新年の宴〜飲み放題!

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月08日〜01月13日

リプレイ公開日:2008年01月15日

●オープニング

●KBC主催の飲み会&舞踏会
「宴会? ふーん、わかったよ。んで、いつどこへ行けばいいんだ?」
 KBC本部のとある一室で上城琢磨がこう答えた時、部屋にいたすべての人間が彼に注目した。

「た……琢磨くん、出てくれるんですかっ?」
「出てくれるんですかって、俺が出ちゃマズイのかよ」
 目を点にしているエドガーに向かって琢磨が仏頂面で聞き返すと、とんでもないという風にエドガーは首をプルプルと横に振った。
 まあ、およそ仕事以外のことに興味を持たない彼が、職場の飲み会に顔を出すなぞ極めて異例のことだった。

「ナナルも呼んでいいよな。あいつ、穴から戻ってから寝たきりで、俺たち、何もしてやれないままだったし……。未成年だから酒は無理だけど、せめて美味しいものを食わせてやろうぜ」
 未成年――という概念は地球人にしか通用しない部分もあったが、実際のところ、ナナルも苦い酒よりは甘い焼き菓子の方が好きかもしれない。
「――――人間、成長するもんだな」
 部屋の隅でナイフを研ぎながら、先輩格のジョゼフがそう呟いた。彼なりの琢磨への誉め言葉であった。
「あ、どうせ、例の貴族の館でやるんだろ? なら、夜は舞踏会にしちゃどうだ? 楽士には夕方から入ってもらって」
「いいですね♪ それで手配しておきます!」
 たかがかわら版屋の新年会にしては豪勢だが、たまのことなのでボスも大目にみてくれるだろうとの琢磨の案である。
「それじゃ、早速、冒険者ギルドで助っ人を頼んできますねっ!!」
 そう言うが早いか、エドガーは会計係から金を受け取ると、足早に本部を後にした。

 さて、以下は宴会係のエドガーが冒険者ギルドに依頼した内容である。

■依頼内容:KBC主催の『今年もよろしく!』新年祝賀会に参加して、盛大に宴を盛り上げてほしい。

☆ 会場: さる貴族様の別邸大広間を貸しきり!
☆ 開催日時:吉日 お昼すぎ〜夜
☆ 服装: 正装でなくでも可。ただし、ダンスを踊りたい人はドレス、礼装を準備のこと。

☆ 募集人員:

●司会者(複数可)
●調理人(複数可、以下も同様) 
●会場の飾りつけ
●受付係
●芸披露担当
●給仕係
●もくもくと食べる人
●ひたすら飲む人
 
 などなど、思いついたら他にも提案可。

☆ なお、主賓はシーハリオンの巫女ナナル嬢の予定ですが、その他の来賓も予定しています。
☆ 新年祝賀会ということで無礼講ですので、ゲストに色々質問をぶつけてみたい人は用意しておいて下さい。

  みなさま、どうぞ宜しくお願い致します。  KBC宴会担当: エドガー・クレハドル

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb6729 トシナミ・ヨル(63歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ec1370 フィーノ・ホークアイ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

イェーガー・ラタイン(ea6382)/ 白金 銀(eb8388

●リプレイ本文

●準備
「新年明けましておめでとうございます〜」
 王都の貴族街の中にある二階建ての館には、新年祝賀会の準備を手伝おうと冒険者らが次々に顔をみせ始めていた。
「まあ! 正装のエドさんも素敵ですわね♪」
「これはソフィア嬢、チャイナドレスに眼鏡もよくお似合いですよ」
 愛想よくソフィア・ファーリーフ(ea3972)を出迎えると、エドガーは彼女の手を取って中に招き入れた。
「うむ、KBCにはなかなか気が利く青年もおるようだ。年末年始といっぺんも騒いどらんかったし、験担ぎ験直しで、ここは一発派手にやるとしようかのっ」
 ソフィアに続き、気合を入れて登場したのはフィーノ・ホークアイ(ec1370)である。どうやら呑む気満々のようだ。

「ナナルさんの姿が見えんようじゃが、まだ王宮におられるのかのぉ」
「そうですね、あのお体ですし。こちらの準備が整ってから、お迎えに上がるのがよいかもしれませんね」
 上背のあるファング・ダイモス(ea7482)の肩を借りて天井にリボンを飾り付けていたトシナミ・ヨル(eb6729)が、なるほどと納得する。すると、
「それでは、王宮へは私が参りましょう。琢磨さんたちは他の来賓のお相手をするのに忙しいでしょうから」
 にこりと笑ってそう答えたのは、つい先ほどユニコーンのアリョーシカの背に揺られつつ会場入りしたアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)であった。普段は動き易いレンジャー姿の彼女も、今日は妖精サーシャと共に清楚なドレスに身を包んでいた。

「ねーねー、もっかいもっかい!」
「見せて見せて〜♪」
「るせーなっ、お前らのためにやってんじゃねーっ!!」
 会場の隅で、バルザー・グレイ(eb4244)が連れてきた可愛い妖精レアーとウィンドに囲まれながら、ナイフの投げ技を練習しているのはKBCのジョゼフである。本人の意思に関わらず、彼は昔から子供に好かれる性格だったらしい。琢磨曰く、精神年齢が近い――はKBCでは禁句である。
「子供はああして無邪気に遊んでいるのが本来の姿だというのに、ナナルは巫女という立場に縛られすぎだ。なんなら俺が、王宮を抜け出して遊びに行く算段をしてもいいのに‥‥」
「おい、烈! そういうのはあ、強引にやらなきゃ駄目よっ! あのおチビさんは相当頑固だからねっ、力ずくで攫いにゆくくらいでなきゃ〜〜わかったぁ?」
「フォ、フォーリィさん、酔ってるのか‥‥?」
 風烈(ea1587)に横から絡んだのはフォーリィ・クライト(eb0754)だ。館に着くなり、『駆けつけ一杯!』と琢磨に勧められた酒が存外きつかったようである。
「じゃ、あたしは着替えがあるから、またね〜〜」
 彼女が早々に酔い潰れないことを祈りつつ、烈も礼服に着替えに一旦会場を後にした。

●受付
「いらっしゃいませ〜新年会へようこそ!(にこっ)‥‥ほら、琢磨くんももっと愛想良く、愛想良く!」
「‥‥なんでパーティ会場の受付に、野郎3人が雁首揃えなきゃならないんだよ」
「たっ、琢磨くん!」
 新年早々の友人の悪態に溜息をつきながら、音無響(eb4482)は隣の席で来賓の名をアプト語で書き留めているレインフォルス・フォルナード(ea7641)に申し訳無さそうに声をかけた。
「ごめんね、彼、口は悪いけど根はいい奴なんだ。ほんとに‥‥」
「大丈夫だ。気にはしてない」
 落ち着いた声でそう言いながら、天界人だというレインフォルスは羊皮紙にすらすらとペンを走らせている。まだアトランティスの言語を読み書きできない響は内心感服する思いだった。。
(でも、俺にはテレパシーが‥‥あ、いけない、エドさんに定期連絡いれなきゃ!)
 響は気を取り直して、襟元のシルクのショールを巻き直した。礼服は今日のために新調したらしい。クローゼットには山ほどドレスが詰まっているのに、なぜか男物の礼服だけがなかった――あたりが、いかにも『コスプレ王子』響らしい。


「ソフィアが司会だそうだな。世話をかけるがよろしく頼むぞ」
 つい今しがた王宮からの馬車が到着し、アレクセイに手を引かれて巫女ナナルが控え室に入った。
 彼女は痛々しい包帯こそ巻いてはいなかったが、時折小さく瞬きをする以外はほとんど目を閉じたままだった。
「ナナちゃんもお疲れ様です! さっそくだけど‥‥」
「?」
 ソフィアはナナルが着ている可愛らしいピンク色のドレスの胸元にそっとブローチを飾った。
「クリスマスに渡せなかったプレゼントなので返品は不可ですよ。眠ってしまって皆に寂しい思いをさせた罰です‥‥なーんてねっ」
「‥‥あ、ありがとう」
 胸元からほのかに匂うバラの香りが、嬉しさでいっぱいのナナルの心を優しく包む。彼女は大切な友達の手を取って、幸せそうに微笑んでみせた。

●祝宴
 会場が客人でいっぱいになったところで、ソフィアの司会のもと、新年会が始まった。
 場内にはKBCと縁の深いカフカ・ネール伯爵や、貴族のもとに嫁いだミケーネの姿もあった。また、時折厨房から奥のテーブルへ料理を運んでくる給仕の中に、背の高い美形のカオスニアンが混じっていたのだが、彼がかつて東の砦で冒険者を手こずらせた戦士であることに気付いた者が場内にいたかどうかは定かではない。
「「「オオオ――――ッッッ!!!」」」
 その時、パーティ会場が大きなどよめきと拍手に包まれた。トシナミの一発芸『ぼんぼり変化』が大成功を収めたのだ。どこでもぼんぼりとホーリーライトの合わせ技なのだが、シフールという小柄な体が女性陣の好感を呼んだらしい。
「暗いと不平を漏らすより、進んで明かりを付けるのが肝要ぢゃ」
 そうだとナナルも頷いて、傍にきたトシナミを優しく抱きしめた。
 トシナミに続いて、ファングも得意の手品を披露し観客を大いに魅了した。ナナルはファングの大きくて器用な手を皆の前で褒め称えた。

「呑〜み〜が足らんと〜誰かが〜言うた〜♪ クククっ‥‥よもや年上の勧めた酒を断るたぁ言うまいの?」
 モルト片手に上機嫌のフィーノに捉まったのは響とレインフォルスであった。
「ひえー、もうこれ以上呑めませんよぉ‥‥助けてぇぇ〜〜和美さぁ〜〜ん!」
「年上と言われても‥‥ふたつしか変わらないが‥‥げふっ」
 男ふたりに散々酒を勧めて満足した彼女は、ふと巫女の姿を探した。
「ほんで、巫女! 巫女殿はいづくにかあるっ!!」
 巫女へ挨拶に向かったものの、ナナルの周りはすでに人の山であった。
 烈がナナルにお年玉を手渡すと、バルザーとトシナミもこれに続く。
「そういえばこの前、自分が普通の娘だったら――とか言っていたが‥‥ナナルは竜に変身したり、口から火を吐けたりするのか?」
「えっ? そ、そんなことはないっ! わ、私は‥‥」
「それじゃ、『普通』の女の子だよな」
 優しく諭すように烈に言われて、顔を赤らめるナナル。
「もし全ての使命を無事終えたら、ナナルさんは如何するのですか」
 巫女の幸せを願うファングがそう尋ねると、
「出来れば父や母に会いたい。この世界と天界を繋ぐ道を探すのも良いかもしれぬな」
 目を閉じたままで、ナナルは静かに答えた。
 と、そこへ人波をかき分けてフィーノがやってくる。
「あー、飲みの席で自己紹介というのもなんだがの。鷹の眼ことフィーノ・ホークアイだ。メイに生まれメイに育つ者として巫女殿に感謝をな」
 彼女に続き、我も我もと客たちが巫女へ名乗りを上げる中、琢磨は少し離れた席で仲間と酒を煽っていた。


「琢磨はもう十分大人だし、お年玉は不要だろう? それよりたらふく呑んで、酔いに任せて憂さを吐き出しちまうのも手だぞ」
「うん‥‥いつも世話かけます、バルザー‥‥」
 隣のバルザーの肩にしなだれかかっているところを見ると、琢磨は相当に酔っているようだったが、頭は一応ちゃんと働いているらしく、カオスの地のその後の状況を尋ねる彼に、当たり障りのない部分での情報を流した。と、その卓へドレス姿のフォーリィの手を取りながらカフカがやってきた。
「そんなに酔っ払ってちゃ、踊れないでしょー!」
「イタタタた‥‥ッ」
 フォーリィに思い切り頬をつねられて、酔いが醒めた彼の前に一人の美しい赤毛の少女が佇んでいる。
「女性に恥をかかせてはいけませんわ、琢磨さん」
「あれ? あんた‥‥もしかしてっ」
「はい、ご無沙汰しております。ミルクです」
 ミルク――こと、シャルロット嬢は懐かしい顔ぶれに淑女らしく深々とお辞儀をした。
「わたくし、この度縁あってティトル侯爵さまのもとで書記を務めることになりましたの。今は動けない姉の分まで祖国のため、世界の平和のために尽くす所存でおります」
 流れるような口調で話す乙女は、かつて知るミルクとは別人のようだったが、その志と同様に熱く燃える眼差しは、冒険者が知る『向こう見ずなミルク』のそれと同じものだった。
「ちょっと琢磨、あんた、知ってて黙って‥‥じゃ、ジブリールはっ?」
 ミルクをみても顔色ひとつ変えない様子から全てを察したフォーリィが琢磨に詰め寄る前に、ミルクがジブリールに会ったことを話した。
「姉マリアのことも含めて、皆さんにお話しなければならないこともありますが、今宵は巫女さまのために踊りましょう」
 いつのまに現れたのか、レインフォルスが颯爽とシャルロット嬢の手を取り、ダンスホールの波へと消え、琢磨も恭しくフォーリィの手を取ってそれに続いた。

 やがて宴もたけなわになったころ、アレクセイが琢磨を誘ってダンスの輪に入った。
「ナナルが無事に‥‥とはいきませんでしたが、それでも目覚めてくれて心から嬉しく思います。ですが、私はここで一旦ウィルに戻ろうと‥‥」
「そうなのか?」
 驚いた様子の琢磨にアレクセイが続けた。
「でも、これっきりというわけではありません。また何かあれば戻って来るとナナルには約束しておきますね」
「うん。アレクセイにはモーヴェ島の時から世話になったよな。色々助けてくれて本当にありがとう」
 いつになく素直に琢磨が微笑んで、彼らと出会ってのち多くの時が流れたことをアレクセイは感じていた。

 **

「おお〜い! 折角だから、久しぶりにみんなで記念写真取ろうよ!」
 パーティが終わった後、響が携帯を取り出して皆に声をかけた。
「みなさん、今年も宜しくお願いしま〜〜す!」
「「よろしく〜〜!」」
 ナナルを囲んで、冒険者たちは賑やかに宴を締め括る。

 この日、夜半は空が晴れる様にとフィーノがこっそりレインコントロールを掛けてくれたこと、トシナミとその友人たちがナナルのためにたくさんの贈り物をくれたこと、烈がKBCにと秘蔵のお酒を土産にくれたこと、バルザーがなんと会場にワインを50本も差し入れてくれたことなどなど‥‥――。
 王宮に戻ったナナルは、今日のことを心から皆に感謝して眠りについた。

 虹竜は現在多忙を極めていて、この会に出席することは叶わなかったが、カオスの穴の封印は完璧とのこと。
 だが、しかし――。
 このヒュージドラゴンたちの多忙が意味するところこそが、この世界の大いなる脅威となることを冒険者たちはまだ知らずにいた。