謎のゴーレム回収
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月20日
リプレイ公開日:2008年01月20日
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●オープニング
ステライド領内の港湾都市ナイアドにほど近い平原に取り残された一体の金属ゴーレム――。
バの国のトーラス貴族団が置土産に残していった巨大な新兵器の残骸の回収が、この度王宮より冒険者ギルドに依頼された。
解体手段としては、モナルコス5機を使用することになる。
対象の質量から考えると、その倍の数のゴーレムがあっても良いくらいだが、いかんせん、いまだカオス勢力との小競り合いが各所で続いており、一度に大量のモナルコスを投じるのは難しかったようである。
解体といっても、邀撃戦闘艦クラスに積み込めるよう大雑把に部位を切り分ければ良い。後ほど手配されたフロートシップが、追ってそれらを引き上げる予定である。
その『大きな翼を持った竜のような形をしていた新型ゴーレム』は、実際に戦闘時にその姿を見たものの話によると体長は16〜18mほどだったようだが、今現在は前のめりに大地に倒れこんだような形になっている。
また、厄介なのは恐獣やカオスニアンを捕らえて食ったと言われている長い触手部分で、少なくとも10本以上が腰、背中、腹などから生えている。これを胴体に繋げたままフロートシップの格納庫に納めるのは、正直難しいだろう。
部位的には
・頭部
・手足
・胴体
・触手
などに分かれるだろうが、どの部位から手をつけても構わないそうだ。金属の種類は銀らしい。
ちなみに制御胞は胴体に含まれているし、熱で溶けたと思われる口の周辺の様子も気になるところではある。
制御胞のハッチは背中側にあるようなので、ハッチを開いて中を見ることも可能かもしれない。
この作業は明け方から宵の口まで行なわれ、騎士団の鎧騎士らも加わっての交代での作業になるはずだ。
どのような手順でやるか、その方法などは冒険者に一任される。
なお工房サイドからは、触手の先端より捕食された恐獣らの骨がどの部分から、どのくらい出てくるか(あるいは出てこないのか)が気になるところなので、可能であればそれも確認して欲しいとのこと。
それから、以下は特筆すべき事項であるが、
○本件にはゴーレム操縦が出来ない者の参加も、もちろん認められている。
腕に自信があるものは、ゴーレムと共に解体作業を手伝うこと。その他の知識及び技能分野に自信があるものは、状況を調べて報告書を提出すること。
つまり、あらゆる視野、あらゆる角度からの見識が、この新型について求められているということだ。
敵が残した試作機と思われるこの機体に少しでも興味が湧く者は、ぜひ依頼に参加して頂きたい。そして、己が得意とする技能や知識を生かして、解体作業と平行して調査を行なってくれるとありがたい。
なお、モナルコス5機は輸送艦にて現地に入るので、冒険者はそれに同乗するもよし、定期便のゴーレムシップにてナイアドに入るもよし。
ともかく、少しでも多くの情報を入手するために、冒険者諸氏の助力を請う次第である。
●リプレイ本文
●解体作業
「聞いた限りの情報から推測するなら、先日オルボートを襲撃したゴーレムと同類の物だな。ともかく現状では情報量が絶対的に足りない。後学のためにも協力させてもらおう」
伊藤登志樹(eb4077)が搭乗するモナルコスに抱えられ、目の前に横たわる巨大な金属の怪物を上から見据えつつ、ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)が言った。
暗い夜を越え、空が次第に朝の輝きを増す中で、ゼディスのスクロールを使った探知系魔法での検証が、これから行なわれようとしていた。
バのトーラス貴族団が残した不気味な新型ゴーレムには四方八方から太いロープが渡されて、形式的には地面に拘束されてはいたが、もしこの機体が突然動き出したらロープなど恐らくなにほどの役にも立たない。
冒険者たちは同行している騎士団や、回収作業の関係者たちにくれぐれも注意を呼びかけた。
こと、輸送艦で自ら騎士団とともに現地入りしたバルザー・グレイ(eb4244)は愛馬アインを連れながら、交友を深めたばかりの鎧騎士たちに解体作業の要点などを細かく説明した。
「得体のしれないゴーレムです。動けない振りをしてる可能性も否定できません」
バルザーは現場の指揮官に敬意を払いながら、慎ましやかにそう進言する。そのすぐ後ろでは、クーフス・クディグレフ(eb7992)が解体される前の機体の様子を細かにスケッチしていた。絵を描きながら、気になる点を文章で書き留めていく。こういった地道な作業が、後々重要になってくることは言うまでも無い。
「あー! そこっ、怪物にあんまり近づきすぎんなよっ!」
興味本位でか、ゴーレムの側をうろついていた兵士たちにランディ・マクファーレン(ea1702)が思わず声を張り上げる。
この怪物は獰猛な恐獣をいとも簡単に捕食していたのだ。解体に当たり、味方からひとりも犠牲者を出さないこと――これは今回の大きな目的のひとつでもあった。
また、バによる妨害工作を警戒してファング・ダイモス(ea7482)は外周に細心の注意を払った。
「オルボートとエイジス砦を押さえられた以上、これ以上のバの進軍はなんとしても阻まねば‥‥」
いつでも戦闘に入れる準備をして、ファングや他の仲間たちも静かにゼディスの検分結果を待った。
「インフラビジョンによる熱源探知はなし。リヴィールマジック専門によれば、制御胞にのみ魔法反応がある。火系魔法らしいが、それ以上詳しいことはわからんな」
「制御胞‥‥」
周囲からざわめきが起きたが、ゼディスは特に動じる様子もなく冷静に語った。
「魔法反応がない以上、触手や手足はほぼ完全に不能だろう。ただし、絶対に動かないという保証は無い。保険程度だと思ってくれ。それから、制御胞を開ける前にもう一度魔法を試そう。念には念を入れた方がいい」
「ならば、その際に『石の中の蝶』も試させてくれ。もしも、カオスの魔物が関与していたら面倒だしな」
バルザーの提案が通ったところで、実際にモナルコスによる解体作業が開始された。
**
魔法での確認の後、登志樹とフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)を先頭にして5騎のモナルコスが武具を構えてゆっくりと怪物に近寄る。
勇敢なフィオレンティナは長槍で怪物を突付くという思い切った行動を取ったが、怪物はウンともスンとも言わないし、僅かな震動すら起こさない。
「よし、大丈夫だよねっ! 解体はじめーっ!」
制御胞を開ける時が最も危険と思われるので、その際は冒険者で当たる――というクーフスの案に従って、登志樹とフィオレンティナ以外は後からモナルコスに乗ることになった。
「ゴーレムを使っての回収作業か。いつか戦争じゃなくて、建築とか土木現場に普通にゴーレムが使われるようになればいいのになぁ」
「その通りですよっ! バの国が早々に他国への侵攻をやめてくれれば、それも叶うのに!」
交代を待つ音無響(eb4482)とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の会話に、ふと龍堂光太(eb4257)が口を挟んだ。
「でも、僕がいた世界では戦争が起きるたびに科学が飛躍的に発展したんだよな。皮肉なことだけど‥‥」
光太はトーラス貴族団との戦で銀ゴーレムのヴァルキュリアに乗っていたが、光太自身が体験したストーンから金属ゴーレムへの目覚しい進化は、地球のそれと悲しくも同類のものであった。
「な‥‥なんだよっ! ナンなんだよ――――っ、『こいつ』はッッ!!!」
突然触手部分の切断を行なっていた登志樹が叫んだ。
「これが‥‥恐獣を食ったやつなの? これって、ただの金属の塊りじゃない‥‥じゃあ、一体どうやって恐獣を食べたっていうのっ?!」
フィオレンティナと登志樹が混乱するのも無理はない。そもそも捕食という行為は『生物』が行なうものだ。
生物であるなら肌を裂けば血も流れるが、そのような触手は一本も存在しなかった。それらは全て――――ただの金属であった。メイの金属ゴーレムと同様に。
「フィオレンティナ、気を抜くな! 作業はまだ終わってないぞっ!」
「りょ、了解‥‥!」
騎士団とともに見張りに立っていたランディから喝が飛んだ。
傍にいたバルザーや響たちも困惑の色を隠せなかったが、状況がどうあれ、まずは解体作業をやりきらねばならなかった。
**
触手に続いて翼、足、手、首の順に解体は進められた。
その間、金属でできた怪物は身動きすることもなく、惨めな体を晒し続けた。
そうして、『化け物の腑分け』を想像していたランディを含む大勢の者の期待は、ある意味裏切られる形となった。
「エイジス砦で出てきたパワーズってのが胴体に隠し腕があったりしたんだが、こいつにはないようだな」
と登志樹。
「溶けた口の辺りがどうなっているかわかるか?」
クーフスの問い掛けを受けて、フィオレンティナが調べる。
「うーん‥‥文字通りドロドロになっちゃってるよ。クーフスが推察したようにブレス魔法を吐きかけていたのかも」
「魔法が使えるゴーレムとは‥‥厄介な」
平静ではあるが、どこか苦々しく呟くゼディス。メイのゴーレムで機体自身が魔法を、しかもブレスを吐けるゴーレムなど存在しないからだ。
解体が進む中で、未消化の恐獣やカオスニアンの体の一部分と思われるものが触手部分の金属の狭間で発見されたが、怪物が食した量からすると明らかに少なかった。
怪物が倒れて以来、現地に張り付いていた騎士団の見張りの証言では、狼やその他の動物が怪物の周りに群がって、余っていた肉を食したような事実は認められなかった。
では、残りの部分はどこへ消えたのか――その疑問を解く前に、手順として生肉での反応を確認する作業が行なわれる。
しかしながら触手もその他の部位も、近づけられた生肉には反応しない。
「それじゃあ、ここは覚悟を決めて制御胞を開けるしかないか」
なにげなく呟いた響であったが、待ってましたとばかりに騎士団の鎧騎士たちが、次々とモナルコスから降り始めた。
●制御胞確認
「‥‥きっ、気持ち悪い」
制御胞を抉じ開け、最初に中を見た響の第一声である。
ゼディスによる探知の結果は当初と変わらず、バルザーの石の中の蝶による反応もない。
カオスの魔物が関わっていなければ、まず死体が動くことはないだろう。
(映画みたく、幼虫に卵を産みつけられることもないよね!)
と、怖いもの見たさから顔を突っ込んだ響だが、目に飛び込んできたのはひからびた一体のミイラだった。
用心深く盾を構えていた光太たちも、思わず前進して中を確かめる。
すると、再び怖いもの知らずのフィオレンティナが制御胞の中へ飛び込んだ。
「これ――――っ!! これ、この人の家族だよ、きっと! 他にもなにかあるかも‥‥ちょっと、琢磨くんも見てないで手伝うっ!」
フィオレンティナにせかされて、KBCから同行していた琢磨も中を調べ、いくつかの手掛かりを入手した。
「綺麗な女性ですね。それにまだ小さなお子さんも‥‥」
極度の熱と乾燥に襲われたであろう胞の中で、奇跡的に形を留めていた姿絵を見て、ベアトリーセが悲しそうに呟いた。
「パワーズの搭乗者は『作られた存在』だと言っていたといたが‥‥こいつには家族がいたなんて」
想像もしていなかった現実に登志樹も言葉を失った。
「どうしてっ‥‥奥さんや子供がいるのに、どうしてこんなものに乗っちゃったのよ!! 死んじゃったなんて‥‥誰が伝えるのよ! ねえ、答えてよ――っ!!」
物言わぬミイラにむかって叫ぶフィオレンティナをランディがそっと抱きしめた。
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一連の作業は、ひとりの犠牲者も出すことなく終了した。
ベアトリーセが懸念していた自爆装置なども今回は幸い見つからず、バの妨害も入らなかった。
バの国が搭乗者の生存を信じている可能性は低かったが、それでも、せめて遺品は家族に届けてほしいとの冒険者の願いを王宮はひとまず受理した。
「結局、カオスの力とゴーレムを関連付ける証拠は出なかったな」
「いや、そうとも限らない。あの怪物が生物を捕食し、消化したのは事実だ。ただ、その方法が我々の想像を超えているというだけで‥‥」
「つまり、生き物を食うという行為自体に、なんらかの魔法の力が働いていると!」
ゼディスの言葉を受けて、思わず光太が叫んだ。確証はないが、可能性はある。
加えて、トーラス貴族団はバの国の貴族有志で編成された私設特殊部隊であり、正規軍とは管轄が異なる可能性もあった。
ならば、パワーズとかいう新型機の搭乗員と今回発見されたミイラ騎士との関連が特になくとも説明はつくだろう。
「ともかく、怪物から採取した銀はあらためて調査してもらうのがいいだろうな」
クーフスは教会での浄化も考えたが、まずは王宮とゴーレムニストらの判断にゆだねることにした。
「不気味なゴーレムだと思っていましたが――――我らが戦っている相手は人間なんでしょうか」
ふともらしたファングの言葉に全員が反応する。
「でも、私はメイの人たちのために精一杯の働きをするまでです」
思いはみな同じであった。だが、謎のゴーレムとの熾烈な戦いの幕は上がったばかりなのだ。