砂漠に誓う友情
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■ショートシナリオ
担当:月乃麻里子
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月07日〜12月12日
リプレイ公開日:2006年12月13日
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●オープニング
● 天界人から伝えられしもの
遥か昔――――最初の英雄と謳われる『ロード・ガイ』が天界より、このアトランティスの大地に降り立った。
その後も、この地に『落ちて』くる天界人によってもたらされる道具や知識は、アトランティスの文化に様々な影響を及ぼし続けている。
瓦版クラブ、またの名をKBC――――と称するこの組織も、例外ではない。
KBCとは、天界人より伝えられたとされる言葉「ペンは剣よりも強し!」に共鳴した少数の庶民が、有志を募って結成したジャーナリスト集団であり、独自のルートや方法で『バの国』による『カオスの侵攻』の戦況を捉え、庶民の立場から領主や領民あるいは国家機関に情報を伝達している。
彼らは時に、ジャーナリストの「誇り」をかけて非常に危険とされる場所にも勇気をもって潜入し、そうしてもたらされた貴重な報告は冒険者ギルドに張り出され、やがて庶民の目や耳に入ってゆくのであった。
●砂漠に誓う友情
「先月リザベ領に入ったゴーレム部隊はどうしている? その後何か報告は上がっているのか?」
書斎の机で今しがた書き物を終えた若い伯爵は、部屋の奥のソファに腰掛けている友人に向かって、神妙な面持ちで尋ねた。
「‥‥実際のところ、かなり苦戦しているようだ。奴ら、一体どれほどの数の『恐獣部隊』を育て上げているのか‥‥いくらモナルコスが頑強とはいえ、数で来られたら、長期戦は必須だろうな」
と、友人もまた、苦々しい表情で答えた。
「ということは‥‥もしもの場合に備えて、こちらもそれなりに戦の準備を整えておかねばならぬな」
「君も色々と大変だろうが、僕も出来る限りの協力はさせてもらう!」
「‥‥‥‥有難い! 君が軍に通じていてくれて‥‥本当に助かっている」
「いや、国王様もこの土地には大層心を砕かれておいでなのだ。なにせ、此処いらはステライド領の守りの要だからな」
サミアド砂漠にほど近い、此処、ステライド領最西端の地。隣のリザベ領と同様、ゴーレム戦の最も多い地域だ。
そして、この地に住まう年若い伯爵は『カオスの脅威』にこれまでも幾度と無く直面し、その都度KBC(瓦版クラブ)を含む多くの民と共に危機と苦難を乗り越えてきていた。
「そういえば、ここ最近KBCからの連絡が途絶えている。そっちはどうだ?」
「‥‥‥‥」
「確か、サミアド砂漠に潜伏しているカオス兵の動きを掴んだとかで、砂漠との境界地点にキャンプを張ったという報告は受けたが、その後の便りがないんだ」
「それは‥‥‥‥」
友人は言葉を濁し、暗い表情で伯爵から目を背けた。その様子から只ならぬ事態を読み取った伯爵は、尚もその友人を問い詰める。
「おい、知っているなら教えてくれ! あそこには私の旧知の友もいるのだ!」
「分っている! ‥‥分っているからこそ、君には知らせたくなかったんだ‥‥‥‥」
「‥‥どういうことだ?」
――――――――――――――――――――重い沈黙がしばし書斎を包む。
「KBCのキャンプが、カオス恐獣部隊の急襲を受けた」
「なんだってっ!」
「もう‥‥3日も前の事だ。リザベ領北部に駐留しているゴーレム部隊から救援を出す手はずだったが、カオス兵の鎮圧に予想以上に手間取っていて軍は動けない。残念だが‥‥」
「‥‥‥‥なんという事だっ! KBCを見捨てろというのか! ‥‥彼らはれっきとした民間人なんだぞっ!」
「彼らも危険は承知の上だ。今、リザベ領のゴーレムを動かすわけにはいかない‥‥それくらい君にも分るだろう?!」
若者二人は激しく睨みあったまま、どちらも引かない――――が、やがて伯爵がくるりと友人に背を向けると、意を決した表情で書斎の扉に手を掛けた。
「――――私が出る」
「なっ‥‥‥‥」
「私が指揮してKBCの救出に向かう。国王陛下には私から願い出る。‥‥KBC無くして西方の守りは成り立たぬ!」
「アルフォンスっ!」
KBC無くして‥‥つまり、『民の力無くして国は守れない』。
言い出したら後へは引かない彼の性格を友人は知っている。
お前の代わりに俺が‥‥と言い出せない、勇気の無い自分が此処にいる。
そんな友人の苦悩を気遣うように、年若い伯爵は優しく微笑んで言った。
「必ず帰ってくるよ。それまで‥‥此処を頼む」
二人の若者は固い約束を交わして、それぞれの場所へと向かって行くのであった。
●リプレイ本文
●まずは偵察
其処此処にごつごつとした大岩が点在する砂礫の不毛地帯から、敵陣へ偵察に出ていたアレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)が鷹のリョーニャと共に、仲間の待つ野営地へ帰還した。
「お帰りなさいっ!」
「アレクセイさん、お疲れ様でした!」
「中の様子はどうだ?」
と、皆の先頭を切ってゼタル・マグスレード(ea1798)が尋ねると、アレクセイは困惑顔で頭を左右に振ってみせる。
「‥‥侵入ルートの確認は出来ましたが。恐獣たちは案外嗅覚が鋭くて、インビジブルのスクロールを使っていても、気配で私を察知してしまうんです。恐獣たちが騒ぎ出したので、カオスニアンも警戒してしまって‥‥」
「‥‥‥‥」
アレクセイの言葉に不安の色を隠せない伯爵を気遣って、音無 響(eb4482)が優しく声を掛ける。
「伯爵。大丈夫ですよ‥‥きっと皆無事です」
「ええ! 侵入ルートが確保出来ただけでも大収穫。後は作戦決行に備えて、万全の準備を致しましょう!」
と、ルメリア・アドミナル(ea8594)も明るい声を上げ、他の皆もそれに続いた。
「ところで確認だが、キャンプに残っているKBCの人数は6人でしたな」
「ええ。私の方で調べました。皆、多少は腕に覚えのある男たちばかりです。勿論、皆さんほどではありませんが」
クーフス・クディグレフ(eb7992)の問いかけに、用意してきた陣営の見取り図を広げながら、若い伯爵はそう答えた。
「では、やはりチャリオット2騎で救出に向かうことになるな」
「俺は救出班でいいんだな、OK。リィムさんに佐倉さん、二人とも操縦は任せたぜ」
「食料の補給も出来ないって事は、せめて水だけでも持っていって上げた方がいいですよね、怪我してる人もいるかもしれないからその準備も」
響は手際よく、水の樽と応急手当の道具をチャリオットに積み込んだ。
「さてと〜じゃあ、僕も早速準備に掛からないとね!」
「リィムさん‥‥あの‥‥さっきから、何やってるんですか?」
「??」
と、声を掛けたのは共に天界人である佐倉 望(eb9422)と一 始(eb8673)。
ペットであるコカトリスのチリカに回収用の命綱をつけ、更に『ペットだとハッキリ分る住所と名前入り首輪』や「特攻上等!」と記された鉢巻に「騎士道一直線」と書かれた襷‥‥を懸命に着せているリィム・タイランツ(eb4856)を、不思議そうに見守る二人であった。
●トラップを仕掛けろ!
KBC救出ルートを確定した冒険者たちは、次にライトニングトラップによる地雷の設置に取り掛かった。
KBCキャンプ地周辺にいるカオスニアンから目視できる距離にモナルコスを頭とする陽動部隊を置き、その間の区間に罠を張って、陽動班目掛けて突進してくる恐獣部隊にダメージを与えようという作戦だ。救助班はその隙を突いて岩場へ突貫する。
アレクセイは得意とするインビジブルで、ゼタルとルメリアは点在する大岩等を隠れ蓑に利用しながら、巧みに素早く罠を仕掛けていった。
空中を浮遊するフロートチャリオットはライトニングトラップのダメージを受けないが、モナルコスは違う。操縦者も共に損傷を受けてしまうので、味方にだけ分るように、各自入念にマーキングも行なうのであった。
一方、チャリオットに搭乗するリィムは、救援物資が落ちないようしっかりと固定した上で、皆に命綱の着用を徹底させていた。今回初めてチャリオットを操縦する事になった望にも、自分のライダーゴーグルを渡して、細かく注意を促す。
「はじめての依頼だけど、足をひっぱらない様にがんばるね」
「期待してるからね!」
と、元気いっぱいに挨拶する望に、よろしくとリィムも微笑んだ。
「‥‥これが砂漠かよ。日本に住んでいた俺じゃ、まずお目にかかれ無かった代物だな」
と、準備もそこそこに始が砂漠を眺めながら呟くと、装備を整えた伯爵が、始の緊張を解すように言葉を掛けた。
「日本というのが、始殿の故郷ですか。‥‥故郷は良いものですね」
「あのさ‥‥民の為友の為とか、そんな事言われたら‥‥手を貨さねえ訳にはいかねえだろ。どこまで俺にできるかわからねえがやってみるぜ」
チラッと伯爵を顧みて、始が呟く。そこへ、
「情報と言う武器を携えて戦う彼等もまた立派な勇士です。見捨てる訳にはいきませんね」
「友の為に、己が危険も省みず、か。そういう熱さは嫌いではない。 ‥‥だが、自分の命と引換えにしては本末転倒。その為に我々がいる事を忘れないでいただきたい」
罠を仕掛け終わったアレクセイとゼタルが、伯爵にそれぞれの思いを語る。
「そうだよ! 何より生還を優先して下さい。KBCの人達を護る為に自分が囮に‥‥とかは絶対ダメです。全員無事に助ける為に力を合わせて頑張りましょう!」
と、リィムが、
「KBCの人達も伯爵のご友人も、絶対助け出しましょう! しっかりサポートします‥‥だから、くれぐれも無茶だけはしないでください。貴方がご友人を大切に想う様に、貴方が怪我をしたらその人も悲しむと思いますから」
と、響が。
「有難う。皆の思いを裏切るような真似は絶対にしない」
伯爵は自ら剣に掛けて、誓うのであった。
●状況開始! 〜陽動作戦
「では、始めるか」
ゼタルが、開始の合図を送る。
「肉の匂いに、恐獣が上手く反応してくれるでしょうか」
用意した餌にいささか不安げなルメリアの肩を、伯爵がぽんと叩いた。
「それでは恐獣だけでなく、砂漠にすむ大サソリや野獣たちも寄ってきますよ。ここは私にお任せを」
伯爵は、さっと弓を持ち出すと遠くに見える敵陣目掛けて、鋭い矢を放った。矢は見事に空を駆けてゆき、敵の挙動を乱した。
「おお、それでは私も一本!」
アレクセイも負けじと矢を放った。
「始まったみたいですね!」
飛行兜(とペットボトルと浄水水筒)を身に着けて、その様子をペットのロック鳥ラプラスと共に空から見守っていた響が、クーフスに声を掛ける。
「よし! 我々も!」
クーフスは、マーキングに注意しながら正面の敵に向かってその巨漢を僅かに前進させる。
「砂漠知識はあっても、それが直接ゴーレムの操縦に反映されるわけでは無さそうだが‥‥無いよりはマシだな」
足裁きにも留意しつつ、クーフスは手近な大岩を掴んで、巨体を揺らしつつ恐獣に向かって投げつけた。
「悔しかったらここまで来いっ!」
挑発に乗ったカオスニアンは、恐獣たちを駆ってまっしぐらに砂礫を掛ける。その先に雷の罠が仕掛けられているとも知らずに‥‥。
――――――――――――――――バリバリバリッ!!
物凄い音と共に、青白い閃光が炸裂する―――――――――――――奇声を発して、倒れこむヴェロキが2頭。
思惑通りに、カオスニアンたちは隊列を大きく乱し、慌てふためき始めた。
そこへゼタルがすかさずストームで砂嵐を起こし、恐獣たちは視界を遮られ、互いに激しくぶつかり合った。
「伯爵、ここは俺達に任せて、ご友人の元へ!」
響の掛け声とともに、2騎のフロートチャリオットが岩場へと果敢に飛び出してゆく――――。
●状況開始! 〜救出作戦
チャリオットでの戦闘に慣れているリィムは、後方の望の騎体が走行し易いよう凹凸の少ない走り易い道を選びつつ全力で駆ける。
(‥‥チッ、情けねえな。ここまできて怖気ついてる場合じゃねえだろが! )
リィムの機に同乗した始は、初めての実戦に震えの来る足を押さえて懸命に踏ん張った。
「今の内にあそこにいる連中を連れ出さねえと!」
「地球じゃ、スクーターなら結構乗ってたからきっと大丈夫だよね‥‥!」
一方、チャリオット初体験の望も戦場で懸命に自分を支えていた。
望に引っ張られて、半ば強引にチャリオットに乗せられた伯爵は、どうも陽動班の戦況が気になるようで、機上で何度も剣を握り締めている。
「伯爵はこっちだよ! 伯爵が先導してくれないと救助される人がスムーズに行動できないもんね」
「‥‥ええ、分りました!」
――――――刹那、望たちはリィムの機体が、ジャックナイフターンで豪快にヴェロキラプトルを弾き飛ばす瞬間を目の当たりにした。
●恐獣部隊との激闘
「砂の嵐に守られてるし、怪鳥ラプラス空を飛ぶって感じかな‥‥いけ、ラプラス!」
レイピアと盾を構えて、恐獣たちの上空でロック鳥に命じる響。
若いロック鳥の体長は大人のそれほどには至らないが、それでも中型恐獣には十分な脅威であった。
ラプラスの鋭い嘴に掛かって、致命傷を負い倒れていく恐獣たち。
落馬し、逃げ惑うカオスニアンに、ルメリアのライトニングサンダーボルト2連射が、そしてゼタルのウィンドスラッシュが容赦なく降り注ぐ。
一方、モナルコスも健闘していた。
3頭のヴェロキに襲われつつも、回避を使って上手く相手をかわすクーフス。だが、その中の一頭が、執拗にモナルコスの足に喰らいついた。
突如、動作が鈍るモナルコス。
「今畜生めがっ!」
クーフスが怒りに任せて恐獣をぶん殴ると、恐獣は大きく孤を描いて宙を舞い、砂の上に叩き付けられたが最後、二度と立ち上がることが出来なかった。
「‥‥なんという力だ」
クーフスは己が操る巨漢の力に身震いした。
だが、依頼の目的は敵の殲滅だ。情けなど掛けてはいられない。
そのクーフスの気持ちを読み取ったかのように、ユニコーンのアリョーシカに騎乗したアレクセイが、オークボゥで恐獣の傍らにいるカオス兵に止めを刺した。
勝利は、手を伸ばせば届くところにまで来ている――――――冒険者たちは確信した。
●決死の脱出
「皆、助けに来たよ〜!」
「助けに来たぜ!」
「助けに来ました!積もる話は後です! 他の皆が敵をひきつけてくれてるウチに早く!」
入り口の敵をどうにか蹴散らし、リィムたちが急いで岩場に取り残されたKBCの人々を救出する。
「貴重品だけ持ってすぐに乗って下さい! 大丈夫!食料その他はこちらで用意してます!」
「有難う!」
「こんな危険な場所にまで‥‥すまないっ」
KBCの記者たちはよろけながらも、どうにかチャリオットに乗り込んだ。
「アルフィーっ! お前がなぜここに!」
「‥‥‥‥」
突然、険しい表情で一人の記者が怒鳴った。彼が、伯爵の友人であることは冒険者にもすぐに察しがついた。だが、時は一刻を争うのだ。
「さあ、急いで乗ってくれ!」
「早く、早くっ‥‥」
始たちに背中を押されて、記者は伯爵を睨みつけながら、しぶしぶチャリオットに搭乗する。それを確認するや否や、リィムは勇ましく指示を下す。
「望さんたちは、伯爵を連れて先に出るんだ! 追ってくる連中は僕に任せて‥‥何も考えずに突っ走れ――――っ!!」
「はいっ!」
(お父さんのお土産の十手にかけてがんばるからねっ‥‥)
「さてと‥‥僕らも。記者さん、しっかり捕まってて下さいね!」
リィムが操るチャリオットは、まるでリィムの手足のごとく機敏に且つ正確に、寄せてくるカオスニアンを蹴散らしてゆく。
「やっちゃえチリカ! あんな奴、石にしちゃえ!」
興奮している主につられてか、チリカも怒って敵兵を突付き倒す。
悲鳴を上げるも空しく、瞬く間に石と化してゆく哀れな敵兵たち――。
「ふー‥‥、リィムさんが援護してくれたおかげで、なんとか辿り着いたね〜」
(途中、死ぬかと思ったぜ‥‥)
望の無謀な爆走に腰を抜かしかけた始だが、あえて文句は付けなかった。
「あれ? 伯爵は?」
「‥‥え、さっきそこに‥‥って」
「ええええ――――――――――――――――――――――――――ッッッ!?」
「無茶しないって言ったくせに‥‥」
遥か前方、砂塵の舞う戦場で愛馬を駆って交戦する伯爵の姿を見つけて、がっくりと肩を落とす二人であった。
●大切なもの〜砂漠に誓う友情
砂漠のKBC救出作戦は見事に敵を殲滅し大成功に終わった。
この戦功を称え、チャリオットを自在に制し敵に脅威を与えたリィムにゴーレム戦功章が、他の者全員にも精竜銅貨章が贈られた。
KBCこと瓦版クラブは、この栄誉ある冒険者たちの活躍をいち早くメイディアに知らせるため、伯爵の許可を得て邸内に冒険者を招きいれ、インタビューを兼ねたパーティを催した。
「伯爵って、新聞屋さんなんだね〜。でも、私、家じゃあんまり新聞読んでなかったんだよね」
冗談か本気か分らない望のぼけに、突っ込みを入れるべきか悩む始。
「響さん、ラプラスはどうしていますか?」
アレクセイの問いかけに顔を曇らせる響。怪鳥とはいえラプラスはまだ成長途中の若鳥だ。ヴェロキラプトルに噛まれた傷は、少々深かった。
「はい‥‥伯爵の計らいで良い薬も見つかりました。後はゆっくり休ませます」
「ラプラスがいなければ、この戦どうなっていたか分りませんでした」
ルメリアが、あの激しい戦闘を振り返る。ゼタルも同感だと、深く頷いた。
「あれ〜?」
「伯爵と‥‥あの友達の記者じゃないか?」
望たちが指差す方向に皆が歩き出すと、ほどなく、激しい口調で記者が伯爵を責め立てている声が冒険者の耳に届く。
「どうしてあんな真似をしたんだっ! お前はもう冒険好きの子供じゃないんだ。民を守る立場なんだぞっ!」
「だからこそだ。領内に近づく脅威を打ち砕く責任が、私にはある」
「お前が前線に立つ必要は無いと言っている!」
「ならば、貴様も、兵も連れずに敵の懐に飛び込むような無茶はするなっ! ‥‥私がどれだけ心配していたか、分かっているのかっ!」
「――なんだか、子供のケンカだね」
と、ふいにリィムが口を挟む。
「子供の‥‥」
「ケンカ‥‥?」
「私も同感です。あなた方の心意気には敬意を払うが、同時に背負うものが多いことを、両名ともに再認識して頂きたい」
と、クーフスがばっさりと一刀両断。けんか両成敗である。
「でも‥‥友達っていいよね!」
「そうですね!」
顔を赤らめて、互いに暴挙を慎むことを誓う二人。そんな彼らを、木陰からそっと見守る伯爵の友人の姿があったことをリィムたちは忘れない。
暫くして後、メイディアの冒険者ギルドに『砂漠の戦士、KBCを救う』と題された記事が大きく張り出された。
照れくさそうにその記事に見入る冒険者たちは、遥か西方で今も『カオスの脅威』と激しく闘い続けているであろう若者たちのことを思い出すのだった――。