侯爵の憂鬱〜モナルコス遭難

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月05日〜02月11日

リプレイ公開日:2008年02月12日

●オープニング

 メイの国は広い――――。
 その広い領土が北のセルナー分国領、西のリザベ分国領、そして王宮のあるステライド分国領の三つに大きく分かれている(図書のメイの地図を参照)のは冒険者も周知のことであるが、実際には侯爵領・伯爵領などを含めて、もっと細かな分割統治が行なわれている。
 その中のひとつであるティトル侯爵領は南北に広がるその広大な領地面積もさることながら、西の果てのカオスの地、あるいはルラの海を越えてやってくるバの国の侵攻から王都を死守するという目的で、防衛ラインとしても重要な機能を担っていた。有能な騎士団が駐留する港町ティトルがその最たるものである。
 また、KBCの瓦版に精通している者の間では、ティトルは豪商エクレール男爵や謎の商人ラ・ニュイが居を構える都市として知られているかもしれない。
 さて、そんなティトル侯爵領内の平穏な村々で、昨今空恐ろしい噂が流れている。

「死人が歩いて、人を喰ってるだよ!」――――――。

 つまり、死んで墓に入ったはずの人間が昼夜問わず村をさまよい歩き、道で出くわした人間に次々に襲いかかり、喰い殺してゆくのだという。
 かといって、畑を耕さねば作物は収穫できないし、猟にでなければお飯の食い上げである。
 村人たちは子供たちに絶対にひとりで出歩かないよう言い聞かせ、桑や斧で自衛するしか手段がなかった。

「そのような奇怪な事件は捨て置けぬ! 即刻人喰いお化けを退治しにゆくぞっ、皆のもの、我に続け――っ!」
「「はは〜〜っ!!」」

 というわけで、侯爵様のお留守の間に、ご領主のご子息であらせられる勇敢な若様がゴーレム兵器モナルコスと部下を率いて出向いたまでは良かったが……。
 この若様率いる討伐隊が、現地の手前にある深い森の中で遭難してしまった。
 だいたい、ろくすっぽ調査もせずに……。


「……勝手にモナルコスなんか持ち出して、勇み足で出向くからこーゆーことになるんですっ!! 」
「おい、あんまり怒ってばかりいると、年増になった時シワが増えるぞ」
 冒険者ギルドへの依頼文をしたためているはずのシャルロットが、頭から湯気を出して怒っているのをみて、銀髪のおかっぱ頭の美少年が後ろから声をかけた。
「あら、ジブちゃん、おかえりなさい。あとで美味しい卵クッキー焼いてあげるから、ちょっと待っててね」
「ジブちゃんって言うな!! ジブリールだっ」
 少年が投げつけた生卵を難なく素手で受けると、シャルロットは再び執務室の机に向かう。
(ほんとにもう……うちの若様たちはどうしてこう、問題ばかり起こすのかしら。これでは侯爵さまのお体がいくつあっても足りないわ)
 ペンを走らさせるシャルロットの心に『闘魂』の二文字が燃えた。
「――――――私がなんとかしなくちゃ!!!」

 そんな彼女を励ますでもなく、おかっぱ頭の美少年は呆れ顔で執務室を出たが、ともかくシャルロットは依頼用の書類を一通りそろえ終えた。
 ちなみにその森の付近には、古びた遺跡・墓地・それに人喰いの死人が出るという噂の村がある。
 また、若様一行がなぜその森に入り、なぜ遭難したかも定かでないため、二次災害を防ぐためにもまずは人命救助を優先し、ゴーレムの回収は後回しでも良いとのことだ。


■依頼内容:10mを越す高木の生い茂る深い森の中で遭難したと思われる討伐隊の捜索と救助。状況によってはゴーレムの回収は後回しでも可。

【捜索地帯略図】
↑北
┌─────────────┐
│■■■∴∴仝仝仝仝仝▼▼▼│
│■■∴∴∴仝仝仝仝∴∴▼▼│
│∴∴∴仝仝∴仝仝仝仝仝仝仝│
│∴∴∴仝仝仝仝仝仝仝仝仝仝│
│岩∴∴∴仝仝仝仝仝仝仝仝仝│
│岩岩∴仝仝仝仝仝仝仝仝凸凸│
│岩仝∴∴仝仝仝仝仝仝仝仝仝│
│岩岩仝∴∴∴仝仝仝仝仝仝∴│
│岩岩岩仝仝∴∴∴仝仝∴∴∴│
└─────────────┘
仝/木々、森
▼/墓地
凸/遺跡
■/村
岩/崖など
∴/道、平地


【遭難した若様一行】
・モナルコス 2騎(うち、1騎は若様が搭乗していると思われる)
・騎兵 5騎


【使用可能なゴーレム】
・モナルコス 3騎まで
・ゴーレムグライダー 2騎まで

※どちらも輸送艦にて移動可能
※稼動時間を考慮して、必要であれば交代で搭乗のこと
※NPC鎧騎士は2名まで搭乗可能

■■備考:ゴーレム工房とゴーレムニストに関して

 ティトル侯爵領にはカオス勢への牽制として現在、王宮よりモナルコスやゴーレムグライダーの常備が許可されています。
 これに伴い、侯爵領内にはメンテナンスを目的としたゴーレム工房が設置されていますが、侯爵領ではこの工房の非常勤ゴーレムニストを現在募集中です。
 ティトル侯爵の認可が下りた『非常勤ゴーレムニスト』は、領内の工房での作業(現状はメンテナンス程度です)が許可されますので、ティトル領内の依頼に参加される機会を活用し、ふるってご応募頂けると幸いです。

 シャルロット 拝

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4494 月下部 有里(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●準備
「では、今集まっている情報からバーニングマップを試してみましょう」
 イェーガー・ラタイン(ea6382)がスクロールを広げて魔法を唱えた。

 冒険者一行は依頼者であるシャルロット嬢への挨拶もそこそこに、森の様子や遺跡など目印になるものの所在、形状などを屋敷内の詳しい者たちに尋ねて回った。
 その後、村人の護衛も兼ねてというアリオス・エルスリード(ea0439)の進言で侯爵領のゴーレムを積んだ輸送艦を問題の村の付近に降ろし、ついで、村人たちからも多くの情報を集めた後、用意しておいた複数の地図に印を描き込んだ。
 やがて正午も近くなった頃、冒険者たちはひとまず若様一行が使ったと思われる森への入口に集まった。ゴーレムを積んで来た大型馬車が、この付近でモナルコスを降ろしたらしい。
「遺跡への道はどうにかわかりましたね」
「でも、遺跡に向かったとも限らないわよ‥‥」
 と不安げに月下部有里(eb4494)。
「では、墓場への道筋も確認しておこう。グライダーはともかく、地上から森に入る我らは討伐隊同様、遭難する可能性が全くないわけではない。用心のためにも、資料は多い方がいい」
 まだ残っている地図を手にして、今度はアリウス・ステライウス(eb7857)が魔法を唱える。
「確かに‥‥輸送艦から見た感じだと、この森は結構な大木が生い茂ってるから、空から森の中の様子を窺うの難しいわね。若様たちに気を取られすぎると拙いかも」
「モナルコスや騎馬の足跡を追って行きながら、自分たちがいる位置をある程度把握しておく必要があるな」
 フォーリィ・クライト(eb0754)の言葉を受けながら、風烈(ea1587)がバーニングマップで示された道筋を新たな地図に書き加えた。
「それでは、グライダーはどう動きましょうか。私は村の様子も気になるので、村寄りの方面から捜索したいのですが」
 と、シルビア・オルテーンシア(eb8174)が申し出る。化け物がまた村をうろついていては‥‥と心配なのだろう。
「それじゃ、森の北西をシルビアさんに任せて、俺は南から北へ向けて森の上空から捜索してみます。そうだ! ベアトリーセさん、後ろに乗ってもらえませんか? 疲れたら降下したその場で交代してもらえるし、なにか見つけた時にも、ふたりで動く方が安全ですよね」
「はい☆ では、操縦を響さんに任せて、私は後方から細心の注意を払って若様を探しますね!」
 音無響(eb4482)にベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が即答する。シルビアは侯爵領の鎧騎士に同乗してもらって飛ぶ事にした。シルビアとベアトリーセが互いの携帯の時刻を合わせる。
「では、そろそろ出立しますか。夕刻までに少しでも手がかりを掴まないと」
 携帯風信器を担いでファング・ダイモス(ea7482)が森へと足を向けた。携帯用といっても風信器は非常に重い。身長2mを越すジャイアントのファングでなければ、とても長時間持ち歩くことは出来ないだろう。ちなみにこの風信器はテレパシーが使える響が乗る機体から外された。

●空から 
「一刻も早く遭難したモナルコスを助けて、若様達を回収‥‥あっ、逆!」
「響さん、相手が男だからって、気を抜いてたら大変ですよぉ〜☆」
「そんなっ! 俺は男だからって差別しませんよっ。それにミルクちゃんが困ってるのに放っておけないです!」
 ミルクことシャルロットとの再会は久しぶりであった。すっかり淑女らしくなったミルクに驚いた冒険者は多かったが、積もる話も依頼を無事成功させてからだ。
「見えてきましたっ、あれ、きっと遺跡ですよ!」
 ベアトリーセに言われて前方に目を凝らすと、緩やかな傾斜でこんもりと盛り上がった木々の上辺に石造りの建物が見える。グライダーの速度であれば、すぐに辿り着ける距離だった。
「この森は思ったより木が覆い茂ってて、見通しが悪いし‥‥先に視界の利く遺跡の周りを確認してみよう。何かわかればいいんだけどな」
 やがて遺跡上空に来たふたりは、期待通り大変なものを発見する。
 開けた遺跡の入口付近で片膝を地に着けて静止しているふたつの石の巨体――――それは紛れもなく、遭難した侯爵領のモナルコスだった。

 一方、ペガサスのふうに騎乗したイェーガーは、シルビアと共に村を襲っている化け物退治に追われていた。森の捜索へ向かうはずではあったが、目の前で村人が襲われているのを冒険者として見過ごすわけにはいかないのだ。
「くそっ、これで2体目だ‥‥いったい全部で何体‥‥」
「イェーガーさんっ!」
 2体の化け物、つまり動いて人を襲う腐った肉の塊りをソウルクラッシュボウで倒したイェーガーに、グライダーの後部座席にいるシルビアが大声で叫ぶ。彼女は天界人がアンデッドと呼ぶその化け物を撃つために、素早く鎧騎士と操縦を交代していた。
「ファングさんたちと交信出来ません! もしや、森でなにかあったのでは‥‥!!」
「どうなってるんだ、この一帯は‥‥っ!」
 イェーガーはシルビアに村を任せて直ちに森へ向かう。森の中へはペガサスの方が降りやすいし、機転の利く烈が逸早く狼煙を上げてくれているかもしれない――。
 そう願いながら、勇敢なペットと共にイェーガーは飛翔した。

●森 
「まるで、私たちが来るのを見計らったようなタイミングだな」
 じりじりと迫ってくる死人に、まずアリウスがファイヤーボムをお見舞いする。

 モナルコスと馬の足取りを辿って森の奥へと進んだ冒険者は、途中、身体を喰いちぎられている3体の騎士の死体に遭遇した。
 その場で有里がブレスセンサーを唱えると、センサーの範囲内に生存者を感知。彼らは来た道を見失わないよう用心しながら、生存者を探した。だが、虫の息で生きていた騎士を見つけ出したものの、モナルコスの姿はなく、彼らの前に現れたのはの数体の生ける屍だ。
「しっかりして! 絶対お屋敷に連れ帰ってあげるから、頑張るのよっ!!」
 重傷の騎士に応急処置を施した有里が叫ぶ。
「私が盾になりますから、皆さん、早くっ!」
「了解っ!!」
「承知した!」
 ファングが騎士と有里を庇うように前に立ち、フォーリィらが戦闘を開始する。ファングは近寄る敵にスマッシュEXを浴びせ、有里もライトニングサンダーボルトで戦った。
 そうして、数の多さに手間取りはしたものの、のろまな敵の攻撃をかわしながら冒険者は化け物をすべて退治した。

「彼だけが殺されずに生きていたってことは、もしかすると俺たちを誘う囮にされたのかもしれないな」
 ホーリーボウで屍を射止めたアリオスの言葉に、狂化が治まったフォーリィが聞き返す。
「あいつらにそんな知恵があんの?」
「いや。他にも何者かが関わっているのかもしれない」
 騎士は見つかったが、モナルコスはここにはない――不条理な状況に烈は思わず声をもらした。

 **

「見つけました、響さん。でも‥‥」
 遺跡から少し離れた岩場からベアトリーセが肩を落として戻ってくる。岩陰に倒れていた騎士を発見するも、彼は見事な太刀筋で身体を裂かれて事切れていた。
「どうして、こんな事に‥‥っ」
「閉じ込められていた若様と柱の影で倒れていた騎士は、幸い大した怪我もしてないみたいだ。とにかく、早くふたりを侯爵の館へ連れ帰ろう。もう一度、皆にコンタクトを取ってみるよ」
 響のテレパシーに仲間が応えた。仲間たちが遺跡に到着すると、ベアトリーセと有里がモナルコスに乗って皆と共に無事森を抜けた。

●侯爵家
「この――――大馬鹿者がッ!!」
 屋敷の客間で、冒険者を前にして兄ルイが弟デオンの頬に強烈な一打を放つ。避けもせずそれを受けた弟は、そのまま床へ倒れこんだ。
「亡くなった騎士たちの遺族に、なんと言って詫びるつもりだ? お前は自分の犯した過ちに、どう責任を取るつもりなんだっ!」

 兄の剣幕に弟が竦みあがった。日頃はあれほど明るく元気なデオンが――と、シャルロットは唇を噛み締める。
「ルイ様、お客様の手前もございます。どうか、今日のところは‥‥」
 シャルロットの言葉を受けて、ルイがその青い瞳を冒険者に向ける。
「弟を助けて頂き、感謝する。傷ついた騎士も他の者の遺体も、ゴーレムもすべて館に届けられたと聞き及ぶ。父に代わり厚く礼を申すゆえ、この後は館でゆるりと休まれるがよかろう」
 そう言ってルイは軍人らしい敬礼をし、革靴の踵を鳴らしながら部屋を出た。
「あの‥‥」
 床からふらふらと立ち上がったデオンにベアトリーセが声を掛ける。
「どうして遺跡へ‥‥そもそも、なぜ森へ入られたんですか?」
「村人が」
「え?」
「遺跡から化け物がうじゃうじゃ出てきて、仲間が襲われていると‥‥我らの前へ、男が飛び出して来たのだ。だから‥‥」
「そいつの後を追ったのか?」
 アリオスの問いに若者が頷く。
 男の後を付いて行く途中で、突然2体の死人が出てきて騎士のひとりが襲われた。他の騎士が応戦を始めるも、村人は足を止めることなく、デオンを遺跡へと急がせた。従者の騎士たちは皆剣豪であったので、デオンはその場を彼らに任せて、遺跡に向かった。腐った死人の数は半端ではなく、このままでは村が危険だから、その巨漢ゴーレムで蹴散らして欲しいと村人が涙ながらに訴えたからだ。
「だが‥‥5人の騎兵のうち4人がやられ、ひとりが重傷を負ったわけですね」
 イェーガーが沈んだ声で言った。結局、無事だったのは、デオンとゴーレムに乗っていた騎士だけだ。
「彼らがそんなに簡単にやられるなんて!」
「それで、遺跡に化け物はいたの?」
 フォーリィの問いに若者は首を横に振る。
「化け物なんて一匹もいなかった。私とアスランはモナルコスを降りた。だが、村人の姿がいきなり消え、彼を探しに行ったアスランも戻らず‥‥遺跡の中を彷徨っていると、突然目の前が真っ暗になって、誰かに強く頭を殴られて‥‥」
「気がついたら、石壁の部屋にひとり閉じ込められていたと。ほんと情けないよね」
「あれ? ジブちゃん?」
「お。ジブちゃん!」
「ジブちゃんって言うなあ!!」

 いつの間に客間に来ていたのか、銀髪の美少年が呆れ顔でデオンを見た。
「その遺跡、ちゃんと調べた方がいいよね」
「ジブちゃん、あたしたちに協力してくれんの?」
 嬉しそうにフォーリィや響が尋ねると、ジブリールがプイっとふくれっつらで横を向く。その様子をアリオスたちが笑顔で見守った。

 **

「シャルロットさん、力になれる事が有れば直ぐに駆けつけます。何時でも呼んで下さい」
 ファングの言葉に嬉しそうにミルクが微笑んだ。彼女の姉マリアのことも気になったが、ミルクがデオンや亡くなった騎士たちのことに心を痛めていたので、今は誰もそのことには触れなかった。
 又、非常勤ゴーレムニストに応募したアリウスは、この後、侯爵領のゴレーム工房を見学に立ち寄った。規模こそ小さいが、設備の行き届いた工房であった。ミルクの話によると、侯爵が戻り次第、正式な認証書が届けられるという。
 さて、幾つかの不可思議な謎を残したまま、この件は解決となった。死人の化け物もそれきり影を潜めた。
 そして、一先ず落ち着いたこの館にティトル侯爵が憂鬱な面持ちで戻ってくることになるのだが、その話はもう少し先のことになる。