ドラグーン起動実験!

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月22日〜07月27日

リプレイ公開日:2008年07月31日

●オープニング

 『ドラグーン』とはなにか。
 メイの王宮図書の中にあるゴーレム工房の説明によれば、ドラグーンとはウィルの国が開発した画期的なドラゴンゴーレムで、竜の力を付与する事によって絶大な破壊力を得、更にはグライダー以上の飛行能力をも有することを可能にした空飛ぶ超兵器だそうである。もちろん、コストも目玉が飛び出るほどお高い。
 まあ、コストのことはさておき。
 メイはウィルに遅れてこの兵器の開発に乗り出したわけだが、開発責任者であるカルロ工房長とゴーレムニストを含む彼の部下たちの苦労はひとかたならぬものであったそうである。
 彼らが工房内で血と汗にまみれながら『ボォルケイドドラグーン』の開発を急いだ理由が、バの再侵攻に備えてのことであるのは言うまでもない。
 
 この『ボォルケイドドラグーン』はサイズ的には高位の金属ゴーレムとほぼ変わらないか、やや大きい程度で、ドラグーンの中ではスモールとよばれるクラスになるらしい。
 それでも戦闘力や飛行力においては既存のゴーレムよりもはるかに優れており、素体は銀で、名前の通り火属性のドラグーンに位置する。
 ただし、『ボォルケイドドラグーン』にはバの新兵器に見られたようなブレスを吐く能力は備わっていない。それらの能力を有したドラグーンの開発にはまだしばらくの時間と膨大な費用が掛かるようである。
 そのような状況を考えると、あれほど強力な新型ゴーレムを次々と送り出してくるバの国がどれほどに豊かな国なのかと正直感嘆せざるを得ないが、バの国の風土や政治背景についてわれらメイの民は多くを知らない。さほどに豊かな大国であれば、無益な戦争など起こさずとも交易をもって更なる繁栄を目指せばよかろうと思うのだが、ここで語ってもせんなきことゆえ、余談はここまでとして本題に戻ろう。

 先ごろ、『アビス』なる新たな飛行型ゴーレムがエイジス砦を襲ったこともあり、王宮は急ぎこのボォルケイドドラグーンの起動実験を公式に行うことを決定した。この実験結果をもとにドラグーンが正式に実戦用機体として配備されることはほぼ間違いなく、ついては冒険者諸氏に向けて公式実験への参加要請がギルドに手配されることとなった。


●ボォルケイドドラグーン起動実験について
・実地は王都のゴーレム工房付近。ゴーレム工房側でデータを取るための人員が複数名同行する
・希望者はボォルケイドドラグーンへの試乗が可能。ゴーレム操縦スキルならびに航空スキルを所持した者が搭乗試験可能である(技術修得度により操縦不能な場合もある)
・希望者が複数入る場合、交代で搭乗する
・実験データの採取や模擬戦への加勢などを含め、鎧騎士・天界人以外の冒険者も参加が可能

●実験の手順
・実験内容:起動確認→ 起動後の空陸での稼動性能確認→ モナルコス、オルトロス、ヴァルキュリア、冒険者を使った模擬戦(短時間)

 とのことである。
 模擬戦については工房付近の敷地内にて石造りの簡易の砦を立てて、そこにドラグーン一騎が攻めこみ、残りのゴーレム部隊および冒険者が砦を守る形となる。

【使用するゴーレム】
ボォルケイドドラグーン 1騎
ヴァルキュリア 1騎
オルトロス 2騎
モナルコス 5騎
視察用グライダー 2騎
※NPC鎧騎士の使用可能(専門以下)

 視察用のグライダーは参戦はしないが、データを採取する目的にて敷地内を飛行。その他のゴーレムの配置については冒険者に一任する。
 また、今回は騎馬隊・歩兵の参加はないが、腕に覚えのある冒険者であればゴーレム部隊と共に生身でドラグーンにぶつかってみるのもいいだろう。魔術師の参加も大いに歓迎するとのこと。
 ちなみに、ボォルケイドドラグーンの武具はゴーレム用とほぼ同じになるので、どれを選ぶかは搭乗者の希望によるものとする。
 模擬戦についてはある程度の制限時間を設け、工房側の実験責任者から『やめ』の号令が出たら、すみやかに戦闘を止めることとする。


↑北
┌─────────────────┐
│仝仝仝仝仝仝∴∴∴∴∴∴岩岩仝仝仝│
│仝仝仝仝∴∴∴∴∴∴∴∴岩岩∴仝仝│
│仝仝∴∴■■■■■∴∴∴∴岩∴仝仝│
│仝∴∴∴■∴∴∴■∴∴岩岩∴∴仝仝│
│∴∴∴∴■∴∴∴■∴∴岩岩∴∴∴∴│
│∴∴∴∴■■∴■■∴∴∴岩岩∴∴∴│
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│岩岩∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴│
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│仝仝∴岩岩∴∴∴∴∴岩岩∴仝仝∴∴│
│仝仝∴岩岩∴∴∴∴岩岩∴仝仝仝仝∴│
│∴∴岩岩仝仝∴∴∴∴∴仝仝仝∴∴仝│
│∴∴岩岩仝仝∴∴∴∴∴仝仝∴∴仝仝│
│∴岩岩仝仝∴∴∴∴∴∴∴仝仝仝仝仝│
│岩岩仝仝∴∴∴凸∴∴∴∴∴仝仝仝仝│
└─────────────────┘
∴/平地
岩/岩
仝/木
■/砦
凸/ドラグーン

●今回の参加者

 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●実験場
 メイの国初のドラグーン『ボォルケイドドラグーン』の公式実験はすこぶる快晴の日の朝から開始された。
 実験場に集まった冒険者は鎧騎士のシュバルツ・バルト(eb4155)、同じく鎧騎士のバルザー・グレイ(eb4244)とクーフス・クディグレフ(eb7992)、それにゴーレムニストのアリウス・ステライウス(eb7857)と天界出身の白金銀(eb8388)の五名である。

「メイのドラグーンがどれほどのものか、興味深いですね」
 目の前にある翼を持ったゴーレムの姿をしげしげと眺めながらシュバルツが少し興奮気味に言う。彼女はウィルでドラグーンに騎乗した経験があるらしかったが、そのことについては多くを語らなかった。口上を述べるのはメイ製の機体を存分に加味してからと思っているのかもしれない。
「俺は航空関連には早々に見切りをつけ、兵法やら武術など騎士としての嗜みを中心に修得してきた。だから、今後も実戦でドラグーンに騎乗することはないだろうが、これからのバとの戦に資するものがあると考え参加させてもらった。よろしく頼む」
「こちらこそ、模擬戦の方もよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
 クーフスの挨拶にバルザーとシュバルツが快く応え、鎧騎士たちがそれぞれの支度を整え始めたころ、アリウスは工房の技術者たちが集まっている場所に足を運んでいた。
(カルロ殿はどちらにおられるのだろう?)
 久しく会話をしていないこともあって、せめて挨拶だけでもと思った彼は大勢の人に囲まれながら忙しそうにあれこれ指示を出しているカルロの姿を見つけるも、周囲の緊迫した空気に押されて気後れしてしまった。
「やあ、工房長はあの通りで、すぐには持ち場を離れられないけど、なにか用かい?」
 アリウスが振り向くと、王宮から来たと思われるゴーレムニストがにこやかな笑みを浮かべて立っている。
「いえ、急な用ではありませんので。あの‥‥それよりも、ドラグーンについてひとつ伺ってよろしいでしょうか」
「うん、わかる範囲ならね」
「カルロ殿は確か水の精霊魔法使いであったはず。それが火属性のドラグーンを開発するということは、属性の発露はゴーレム魔法よりも竜の力を付与するナーガの属性次第になるのでしょうか」
「これはまた、鋭いところを突いてくるね」
 アリウスの質問に目を丸くした男は、再び笑みを浮かべて答える。
「うん、それはね――って詳しく説明してあげたいんだけど、これって国家の重要機密事項なんだよね。もちろん、ナーガを含めてさ。だから、今日のところは勘弁っ」
 アリウスの肩をポンっと叩くと、男は軽やかな足取りで仲間のもとへ去った。と、そこからそう遠くない場所では、銀と実験の監査役の役人がなにやら揉めているようだ。

「メイではドラグーンは開発されたばかりなのに対し、敵方は飛行ゴーレムをすでに幾度も実戦投入しています。現状我々はグライダーや既存ゴーレムの戦法、戦術を駆使して凌ぐしかありません。ですから、模擬戦でのグライダー登用は価値があると思うんです!」
 どうやら銀は模擬戦でグライダーに乗ってドラグーンと交戦してみたいらしかった。
「君が言わんとすることはわかるが、グライダーはモナルコスのような頑丈な装甲があるわけではないし、ましてや木製だ。ドラグーンにまともにぶつかったら君もグライダーも無事でいられる保障はないのだ」
「ぶつからなければいいんでしょう? 大丈夫、距離は取ります!」
 銀の気迫に押されそうになりながらも、役人が渋い顔で言葉を返す。
「距離というが、アレは早いよ? 君も実際に乗ってみればわかるが、ドラグーンの最高速度はグライダーより上だ。つまり、かけっこしてもグライダーが負けるということだ」
「し、しかし‥‥」
「まあ、そこまでいうならやらせてもいいんじゃないか? データは多いほどいいわけだし。さあ、時間がない、持ち場についてくれ」
 ふたりの会話を聞いていたもうひとりの役人が、開始時間ギリギリのところでオーケーを出して、いよいよ実験が始まった。

●起動
 ドラグーンの制御胞に最初に乗り込んだのはシュバルツだ。
 今までどおりにやればいいと思っても、どうしても肩に力が入る。が、やがて彼女の意思に応えて、竜の力を秘めたゴーレムが立ち上がった。
「では、少し慣らしてみます」
 剣と盾を取り、一通りの構えやかたを流す。
(なるほど、でかいわりには動かしやすい。ウィルのものともそこは大差はないようだが)
 次に歩行してみると、こちらも満足のいく感触だった。稼動性能も歩行速度もオルトロス級に勝っているように思う。
「では、飛行してみます」
 彼女が念じると、身体にうっすらと重力がかかる。浮上しているのだ。
 ウィルでのドラグーン経験を持つ彼女は、空中で慌てず冷静に実験を続行する。
 風信器から聞こえてくる技術者の指示にあわせて、急上昇、急降下、旋回から急加速などを一通りやりおえた彼女は悠々と地上に降り立った。
「どうだった? 疲れたか」
 ハッチを開けて出て来た彼女に、次に試乗するバルザーが尋ねる。
「よく動いてくれます。ストレスを感じない分、気持ちは楽ですね」
 気持ちは、ということは相応に身体はきついのかもしれないが、そこはてだれの冒険者。なにほどのこともないという風ににっこり笑ってシュバルツはバルザーと交代した。
(ということは、イクサレスの轍は踏んでないと見ていいのだろうか。いや、あの工房長渾身の機体でもあるわけだしな‥‥)
 油断は禁物と言い聞かせ、バルザーもドラグーンを起動させる。
 シュバルツと同じように簡単な動作を繰り返したのち、彼もまた空中での手ごたえをみる。
「グライダーと違って風を感じれぬ分うまく飛行できるか不安だが、まぁやってみよう」
 指示にあわせて幾通りかの飛行を行う。ドラグーンに合わせて飛んでいるグライダーの後部座席では今頃担当技術者が目を皿のようにしながら、機体の具合を確かめているに違いなかった。
 ちなみに、ドラグーンはグライダーと同様にホバリングが可能である。
 バレルロールと呼ばれる高度な技も理論上は可能らしいが、ドラグーンはそうした飛行形態に特化した機体ではないし、かなりの熟練者でなければ実演は不可能だろうという技術者の話だった。
 だが――。
 何事も自分でやってみなければ納得がいかないのが人情というもので、銀はその高度な技に挑戦した。
 が、結果は失敗で、あとわずかでも高度が不足していたなら、銀は崩れた体勢を整える前に地面に激突していたかもしれない。
(彼がそのあと、役人にこっぴどく叱られたのはいうまでもない)
 起動実験の最後に搭乗したのは、クーフスだ。
 彼はその昔、仲間を助けるためにスキルも持たずにグライダーに乗り込んで、浮上させたものの機体を暴走させて大変な目に会ったことがある。今回はどうだろうかと、データ集めのためと断ってドラグーンに乗り込んだ。
「ジャンプ程度ならできるだろうか」
 結果、起動はオーケー。陸での操縦も問題なかったが、今回は機体を浮かせることはできなかった。
 グライダーとはなんらかの構造が異なるようである。

●模擬戦
「いよいよ模擬戦か。私の出番だな」
 バックパックからフライングブルームを取り出すアリウスの前方の敷地で模擬戦は始まった。
「では、遠慮なく攻めさせてもらう!」
 ドラグーンに乗っているのはシュバルツだ。
 仮想砦の上空を一度旋回してから、ヴァルキュリアめがけて降下した。騎乗しているのはクーフス。彼の提案で剣には染料を含ませた布が巻かれており、武器威力の減少と互いの打撃の有無判定をすることができるようになっている。
「来い!」

 グワワアァァ――――――ン。
 腰を引き、盾を構えてヴァルキュリアがドラグーンの剣を受けると巨大な金属音が辺りに響き渡った。
 同じ銀素体のゴーレム同士であればパワーの差はさほどないかと思われたが、ドラグーンがそのままジリジリと押し攻めると、ヴァルキュリアの機体がわずかに後ろへ下がる。その時、ドラグーンの背後をモナルコスの一個小隊が襲った。
「フンム‥‥ッ」
 翼を広げ、身体を返して盾で1騎めのモナルコスの剣を受けると、2騎め以降は軽やかに攻撃をかわし続けるドラグーン。
「では、次は私が相手だ!」
 バルザーが駆るオルトロスが、翼の付け根を狙って正面から剣を振り下ろす。
 ここでもドラグーンは巧みに構えを変えて回避を試みたが、後方のヴァルキュリアが脚を狙ってきたのに気づいて慌てて双方を剣と盾で受けた。
「2体がかりではさすがに辛いか」
 シュバルツは傍にきたモナルコスを蹴り上げて空へ飛翔、そこへアリウスがファイヤーボムを放った。
 魔法は命中するも、ドラグーンには傷ひとつ与えていない。
「つたない私の魔法ではダメージも受けんか。だが、連続ではどうかな」
 2発めも命中、だが3発めを放った瞬間に視界からドラグーンの姿が消えた。
「いない? ‥‥うわあっ!!」
 雷光のごとき速さで空を舞うドラグーンの翼が巻き起こす突風に引き込まれて、アリウスが体勢を崩した。
「うわあああ――――!!」
 と、別の方向からも悲鳴が上がる。銀の乗るグライダーも突風に煽られたようだ。
 銀の弓矢もドラグーンにはまるで歯が立たなかった。

「では、一度ドラグーンの操縦を交代してもらってはどうだろう。シュバルツ殿がいけそうなら俺のヴァルキュリアに騎乗してくれ」
「いえ‥‥できれば少し休ませてください」
 ドラグーンに乗りっぱなしのシュバルツを気遣ってクーフスが声をかけ、シュバルツは騎士団の鎧騎士と交代し、グライダーの後部座席から新兵器の動きを観察した。
 やがてドラグーンを仮想アビスに見立てた戦闘訓練も終え、けが人を出すこともなく無事実験は終了した。
 さまざまな発見があったが、冒険者が一番に感じたことはドラグーンを操縦する者のポテンシャルの高さが、この新兵器の価値を大きく左右するだろうということだった。ではバの国が開発している兵器も同様なのだろうか。
 その答えはいずれ戦場で知ることになるだろうと思いながら、冒険者は今日の出来事を胸に刻んだ。