが30mは微妙な距離でもあった。蜥蜴の目を射抜こうと直接照準を合わせると双方の視線が合う危険がある。尤もこれは確率としてはかなり低く、前衛の攻撃に蜥蜴の意識が集中していれば狙撃を気取られる心配はない。だが確率が零でない事も又事実であり、直視ではなく姿見を介しての狙撃法が達人級の彼女の腕を鈍らせている。
「もう一本、集中して行きます!」
「了解っ」
 シルビアの気合の篭った声に透夜が反応する。彼女は盾に映る蜥蜴の動きにタイミングを合わせて幾度か直視で方向を補正しつつ、期を待って矢を放った。
 ビュゥ――――ウウンと唸りを上げて矢が宙を駆けると、それは眼球を僅かに外したものの目のすぐ上に突き刺さった。矢の傷口から流れる夥しい血は蜥蜴の片目を塞ぐ。
「やった!!」
 と冒険者が叫んだのも束の間、だが蜥蜴は大きく尾を振ったと思うとくるりと体の向きを変え、残った片目でギョロリと辺りを見回してから積み上げられた土嚢を目指して動き始めた。
「そっちは駄目だーっ!」
 思わず駆け出す響の後をユーリが追う。
「あぶないっ!」
 蜥蜴が響を振り返った瞬間――ユーリに後から押し倒された響は間一髪で石になるのを免れた。
「いたたっ、‥‥うわっ!!」
 と、砂地から顔を上げた響の目に背中からひっくり返った蜥蜴が映る。咄嗟に放ったエルのグラビティーキャノンが命中したのである。
「うひょ〜爬虫類の肉はへるしーなんだぞ〜」
 そこへ焔威が打って出ると、両刀を振り下ろしてまずは大蜥蜴の足を1本切り落とした。これで石化の保険は確実だ。特殊能力の石化は石化を行ったモンスターの血をコップ一杯頭から振り掛ければ解除出来るという事をモンスター通のエルは知っていたのだ。
「よしっ、他も切り落とそう」
 と光太が仰向けに倒れている敵の腹に乗って残りの足を切り落とそうとした時、蜥蜴が力を振り絞って起きようとしたのでゲオルグが慌ててアイスコフィンを放ち、これが又見事に成功する。
「しまったあ! 夕飯が‥‥」
 全身が凍りついた蜥蜴に冒険者は黙祷した。

●砦
「烈、これ返すね」
 ユ−リはにこりと笑うと預かっていたコカトリスの瞳という秘薬を烈に返した。
「全員無事なのは良かったが‥‥」
「さて、人懐っこい犬がいるという事は他に住人がいてもおかしくない。話の通じる相手であることを祈りたいが」
 不安げに呟く透夜の肩を煉淡が優しく叩いた。
「兎も角まずは砦の探査だ。俺が魔法で中の様子を探ってみよう」
「犬がおれば飼い主のところまで案内させるんじゃが」
 と口髭を弄りながら呟く、黒いコートに黒絹のマントを羽織った自称ベテラン海賊ゲオルグの長い髪を晶が後からツンツンと引っ張った。
「こらあっ、何をする‥‥ん?」
「えへへ〜」
 見ると晶の腕には一匹の子犬が嬉しそうに抱かれている。
「さっき岩陰から出て来たのを掴まえたんだ。きっと親犬もいるよね!」
 刹那、子犬が晶の腕から飛び降りて砦を目指して走るので、冒険者もそれを追った。

●老執事の話
 煉淡がデティクトライフフォースで探知した通り、砦の奥には二人の男が住んでいた。一人はもうかなり老齢で木のベッドに横たわったまま冒険者を出迎えた。
「あんたら、もしかして外のトカゲをやっつけたのか」
 冒険者が頷くと、若い方の男はひゅーと口笛を吹いた。身なりからして彼も海賊らしい。そして、ユーリが正直に宝の事を尋ねると、彼は宝にはもう興味はないから勝手に持ち出せと言った。
「その代わりと言っちゃなんだが‥‥俺たちを島から連れ出してくれねえか。なあ、爺さん、もういいだろ? 迎えが来たって事はもう帰っていいって事だと思うぜ」
 男の言葉に老人は静かに頷いた。
「あの爺さんは、お前たちが探しに来たお宝の持ち主だった貴族に仕えてた執事様なんだってよ」
「え?」
 その言葉に絶句する冒険者に尚も男は話を続けた。
 男は偶然この島に流れ着いた海賊だった。幸いにも大蜥蜴から逃げ延びた男は砦の中で老人と出くわした。膝を打ち、弱っていた老人の看病をするうちに男は宝に纏わる貴族の話を聞く。かつて執事であったその老人は島に宝を探しに来たわけではなく、人を探しに来たのだそうだ。
 嵐で船が難破した時、奥方は幼い男子の赤子を抱いていた。奥方と侍女たちは何とかこの島に上陸したらしいのだが、島に救助の船が到着した時には奥方の姿も赤子の姿も無かったという。他の島に流されて運良く生還できたものの、この執事は長い月日を掛けてその赤子の行方を捜しているらしい。
「俺はお宝だけ頂いて、さっさと島を出ようと思ったんだけどよ。健気に頑張ってる爺さんを放り出したら『海の男』の名が廃れちまうだろ?」
 男はそう言って白い歯を見せて笑った。
「よかったらご老体の具合を見させてくれ」
 そう言ってベッドに近づく烈の後にユーリが続く。
「あの、大丈夫ですか?」
「これは‥‥ヴァレリー様‥‥私を迎えに来られたのですか‥‥ヴァレリー様、‥‥様は必ずや私が‥‥」
(ヴァレリー?)
 ユーリの蒼い瞳を覗き込みながらそう言うと、老人は瞼を閉じて静かな寝息を立て始めた。
「かなりお歳を召されているようですし、ご家族の方に面倒を見て頂いた方が良いように思いますが」
 やせ衰えた老体の細い腕を見てエルもそう助言し、冒険者とユーリは二人の男とそのペットの犬たちを船に乗せる事にした。そして、若い男が船出の準備をする間に冒険者たちは宝箱が置かれている場所に向かった。

  **

「今回は意表を突いてそのまま飾ってあったりして♪」
 と銅板のパーツに興味深々の響が宝箱の蓋をゆっくりと開ける。宝は若い男が掘り出して砦の一番奥の部屋へ移動させており、彼はすでに宝石を2つ、3つ頂いたと自己申告した。恐らくそれが一番高価な品だったのだろうが、それは兎も角。
「私は前回同様、銅版は底にあるように思うんですけど♪」
「これもお宝なのか?」
 楽しそうに囁くシルビアの言葉通り、銅版は隠された仕掛けの底から取り出され、透夜はそのパーツを不思議そうに眺めた。又、ゲオルグは銅版の模様の有無を調べ、気になる部分を羊紙に記した。
 やがてユーリは宝箱から適当なものを見繕って冒険者へ礼として渡し、銅版と残りを大事に皮袋に納めた。残念な事に父親には会えず、ドレークにも会わなかったが、その事が彼を3番目の島へ向かわせる大きな動機になった。
「石像にトカゲの血を振りかけて宝の噂の出処を吐かせて、ついでに他の島にもこれ以上の凶悪な仕掛けがあると噂を広めさせるか。それでとりあえず噛ませ犬だけでも何とかなるだろ」
 焔威はそう言いながらユーリの細い顎をくいっと抓んだ。
「ユーリ、当面の間はベルナールやらと一緒に島を離れろ。他に厄介な輩が来ないとも限らん」
「焔威、でもっ」
「うん、ユーリは見た目侮られやすいし、最近色々成果を挙げているからな。それに狙われるのはキミだけとは限らないんだよ?」
 焔威に光太も同意する。ユーリの父親が連れて行かれた事や大金を叩いた人物の事が気に掛かっているのだ。まして、ラ・ニュイもこの件に関わっている。
「海に生きる漢は常に互いを信頼し、助け合って嵐をも征する――分かるか、小僧! 仲間の言う事には素直に耳を傾けるもんじゃ!」
 そう言ってゲオルグは海の男らしく豪快に笑って見せた。
「こんな小僧が船長とは世も末じゃて!」
 そう豪語するゲオルグ自身がユーリの成長を喜ばしく思っているのを冒険者は皆知っていた。
 響もいつでも相談に乗るからと、王都の詳しい地図をユーリに手渡した。
 はてさて、ユーリの旅はまだまだ続く。