花の王都に潜む諜報員を見つけ出せ!
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月15日〜07月20日
リプレイ公開日:2008年07月24日
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●オープニング
「ねーねー、あんたたちぃ」
「なあに? ママ」
王都の繁華街の裏通りにある小さな酒場のカウンターの奥で、数人の男たちが丹念に髭を剃り、派手な化粧をほどこしながら歓談している。
「あのさあ、あんたたち、『金色の瞳をした超イケメン用心棒』の噂って知ってるぅ?」
「いやだわ〜ママったら」
「当然じゃないの」
「ティトルの秘密クラブを束ねてるボスに雇われてるとかいないとか」
「彫りが深くて、超美形なのよね!」
「そうそう、でもさぁ、いくら綺麗でもカオスニアンじゃあねえ」
「そうなのよ。ティトルには侯爵さま公認の賭博場やら遊郭もあるけど、カオスニアンはさすがに雇えないわよねぇ」
「ああ〜〜一度でいいから会ってみたいわあ!! その金色の瞳の美貌の剣豪カオスニアンとやらにっ!」
「シっ、アヤヤったら声が高いわよっ。またまた戦争が始まっちゃったんだから、この店がカオスニアンびいきだとか噂が立ったら激まずいでしょっ! ねえ、ママぁ」」
(ちっ、こいつら皆ミーハーだったのを忘れていたわっ)
珍しい話題で気を引こうとしたものの、あっさりと目論みが外れてご機嫌斜めの店のママが、少しばかり偉そうに言葉を吐く。
「そうよ! 戦争が始まるってことは、この王都に仕事を求めて傭兵たちが集まってくるってことで、いわばこれからが『書き入れ時』! あんたたちの給料が上がるかどうかの大事な時なんですからねっ!!」
とは言うものの‥‥とママは思う。
「でもよ、でも――カオスニアンってのはだいたいマッショでひどい顔してるじゃない? それが、すらりとした長身に人間の男顔負けの秀麗な顔立ちとなると‥‥そのカオスニアンって、もしかしたら禁忌の子‥‥」
「「「ママ――――――っっ!! それこそタブーよっ! その先を語れば危険人物扱いで騎士団にしょっぴかれても文句言えないのよっ!!」」」
ギィィ――――――。
と、ちょうどその時、音を立てながら店の木の扉がおもむろに開く。
「キャーっ!!! ごめんなさいっ、もう言いません! 禁忌の子だなんて、絶対絶対言いませんっ!!」
「あの‥‥私ですよ、ママさん」
「え? あら? あなた、KBCのエドちゃん?」
「はい」
見慣れた顔の客人に、店の者全員が安堵のため息をもらした。やがて天界で言うところの『オカマバー』にも似た、女装好きの男たちが集まって開いている、この奇妙な居酒屋のママからひと通りの話を聞いたエドガーはいつもの爽やかな笑顔で答えた。
「まあ確かにこの世界では、カオスニアンと人間は相容れない存在ですからね。こっちに来たばかりの天界人のように興味本位に騒ぎ立てると騎士団に睨まれますが、そうそう逮捕されることはありませんよ」
「そ、そうよねぇ」
額に薄く冷や汗をかきながら、店のママが棚から出したカップにワインを注ぎ、エドガーがそれを嬉しそうに飲み干した。
ちなみに噂のカオスニアンはエドガーもよく知る人物であったが、もちろんママには内緒だ。
「ところで、琢磨くんのことなんですが、あれから彼、ここに来ました?」
「それがねぇ」
とママも店の子たちも悲しそうに首を横に振る。
KBCの看板記者、上城琢磨は3日前にこの店を訪れていた。少々疲れているように見えた琢磨だったが、彼が家にもKBC本部にも戻っていないなど詳しい裏事情を知らぬママは当然、彼を引き止めることもなく帰してしまった。
「事情を知ってたら、首に縄かけてでも店に繋ぎ止めておいたんだけどねぇ」
「いえ、こちらこそ皆さんに心配をかけてしまい、申し訳ありません。今日も開店前だというのに、勝手にお邪魔してしまって」
エドガーは軽く頭を下げて店の者に詫びた。このように礼を外さないところが、彼が好青年と呼ばれる所以であるが、それはともかく。
「そうそう、それでね、琢ちゃん、王都で少し調べたいことがあるとか言ってたから、お城の近くに潜伏してるのかと思ってたら、港で琢ちゃんを見たって情報も入ってるの」
「港ですか」
「まあ、人や物の出入りの激しい場所だものね。ただ、近頃じゃあ、王都も夜は恐ろしく物騒だからねえ、あんたも心配だわよね」
「ええ、そうなんです」
と、エドガーが眉をひそめて項垂れた。市民や村人が魔物に襲われたという話は後を絶たないからだ。
「そーそー、シフールそっくりの『黒きシフール』はもとより、『邪気を振りまく者』、『翼を生やした黒豹』、『死肉を食らう者』に『炎を預かる者』まで、カオスの魔物勢ぞろいって感じだもんねー」
「あんた、魔物にえらく詳しいわね」
「えー? お客さんの受け売りよぉ♪」
あっけらかんと答える女装男の頬をママが思い切りつねっていたが、ただ、彼が言ったことは事実であった。
やがてエドガーは行方不明の記者、琢磨に関する手がかりをまとめ終えると、ワインをもう一杯頼み、それを残さず飲み干してからママと店の子に笑顔で挨拶をして店を出た。
一刻も早く見つかるように竜と精霊に祈っておくからと、別れ際のママの温かい言葉がエドガーには嬉しかった。
【琢磨が行きそうな場所】
○城の近くの貴族街周辺
○王都中央の繁華街周辺
○港周辺
「さて、冒険者ギルドで少しばかり助っ人を頼んで、一気に捜索した方が早そうですね。琢磨くんが魔物に襲われるようなことになったら、KBCの一大事ですから」
メモを取った羊皮紙を鞄にしまうと、エドガーは冒険者ギルドに向かって急ぎ足で歩き始めた。
■依頼内容:王都に単身潜伏していると思われる琢磨を探し出して捕まえること。もし魔物に遭遇したら、逃さずやっつけること。
●リプレイ本文
●いざ探索
「琢磨の奴、帰ってきてるなら帰ってきてるで顔だしぐらいしなさいよね! 人に心配かけるような奴には1発お仕置きが必要ね、まったく」
「ポリポリ‥‥おー! ほれなら私の分も頼む。フォーリィ、2発殴っていいぞ」
「ポリポリ‥‥よっひゃ、まかへなさいっ!」
「ま、まあまあ、まずは琢磨殿を捕まえてからだ」
王宮の中にある巫女の部屋で、風烈(ea1587)からもらった雛あられを一緒にほおばりながら息巻くフォーリィ・クライト(eb0754)をリューズ・ザジ(eb4197)がなだめに入る。と、その隣で、
「理由もなく姿を見せないような人ではないんですけどね」
「そうぢゃな、本部にも寄らないとはどう云う事なのぢゃろうか。何か理由があるのかのう」
これまでに幾度も琢磨と行動を共にしているソフィア・ファーリーフ(ea3972)とトシナミ・ヨル(eb6729)が不安そうに呟いた。
ふたりの会話に小さく頷いたバルザー・グレイ(eb4244)も同じ気持ちのようだった。
「まあ、理由はともあれ捕獲の依頼を受けたのだから俺たちは捕獲をするまでだ。王都内を手分けして捜索し、情報の交換は一日に一度行うようにしよう」
具体的に作戦を詰め始めたアリオス・エルスリード(ea0439)に烈も続く。
「そうだな。琢磨さんが行方不明になった一因には俺も関係しているし、何としても見つけ出さなきゃな」
KBCの琢磨は反乱軍鎮圧の際、不審な村を探ろうと潜入捜査に出向いたまま消息を絶っていた。同じくその依頼に参加していた烈は責任を感じているのだ。
「大丈夫だ、烈。凄腕の冒険者に狙われたのが運のつき。へなちょこ諜報員に逃げ場はない」
トシナミにもらった魔法の銅鏡を嬉しそうに眺めつつ、巫女は皆を励ました。
「うん、心配されるのは幸せ者の証拠だと琢磨さんに伝えるためにも、皆でしっかり探しましょう!」
「私は加勢できないが、よろしく頼む」
ナナルはまだよく見えない目で、それでも冒険者の前に進み出て、ひとりひとりの手を取ってはペコリと頭を下げる。
「一段落ついたらまた報告に参ります。土産の菓子も忘れずに買ってきますからね」
「ナナルもしっかり目を治せよ」
リューズやアリオスの言葉に頷いて、菓子や鏡の土産の礼を述べると巫女は皆を笑って送り出した。必ずや吉報を持ってきてくれることを信じて。
●貴族街
「カフカ殿がご不在だったのは残念だったな」
「え? あ、ああ、事前にアポイントも取れなかったのだし仕方がない」
バルザーの提案でカオスの魔物についての情報を聞き込むためにネール卿宅を訪れたのだが、卿は留守。
ここ暫くの間カフカの顔を見ていないリューズは小さなため息をもらした。
「と‥‥ともかく、仮に琢磨殿がどこぞの貴族を探っているのであれば、得意の女装で侍女の振りをして潜り込むぐらいやりそうなものだ。だが臭いまではごまかせまい。この方法で早く見つかればよいが」
エドガーに頼んで琢磨の持ち物を持ってきてもらったリューズは、セッターのルーナに残っている臭いを嗅がせて琢磨の所在を探させていた。一方、騎士団とはち合わせた時の身の証にと精竜白金貨章を身に着けたバルザーは、妖精のレアーを使ってグリーンワードで琢磨の特徴を伝えて反応を見たが、まだ思うような答えは得られずにいた。
と、ふいにリューズのセッターが道の先にある花屋に向かって吠え始めた。
「琢磨殿か!」
駆け出した犬の後を追ってふたりが走ると、花屋の前にいた青年が気配に気づいて振り返る。
「うあ、リューズにバルザーっ? なんでこんな所へ!」
「ナナル殿もエド殿も、皆心配している! フォーリィ殿には出来るだけフォローをしてやるから、我らと共に帰ろう!」
「KBCに報告を入れるのもお前さんの義務だろうっ、ともかく我らと共に!」
「そそそ、そうはいかないんだってば!!」
冒険者ふたりが体当たりをするより早く、連れていた馬に飛び乗った琢磨が先に月魔法を唱える。
「シャドウフィールドか‥‥っ」
「いつのまに新しい魔法を!」
魔法で作られた漆黒の闇の中に残されたリューズとバルザーは、騒ぎの通報を受けて駆けつけた騎士団への弁明に思わぬ時間を費やすこととなった。
●繁華街
「人を隠すには人の中ってことで、ここらに潜伏している可能性も低くないな」
「ふむふむ‥‥と、この蜂蜜はナナルの土産にちょうどよさそう。おじさん、これ2つ頂戴っ!」
「なんで2つなんだ?」
「い、いいでしょ、いくつ買おうがっ!!」
「ふーん。まず殴っておいて、後から食い物で手懐ける。まさに飴とムチだな」
「ア、アリオスっ、あんたねーっ!! ‥‥って、あれ琢磨じゃないの?」
フォーリィの視線の先をアリオスが追う。
繁華街を担当することになったふたりは、琢磨が行きそうな店をエドガーから聞き出したのち、それぞれの店の顔役や路地裏に始終たむろしているような連中に多少の金銭を渡しながら琢磨の足取りを追っていた。
そして、とある酒場に入っていくところをフォーリィが見つけたのだ。
「よし、客に紛れながら俺が先行して奴に近づくから、フォーリィは後をついて来てくれ」
アリオスの指示に従って賑わう酒場にふたりが潜り込む。やがて、アリオスが伸ばした手があと少しで琢磨の背中に届きそうになったその時、
「おおっ、珍しいじゃねーか。こんな所にハーフエルフの姉ちゃんがいるぜ!」
「へえ〜あんた、旅の人かい? よかったらこっちで飲まねえかぁ」
「え‥‥ちょ、ちょっと」
と、動揺するフォーリィの視線がばったり琢磨の視線と合った。
「琢磨っ!!」
だが、次の瞬間琢磨の身体が銀色の光に包まれ、その直後、酒場は漆黒の闇に覆われてしまった。
●港
「でも、その様子じゃ琢磨さんがまだ王都にいる可能性は高いな」
昼を過ぎた頃、KBC本部の近くにある宿屋に集まった仲間の話を聞いて、烈が呟く。
烈とソフィア、トシナミの3人は港周辺の聞き込みに回っていて、いくつかの目撃証言を得ていたが、トシナミの犬、ぼるぞうを使って周囲を探索するも、本人を見つけ出すことはできないでいたのだった。
「俺たちの他に、琢磨を探している奴はいたか」
「いや、こっちは特には」
琢磨を探しているのは今のところ冒険者だけのようだが、まだ油断はできない。
「う〜ん、港‥‥外国、バの国‥‥スパイの存在でも調べてるのかしら」
「携帯で撮った写真を見るかぎり琢磨さんは写っとらんが、しかし、怪しげな輩はゴロゴロしとるのう」
ソフィアに続いてトシナミがため息を吐く。
と、不安そうな顔で黙り込んでいたフォーリィが小さく叫んだ。
「た‥‥琢磨? なに、港って、それって――――琢磨っ!」
驚いた顔で瞼をしばたかせるフォーリィに皆の視線が集まる。
「もしかして、テレパシーか」
リューズの問いに頷くフォーリィ。
「琢磨はなんと言ってきたのだ」
促すようにゆっくりと問うバルザーに彼女は慎重に答えた。
「今夜、港まで来て欲しいって。そこでちゃんと話すからって」
「フォーリィさん、ひとりでか?」
「わからない‥‥」
「ひとりで行かせるわけには行かない。もし誰かの罠だったらどうする? ここは全員で行くべきだ」
アリオスの意見に皆、異論はなかった。
●琢磨と魔物と
その夜、琢磨の指示通り、フォーリィが港の桟橋に立ち、他の仲間は彼女を肉眼で捉えられる範囲に身を潜めた。アリオスは変装し、トシナミは高所から周囲を見渡した。
「琢磨なの? あんた、本物の琢磨なのっ?」
「ああ」
桟橋に繋がれていた小船の陰から現れた琢磨が答え、手の石の中の蝶が微かに震える。
「会わずに済むならと思ってたけど、王都は狭いし、やっぱ無理だよな」
「あ‥‥当たり前――――」
と怒鳴りかけたフォーリィを琢磨が手を上げて制した。
「隠れてないで出てこいよ。リザベからずっと俺をつけてただろ? 悪いけど、アンタが期待している場所にはいく気ないぜ」
(リザベから?)
仲間たちが物陰で首を傾げていると、暗闇の中からひとりの男が現れた。
「琢磨、こいつはっ?」
「カオスの魔物かその手下。リザベ領の怪しい村で俺と兵士を襲って拉致した奴、村長になりすまし、援軍に駆けつけたヘルメスを騙した奴らの仲間だ」
「騙したって‥‥じゃあ、オークランドは? オークランドもこいつの仲間なのっ?」
「それはわからない。わからないから調べようと思ったんだけどさ」
フォーリィにそう説明しながら、月精霊の明かりの下で琢磨が桟橋に佇む薄気味悪い男を睨みつける。
「正直俺はもう駄目だと思った。一緒に捕まった兵士はあっさり俺の目の前で殺された。俺は結構きつい拷問にあったけど、なにもしゃべらないでいたら、ある日突然解放された――理由は簡単だ。俺を泳がせてKBCごと利用する方がいいと思ったんだろ?」
「琢磨‥‥」
「ええ。KBCのトップはメイの高官クラスにも通じているのでしょう? であれば、ぜひその方々を紹介して頂きたい。そう、できれば国王様に拝謁できるほどの」
「バカなこと言わないで!!」
「ええっ、魔物ふぜいに好き勝手はさせませんとも!!」
フォーリィに続いて、ソフィアの力強い声が港に轟いた。
「では仕方ない。殺せ」
男の一声に応じて、闇の中から次々と配下の魔物たちが現れた。
だが、トシナミがホーリーフィールドを張る中でソフィアはインプに似た『邪気を振りまく者』にストーンを浴びせ、『死肉を食らう者』と呼ばれる巨大な禿鷹に烈とフォーリィが挑む。バルザーとリューズは『翼を生やした黒豹』の攻撃を受けるも果敢に応戦し、魔法を唱える隙を与えなかった。
とその時、黒豹がくるりと向きを変えて、琢磨に襲い掛かろうとした。
「琢磨、下がって!」
フォーリィが叫ぶも琢磨は月明かりの下でぼんやり佇んだままだった。
「俺が仕留める! 誰か、琢磨をどかせろっ!」
アリオスの放った矢で、すでに手傷を負っていた黒豹は息絶えたが――――。
「あんた、なにやってんのよ! これ以上、心配かけさせないでっ!! ちょっと聞こえてるの?」
フォーリィが琢磨の肩を掴んでゆさぶると、KBCの記者は耳を押えて悲しげな目で首を横に振る。
「ごめ‥‥俺、なにも‥‥聞こえない。フォーリィの声も、なにも‥‥」
「魔物の呪いぢゃ!」
冒険者が振り返るも、男の姿はすでになかった。
琢磨の耳は二日目にはすっかり元に戻っていたが、仲間の言う通り、それが魔物によるものであることを琢磨は承知していた。魔物がその気になれば、幾度でも自分に呪いをかけることができるということも。
ヘルメスの一件に魔物が絡んでいることを知った琢磨はKBCにその余波が及ぶのを恐れて本部に戻らなかったのだ。だが、エドガーは根気強く彼を説得し、ジョゼフも、もちろん冒険者も力を貸すことを約束し、根負けした琢磨は本部に戻った。
だが、自分がいつか皆の足かせになるのではという不安は、琢磨の胸から消えなかった。