【プリンスof海賊】ララバイ・ララバイ

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2007年12月10日

●オープニング

●今までのお話
 眩く輝く金髪に紅の唇――女装させればそん所そこいらの貴族令嬢なぞ足元にも及ばないという麗しき美少年海賊ユーリは、父を裏切り『宝の地図』を奪ったかつての仲間ドレークを探し出し、謎の商人ラ・ニュイの協力を得て無事地図を取り戻した。
 冒険者と共に地図にある2つの宝島から金銀財宝と『謎の銅版』を手に入れたユーリだが、その間に父親とは離れ離れに‥‥。
 死んだと思っていた母親が生きている事も分かったが、ユーリは果たして父や母に再びめぐり会うことが出来るのだろうか。
(関連〜「プリンス・オブ・パイレーツ」「亡者の戦慄」他)

●3つ目の島と王都からの手紙
「親父の奴‥‥何の連絡もよこさず、どこで何やってんだよっ!」
 ユーリが突然バンッと拳でテーブルを叩いたので、傍らでハーブティーを器に注いでいた従兄弟のベルナールの手が思わず止まった。
「ここで俺たちが苛々しても仕方ないよ、ユーリ。親父さんに限って海で無茶をするわけないし、きっとじきに仕事を終えて無事に戻ってくるって」
 銀髪の優しい目をした美しい青年は熱いお茶を注ぎ終えたカップを少年に差し出しながら、そう声をかけた。
 彼らは冒険者の進言を受けて、住いを白い家のある島から少し離れた別の島に移していた。父親には『手長じーさんの家で待つ』と書置きを残した。『手長じーさん』といっても本当に手の長い爺様の家に厄介になっているわけではない。それはいわば符丁であった。

「でも‥‥親父が、ルルの言うように宝の島がある海域に向かったんだとしたら、次の航海で会えるかもしれない」
 テーブルに置かれた皿の上の焼き菓子を指で摘みながらユーリ。皿のすぐ傍には白い家を出る前日に王都から届いたある書簡が置かれていた。差出人はラ・ニュイであった。
「先に王都へ出向くのかい?」
 ベルナールの問い掛けにユーリは黙って首を横に振った。
「ともかく3つ目の島へ行って来る。宝もそうだけど‥‥あの銅版が気になるんだ。ドレークは財宝目当てで銅版には興味なさそうだったけど‥‥なんとなくさ」
 そう言いながら、ユーリはラ・ニュイからの手紙を広げて再びそれに目を通した。

 〜親愛なるユーリへ〜

 今もどこかの海の上で航海を楽しんでおられるのでしょうか? 貴方の噂は王都に滞在している私の耳にも色々と入って来ます。順調に宝を集めておられるようで、船を工面して差し上げた私も自分の事のように嬉しく思っています。

 ところで折り入ってのお願いがあるのですが、一度王都の郊外にある私の別荘にお立ち寄り頂けませんか?
 実は貴方にどうしても一目お会いしたいという、さる高貴な方がおられます。お名前をこの場で明かすことが出来ないのをお許し下さい。ですが、その方のご身分やお立場は私が保証します。貴方に危害を加えるようなことは一切ありません。
 どうか私の信じて‥‥。良いお返事をお待ちしております。

 貴方の友人、ラ・ニュイこと、レオナルド・フォン・クロイツより〜


「友人って言われてもなぁ‥‥」
 正直ユーリにはラ・ニュイの心情は量りかねた。冒険者からは彼にはくれぐれも注意しろと再三警告を聞かされている。だが、ユーリ自身がラ・ニュイに世話になりこそすれ、虐げられたという経緯が無いのも事実であった。そこが危険なのだと、冒険者は念を押してはいたが‥‥。
「何にせよ、ラ・ニュイのことは後回しだ! 俺、冒険者ギルドでまた仲間を募ってくるよ! ルルも一緒にくるかい?」
「俺は遠慮しておくよ。また凄いモンスターがいたりするんだろ? 俺じゃ大して役に立たないし‥‥でも、ユーリが良かったらその仲間を一度ここへ招待しようよ。そしたら、俺、腕を振るって上手い料理を作るからさ」
「そうだな〜♪ 大勢で飯を食うのもいいなっ!」
 美少年海賊ユーリの顔にようやくいつもの元気な笑顔が戻る。それを嬉しそうに見つめるベルナールからも温かな笑みが零れた。

  **

 さて、今回ユーリが向かおうとしている3つ目の宝島だが、船乗りたちの話ではその島の周りには『アドゥール』と呼ばれる水の精霊が住んでいるというもっぱらの噂であった。それは体長3mほどの虎のような顔を持つ巨大な鮫で鋭い牙を持ち、様々な水系魔法を使えるという。人と会話が出来るようだが、その知性ゆえに海を汚すものや必要以上に乱獲する者には全力で戦いを挑むという『海の守護者』なのだそうだ。
 ユーリと冒険者は果たして無事島に上陸し、お宝を手に入れることが出来るだろうか――。

 ちなみに島に上がれば地図に従って宝の箱を探して掘り出すだけではあるが、その辺に野生のウルフがいるかもしれないし、思わぬ先客がいないとも限らない。 
 『アドゥール』のみならず、道中くれぐれも注意されたし。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

シュタール・アイゼナッハ(ea9387

●リプレイ本文

●アドゥール
 宝島へと向かった冒険者一行は、船の上でアドゥールへの対応を細かく打ち合わせた。イェーガー・ラタイン(ea6382)は友人に頼んでこの珍獣に関する情報を集めてもらったのだが、もともとこの危険な海域に踏み込む船乗りの数は少なく、おまけに前回のバシリスクとの壮絶な戦闘が船乗りたちの間で噂になったせいで最近では宝島に向かう船はめっきり減り、アドゥールに関する詳しい情報は得られなかった。
「でも、海の守護者って聞くと、ヘタに戦ったら罰が当たりそうな気がするから‥‥話し合いが一番だと思います♪ 」
 にっこり微笑む音無響(eb4482)の意見に皆も頷いた。

 さて、島の入り江にあと少しで着くという所でその水魔法を使う珍獣――アドゥールが姿を見せた。
「偉大な海の守護者へ、この地に来た理由を申し上げます!」
 まずはイリア・アドミナル(ea2564)が声を上げる。彼女は響のテレパシーを介して、自分たちは海を汚すつもりは無く、ただこの先の陸地にある宝を探しに来たのだと事情を伝えた。
「ワタシ達は海を汚しに来たんじゃないの! 此処をー通してーもらえ、ませんかあぁー!?」
 イリアの傍でフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)もあたふたと身振り手振りで願い出る。
 すると、海面から顔を覗かせていた巨大な鮫が一言口を開いた。
「あんたらー、ただでここを通るつもりけ?」
「へ?」
「そやから、ものを頼む時はやなー、ほれ」
「あっ、お供え物ですねっ! ちょっと待ってて下さい!」
 海での揉め事はお供え物と乙女の祈りで解決! ――と見越していた響はさっそく船に積んでおいた酒や果物を鮫に差し出した。
(エビフライとミソ煮込みは積んで来なかったけど‥‥大丈夫だよねっ!)
 アドゥール(鯱)の姿は天界のとある地方を連想させたが、響は気に留めずに貢物を海へ投げ入れた。
「これでいいのかしら? 私たちは海洋汚染しにきたわけでも乱獲に来たわけでもないから、それじゃ、通してもらうわね」
 海の冒険は初参加となる月下部有里(eb4494)がそう言って船を進めようとすると、すかさず鮫が待ったをかけた。
「あんたらー、これから宝を掘り出すんやろ? ほな、もうちっとはずんでくれてもええんとちゃうかー?」
「「「はあ――――――ああ?」」」
「守銭奴の守護者など聞いたことがないっ!」
 それまでのんびりと水精霊を鑑賞していたグラン・バク(ea5229)が思わず剣に手を掛けたが、周りの者が慌ててそれを押し留める。
「へえー、わいは別に戦ってもええねんで。ここらの海は静かで平和な海なんや。なんで平和なんかわかるか? それは人間がおらんからや。人間には知恵がある。それは凄いことやけど、だからって何してもええんとちゃうやろ? 他人のシマへ入るには筋を通してもらわんとな」
「わかりました」
 シルビア・オルテーンシア(eb8174)は進んで船の縁に歩み寄ると財布から金銭を出して海へ投げた。
「貴方に差し出したものはお金ではありません。これは私たちの気持ちです。この偽りの無い気持ちを受け取って頂いた上で、私たちを無事に通してください」
「よしっ、じゃあ、僕も『気持ち』を差し出すよ」
 シルビアに続いて龍堂 光太(eb4257)も金貨を投げ入れ、他の者もこれに倣った。アドゥールは彼らの行いに大いに満足したようで、すっかり態度を和らげた。そして、つい先日も人間たちが船でこの島へやってきたことを話した。これにはユーリも冒険者も驚いた。
「あの‥‥その中に隻眼で左頬に刀傷のある黒髪の男はいませんでしたか」
 とユーリ。ドレークのことを尋ねたようだが、鮫は見なかったと答えた。
「それじゃあ、明るい栗色の巻き毛で額に小さな痣のある男はっ!?」
 ユーリの二度目の問いにアドゥールは見たと答えた。
「親父が‥‥この島へ」
 アドゥールの話によればその船は島には上陸せずに、また別の海へ向かったらしい。ただ、彼らはアドゥールに『海に沈んだ古い遺跡』のことを尋ねたという。
「そこはいくら人間でも容易く入れん海の聖域や。おととい来いって追い返したわ」
 ユーリと冒険者はアドゥールに深く礼を述べて後、島へ上がった。

●宝の場所 
「海難に備えて救命胴衣やらゴムボートまで用意したんですが、結局使わずにすみそうですね☆」
 ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が笑顔を見せる傍で、アリウス・ステライウス(eb7857)がユーリにもらった島の略図をもとにバーニングマップを詠唱する。
 地図が燃え尽きた後には、くっきりと入り江からお宝のありかまでの道が残った。
「アリウス、皆、ありがとう! それじゃ、日が暮れないうちに仕事を終えよう」
 グランが忍犬を連れて先頭を歩き、武器をキューピットボウに持ち替えたイェーガーがそのすぐ後を、シルビアとベアトリーセはウルフよけにランタンを灯して森の中を中央に向かって進んだ。その間、光太は鍛えた視力で周囲を警戒、有里は時折ブレスセンサーで状況を確認した。

「なんとかここまでは無事に来れたようですね」
 森を抜け、宝が埋まっていると思われる岩場まで来て、イェーガーがそう呟いた。
「フェイ、最近この辺りで息をした人間が居ないかわかるかなー?」
 フィオレンティナはペットの妖精にステインエアーワードで確認させたが、それらしい事実はない。
「でも‥‥気をつけなければいけないのは箱を掘り出した後じゃないかな。気がまわる奴なら、掘り出させた後に奪った方がいいと思うだろうし」
「うん、光太の言う通り、島を離れるまでは慎重に‥‥」
 と、ユーリが注意を促すその横で、今までになく真剣な顔をした響とフィオレンティナがスコップを手に無心で地面を掘り返し始めている。宝の誘惑、まさに恐るべしである。
 と、その時――。

「複数の何かが近くまで来てるみたいよ! 皆、気をつけて!」
 ブレスセンサーを唱えた直後に有里が叫び、冒険者たちはそれぞれに武器を構えた。するとほどなく、森の中から数頭のウルフとウルフに追われて逃げ惑う中年男が現れた。
「た、助けてくれ〜〜〜〜っ!! 俺はまだ死にたくないっ! 狼なんぞ大嫌いだああっ!!」
 往生際の悪さはともかく、身なりから察するに海賊のようである。
「よくわからんが助けてやるか。弱者を放っておくのは性にあわん」
 グランはオーラ魔法を唱えると男を庇ってウルフの前に出て、イェーガーがウルフに威嚇の矢を放ったが、興奮したウルフは退きそうにない。
「仕方ありません。アイスブリザード、ゆきますっ!」
「では、私はファイヤーボムで応戦させて頂こう」
 グランと謎の男を庇うようにイリアが、有里たちを守る形でアリウスがそれぞれ魔法を放ち、ウルフを撃退した。突然の魔法攻撃に怯えたウルフが森へ後退するのを見届けてから、光太が男に尋ねた。
「僕らを追って来たのか?」
 男はそうだと頷いた。彼はアドゥールが先日会ったという船の船乗りの一人で、こっそり島に残ってユーリたちがやって来るのを待つように船長に命じられたそうだ。
「宝を横取りするつもりっ?」
「いいや、俺はお前たちが銅版を見つけ出すかどうかを見届けろを言われただけだ。横取りする気ならもっと大勢で待ち伏せるさ!」
 だから、さっさと逃がしてくれと男は懇願したが冒険者がそれを許すわけもなく、彼は早々に縛り上げられた。
 ユーリたちは周囲を警戒しながらも無事宝箱を掘り出すことに成功した。それは今までの箱の中で一番大きく、ユーリは適当なものを見繕って冒険者に品を分け与えた。
 また、例の銅版だが、宝箱の蓋の裏側に隠されていたのをベアトリーセが見つけ出した。5cm四方ほどの小さな銅版をイェーガーが不思議そうに眺め回し、シルビアと有里はその形や描かれてある模様のようなものを細かく書きとめた。

●男の話
 王都へ戻る前に、冒険者一行はユーリの棲家を訪れた。ベルナールは彼らのために腕を振るって美味しい魚料理を振舞い、ユーリと冒険者はそれを残さず平らげた。
 島で捕らえた中年男は最近になってその船に雇われた船乗りで、船長のことも銅版のことも彼らの目的も詳しいことは何も知らされていなかった。もし男が冒険者に捕まった場合を考えてのことだとしたら、船長はそれなりに頭の切れる人物かもしれない。ユーリが熱心に父親のことを男に尋ねたところ、彼は有能な操舵手として船では優遇されているとの話だった。ともかく父は元気でいる――そのことはユーリとベルナールを一先ず安心させた。
 わかる範囲のことを男から聞き出すと、ユーリは帰路の途中にあった島で男を解放した。男の家には彼の帰りを待つ年老いた母親と幼い娘がいるそうだ。情にもろいユーリに、それ以上男を利用することは出来なかったのだ。

「ところでラ・ニュイさんの事ですが、話を聞けば聞くほど油断ならない方と云う印象が‥‥」
 イェーガーが不安そうに呟いた。ユーリを心配しているようだ。
「相変わらず怪しさ全開だよねえ。高貴な方ってユーリが前にだまくらかした貴族とかだったりして!」
 とフィオレンティナ。
「ほふほふっっ!!」
 隣でパンを頬張りながら響も大きく頷いた。
「まさかっ!!」
「だまくらかすって‥‥なに? ユーリ、おまえ、まさかまた‥‥っ!」 
「ち、違うよっ! 俺は女装なんて‥‥そのっ‥‥」
 ベルナールに睨まれてユーリが口篭るところへグランが助け船を出した。
「ラニュイのやり方は例えるなら獲物がかかるよう縦横無尽に張り巡らした蜘蛛の巣といったところだ。 友人よばわりということはユーリを蝶々としてを絡み取る気満々――。相手に踊らされても自分を見失わないことが肝心だ」
「そうそう。わざと宝探しをさせているようで、本当は何を考えているのかわからないですし☆」
 珍しくシリアスモードのベアトリーセが言葉を繋ぎ、光太やイリアも親身になってユーリに助言した。
「うん、集まったものを奪う方が簡単だからね。気をつけなければいけないのはこれからだ。こちらが順調なことは可能な限り知られないようにした方がいい」
「油断出来ませんが‥‥父上、母上の情報を知っている可能性もあります。僕達があなたを守りますから、まずは会うべきだと思います!」
「ありがとう、皆! これからもよろしく頼むよっ!」

 果てさて、3つの島を巡り終えたユーリの旅はまだまだ続く――。