翼竜は謳う

■ショートシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2006年11月28日

●オープニング

●「阿修羅の剣」探索状況

 メイの国の国王より発せられし『失われた阿修羅の剣の探索』。これは途方もない大仕事でございます。
 なぜならば、ペンドラゴンと供に戦った勇者たちは、その配下の兵士を含め『カオス戦争』でほぼ全滅し、事実を見て知る者は現世に生き残っていないからなのです。
 剣が失われたいきさつについても、「カオス竜と戦った時に共に差し違え消滅した」あるいは「他国の兵士がこっそり持ち去った」など、これといった確証もないままに噂だけが溢れるほど出回っているのが現状でありました。

●古城より数多の戦士の武具を回収

 さて、今回の依頼の舞台となりますメイの分国「セルナー領」。カオスの地より遥か北に位置し、南の「リザベ領」に比べると『カオス勢力』との戦闘も少なく、今のところ穏やかな平和が保たれております。
 そうは申しましても、この地に『カオス戦争』の傷跡が残っていないわけではありません。戦争によってボロボロに傷ついた身体で、やっとの思いで家族のもとに戻り、そのまま息絶えてしまった勇者もこの北の地には多くおりました。
 
 そうした勇ましき戦士たちの御霊を弔うため、人々は海岸の険しい断崖の上にそびえる、今は住む者もいない古城に彼らの武具や鎧を納め、祭るようになりました。
 そうして幾年かの月日が流れるうちに、不思議なことに、その断崖の古城には、どこからとも無く翼竜が集うようになりました。
 陽精霊の力が弱まり空が濃い紅色に染まる夕方、翼竜たちはよく遠い海の彼方に向かって吠えるように謳いました。
 
 謳う‥‥というのは、人々の勝手な解釈かもしれません。
 それでも、翼竜たちの歌声は、不思議と‥‥どこか悲しげに、人々の心に響いたのも事実でした。

 更に年月が移ろい、王位を継承された新国王から発せられた『阿修羅の剣探索』命令が、やがてこの北の領地にも伝えられました。
 確かな確証など何も無かったのですが、『カオス戦争』の勇者たちの数々の武具が収められたその古城も探索の標的となりました。
 そうして、何人もの冒険者たちが古城へと「武具の回収」に向かったのですが、彼らが古城に近づく度に、普段は大人しい翼竜たちが、決まって激しく侵入者たちを襲いました。
 
 翼竜たちは城に近づく者たちを尽く拒みましたが、決して彼らを殺そうとはしませんでした。
 冒険者たちが城に入るのを諦めるのを見届けると、それ以上、必要以上に彼らを傷つけることはありませんでした。
 古城の翼竜が人を殺さない理由を、正直私どもは知りません。
 ただ‥‥‥‥『翼竜たちはあの、亡き勇者たちが祭られた古城を護っている』。
 ‥‥‥‥人々は、そんな風に思うようになりました。

 ですが‥‥‥‥‥‥‥‥。
 王の命令は絶対です。この地に新しく赴任された領主様は、新しいゴーレム兵器というものを使って、古城を探索することをお決めになりました。
 そうして、この私が冒険者ギルドに依頼を伝える任を仰せつかりました。
 
 『ゴーレム兵器』の噂を聞いた人々は、その強大な兵器が翼竜を殲滅してしまうのではないかと不安になっています。
 戦争で大切な家族を失った者たちは翼竜の歌声に長年癒されてきました。その声が聞けなくなるのは、この土地の人々にとってはとても寂しいことなのです。そして我が主は、領民の言葉を聞き入れて下さいました。
 翼竜が守る城の中に入って、その数20とも30とも言われている多くの武具を持ち出すのは危険極まりなき事と承知しておりますが‥‥‥‥。
 ですがどうか、可能な限り翼竜を傷つけることは避けて下さい。
 
 過去、城から武具を持ち出せた者は一人もおりませんので、その場合、翼竜が執拗に皆様を追いかけることも考えられます。
 皆様の命に関わる場合、翼竜を撃つのは致し方ございません。ですが、もし翼竜たちが深追いをせず、追撃を諦めるようでしたら、どうか翼竜たちをそのままにしてやって下さい。
 皆様方の無事と、任務遂行と、翼竜の歌声を思い、祈っております。

 執事 リチャード=コレネリア

●今回の参加者

 ea8226 ベルディエッド・ウォーアーム(22歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8745 アレクセイ・スフィエトロフ(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2024 ウィリアム・ロック(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2968 アルフィン・フォルセネル(13歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3490 サクラ・スノゥフラゥズ(19歳・♀・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7879 ツヴァイ・イクス(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●集合〜冒険者、古城の謎について話合う
 「それにしても‥‥聞けば聞くほど詩的な話じゃないか。あ、翼竜のほうね。いや阿修羅の剣も捨てがたいけどさ! 」
 エドことベルディエッド・ウォーアーム(ea8226)は、ロマンティックな話がお好みのようである。
「翼竜がこの城を守ってる理由はなんだろう? ‥‥普通に考えたら卵や巣、でもひょっとして翼竜を引きつける魔法の道具が、武具の中にあったりして」
 対して、音無 響(eb4482)は具体的に今回の依頼についてあれこれと推理してみる。

「私は‥‥想いの篭った武具を、想いが結晶した翼竜達が護っている‥‥そう思いたいですね」
 アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)はどこか懐かしい目をしながら翼竜への思いを語る。
「できる事なら、そっとしておきたい所ですが‥‥そんな訳にもいきませんしね 」
「この国を救った英雄ペンドラゴン。我が祖国イギリスの先王、ウーゼル陛下と同一人物なのであろうか? 何れにせよ、その英雄の所持した剣の探索と言うならば、是非とも成功させたいものだ」
 ウィリアム・ロック(eb2024)もまた、故郷を思いながら意欲を燃やす。 

「その城から武具を運び出す訳だが‥‥空を飛ぶ猛獣とは厄介だな。しかも、余り傷付けぬ様にとは」
「翼竜を傷つけないためにも、まずは速やかに仕事を成し遂げる事が肝心だな」
 すると、 クーフス・クディグレフ(eb7992)の言葉に、ツヴァイ・イクス(eb7879)がうんうんと大きく頷く。
「了解しました」
 と、馬の世話を終えて会議に加わったサクラ・スノゥフラゥズ(eb3490)も賛同。

「あのね‥‥僕、頑張るの。翼竜の背に乗れたらいいな〜‥‥き、危険かな? でも‥‥翼竜達と仲良くなれたらいいなって思ったの‥‥」
 皆の話を黙って聞いていた年下のアルフィン・フォルセネル(eb2968)が、小さな声で告白すると、 響がアルフィンの顔を覗き込んで、にっこりと微笑んでみせた。
「人々の心を癒す翼竜の謳だもんね、大事にしてあげたいよね!」
「うん‥‥響お兄ちゃん、皆さん、宜しくお願いします‥‥!」

 かくして北の地の夜は更けゆかん――。 

●いざ、入り江へ!〜船は進む
 集めた情報から、翼竜は入り江付近に近寄ることはまず無いとの事。
 そこで、響とエドがゴーレムシップに残り、それぞれで陽動作戦を展開することとなった。エドはテレパシーを使って翼竜の説得も試みるという。
 すると作業時間の交代に伴って数名の船員が甲板を横切ろうとして、その中の若い女船員がグライダーの傍で待機中の響に声を掛けて来た。

「これで、あの古城まで飛ぶのか〜かっこいいね!」
 (戦の前に女神の登場とは、これは幸先いいかも!)
 可愛い女性の登場に思わずにやける響。

「ねね、格納庫にもう一騎グライダーがあったけど‥‥あれはどうするの?」
「今回は俺とこいつだけで‥‥」
「あんたとこの子だけで‥‥翼竜と対決しちゃうわけ?」
「(この子って、グライダーの事かな?)まー、そういうことになりますか。あはは‥‥あ、でも、この船にも陽動作戦には加わってもらうって‥‥」

「船で陽動ってやばくね? 確かにうちらの船は速いけど、船はグライダーみたくすばしっこく動けないからさー」
「え?」
 響の眉が一瞬ぴくりと動く。
「まー、ざこ翼竜はともかく‥‥体のでかい奴らに真上から突進されたら、こっちは避けきれないもんねー」
「はあ‥‥」
「ま! 頑張ってよね! あたいらも応援してっからさ!」
「はあ。宜しくお願いします‥‥」
 その場に残された響は、神妙な面持ちでグライダーの操縦席に乗り込むのであった――。


●崖を上る者
 一方こちらは、古城の真下。アレクセイがテレスコープのスクロールを使って海岸の断崖を下から観察していた。
 入り江から城に向かう班とは別に、保険の意味でアレクセイが『断崖側からの潜入』を買って出たのだ。
 ペットの鷹、リョーニャも翼竜の監視役として、彼女の傍らに控えていた。
「これならなんとか登れそうですね。よし‥‥今のうちに一気に上まで登りましょう!」 
 アルフィンにかけてもらったグッドラックが効いたのか、上空で旋回していた小型翼竜たちが彼女に注意を払う事は無かった。

「さてと‥‥此処から城門まで、さほど距離は無かったはず‥‥」
 息を切らしながら断崖を登り終えた彼女が、目的地を確認しようと顔を上げた瞬間‥‥。

「あし‥‥これって足――?!」
 アレクセイの目の前に広がる巨大な肉片。そう。彼女の目の前で、巨大な翼竜が大きな翼を広げてふんぞり返っていたのである。
 見上げても見上げても――――翼竜の背が天へと続いている。

「イ、インビジブルのスクロール発動っ!」
 恐獣たちの目を眩ましながら猛ダッシュで城内へ駆け込むアレクセイ。こんな時のために‥‥と準備を怠らなかった事が彼女を救ったのであった。


●陽動作戦〜開始!
 古城付近ではすでに、陽動作戦が始まっていた。
 好物の魚をぶら下げて翼竜を誘き寄せつつ、響はグライダーの俊敏さをフルに活かして、回収班が翼竜の視界に入らない方向を選んで飛び回る。
「ごめん、君達を傷つけに来たわけじゃないんだ、でも、怯えさせてしまったかな?」
 
 体長が1m以下のザコ翼竜がちょろちょろ目の前に飛んできても、響はさほど恐怖は覚えなかった。スピードでは断然グライダーが勝るのだ。
「幸い、でかい奴らはまだ回収班に気付いていない。今のうちに、エドが船から彼らを説得してくれれば‥‥」
 古城の傍には2頭の中型翼竜の姿があった。中型とはいえ恐獣なので、とにかくでかい。その巨大さは響たちの予想を遥かに上回っていた。
 その刹那、響へエドからのテレパシー連絡が入った。

「すまん、響」
「え?」
「説得は失敗だ。翼竜の知能は対話ができるレベルでは無いらしい」
「ということは?」
「つまり‥‥。僕に出来ることは、思念を送って翼竜の気を散らすことくらいだ。だが、精一杯後方支援する! 響も頑張ってくれ!」
「え‥‥」

 エドと話している間に回収班が古城に近づき、それに気付いた翼竜たちは一斉に回収班目がけて動き始めた。
「つまり‥‥俺がやるしかないってこと!」

 響は一番大きな翼竜に狙いを定め、勇気を振り絞って一気に精神を集中させる。
 ギュイイイイ――――――――ィィィン‥‥と、鋭い音を立ててグライダーが滑空する。

「殲滅の心配か‥‥飛んでみて良くわかったよ、それって無理だから。小型種ならともかく大きすぎだよっっ!」
  空を駆ける響の叫びは、地上の者にまでは届かなかった‥‥。


●勇者の眠る城
 変わって城内。響の奮闘の甲斐あって、回収班は全員無事城内に入ることが出来た。。
 祭壇の間まで、特別変わったものに遭遇することもなく、一同は小さく胸を撫で下ろす。

「いや、あー何もなくてよかったなー‥‥あはは‥‥」
「ええ、では早速亡き勇者達に黙祷を捧げましょう」
「貴方達が眠り、そして時は流れ、今俺達が貴方達の遺志を受け継ごうとしている。かつて貴方達がこの世界を護っていたように、俺達もまた、貴方達が残してきたものを護ろう。刹那に生きる俺だけれども・・・それでも俺は戦いたいんだ」
 ツヴァイは静かに頭を垂れながら、勇者の墓標にこう誓った。

「僕、デッドコマンドを試してみたんだけど‥‥残っている思念は無いみたい」
「領民に手厚く葬られたため、きっと魂は浄化されているのだろう」
 と、ウィリアムは置かれた剣にそっと触れてみる。
「古城に集まる翼竜……なんだかこの地で亡くなった勇者の生まれ変わりみたいだね……」
 小さなアルフィンは、そう呟いた。

 その時、扉の向こうからサクラが仲間たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
「皆さ〜ん! 荷台の用意が整いましたよ〜〜!」
 彼女は簡易の組み立て式荷台を積んで来ており、今別の広間でその準備を終えてやってきた。

「おお、毛布まで敷いてあるとは、流石に細かな心遣いだ!」
「例え伝説の武具ではなくても、丁重に扱おう。ところで調査の終わった武具はどうするのだろうか? 是非また城へ戻したいものだが」
「そういえば、エドや響も同じような事を言ってたな。此処はきっと静かに眠らせておくべきなんだろうな」
 ツヴァイがふと淋しげに、窓の外に広がる青い空へと目を移す。

「翼竜の歌は、竜と人が手をとりあい共にカオスと戦った証・・・だったりしてな」
「僕‥‥もし傷ついた翼竜がいたなら、放って置く事ができなくて治癒してしまうかも。だって、翼竜達に悪意はないと思うの……」
 

●響、苦戦する〜グライダー墜落!?
 そこへ、唐突に船上のエドからのテレパシー連絡が届く。

「みんなっ、た、大変だよー! 響がピンチだっ!」
「ええっ!?」
 城内の全員が窓へ鈴なり‥‥‥‥。

 2頭の強大な翼竜は、その大きな翼で執拗にグライダーを潰しに掛かっていた。
 響は、高度を高くとって懸命に逃げ切ろうとするのだが、小型翼竜たちがグライダーの周りを取り囲んで、その行く手を阻んでいた。

「船で恐獣を誘き寄せることは出来ないのかっ」
「‥‥彼らはすっかり、目の前のグライダーに気を取られているようですね‥‥」
「‥‥グライダーがもう一騎あれば‥‥」
「せめて、後部座席に誰か乗っていれば、弓を引かずとも、小型翼竜を追い払う手立てはあったかもしれん‥‥」
 空での戦に、地上にいる者は手出しは出来ない。それをまざまざと見せ付けられる冒険者たち‥‥。

「うあああっ――――――――――――――!」

 ツヴァイが奇声を張り上げると同時に、翼竜の翼はグライダーを直撃し、グライダーはきりきりと回転しながら大空を高く舞い上がった。

「響――――――――――――――っっっ!!」
「響さんっ―――――――――――!」
「響お兄ちゃ―――――んっ!」

 ――――――――――――――次の瞬間、城の外に嫌な感じの音が響き渡る。
 仲間たちは一斉に外へと駆け出した。


「響はどこだっ! グライダーはっ?!」
「あ‥‥あの木の上!」
 サクラが指差す先を見ると、翼竜たちから少し離れた場所にある巨木にグライダーが突き刺さるような形で留まっていた。


●仲間を救え! 仲間を守れ!
 主人の姿を捉えたペットの鷹たちが、急ぎ主人の下へと戻って来た。
「トウカ!」
「リョーニャ!」

「よしっ、では、剣を城から持ち出す班と響の救出班に分かれよう!」
「俺は鎧騎士だから、操縦は上手く出来なくともグライダーを起動させることはできる。俺は響の救出に向かう!」
「では私の馬で、あの木の下まで走ろう。クーフス殿にグライダーを任せて、響殿は私が馬で連れ帰る!」
 と、クーフスとウィリアムが救出班に名乗りを上げた。

「分った、それじゃ、俺が回収班をまとめて無事入り江まで連れ帰ろう!」
「ツヴァイ殿に任せよう。皆と剣を宜しく頼む」
「そっちも‥‥気をつけてな」
「ああ‥‥入り江で会おう」
「入り江で!」

 ウィリアムはクーフスを後ろに乗せ、矢のような速さで木を目指す。
 ツヴァイたちは、急いで荷台を門まで運び出す。
 サクラはアルフィンを乗せて愛馬クロムで、ウィリアムが乗る予定だった荷馬車にはアレクセイが騎乗し、ツヴァイは一番後方で翼竜を牽制する役と決まった。
 動き出した彼らに恐獣たちの目が集まる。

「とにかく、入り江まで突っ走れ! 何があっても絶対に立ち止まるなよっ」
「分りましたっ!」
 回収班は一丸となって、小型翼竜たちの追尾を追い払いつつ突進した。
 荒れた道を馬車で飛ばしたため、荷車から何本かの剣や兜が転げ落ちたが、ツヴァイたちはそれらには目もくれず、ひたすら入り江を目指して走った。

 一方、無事木の下まで辿り着いたウィリアムたちは早速、響の救助に当たった。響は墜落のショックとゴーレムを操縦した疲労からぐったりと目を閉じたままだ。
「良かった! 大きな怪我はしていないようだ」
「グライダーもなんとか動かせそうだぞ」
「では‥‥クーフス殿」
「うむ‥‥」

 クーフスは緊張しながら、グライダーの操縦桿に手を乗せて精神を集中し始めた。
「うぬぬぬぬぬぬ――――――――――――――うオオオオぉぉっ!」
「クーフス殿っ!」

 グライダーは見事に浮上した! 浮上はしたが‥‥‥‥。
「クーフス殿、そっちはではないっ、そっちは――――――――――――――っ!」
「ぐわああああ――――っ!」

 入り江を目指したはずのクーフスは、見事に中型翼竜の顔面目がけて猛スピードで突貫飛行。
 ふいをつかれた翼竜は、グライダーを避けきれずにバランスを崩して、転倒。
 巨漢が大地にぶつかり、恐ろしいまでの地響きが村中に轟き渡った‥‥。
 だが。
 おかげで、回収班と救出班は、無事入り江に辿り着くことが出来たのだった。


●再び、船上にて
「皆さん、本当にすみません‥‥! 僕は何の役にも立てなかった‥‥」
 仲間の姿を見るなり、エドが深々と頭を下げた。

「何言ってるの!」
「誰もそんなこと、思ってないぜ!」
 仲間たちがこぞってエドを庇う。
 戦場にいながら、自分は戦うことができない。傷ついた友を助けにゆくことも出来ない。
 その悔しさがどれほどのものか、冒険者たちは皆よく分かっていた。

「クーフスと響はどうしている?」
「二人ともよく眠っています。怪我が無かったのは本当に奇跡のよう‥‥アルフィンのグッドラックが効いたのかしら?」
「お城の勇者さんたちが守ってくれたんだよ‥‥きっと」
 アルフィンが小さく微笑んだ。

「さて。翼竜たちが入り江付近まで追って来なかったということは‥‥武具に興味がなかったのか、あるいは我々の手から零れ落ちた剣の中に、その秘密が隠されていたのか‥‥今となっては知る術は無いな」
 と、ウィリアムが呟く。
「阿修羅の剣‥‥ですか」
 サクラがふいに言葉を挟んだ。
「阿修羅の剣は、安置された英霊の魂さえ揺り動かそうとした‥‥彼らは静かに竜の歌を聞いていたかったでしょうに。阿修羅の剣探索さえなければ‥‥」
 サクラの言葉に皆は静かに黙り込む。

「何の為に剣を振るうのか‥‥。いずれ私達も選ぶ日がくるのでしょうか‥‥」
「あんたら、もしかして‥‥リザベ領に行った事あらへんのか?」
「?」
 聞きなれない声に、皆驚いて顔を上げた。さっきから冒険者の話を黙って聞いていた船員が、ふいに声を掛けたのだった。

「あそこは大変なんやでえ。特に、対カオス前線地区はひどい。ここらはまだまだ平和やけどな」
「そうでしたか」
「わいの友達も、先月そこで恐獣部隊にやられて死によったわ‥‥」
「え‥‥‥‥?」
「なあ。いつまで続くんやろな‥‥」
 年若い船員は、そう呟くと遠い遠い空を見上げた。

「ほな、またどっかで会いまひょ!」

 足早に立ち去る船員の後姿を見送りながら、冒険者たちは皆それぞれにこれからの旅路を思うのであった――。