はぐれ大恐獣駆逐作戦っっ!!
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:11人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月18日〜12月24日
リプレイ公開日:2007年12月26日
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●オープニング
第三次カオス戦争においてカオス勢力が負けた場合、カオスニアンは虜囚となるのだろうが、では彼らが使った恐獣はどうなるのだろうか。
いくら冒険者や騎士団が勇猛果敢とはいえ、100頭以上もの恐獣を全て捕獲し隔離するのは容易ではない。
「もし、はぐれ大型恐獣がメイの国内に残っているなら、人々に取って大変危険な相手だ‥‥」
そう考えた冒険者ファング・ダイモス(ea7482)は、KBCに『はぐれ大型恐獣』の調査を依頼した。
結果、ファングの予想通り、先の戦いで粉砕された敵の恐獣部隊『ギリア破砕軍』の生き残りと思われる大型恐獣の群れが、とある山間で見つかった。
その山間に幸い人家はないが、山のふもとに掛かっている大きな橋を渡れば集落まではそう遠くない。恐獣の群れの中にカオス兵は一兵も発見されていないが、もし、恐獣どもが橋を渡って集落を襲うようなことが起れば一大事だ。
だが、如何せんゴーレムはその数も輸送手段も限られていて、今すぐ騎士団のゴーレム部隊を現地に向かわせるのは難しい状況である。
そこで――――。
「ゴーレム機器は借りられない状況で、生身で大型恐獣と戦うという厳しい依頼だが、人々の為に必ず遂行させよう!!」
ファングは立ち上がった。彼は革袋に金貨とある『アイテム』を詰め込むと、はぐれ大型恐獣狩りを行なうため、その足で冒険者ギルドに向かったのである。
文字通りハードな依頼ではあるが、勇気ある冒険者諸氏にはぜひにもファングとともに大恐獣を殲滅あるいは駆逐して頂きたい。
■依頼内容:山のふもとにいると思われる大型恐獣の群れを殲滅、あるいは山間部へと駆逐すること。
【確認されている恐獣】
・カオス大型恐獣 アロサウルス5頭(カオスニアンはゼロ)
その他に、カオス勢力のものか野生かは不明だが、
・ティラノサウルス・レックス 1頭
←山間部
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∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴橋∴∴∴∴∴∴∴
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1マス=8〜10mほど
凸/恐獣が目撃された場所
▲/岩場・崖
∴/平地
仝/木々
…/川
━/橋
◎/T・レックス
●リプレイ本文
●恐獣退治
「ギリア破砕軍の生き残りですか‥‥これは是が非でも何とかしなければなりませんね」
『損害にかまわず前進せよ』――を合言葉にメイの東方へと進軍してきたバの恐獣大部隊との熾烈な戦闘に参加していたイェーガー・ラタイン(ea6382)が思わず呟いた。ギリア破砕軍は首領を失い、実質的に壊滅状態ではあったが、300に及ぶ中型、大型の恐獣の一部がメイ国内に残存してしまったことは、王宮を深く悩ませていた。
「人数が揃ったとはいえ、大型恐獣の複数を一度に相手には出来ない。必ず一匹ずつに分散させる必要がありますね」
「うん、一匹なら確実に倒していけると思う。場合によっては誘き出し作戦も必要だね」
アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)とエイジス・レーヴァティン(ea9907)の言葉に頷き、冒険者は更に綿密に作戦を練った。
「じゃあ、まず俺がふうに騎乗して、空から恐獣たちの居場所を偵察してきます。それで恐獣の場所を確認してから、奴らに気付かれないように罠を仕掛けましょう。同時にゾマーヴィントにも監視を行なわせます」
ふうとはイェーガーのペットのペガサスのことで、ゾマーヴィントは優秀な鷹のことである。
「よし、偵察はイェーガーに任せて、俺たちは工作だな。誰か、罠の張り方に詳しい奴はいるか」
グレイ・ドレイク(eb0884)の問い掛けに答えたのは、ルーク・マクレイ(eb3527)だ。
「私には戦場向けの工作技能の知識がありますから、これを有効に役立てたいところですね」
「うん、僕も工作方面はばっちりだよー」
と、にこにこ顔のエイジス。
「工作技能ではありませんが、私の猟師の技能も使えると思います。獲物のサイズは違っても基本は同じでしょうから」
同じくファング・ダイモス(ea7482)も、罠作りに意欲を見せた。
「これで罠はなんとかなるとして‥‥肝心の恐獣が上手く罠に掛かるかどうかが問題ですね」
「そうですね。追い立てるとか‥‥誘き寄せるとかでしょうか」
地図の上で罠を張るのに最適な場所を探しつつ、シュバルツ・バルト(eb4155)とアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が呟いた。
冒険者が姿を見せれば恐獣は追ってくるかもしれないが、ここで問題なのは、複数いるアロサウルスを一匹ずつばらばらに分散させることだった。
「うーん、いろいろ仕事をお願いしちゃうけど、ここはイェーガーくんに誘導役をやってもらうのはどうかな? ペガサスで飛べるなら、陸を駆けるより危険も少ないと思うし‥‥どうだろう?」
「ええ、遠距離からの魔法で恐獣の注意を引くことも出来ますが、追い立てるのであれば弓矢の方が的確にコントロールできそうですね」
エイジスの提案に風の魔術師、ルメリア・アドミナル(ea8594)も賛同し、イェーガーがこれを快く引き受けた。
「ええと、じゃあ、班分けはどうしよう。罠を張れそうな場所は限られているし、橋の守りも重要だよね」
イリア・アドミナル(ea2564)の言葉に、エル・カルデア(eb8542)が地図を指しながら答えた。
「北の岩場と、南の岩場――ここに誘き寄せるのが妥当ですね。あと、橋の前にも何人か。とすると、せいぜい3匹を相手にするのがやっとでしょうか」
アロサウルスにゴーレムなしで挑もうというのだから、一班にそれなりの人数は必要だ。
だが、アロサウルスは5匹発見されている。この点については、手に余る後続の大型恐獣を足止めするために麻酔薬の入った袋を括りつけた家畜を用意し、恐獣に襲わせて薬で眠らせるという策が検討された。
具体的には、北側の林付近にA班として、アルフレッド、エイジス、グレイとアルトリアが。南側の岩場にはルメリア、ルーク、シュバルツとエルが。そして、集落へと繋がる重要な橋の守りにはイリアとファングが当たることになった。
∴∴◎∴▲▲▲仝仝仝仝A北………………………仝仝仝
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西∴∴∴∴∴∴∴▲凸∴C∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴東
山間部へ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴橋∴∴∴集落へ
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∴∴∴∴∴凸∴仝仝仝仝∴∴仝仝………………仝∴∴∴
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「普段の生業で怪物を狩ってはいるが、これ程の規模は初めてです」
今回の依頼主であるファングは地図を見ながら、あらためてそう話した。彼はこの作戦に必要な頑丈な船舶用ロープや、家畜の運搬を友人に手伝ってもらい、万事を首尾よく整えてた。それらは彼が始めに用意した報酬金の中で間に合う額であったので、それを運用した。
準備に当たる中で唯一問題だったのが、仲間から提案のあった麻酔薬なのだが‥‥この話は別途後述するとして――。
「アルトリアさん」
「はい?」
「良かったら、これを受け取って下さい」
ファングがアルトリアに差し出したのは、持つ者の運が上がるという『水晶のダイス』であった。
「これは今回の依頼の報酬として私が用意したものです。まだ冒険を始められたばかりのあなたに、このような危険な依頼に参加して頂いて本当に嬉しく思っています。どうか無理だけはなさらず、皆と協力して獰猛な恐獣どもを打ち倒しましょう」
「ありがとうございます! がんばります!」
アルトリアの明るい返事に、仲間たちは笑顔で応えた。
●麻酔薬を求めて
「「「ええ〜〜〜〜っ!! そんなあぁっ!! 恐獣をやっつけるのに必要なんですっ、どうかお願いしますぅぅぅ!!!!」」」
「麻薬の手配はいたしておりません。どうぞお帰り下さい」
カウンターに詰め寄った冒険者にそっけなく返事を返すのは、冒険者ギルドの職員であった。
「冒険者ギルドでは麻薬はもとより、麻酔薬の類の斡旋も行なってはおりません。これ以上ここでみなさんに駄々をこねられては、騎士団を呼ぶしかありませんが」
カウンターの奥にいる中年の女性は、厳しい目つきで冒険者を睨んでから、再び机の上の書類に目を通し始めた。
「こちらで依頼のあった恐獣退治に使うのですが」
「それでも売れないっていうのかよっ!」
「私たちは、睡眠薬をなにも悪事に使おうというわけではありません!」
冒険者は口々に目的や理由を述べたが、非情にもギルドの職員は一向に応じる気配を見せなかった。
「仕方ないですね。他を当りましょう」
皆をさとすようにルメリアが言い、冒険者はひとまずギルドを後にした。
「どうします? 闇市にあるという噂は聞きますが、残念ながら私は闇市に行ったことがありません。誰か行ったことがある人はいますか?」
往来する人の邪魔にならないよう、道外れの草むらに移動してから冒険者はあらためて相談を始めた。
「さすがに闇市はねー、どこでやってるかとか詳しい話を聞いたことはないし‥‥」
エイジスの言葉に全員が頷いた。と、そこへたまたま、仲間の昼飯を買出しに出ていたKBCのエドガーが通り掛った。KBC本部を訪れたおりに彼と面識を持ったファングがすかさずエドガーを捉まえる。
「エドガーさん、丁度よいところで会いました! 早速ですが、KBCのつてで麻酔薬を入手できないでしょうか」
驚くエドガーにファングはことのいきさつを掻い摘んで話した。
「例の恐獣狩りに使いたいと‥‥そういうことですね」
「はいっ、どうか宜しくお願い致します!!」
皆の視線を一気に浴び、照れ臭そうな表情を浮かべながらエドガーは声を発した。
「みなさんのお気持ちに応えて差し上げたいのですが――こればかりは、融通できません。みなさんが王宮からの公式な委任状かなにかをお持ちでしたら話は別ですが。これは多分、琢磨くんに頼んでも無理だと思いますよ」
「そんな‥‥」
みなががっかりする様子を見て、エドガーも申し訳無さそうに頭を垂れる。が、次の瞬間――。
「ああ、そうだ! 睡眠薬は無理ですが、要するに、恐獣の動きを封じることが出来ればいいんですよね! それなら他にも方法はありますよ♪」
エドガーは明るく笑って、冒険者にとある農家の場所を教えた。
「この農家の方には、私が個人的にお世話になっているんです。美味しいミルクを分けてもらったりね。ここで、家畜に与えてはいけないとされる毒草などを教えてもらってはどうでしょう。仕事がらそういった事に詳しいでしょうし、あるいは毒草がよくはえている場所もご存知かもしれませんよ」
「なるほど‥‥恐獣が毒草で腹を壊せば、しめたものだ」
アルフレッドも深く頷いた。
「毒草知識なら、僕が役に立てるよ!」
嬉しそうにイリアも叫ぶ。
冒険者一行は急いで農家を訪れ、現地に向かう前に無事毒草を集めることに成功したようであった。
●A班
ところ変わって、ここは恐獣が発見された山のふもと――。
「さて、みんなででっかいのをやっつけよー!」
いつもの笑顔でエイジスが拳を突き上げた。どうやら恐獣を転ばせる為の仕掛けが整ったようである。
「無理はしないで、リラックスしていこうね」
「はっ、はい‥‥っ、が、がんばりますっっ!!」
緊張しないように‥‥と思うほど肩に力が入ってしまうアルトリアの背中を、エイジスがポンッと軽く叩いた。
エイジスは戦闘中に自分が抜かれると後ろの仲間が危ないと思い、シールドソードにラージシールドの盾二枚という防御重視の装備を行なった。戦い慣れた彼らしい気遣いであった。そして腕に自信があり、なにより勇気がなければ仲間の前衛には立てないだろう。
「メイに来たなら、一度は大型恐獣を倒してみたい。自分より強い相手と戦えるのが楽しみだ」
意気揚々と剣を構えるのはグレイだった。鼻歌混じりに、だが慎重に罠の具合を確かめている。すると早速そこへ、イェーガーが駆るペガサスを追って、アロサウルスが北の岩場の奥に突っ込んできた。
「みなさん! 来ましたよッ!」
アルフレッドの掛け声に、仲間たちは一斉に岩場へ身を隠した。
「掴まえられるものなら、掴まえてみろ――ッッ!」
矢を番えたイェーガーは恐獣と際どい距離を保ったまま、一直線に罠が敷かれた道へと導く。恐獣は忌々しくも空中から矢を放ってくる目障りな天馬を追うことに夢中で、足元の罠には気付かない――――。
「――――――――――それっ、今だああああ――――っっっ!!!」
恐獣が自分たちの目の前を通過するその瞬間を狙って、エイジスたちは一斉に太いロープを縛り付けている木の幹を押さえた。勢いに押されて木が倒れたり、ロープが外れてしまっては、恐獣を転倒させることは出来ない。
『ズドドドド‥‥ドドドオオオォォ――――ン!!!!』
と、物凄い地響きを伴ってアロサウルスは前のめりに倒れた。そこには予め、イェーガーの初級ウォーホールによる浅い落とし穴が掘られている。そして、その巨体をすかさずアルフレッドのコアギュレイトが捕らえた。
「よしっ!」
グレイが叫ぶと同時に、エイジスは後方から走りこんでチャージング+スマッシュEXで一気に敵に攻め込んだ。
「容赦はしない――」
ついさきほどまで穏やかな笑みをたたえていたエイジスは、今はすっかり人が変わったように、冷たい目をしたままで恐獣ののどもとにシールドソードを突き立てている。どこか幼さを残すその顔面は獣の返り血を浴びて真っ赤に染まっていたが、彼はそんなことには一向に構う様子はなかった。
彼愛用の防寒着『まるごとばがんくん』も見事に血に染まっていたが、彼がそれをどうやって洗濯するのかはさておき――。
「鬼を殺す刃と謳われるだけのことはある!」
鬼殺しの異名を持つサンジャイアントソードでスマッシュEXを放ったグレイにも十分な手ごたえはあった。
アルフレッドのコアギュレイトが功を奏したところへ仲間たちの一斉攻撃が成功し、アロサウルスは地に伏し、血を流したままで動かなくなった。
大恐獣との壮絶な戦闘を目の当たりにして、思わず身がすくみそうになるのを懸命に堪え、身を呈してアルフレッドを護衛したアルトリアの働きもまた見事であった。
●B班
「大型恐獣5匹。恐ろしい光景だが、奴らが集落に降りる方がもっと恐ろしい。此処が踏ん張り所だ」
複数の岩と岩の間にロープを張り、罠を準備し終えたところでエルが呟いた。その傍らで、ルメリアがシュバルツとルークにフレイムエリベイションを付与している。アロサウルスは尖った爪で鋭い攻撃を仕掛けてくる。ゆえに少しでも回避力を上げておく必要があったのだ。
「民を守るのも騎士の務め。恐獣との戦闘中は、魔術師の方々を守る形で戦いますので、その間に後方支援をよろしくお願いします」
「分りました。では、準備も整ったようですので、これからアロサウルスを誘き寄せます。みなさん、どうか十分に注意して下さい」
A班の支援に向かったイェーガーに代わって、こちらはルメリアが魔法で恐獣を誘い出す作戦のようである。
『天の裁き、光の審判よ今こそ、ライトニングサンダーボルト――!』
彼女は南の岩場の奥にいるアロサウルスを、こちらの入口付近に来させるために、まずは達人級のライトニングサンダーボルトを放った。それは恐獣の脚部に命中し、恐獣は唸り声を上げて振り向いたが、それがどこから放たれたのかは分らないようで、手負いの恐獣は鼻息を荒くしたまま周囲を警戒している。
「こちらの場所が分るように、もう一度魔法を放ちます。恐獣が突っ込んで来るかもしれませんから――――」
と、ルメリアが注意を促しかけたところへ、恐獣が地響きを立てながら突っ込んできた。どうやら岩場の風向きが変わったようで、彼女らの匂いでその場所に気付いたらしい。
「今だっ! ロープをゆるめるな――ッ!」
ルークは恐獣の体重に押されて外れそうになるロープを懸命に引っ張ろうとしたが、手負いの恐獣の勢いは半端ではなかった。
アロサウルスは張られたロープの罠を力で押し切って耐えると、すぐさま方向転換して冒険者に襲い掛かった。
「キャアア――――ッッ!!」
「ルメリアぁぁ――っ!!」
瞬時の判断でルメリアの腕を引っ張って後方に下げ、アロサウルスの爪攻撃をなんとかかわしたシュバルツだったが、敵はすぐさま次の攻撃を仕掛けるべく、爛々と目を輝かせて二人を睨みつけた。だが、その時――恐獣の後ろに回り込んだエルが放ったローリンググラビティが、見事に巨獣の身体を転倒させた。
「まともに足を使わせてたまるか!」
「エルさん、危ないから下がって下さいっ!」
ひっくり返った恐獣の腹にルークのヘビーアックスと、シュバルツのギガントソードが炸裂した。もとより重量のある武器でスマッシュEXを決められたら、さしもの大恐獣も一溜まりもなかった。
ルメリアがライトニングサンダーボルトを放つまでもなく、恐獣は息絶えた。
●C班
「ギリア破砕軍から逃げ出した恐獣なら見過ごせない。可哀想だけど、倒すよ」
イリアとファングは橋の手前に来ていた。恐獣に橋を渡らせるわけにはいかない――その固い決意をもってイリアは自身とファングにフレイムエリベイションを付与した。
1頭のアロサウルスが二人に気付いて近づいてくる。
『冬の女王の吐息、白き嵐よ今此処に――――アイスブリザァァ――ドッ!!』
イリアは橋の手前に仕掛けた罠に恐獣を誘い込もうと魔法を放った。だが、猛吹雪に襲われた恐獣は、より警戒を強めてしまった。
「うーん‥‥吹雪より熱線のが良かったかな‥‥」
「イリアさん、ファングさん、俺に任せて下さい!」
その時、彼らの上空にペガサスに乗ったイェーガーが現れた。彼は素早く恐獣の背に回り込むと弓矢で膝の裏を狙い打った。怯んだ恐獣に彼は間を置かずに矢を射掛け、徐々に罠のある方へと誘った。
「よし、後は私が引き受けた!」
ファングはそう叫ぶと、罠の前に飛び出して恐獣に向けてソードボンバーを放つ。すると、怒り狂ったアロサウルスは脇目も振らずにファング目掛けて突進してきた。
「今だっ、倒れろ〜〜〜!!」
イリアが叫ぶと同時に、アロサウルスがロープの罠に掛かる。しかし、よろけはしたものの、転倒までは至らない。
「なら‥‥これでっ!」
イリアはブラッククロス+2で魔法成功率を上げながら、達人級のフリーズフィールドを恐獣目掛けて放った。
いきなり天界の地球人なら氷点下10度という空間に包まれた恐獣は、寒さのあまり身体を強張らせる。そこへ――。
「全てを斬り砕く、斬一閃――――――――ッッ!!!」
防寒着に身を包んだファングが猛然と斬り込み、アロサウルスに反撃の隙を与えないままにスマッシュEXを連打して、これを撃破した。
「これで3頭、倒せましたね」
「残るは2頭‥‥」
そう呟くファングのもとへ、北と南からも仲間たちが駆けつけた。
●任務完了
「「「うわあああっ、アロサウルスがああああぁぁッ!!!???」」」
皆の瞳に映ったのは、山への入口付近で、毒草の詰まった袋ごと家畜を食って動きが鈍ったアロサウルスを捕らえ、それを食っているティラノサウルス・レックスの悠然とした姿であった。
「アロが食われてるよー‥‥」
「確かに、T・レックスは草食恐竜の他にも、肉食恐獣を喰らうケースがあると聞いたことがありますが‥‥」
「どうする? 満腹になって油断したところを襲ってみるか」
ルークがそう提案してみたが、皆の顔色は優れない。なにせあの巨体なのだから、すでにそこらじゅうに物凄い異臭が立ち込めていたのであった――。
皆は鼻をつまみながら、物陰からしばらく『暴君竜』ティラノサウルスの様子をうかがった。
暴君竜は満腹になると橋の方には目もくれずに、再び山中へと戻っていた。動物は本能的に自分のテリトリーを離れることを好まない。あえて危険を冒す必要があるのは餌が無くなった場合や、その他のどうしようもない事情に迫られてのことなのだ。
「これでしばらくは山を降りてこなければいいが」
冒険者たちは遠ざかるティラノサウルス・レックスの背中を、祈るような気持ちで見守った。
最大の大物を仕留めることは出来なかったものの、集落がアロサウルスに襲われる危険は無事回避された。
ファングは家畜などを買って残ったお金を皆に分け与えて、深く礼を述べた。
そして冒険者の活躍は、ギルドに張り出されたKBCの瓦版や口コミによって、広くメイに知れ渡ることとなるのであった。
さて、ここで蛇足ながら睡眠薬とも関わりの深い麻薬についてもう少し触れておこう。
知っての通り、カオス兵が恐獣を操る際に使用しているのが麻薬である。これは特殊な調合を施したもので、カオスニアン以外のものがこれを作りだすのは今の所不可能だと言われている。
ただし、カオス兵を捕らえることにより、麻薬の収集自体は可能だ。
では、王宮はそれらをどうしているのだろうか。以下はこの件に興味を持ったKBCの上城琢磨が調べたことである。
麻薬を王宮で回収した場合、通常は廃棄(恐らく焼却)か、あるいは必要と思われる量のみ使用、保管が基本だそうである。
ただし現地の部隊により多少扱いが変わる可能性があり、一部の不心得者が横流しすることも無いとは言えない状況らしい。
もっとも、そういった行為があからさまに白日のもとで行なわれるわけもなく、麻薬を闇で扱うものは高価な報酬を得る代わりに、それなりの危険を背負うことになる。
薬草師や医師を生業とするものが医療目的で使えば合法だが、個人的な理由でそれを闇市で入手した場合は非合法であり、その理由や目的の如何に関わらず、売ったもののみならず、買ったものの手が後に回ることもありうるだろう。
麻薬の取り扱いには十分注意されたし――との琢磨からの進言であった。