【第三次カオス戦争】カオスの地偵察
|
■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月01日〜01月07日
リプレイ公開日:2008年01月08日
|
●オープニング
「暗くてよく見えない。すまないが、灯りをともしてくれ」
カオスの穴からの凱旋の後――――朝陽がほどよく差し込む日当たりのよい部屋のベッドの上で眠り続けている巫女の具合を見に来た医師と侍女に向かって、ベッドから今しがた身を起こしたばかりの様子のナナルが最初に発した言葉がこれであった。
侍女は慌ててカーテンを全開にして光をたくさん取り入れてみたが、ナナルの目は見えなかった。
光の明暗は多少なりとも感じるようであったが、物の輪郭は見えず、目の前にいる者の顔すら判別が出来ない状態で、医師はあらためて薬草を調合してくるといって足早に部屋を出た。侍女たちは大慌てで上の者に知らせに走った。
カオスの穴から無事生還出来たものの、彼女がその運命に対して支払った代償は予想以上に大きなものとなった。
**
「だから、お前が行く必要はないっ!! 何度も言わせるなっ!」
幼い巫女ナナルを前にして声高に叫んでいるのは、同じく彼女とカオスの穴を旅したKBCの諜報員、上城琢磨である。
どこから情報を掴んだのか、あるいはお付きの侍女の様子で察したのか、それはともかく――騎士団と冒険者の一行が再びカオスの地へ入ると聞いたナナルは、ぜひにも同行したいと王に申し出たのであった。
承知の通り、ナナルは陽の魔法を操る優れた魔術師でもあった。目が見えないとはいえ、魔法でなんらかを探知することは可能だし、フロートシップに乗船し、腕のたつ冒険者に守られていれば危険も少ない。
なにより、カオスの地の状況を少しでも詳細に知りたいというのが王宮の本音の部分でもあったので、乗船は彼女の意思を尊重するということで王宮は返事を返してしまった。
だが――。
「カオスドラゴンは勇敢な冒険者たちが倒した。カオスの穴も今はないんだ。これ以上、ナナルが無理をする必要はないんじゃないのか」
「無理なぞしていない」
病み上がりとはいえ相変わらずの強気な彼女の態度は、反面琢磨を安心させたが、しかしカオスの地へ踏み入ることは騎士団の鎧騎士でさえも相応の覚悟が必要であった。現実的には――カオスの穴が塞がりこそすれ、バに操られているカオスニアンたちの跳梁はいまだ治まってはおらず、偵察にでたグライダー隊がカオスの地の上空で撃墜されることも少なくない状況なのだ。
それでも巫女は再びカオスの地へ赴くという。
「カオスドラゴンがいなくなったのに、私の心はまったく晴れない‥‥なぜだ? 上城」
「なぜって‥‥」
「まだ終わっていないと言うことだ。すべてが終わるまで‥‥私は私に出来ることをやるまでだ」
「すべてが終わるって、そんなの‥‥カオス勢力との戦いは今に始まったことじゃない! 俺たちが生まれるずっと前から始まっていて、いまだに終わる気配さえないんだっ! ‥‥そんなこと言ってたら、お前、白髪のばーさんになっちまうぜっ!!」
琢磨の言うことはもっともだった。カオス勢力との抗争は、かの天界王『ロード・ガイ』の伝説にまで遡る。それでも巫女は折れなかった。
「上城、先のカオスの穴進攻作戦で、味方の兵がどれだけ死んだか知っているか」
「それは‥‥一応、数字だけは把握してるが」
「負傷した兵も入れれば、その数は5倍以上、いや、もっとかもしれぬ。彼らがなぜ戦ったのか、それはひとえに国の平和を願ってのことだろう?」
「ああ」
まだ14歳にもならない少女にさとされるように言われて、琢磨はばつが悪そうに口篭る。
「ならば、彼らの願いを引き継ぐのが、生き残ったものに残された道だ。ちがうか」
「‥‥」
琢磨は答えなかったが、巫女は黙って微笑んで見せた。目の上に白い包帯を巻いたままで――。
「お前も私もこの国で生まれ育ったものではない。だが、乗りかかった船だ。今更降りることも叶わぬ。それに、お前はすでに行くことを決めているのだろう?」
「――まあな」
ナナルにつられて琢磨も思わず小さく笑みをもらした。
これは冒険者とナナルたちの、危険で過酷な、いつ終わるとも知れない新たな旅の始まりであった――。
■依頼内容:フロートシップに乗り込み、カオスの穴封印後のカオスの地の様子を詳しく偵察(砦の有無など)する。敵と遭遇してしまった場合、交戦も止む無し。
本作戦の司令官はカフカ・マクシミリアン・ド・ネール卿。
【敵兵力】
・詳細は不明。フロートシップが飛行している可能性は大。
・恐獣部隊についても詳細は不明。過去の経緯から、相応の数が存在すると思われる。
【使用可能なゴーレム】
・大型戦闘艦ダロベル(デロベ級2番艦)
・大型金属ゴーレム 2騎(オルトロス級)
・中型ストーンゴーレム 6騎(モナルコス)
・ゴーレムチャリオット 2騎
・ゴーレムグライダー 8騎
※オルトロス級ゴーレム以外はNPC鎧騎士の搭乗が可能です。(レベル専門以下)
※ゴーレムに乗れない冒険者は、フロートシップ上及び、味方グライダーに同乗しての偵察行動も可能です。
●リプレイ本文
●船内にて
アトランティスには天界に存在する方位磁石や太陽は存在しない。ゆえにフロートシップで陸を航行する場合は、山の尾根、大河、海岸線沿いといった目立つ地形を頼りに進むことになる。そして、王都からカオスの穴へ向かう場合には大きくふたつの道が考えられた。ひとつはひたすら海岸線沿いに進む道。もうひとつは、ラケダイモンからいったん山の稜線を北上し、カオスの地の中央を流れる大河沿いに西進する道である。
だが、今は冬。へたに山に近づくと雪や強風の心配もあるほかに、甲板設備が凍結する可能性もあった。乗員の身体にも負担がかかる。よって、カフカ・ネール司令官は海岸線におけるバの状況視察も兼ねて、海沿いの航路を選んだ。
「おかえりなさい‥‥寝ぼすけ姫さまっ!」
ダロベルに乗船したフォーリィ・クライト(eb0754)は真っ先にブリッジに駆け上がると、窓際で琢磨に手を引かれて立っている巫女ナナルの傍へそっと近づいて、思い切り抱き締めた。
「うわっ、その声‥‥フォーリィだなっ! 来てくれたんだ‥‥ありがとう!」
「フォーリィ殿だけじゃないぞ。他にも大勢な♪」
「ナナルさん、目覚めたのだね。良かった、本当に良かった。今度も俺達が守るから、安心して下さい!」
「リューズ‥‥ファング!」
ナナルはまだ目に包帯を巻いていたが、聞き覚えのある懐かしい声を聞いて、リューズ・ザジ(eb4197)とファング・ダイモス(ea7482)を言い当てた。
「ワン、ワンッ、ワンッ!」
「おや、この柴犬は」
その時、ナナルの傍に駆け寄ってきた若い犬をみて、バルザー・グレイ(eb4244)が思わず小首をかしげた。
「バルザーにもらった犬だ。立派になっただろう。今はこの子が私の傍にいてくれて色々と助かっている。あらためて礼を言うぞ」
「じゃあ、これは俺からのお年玉だ」
アリオス・エルスリード(ea0439)はナナルの細い腕を取ると、その小さな手に小瓶を握らせた。それから瓶のふたを開けて、小瓶を持つ手をそっとナナルの顔に近づけてやった。
「いい匂いだ‥‥」
「エスト・ミニャルディーズという名の香水だ。世間並みにいえば、お前もそろそろ年頃だしな」
「アリオス、ありがとう! 今年こそは、お前の妻になるにふさわしい女性を世話してやるぞっ! 万事私に任せろ♪」
「そんなものはいらんッッ!」
隣で笑いを堪えている琢磨の頭を小突いてから、アリオスは仲間の後ろに退いた。それと入れ替わりにシルビア・オルテーンシア(eb8174)とイェーガー・ラタイン(ea6382)も、ナナルに声をかけた。イェーガーはこの前日、友人と共に王宮にいたナナルを見舞っており、もらったクッキーは大層美味しかったとナナルが礼を述べた。
「ところで、これから我らが向かうカオスの穴は、再び開くこともあるのだろうか。今度もまた、巫女殿の身に危険が降りかかることがあったらと思うと‥‥」
と、クーフス・クディグレフ(eb7992)が不安そうに言葉尻を濁す。
彼は先のカオスの穴封印作戦に参加しており、その時に起った出来事をまだ鮮明に記憶に留めていたのだった。
「今ならまだ引き返せるぞ、ナナル」
「その声‥‥烈なのか?」
風烈(ea1587)は他の仲間よりも幾分厳しい言葉をナナルにかけた。巫女の務めをやめようと思えばやめられる事、そしてあえて続ける事の危険性を伝えた上で、彼女の意志を確かめたかったのだ。だが、ナナルは船を降りるつもりはないときっぱりと答えた。
「そうか。常に側にいる事はできないし、できない事を誓っても意味がないから、俺はナナルを何があろうと守るとは言わない。だが俺でいいのなら‥‥例え死地に赴く事になろうとも、何時でも力を貸そう」
「烈‥‥」
「武をもって侠をなす――それが俺の選んだ道だ。まあ、やりたいから勝手にやっているお節介だけどな」
「もし私が巫女などでなく、普通の、ただの娘だったら‥‥」
それでも烈は、同じセリフを言ってくれるのだろうか――と、問いかけてナナルはやめた。
巫女ではない自分など恐らく有り得ないのだから‥‥。
**
艦長室から出て来た司令官カフカ・ネールは冒険者を呼び集めた。
カフカはその中にリューズの姿を認めると、小さく笑顔を送って見せた。その仕草に、彼女はただ赤面するしか応える術を持たなかったが、心の中に温かいものがこみ上げてくるのを彼女は静かに感じていた。
「これより我らはカオスの地へ赴くことになるが、その前に、報告が上がっている敵の新型ゴーレムに関して皆に話しておかねばならないことがある」
敵の新型ゴーレム――冒険者に緊張が走ったのは言うまでもない。
「ある女スパイが入手した『カオスの力を付与したゴーレム』の情報が内々に上がっているが、王宮は実の所、この件に関して事の正否を下しかねている。有体に言えば、証拠がないのだ」
「でもッ! あのパワーズとか言うゴーレムは、普通じゃなかった! それは間違いねえっ!」
カフカの言葉に伊藤登志樹(eb4077)が思わず反論する。彼はその新型との戦に参戦していた。
「勿論、アレは普通ではない。我らの概念を越えた存在だ。だが、それだけでカオスと結びつけることは出来ない」
「しかし‥‥」
と冒険者は顔を曇らせたが、カフカは続けた。
「私が貴君らに伝えたいことは、ここからだ。王宮は不確かな情報で国民の不安を煽ることを望まない。よって、敵の新型ゴーレムについては国の重要機密事項として留めて頂きたい」
冒険者は納得し、各自が準備を始めた。ファングと烈は忘れないうちにと、甘いお菓子をナナルに手渡した。
「一応な。見せてみぃ」
医学の心得のある登志樹はナナルの目を診察したいと言ったが、ナナルが首を縦に振らない。
「ナナル殿、いい機会ですから診て頂きましょう」
バルザーの傍で舞っている小さな妖精たちも『うん、うん』と頷いた。
ナナルの目に外傷はなかったが、登志樹が用意した天界の眼鏡をかけても残念ながら効果は得られなかった。深い霧のようなものが晴れないとナナルは言う。
「くれぐれも無茶はすんなよ。俺も力になるからな」
温かい登志樹の言葉に、ナナルは素直に頷いた。
精神的なショックで一時的に見えなくなる病気もあるからと、登志樹は後で診断結果を琢磨にだけ詳しく話した。
「新年あけまして〜だね、仕事虫くん」
「お前も新年そうそう、相当仕事好きだな」
カオスの穴から戻って後、仕事で顔を合わせるものの、ゆっくり話もできない琢磨とフォーリィだったが、思い立ったように琢磨が尋ねる。
「お前さ、誕生日っていつだよ?」
この男――気になる女性の誕生日も知らなかったとは‥‥と、聞き耳を立てていた仲間たちが思ったのは当然であるが、フォーリィは少し照れながら誕生日を琢磨に教えた。
●迎撃
カオスの穴の手前でダロベルは速度を落とした。ナナルがまず陽魔法クレアボアシンスで探知をかけると、大きな穴は綺麗に塞がっており、窪地のみが残っていた。窪地の周辺にはバの砦らしきものは見当たらないとナナルは言った。
彼女は続けて、サンワードを使って広範囲からバの砦の有無を探ってみた。すると、カオスの地の中央を流れる大河沿いの東方に、カオスニアンと恐獣が大勢集まっている建造物らしきものがあることがわかった。
そこでカフカは鎧騎士の体力を温存するため、カオスの穴上空まではダロベルで進み、川沿いを東へ進む段階からグライダー隊を出すよう指示した。
グライダー部隊の編成にはアリオスが案を出した。
2騎編隊を4つ――冒険者と騎士団の鎧騎士のぺアを3つ、騎士団のみで1つというもので、前者を偵察用、後者をダロベルの護衛用として艦の近くに残す。敵の哨戒部隊による奇襲に備えて、偵察隊は一定の時間ごとにダロベルへ戻り、慎重に進むことになった。
グライダーの操縦にはリューズ、バルザーとシルビアが当り、その後に烈、アリオスとイェーガーが乗り込み、クーフスと登志樹はいつでもオルトロスに搭乗できる状態で格納庫で待機した。ファングとフォーリィはブリッジから甲板へすぐ降りられるように装備を整え、さらにフォーリィはテレスコープ能力を持つイーグルドラゴンパピー、ロロに艦の周囲を見張らせた。
ナナルが言ったとおり、カオスの穴付近にはこれといって特筆すべきものは発見出来なかったが、彼らが大河を東へ進んでほどなく事は起きた。敵の砦あるいはゴーレム工房の探索に当っていたゴーレム隊が、突如現れた敵のグライダー部隊から奇襲を受けたのだ。
翼竜であれば容易く回避も出来たのだが、対グライダー戦となると機動力は互角。
騎士団の鎧騎士が操縦するグライダーがこの奇襲によって1機撃墜された。リューズらは交戦を避けようと瞬時に後退の号令をかけ合ったが、敵のグライダーに同乗した魔術師が放ったと思われるファイアーボムがリューズの機体を襲い、アイスブリザードがバルザーとシルビアの機体を襲った。
味方のグライダー隊は負傷者を乗せたまま、かろうじてダロベルに帰還。この突発的な短時間の戦闘において、敵の操縦者を射落として一矢報いたのは、超越した腕前を有するアリオスと騎乗シューティングEXの技能を有するイェーガーのみで、通常の弓兵では歯が立たなかった。
グライダーを収容したダロベルが大河沿いを再び西へと逃げてゆくのを、敵のグライダーとその後に控えるフロートシップが悠々と見届けていた。
**
「すまぬ。私が敵のフロートシップの位置にもっと早く気付いていれば‥‥」
カオスの地へ落下した味方の鎧騎士を捜索することも叶わず、ブリッジは重い空気に包まれていた。
「ナナル殿ひとりのせいではない」
「そうです! メモリーオーディオと携帯で拾ってきた情報を一刻も早くまとめて、次の作戦に役立てましょう。私たちがすべきことは山ほどあります!」
「シルビアの言う通りだ。交戦した地点の奥になんらかの敵の施設があるのは間違いないだろうが、俺たちの動きが読まれてたってことは、カオスの穴からあそこまでの間に、目立たないような小規模の見張りが置かれていた可能性は高い。それを洗い出すためにも、より詳細な地図の作成が必要だな」
琢磨の指示により、冒険者は各自が得た情報をもとに、さっそく資料作りに取り掛かった。
「もし‥‥もし、墜落したこちらの鎧騎士が生きていたなら、敵の捕虜になっている可能性もあるだろうか‥‥」
クーフスの言葉にみなが反応する。生きていて欲しい――そう願うのは、みな同じだった。
ゴーレム工房と断定は出来ないが、薄く立ち昇っている煙の数から、それなりの規模の施設が大河沿いに建設されているらしいことは、携帯に収められた数々の写真から認められた。
今回の結果から、引き続きカオスの地の偵察が行なわれることが王宮で決議されたのは言うまでも無い。